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或る女 - 有島武郎(アクセス), 4. 或る女

4. 或る女

列車 が 川崎 駅 を 発する と 、 葉子 は また 手 欄 に よりかかり ながら 木部 の 事 を いろいろ と 思いめぐらした 。 やや 色づいた 田 圃 の 先 に 松 並み 木 が 見えて 、 その 間 から 低く 海 の 光る 、 平凡な 五十三 次 風 な 景色 が 、 電柱 で 句 読 を 打ち ながら 、 空洞 の ような 葉子 の 目の前 で 閉じたり 開いたり した 。 赤 とんぼ も 飛び かわす 時節 で 、 その 群れ が 、 燧石 から 打ち出さ れる 火花 の ように 、 赤い 印象 を 目 の 底 に 残して 乱れ あった 。 いつ 見て も 新 開 地 じみ て 見える 神奈川 を 過ぎて 、 汽車 が 横浜 の 停車場 に 近づいた ころ に は 、 八 時 を 過ぎた 太陽 の 光 が 、 紅葉 坂 の 桜 並み 木 を 黄色く 見せる ほど に 暑く 照らして いた 。 ・・

煤煙 で まっ黒 に すすけた 煉瓦 壁 の 陰 に 汽車 が 停 まる と 、 中 から いちばん 先 に 出て 来た の は 、 右手 に か の オリーヴ 色 の 包み 物 を 持った 古藤 だった 。 葉子 は パラソル を 杖 に 弱々しく デッキ を 降りて 、 古藤 に 助けられ ながら 改札口 を 出た が 、 ゆるゆる 歩いて いる 間 に 乗客 は 先 を 越して しまって 、 二 人 は いちばん あと に なって いた 。 客 を 取り おくれた 十四五 人 の 停車場 づき の 車 夫 が 、 待 合 部屋 の 前 に かたまり ながら 、 やつれて 見える 葉子 に 目 を つけて 何かと うわさ し 合う の が 二 人 の 耳 に も はいった 。 「 むすめ 」「 ら しゃめん 」 と いう ような 言葉 さえ その はしたない 言葉 の 中 に は 交じって いた 。 開港 場 の が さつ な 卑しい 調子 は 、 すぐ 葉子 の 神経 に びりびり と 感じて 来た 。 ・・

何しろ 葉子 は 早く 落ち付く 所 を 見つけ出し たかった 。 古藤 は 停車場 の 前方 の 川 添い に ある 休憩 所 まで 走って [#「 走って 」 は 底 本 で は 「 走 つて 」] 行って 見た が 、 帰って 来る と ぶり ぶり して 、 駅 夫 あがり らしい 茶店 の 主人 は 古藤 の 書生っぽ 姿 を いかにも ばかに した ような 断わり かた を した と いった 。 二 人 は しかたなく うるさく 付き まつわる 車 夫 を 追い払い ながら 、 潮 の 香 の 漂った 濁った 小さな 運河 を 渡って 、 ある 狭い きたない 町 の 中ほど に ある 一 軒 の 小さな 旅人 宿 に は いって 行った 。 横浜 と いう 所 に は 似 も つか ぬ ような 古風な 外 構え で 、 美濃 紙 の くすぶり 返った 置き 行 燈 に は 太い 筆 つき で 相模 屋 と 書いて あった 。 葉子 は なんとなく その 行 燈 に 興味 を ひかれて しまって いた 。 いたずら 好きな その 心 は 、 嘉 永 ごろ の 浦賀 に でも あれば あり そうな この 旅 籠 屋 に 足 を 休める の を 恐ろしく おもしろく 思った 。 店 に しゃがんで 、 番頭 と 何 か 話して いる あばずれた ような 女 中 まで が 目 に とまった 。 そして 葉子 が 体よく 物 を 言おう と して いる と 、 古藤 が いきなり 取り かまわ ない 調子 で 、・・

「 どこ か 静かな 部屋 に 案内 して ください 」・・

と 無愛想に 先 を 越して しまった 。 ・・

「 へい へい 、 どうぞ こちら へ 」・・

女 中 は 二 人 を まじまじ と 見 やり ながら 、 客 の 前 も かまわ ず 、 番頭 と 目 を 見合わせて 、 さげすんだ らしい 笑い を もらして 案内 に 立った 。 ・・

ぎし ぎし と 板 ぎし み の する まっ黒 な 狭い 階子 段 を 上がって 、 西 に 突き当たった 六 畳 ほど の 狭い 部屋 に 案内 して 、 突っ立った まま で 荒っぽく 二 人 を 不思議 そうに 女 中 は 見比べる のだった 。 油 じみ た 襟 元 を 思い出さ せる ような 、 西 に 出窓 の ある 薄ぎたない 部屋 の 中 を 女 中 を ひっくるめて にらみ 回し ながら 古藤 は 、・・

「 外部 より ひどい …… どこ か 他 所 に しましょう か 」・・

と 葉子 を 見返った 。 葉子 は それ に は 耳 も かさ ず に 、 思慮 深い 貴 女 の ような 物腰 で 女 中 の ほう に 向いて いった 。 ・・

「 隣室 も 明いて います か …… そう 。 夜 まで は どこ も 明いて いる …… そう 。 お前 さん が ここ の 世話 を して おいで ? …… なら 余 の 部屋 も ついでに 見せて お もらい しましょう か しら ん 」・・

女 中 は もう 葉子 に は 軽蔑 の 色 は 見せ なかった 。 そして 心得 顔 に 次の 部屋 と の 間 の 襖 を あける 間 に 、 葉子 は 手早く 大きな 銀貨 を 紙 に 包んで 、・・

「 少し かげん が 悪い し 、 また いろいろ お 世話に なる だろう から 」・・

と いい ながら 、 それ を 女 中 に 渡した 。 そして ずっと 並んだ 五 つ の 部屋 を 一つ一つ 見て 回って 、 掛け軸 、 花びん 、 団 扇 さ し 、 小 屏風 、 机 と いう ような もの を 、 自分 の 好み に 任せて あてがわ れた 部屋 の と すっかり 取りかえて 、 すみ から すみ まで きれいに 掃除 を さ せた 。 そして 古藤 を 正座 に 据えて 小 ざっぱ りした 座ぶとん に すわる と 、 にっこり ほほえみ ながら 、・・

「 これ なら 半日 ぐらい 我慢 が できましょう 」・・

と いった 。 ・・

「 僕 は どんな 所 でも 平気な んです が ね 」・・

古藤 は こう 答えて 、 葉子 の 微笑 を 追い ながら 安心 した らしく 、・・

「 気分 は もう なおりました ね 」・・

と 付け加えた 。 ・・

「 え ゝ 」・・

と 葉子 は 何げなく 微笑 を 続けよう と した が 、 その 瞬間 に つと 思い返して 眉 を ひそめた 。 葉子 に は 仮病 を 続ける 必要 が あった の を つい 忘れよう と した のだった 。 それ で 、・・

「 ですけれども まだ こんな なん です の 。 こら 動 悸 が 」・・

と いい ながら 、 地味な 風 通 の 単 衣 物 の 中 に かくれた はなやかな 襦袢 の 袖 を ひらめか して 、 右手 を 力な げ に 前 に 出した 。 そして それ と 同時に 呼吸 を ぐっと つめて 、 心臓 と 覚 しい あたり に はげしく 力 を こめた 。 古藤 は すき通る ように 白い 手 くび を しばらく な で 回して いた が 、 脈 所 に 探り あてる と 急に 驚いて 目 を 見張った 。 ・・

「 どうした ん です 、 え 、 ひどく 不規則じゃ ありません か …… 痛む の は 頭 ばかり です か 」・・

「 い ゝ え 、 お腹 も 痛み はじめた んです の 」・・

「 どんなふうに 」・・

「 ぎゅっと 錐 で でも もむ ように …… よく これ が ある んで 困って しまう んです の よ 」・・

古藤 は 静かに 葉子 の 手 を 離して 、 大きな 目 で 深々と 葉子 を みつめた 。 ・・

「 医者 を 呼ば なくって も 我慢 が できます か 」・・

葉子 は 苦しげに ほほえんで 見せた 。 ・・

「 あなた だったら きっと でき ない でしょう よ 。 …… 慣れっこです から こらえて 見ます わ 。 その代わり あなた 永田 さん …… 永田 さん 、 ね 、 郵船 会社 の 支店 長 の …… あす こ に 行って 船 の 切符 の 事 を 相談 して 来て いただけ ない でしょう か 。 御 迷惑です わ ね 。 それ でも そんな 事 まで お 願い しちゃ あ …… ようご ざん す 、 わたし 、 車 で そろそろ 行きます から 」・・

古藤 は 、 女 と いう もの は これほど の 健康 の 変調 を よくも こう まで 我慢 を する もの だ と いう ような 顔 を して 、 もちろん 自分 が 行って みる と いい張った 。 ・・

実は その 日 、 葉子 は 身 の まわり の 小道具 や 化粧 品 を 調え かたがた 、 米国 行き の 船 の 切符 を 買う ため に 古藤 を 連れて ここ に 来た のだった 。 葉子 は そのころ すでに 米国 に いる ある 若い 学士 と 許嫁 の 間柄 に なって いた 。 新 橋 で 車 夫 が 若 奥様 と 呼んだ の も 、 この 事 が 出入り の もの の 間 に 公然と 知れわたって いた から の 事 だった 。 ・・

それ は 葉子 が 私 生子 を 設けて から しばらく 後 の 事 だった 。 ある 冬 の 夜 、 葉子 の 母 の 親 佐 が 何 か の 用 で その 良 人 の 書斎 に 行こう と 階子 段 を のぼり かける と 、 上 から 小 間 使い が まっし ぐ ら に 駆け おりて 来て 、 危うく 親 佐 にぶっ突 かろう と して その そば を すりぬけ ながら 、 何 か 意味 の わから ない 事 を 早口 に いって [#「 いって 」 は 底 本 で は 「 いつ て 」] 走り去った 。 その 島田 髷 や 帯 の 乱れた 後ろ姿 が 、 嘲 弄 の 言葉 の ように 目 を 打つ と 、 親 佐 は 口 び る を かみしめた が 、 足音 だけ は しとやかに 階子 段 を 上がって 、 いつも に 似 ず 書斎 の 戸 の 前 に 立ち止まって 、 しわ ぶき を 一 つ して 、 それ から 規則正しく 間 を おいて 三 度 戸 を ノック した 。 ・・

こういう 事 が あって から 五 日 と たた ぬ うち に 、 葉子 の 家庭 すなわち 早月 家 は 砂 の 上 の 塔 の ように もろくも くずれて しまった 。 親 佐 は ことに 冷静な 底 気味 わるい 態度 で 夫婦 の 別居 を 主張 した 。 そして 日ごろ の 柔和に 似 ず 、 傷ついた [#「 傷ついた 」 は 底 本 で は 「 傷 ついに 」] 牡牛 の ように 元どおりの 生活 を 回復 しよう と ひしめく 良 人 や 、 中 に は いって いろいろ 言い なそう と した 親類 たち の 言葉 を 、 きっぱり と しりぞけて しまって 、 良 人 を 釘 店 の だだっ広い 住宅 に たった 一 人 残した まま 、 葉子 ともに 三 人 の 娘 を 連れて 、 親 佐 は 仙台 に 立ちのいて しまった 。 木部 の 友人 たち が 葉子 の 不人情 を 怒って 、 木部 の とめる の も きか ず に 、 社会 から 葬って しまえ と ひしめいて いる の を 葉子 は 聞き 知っていた から 、 ふだん ならば 一 も 二 も なく 父 を かばって 母 に 楯 を つく べき ところ を 、 素直に 母 の する とおり に なって 、 葉子 は 母 と 共に 仙台 に 埋もれ に 行った 。 母 は 母 で 、 自分 の 家庭 から 葉子 の ような 娘 の 出た 事 を 、 できる だけ 世間 に 知ら れ まい と した 。 女子 教育 と か 、 家庭 の 薫陶 と か いう 事 を おり ある ごと に 口 に して いた 親 佐 は 、 その 言葉 に 対して 虚偽 と いう 利子 を 払わ ねば なら なかった 。 一方 を もみ消す ため に は 一方 に どん と 火の手 を あげる 必要 が ある 。 早月 母子 が 東京 を 去る と まもなく 、 ある 新聞 は 早月 ドクトル の 女性 に 関する ふしだら を 書き立てて 、 それ に つけて の 親 佐 の 苦心 と 貞 操 と を 吹聴 した ついで に 、 親 佐 が 東京 を 去る ように なった の は 、 熱烈な 信仰 から 来る 義 憤 と 、 愛児 を 父 の 悪 感化 から 救おう と する 母 らしい 努力 に 基づく もの だ 。 その ため に 彼女 は キリスト教 婦人 同盟 の 副 会長 と いう 顕 要 な 位置 さえ 投げすてた のだ と 書き添えた 。 ・・

仙台 に おける 早月 親 佐 は しばらく の 間 は 深く 沈黙 を 守って いた が 、 見る見る 周囲 に 人 を 集めて 華々しく 活動 を し 始めた 。 その 客間 は 若い 信者 や 、 慈善 家 や 、 芸術 家 たち の サロン と なって 、 そこ から リバイバル や 、 慈善 市 や 、 音楽 会 と いう ような もの が 形 を 取って 生まれ 出た 。 ことに 親 佐 が 仙台 支部 長 と して 働き 出した キリスト教 婦人 同盟 の 運動 は 、 その 当時 野火 の ような 勢い で 全国 に 広がり 始めた 赤十字 社 の 勢力 に も お さお さ 劣ら ない 程 の 盛況 を 呈した 。 知事 令夫人 も 、 名だたる 素 封 家 の 奥さん たち も その 集会 に は 列席 した 。 そして 三 か年 の 月日 は 早月 親 佐 を 仙台 に は 無くて は なら ぬ 名物 の 一 つ に して しまった 。 性質 が 母親 と どこ か 似 すぎて いる ため か 、 似た ように 見えて 一 調子 違って いる ため か 、 それとも 自分 を 慎む ため であった か 、 はた の 人 に は わから なかった が 、 とにかく 葉子 は そんな はなやかな 雰囲気 に 包まれ ながら 、 不思議な ほど 沈黙 を 守って 、 ろくろく 晴れの 座 など に は 姿 を 現わさ ないで いた 。 それにもかかわらず 親 佐 の 客間 に 吸い寄せられる 若い 人々 の 多数 は 葉子 に 吸い寄せられて いる のだった 。 葉子 の 控え目な しおらしい 様子 が いやが上にも 人 の うわさ を 引く 種 と なって 、 葉子 と いう 名 は 、 多 才 で 、 情緒 の 細やかな 、 美しい 薄命 児 を だれ に でも 思い起こさ せた 。 彼女 の 立ち すぐれた 眉 目 形 は 花 柳 の 人 たち さえ うらやましがら せた 。 そして いろいろな 風聞 が 、 清 教徒 風 に 質素な 早月 の 佗 住居 の 周囲 を 霞 の ように 取り巻き 始めた 。 ・・

突然 小さな 仙台 市 は 雷 に でも 打た れた ように ある 朝 の 新聞 記事 に 注意 を 向けた 。 それ は その 新聞 の 商売 が たきである 或る 新聞 の 社主 であり 主筆 である 某 が 、 親 佐 と 葉子 と の 二 人 に 同時に 慇懃 を 通じて いる と いう 、 全 紙 に わたった 不倫 きわまる 記事 だった 。 だれ も 意外な ような 顔 を し ながら 心 の 中 で は それ を 信じよう と した 。 ・・

この 日 髪 の 毛 の 濃い 、 口 の 大きい 、 色白な 一 人 の 青年 を 乗せた 人力車 が 、 仙台 の 町 中 を 忙しく 駆け回った の を 注意 した 人 は おそらく なかったろう が 、 その 青年 は 名 を 木村 と いって 、 日ごろ から 快活な 活動 好きな 人 と して 知ら れた 男 で 、 その 熱心な 奔走 の 結果 、 翌日 の 新聞 紙 の 広告 欄 に は 、 二 段 抜きで 、 知事 令夫人 以下 十四五 名 の 貴婦人 の 連名 で 早月 親 佐 の 冤罪 が 雪 が れる 事 に なった 。 この 稀有 の 大げさな 広告 が また 小さな 仙台 の 市中 を どよめき 渡ら した 。 しかし 木村 の 熱心 も 口 弁 も 葉子 の 名 を 広告 の 中 に 入れる 事 は でき なかった 。 ・・

こんな 騒ぎ が 持ち上がって から 早月 親 佐 の 仙台 に おける 今 まで の 声望 は 急に 無くなって しまった 。 そのころ ちょうど 東京 に 居残って いた 早月 が 病気 に かかって 薬 に 親しむ 身 と なった ので 、 それ を しお に 親 佐 は 子供 を 連れて 仙台 を 切り上げる 事 に なった 。 ・・

木村 は その後 すぐ 早月 母子 を 追って 東京 に 出て 来た 。 そして 毎日 入りびたる ように 早月 家 に 出入り して 、 ことに 親 佐 の 気 に 入る ように なった 。 親 佐 が 病気 に なって 危篤 に 陥った 時 、 木村 は 一生 の 願い と して 葉子 と の 結婚 を 申し出た 。 親 佐 は やはり 母 だった 。 死期 を 前 に 控えて 、 いちばん 気 に せ ず に いられ ない もの は 、 葉子 の 将来 だった 。 木村 ならば あの わがままな 、 男 を 男 と も 思わぬ 葉子 に 仕える ように して 行く 事 が できる と 思った 。 そして キリスト教 婦人 同盟 の 会長 を して いる 五十川 女史 に 後 事 を 託して 死んだ 。 この 五十川 女史 の まあまあ と いう ような 不思議な あいまいな 切り盛り で 、 木村 は 、 どこ か 不確実で は ある が 、 ともかく 葉子 を 妻 と し うる 保障 を 握った のだった 。

4. 或る女 ある おんな 4. eine Frau 4. a woman 4. una mujer 4. une femme

列車 が 川崎 駅 を 発する と 、 葉子 は また 手 欄 に よりかかり ながら 木部 の 事 を いろいろ と 思いめぐらした 。 れっしゃ||かわさき|えき||はっする||ようこ|||て|らん||||きべ||こと||||おもいめぐらした When the train departed from Kawasaki Station, Yoko pondered about Kibe, leaning more on her hands. やや 色づいた 田 圃 の 先 に 松 並み 木 が 見えて 、 その 間 から 低く 海 の 光る 、 平凡な 五十三 次 風 な 景色 が 、 電柱 で 句 読 を 打ち ながら 、 空洞 の ような 葉子 の 目の前 で 閉じたり 開いたり した 。 |いろづいた|た|ほ||さき||まつ|なみ|き||みえて||あいだ||ひくく|うみ||ひかる|へいぼんな|ごじゅうさん|つぎ|かぜ||けしき||でんちゅう||く|よ||うち||くうどう|||ようこ||めのまえ||とじたり|あいたり| A row of pine trees can be seen in front of the slightly colored rice fields, and the low sea shines between them, and the mediocre fifty-three-order scenery is punctuated by telephone poles, and the eyes of the leaves are like cavities. It closed and opened in front. 赤 とんぼ も 飛び かわす 時節 で 、 その 群れ が 、 燧石 から 打ち出さ れる 火花 の ように 、 赤い 印象 を 目 の 底 に 残して 乱れ あった 。 あか|||とび||じせつ|||むれ||すいいし||うちださ||ひばな|||あかい|いんしょう||め||そこ||のこして|みだれ| At the time when the red dragonfly flew away, the flock was disturbed, leaving a red impression on the bottom of the eye, like a spark struck from a flint. いつ 見て も 新 開 地 じみ て 見える 神奈川 を 過ぎて 、 汽車 が 横浜 の 停車場 に 近づいた ころ に は 、 八 時 を 過ぎた 太陽 の 光 が 、 紅葉 坂 の 桜 並み 木 を 黄色く 見せる ほど に 暑く 照らして いた 。 |みて||しん|ひらき|ち|||みえる|かながわ||すぎて|きしゃ||よこはま||ていしゃば||ちかづいた||||やっ|じ||すぎた|たいよう||ひかり||こうよう|さか||さくら|なみ|き||きいろく|みせる|||あつく|てらして| By the time the train approached the stop in Yokohama after passing Kanagawa, which was always visible in Shinkaichi, the sun's rays past eight o'clock were so hot that the cherry blossom trees on the autumnal slopes looked yellow. I was there. ・・

煤煙 で まっ黒 に すすけた 煉瓦 壁 の 陰 に 汽車 が 停 まる と 、 中 から いちばん 先 に 出て 来た の は 、 右手 に か の オリーヴ 色 の 包み 物 を 持った 古藤 だった 。 ばいえん||まっ くろ|||れんが|かべ||かげ||きしゃ||てい|||なか|||さき||でて|きた|||みぎて|||||いろ||つつみ|ぶつ||もった|ことう| When the train stopped behind a brick wall that had been blackened by soot, the first person to come out was Koto, who had an olive-colored wrapping in his right hand. 葉子 は パラソル を 杖 に 弱々しく デッキ を 降りて 、 古藤 に 助けられ ながら 改札口 を 出た が 、 ゆるゆる 歩いて いる 間 に 乗客 は 先 を 越して しまって 、 二 人 は いちばん あと に なって いた 。 ようこ||ぱらそる||つえ||よわよわしく|でっき||おりて|ことう||たすけ られ||かいさつぐち||でた|||あるいて||あいだ||じょうきゃく||さき||こして||ふた|じん|||||| Yoko got off the deck weakly with an umbrella as a cane and exited the ticket gate with the help of Koto, but while walking slowly, the passengers passed ahead, and the two were the last. .. 客 を 取り おくれた 十四五 人 の 停車場 づき の 車 夫 が 、 待 合 部屋 の 前 に かたまり ながら 、 やつれて 見える 葉子 に 目 を つけて 何かと うわさ し 合う の が 二 人 の 耳 に も はいった 。 きゃく||とり||じゅうよんご|じん||ていしゃば|||くるま|おっと||ま|ごう|へや||ぜん|||||みえる|ようこ||め|||なにかと|||あう|||ふた|じん||みみ||| The car husband, who had left the guest at the stop, was lumping in front of the waiting room, and while he was lumping in front of the waiting room, he noticed Yoko, who seemed to be sick, and heard something in his ears. 「 むすめ 」「 ら しゃめん 」 と いう ような 言葉 さえ その はしたない 言葉 の 中 に は 交じって いた 。 ||||||ことば||||ことば||なか|||まじって| Even words such as "daughter" and "rashamen" were mixed in the words that were not used. 開港 場 の が さつ な 卑しい 調子 は 、 すぐ 葉子 の 神経 に びりびり と 感じて 来た 。 かいこう|じょう|||||いやしい|ちょうし|||ようこ||しんけい||||かんじて|きた The low-key tone of the open port immediately felt chattering in Yoko's nerves. ・・

何しろ 葉子 は 早く 落ち付く 所 を 見つけ出し たかった 。 なにしろ|ようこ||はやく|おちつく|しょ||みつけだし| After all, Yoko wanted to find a place to settle down quickly. 古藤 は 停車場 の 前方 の 川 添い に ある 休憩 所 まで 走って [#「 走って 」 は 底 本 で は 「 走 つて 」] 行って 見た が 、 帰って 来る と ぶり ぶり して 、 駅 夫 あがり らしい 茶店 の 主人 は 古藤 の 書生っぽ 姿 を いかにも ばかに した ような 断わり かた を した と いった 。 ことう||ていしゃば||ぜんぽう||かわ|そい|||きゅうけい|しょ||はしって|はしって||そこ|ほん|||はし||おこなって|みた||かえって|くる|||||えき|おっと|||ちゃみせ||あるじ||ことう||しょせい っぽ|すがた||||||ことわり||||| Koto ran to the resting place along the river in front of the stop [# "Run" is "Run" at the bottom], but when he came back, he seemed to be the station husband. The owner of the teahouse said that he refused to look like Koto's shosei-like appearance. 二 人 は しかたなく うるさく 付き まつわる 車 夫 を 追い払い ながら 、 潮 の 香 の 漂った 濁った 小さな 運河 を 渡って 、 ある 狭い きたない 町 の 中ほど に ある 一 軒 の 小さな 旅人 宿 に は いって 行った 。 ふた|じん||||つき||くるま|おっと||おいはらい||しお||かおり||ただよった|にごった|ちいさな|うんが||わたって||せまい||まち||なかほど|||ひと|のき||ちいさな|たびびと|やど||||おこなった They had no choice but to drive away their noisy car husband, crossing a small muddy canal with the scent of the tide and entering a small traveler's inn in the middle of a small, messy town. .. 横浜 と いう 所 に は 似 も つか ぬ ような 古風な 外 構え で 、 美濃 紙 の くすぶり 返った 置き 行 燈 に は 太い 筆 つき で 相模 屋 と 書いて あった 。 よこはま|||しょ|||に|||||こふうな|がい|かまえ||みの|かみ|||かえった|おき|ぎょう|とも|||ふとい|ふで|||さがみ|や||かいて| It had an old-fashioned appearance that was not similar to that of Yokohama, and the smoldering lantern of Mino paper was written with a thick brush as Sagamiya. 葉子 は なんとなく その 行 燈 に 興味 を ひかれて しまって いた 。 ようこ||||ぎょう|とも||きょうみ||ひか れて|| いたずら 好きな その 心 は 、 嘉 永 ごろ の 浦賀 に でも あれば あり そうな この 旅 籠 屋 に 足 を 休める の を 恐ろしく おもしろく 思った 。 |すきな||こころ||よしみ|なが|||うらが|||||そう な||たび|かご|や||あし||やすめる|||おそろしく||おもった My mischievous heart was horribly interesting to rest my feet in this travel basket shop, which seems to be in Uraga around Kaei. 店 に しゃがんで 、 番頭 と 何 か 話して いる あばずれた ような 女 中 まで が 目 に とまった 。 てん|||ばんとう||なん||はなして||||おんな|なか|||め|| I saw a maid who was crouching down in the store and talking to the clerk. そして 葉子 が 体よく 物 を 言おう と して いる と 、 古藤 が いきなり 取り かまわ ない 調子 で 、・・ |ようこ||ていよく|ぶつ||いおう|||||ことう|||とり|||ちょうし| And when Yoko was trying to say something well, Koto suddenly didn't care about it ...

「 どこ か 静かな 部屋 に 案内 して ください 」・・ ||しずかな|へや||あんない|| "Please guide me to a quiet room somewhere."

と 無愛想に 先 を 越して しまった 。 |ぶあいそうに|さき||こして| I was unfriendly and went ahead. ・・

「 へい へい 、 どうぞ こちら へ 」・・

女 中 は 二 人 を まじまじ と 見 やり ながら 、 客 の 前 も かまわ ず 、 番頭 と 目 を 見合わせて 、 さげすんだ らしい 笑い を もらして 案内 に 立った 。 おんな|なか||ふた|じん||||み|||きゃく||ぜん||||ばんとう||め||みあわせて|||わらい|||あんない||たった While looking at the two of them seriously, the maid stood at the guide with a despised laugh, looking at the clerk and eyes, regardless of the front of the customer. ・・

ぎし ぎし と 板 ぎし み の する まっ黒 な 狭い 階子 段 を 上がって 、 西 に 突き当たった 六 畳 ほど の 狭い 部屋 に 案内 して 、 突っ立った まま で 荒っぽく 二 人 を 不思議 そうに 女 中 は 見比べる のだった 。 |||いた|||||まっ くろ||せまい|はしご|だん||あがって|にし||つきあたった|むっ|たたみ|||せまい|へや||あんない||つったった|||あらっぽく|ふた|じん||ふしぎ|そう に|おんな|なか||みくらべる| Climbing up the narrow, black, squeaky floor, and guiding you to a small room of about 6 tatami mats, which hits the west, while standing still, the maids mysteriously compare the two. was . 油 じみ た 襟 元 を 思い出さ せる ような 、 西 に 出窓 の ある 薄ぎたない 部屋 の 中 を 女 中 を ひっくるめて にらみ 回し ながら 古藤 は 、・・ あぶら|||えり|もと||おもいださ|||にし||でまど|||うすぎたない|へや||なか||おんな|なか||||まわし||ことう| Koto glares at the maid in a room with a bay window in the west, which reminds me of an oily collar.

「 外部 より ひどい …… どこ か 他 所 に しましょう か 」・・ がいぶ|||||た|しょ||し ましょう| "It's worse than the outside ... Let's go somewhere else."

と 葉子 を 見返った 。 |ようこ||みかえった 葉子 は それ に は 耳 も かさ ず に 、 思慮 深い 貴 女 の ような 物腰 で 女 中 の ほう に 向いて いった 。 ようこ|||||みみ|||||しりょ|ふかい|とうと|おんな|||ものごし||おんな|なか||||むいて| Yoko, without listening to it, turned to the maid with a thoughtful demeanor like a lady. ・・

「 隣室 も 明いて います か …… そう 。 りんしつ||あいて|い ます|| "Is the next room open? ... Yes. 夜 まで は どこ も 明いて いる …… そう 。 よ|||||あいて|| お前 さん が ここ の 世話 を して おいで ? おまえ|||||せわ||| …… なら 余 の 部屋 も ついでに 見せて お もらい しましょう か しら ん 」・・ |よ||へや|||みせて|||し ましょう||| ...... Then, I wonder if I'd like you to show me the extra room as well. "

女 中 は もう 葉子 に は 軽蔑 の 色 は 見せ なかった 。 おんな|なか|||ようこ|||けいべつ||いろ||みせ| The maid no longer showed Yoko the color of contempt. そして 心得 顔 に 次の 部屋 と の 間 の 襖 を あける 間 に 、 葉子 は 手早く 大きな 銀貨 を 紙 に 包んで 、・・ |こころえ|かお||つぎの|へや|||あいだ||ふすま|||あいだ||ようこ||てばやく|おおきな|ぎんか||かみ||つつんで

「 少し かげん が 悪い し 、 また いろいろ お 世話に なる だろう から 」・・ すこし|||わるい|||||せわに||| "It's a little bad, and I'll be indebted to you again."

と いい ながら 、 それ を 女 中 に 渡した 。 |||||おんな|なか||わたした そして ずっと 並んだ 五 つ の 部屋 を 一つ一つ 見て 回って 、 掛け軸 、 花びん 、 団 扇 さ し 、 小 屏風 、 机 と いう ような もの を 、 自分 の 好み に 任せて あてがわ れた 部屋 の と すっかり 取りかえて 、 すみ から すみ まで きれいに 掃除 を さ せた 。 ||ならんだ|いつ|||へや||ひとつひとつ|みて|まわって|かけじく|かびん|だん|おうぎ|||しょう|びょうぶ|つくえ||||||じぶん||よしみ||まかせて|||へや||||とりかえて||||||そうじ||| Then, I went around the five rooms lined up all the time, and left things like hanging scrolls, vases, folding fans, folding screens, and desks to my liking. I completely replaced it and cleaned it from corner to corner. そして 古藤 を 正座 に 据えて 小 ざっぱ りした 座ぶとん に すわる と 、 にっこり ほほえみ ながら 、・・ |ことう||せいざ||すえて|しょう|ざ っぱ||ざぶとん||||||

「 これ なら 半日 ぐらい 我慢 が できましょう 」・・ ||はんにち||がまん||でき ましょう "If this is the case, let's put up with it for about half a day."

と いった 。 ・・

「 僕 は どんな 所 でも 平気な んです が ね 」・・ ぼく|||しょ||へいきな|||

古藤 は こう 答えて 、 葉子 の 微笑 を 追い ながら 安心 した らしく 、・・ ことう|||こたえて|ようこ||びしょう||おい||あんしん|| Koto replied, and he seemed to be relieved while chasing Yoko's smile ...

「 気分 は もう なおりました ね 」・・ きぶん|||なおり ました|

と 付け加えた 。 |つけくわえた ・・

「 え ゝ 」・・

と 葉子 は 何げなく 微笑 を 続けよう と した が 、 その 瞬間 に つと 思い返して 眉 を ひそめた 。 |ようこ||なにげなく|びしょう||つづけよう|||||しゅんかん|||おもいかえして|まゆ|| 葉子 に は 仮病 を 続ける 必要 が あった の を つい 忘れよう と した のだった 。 ようこ|||けびょう||つづける|ひつよう||||||わすれよう||| Yoko just tried to forget that she needed to continue her malingering. それ で 、・・

「 ですけれども まだ こんな なん です の 。 "But it's still like this. こら 動 悸 が 」・・ |どう|き|

と いい ながら 、 地味な 風 通 の 単 衣 物 の 中 に かくれた はなやかな 襦袢 の 袖 を ひらめか して 、 右手 を 力な げ に 前 に 出した 。 |||じみな|かぜ|つう||ひとえ|ころも|ぶつ||なか||||じゅばん||そで||||みぎて||ちからな|||ぜん||だした そして それ と 同時に 呼吸 を ぐっと つめて 、 心臓 と 覚 しい あたり に はげしく 力 を こめた 。 |||どうじに|こきゅう||||しんぞう||あきら|||||ちから|| 古藤 は すき通る ように 白い 手 くび を しばらく な で 回して いた が 、 脈 所 に 探り あてる と 急に 驚いて 目 を 見張った 。 ことう||すきとおる||しろい|て||||||まわして|||みゃく|しょ||さぐり|||きゅうに|おどろいて|め||みはった Koto was spinning his white hand neck for a while, but when he found it in the vein, he was suddenly surprised and amazed. ・・

「 どうした ん です 、 え 、 ひどく 不規則じゃ ありません か …… 痛む の は 頭 ばかり です か 」・・ |||||ふきそくじゃ|あり ませ ん||いたむ|||あたま||| "What's wrong, eh, isn't it terribly irregular ... Is it just the head that hurts?"

「 い ゝ え 、 お腹 も 痛み はじめた んです の 」・・ |||おなか||いたみ||| "Yes, my stomach started to hurt."

「 どんなふうに 」・・

「 ぎゅっと 錐 で でも もむ ように …… よく これ が ある んで 困って しまう んです の よ 」・・ |きり||||||||||こまって||||

古藤 は 静かに 葉子 の 手 を 離して 、 大きな 目 で 深々と 葉子 を みつめた 。 ことう||しずかに|ようこ||て||はなして|おおきな|め||しんしんと|ようこ|| Koto quietly let go of Yoko's hand and stared deeply at Yoko with her big eyes. ・・

「 医者 を 呼ば なくって も 我慢 が できます か 」・・ いしゃ||よば|なく って||がまん||でき ます| "Can you put up with it without calling a doctor?"

葉子 は 苦しげに ほほえんで 見せた 。 ようこ||くるしげに||みせた ・・

「 あなた だったら きっと でき ない でしょう よ 。 "You wouldn't be able to do it. …… 慣れっこです から こらえて 見ます わ 。 なれっこです|||み ます| その代わり あなた 永田 さん …… 永田 さん 、 ね 、 郵船 会社 の 支店 長 の …… あす こ に 行って 船 の 切符 の 事 を 相談 して 来て いただけ ない でしょう か 。 そのかわり||ながた||ながた|||ゆうせん|かいしゃ||してん|ちょう|||||おこなって|せん||きっぷ||こと||そうだん||きて|||| Instead, you, Mr. Nagata …… Mr. Nagata, hey, the branch manager of the NYK company …… Could you go to Asuko and talk about the ticket for the ship? 御 迷惑です わ ね 。 ご|めいわくです|| それ でも そんな 事 まで お 願い しちゃ あ …… ようご ざん す 、 わたし 、 車 で そろそろ 行きます から 」・・ |||こと|||ねがい|||||||くるま|||いき ます| Even so, I'd like to ask for such a thing .... I'm going by car, I'm about to go. "

古藤 は 、 女 と いう もの は これほど の 健康 の 変調 を よくも こう まで 我慢 を する もの だ と いう ような 顔 を して 、 もちろん 自分 が 行って みる と いい張った 。 ことう||おんな|||||||けんこう||へんちょう|||||がまん||||||||かお||||じぶん||おこなって|||いいはった Koto said that a woman would endure such a change in health at best, and of course she said that she should go. ・・

実は その 日 、 葉子 は 身 の まわり の 小道具 や 化粧 品 を 調え かたがた 、 米国 行き の 船 の 切符 を 買う ため に 古藤 を 連れて ここ に 来た のだった 。 じつは||ひ|ようこ||み||||こどうぐ||けしょう|しな||ととのえ||べいこく|いき||せん||きっぷ||かう|||ことう||つれて|||きた| In fact, on that day, Yoko came here with Koto to prepare the props and cosmetics around her and to buy a ticket for a ship bound for the United States. 葉子 は そのころ すでに 米国 に いる ある 若い 学士 と 許嫁 の 間柄 に なって いた 。 ようこ||||べいこく||||わかい|がくし||いいなずけ||あいだがら||| By that time, Yoko had already become a relationship between a young bachelor's degree in the United States and her wife. 新 橋 で 車 夫 が 若 奥様 と 呼んだ の も 、 この 事 が 出入り の もの の 間 に 公然と 知れわたって いた から の 事 だった 。 しん|きょう||くるま|おっと||わか|おくさま||よんだ||||こと||でいり||||あいだ||こうぜんと|しれわたって||||こと| At Shinbashi, the car husband called him a young wife because this was publicly known during the comings and goings. ・・

それ は 葉子 が 私 生子 を 設けて から しばらく 後 の 事 だった 。 ||ようこ||わたくし|いくこ||もうけて|||あと||こと| It was a while after Yoko had a private child. ある 冬 の 夜 、 葉子 の 母 の 親 佐 が 何 か の 用 で その 良 人 の 書斎 に 行こう と 階子 段 を のぼり かける と 、 上 から 小 間 使い が まっし ぐ ら に 駆け おりて 来て 、 危うく 親 佐 にぶっ突 かろう と して その そば を すりぬけ ながら 、 何 か 意味 の わから ない 事 を 早口 に いって [#「 いって 」 は 底 本 で は 「 いつ て 」] 走り去った 。 |ふゆ||よ|ようこ||はは||おや|たすく||なん|||よう|||よ|じん||しょさい||いこう||はしご|だん|||||うえ||しょう|あいだ|つかい||まっ し||||かけ||きて|あやうく|おや|たすく|にぶ っ つ|||||||||なん||いみ||||こと||はやくち|||||そこ|ほん|||||はしりさった One winter night, when Yoko's mother's parent climbed up the floor to go to the good man's study for some reason, the booth messenger rushed straight from the top. I almost slipped by my mother, trying to hit him, and quickly said something I didn't understand [# "Itte" is "when" at the bottom] and ran away. その 島田 髷 や 帯 の 乱れた 後ろ姿 が 、 嘲 弄 の 言葉 の ように 目 を 打つ と 、 親 佐 は 口 び る を かみしめた が 、 足音 だけ は しとやかに 階子 段 を 上がって 、 いつも に 似 ず 書斎 の 戸 の 前 に 立ち止まって 、 しわ ぶき を 一 つ して 、 それ から 規則正しく 間 を おいて 三 度 戸 を ノック した 。 |しまだ|まげ||おび||みだれた|うしろすがた||あざけ|もてあそ||ことば|||め||うつ||おや|たすく||くち||||||あしおと||||はしご|だん||あがって|||に||しょさい||と||ぜん||たちどまって||||ひと|||||きそくただしく|あいだ|||みっ|たび|と||| When the disordered back view of Shimada and the obi struck his eyes like the words of ridicule, the parent bit his mouth, but only the footsteps gracefully climbed up the floor, as usual. He stopped in front of the study door, made a wrinkle, and then knocked on the door three times at regular intervals. ・・

こういう 事 が あって から 五 日 と たた ぬ うち に 、 葉子 の 家庭 すなわち 早月 家 は 砂 の 上 の 塔 の ように もろくも くずれて しまった 。 |こと||||いつ|ひ||||||ようこ||かてい||さつき|いえ||すな||うえ||とう||||| In less than five days after this incident, Yoko's family, the Hayatsuki family, crumbled like a tower on sand. 親 佐 は ことに 冷静な 底 気味 わるい 態度 で 夫婦 の 別居 を 主張 した 。 おや|たすく|||れいせいな|そこ|きみ||たいど||ふうふ||べっきょ||しゅちょう| The parent insisted on the separation of the couple, especially with a calm and disgusting attitude. そして 日ごろ の 柔和に 似 ず 、 傷ついた [#「 傷ついた 」 は 底 本 で は 「 傷 ついに 」] 牡牛 の ように 元どおりの 生活 を 回復 しよう と ひしめく 良 人 や 、 中 に は いって いろいろ 言い なそう と した 親類 たち の 言葉 を 、 きっぱり と しりぞけて しまって 、 良 人 を 釘 店 の だだっ広い 住宅 に たった 一 人 残した まま 、 葉子 ともに 三 人 の 娘 を 連れて 、 親 佐 は 仙台 に 立ちのいて しまった 。 |ひごろ||にゅうわに|に||きずついた|きずついた||そこ|ほん|||きず||おうし|||もとどおりの|せいかつ||かいふく||||よ|じん||なか|||||いい||||しんるい|||ことば||||||よ|じん||くぎ|てん||だだっぴろい|じゅうたく|||ひと|じん|のこした||ようこ||みっ|じん||むすめ||つれて|おや|たすく||せんだい||たちのいて| 木部 の 友人 たち が 葉子 の 不人情 を 怒って 、 木部 の とめる の も きか ず に 、 社会 から 葬って しまえ と ひしめいて いる の を 葉子 は 聞き 知っていた から 、 ふだん ならば 一 も 二 も なく 父 を かばって 母 に 楯 を つく べき ところ を 、 素直に 母 の する とおり に なって 、 葉子 は 母 と 共に 仙台 に 埋もれ に 行った 。 きべ||ゆうじん|||ようこ||ふにんじょう||いかって|きべ||||||||しゃかい||ほうむって|||||||ようこ||きき|しっていた||||ひと||ふた|||ちち|||はは||たて||||||すなおに|はは||||||ようこ||はは||ともに|せんだい||うずもれ||おこなった 母 は 母 で 、 自分 の 家庭 から 葉子 の ような 娘 の 出た 事 を 、 できる だけ 世間 に 知ら れ まい と した 。 はは||はは||じぶん||かてい||ようこ|||むすめ||でた|こと||||せけん||しら|||| My mother was a mother, and I tried not to let the world know about the birth of a daughter like Yoko from my family. 女子 教育 と か 、 家庭 の 薫陶 と か いう 事 を おり ある ごと に 口 に して いた 親 佐 は 、 その 言葉 に 対して 虚偽 と いう 利子 を 払わ ねば なら なかった 。 じょし|きょういく|||かてい||くんとう||||こと||||||くち||||おや|たすく|||ことば||たいして|きょぎ|||りし||はらわ||| The parents, who used to talk about girls' education and family scents, had to pay the interest of falsehood to the words. 一方 を もみ消す ため に は 一方 に どん と 火の手 を あげる 必要 が ある 。 いっぽう||もみけす||||いっぽう||||ひのて|||ひつよう|| In order to wipe out one, it is necessary to raise the fire to the other. 早月 母子 が 東京 を 去る と まもなく 、 ある 新聞 は 早月 ドクトル の 女性 に 関する ふしだら を 書き立てて 、 それ に つけて の 親 佐 の 苦心 と 貞 操 と を 吹聴 した ついで に 、 親 佐 が 東京 を 去る ように なった の は 、 熱烈な 信仰 から 来る 義 憤 と 、 愛児 を 父 の 悪 感化 から 救おう と する 母 らしい 努力 に 基づく もの だ 。 さつき|ぼし||とうきょう||さる||||しんぶん||さつき|||じょせい||かんする|||かきたてて|||||おや|たすく||くしん||さだ|みさお|||ふいちょう||||おや|たすく||とうきょう||さる|||||ねつれつな|しんこう||くる|ただし|いきどお||あいじ||ちち||あく|かんか||すくおう|||はは||どりょく||もとづく|| Shortly after Hayatsuki's mother and son left Tokyo, a newspaper published a lewd story about Dr. Hayatsuki's woman, and after trumpeting the care and chastity of the Oyatsuki, Oyatsuki moved to Tokyo. Her departure was based on a righteous indignation that came from her fervent faith and a motherly effort to save her beloved child from her father's evil influence. その ため に 彼女 は キリスト教 婦人 同盟 の 副 会長 と いう 顕 要 な 位置 さえ 投げすてた のだ と 書き添えた 。 |||かのじょ||きりすときょう|ふじん|どうめい||ふく|かいちょう|||あきら|かなめ||いち||なげすてた|||かきそえた ・・

仙台 に おける 早月 親 佐 は しばらく の 間 は 深く 沈黙 を 守って いた が 、 見る見る 周囲 に 人 を 集めて 華々しく 活動 を し 始めた 。 せんだい|||さつき|おや|たすく||||あいだ||ふかく|ちんもく||まもって|||みるみる|しゅうい||じん||あつめて|はなばなしく|かつどう|||はじめた Parent Hayatsuki in Sendai kept a deep silence for a while, but he began to gather people around him and start his activities brilliantly. その 客間 は 若い 信者 や 、 慈善 家 や 、 芸術 家 たち の サロン と なって 、 そこ から リバイバル や 、 慈善 市 や 、 音楽 会 と いう ような もの が 形 を 取って 生まれ 出た 。 |きゃくま||わかい|しんじゃ||じぜん|いえ||げいじゅつ|いえ|||さろん|||||りばいばる||じぜん|し||おんがく|かい||||||かた||とって|うまれ|でた ことに 親 佐 が 仙台 支部 長 と して 働き 出した キリスト教 婦人 同盟 の 運動 は 、 その 当時 野火 の ような 勢い で 全国 に 広がり 始めた 赤十字 社 の 勢力 に も お さお さ 劣ら ない 程 の 盛況 を 呈した 。 |おや|たすく||せんだい|しぶ|ちょう|||はたらき|だした|きりすときょう|ふじん|どうめい||うんどう|||とうじ|のび|||いきおい||ぜんこく||ひろがり|はじめた|せきじゅうじ|しゃ||せいりょく||||||おとら||ほど||せいきょう||ていした In particular, the movement of the Christian Women's Alliance, which the parents started working as the Sendai branch chief, was as prosperous as the power of the Red Cross, which began to spread nationwide at that time with the momentum of wildfire. Was presented. 知事 令夫人 も 、 名だたる 素 封 家 の 奥さん たち も その 集会 に は 列席 した 。 ちじ|れいふじん||なだたる|そ|ふう|いえ||おくさん||||しゅうかい|||れっせき| Both the Governor's wife and the wives of the famous unsealed family attended the rally. そして 三 か年 の 月日 は 早月 親 佐 を 仙台 に は 無くて は なら ぬ 名物 の 一 つ に して しまった 。 |みっ|かねん||つきひ||さつき|おや|たすく||せんだい|||なくて||||めいぶつ||ひと|||| 性質 が 母親 と どこ か 似 すぎて いる ため か 、 似た ように 見えて 一 調子 違って いる ため か 、 それとも 自分 を 慎む ため であった か 、 はた の 人 に は わから なかった が 、 とにかく 葉子 は そんな はなやかな 雰囲気 に 包まれ ながら 、 不思議な ほど 沈黙 を 守って 、 ろくろく 晴れの 座 など に は 姿 を 現わさ ないで いた 。 せいしつ||ははおや||||に|||||にた||みえて|ひと|ちょうし|ちがって|||||じぶん||つつしむ||||||じん|||||||ようこ||||ふんいき||つつま れ||ふしぎな||ちんもく||まもって||はれの|ざ||||すがた||あらわさ|| I didn't know if it was because the nature was somehow too similar to her mother, because she looked similar and out of tune, or because she was refraining from herself, but Yoko anyway. While being surrounded by such a supple atmosphere, he kept a mysterious silence and did not appear in the seat of the sunny weather. それにもかかわらず 親 佐 の 客間 に 吸い寄せられる 若い 人々 の 多数 は 葉子 に 吸い寄せられて いる のだった 。 |おや|たすく||きゃくま||すいよせ られる|わかい|ひとびと||たすう||ようこ||すいよせ られて|| 葉子 の 控え目な しおらしい 様子 が いやが上にも 人 の うわさ を 引く 種 と なって 、 葉子 と いう 名 は 、 多 才 で 、 情緒 の 細やかな 、 美しい 薄命 児 を だれ に でも 思い起こさ せた 。 ようこ||ひかえめな||ようす||いやがうえにも|じん||||ひく|しゅ|||ようこ|||な||おお|さい||じょうちょ||こまやかな|うつくしい|はくめい|じ|||||おもいおこさ| 彼女 の 立ち すぐれた 眉 目 形 は 花 柳 の 人 たち さえ うらやましがら せた 。 かのじょ||たち||まゆ|め|かた||か|やなぎ||じん|||| Her outstanding eyebrow shape envied even the people of Hanayagi. そして いろいろな 風聞 が 、 清 教徒 風 に 質素な 早月 の 佗 住居 の 周囲 を 霞 の ように 取り巻き 始めた 。 ||ふうぶん||きよし|きょうと|かぜ||しっそな|さつき||た|じゅうきょ||しゅうい||かすみ|||とりまき|はじめた And various winds began to surround the area around the early moon's dwelling, which was simple in the style of the Qing dynasty, like a haze. ・・

突然 小さな 仙台 市 は 雷 に でも 打た れた ように ある 朝 の 新聞 記事 に 注意 を 向けた 。 とつぜん|ちいさな|せんだい|し||かみなり|||うた||||あさ||しんぶん|きじ||ちゅうい||むけた Suddenly, the small city of Sendai turned its attention to a newspaper article in the morning, as if it had been struck by lightning. それ は その 新聞 の 商売 が たきである 或る 新聞 の 社主 であり 主筆 である 某 が 、 親 佐 と 葉子 と の 二 人 に 同時に 慇懃 を 通じて いる と いう 、 全 紙 に わたった 不倫 きわまる 記事 だった 。 |||しんぶん||しょうばい|||ある|しんぶん||しゃしゅ||しゅひつ||ぼう||おや|たすく||ようこ|||ふた|じん||どうじに|いんぎん||つうじて||||ぜん|かみ|||ふりん||きじ| だれ も 意外な ような 顔 を し ながら 心 の 中 で は それ を 信じよう と した 。 ||いがいな||かお||||こころ||なか|||||しんじよう|| ・・

この 日 髪 の 毛 の 濃い 、 口 の 大きい 、 色白な 一 人 の 青年 を 乗せた 人力車 が 、 仙台 の 町 中 を 忙しく 駆け回った の を 注意 した 人 は おそらく なかったろう が 、 その 青年 は 名 を 木村 と いって 、 日ごろ から 快活な 活動 好きな 人 と して 知ら れた 男 で 、 その 熱心な 奔走 の 結果 、 翌日 の 新聞 紙 の 広告 欄 に は 、 二 段 抜きで 、 知事 令夫人 以下 十四五 名 の 貴婦人 の 連名 で 早月 親 佐 の 冤罪 が 雪 が れる 事 に なった 。 |ひ|かみ||け||こい|くち||おおきい|いろじろな|ひと|じん||せいねん||のせた|じんりきしゃ||せんだい||まち|なか||いそがしく|かけまわった|||ちゅうい||じん||||||せいねん||な||きむら|||ひごろ||かいかつな|かつどう|すきな|じん|||しら||おとこ|||ねっしんな|ほんそう||けっか|よくじつ||しんぶん|かみ||こうこく|らん|||ふた|だん|ぬきで|ちじ|れいふじん|いか|じゅうよんご|な||きふじん||れんめい||さつき|おや|たすく||えんざい||ゆき|||こと|| この 稀有 の 大げさな 広告 が また 小さな 仙台 の 市中 を どよめき 渡ら した 。 |けう||おおげさな|こうこく|||ちいさな|せんだい||しちゅう|||わたら| This rare and exaggerated ad screamed through the small city of Sendai again. しかし 木村 の 熱心 も 口 弁 も 葉子 の 名 を 広告 の 中 に 入れる 事 は でき なかった 。 |きむら||ねっしん||くち|べん||ようこ||な||こうこく||なか||いれる|こと||| However, neither Kimura's zeal nor his mouth could put Yoko's name in the advertisement. ・・

こんな 騒ぎ が 持ち上がって から 早月 親 佐 の 仙台 に おける 今 まで の 声望 は 急に 無くなって しまった 。 |さわぎ||もちあがって||さつき|おや|たすく||せんだい|||いま|||せいぼう||きゅうに|なくなって| The voice of my parents in Sendai has suddenly disappeared since the turmoil was raised. そのころ ちょうど 東京 に 居残って いた 早月 が 病気 に かかって 薬 に 親しむ 身 と なった ので 、 それ を しお に 親 佐 は 子供 を 連れて 仙台 を 切り上げる 事 に なった 。 ||とうきょう||いのこって||さつき||びょうき|||くすり||したしむ|み||||||||おや|たすく||こども||つれて|せんだい||きりあげる|こと|| At that time, Hayatsuki, who had just stayed in Tokyo, became ill and became familiar with medicines, so the parents decided to round up Sendai with their children. ・・

木村 は その後 すぐ 早月 母子 を 追って 東京 に 出て 来た 。 きむら||そのご||さつき|ぼし||おって|とうきょう||でて|きた Immediately after that, Kimura came to Tokyo following the mother and child of Hayatsuki. そして 毎日 入りびたる ように 早月 家 に 出入り して 、 ことに 親 佐 の 気 に 入る ように なった 。 |まいにち|いりびたる||さつき|いえ||でいり|||おや|たすく||き||はいる|| 親 佐 が 病気 に なって 危篤 に 陥った 時 、 木村 は 一生 の 願い と して 葉子 と の 結婚 を 申し出た 。 おや|たすく||びょうき|||きとく||おちいった|じ|きむら||いっしょう||ねがい|||ようこ|||けっこん||もうしでた 親 佐 は やはり 母 だった 。 おや|たすく|||はは| The parent was still a mother. 死期 を 前 に 控えて 、 いちばん 気 に せ ず に いられ ない もの は 、 葉子 の 将来 だった 。 しき||ぜん||ひかえて||き|||||いら れ||||ようこ||しょうらい| It was Yoko's future that I couldn't help but worry about before her death. 木村 ならば あの わがままな 、 男 を 男 と も 思わぬ 葉子 に 仕える ように して 行く 事 が できる と 思った 。 きむら||||おとこ||おとこ|||おもわぬ|ようこ||つかえる|||いく|こと||||おもった Kimura thought that selfishness could make a man serve Yoko, who wasn't even a man. そして キリスト教 婦人 同盟 の 会長 を して いる 五十川 女史 に 後 事 を 託して 死んだ 。 |きりすときょう|ふじん|どうめい||かいちょう||||いそがわ|じょし||あと|こと||たくして|しんだ He died after entrusting the aftermath to Ms. Itokawa, who is the chairman of the Christian Women's Alliance. この 五十川 女史 の まあまあ と いう ような 不思議な あいまいな 切り盛り で 、 木村 は 、 どこ か 不確実で は ある が 、 ともかく 葉子 を 妻 と し うる 保障 を 握った のだった 。 |いそがわ|じょし||||||ふしぎな||きりもり||きむら||||ふかくじつで|||||ようこ||つま||||ほしょう||にぎった| With this mysterious and ambiguous cut of Ms. Ichikawa, Kimura, although somewhat uncertain, held the guarantee that Yoko could be his wife anyway.