051. 飴だま - 新美南吉
飴 だ ま -新美 南 吉
春 の あたたかい 日 の こと 、わたし 舟 に ふたり の 小さな 子ども を つれた 女 の 旅人 が のりました 。 舟 が 出よう と する と 、
「 お オ い 、 ちょっと まって くれ 。」
と 、どて の 向こう から 手 を ふり ながら 、さむらい が ひとり 走って きて 、舟 に とびこみました 。 舟 は 出ました 。 さむらい は 舟 の まん中 に どっかり すわって いました 。 ぽかぽか あたたかい ので 、その うち に いねむり を はじめました 。 黒い ひげ を はやして 、つよ そうな さむらい が 、こっくりこっくり する ので 、子どもたち は おかしくて 、ふ ふ ふ と 笑いました 。 お母さん は 口 に 指 を あてて 、 「だまって おい で 。」
と いいました 。 さむらい が おこって は たいへんだ から です 。 子ども たち は だまりました 。 しばらく する と ひとり の 子ども が 、
「かあちゃん 、飴 だ まちょうだい 。」
と 手 を さしだしました 。 する と 、もう ひとり の 子ども も 、
「かあちゃん 、あたし に も 。」
と いいました 。 お母さん は ふところ から 、紙 の ふくろ を とりだしました 。 ところが 、飴 だま は もう 一 つ しか ありません でした 。 「あたし に ちょうだい 。」
「あたし に ちょうだい 。」
ふたり の 子ども は 、りょうほう から せがみました 。 飴 だ ま は 一つ しか ない ので 、お母さん は こまって しまいました 。 「いい 子 たち だ から 待って おいで 、向こう へ ついたら 買って あげる から ね 。」
と いって きかせて も 、子ども たち は 、ちょうだい よ オ 、ちょうだい よ オ 、と だ だを こねました 。 いねむり を して いた はずの さむらい は 、ぱっちり 眼 を あけて 、子ども たち が せがむ の を みて いました 。 お母さん は おどろきました 。 いねむり を じゃま さ れた ので 、この お さむらい は おこって いる のに ちがいない 、と 思いました 。 「おとなしく して おいで 。」
と 、お母さん は 子ども たち を なだめました 。 けれど 子ども たち は ききません でした 。 する と さむらい が 、すらりと 刀 を ぬいて 、お母さん と 子どもたち の まえ に やってきました 。 お母さん は まっさお に なって 、子ども たち を かばいました 。 いねむり の じゃま を した 子ども たち を 、さむらい が きりころす と 思った のです 。
「飴 だ ま を 出せ 。」
と さむらい は いいました 。 お母さん は おそるおそる 飴 だ ま を さしだしました 。 さむらい は それ を 舟 の へり に のせ 、刀 で ぱちん と 二 つ に わりました 。 そして 、
「そ オ れ 。」
と ふたり の 子ども に わけて やりました 。 それ から 、また もと の ところ に かえって 、こっくりこっくり ねむり はじめました 。