「 先生 と 私 」 第 5 b
先生 は これら の 墓標 が 現わす 人種々 の 様式 に 対して 、私 ほど に 滑稽 も アイロニー も 認めて ない らしかった 。 私 が 丸い 墓石 だの 細長い 御影 の 碑 だの を 指して 、しきりに かれこれ いい たがる のを 、始め の うち は 黙って 聞いて いたが 、しまいに 「あなた は 死 という 事実 を まだ 真面目に 考えた 事 が ありません ね 」と いった 。 私 は 黙った 。 先生 も それ ぎり 何とも いわなく なった 。
墓地 の 区切り目 に 、大きな 銀杏 が 一本 空 を 隠す ように 立っていた 。 その 下 へ 来た 時 、先生 は 高い 梢 を 見上げて 、「もう 少し する と 、綺麗です よ 。 この 木 が すっかり 黄葉 して 、ここ いら の 地面 は 金色 の 落葉 で 埋まる ように なります 」と いった 。 先生 は 月 に 一 度 ずつ は 必ず この 木 の 下 を 通る のであった 。
向う の 方 で 凸凹 の 地面 を ならして 新 墓地 を 作って いる 男 が 、鍬 の 手 を 休めて 私たち を 見て いた 。 私 たち は そこ から 左 へ 切れて すぐ 街道 へ 出た 。
これ から どこ へ 行く という 目的 の ない 私 は 、ただ 先生 の 歩く 方 へ 歩いて 行った 。 先生 は いつも より 口数 を 利か なかった 。 それ でも 私 は さほど の 窮屈 を 感じなかった ので 、ぶらぶら いっしょに 歩いて 行った 。
「すぐ お宅 へ お帰り です か 」
「ええ 別に 寄る 所 も ありません から 」 二 人 は また 黙って 南 の 方 へ 坂 を 下りた 。
「 先生 の お宅 の 墓地 は あす こ に ある ん です か 」 と 私 が また 口 を 利き 出した 。
「 いいえ 」
「どなた の お 墓 が ある んです か 。 ――ご 親類 の お墓 です か 」
「 いいえ 」
先生 は これ 以外 に 何も 答え なかった 。 私 も その 話 は それ ぎり に して 切り上げた 。 すると 一 町 ほど 歩いた 後 で 、先生 が 不意に そこ へ 戻って 来た 。
「あす こ に は 私 の 友達 の 墓 が ある んです 」
「お 友達 の お墓 へ 毎月 お参り を なさる んですか 」
「そう です 」
先生 は その 日 これ 以外 を 語らなかった 。