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悪人 (Villain) (1st Book), 第一章 彼女は誰に会いたかったか?【5】

第 一 章 彼女 は 誰 に 会い たかった か ?【5】

駅 へ 向かう 途中 、「そう いえば 、佳乃 ちゃん から なんか 連絡 あった ? と 沙里 は 訊いた 。 「佳乃 ちゃん ? 戻っとらん と ? 眞子 が 相変わらず のんびり と した 口調 で 訊いて くる 。

「携帯 に は 連絡 なかった けど 」

「じゃあ 、あれ なんやない 、昨日 、あの まま 増尾 くん の ところ に 泊まり に 行って 、今日 は そこ から 出勤する っちゃない ? 不思議な もの で 、眞子 に のんびり と 言われる と 、実際 そうな の かもしれない と 思えて くる 。 二人 は 話 も そこそこ に 地下鉄 の 駅 に 駆け込んだ 。

ぎりぎり 間に合った 朝礼 が 終わる と 、営業部長 が 小さな 応接室 に ある テレビ を つけた 。 普段 、部長 が テレビ を つける こと など なかった ので 、その 場 に いた 職員 たち も 一斉に そちら へ 目 を 向けた 。

「なんか 、三瀬峠 で 事件 が あった らしい な 」

テレビ を つけた 部長 が そう 言って 、みんな の ほう を 振り返る 。 職員 の 何人 か は 知っていた ようで 、ぼそぼそ と 営業所 の 片隅 で 声 が 上がり 、別の 何人 か が テレビ の ほう へ 近寄って いく 。 朝日 の 差し込む 大きな 窓 に は 、まだ 七夕 の 飾り が 残っており 、そこ に だけ 夏 の 暑さ が 戻ってきた ように 見える 。 朝日 の 差し込む 大きな 窓 に は 、まだ 七夕 の 飾り が 残っており 、そこ に だけ 夏 の 暑さ が 戻ってきた ように 見える 。 高 すぎ ん ? 」と 声 を かけた 。

「新しい の が 出る らしい ん よ 。 それ で これ 、三 掛け で 買える らしくて 」

段ボール の 中 に は 、客 に プレゼント する ため の 可愛く も ない うさぎ の ぬいぐるみ が 詰まっている 。 「こんな もん あげたって 、誰 も 契約 なんか して くれん よ ねぇ ? 」 そう 言った 沙 里 の 言葉 に 、「 でも 、 とりあえず 、 ぬいぐるみ だけ は ちょうだいって 言って くる人 も おる し 」 と 眞 子 が 生真面目に 答える 。 応接室 の テレビ の 前 に 集まっていた 数人 の 間 で 、「うそ 、こわ~い 」と いう 声 が 上がった のは その とき だった 。 どちら か と いう と 、切迫感 も なく 、間 の 抜けた 声 だった ので 、沙里 は 見る と も なく テレビ の ほう へ 目 を 向けた 。

いつも なら 地元 放送局 の ワイドショー が 、市内 の 商店街 の 安売り 情報 など を 紹介している 時間帯 だった が 、今朝 、棚 の 上 に 置かれた テレビ に は 、眉間 に 皺 を 寄せた 若い レポーター が 山道 を バック に 映っている 。

「 三瀬 峠 で 死体 が 発見 されたって 」 テレビ の 前 に いた 一人 が 、 誰 に 言う と も なく 振り返った 。 その 声 に つられる ように 、テレビ から 離れた 場所 に いた 者たち が 、一人 、二人 と 立ち上がり 、テレビ の ほう へ 近寄って いく 。

「今朝 、若い 女性 の 遺体 が 発見された の は 、この 先 に 見える 崖 の 下 に なります 。 現在 は 警察 の ロープ が 張られ 、これ より 先 に 行く こと は できません が 、ここ から 見て も 分かる ように 、かなり 急な 崖 で その 遺体 は 発見された 模様です 」現場 に 到着した ばかり なのか 、息 の 荒い レポーター が ほとんど 叫ぶ ような 声 を 上げていた 。 沙里 は ふと 嫌な 予感 が して 、隣 の 眞子 に 目 を 向けた 。

が 、眞子 は テレビ で は なく 、熱心に 段ボール の ぬいぐるみ を 選り分けて いる 。

「ねぇ 」沙里 が 声 を かける と 、眞子 は ぬいぐるみ を 催促 された と 勘違いして 、掴んで いた 一番 小さな うさぎ を 沙里 の ほう へ 差し出した 。

「じゃ 、なくて 、あれ 」と 沙里 は 少し 苛いら立 だって 、テレビ の ほう へ 顎 を しゃくった 。 ゆっくり と 眞子 も テレビ に 目 を 向ける 。 「……現在 、まだ 身元 は 確認 されて いない 模様 です 。 関係者 の 話 に よる と 、死体 が 遺棄 された の は おそらく 今日 未明 、少なくとも 死後 八 時間 から 十 時間 が ……」

そこ まで レポーター の 説明 を 聞いて 、眞子 が 視線 を 戻した 。 沙里 は その 口 から 出て くる 言葉 を 、半ば 恐れる ように 待った のだが 、少し 顔 を こわばらせた 眞子 の 口 から 出てきた のは 、

「三瀬 峠 って 、幽霊 出る っちゃろ ? 」と いう 、なんとも 筋違い な 言葉 だった 。 「じゃ なくて 、ねぇ ! 」 と 沙 里 は 怒鳴った 。

ちゃんと 説明 すれば 、眞子 に も 伝わる のだろうが 、それ を 口 に する のが なんとなく 憚られる 。 「 え ? 何 ? 」眞子 は また 段ボール の ぬいぐるみ に 手 を 伸ばして いた 。

「佳乃 ちゃん 、もう 出勤 しとう よ ね ? 」沙里 は やっと そこ まで 言った 。 ただ 、眞子 に は まだ 伝わらない ようで 、「そりゃ 、しとう よ 」と 呑気 に 答える

「ねぇ 、連絡 入れて みる ? 沙里 が 心細げ に テレビ の ほう へ 目 を 向ける と 、ここ で やっと 話 が 繋がった らしい 眞子 が 、「まさか 、増尾 くん の ところ から 出勤 しとる と よ 、きっと 」と 呆れた ように 言う 。

何 か 言い返そう か とも 思った が 、また ぬいぐるみ に 手 を 伸ばした 眞子 を 見ている と 、たしかに 考え 過ぎ の ような 気 が してくる 。

「でも 、心配 なら 連絡 して みれば 」

「 でも ……」

「じゃ 、私 してみよう か ? 眞子 は 面倒臭 そうに 自分 の バッグ から 携帯 を 取り出した 。 「留守電 に なっとる みたい 」眞子 が そう 言って 、「もしもし 、佳乃 ちゃん 、これ 聞いたら 連絡 ちょうだい 」と メッセージ を 残して 電話 を 切った 。 「直接 、営業所 に かけて みたら ? 」 と 沙 里 は 言った 。

「ちゃんと 出勤 し と うって 」眞子 が そう 言い ながら も 、佳乃 が 勤める 天神 地区 の 営業所 の 番号 に かける 。

「 もしもし 。 あの 城南 の 安達 と 申します が 、石橋 佳乃 さん 、いらっしゃいます でしょうか ? そこ まで 言う と 、眞子 は 携帯 を 耳 に 当てた まま 、また 段ボール に 手 を 突っ込んだ 。 しばらく して 体 を 起こした 眞子 が 、「はい 。 え ? そう です か 。 ああ 、はい 。 はい 」と 明るい 返事 を 返す 。 電話 を 切った 眞子 が きょとんと した 顔 で 沙里 を 見つめる 。 「出勤 しとらん と ? 」 と 沙 里 は 訊 いた 。 「なんか ね 、今朝 は 直行 で お得意さん 回り する って 、ボード に 書いて ある って 。 たぶん 、この 前 、佳乃 ちゃん が 言いよった 、ほら 、飛び込み で 入った 喫茶店 の ご主人 や ない ? 」もしも この とき 同じ 「フェアリー 博多 」に 暮らす 仲町 鈴香 に 声 を かけられ なければ 、話 は そこ で 終わって いた の かも しれない と 沙里 は 思う 。 みんな 仕事 に 戻り始めて いた し 、ぬいぐるみ を 数えた 眞子 も 営業所 へ 戻ろう と していた 。 「怖い ね 。 あの 三瀬 峠 って 、前 に ドライブ した こと ある んだ よね 」事件 を 伝える テレビ に 目 を 向けた まま 、仲町 鈴香 が 大げさに 身震い して 見せる 。 同じ 地区 担当 と は いえ 、仲 が 良い わけで も ない のに 、鈴香 は いつも 沙里 たち に 馴れ馴れしく 話しかけて くる 。

眞子 は それ ほど で も ない のだが 、特に 鈴香 を 嫌っている 佳乃 は 、

「 そういう ところ が 、 私 、 すか ん と や ん ね 」 と 身 悶え して いた 。

「ねぇ 、仲町 さん 」

テレビ を 横目 で 見ながら 、沙里 は 声 を かけた 。

「仲町 さん って 、南西大学 の 増尾 圭吾 って 知っとう よ ね ? 連絡 先 って 知ら ん ? 」沙里 の 質問 に 、鈴香 は 少し 警戒して 、「増尾 くん の ? なんで ? 」と 訊き返して きた 。

「佳乃 ちゃん が ね 、泊まり に 行っとっちゃ けど 、携帯 に 電話して も 連絡 つかん と よ 。 それ でも し 知っとう なら 、教えて もらえん か と 思って 」沙里 の 言葉 を 鈴香 は 表情 を 変えず に 聞いて いた 。 「私 、直接 は 知ら ない んだ よ ね 。 私 の 友達 が その 増尾 くん と ちょっと 知り合い って だけ で 」「その 人 、増尾 くん の 連絡先 、知らん かな ? 「さぁ 、どう だろう …… 」

そう 答えた 鈴香 の 表情 を 見て 、こりゃ 、協力してくれそう に ない な 、と 沙里 は 思った 。 横 で 二人 の 会話 を ぼんやり と 聞いていた 眞子 が 、「私 、そろそろ 行く ね 」と 段ボール の 蓋 を 閉める 。

ちょうど その とき 、テレビ に 第 一 発見者 だ と いう 老人 が 現れて 、レポーター の 質問 に 答え 始めた 。 なぜ か その 映像 を 見ていた 数人 から 、弾ける ような 笑い声 が 上がる 。 どうやら 老人 の 鼻毛 が 異様に 長かった らしい 。 おかげ で どこ か 張り つめて いた 朝 の 営業 所 に 、 いつも ながら の のどかな 雰囲気 が 戻る 。

「どうも 荷台 の ロープ が 解けとる ような 気んなって 、ちょうど あす この カーブ で 車 を 停めた んですたい 。 そいで 車 ば 降りて 、なんげ なし に 崖 の 下 ば 覗いて みたら 、なんか 木 の 根っこ に 引っかかっとる です もんねぇ 。 そいで よう 見て みたら ……。 そりゃ あ 、たまげた です よ 」

この 日 、仲町 鈴香 が 三越 前 の 喫茶店 に 到着した の は 、午前 十 時 を 回った ころ だった 。 久しぶり に 契約 まで こぎつけられ そうな 客 との 待ち合わせ で 、掛け金 として は それほど 高い 商品 で は なかった が 、これ が うまく いけば 、客 の 従妹 夫婦 に も 紹介 してもらえる こと に なっていた 。 待ち合わせ の 十 時 半 まで 時間 が あった 。 鈴香 は 南西 学院 大学 に 通う 土浦 洋介 と いう 友人 に 電話 を かけた 。

もちろん 、連絡 の つかなく なった 佳乃 の こと を 心配して いた わけで は ない 。 これ を 機会 に 、以前 から 気 に なって いた 増尾 圭吾 に 近づけ ない か と 考えた のだ 。

土浦 は 鈴香 と 同じ 埼玉 の 出身 で 、高校 の 同級生 だった 。 土浦 が 高校 を 卒業 後 、 縁 も ゆかり もない 福岡 の 私立 大学 に 通う こと に なった とき 、 周り の 友人 たち は 、

「 なんで また 、 より に よって 九州 なんか に 」 と 呆れて いた が 、 唯一 、 鈴 香 だけ は 、

「どうせ なら 、学生 時代 の 数 年間 、誰 も 知らない ところ で 過ごして みたい 」と いう 土浦 の 気持ち に 、どこか 引かれる もの を 感じて いた 。 東京 郊外 の 短大 卒業 後 、もちろん 彼 を 追って 福岡 に 来た わけで は ない のだが 、なかなか 決まらない 東京 での 就職 活動 に 疲れていた 鈴香 の 耳 に 、ふと 彼 の 言葉 が 蘇った のは 確かだ 。

二 年 遅れ で は あった が 、福岡 へ 来た 鈴香 は 土浦 と しばしば 会う ように なった 。 からだ の 関係 が 皆無 と いう わけで も ない のだ が 、お互いに お互い を 恋人 とは 思って いない 。 鈴 香 が 電話 を かける と 、 土浦 は まだ 寝て いた ようで 、「 も 、 もしもし ? 」と 眠そう で 、面倒臭そう な 声 が 返ってきた 。

「まだ 寝て た の ? 」「鈴 香 ? 今 、何 時 だ よ ? 「もう 十時 過ぎてる って 。 今日 、授業 ない の ? 」一言 ごと に 土浦 の 声 から 眠気 が 消えて いく 。

鈴香 は 、起こした こと を 簡単に 詫た あと 、「ねぇ 、ところで 土浦 の 一年 先輩 に 、増尾 圭吾 って 人 いる よ ね ? 」 と 本題 に 入った 。 「 増尾 ? 」「ほら 、前 に 天神 の バー で 飲んでた とき に その 人 が いて 、教えてくれた じゃん 」

「 ああ 。 増尾 さん な 。 なんで ? 「土浦 って 、あの 人 の 連絡先 とか 知らない よね ? 「連絡 先 ? そう 言った 土浦 の 声色 に かすかな 嫉妬 が 混じり 、鈴香 は ちょっと だけ 気分 が 良かった 。

「あの ね 、私 の 同僚 が その 増尾 さん って 人 と 付き合ってる らしい んだ けど 、昨日 から 連絡 が 取れない んだって 。 それ で 、もし 連絡先 知って たら 教えて もらえない か と 思って 」

鈴香 が なるべく 事務的 に 尋ねる と 、「知らない よ 。 一 年 先輩 だ し 、俺 なんか と つるむ ような 人 じゃ ない だろ 、あの人 」

と 土浦 が 自分 を 笑う ように 答える 。

「じゃあ 、知らない ? 連絡 先 ? 「知らない よ 。 ……あ 、でも 、そうだ 。 二 、三 日 前 だった か 、増尾 さん の 噂 、聞いた よ 。 なんか 、あの 人 、今 、行方 不明 なんだって 」

「行方 不明 ? 「 そう 。 と 言う か 、みんな 面白がって 言って んだろう けど 、ここ 数日 マンション に も いない し 、実家 に も 帰ってない らしい よ 」「それ で ? 行方 不明 ? 「まぁ 、どっか に ふらっと 一人旅 に でも 出てる ん じゃねぇ の ? ほら 、湯布院 かどっか の 旅館 の ボンボン で 、金 は 持ってる だろう し 」鈴香 は 街中 で 偶然 に 増尾 圭吾 と すれ違った こと が 三度 あった 。 本当に ただ の 偶然に 過ぎ なかった のだが 、さすがに 三 度目の ときに は 、不思議な 縁を 一方的に 感じて しまった 。 土浦 の 口調 が あまりに 呑気 だった ので 、鈴香 は

「一 人 旅 」

説 を うっかり 信じて しまい そうに なった 。

「でも 、私 の 同僚 が 昨日 、近所 で 待ち合わせ した らしい の よ 」

「 昨日 ? だ から 行方 不明 なんて 、ただ の 噂 だ から さ 。 いるんじゃ ねぇ の 、ちゃんと 自分 ち に 」

土浦 に 断言 さ れ 、ベッド で じゃれ合う 増尾 圭吾 と 佳乃 の 姿 が 浮かんだ 。 天神 の バー で 見かけた 彼 に 、鈴香 が 一目惚れした の は 確かだ 。

ただ 、土浦 や 土浦 の 友人 たち から いろんな 噂 を 耳 に する うちに 、自分 に は 到底 手 の 届かない 人 だ と 諦めた 。

「フェアリー 博多 」

の 中庭 で 、増尾 圭吾 と 佳乃 が 付き合っている らしい と 話す 沙里 と 眞子 の 会話 を 聞いた とき 、正直 、鈴香 に は それ が 信じがたかった 。

それ まで 耳 に していた 増尾 圭吾 の 噂 は 、それこそ 学校 一 の 有名人 らしく 、地元 放送局 の アナウンサー と デート している だ とか 、華やかな もの ばかり だった のだ 。 なのに 、その 増尾 圭吾 が 、「フェアリー 博多 」の 中 でも 、中 の 上 くらい で しか ない 石橋 佳乃 と 付き合って いる という 。

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