×

Utilizziamo i cookies per contribuire a migliorare LingQ. Visitando il sito, acconsenti alla nostra politica dei cookie.


image

こころ - 夏目漱石 - Soseki Project, Section 035 - Kokoro - Soseki Project

Section 035 - Kokoro - Soseki Project

十八

私 は 奥さん の 理解 力 に 感心 した 。 奥さん の 態度 が 旧式の 日本 の 女らしく ない ところ も 私 の 注意 に 一種 の 刺 戟 を 与えた 。 それ で 奥さん は その頃 流行り 始めた いわゆる 新しい 言葉 など は ほとんど 使わ なかった 。

私 は 女 と いう もの に 深い 交際 を した 経験 の ない 迂闊 な 青年 であった 。 男 と して の 私 は 、 異性 に 対する 本能 から 、 憧憬 の 目的 物 と して 常に 女 を 夢みて いた 。 けれども それ は 懐かしい 春 の 雲 を 眺める ような 心 持 で 、 ただ 漠然と 夢みて いた に 過ぎ なかった 。 だから 実際 の 女 の 前 へ 出る と 、 私 の 感情 が 突然 変る 事 が 時々 あった 。 私 は 自分 の 前 に 現われた 女 の ため に 引き付けられる 代り に 、 その 場 に 臨んで かえって 変な 反 撥 力 を 感じた 。 奥さん に 対した 私 に は そんな 気 が まるで 出 なかった 。 普通 男女 の 間 に 横たわる 思想 の 不 平均 と いう 考え も ほとんど 起ら なかった 。 私 は 奥さん の 女 である と いう 事 を 忘れた 。 私 は ただ 誠実なる 先生 の 批評 家 および 同情 家 と して 奥さん を 眺めた 。

「 奥さん 、 私 が この前 なぜ 先生 が 世間 的に もっと 活動 なさら ない のだろう と いって 、 あなた に 聞いた 時 に 、 あなた は おっしゃった 事 が あります ね 。 元 は ああ じゃ なかった んだって 」 「 ええ いいました 。 実際 あんな じゃ なかった んです もの 」

「 どんなだった んです か 」

「 あなた の 希望 なさる ような 、 また 私 の 希望 する ような 頼もしい 人だった んです 」

「 それ が どうして 急に 変化 な すった んです か 」

「 急に じゃ ありません 、 段々 ああ なって 来た の よ 」 「 奥さん は その 間 始終 先生 と いっしょに い らしった んでしょう 」 「 無論 いました わ 。 夫婦 です もの 」

「 じゃ 先生 が そう 変って 行か れる 源 因 が ちゃんと 解る べき はずです が ね 」


Section 035 - Kokoro - Soseki Project Section 035 - Kokoro - Soseki Project

十八 じゅうはち

私 は 奥さん の 理解 力 に 感心 した 。 わたくし||おくさん||りかい|ちから||かんしん| 奥さん の 態度 が 旧式の 日本 の 女らしく ない ところ も 私 の 注意 に 一種 の 刺 戟 を 与えた 。 おくさん||たいど||きゅうしきの|にっぽん||おんならしく||||わたくし||ちゅうい||いっしゅ||とげ|げき||あたえた それ で 奥さん は その頃 流行り 始めた いわゆる 新しい 言葉 など は ほとんど 使わ なかった 。 ||おくさん||そのころ|はやり|はじめた||あたらしい|ことば||||つかわ|

私 は 女 と いう もの に 深い 交際 を した 経験 の ない 迂闊 な 青年 であった 。 わたくし||おんな|||||ふかい|こうさい|||けいけん|||うかつ||せいねん| 男 と して の 私 は 、 異性 に 対する 本能 から 、 憧憬 の 目的 物 と して 常に 女 を 夢みて いた 。 おとこ||||わたくし||いせい||たいする|ほんのう||しょうけい||もくてき|ぶつ|||とわに|おんな||ゆめみて| けれども それ は 懐かしい 春 の 雲 を 眺める ような 心 持 で 、 ただ 漠然と 夢みて いた に 過ぎ なかった 。 |||なつかしい|はる||くも||ながめる||こころ|じ|||ばくぜんと|ゆめみて|||すぎ| だから 実際 の 女 の 前 へ 出る と 、 私 の 感情 が 突然 変る 事 が 時々 あった 。 |じっさい||おんな||ぜん||でる||わたくし||かんじょう||とつぜん|かわる|こと||ときどき| 私 は 自分 の 前 に 現われた 女 の ため に 引き付けられる 代り に 、 その 場 に 臨んで かえって 変な 反 撥 力 を 感じた 。 わたくし||じぶん||ぜん||あらわれた|おんな||||ひきつけられる|かわり|||じょう||のぞんで||へんな|はん|ばち|ちから||かんじた Instead of being attracted to the woman who appeared before me, I felt a strange repulsive force on the spot. 奥さん に 対した 私 に は そんな 気 が まるで 出 なかった 。 おくさん||たいした|わたくし||||き|||だ| 普通 男女 の 間 に 横たわる 思想 の 不 平均 と いう 考え も ほとんど 起ら なかった 。 ふつう|だんじょ||あいだ||よこたわる|しそう||ふ|へいきん|||かんがえ|||おこら| 私 は 奥さん の 女 である と いう 事 を 忘れた 。 わたくし||おくさん||おんな||||こと||わすれた 私 は ただ 誠実なる 先生 の 批評 家 および 同情 家 と して 奥さん を 眺めた 。 わたくし|||せいじつなる|せんせい||ひひょう|いえ||どうじょう|いえ|||おくさん||ながめた

「 奥さん 、 私 が この前 なぜ 先生 が 世間 的に もっと 活動 なさら ない のだろう と いって 、 あなた に 聞いた 時 に 、 あなた は おっしゃった 事 が あります ね 。 おくさん|わたくし||この まえ||せんせい||せけん|てきに||かつどう||||||||きいた|じ|||||こと||| "My wife, you said when I asked you why the teacher wasn't doing much more in the world the other day. 元 は ああ じゃ なかった んだって 」 もと|||||ん だって 「 ええ いいました 。 実際 あんな じゃ なかった んです もの 」 じっさい||||ん です|

「 どんなだった んです か 」 |ん です|

「 あなた の 希望 なさる ような 、 また 私 の 希望 する ような 頼もしい 人だった んです 」 ||きぼう||||わたくし||きぼう|||たのもしい|ひとだった|ん です

「 それ が どうして 急に 変化 な すった んです か 」 |||きゅうに|へんか|||ん です|

「 急に じゃ ありません 、 段々 ああ なって 来た の よ 」 きゅうに|||だんだん|||きた|| 「 奥さん は その 間 始終 先生 と いっしょに い らしった んでしょう 」 おくさん|||あいだ|しじゅう|せんせい||||| 「 無論 いました わ 。 むろん|| 夫婦 です もの 」 ふうふ||

「 じゃ 先生 が そう 変って 行か れる 源 因 が ちゃんと 解る べき はずです が ね 」 |せんせい|||かわって|いか||げん|いん|||わかる||はず です||