12.2.1ポリジュース 薬 -ThePolyjuicePotion
クリスマス の 朝 が 来た 。 寒い 、真っ白な 朝 だった 。 寮 の 部屋 に は ハリー と ロン しか 残って いなかった が 、朝 早く 起こされて しまった 。 二人分の プレゼントを 持って 、すっかり 着替えを すませた ハーマイオニーが 、部屋に 飛び込んできた のだ 。
「起きなさい 」
ハーマイオニーは 窓の カーテンを 開けながら 、大声で 呼びかけた 。
「ハーマイオニー ――君は 男子寮に 来ちゃいけない はずだ よ 」
ロンは まぶしそうに 目を 覆いながら 言った 。
「あなたにも メリー・クリスマスよ」ハーマイオニーは、ロンにプレゼントをポーンと投げながら言った。
「わたし 、もう 一時間も 前から 起きて 、煎じ薬に クサカゲロウを 加えてた の 。 完成よ 」
ハリー は 途端に 目が バッチリ 覚めて 、起き上がった 。
「ほんと ? 」
「絶対 よ 」
ハーマイオニー は ネズミ の スキャバーズ を 脇に 押しやって 、ハリー の ベッド の 枕許に 腰掛けた 。
「すごい や 」
ハリー が 尊敬 の 念 を 込めて ハーマイオニー を 見つめる と ぱっと ハーマイオニー の 頬 が 赤く なった 。
「やる ん なら 、今夜 だ わ ね 」
ちょうど その とき 、ヘドウィグ が スイーッ と 部屋 に 入って きた 。
嘴 に ちっぽけな 包み を くわえて いる 。
「やあ 」ベッド に 降り立った ヘドウィグ に 、ハリー は 嬉しそうに 話しかけた 。
「また 僕 と 口をきいて くれる の かい ?」
へ ドウィグ は ハリー の 耳 を やさしく かじった 。
その 方 が 、運んで きて くれた 包み より ずっと いい 贈物 だった 。
包み は ダーズリー 一家 から で 、 爪楊枝 一 本 と メモ が 入って おり 、 メモ に は 、 夏 休み 中 に も 学校 に 残れない か どう か 聞いて おけ t と 書いて あった 。
他の プレゼント は もっと ずっと 嬉しい もの ばかり だった 。 ハグリッド は 糖蜜 ヌガー を 大きな 缶 一 杯 贈って くれた 。
ハリー は それ を 火 の そば に 置いて 柔らかく して から 食べる こと に した 。
ロン は 、お気に入り の クィディッチ ・チーム の おもしろい こと が あれこれ 書いて ある 「キャノンズ と 飛ぼう 」という 本 を くれた 。
ハーマイオニー は デラックス な 鷲 羽 の ペン を くれた 。
最後 の 包み を 開く と 、ウィーズリー おばさん から の 新しい 手編み の セーター と 、大きな プラムケーキ が 出てきた 。
おばさん の クリスマス カード を 飾り ながら 、 ハリー の 胸 に 新たな 自責 の 念 が 押 よ 寄せて きた ―― 。
ウィーズリー おじさん の 車 は 「暴れ柳 」に 衝突 して 以来 、行方 が 知れない し 、その上 、ロン と 一緒に これから ひとしきり 校則 を 破る 計画 を 立てている のだ 。
ホグワーツ の クリスマス ・ディナー だけ は 、何が あろうと 楽しい 。
たとえ これから ポリジュース 薬 を 飲む こと を 恐れている 人 だって 、やっぱり 楽しい 。
大広間 は 豪華 絢欄 だった 。
霜 に 輝く クリスマス ・ツリー が 何本 も 立ち並び 、ヒイラギ と ヤドリギ の 小枝 が 、天井 を 縫う ように 飾られ 、魔法 で 、天井 から 暖かく 乾いた 雪 が 降りしきって いた 。
ダンブルドア は 、お気に入り の クリスマス ・キャロル を 二 、三 曲 指揮 し 、ハグリッド は 、エッグノッグ を 杯 で がぶ飲み する たびに 、もともと 大きい 声 が ますます 大きく なった 。
「監督 生 」の バッジ に 、フレッド が いたずら して 字 を 変え 、「劣等生 」に してしまった こと に 気がつかない パーシー は 、みんな が クスクス 笑う たびに 、どうして 笑う の か 聞いていた 。
マルフォイ は スリザリン の テーブル の 方 から 、聞こえよがしに ハリー の 新しい セーター の 悪口 を 言っていた が 、ハリー は 気にも 止めなかった 。 うまく いけば 、あと 数時間 で 、マルフォイ は 罪 の 報い を 受ける ことに なる のだ 。
ハリー と ロン が 、まだ クリスマス ・プディング の 三 皿目 を 食べている のに 、ハーマイオニー が 二人 を 追いたてて 大広間 から 連れ出し 、今夜 の 計画 の 詰め に 入った 。
「これ から 変身 する 相手 の 一部分 が 必要な の 」
ハーマイオニー は 、まるで 二人 に スーパー に 行って 洗剤 を 買って こい と でも いう ように 、こともなげに 言った 。
「当然 、クラップ と ゴイル から 取る の が 一番 だ わ 。 マルフォイ の 腰巾着 だ から 、あの 二人 に だったら なんでも 話す でしょう し 。 それ と 、マルフォイ の 取り調べ を してる 最中 に 、本物 の クラップ と ゴイル が 乱入 する なんて こと が 絶対 ない ように しておかなきゃ 」
「わたし 、みんな 考えて ある の 」
ハリー と ロン が 度肝 を 抜かれた 顔 を している の を 無視して 、ハーマイオニー は すらすら と 言った 。
そして ふっくら した チョコレート ケーキ を 二 個 差し出した 。
「簡単な 眠り 薬 を 仕込んで おいた わ 。 あなた たち は クラップ と ゴイル が これ を 見つける ように しておけば 、それ だけ で いい の 。 あの 二 人 が どんなに 意地汚い か 、ご存知 の 通り だ から 、絶対 食べる に 決まってる 。 眠ったら 、 髪 の 毛 を 二 、 三 本 引っこ抜いて 、 それ から 二人 を 箒用 の 物置 に 隠す の よ 」
ハリー と ロン は 大丈夫 かな と 顔 を 見合わせた 。
「ハーマイオニー 、僕 、ダメな ような ―― 」
「 それって 、 ものすごく 失敗 する ん じゃ ――」 しか し 、 ハーマイオニー の 目 に は 、 厳格 そのもの の きらめき が あった 。 時々 マクゴナガル 先生 が 見せる あれ だ 。
「煎じ薬は 、クラップ と ゴイル の 毛 が ないと 役に立ちません 」断固たる 声 だ 。 「あなた たち 、マルフォイ を 尋問 したい の ?したくない の ?」「あぁ 、わかった よ 。 わかった よ 」と ハリー が 言った 。
「でも 、君 の は ?誰 の 髪 の 毛 を 引っこ抜く の ?」
「 わたし の は もう ある の !」 ハーマイオニー は 高らかに そう 言う と 、 ボケット から 小 瓶 を 取 り 出し 、 中 に 入って いる 一 本 の 髪 の 毛 を 見せた 。
「覚えて る ?決闘 クラブ で わたし と 取っ組み 合った ミリ セント ・ブルストロード 。 わたし の 首 を 締めよう と した とき 、わたし の ローブ に これ が 残ってた のく それに 、彼女 クリスマス で 帰っちゃって いない し ――だから 、スリザリン 生 に は 、学校 に 戻って きちゃった と 言えば いいわ 」ハーマイオニー が ポリジュース 薬 の 様子 を 見に 、慌しく 出て行った あとで 、ロン が 運命 に 打ちひしがれた ような 顔 で ハリー を 見た 。 「こんなに しくじり そうな こと だらけ の 計画 って 、聞いた こと ある かい ?」ところが 、作戦 第一号 は ハーマイオニー の 言った 通り に 、苦 も なく 進行した 。 これ に は ハリー も ロン も 驚嘆 した 。 クリスマスの 午後の お茶の あと 、二人で 誰も いなくなった 玄関ホールに 隠れ 、クラップと ゴイルを 待ち伏せした 。 スリザリンの テーブルに 、たった 二人 残った クラップと ゴイルは 、デザートの トライフル の 四皿目 を ガツガツ たいらげていた 。 ハリーは チョコレートケーキを 、階段の 手すりの 端に ちょんと 載せておいた 。 大広間から クラップと ゴイルが 出てきたので 、ハリーと ロンは 、正面の 扉の 脇に 立っている 鎧の 陰に 急いで 隠れた 。
クラップ が 大喜び で ケーキ を 指差して ゴイル に 知らせ 、二つとも 引っつかんだの を 見て 、ロン が 有頂天に なって ハリー に ささやいた 。
「あそこ まで バカ に なれる もんか な ?」ニヤニヤ と バカ笑い しながら 、クラップ と ゴイル は ケーキ を 丸ごと 大きな 口 に 収めた 。 しばらく は 二人とも 、「もうけた 」という 顔 で 意地汚く もごもご 口 を 動かしていた 。 それから 、その まんま の 表情 で 、二人とも パタン と 仰向けに 床 に 倒れた 。
一番 難しい 一幕 は 、ホール の 反対側 に ある 物置 に 二人 を 隠す こと だった 。
バケツ や モップ の 間 に 二人 を 安全に し まい込んだ あと 、 ハリー は ゴイル の 額 を 覆って いる ごわごわ の 髪 を 二 、 三 本 、 えいっと 引き抜いた 。 ロン は 、 クラップ の 髪 を 数 本 引っこ抜いた 。 二人 の 靴 も 失敬した 。 なにしろ ハリー たち の 靴 で は 、クラップ 、ゴイル ・サイズ の 足 に は 小さ 過ぎる から だ 。
それ から 、自分たち の やり遂げた こと が まだ 信じられない まま 、二人 は 「嘆きのマートル 」の トイレ へ と 全速力 で 駆け出した 。 ハーマイオニー が 大鍋 を かき混ぜて いる 小部屋 から 、 もくもく と 濃い 黒い 煙 が 立ち昇り 、二人 は ほとんど 何も 見え なかった 。
ローブ を たくし上げて 鼻 を 覆い ながら 、二人 は 小部屋 の 戸 を そっと 叩いた 。 「ハーマイオニー !」閂 が はずれる 音 が して 、ハーマイオニー が 顔 を 輝かせ 、待ちきれない 様子 で 現れた 。 その 後ろ で 、 どろり と 水あめ 状 に なった 煎じ薬 が グッグッ 、ゴボゴボ 泡立つ 音 が 聞こえた 。 トイレ の 便座 に タンブラー ・グラス が 三 つ 用意 されて いた 。 「取れた ?」ハーマイオニー が 息 を 弾ませて 聞いた 。
ハリー は ゴイル の 髪 の 毛 を 見せた 。
「結構 。 わたし の 方 は 、洗濯物 置き場 から 、着替え 用 の ローブ を 三 着 、こっそり 調達 しといた わ 」
ハーマイオニー は 小ぶり の 袋 を 持ち上げて 見せた 。
「 クラップ と ゴイル に なった とき に 、 サイズ の 大きい の が 必要でしょ 」
三 人 は 大 鍋 を じっと 見つめた 。 近く で 見る と 、煎じ 薬 は どろり と した 黒っぼい 泤 の ようで 、ボコッボコッ と 鈍く 泡立って いた 。 「すべて 、まちがい なく やった と 思う わ 」
ハーマイオニー が しみ だらけ の 「最も 強力な 魔法薬 」の ページ を 、神経質に 読み返し ながら 言った 。
「見た目 も この 本 に 書いて ある 通り だ し ......。 これ を 飲む と 、また 自分 の 姿 に 戻る まで きっかり 一時間 よ 」「次は なに する の ?」ロン が ささやいた 。
「薬 を 三杯 に 分けて 、髪 の 毛 を それぞれ 薬 に 加える の 」ハーマイオニー が ひしゃく で それぞれ の グラス に 、どろり とした 薬 を たっぷり 入れた 。
それから 震える 手で 、小瓶に 入った ミリセント・ブルストロードの髪を、自分のグラスに振り入れ、煎じ薬は、やかんのお湯が沸騰するようなシューシューという音をたて、激しく泡立った。
次の 瞬間 、薬は むかむかする ような 黄色に 変わった 。
「おぇ 一 ――ミリセント・ブルストロードのエキスだ」
ロン が 胸 糞 が 悪い と いう 目つき を した 。
「きっと イヤー な 味 が する よ 」
「さあ 、あなたたち も 加えて 」ハーマイオニー が 促した 。
ハリー は ゴイル の 髪 を 真ん中 の グラス に 落とし入れ 、ロン も 三つ 目 の グラス に クラップ の を 入れた 。
二つ とも シューシュー と 泡立ち 、ゴイル の は 鼻くそ の ような カーキ色 、クラップ の は 濁った 暗褐色 に なった 。
「ちょっと 待って 」ロン と ハーマイオニー が グラス を 取り上げた とき 、ハリー が 止めた 。
「 三人 一緒に ここ で 飲む の は やめた 方 が いい 。 クラップ や ゴイル に 変身 したら 、この 小部屋 に 収まりきらない よ 。 それに 、ミリセント ・プルスーロード だって 、とても 小柄 とは 言え ない んだ から 」
「よく 気づいた な 」ロンは 戸を 開けながら 言った 。
「三人 別々の 小部屋に しよう 」
ポリジュース 薬を 一滴も こぼす まいと 注意しながら 、ハリーは 真ん中の 小部屋に 入り込んだ 。
「いいかい !」ハリーが 呼びかけた 。
「いいよ 」ロン と ハーマイオニー の 声 だ 。
「いち ......に の ......さん ......」
鼻 を つまんで 、ハリー は ゴックン と 二 口 で 薬 を 飲み干した 。
煮込み 過ぎた キャベツ の ような 味 が した 。
途端に 、体 の 中 が 、生きた ヘビ を 飲み込んだ みたいに 振れだした ――ハリー は 吐き気が して 、体を くの字に 折った ――する と 、焼けるような 感触が 胃袋から サーッと 広がり 、手足の 指先まで 届いた 。
次に 、 息 が 詰まり そうに なって 、 全身 が 溶ける ような 気持 の 悪 さ に 襲わ れ 、 四 つ ん ばい に なった 。
体中の 皮膚が 、蝋が 熟で 溶けるように 泡立ち 、ハリーの 目の前で 手は 大きくなり 、指は 太くなり 、爪は 横に 広がり 、拳が ボルトのように 膨れ上がった 。 両肩は ベキベキと 広がって 痚かった し 、額は チクチクする ので 髪の毛が 眉の ところまで 這い降りてきた ことが わかった 。
胸囲 も 拡がり 、樽 の タガ が 引きちぎられる ように ハリー の ローブ を 引き裂いた 。
足 は 四 サイズ も 小さい ハリー の 靴 の 中 で うめいて いた 。
始まる の も 突然 だった が 、終わる の も 突然 だった 。
冷たい 石 の 床 の 上 に 、ハリー は うつ伏せ に 突っ伏し 、一 番 奥 の 小部屋 で 「嘆き の マートル 」が 気難しげ に ゴボゴボ 音 を たてている の を 聞いていた 。 ハリー は やっとこさ 靴 を 脱ぎ捨てて 、立ち上がった ――そうか 、ゴイル に なるって 、こう いう 感じ だった のか 。 巨大な 震える 手 で 、ハリー は 、踝 から 三十 センチ ほど 上 に ぶら下がっている 自分 の 服 を はぎ取り 、着替え の ローブ を 上 から かぶり 、ボート の ような ゴイル の 靴 の 紐 を しめた 。 手を 伸ばして 目 を 覆って いる 髪 を 掻き上げよう と した が 、ごわごわの 短い 髪 が 額 の 下 の 方 に ある だけ だった 。 目が よく 見え なかった のは メガネ の せい だった と 気づいた 。 もちろん ゴイル は メガ ネ が 要らない 。
ハリー は メガネ を はずし 、二人 に 呼びかけた 。
「二人 とも 大丈夫 ? 」
口 から 出てきた の は 、ゴイル の 低い しゃがれ 声 だった 。
「ああ 」
右 の 方 から クラップ の 唸る ような 低音 が 聞こえた 。
ハリー は 戸 の 鍵 を 開け 、ひび割れた 鏡 の 前 に 進み 出た 。
ゴイル が くぼんだ 、どんより 眼 で ハリー を 見つめ 返して いた 。