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LibriVOX 04 - Japanese, (8) Shoshuno ichinichi - 初秋の一日 (Sōseki Natsume - 夏目漱石)

(8) Shoshuno ichinichi - 初秋 の 一 日 (Sōseki Natsume - 夏目 漱石)

汽車 の 窓 から 怪しい 空 を 覗いて いる と 降り出して 来た 。 それ が 細かい 糠雨 な ので 、 雨 と して より は むしろ 草木 を 濡らす 淋しい 色 と して 自分 の 眼 に 映った 。 三 人 は この頃 の 天気 を 恐れて みんな 護 謨合 羽 を 用意 して いた 。 けれども それ が いざ 役 に 立つ と なる と けっして 嬉しい 顔 は し なかった 。 彼ら は その 日 の 佗 び し さ から 推して 、 二 日 後 に 来る 暗い 夜 の 景色 を 想像 した のである 。 「 十三 日 に 降ったら 大変だ なあ 」 と O が 独 言 の ように 云った 。 「 天気 の 時 より 病人 が 増える だろう 」 と 自分 も 気 の な さ そうに 返事 を した 。 Y は 停車場 前 で 買った 新聞 に 読み耽った まま 一口 も 物 を 云 わ なかった 。 雨 は いつの間にか 強く なって 、 窓 硝子 に 、 砕けた 露 の 球 の ような もの が 見え 始めた 。 自分 は 閑静な 車 輛 の なか で 、 先年 英国 の エドワード 帝 を 葬った 時 、 五千 人 の 卒倒 者 を 出した 事 など を 思い出したり した 。 汽車 を 下りて 車 に 乗った 時 から 、 秋 の 感じ は なお 強く なった 。 幌 の 間 から 見る と 車 の 前 に ある 山 が 青く 濡れ 切って いる 。 その 青い なか の 切通し へ 三 人 の 車 が 静かに かかって 行く 。 車 夫 は 草 鞋 も 足袋 も 穿 かず に 素足 を 柔 か そう な 土 の 上 に 踏みつけて 、 腰 の 力 で 車 を 爪先 上 り に 引き上げる 。 すると 左右 を 鎖 す 一面の 芒 の 根 から 爽 かな 虫 の 音 が 聞え 出した 。 それ が 幌 を 打つ 雨 の 音 に 打ち勝つ ように 高く 自分 の 耳 に 響いた 時 、 自分 は この 果し も ない 虫 の 音 に 伴れて 、 果し も ない 芒 の 簇 り を 眼 も 及ば ない 遠く に 想像 した 。 そうして それ を 自分 が 今 取り巻かれて いる 秋 の 代表 者 の ごとく に 感じた 。 この 青い 秋 の なか に 、 三 人 は また 真 赤 な 鶏頭 を 見つけた 。 その 鮮やかな 色 の 傍 に は 掛 茶屋 めいた 家 が あって 、 縁台 の 上 に 枝豆 の 殻 を 干した まま 積んで あった 。 木槿 か と 思わ れる 真 白 な 花 も ここ かしこ に 見られた 。 やがて 車 夫 が 梶 棒 を 下した 。 暗い 幌 の 中 を 出る と 、 高い 石段 の 上 に 萱葺 の 山門 が 見えた 。 O は 石段 を 上る 前 に 、 門前 の 稲田 の 縁 に 立って 小便 を した 。 自分 も 用心 の ため 、 すぐ 彼 の 傍 へ 行って 顰 に 倣った 。 それ から 三 人 前後 して 濡れた 石 を 踏み ながら 典 座 寮 と 書いた 懸 札 の 眼 に つく 庫 裡 から 案内 を 乞 うて 座敷 へ 上った 。 老 師 に 会う の は 約 二十 年 ぶり である 。 東京 から わざわざ 会い に 来た 自分 に は 、 老 師 の 顔 を 見る や 否 や 、 席 に 着か ぬ 前 から 、 すぐ それ と 解った が 先方 で は 自分 を 全く 忘れて いた 。 私 は と 云って 挨拶 を した 時 老 師 は いや まるで 御 見 逸れ 申しました と 、 改めて 久 濶 を 叙 した あと で 、 久しい 事 に なります な 、 もう かれこれ 二十 年 に なります から など と 云った 。 けれども その 二十 年 後 の 今 、 自分 の 眼 の 前 に 現れた 小 作り な 老 師 は 、 二十 年 前 と 大して 変って は い なかった 。 ただ 心 持 色 が 白く なった の と 、 年 の せい か 顔 に どこ か 愛嬌 が ついた の が 自分 の 予期 と 少し 異なる だけ で 、 他 は 昔 の まま の S 禅師 であった 。 「 私 も もう 直 五十二 に なります 」 自分 は 老 師 の この 言葉 を 聞いた 時 、 なるほど 若く 見える はずだ と 合点 が 行った 。 実 を いう と 今 まで 腹 の 中 で は 老 師 の 年 歯 を 六十 ぐらい に 勘定 して いた 。 しかし 今 ようやく 五十一二 と する と 、 昔 自分 が 相 見 の 礼 を 執った 頃 は まだ 三十 を 超えた ばかりの 壮年 だった のである 。 それ でも 老 師 は 知識 であった 。 知識 であった から 、 自分 の 眼 に は 比較的 老けて 見えた のだろう 。 いっしょに 連れて 行った 二 人 を 老 師 に 引き合せて 、 巡 錫 の 打ち合せ など を 済ました 後 、 しばらく 雑談 を して いる うち に 、 老 師 から 縁 切 寺 の 由来 やら 、 時 頼 夫人 の 開基 の 事 やら 、 どうして そんな 尼寺 へ 住む ように なった 訳 やら 、 いろいろ 聞いた 。 帰る 時 に は 玄関 まで 送って きて 、「 今日 は 二百二十 日 だ そうで ……」 と 云 われた 。 三 人 は その 二百二十 日 の 雨 の 中 を 、 また 切通し 越 に 町 の 方 へ 下った 。 翌朝 は 高い 二 階 の 上 から 降る でも なく 晴れる でも なく 、 ただ 夢 の ように 煙る K の 町 を 眼 の 下 に 見た 。 三 人 が 車 を 並べて 停車場 に 着いた 時 、 プラット フォーム の 上 に は 雨 合 羽 を 着た 五六 の 西洋 人 と 日本 人 が 七 時 二十 分 の 上り 列車 を 待つ べく 無言 の まま 徘徊 して いた 。 御 大 葬 と 乃木 大将 の 記事 で 、 都下 で 発行 する あらゆる 新聞 の 紙面 が 埋まった の は 、 それ から 一 日 おいて 次の 朝 の 出来事 である 。

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