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人間失格, 人間失格 2/15

人間 失格 2/15

自分 の 父 は 、東京 に 用事 の 多い ひと でした ので 、上野 の 桜木町 に 別荘 を 持って いて 、月 の 大半 は 東京 の その 別荘 で 暮して いました 。 そうして 帰る 時 に は 家族 の者 たち 、 また 親戚 ( しんせき ) の者 たち に まで 、 実に おびただしく お 土産 を 買って 来る の が 、 まあ 、 父 の 趣味 みたいな もの でした 。 いつか の 父 の 上京 の 前夜 、 父 は 子供 たち を 客間 に 集め 、 こんど 帰る 時 に は 、 どんな お 土産 が いい か 、 一人 々々 に 笑い ながら 尋ね 、 それ に 対する 子供 たち の 答 を いちいち 手帖 ( てちょう ) に 書きとめる のでした 。 父 が 、こんなに 子供 たち と 親しく する の は 、めずらしい 事 でした 。 「 葉 蔵 は ? 」と 聞かれて 、自分 は 、口ごもって しまいました 。 何 が 欲しい と 聞かれる と 、とたんに 、何も 欲しく なく なる のでした 。 どうでも いい 、どうせ 自分 を 楽しく させて くれる もの なんか 無い んだ と いう 思い が 、ちら と 動く のです 。 と 、同時に 、人 から 与えられる もの を 、どんなに 自分 の 好み に 合わなくて も 、それ を 拒む 事 も 出来ません でした 。 イヤな 事 を 、 イヤ と 言え ず 、 また 、 好きな 事 も 、 おずおず と 盗む よう に 、 極めて にがく 味 ( あじ わ ) い 、 そうして 言い 知れ ぬ 恐怖 感 に もだえる のでした 。 つまり 、自分 に は 、二者選一 の 力 さえ 無かった のです 。 これ が 、後年 に 到り 、いよいよ 自分 の 所謂 「恥 の 多い 生涯 」の 、重大な 原因 と も なる 性癖 の 一 つ だった ように 思われます 。 自分 が 黙って 、もじもじ している ので 、父 は ちょっと 不機嫌な 顔 に なり 、「やはり 、本 か 。 浅草 の 仲店 に お正月 の 獅子舞い の お獅子 、子供 が かぶって 遊ぶ のに は 手頃な 大きさ の が 売っていた けど 、欲しくない か 」欲しくない か 、と 言われる と 、もう ダメな んです 。 お 道化 た 返事 も 何も 出来 や し ない んです 。 お 道化 役者 は 、完全に 落第 でした 。 「本 が 、いい でしょう 」長兄 は 、まじめな 顔 を して 言いました 。 「そう か 」父 は 、興覚め 顔 に 手帖 に 書きとめ も せず 、パチ と 手帖 を 閉じました 。 何という 失敗 、 自分 は 父 を 怒ら せた 、 父 の 復讐 ( ふくしゅう ) は 、 きっと 、 おそるべき もの に 違いない 、 いま の うち に 何とか して 取りかえ し の つか ぬ もの か 、 と その 夜 、 蒲 団 の 中 で がたがた 震え ながら 考え 、 そっと 起きて 客間 に 行き 、 父 が 先刻 、 手帖 を しまい 込んだ 筈 の 机 の 引き出し を あけて 、 手帖 を 取り 上げ 、 パラパラ めくって 、 お 土産 の 注文 記入 の 個所 を 見つけ 、 手帖 の 鉛筆 を なめて 、 シシマイ 、 と 書いて 寝ました 。 自分 は その 獅子舞 い の お獅子 を 、ちっとも 欲しく は 無かった のです 。 かえって 、本 の ほう が いい くらい でした 。 けれども 、自分 は 、父 が その お獅子 を 自分 に 買って 与えたい のだ と いう 事 に 気がつき 、父 の その 意向 に 迎合して 、父 の 機嫌 を 直したい ばかりに 、深夜 、客間 に 忍び込む という 冒険 を 、敢えて おかした のでした 。 そうして 、この 自分 の 非常の 手段 は 、果して 思いどおりの 大成功 を 以て 報いられました 。 やがて 、父 は 東京 から 帰って 来て 、母 に 大声 で 言って いる の を 、自分 は 子供 部屋 で 聞いて いました 。 「仲 店 の おもちゃ屋 で 、この 手帖 を 開いて みたら 、これ 、ここ に 、シシマイ 、と 書いて ある 。 これ は 、私 の 字 で は ない 。 はて な ? と 首 を かしげて 、思い当りました 。 これ は 、葉蔵 の いたずら です よ 。 あいつ は 、私 が 聞いた 時 に は 、にやにやして 黙って いた が 、あとで 、どうしても お獅子 が 欲しくて たまらなく なった んだ ね 。 何せ 、どうも 、あれ は 、変った 坊主 です から ね 。 知らん振り して 、ちゃんと 書いて いる 。 そんなに 欲しかった の なら 、そう 言えば よい のに 。 私 は 、おもちゃ 屋 の 店先 で 笑いました よ 。 葉 蔵 を 早く ここ へ 呼び なさい 」 また 一方 、 自分 は 、 下 男 や 下 女 たち を 洋室 に 集めて 、 下 男 の ひと り に 滅 茶 苦 茶 ( めちゃくちゃ ) に ピアノ の キイ を たたか せ 、( 田舎 で は ありました が 、 その 家 に は 、たいてい の もの が 、 そろって いました ) 自分 は その 出 鱈 目 ( でたらめ ) の 曲 に 合せて 、 インデヤン の 踊り を 踊って 見せて 、 皆 を 大笑い さ せました 。 次兄 は 、 フラッシュ を 焚 ( た ) いて 、 自分 の インデヤン 踊り を 撮影 して 、 その 写真 が 出来た の を 見る と 、 自分 の 腰 布 ( それ は 更紗 ( さらさ ) の 風呂敷 でした ) の 合せ 目 から 、 小さい お チンポ が 見えて いた ので 、 これ が また 家中 の 大笑い でした 。 自分 に とって 、これ また 意外の 成功 と いう べき もの だった かも 知れません 。 自分 は 毎月 、 新刊 の 少年 雑誌 を 十 冊 以上 も 、 とって いて 、 また その他 ( ほか ) に も 、 さまざまの 本 を 東京 から 取り寄せて 黙って 読んで いました ので 、 メチャラクチャラ 博士 だの 、 また 、 ナンジャモンジャ 博士 など と は 、たいへんな 馴染 ( なじみ ) で 、 また 、 怪談 、 講談 、 落語 、 江戸 小咄 ( こばなし ) など の 類 に も 、 かなり 通じて いました から 、 剽軽 ( ひょうきん ) な 事 を まじめな 顔 を して 言って 、 家 の者 たち を 笑わ せる の に は 事 を 欠きません でした 。 しかし 、 嗚呼 ( ああ )、 学校 ! 自分 は 、そこ で は 、尊敬 さ れ かけて いた のです 。 尊敬 される と いう 観念 も また 、 甚 ( はな は ) だ 自分 を 、 おびえ させました 。 ほとんど 完全に 近く 人 を だまして 、そうして 、或る ひとり の 全知全能 の 者 に 見破られ 、木っ葉 みじん に やられて 、死ぬる 以上の 赤恥 を かかせられる 、それ が 、「尊敬 される 」と いう 状態 の 自分 の 定義 で ありました 。 人間 を だまして 、「尊敬 さ れ 」て も 、誰 か ひとり が 知っている 、そうして 、人間たち も 、やがて 、その ひとり から 教えられて 、だまさ れた 事 に 気づいた 時 、その 時 の 人間たち の 怒り 、復讐 は 、いったい 、まあ 、どんな でしょうか 。 想像 して さえ 、身 の 毛 が よだつ 心地 が する のです 。 自分 は 、金持ち の 家 に 生れた と いう 事 より も 、俗に いう 「できる 」事 に 依って 、学校 中 の 尊敬 を 得 そうに なりました 。 自分 は 、子供 の 頃 から 病弱 で 、よく 一 つき 二 つき 、また 一 学年 ちかく も 寝込んで 学校 を 休んだ 事 さえ あった のです が 、それ でも 、病み上り の からだ で 人力車 に 乗って 学校 へ 行き 、学年末 の 試験 を 受けて みる と 、クラス の 誰 より も 所謂 「できて 」いる ようでした 。 からだ 具合 い の よい 時 でも 、自分 は 、さっぱり 勉強 せず 、学校 へ 行って も 授業 時間 に 漫画 など を 書き 、休憩 時間 に は それ を クラス の 者たち に 説明して 聞かせて 、笑わせて やりました 。 また 、 綴り 方 に は 、 滑稽 噺 ( こっけい ば なし ) ばかり 書き 、 先生 から 注意 されて も 、 しかし 、 自分 は 、 やめません でした 。 先生 は 、実は こっそり 自分 の その 滑稽 噺 を 楽しみに している 事 を 自分 は 、知っていた から でした 。 或る 日 、 自分 は 、 れい に 依って 、 自分 が 母 に 連れられて 上京 の 途中 の 汽車 で 、 おしっこ を 客車 の 通路 に ある 痰 壺 ( たん つぼ ) に して しまった 失敗 談 ( しかし 、 その 上京 の 時 に 、 自分 は 痰 壺 と 知ら ず に した の では ありません でした 。 子供 の 無邪気 を てらって 、 わざと 、 そうした の でした ) を 、 ことさら に 悲し そうな 筆 致 で 書いて 提出 し 、 先生 は 、 きっと 笑う と いう 自信 が ありました ので 、 職員 室 に 引き揚げて 行く 先生 の あと を 、 そっと つけて 行きましたら 、 先生 は 、 教室 を 出る と すぐ 、 自分 の その 綴り 方 を 、 他の クラス の者 たち の 綴り 方 の 中 から 選び 出し 、 廊下 を 歩き ながら 読み はじめて 、 クスクス 笑い 、 やがて 職員 室 に は いって 読み 終えた の か 、 顔 を 真 赤 に して 大声 を 挙げて 笑い 、 他の 先生 に 、 さっそく それ を 読ま せて いる の を 見とどけ 、 自分 は 、たいへん 満足でした 。 お 茶目 。 自分 は 、所謂 お茶目 に 見られる 事 に 成功 しました 。 尊敬 される 事 から 、のがれる 事 に 成功 しました 。 通信 簿 は 全 学科 と も 十 点 でした が 、 操 行 と いう もの だけ は 、 七 点 だったり 、 六 点 だったり して 、 それ も また 家中 の 大笑い の 種 でした 。 けれども 自分 の 本性 は 、 そんな お 茶 目 さん など と は 、 凡 ( お よ ) そ 対 蹠 (たいせき ) 的な もの でした 。 その 頃 、 既に 自分 は 、 女 中 や 下 男 から 、 哀 ( かな ) しい 事 を 教えられ 、 犯されて いました 。 幼少 の 者 に 対して 、そのような 事 を 行う のは 、人間 の 行い得る 犯罪 の 中 で 最も 醜悪で 下等で 、残酷な 犯罪 だ と 、自分 は いまでは 思って います 。 しかし 、自分 は 、忍びました 。 これ で また 一 つ 、 人間 の 特質 を 見た と いう ような 気持 さえ して 、 そうして 、 力無く 笑って いました 。 もし 自分 に 、本当の 事 を 言う 習慣 が ついて いた なら 、悪びれず 、彼等 の 犯罪 を 父 や 母 に 訴える 事 が 出来た の かも 知れません が 、しかし 、自分 は 、その 父 や 母 を も 全部 は 理解 する 事 が 出来 なかった のです 。 人間 に 訴える 、自分 は 、その 手段 に は 少しも 期待 できません でした 。 父 に 訴えて も 、 母 に 訴えて も 、 お 巡 ( ま わ ) り に 訴えて も 、 政府 に 訴えて も 、 結局 は 世渡り に 強い人 の 、 世間 に 通り の いい 言い ぶん に 言い まくら れる だけ の 事 で は 無い かしら 。 必ず 片手 落 の ある の が 、 わかり 切って いる 、 所詮 ( しょせん )、 人間 に 訴える の は 無駄である 、 自分 は やはり 、 本当の 事 は 何も 言わ ず 、 忍んで 、 そうして お 道化 を つづけて いる より 他 、 無い 気持 な のでした 。 なんだ 、人間 へ の 不信 を 言って いる の か ? へえ ? お前 は いつ クリスチャン に なった ん だい 、 と 嘲笑 ( ちょうしょう ) する人 も 或いは ある かも 知れません が 、 しかし 、 人間 へ の 不信 は 、 必ずしも すぐ に 宗教 の 道 に 通じて いる と は 限らない と 、 自分 に は 思わ れる の です けど 。 現に その 嘲笑 する 人 を も 含めて 、人間 は 、お互い の 不信 の 中 で 、エホバ も 何も 念頭 に 置か ず 、平気で 生きて いる では ありません か 。 やはり 、自分 の 幼少 の 頃 の 事 で ありました が 、父 の 属していた 或る 政党 の 有名 人 が 、この 町 に 演説 に 来て 、自分 は 下男 たち に 連れられて 劇場 に 聞き に 行きました 。 満員 で 、そうして 、この 町 の 特に 父 と 親しく している 人たち の 顔 は 皆 、見えて 、大いに 拍手 など していました 。 演説 が すんで 、聴衆 は 雪 の 夜道 を 三々五々 かたまって 家路 に 就き 、クソ ミソ に 今夜 の 演説会 の 悪口 を 言って いる のでした 。 中 に は 、父 と 特に 親しい 人 の 声 も まじって いました 。 父 の 開会 の 辞 も 下手 、れいの 有名 人 の 演説 も 何が何やら 、わけ が わからぬ 、と その 所謂 父 の 「同志 たち 」が 怒声 に 似た 口調 で 言っている のです 。 そうして その ひと たち は 、 自分 の 家 に 立ち寄って 客間 に 上り 込み 、 今夜 の 演説 会 は 大 成功 だった と 、 しん から 嬉し そうな 顔 を して 父 に 言って いました 。 下 男 たち まで 、今夜 の 演説会 は どう だった と 母 に 聞かれ 、と ても 面白かった 、と 言って けろりと している のです 。 演説 会 ほど 面白くない もの は ない 、 と 帰る 途 々 ( みちみち )、 下 男 たち が 嘆き 合って いた の です 。 しかし 、こんな の は 、ほんの ささやかな 一例 に 過ぎません 。 互いに あざむき 合って 、しかも いずれ も 不思議に 何の 傷 も つか ず 、あざむき 合っている 事 に さえ 気 が ついていない みたいな 、実に あざやかな 、それこそ 清く 明るく ほがらかな 不信 の 例 が 、人間 の 生活 に 充満している ように 思われます 。 けれども 、自分 に は 、あざむき 合って いる と いう 事 に は 、さして 特別の 興味 も ありません 。 自分 だって 、お 道化 に 依って 、朝 から 晩 まで 人間 を あざむいて いる のです 。 自分 は 、修身 教科書 的な 正義 と か 何とか いう 道徳 に は 、あまり 関心 を 持て ない のです 。 自分 に は 、あざむき 合って いながら 、清く 明るく 朗らかに 生きて いる 、或いは 生き得る 自信 を 持って いる みたいな 人間 が 難解な のです 。 人間 は 、 ついに 自分 に その 妙 諦 ( みょう てい ) を 教えて は くれません でした 。 それ さえ わかったら 、自分 は 、人間 を こんなに 恐怖 し 、また 、必死の サーヴィス など しなくて 、すんだ のでしょう 。 人間 の 生活 と 対立 して しまって 、 夜 々 の 地獄 の これ ほど の 苦し み を 嘗 ( な ) め ず に すんだ のでしょう 。 つまり 、自分 が 下男 下女 たち の 憎む べき あの 犯罪 を さえ 、誰 に も 訴え なかった の は 、人間 へ の 不信 から で は なく 、また 勿論 クリスト 主義 の ため でも なく 、人間 が 、葉蔵 という 自分 に 対して 信用 の 殻 を 固く 閉じていた から だった と 思います 。 父母 で さえ 、自分 に とって 難解 な もの を 、時折 、見せる 事 が あった のです から 。 そうして 、 その 、 誰 に も 訴えない 、 自分 の 孤独 の 匂い が 、 多く の 女性 に 、 本能 に 依って 嗅 ( か ) ぎ 当てられ 、 後年 さまざま 、 自分 が つけ込ま れる 誘因 の 一 つ に なった ような 気 も する の です 。 つまり 、自分 は 、女性 に とって 、恋 の 秘密 を 守れる 男 であった という わけな のでした 。

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