2 .ドビー の 警告 -Dobby'sWarning
第 2 章 ドビー の 警告 -Dobby'sWarning ハリー が 危うく 叫び声 を あげる ところだった が 、やっとのことで こらえた 。 ベッド の 上 に は 、 コウモリ の ような 長い 耳 を して 、 テニスボール ぐらい の 緑 の 目 が ギョロリ と 飛び出した 小さな 生物 が いた 。 今朝 、庭 の 生垣 から 自分 を 見ていた の は これ だ 、と ハリー は とっさに 気づいた 。
互い じっと 見つめて いる うち に 、玄関 ホール の 方 から ダドリー の 声 が 聞こえてきた 。
「 メイソン さん 、 奥様 、 コート を お 預かり いた ま しょうか ?」
生物 は ベッド から スルリ と 滑り 降りて 、カーペット に 細長い 鼻 の 先 が くっつく ぐらい 低く お辞儀 を した 。 ハリー は その 生物 が 、手 と 足 が 出る ように 裂け目 が ある 古い 枕 カバー の ような もの を 着ている のに 気づいた 。
「あ ――こんばん は 」ハリー は 不安げ に 挨拶 した 。
「ハリー ・ポッター !」生物 が 甲高い 声 を 出した 。 きっと 下 まで 聞こえた と ハリー は 思った 。 「 ドビー め は ずっと あなた 様 に お目にかかり たかった ...... とっても 光栄 です ......」「 あ 、 ありがとう 」
ハリー は 壁 伝い に 机 の 方 に にじり寄り 、くずれる ように 椅子 に 腰掛けた 。 椅子 の そば の 大きな 鳥かご で ヘドウィグ が 眠っていた 。 ハリー は 「君 は なーに ?」と 聞きたかった が 、それ で は あんまり 失礼 だ と 思い 、「君 は だーれ ?」と 聞いた 。
「ドビー めに ございます 。 ドビー と 呼び捨てて ください 。 『 屋 敶 しも べ 妖精 』 の ドビー で す 」 と 生物 が 答えた 。
「あ ――そう な の 。 あの ――気を悪くしない で 欲しい んだ けど 、でも ――僕の 部屋に 今 『屋敶 しもべ 妖精 』が いる と 、とっても 都合が悪い んだ 」
ペチュニア おばさんの 甲高い 作り笑いが 居間から 聞こえてきた 。 しもべ 妖精は うなだれた 。
「知り合いに なれて 嬉しくない って わけじゃ ない んだよ 」ハリーが 慌てて 言った 。 「だけ ど 、あの 、何か 用事 が あって ここ に 来た の ?」
「はい 、そう で ございます とも 」ドビー が 熱っぽく 言った 。 「 ドビー め は 申し上げたい こと が あって 参りました ...... 複雑で ございまして ...... ドビー め は いったい 何 から はなして よい やら ......」「 座って ね 」 ハリー は ベッド を 指差して 丁寧に そう 言った 。 しもべ 妖精 は わっと 泣き出した ――ハリー が はらはら する ような うるさい 泣き方 だった 。 「 す ――座って なんて !」 妖精 は オンオン 泣いた 。 「 これ まで 一度 も ...... 一度 だって ......」
ハリー は 階下 の 声 が 一瞬 たじろいだ ような 気 が した 。
「 ごめん ね 」 ハリー は ささやいた 。 「気 に 障る ような ことを 言う つもり は なかった んだけど 」
「この ドビー め の 気 に 障る ですって !」妖精 は 喉 を つまらせた 。
「ドビー め は これまで たった の 一度 も 、魔法使い から 座って なんて 言われた ことが ございません ――まるで 対等 みたいに ――」
ハリー は 「 シーッ !」 と 言い ながら も 、 なだめる よう に ドビー を 促して 、 ベッド の 上 に 座ら せた 。 ベッド で しゃくりあげて いる 姿 は 、とても 醜い 大きな 人形 の ようだった 。 しばらく する と ドビー は やっと 収まって きて 、大きな ギョロ 目 を 尊敬 で 潤ま せ 、ハリー を ひしと 見て い た 。
「君 は 礼儀正しい 魔法使い に 、あんまり 会わなかった んだ ね 」
ハリー は ドビー を 元気づける つもりで そう 言った 。
ドビー は うなずいた 。 そして 突然 立ち上がる と 、なんの 前触れ も なし に 窓 ガラス に 激しく 頭 を 打ちつけ はじめた 。
「ドビー は 悪い 子 !ドビー は 悪い 子 !」
「やめて ――いったい どうした の ?」
ハリー は 声 を 噛み殺し 、飛び上がって ドビー を 引き戻し 、ベッド に 座らせた 。 ヘドウィグ が 目 を 覚まし 、ひときわ 大きく 鳴いた かと 思う と 鳥篭 の 格子 に バタバタと 激しく 羽 を 打ちつけた 。
「ドビー め は 自分 で お仕置き を しなければ ならない のです 」妖精 は 目 を クラクラ させながら 言った 。 「自分 の 家族 の 悪口 を 言いかけた ので ございます ......」
「 君 の 家族って ?」「 ドビー め が お 仕え して いる ご 主人 様 、 魔法使い の 家族 で ございます ...... ドビー は 屋 敶 しも べ です ...... 一 つ の 屋 敶 、 一 つ の 家族 に 一生 お 仕え する 運命 な の です ......」 「その 家族 は 君 が ここ に 来てる こと を 知ってる の ?」ハリー は 興味 を そそられた 。
ドビー は 身 を 震わせた 。
「めっそう も ない ......ドビー め は こうして お目にかかり に 参りました こと で 、きびし ーく 自分 を お仕置き しない と いけない のです 。 ドビー め は オーブン の 蓋 で 両耳 を バッチン し ない と いけない のです 。 ご 主人 様 に ばれたら 、もう ......」
「でも 、君 が 両耳 を オーブン の 蓋 に 挟んだり したら 、それ こそ ご主人 が 気づく んじゃない ?」
「ドビー め は そう は 思いません 。 ドビー め は 、いっつも なんだかんだ と 自分 に お仕置き して いない と いけない のです 。 ご主人様 は 、ドビー め に 勝手に お仕置き させて おく ので ございます 。 時々 お仕置き が 足りない と おっしゃる のです ......」
「どうして 家出し ない の ?逃げれば ?」
「屋敶 しもべ 妖精 は 解放 して いた だ か ない と いけない のです 。 ご主人様 は ドビー め を ご自由に する はずが ありません ......ドビー め は 死ぬ まで ご主人様 の 一家に 使える ので ございます ......」ハリー は 目を 見張った 。 「僕 なんか 、あと 四 週間 も ここに いたら 、とっても 身が 持たない と 思ってた 。 君 の 話し を 聞いてたら ダーズリー 一家 で さえ 人間 らしい って 思えて きた 。 誰 か 君 を 助けて あげられない の か な ?僕 に 何 か できる ?」そう 言った 途端 、ハリー は 「しまった 」と 思った 。 ドビー は またしても 感謝 の 雤 あられ と 泣き出した 。
「お 願い だ から 」ハリー は 必死 で ささやいた 。 「頼む から 静かに して 。 おじさん たち が 聞き つけたら 、 君 が ここ に いる こと が 知られたら ......」
「ハリー ・ポッター が 『何か できない か 』って 、ドビー め に 聞いて くださった ......ドビー め は あなた 様 が 偉大な 方 だ とは 聞いて おりました が 、こんなに おやさしい 方 だ とは 知りませんでした ......」ハリー は 顔 が ポッと 熱く なる の を 感じた 。 「僕 が 偉大 なんて 、君 が 何を 聞いた か 知らない けど 、くだらない こと ばかり だ よ 。 僕 なんか 、ホグワーツ の 同学年 で トップ という わけ で も ない し 。 ハーマイオニー が ...... 」
それ 以上 は 続けられ なかった 。 ハーマイオニー の こと を 思い出した で け で 胸 が 痚んだ 。 「 ハリー ・ポッター は 謙虚 で 威張らない 方 です 」
ドビー は 球 の ような 目 を 輝かせて 恭しく 言った 。
「 ハリー ・ポッター は 『名前 を 呼んで は いけない あの 人 』に 勝った こと を おっしゃらない 」
「ヴォルデモート ? 」
「あぁ 、その 名 を おっしゃら ないで 。 おっしゃら ないで 」
ドビー は コウモリ の ような 耳 を 両手 で パチッ と 覆い 、うめく ように 言った 。
ハリー は 慌てて 、「ごめん 」と 言った 。
「その 名前 を 聞きたくない 人 は いっぱい いる んだ よね ――僕 の 友達 の ロン なんか ――」
また それ 以上 は 続か なかった 。 ロン の こと を 考えて も 胸 が 疼いた 。
ドビー は ヘッドライト の ような 目 を 見開いて 、ハリー の 方 に 身 を 乗り出して きた 。
「ドビー め は 聞きました 」ドビー の 声 が かすれて いた 。 「 ハリー ・ポッター が 闇 の 帝王 と 二度目 の 対決 を 、ほんの 数 週間 前 に ......、 ハリー ・ポッター が またしても その 手 を 逃れた と 」
ハリー が うなずく と 、ドビー の 目 が 急に 涙 で 光った 。
「あぁ 」ドビー は 着ている きたな らしい 枕 カバー の 端っこ を 顔 に 押し当てて 涙 を 拭い 、感嘆 の 声 を あげた 。 「 ハリー ・ ポッター は 勇猛 果敢 ! もう 何度 も 危機 を 切り抜けて いらっしゃった ! でも 、 ドビー め は は リー ・ ポッター を お 護 り する ため に 参りました 。 警告 しに 参りました 。 あとで オーブン の 蓋 で 耳 を バッチン しなくてはなりません が 、それでも ...... 。 ハリー ・ポッター は ホグワーツ に 戻って は なりません 」一瞬 の 静けさ ―― 。 階下 で ナイフ や フォーク を カチャカチャ いう 音 と 、遠い 雷鳴 の ように ゴロゴロ と いう バーノン おじさん の 声 が 聞こえた 。
「な 、なんて 言った の ?」言葉 が つっかえた 。 「僕 、だって 、戻ら なきゃ ――九月 一日 に 新学期 が 始まる んだ 。 それ が なきゃ 僕 、耐えられない よ 。 ここ が どんな ところ か 、君 は 知ら ない だ 。 ここ に は 身 の 置き場 が ない んだ 。 僕 の 居場所 は 君 と 同じ 世界 ――ホグワーツ なんだ 」
「いえ 、いえ 、いえ 」
ドビー が キーキー 声 を たてた 。 あんまり 激しく 頭 を 横に 振った ので 、耳が パタパタ いった 。
「ハリー・ポッターは安全な場所にいないといけません。 あなた様は 偉大な 人 、優しい 人 、失う わけには 参りません 。 ハリー・ポッターがホグワーツに戻れば、死ぬほど危険でございます。」 「どうして ?」ハリー は 驚いて 訪ねた 。
ドビー は 突然 全身 を ワナワナ 震わせながら ささやくように 言った 。
「罠 です 。 ハリー ・ポッター 。 今 学期 、 ホグワーツ 魔法 魔術 学校 で 世にも 恐ろしい こと が 起こる よう 仕掛けられた 罠 で ございます 。 ドビー めは その ことを 何ヶ月も 前から 知って おり まし た 。 ハリー ・ポッター は 危険に 身を さらしては なりません 。 ハリー ・ポッター は あまりにも 大切な お方 です !」
「世にも 恐ろしい ことって ?」ハリーは 聞き返した 。 「誰が そんな 罠を ?」
ドビーは 喉を しめられた ような 奇妙な 声を あげ 、狂った ように 壁に バンバン 頭を 打ちつけた 。
「わかったから !」ハリーは 妖精の 腕を つかんで 引き戻しながら 叫んだ 。
「言え ない んだ ね 。 わかった よ 。 でも 君 は どうして 僕 に 知らせて くれる の ?」
ハリー は 急に 嫌な 予感 が した 。
「もしかして ――それ 、ヴォル ――あ 、ごめん ――『例の あの 人 』と 関係 が ある の ?」
ドビー の 頭 が また 壁 の 方 に 傾い で 行った 。
「首 を 縦 に 振る か 、横 に 振る か だけ して くれれば いい よ 」ハリー は 慌てて 言った 。
ゆっくり と 、ドビー は 首 を 横 に 振った 。
「 いいえ ――『 名前 を 呼んで はいけい な あの人 』 で は ございませ ん 」
ドビー は 目 を 大きく 見開いて 、 ハリー に 何 か ヒント を 与えよう と して いる ようだった が 、 ハリー に は まるで 見当 が つか なった 。
「『 あの人 』 に 兄弟 が いた か なぁ ?」
ドビーは 首を 横に 振り 、目を さらに 大きく 見開いた 。
「それじゃ 、ホグワーツで 世にも 恐ろしい ことを 引き起こせる のは 、ほかに 誰が いるのか 、全然 思いつかない よ 。 だって 、ほら 、ダンブルドアが いるから そんな ことは できない んだ ――君 、ダンブルドアは 知ってる よね ?」
ドビーは お辞儀を した 。
「アルバス・ダンブルドアはホグワーツ始まって以来、最高の校長先生でございます。 ドビー め は それ を 存じて おります 。 ドビー め は ダンブルドア の お力 が 『名前 を よんで は いけない あの 人 』の 最高潮 の 時 の 力 に も 対抗 できる と 聞いて おります 。 しかし 、でございます 」
ドビー は ここ で 声 を 落として 、せっぱ詰まった ように ささやいた 。 「ダンブルドア が 使わ ない 力 が ――正しい 魔法使い なら 決して 使わない 力 が ......」
ハリー が 止める 間もなく 、ドビー は ベッド から ポーン と 飛び降り 、ハリー の 机 の 上 の 電気 スタンド を 引っつかむ なり 、耳 を つんざく ような 叫び声 を あげながら 自分 の 頭 を 殴り はじめた 。
一階 が 突然 静かに なった 。 次の 瞬間 、バーノン おじさん が 玄関 ホール に 出て くる 音 が 聞こえた 。 ハリー の 心臓 は 早鐘 の ように 鳴った 。
「ダドリー が また テレビ を つけっぱなし に した ようです な 。 しょうがない やんちゃ 坊主 で !」
と おじさん が 大声 で 話して いる 。
「早く !洋服 箪笥 に !」
ハリー は 声 を ひそめて そう 言う と 、ドビー を 押し込み 、戸 を 閉め 、自分 は ベッド に 飛び込んだ 。 まさに その とき 、ドア が カシャリ と 開いた 。
「いったい ――きさま は ――ぬぁーに を ――やって ――おる んだ ?」
バーノン おじさん は 顔 を いやというほど ハリー の 顔 に 近づけ 、食いしばった 歯 の 間 から 怒鳴った 。
「日本人 ゴルファー の ジョーク の せっかくの おち を 、きさまが 台無しに してくれた わ ......今度 音を たてて みろ 、生まれてきた ことを 後悔する ぞ 。 わかった な !」
おじさん は ドスン ドスン 床 を 踏み鳴らし ながら 出て行った 。
ハリー は 震え ながら ドビー を 箪笥 から 出した 。
「ここ が どんな ところ か わかった ?僕 が どうして ホグワーツ に 戻ら なきゃ ならない か 、わかった だろう ?あそこ に だけ は 、僕 の ――つまり 、僕 の 方 が そう 思ってる んだ けど 、僕 の 友達 が いる んだ 」
「ハリー ・ポッター に 手紙 も くれ ない 友達 な のに ですか ?」ドビー が 言いにく そうに 言った 。 「たぶん 、二人 とも ずーっと ――え ?」ハリー は ふと 眉 を ひそめた 。
「僕 の 友達 が 手紙 を くれない って 、どうして 君 が しってる の ?」ドビー は 足 を もじもじ させた 。 「 ハリー ・ポッター は ドビー の こと を 怒って は ダメで ございます ――ドビー め は よかれ と 思って いた ので ございます ――」
「君 が 、僕 宛て の 手紙 を ストップ させて た の ?」
「ドビー め は ここ に 持って おります 」妖精 は するり と ハリー の 手 の 届か ない ところ へ 逃れ 、着て いる 枕 カバー の 中 から 分厚い 手紙 の 束 を 引っ張り出した 。 見覚え の ある ハーマイオニー の きちんとした 字 、の たくった ような ロン の 字 、ホグワーツ の 森 番 ハグリッド から と 思われる 走り書き も 見える 。
ドビー は ハリー の 方 を みながら 心配 そうに 目 を パチパチ させた 。
「 ハリー ・ ポッター は 怒って は ダメで ございます よ ...... ドビー め は 考えました ...... ハリー ・ ポッター が 友達 に 忘れられて しまった と 思って ...... ハリー ・ ポッター は もう 学校 に は 戻り たくない と 思う かも しれない と ......」 ハリー は 聞いて も い なかった 。 手紙 を ひったくろう と した が 、ドビー は 手 の 届かない ところ に 飛びのいた 。
「ホグワーツ には 戻らない と ドビー に 約束 したら 、ハリー・ポッター に 手紙 を さしあげます 。 あぁ 、どうぞ 、あなた 様 は そんな 危険な 目 に 遭って は なりません !どうぞ 、戻らない と 言って ください 」「いやだ 」ハリー は 怒った 。 「僕 の 友達 の 手紙 だ 。 返して !」
「ハリー・ポッター、それでは、ドビーはこうするほかありません」妖精は悲しげに言った。 ハリーに 止める 間も 与えず 、ドビーは 矢のように ドアに 飛びつき 、パッと 開けて ――階段を 全速力で 駆け下りていった 。
ハリーも 全速力で 、音を たいなように 、あとを 追った 。 口の中は 殻から 、胃袋は ひっくり返りそう 。 最後 の 六 段 は 一気に 飛び下り 、猫 の ように 玄関 ホール の カーペット の 上 に 着地し 、ハリー は あたり を 見回して 、ドビー の 姿 を 目 で 探した 。 食堂 から バーノン おじさん の 声 が 聞こえて きた 。
「......メイソン さん 、ペチュニア に 、あの アメリカ人 の 配管工 の 笑い話 を して やって ください 。 妻 と きたら 、聞き たくて うずうず して まして ......」
ハリー は 玄関 ホール を 走り抜け キッチン に 入った 。 途端に 胃袋 が 消えて なくなる かと 思った 。 ペチュニア おばさん の 傑作 デザート 、山盛り の ホイップクリーム と スミレ の 砂糖漬け が なんと 天上 近く を 浮遊 していた 。 戸棚 の てっぺん の 角 の 方 に ドビー が チョコンと 腰掛けて いた 。
「あぁ 、ダメ 」ハリー の 声 が かすれた 。 「ねぇ 、お願い だ ......僕 、殺されちゃう よ 」
「ハリー ・ポッター は 学校 に 戻らない と 言わなければ なりません ――」「ドビー 、お願い だから ......」 「どうぞ 、戻らない と 言って ください ......」
ドビー は 悲痚 な 目つき で ハリー を 見た 。
「では 、ハリー ・ポッター の ため に 、ドビー は こう する しか ありません 」デザート は 心臓 が 止まる ような 音 を たてて 床 に 落ちた 。 皿 が 割れ 、ホイップクリーム が 、窓 やら 壁 やら に 飛び散った 。 ドビー は 鞭 を 鳴らす ような 、パチッ という 音 ともに かき消えた 。
食堂 から 悲鳴 が あがり 、バーノン おじさん が キッチン に 飛び込んで きた 。 そこ に は ハリー が 、頭 の てっぺん から 足 の 先 まで ペチュニア おばさん の デザート を かぶって 、ショック で 硬直して 立って いた 。
ひとまず は 、バーノン おじさん が なんとか その場で 取り繕って 、うまく いった ように 見えた 。
(「甥 でして ね ――ひどく 精神 不安定 で ......――この 子 は しらない 人 に 会う と 気 が 動転 する ので 二階 に 行かせて おいたんです が ......」)
おじさん は 呆然と して いる メイソン 夫妻 を 「 さあ 、 さあ 」 と 食堂 に 追い出し 、 ハリー に は 、 メイソン 夫妻 が 帰った あと で 、 虫 の 息 に なる まで 鞭 で 打って やる と 宣言 し 、 それ から モップ を 渡した 。 ペチュニア おばさん は 、フリーザー の 置く から アイスクリーム を 引っ張り出して きた 。 ハリー は 震え が 止まらない まま 、キッチン の 床 を モップ で こすり はじめた 。
それ でも 、バーノン おじさん に は まだ 商談 成立 の 可能性 が あった ――ふくろう の こと さえ なければ 。
ペチュニア おばさん が 、食後 の ミント チョコ が 入った 箱 を みんな に 回していた とき 、巨大な ふくろう が 一羽 、食堂 の 窓 から バサーッ と 舞い降りて 、メイソン 夫人 の 頭 の 上 に 手紙 を 落とし 、また バサーッ と 飛び去って 行った 。 メイソン 夫人 は ギャーッ と 叫び声 を あげ 、ダーズリー 一家 は 狂って いる 、と 喚き ながら 飛び出して 行った 。
――妻 は 鳥 と 名 が つく もの は 、どんな 形 や 大きさ だろう と 死ぬ ほど 怖がる 。 いったい 君 たち 、これ は 冗談 の つもり か ね ――メイソン 氏 も ダーズリー 一家 に 文句 を 言う だけ 言う と 出て行った 。
おじさん が 小さい 目 に 悪魔 の ような 炎 を 燃やして 、ハリー の 方 に 迫って きた 。 ハリー は モップ に すがりついて 、やっと の 思い で キッチン に 立って いた 。
「読め !」おじさん が 押し殺した 声 で 毒々しく 言った 。 ふくろう が 配達 して 行った 。 ふくろう が 配達 して 行った 手紙 を 振りかざしている 。
「 いい から ―― 読め !」
ハリー は 手紙 を 手 に した 。 誕生 祝 の カード 、 では なかった 。
ポッター 殿 今夕 九時 十二分 、貴殿 の 住居 に おいて 「浮遊術 」が 使わ れた と の 情報 を 受け取りました 。 ご 承知 の ように 、卒業 前 の 未成年 魔法使い は 、学校 の 外 において 呪文 を 行使 する こと を 許されて おりません 。 貴殿 が 再び 呪文 を 行使 すれば 、対抗 処分 と なる 可能性 が あります 。 (未成年 魔法使い に 対する 妥当な 制限 に 関する 一八七五 年 法 、C 項 )
念のため 、非魔法 社会 の 者 (マグル )に 気づかれ る 危険性 が ある 魔法 行為 は 、国際 魔法 戦士 連盟 機密 保持 法 第 十三 条 の 重大な 違反 と なります 。 休暇 を 楽しまれます よう !敬具 魔法 省
魔法 不 適正 使用 取締 局 マファルダ ・ホップカーク ハリー は 手紙 から 顔 を 上げ 、生唾 を ゴクリ と 飲み込んだ 。 「おまえ は 、学校 の 外 で 魔法 を 使ってはならん と いう こと を 、黙っていた な 」バーノン おじさん の 目 に は 怒り の 火 が メラメラ 踊っていた 。 「言う の を 忘れた と いう わけだ ......なるほど 、つい 忘れて いた わけだ ......」おじさん は 大型 ブルドッグ の ように 牙 を 全部 むき出して 、ハリー に 迫って きた 。
「さて 、小僧 、知らせ が ある ぞ ......わし は おまえ を 閉じ込める ......おまえ は もう あの 学校 に は 戻れない ......決して な ......戻ろう と して 魔法 で 逃げよう と すれば ――連中 が おまえ を 退校 に する ぞ !」
狂った ように 笑いながら 、ダーズリー 氏 は ハリー を 二階 へ 引きずっていった 。
バーノン おじさん は 言葉通り に 容赦なかった 。 翌朝 、人 を 雇い 、ハリー の 部屋 の 窓 に 鋏格子 を はめさせた 。 ハリー の 部屋 の ドア に は 自ら 「餌差 入口 」を 取りつけ 、一日 三 回 、わずかな 食べ物 を そこ から 押し込む こと が できる ように した 。 朝 と 夕 に トイレ に 行ける よう 部屋 から 出して くれた が 、それ 以外 は 一日中 、ハリー は 部屋 に 閉じ込められた 。 三 日 たった 。 ダーズリー 一家 は まったく 手 を 緩める 気配 も なく 、ハリー には 状況 を 打開 する 糸口 さえ 見え なかった 。 ベッド に 横たわり 、窓 の 鋏 格子 の むこう に 陽 が 沈む の を 眺めて は 、いったい 自分 は どう なる んだろう と 考える と 惨めだった 。
魔法 を 使って 部屋 から 抜け出した と しても 、その せい で ホグワーツ を 退校させられる なら 、なんにも ならない 。 しかし 、今 の プリベット 通り で の 生活 は 最低の 最低だ 。 ダーズリー 一家 は 「目 が 覚めたら 大きな フルーツ コウモリ に なっていた 」という 恐れ も なくなり 、ハリー は 唯一 の 武器 を 失った 。 ドビー は ホグワーツ で の 世にも 恐ろしい 出来事 から 、ハリー を 救ってくれたかもしれない が 、このままでは 結果 は 同じだ 。 きっと ハリー は 餓死してしまう 。
餌差 入口 の 戸 が ガタガタ 音 を たて 、ペチュニア おばさん の 手 が 覗いた 。 缶詰 スープ が 一杯 差し入れられた 。 ハリー は 腹 ぺこで 胃 が 痒む ほど だった ので 、ベッド から 飛び起きて スープ 椀 を 引っつかんだ 。 冷めきった スープ だった が 、半分 を 一口 で 飲んでしまった 。 それから 部屋 の 向こう に 置いてある ヘドウィグ の 鳥篭 に スープ を 持って行き 、空っぽの 餌入れ に 、スープ 椀 の 底 に 張り付いていた 、ふやけた 野菜 を 入れてやった 。 ヘドウィグ は 羽 を 逆立て 、恨みがましい 目 で ハリー を 見た 。
「嘴 を とがらせて ツンツン したって どうにも ならない よ 。 二人 で これっきり なんだから 」ハリー は きっぱり 言った 。 空 の 椀 を 餌差 入口 の そば に 置き 、ハリー は また ベッド に 横 に なった 。 なんだか スープ を 飲む 前 より 、もっと ひもじかった 。
たとえ あと 四 週間 生き延びて も 、ホグワーツ に 行か なかったら どう なる ん だろう ?なぜ 戻らない か を 調べ に 、誰 か を よこす だろう か ?ダーズリー 一家 に 話して 、ハリー を 解放する ように できる の だろう か ?
部屋 の 中 が 暗く なって きた 。 疲れ果てて 、グーグー 鳴る 空腹 を 抱え 、答え の ない 疑問 を 何度 も 繰り返し 考え ながら ハリー は まどろみ はじめた 。
夢 の 中 で ハリー は 動物園 の 檻 の 中 に いた 。 <半 人前 魔法使い >と 掲示板 が かかって いる 。 鋏 格子 の むこう から 、みんな が じろじろ 覗いて いる 。 ハリー は 腹 を すかせ 、弱って 、藁 の ベッド に 横たわって いる 。 見物 客 の 中 に ドビー の 顔 を みつけて 、ハリー は 助け を 求めた 。 しか し 、ドビー は 「 ハリー ・ポッター は そこ に いれば 安全で ございます !」と 言って 姿 を 消した 。
ダーズリー 一家 が やってきた 。 ダドリー が 檻 の 鋏 格子 を ガタガタ 揺すって 、ハリー の こと を 笑って いる 。
「やめてくれ 」ガタガタ という 音 が 頭 に 響く ので ハリー は つぶやいた 。 「ほっといてくれよ ......やめて ......僕 眠りたい んだ ......」ハリー は 目 を 開けた 。 月明かり が 窓 の 鋏格子 を 通して 射し込んでいる 。 誰 か が ほんとうに 鋏 格子 の 外 から ハリー を じろじろ 覗いて いた 。 そばかす だらけ の 、赤毛 の 鼻 の 高い 誰かが 。
ロン ・ウィーズリー が 窓 の 外 に いた 。