5.1 暴れ 柳 -The Whomping Willow
第 5 章 暴れ 柳 -The Whomping Willow
夏休みは あまりに も あっけなく 終わった 。 ハリー は たしかに ホグワーツ に 戻る 日 を 楽しみに して は いた が 、「 隠れ 穴 」 で の 一 ヵ 月 ほど 幸せな 時間 は なかった 。 ダーズリー 一家 の こと や 、この 次 に プリベット 通り に 戻った とき 、どんな 「歓迎 」を 受ける か など を 考える と 、ロン が 妬ましい ぐらい だった 。
最後 の 夜 、ウィーズリー おばさん は 魔法 で 豪華な 夕食 を 作って くれた 。 ハリー の 大 好物 は 全部 あった し 、最後 は 、よだれ の 出 そうな 糖蜜 の かかった ケーキ だった 。 フレッド と ジョージ は 、その 夜 の 締めくくり に 「ドクター ・フィリバスター の 長々 花火 」を 仕掛け 、台所 いっぱい に 埋めた 赤 や 青 の 星 が 、少なくとも 三十 分 は 天井 と 壁 の 間 を ボーンボーン と 跳ね回った 。 そして 最後に 熱い ココアを マグカップで たっぷり 飲み 、みんな 眠りに ついた 。
翌朝 、出かける までに かなりの 時間が かかった 。 鶏の 時の 声で みんな 早起きした のに 、なぜか やることが たくさん あった 。 ウィーズリーおばさんは 、ソックスや 羽ペンが もっと たくさん あったはずだと 、あちこち 探し回って ご機嫌斜めだった し 、みんな 手に 食べかけの トーストを 持ったまま 、半分 パジャマのまま 、階段の あちこちで 何度も ぶつかり合っていた 。 ウィーズリー おじさん は 、ジニー の トランク を 車 に 乗せる のに 、庭 を 横切る 途中 、鶏 に 躓い て 、危うく 首 の 骨 を 折る ところ だった 。 八人 の 乗客 と 大きな トランク 六 個 、 ふくろう 二 羽 、 ねずみ 一 匹 を 全部 、 どう やって 小型の フォード ・ アングリア に 詰め込む の か 、 ハリー に は 見当 も つか なった 。 もっとも 、ウィーズリー おじさん が 細工 した 、特別の 仕掛け を しら なかった のだ が ――。
「モリー に は 内緒 だ よ 」
おじさん は ハリー に そう ささやき ながら 、車 の トランク を 開き 、全部 の トランク が らくらく 入る ように 魔法 で 広げた ところ を 見せて くれた 。
やっと みんな が 車 に 乗り込む と 、ウィーズリー おばさん は 後ろ の 席 を 振り返り 、ハリー 、ロン 、フレッド 、ジョージ 、パーシー が 全員 並んで 心地よさ そうに 収まっている の を 見て 、
「マグル って 、私たち が 考えて いる より ずーっと いろんな こと を 知ってる の ね 。 そう 思わない こと ?」と 言った 。
おばさん と ジニー が 座って いる 前 の 席 は 、公園 の ベンチ の ような 形 に 引き伸ばされて いた 。 「だって 、外 から 見た だけ じゃ 、中 が こんなに 広い なんて わからない もの 、ねえ ?」
ウィーズリー おじさん が エンジン を かけた 。 車 は ゴロンゴロン と 庭 から 外 へ 出た 。 ハリー は 振り返って 、最後に もう 一目 だけ 家 を 見る つり だった 。 また いつ 来れる のだろう 。 と 思う 間 も なく 、車 は 引き返した 。 ジョージ が フィリバスター 花火 の 箱 を 忘れた のだ 。 五分 後 、まだ 庭 から 出ない うちに 車 は 急 停車 した 。 フレッド が 箒 を 取り に 走って 行った 。 やっと 高速 道路 に たどり着く ころ に ジニー が 金切り声 を あげた 。 日記 を 忘れた と 言う 。 ジニー が 戻って きて 、車に 這い登った ころに は 、遅れに 遅れて 、みんなの イライラが 高まって きた 。
ウィーズリー おじさんは 、時計を チラリと 見て 、それから おばさんの 顔を チラリと 見た 。 「モリー 母さん や ――」
「アーサー 、ダメ !」
「誰にも 見えない から 。 この 小さな ボタンは 私が 取りつけた 『透明 ブースター 』なんだが ――空 高く 上がる まで 、車は 透明で 見えなく なる ――そうしたら 、雲の 上を 飛ぶ 。 十分 も あれば 到着 だし 、だーれにも わかりゃしない から ......」
「ダメ って 言った でしょ 、アーサー 。 昼日中 は ダメ 」
キングズ ・クロス 駅 に 着いた のは 十一 時 十五 分 前 だった 。 ウィーズリー おじさん は 飛び出し て 、道路 の 向こう に ある カート を 数台 持ってきた 。 トランク を 載せ 、みんな 大急ぎで 駅 の 構内 に 入った 。
ハリー は 去年 も ホグワーツ 特急 に 乗った 。 難しかった のは 、マグル の 目 には 見えない 9 と 4 分の 3 番線 の ホーム に どうやって 行く か だ 。 9 番線 と 10 番線 の 間 に ある 、堅い 柵 を 通りぬけて 歩いて 行けば よかった のだ 。 難しく は なかった が 、消える ところ を マグル に 気づかれ ない ように 、慎重に 通りぬけ なければ ならなかった 。
「パーシー 、先に 」
おばさん が 心配そうに 、頭上 の 大時計 を 見ながら 言った 。 障壁 を 何気なく 通り抜けて 消える のに 、あと 五分 しか ない ことを 針 が 示していた 。 パーシー は きびきびと 前進し 、消えた 。 ウィーズリー おじさん が 次 で 、フレッド と ジョージ が それ に 続いた 。
「私 が ジニー を 連れて 行きます から ね 。 二 人 で すぐに いらっしゃい よ 」
ジニー の 手 を 引っ張り ながら おばさん は ハリー と ロン に そう 言う と 、行って しまった 。 瞬き する 間 に 二人 とも 消えた 。
「一緒に 行こう 。 一 分 しか ない 」ロン が 言った 。
ハリー は ヘドウィグ の 籠 が トランク の 上 に 、しっかり 括りつけられて いる こと を 確かめ 、カート の 方向 を 変えて 柵 の 方 に 向けた 。 ハリー は 自信 たっぷり だった 。 暖炉 飛行 粉 を 使う とき の 気持ち の 悪さ に 比べれば なんでもない 。 二人 は カート の 取っ手 の 下 に かがみ込み 、柵 を めがけて 歩いた 。 スピード が 上がった 。 一 メートル 前 から は 駆け出した 。 そして ――
ガッツーン
二つ の カート が 柵 に ぶつかり 、後ろ に 跳ね返った 。 ロン の トランク が 大きな 音 を 立てて 転がり 落ちた 。 ハリー は もんどり打って 転がり 、ヘドウィグ の 籠 が ピカピカ の 床 の 上 で 跳ねた 。 ヘドウィグ は 転がり ながら 怒って ギャーギャー 鳴いた 。 周り の 人 は ジロジロ 見た し 、近く に いた 駅員 は 「君たち 、いったい全体 何 を やってる んだ ね ?」と 叫んだ 。
「カート が 言う こと を 聞かなくて 」
脇腹 を 押さえて 立ち上がり 、ハリー が あえぎながら 答えた 。 ロン は ヘドウィグ を 拾い上げに 走って 行った 。 ヘドウィグ が あんまり 大騒ぎ する ので 、周り の 人垣 から 動物 虐待 だ と 、ブツブツ 文句 を 言う 声 が 聞えてきた 。
「なんで 通れなかった んだろう ?」ハリーが ヒソヒソ 声で ロンに 聞いた 。
「さあ ――」
ロンが あたりを キョロキョロ 見回すと 、物見高い 見物客が まだ 十数人 いた 。
「僕たち 汽車に 遅れる 。 どうして 入口 が 閉じちゃった のか わからない よ 」ロン が ささやいた 。 ハリー は 頭上 の 大時計 を 見上げて 鳩尾 が 痚 く なった 。 十 秒 前 ......九 秒 前 ......。
ハリー は 慎重に カート を 前進 させ 、柵 に くっつけ 、全力 で 押して みた 。 鋏 柵 は 相変わらず 堅かった 。
「行っちゃった よ 」ロン は 呆然と していた 。 「汽車 が 出ちゃった 。 パパ も ママ も こっち 側に 戻って これ なかったら どう しよう ?マグル の お金 、少し 持ってる ?」 ハリー は 力なく 笑った 。 「ダーズリー から は 、かれこれ 六 年間 、お小遣い なんか もらった こと が ない よ 」ロン は 冷たい 柵 に 耳 を 押し当てた 。
「なー ん にも 聞えない 」ロン は 緊張 して いた 。 「どう する ?パパ と ママ が 戻って くる まで どの ぐらい かかる か わからない し 」 見回す と 、まだ 見ている 人 が いる 。 たぶん 、ヘドウィグ が ギャーギャー 喚き 続けて いる せい だ 。
「ここ を 出た 方が よさそうだ 。 車 の そば で 待とう 。 ここ は人目 に つき 過ぎる し ――」 と ハリー が 言った 。
「ハリー !」ロン が 目 を 輝かせた 。 「車 だ よ !」
「車 が どうかした ?」
「ホグワーツ まで 飛んで 行ける よ 」
「でも 、 それ は ―― 」
「僕たち 、困って る 。 そうだ ろ ?それに 、学校 に 行か なくちゃ ならない 。 そうだ ろ ?それなら 、半人前 の 魔法使い でも 、ほんとうに 緊急 事態 だから 魔法 を 使って も いい んだよ 。 なんと か の 制限 に 関する 第 十九 条 とか なんとか ......」
ハリー の 心 の 中 で 、パニック が 興奮 に 変わった 。
「君 、車 を 飛ばせる の ? 」
「任せとけって 」出口に 向かって カートを 押しながら ロンが 言った 。
「さあ 、出かけよう 。 急げば ホグワーツ 特急に 追いつく かもしれない 」
二人は 物見高い マグルの 中を 突き抜け 、駅の 外に 出て 、脇道に 停めてある 中古の フォード・アングリアのところまで戻った。
ロンは 、洞穴 のような 車 の トランクを 、杖で いろいろ 叩いて 鍵を 開け 、フーフー 言いながら 荷物を 押し入れ 、ヘドウィグを 後ろの 席に 乗せ 、自分は 運転席に 乗り込んだ 。
「誰 も みて ない か どうか 、確かめて 」
杖で エンジンを かけながら ロンが 言った 。
ハリーは ウィンドウから 首を 突き出した 。 前方 の 表通り は 車 が ゴーゴー と 走っていた が 、こちら の 路地 に は 誰 も いなかった 。
「オッケー 」ハリー が 合図 した 。
ロン は 計器 番 の 小さな 銀色 の ボタン を 押した 。 載って いる 車 が 消えた ――自分たち も 消え た 。 ハリー は 体 の 下 で シート が 震動 して いる の を 感じた し 、エンジン の 音 も 聞えた し 、手 を 膝 の 上 に 置いて いる こと も 、メガネ が 鼻 の 上 に 乗っかって いる こと も 感じて いた が 、見える 物 は は 、車 が びっしり と パーキング して いる ゴミゴミ した 道路 だけ で 、その 地上 一 メートル あたり に 、自分 の 二 つ の 目玉 だけ が 浮かんで いる か の ようだった 。
「行こう ぜ 」
右 の 方 から ロン の 声 だけ が 聞えた 。
車 は 上昇 し 、地面 や 車 の 両側 の 汚れた ビル が 見る見る 下 に 落ちて いく ようだった 。 数秒後 、ロンドン全体が 、煙り輝きながら 眼下に 広がった 。
そのとき 、ポンと 音がして 車と ハリーと ロンが 再び 現れた 。 「ウ 、ヮ 」ロンが 透明の ブースターを 叩いた 。 「いかれてる ―― 」 二人 して ボタンを ドンドン 叩いた 。 車が 消えた 。 と 、また ボワーッと 現れた 。
「つかまって ろ !」
ロンは そう 叫ぶと アクセルを 強く 踏んだ 。 車は まっすぐに 、低く かかった 綿雲の 中に 突っ込み 、あたり 一面が 霧に 包まれた 。
「さて 、どうする んだい ?」
ハリーは 回り中から 濃い 霧の 塊が 押し寄せてくる ので 目を パチパチさせながら 聞いた 。
「どっち の 方向 に 進んだら いい のか 、汽車 を みつけ ない と わからない 」ロン が 言った 。
「 もう 一 度 、 ちょっと だけ 降りよう ―― 急いで ――」
二 人 は また 雲 の 下 に 降りて 、座席 に 座った まま 体 を よじり 、目 を 凝らして 地上 の 方 を 見た 。
「見つけた !」ハリー が 叫んだ 。 「まっすぐ 前方 ――あそこ ! 」
ホグワーツ 特急 は 紅 の ヘビ の ように くねくね と 二人 の 眼下 を 走って いた 。
「進路 は 北 だ 」ロン が 計器 盤 の コンパス で 確認 した 。
「オーケー だ 。 これ から は 三十 分 ごと ぐらい に チェック すれば いい 。 つかまって ...... 」
車 は また 雲 の 波 を 突き抜けて 上昇した 。 一分後 、二人は 灼けるような 太陽 の 光 の 中に 飛び出した 。
別 世界 だった 。 車 の タイヤ は ふわふわ した 雲 の 海 を 掻き 、眩い 白熱 の 太陽 の 下 に 、どこ まで も 明るい ブルー の 空 が 広がっていた 。
「あと は 飛行機 だけ 気 に して りゃ いい な 」と ロン が 言った 。
二 人 は 顔 を 見合わせて 笑った 。 しばらく の 間 、笑い が 止まら なかった 。
まるで す すばらしい 夢 の 中 に 飛び込んだ ようだった 。 旅 を する なら この 方法 以外 に ありえない よ 、と ハリー は 思った 。
――白雪 の ような 雲 の 渦 や 塔 を 抜け 、車 いっぱい の 明るい 暖かい 陽 の 光 、計器 盤 の 下 の 小物入れ に は ヌガー が いっぱい 。 それに 、ホグワーツ の 城 の 広広 とした 芝生 に 、はなばなしく スイーッと 着陸した とき の フレッド や ジョージ の 羨ましそうな 顔 が 見える ようだ 。
北へ 北へ と 飛びながら 、二人は 定期的に 汽車 の 位置 を チェックした 。 雲 の 下 に 潜る たびに 違った 景色 が 見えた 。 ロンドン は あっという間 に 過ぎ去り 、 すっきり と した 緑 の 畑 が 広がり 、 それ も 広大な 紫 が かかった 荒野 に 変わり 、 おもちゃ の ような 小さな 教会 を 囲んだ 村 々 が 見え 、 色とりどりの 蟻 の ような 車 が 、 忙しく 走り回って いる 大きな 都市 も 見えた 。
何事も なく 数時間 が 過ぎる と 、さすがに ハリーも 飽きてきた 。 ヌガーの おかげで 喉が カラカラに なってきた のに 、飲む 物が なかった 。 ロンも ハリーも セーターを 脱ぎ捨てた が 、ハリーの Tシャツは 座席の 背に べったり 張りつき 、メガネは 汗で 鼻から ずり落ちて ばかりいた 。 おもしろいと 思っていた 雲の 形も 、もう どうでも よくなり 、ハリーは ずーっと 下を 走っている 汽車の 中を 懐かしく 思い出していた 。 小太りの 魔女の おばさんが 押してくる カートに は 、ひんやりと 冷たい 魔女かぼちゃ ジュースが あるのに ......。 いったい どうして 、9 と 4 分の 3 番線に 行けなかった んだろう ?
「まさか 、もう そんなに 遠く ない よな ?」
それから 何時間も たち 、太陽が 雲海を 茜色に 染め 、その かなたに 沈みはじめた とき 、ロンが かすれ声で 言った 。
「そろそろ また 汽車 を チェック しよう か ?」
汽車 は 雪 を かぶった 山間 を くねりながら 、まだ 真下 を 走って いた 。 雲 の 傘 で 覆われた 下 の 世界 は ずっと 暗く なって いた 。
ロン は アクセル を 踏み込み 、また 上昇 しよう と した 。 その とき 、エンジン が 甲高い 音 を 出し はじめた 。
二 人 は 不安 げ に 顔 を 見合わせた 。
「きっと 疲れた だけ だ 。 こんなに 遠く まで 来た の は 初めて だし ......」ロン が 言った 。
空 が 確実に だんだん 暗く なり 、 車 の カンカン 音 が だんだん 大きく なって も 、 二人 と も 気 が つか ない ふり を した 。 漆黒の 中に 星が ポツリポツリと きらめき はじめた 。 ワイパーが 恨めしげに ふらふら しはじめた のを 無視し ながら 、ハリーは また セーターを 着込んだ 。
「もう 遠くは ない 」ロンは ハリーに というより 車に 向かって そう 言った 。 「もう 、そう 遠く は ない から 」ロン は 心配 そうに 計器盤 を 軽く 叩いた 。
しばらく して もう 一度 雲 の 下 に 出た とき 、何か 見覚え の ある 目印 は ない か と 、二人 は 暗闇 の 中 で 目 を 凝らした 。
「あそこ だ !」ハリー の 大声 で ロン も ヘドウィグ も 跳び上がった 。 「真 正面 だ !」
湖 の むこう 、暗い 地平線 に 浮かぶ 影 は 、崖 の 上 に 聳え立つ ホグワーツ 城 の 大小 さまざまな 尖塔 だ 。
しかし 、車 は 震え 、失速 し だした 。
「がんばれ 」ロン が ハンドル を 揺すり ながら 、なだめる ように 言った 。
「もう すぐ だ から 、がんばれよ ―― 」
エンジン が うめいた 。 ボンネット から 蒸気 が いく 筋 も シューシュー 噴き出している 。 車 が 湖 の 方 に 流されて 行き 、ハリー は 思わず 座席 の 端 を しっかり 握りしめて いた 。 車 が グラグッ と 嫌な 揺れ方 を した 。 ハリーが 窓の 外を ちらっと 見ると 、一 、二 キロ 下に 黒々と 鏡のように 滑らかな 湖面が 見えた 。 ロンは 指の 節が 白く なるほど ギュッと ハンドルを 握りしめて いた 。 車が また グラッと 揺れた 。
「がんばれったら 」ロンが 歯を 食いしばった 。 湖 の 上 に 来た ......城 は 目の前 だ 。 ......ロン が 足 を 踏ん張った 。
ガタン 、ブスブスッ と 大きな 音 を たてて 、エンジン が 完全に 死んだ 。
「ウ 、ヮ 」シンと した 中 で ロン の 声 だけ が 聞えた 。 車 が 鼻 から 突っ込んだ 。 スピード を 上げながら 落ちて 行く 。 城 の 堅い 壁 に まっすぐ 向かって 行く 。
「ダメ ェェェェェェ !」
ハンドル を 左右 に 揺すり ながら ロン が 叫んだ 。 車 が 弓なりに カーブを 描いて 、ほんの 数センチの ところで 黒い 石壁 から 逸れ 、黒い 温室 の 上に 舞い上がり 、野菜畑を 越え 、黒い 芝生 の 上へ と 、刻々と 高度を 失いつつ 向かって 行った 。
ロン は 完全に ハンドルを 放し 、尻ポケット から 杖を 出した 。
「止まれ !止まれ !」
ロンは 計器盤 や ウィンドウを バンバン 叩きながら 叫んだが 、車は 落下し続け 、地面が 見る見る 近づいてきた ......。
「あの 木に 気をつけて !」
ハリー は 叫び ながら ハンドル に 飛びつこう と した が 、 遅 過ぎた 。
グワッシャン
金属 と 木 が ぶつかる 耳 を つんざく ような 音 ともに 、車 は 太い 木 の 幹 に 衝突 し 、地面 に 落下 して 激しく 揺れた 。 ひしゃげた 車 の ボンネット の 中 から 、蒸気 が うねる ように 噴出している 。 ヘドウィグ は 怖がって ギャーギャー 鳴き 、ハリー は 額 を フロントガラス に ぶつけて ゴルフボール 大 の こぶ が ズキズキ うずいた 。 右 の 方 で ロン が 絶望 した ような 低い うめき声 を あげた 。
「大丈夫 かい ?」ハリー が 慌てて 聞いた 。
「杖 が 」ロン の 声 が 震えて いる 。 「僕 の 杖 見て 」
ほとんど 真っ二つ に 折れて いた 。 杖 の 先端 が 、裂けた 木片 に すがって かろうじて ダラリ と ぶら下がって いる 。
ハリー は 、学校 に 行けば きっと 直して くれる よ 、と 言いかけた が 、一言 も 言わず に 口 を つぐまなければ ならなかった 。 しゃべりかけた 途端 、ハリー の 座っている 側 の 車 の 脇腹 に 、闘牛 の 牛 が 突っ込んできた ような パンチ が 飛んできた のだ 。 ハリー は ロン の 方 に 横ざま に 突き飛ばされた 。 同時に 、車 の 屋根 に 同じ ぐらい の 強力な ヘビーブロー が かかった 。
「何事 だ ?―― 」
ウィンドウ から 外 を 覗いた ロン が 息 を 呑んだ 。 ハリー が 振り返る と 、 ちょうど 、 大 ニシキヘビ の ような 太い 枝 が 、 窓 めがけて 一撃 を 食らわ せる ところ だった 。 ぶつかった 木 が 二 人 を 襲って いる 。 幹 を 「く 」の 字 に 曲げ 、節くれだった 大枝 で 、ところかまわず 車 に 殴りかかってきた 。 「ウヮヮァ !」
ねじれた 枝 の パンチ で ドア が 凹み 、ロン が 叫んだ 。 小枝 の こぶし が 雨あられ と パンチ を 浴びせ 、ウィンドウ は ビリビリ 震え 、巨大 ハンマー の ような 太い 大枝 が 、狂暴に 屋根 を 打ち 、凹ませて いる ―― 。
「逃げろ !」 ロン が 叫び ながら 体 ごと ドア に ぶつかって 行った が 、次の 瞬間 、枝 の 猛烈な アッパーカット を 位 、吹っ飛ばされて ハリー の 膝 に 逆戻り して きた 。 「もう ダメ だ !」
屋根 が 落ち込んで きて 、ロン が うめいた 。 すると 、急に 車 の フロア が 揺れ はじめた ――エンジン が 生き返った 。
「バック だ !」ハリー が 叫んだ 。
車 は シュッ と バック した 。 木 は 攻撃 を やめ ない 。 車 が 急いで 木 の そば から 離れよう と する と 、根元 が 軋み 、根こそぎ 地面 を 離れ そうに 伸び上がって 追い討ち を かけて きた 。
「まったく 」ロン が あえぎ ながら 行った 。 「やばかった ぜ 。 車 よ 、よく やった 」
しかし 、車 の 方 は これ 以上 たくさんだ と ばかり 、ガチャ 、ガチャ と 二 回 短い 音 を たてて 、ドア が パカッ と 開いた 。 ハリー は 座席 が 横 に 傾く の を 感じた 。 気づいた とき に は 、ハリー は 湿った 地面 の 上 に 無様に 伸びていた 。 ドサッと いう 大きな 音は 、車の トランクから 荷物が 吐き出された 音らしい 。 ヘドウィグの 籠が 宙に 舞い 、戸が パッと 開いた 。 ヘドウィグは 籠から 飛び出し 、ギーギーと 怒ったように 大声で 鳴きながら 、城を 目指して 、振り返りも せずに 飛んでいってしまった 。 凸凹車は 、傷だらけで 湯気を シューシュー 噴きながら 、暗闇の 中に ゴロゴロと 走り去ってしまった 。 テールランプ が 怒った ように ギラついて いた 。
「戻って くれ !」折れた 杖 を 振り回し 、ロンが 車の 後ろから 叫んだ 。 「パパに 殺されちゃう よ !」しかし 、車は 最後に プッと 排気ガスを 噴いて 、見えなく なってしまった 。 「僕たちって 信じられない ぐらい ついてない ぜ 」かがんで 、ねずみの スキャバーズを 拾い上げながら 、ロンが 情けなさそうに 言った 。 「より に よって 、おお 当たり だ よ 。 当たり 返し を する 木 に 当たる なんて さ 」ロン は ちらり と 振り返って 巨木 を 見た 。 まだ 枝 を 振り回して 威嚇 して いる 。 「行こう 。 学校 に たどり着か なくちゃ 」ハリー が 疲れ果てた 声 で 言った 。
想 僕 していた ような 凱旋 と は 大 違い だった 。 痚 いやら 、寒い やら 、傷 だらけ の 二人 は トランク の 端 を つかんで 引きずり ながら 、城 の 正面 の がっしり した 樫 の 扉 を 目指し 、草 の 茂った 斜面 を 登り はじめた 。
「もう 新 学期 の 歓迎会 は 始まってる と 思う な 」
扉 の 前 の 階段 下 で 、トランク を ドサッ と 下ろし 、ロン は そう 言い ながら 、こっそり 横 の 方 に 移動し 、明るく 輝く 窓 を 覗き込んだ 。
「あっ 、ハリー 、来て 。 見て ごらん よ ――組 分け 帽子 だ !」
ハリー が 駆け寄り 、二人 で 大広間 を 覗き込んだ 。
四つ の 長 テーブル の 周り に びっしり と みんな が 座り 、その 上 に 数え切れない ほど の 蝋燭 が 宙 に 浮かんで 、金 の 皿 や 杯 を キラキラ 輝かせて いた 。 天井 は いつも の ように 魔法 で 本物 の 空 を 映し 、星 が 瞬いて いた 。