024 .驢馬 の びつこ -新美 南吉
張 が か はい ゝ 驢馬 を 一 匹 買 ひました 。 ところが 歩か せて 見る と その 驢馬 は びつこ を ひく のです 。
「なぜ びつこ を ひく の だらう 。」 と 考 へて 見ました が わかりません 。 ちよ うど と ほり か ゝ つた 物 しり を よびとめて たづ ねて 見る と 、 物 しり は 、 驢馬 の 體 を よく しらべて から い ひました 。
「 耳 と 耳 の 間 に 錢 ほど の 禿 が ある 、 この 禿 に 風 が あた つて 寒い から び つ こ を ひく の ぢや 。 帽子 を つく つて か むせた が 、 よから う 。」
やつ ぱり 物 しり だけ あつ て 、 利口な こと を いふ と 張 は かんしん し ながら 、 羊 の 毛 で 圓 い 帽子 を つくりました 。 それ を 驢馬 の 頭 に かむせて 、さて 歩かせて 見る と やつぱり びつこ を ひきます 。 張 は 物 しり に だまされた と 思 つて 、 まつ か に な つて 驢馬 を ひつ ぱつ て ゆきました 。
「人を だます にも ほどが ある 。 お前 さん の いふ と ほり 帽子 を か むせた が やつ ぱり びつこ を ひく で は ない か 。」 する と 物 しり は おちついて 、
「いや こんな 帽子 で は いかん 、驢馬 の 耳 を おしこむ ので 耳 が いたい の ぢや 。」 と いふ のでした 。 なるほど と 思つた 張は 、家に かへつて 帽子に 二つの 穴を あけ 、そこから 二つの 耳を 出して やりました 。 ところが 歩かせて 見れば やつぱり びつこを ひきます 。 又 おこつて 物しりの ところへ がなりこんで ゆくと 、
「いや あれでは 、耳が 寒いから いけない 。」 と い ひます 。 なるほど さ うだ つた と 思 つて 、 こんど は 、 二 つ の 耳 に 長い 袋 を か むせました 。 けれど び つ こ を ひく の は 前 と 同じ こと です 。 いよいよ 物 しりめ 、 わし を だました な と 思 つて 、 げんこつ を ふりあげ ながら とびこんで ゆく と 、 物 しり は 、
「まち なさい 、お前 さん と ん まだ ね 、あれ ぢや 耳 が 聞え ない ぢや ない か 。」 と い ひます 。 たしかに さう だ 、と 、張 は 家 に かへりました が 、こんど は どう して いゝ の か さつぱり わかりません 。 袋 に 穴 を あければ 風 が はい つて 寒い で せうし ―― 。
張 は 十 日 も 二十 日 も ろくろく ご飯 も たべ ず 考 へました が 、 よい 考 へ は うかびません 。 ある 日 と ほり か ゝ つた 村人 を とら へて 、
「 この 驢馬 の 耳 が 聞える や うに する に は どう したら え ゝ で せ う な 。」 と き ゝます と 、 その人 は 、
「なんでも ない よ 、帽子 を とつて やりなさい 。」 と こた へました 。
「こいつ は 名案 だ 。」 と 叫んで 、 張 は 帽子 を と つて すてました 。 そして 、驢馬 の 耳 に 口 を つけて 、
「驢馬 やーい 。」 と どなりました 。 すると 驢馬 は くすぐ つ たくて 、 耳 を 二三 度 ぴく ぴく さ せました 。 張 は それ を 見て 、
「 や あ 聞える 聞える 。」 と よろこんで おどりあがりました 。