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或る女 - 有島武郎(アクセス), 23.2 或る女

23.2 或る 女

場所がら とて そこ ここ から この 界隈 に 特有な 楽器 の 声 が 聞こえて 来た 。 天 長 節 である だけ に きょう は ことさら それ が にぎやかな の かも しれ ない 。 戸外 に は ぽく り や あ ず ま 下駄 の 音 が 少し 冴えて 絶えず して いた 。 着飾った 芸者 たち が みがき上げた 顔 を びりびり する ような 夜寒 に 惜し げ も なく 伝法 に さらして 、 さすが に 寒気 に 足 を 早め ながら 、 招 ばれた 所 に 繰り出して 行く その 様子 が 、 まざまざ と 履き物 の 音 を 聞いた ばかりで 葉子 の 想像 に は 描か れる のだった 。 合い 乗り らしい 人力車 の わだち の 音 も 威勢 よく 響いて 来た 。 葉子 は もう 一 度 これ は 屈強な 避難 所 に 来た もの だ と 思った 。 この 界隈 で は 葉子 は 眦 を 反して 人 から 見られる 事 は ある まい 。 ・・

珍しく あっさり した 、 魚 の 鮮 しい 夕食 を 済ます と 葉子 は 風呂 を つかって 、 思い 存分 髪 を 洗った 。 足し ない 船 の 中 の 淡水 で は 洗って も 洗って も ねちねち と 垢 の 取り 切れ なかった もの が 、 さわれば 手 が 切れる ほど さばさば と 油 が 抜けて 、 葉子 は 頭 の 中 まで 軽く なる ように 思った 。 そこ に 女将 も 食事 を 終えて 話 相手 に なり に 来た 。 ・・

「たいへん お 遅う ございます こと 、 今夜 の うち に お 帰り に なる でしょう か 」・・

そう 女将 は 葉子 の 思って いる 事 を 魁 け に いった 。 「 さあ 」 と 葉子 も はっきり し ない 返事 を した が 、 小 寒く なって 来た ので 浴衣 を 着 かえよう と する と 、 そこ に 袖 だ たみ に して ある 自分 の 着物 に つくづく 愛想 が 尽きて しまった 。 この へん の 女 中 に 対して も そんな しつっこ い けばけばしい 柄 の 着物 は 二度と 着る 気 に は なれ なかった 。 そう なる と 葉子 は しゃにむに それ が たまらなく なって 来る のだ 。 葉子 は うんざり した 様子 を して 自分 の 着物 から 女将 に 目 を やり ながら 、・・

「 見て ください これ を 。 この 冬 は 米国 に いる のだ と ばかり 決めて いた ので 、 あんな もの を 作って みた んです けれども 、 我慢 に も もう 着て いられ なく なりました わ 。 後生 。 あなた の 所 に 何 か ふだん着 の あいた ので も ない でしょう か 」・・

「 どうして あなた 。 わたし は これ で ご ざん す もの 」・・

と 女将 は 剽軽 に も 気 軽く ちゃん と 立ち上がって 自分 の 背たけ の 低 さ を 見せた 。 そうして 立った まま で しばらく 考えて いた が 、 踊り で 仕込み 抜いた ような 手つき で はたと 膝 の 上 を たたいて 、・・

「 よう ございます 。 わたし 一 つ 倉地 さん を びっく ら さして 上げます わ 。 わたし の 妹 分 に 当たる のに 柄 と いい 年 格好 と いい 、 失礼 ながら あなた 様 と そっくりな の が います から 、 それ の を 取り寄せて みましょう 。 あなた 様 は 洗い 髪 で いらっしゃる なり …… いかが 、 わたし が すっかり 仕立てて 差し上げます わ 」・・

この 思い付き は 葉子 に は 強い 誘惑 だった 。 葉子 は 一 も 二 も なく 勇み立って 承知 した 。 ・・

その 晩 十一 時 を 過ぎた ころ に 、 まとめた 荷物 を 人力車 四 台 に 積み 乗せて 、 倉地 が 双 鶴 館 に 着いて 来た 。 葉子 は 女将 の 入れ知恵 で わざと 玄関 に は 出迎え なかった 。 葉子 は いたずら 者 らしく ひと り 笑い を し ながら 立て膝 を して みた が 、 それ に は 自分 ながら 気 が ひけた ので 、 右 足 を 左 の 腿 の 上 に 積み 乗せる ように して その 足先 を とんび に して すわって みた 。 ちょうど そこ に かなり 酔った らしい 様子 で 、 倉地 が 女将 の 案内 も 待た ず に ず しんず しん と いう 足どり で は いって 来た 。 葉子 と 顔 を 見 合わした 瞬間 に は 部屋 を 間違えた と 思った らしく 、 少し あわてて 身 を 引こう と した が 、 すぐ 櫛 巻き に して 黒 襟 を かけた その 女 が 葉子 だった の に 気 が 付く と 、 いつも の 渋い ように 顔 を くずして 笑い ながら 、・・

「 なんだ ばか を し くさって 」・・

とほ ざ くよう に いって 、 長火鉢 の 向かい 座 に どっか と あぐら を かいた 。 ついて 来た 女将 は 立った まま しばらく 二 人 を 見くらべて いた が 、・・

「 ようよう …… 変てこな お 内裏 雛 様 」・・

と 陽気に かけ声 を して 笑いこける ように ぺ ちゃん と そこ に すわり込んだ 。 三 人 は 声 を 立てて 笑った 。 ・・

と 、 女将 は 急に まじめに 返って 倉地 に 向かい 、・・

「 こちら は きょう の 報 正 新報 を ……」・・

と いい かける の を 、 葉子 は すばやく 目 で さえぎった 。 女将 は あぶない 土 端 場 で 踏みとどまった 。 倉地 は 酔 眼 を 女将 に 向け ながら 、・・

「 何 」・・

と 尻上がり に 問い返した 。 ・・

「 そう 早耳 を 走ら す と つんぼ と 間違えられます と さ 」・・

と 女将 は 事もなげに 受け流した 。 三 人 は また 声 を 立てて 笑った 。 ・・

倉地 と 女将 と の 間 に 一 別 以来 の うわさ 話 が しばらく の 間 取りかわされて から 、 今度 は 倉地 が まじめに なった 。 そして 葉子 に 向かって ぶっきらぼうに 、・・

「 お前 もう 寝ろ 」・・

と いった 。 葉子 は 倉地 と 女将 と を ならべて 一目 見た ばかりで 、 二 人 の 間 の 潔白な の を 見て取って いた し 、 自分 が 寝て あと の 相談 と いう て も 、 今度 の 事件 を 上手に まとめよう と いう に ついて の 相談 だ と いう 事 が のみ 込めて いた ので 、 素直に 立って 座 を はずした 。 ・・

中 の 十 畳 を 隔てた 十六 畳 に 二 人 の 寝床 は 取って あった が 、 二 人 の 会話 は おりおり かなり はっきり もれて 来た 。 葉子 は 別に 疑い を かける と いう ので は なかった が 、 やはり じっと 耳 を 傾け ないで はいら れ なかった 。 ・・

何 か の 話 の ついで に 入用な 事 が 起こった のだろう 、 倉地 は しきりに 身 の まわり を 探って 、 何 か を 取り出そう と して いる 様子 だった が 、「 あいつ の 手 携 げ に 入れた か しら ん 」 と いう 声 が した ので 葉子 は はっと 思った 。 あれ に は 「 報 正 新報 」 の 切り抜き が 入れて ある のだ 。 もう 飛び出して 行って も おそい と 思って 葉子 は 断念 して いた 。 やがて はたして 二 人 は 切り抜き を 見つけ出した 様子 だった 。 ・・

「 なんだ あいつ も 知っとった の か 」・・

思わず 少し 高く なった 倉地 の 声 が こう 聞こえた 。 ・・

「 道理で さっき 私 が この 事 を いい かける と あの 方 が 目 で 留めた んです よ 。 やはり 先方 でも あなた に 知らせ まい と して 。 いじらしい じゃ ありません か 」・・

そういう 女将 の 声 も した 。 そして 二 人 は しばらく 黙って いた 。 ・・

葉子 は 寝床 を 出て その 場 に 行こう か と も 思った 。 しかし 今夜 は 二 人 に 任せて おく ほう が いい と 思い返して ふとん を 耳 まで かぶった 。 そして だいぶ 夜 が ふけて から 倉地 が 寝 に 来る まで 快い 安眠 に 前後 を 忘れて いた 。


23.2 或る 女 ある|おんな 23.2 Una mujer

場所がら とて そこ ここ から この 界隈 に 特有な 楽器 の 声 が 聞こえて 来た 。 ばしょがら||||||かいわい||とくゆうな|がっき||こえ||きこえて|きた 天 長 節 である だけ に きょう は ことさら それ が にぎやかな の かも しれ ない 。 てん|ちょう|せつ||||||||||||| 戸外 に は ぽく り や あ ず ま 下駄 の 音 が 少し 冴えて 絶えず して いた 。 こがい|||||||||げた||おと||すこし|さえて|たえず|| Outside, the sound of pokuri and Azuma clogs was faint and constant. 着飾った 芸者 たち が みがき上げた 顔 を びりびり する ような 夜寒 に 惜し げ も なく 伝法 に さらして 、 さすが に 寒気 に 足 を 早め ながら 、 招 ばれた 所 に 繰り出して 行く その 様子 が 、 まざまざ と 履き物 の 音 を 聞いた ばかりで 葉子 の 想像 に は 描か れる のだった 。 きかざった|げいしゃ|||みがきあげた|かお|||||よさむ||おし||||でんぽう|||||かんき||あし||はや め||まね||しょ||くりだして|いく||ようす||||はきもの||おと||きいた||ようこ||そうぞう|||えがか|| 合い 乗り らしい 人力車 の わだち の 音 も 威勢 よく 響いて 来た 。 あい|のり||じんりきしゃ||||おと||いせい||ひびいて|きた 葉子 は もう 一 度 これ は 屈強な 避難 所 に 来た もの だ と 思った 。 ようこ|||ひと|たび|||くっきょうな|ひなん|しょ||きた||||おもった この 界隈 で は 葉子 は 眦 を 反して 人 から 見られる 事 は ある まい 。 |かいわい|||ようこ||まなじり||はんして|じん||み られる|こと||| ・・

珍しく あっさり した 、 魚 の 鮮 しい 夕食 を 済ます と 葉子 は 風呂 を つかって 、 思い 存分 髪 を 洗った 。 めずらしく|||ぎょ||せん||ゆうしょく||すます||ようこ||ふろ|||おもい|ぞんぶん|かみ||あらった 足し ない 船 の 中 の 淡水 で は 洗って も 洗って も ねちねち と 垢 の 取り 切れ なかった もの が 、 さわれば 手 が 切れる ほど さばさば と 油 が 抜けて 、 葉子 は 頭 の 中 まで 軽く なる ように 思った 。 たし||せん||なか||たんすい|||あらって||あらって||||あか||とり|きれ|||||て||きれる||||あぶら||ぬけて|ようこ||あたま||なか||かるく|||おもった そこ に 女将 も 食事 を 終えて 話 相手 に なり に 来た 。 ||おかみ||しょくじ||おえて|はなし|あいて||||きた ・・

「たいへん お 遅う ございます こと 、 今夜 の うち に お 帰り に なる でしょう か 」・・ ||おそう|||こんや|||||かえり||||

そう 女将 は 葉子 の 思って いる 事 を 魁 け に いった 。 |おかみ||ようこ||おもって||こと||かい||| 「 さあ 」 と 葉子 も はっきり し ない 返事 を した が 、 小 寒く なって 来た ので 浴衣 を 着 かえよう と する と 、 そこ に 袖 だ たみ に して ある 自分 の 着物 に つくづく 愛想 が 尽きて しまった 。 ||ようこ|||||へんじ||||しょう|さむく||きた||ゆかた||ちゃく|||||||そで||||||じぶん||きもの|||あいそ||つきて| この へん の 女 中 に 対して も そんな しつっこ い けばけばしい 柄 の 着物 は 二度と 着る 気 に は なれ なかった 。 |||おんな|なか||たいして|||しつ っこ|||え||きもの||にどと|きる|き|||| そう なる と 葉子 は しゃにむに それ が たまらなく なって 来る のだ 。 |||ようこ|||||||くる| 葉子 は うんざり した 様子 を して 自分 の 着物 から 女将 に 目 を やり ながら 、・・ ようこ||||ようす|||じぶん||きもの||おかみ||め|||

「 見て ください これ を 。 みて||| この 冬 は 米国 に いる のだ と ばかり 決めて いた ので 、 あんな もの を 作って みた んです けれども 、 我慢 に も もう 着て いられ なく なりました わ 。 |ふゆ||べいこく||||||きめて||||||つくって||||がまん||||きて|いら れ||なり ました| 後生 。 ごしょう あなた の 所 に 何 か ふだん着 の あいた ので も ない でしょう か 」・・ ||しょ||なん||ふだんぎ|||||||

「 どうして あなた 。 わたし は これ で ご ざん す もの 」・・

と 女将 は 剽軽 に も 気 軽く ちゃん と 立ち上がって 自分 の 背たけ の 低 さ を 見せた 。 |おかみ||ひょうきん|||き|かるく|||たちあがって|じぶん||せたけ||てい|||みせた そうして 立った まま で しばらく 考えて いた が 、 踊り で 仕込み 抜いた ような 手つき で はたと 膝 の 上 を たたいて 、・・ |たった||||かんがえて|||おどり||しこみ|ぬいた||てつき|||ひざ||うえ||

「 よう ございます 。 わたし 一 つ 倉地 さん を びっく ら さして 上げます わ 。 |ひと||くらち|||び っく|||あげ ます| わたし の 妹 分 に 当たる のに 柄 と いい 年 格好 と いい 、 失礼 ながら あなた 様 と そっくりな の が います から 、 それ の を 取り寄せて みましょう 。 ||いもうと|ぶん||あたる||え|||とし|かっこう|||しつれい|||さま|||||い ます|||||とりよせて|み ましょう あなた 様 は 洗い 髪 で いらっしゃる なり …… いかが 、 わたし が すっかり 仕立てて 差し上げます わ 」・・ |さま||あらい|かみ||||||||したてて|さしあげ ます|

この 思い付き は 葉子 に は 強い 誘惑 だった 。 |おもいつき||ようこ|||つよい|ゆうわく| 葉子 は 一 も 二 も なく 勇み立って 承知 した 。 ようこ||ひと||ふた|||いさみたって|しょうち| ・・

その 晩 十一 時 を 過ぎた ころ に 、 まとめた 荷物 を 人力車 四 台 に 積み 乗せて 、 倉地 が 双 鶴 館 に 着いて 来た 。 |ばん|じゅういち|じ||すぎた||||にもつ||じんりきしゃ|よっ|だい||つみ|のせて|くらち||そう|つる|かん||ついて|きた 葉子 は 女将 の 入れ知恵 で わざと 玄関 に は 出迎え なかった 。 ようこ||おかみ||いれぢえ|||げんかん|||でむかえ| 葉子 は いたずら 者 らしく ひと り 笑い を し ながら 立て膝 を して みた が 、 それ に は 自分 ながら 気 が ひけた ので 、 右 足 を 左 の 腿 の 上 に 積み 乗せる ように して その 足先 を とんび に して すわって みた 。 ようこ|||もの||||わらい||||たてひざ||||||||じぶん||き||||みぎ|あし||ひだり||もも||うえ||つみ|のせる||||あしさき|||||| ちょうど そこ に かなり 酔った らしい 様子 で 、 倉地 が 女将 の 案内 も 待た ず に ず しんず しん と いう 足どり で は いって 来た 。 ||||よった||ようす||くらち||おかみ||あんない||また||||||||あしどり||||きた 葉子 と 顔 を 見 合わした 瞬間 に は 部屋 を 間違えた と 思った らしく 、 少し あわてて 身 を 引こう と した が 、 すぐ 櫛 巻き に して 黒 襟 を かけた その 女 が 葉子 だった の に 気 が 付く と 、 いつも の 渋い ように 顔 を くずして 笑い ながら 、・・ ようこ||かお||み|あわした|しゅんかん|||へや||まちがえた||おもった||すこし||み||ひこう|||||くし|まき|||くろ|えり||||おんな||ようこ||||き||つく||||しぶい||かお|||わらい| The moment he looked at Yoko, he seemed to think that he was in the wrong room, so he panicked and tried to withdraw, but he quickly realized that the woman with the comb and black collar was Yoko. As soon as I saw him, he smiled with his usual sour face and said,

「 なんだ ばか を し くさって 」・・ "What the hell are you doing idiots"...

とほ ざ くよう に いって 、 長火鉢 の 向かい 座 に どっか と あぐら を かいた 。 |||||ながひばち||むかい|ざ||ど っか|||| I said as if to say goodbye and sat cross-legged on the seat opposite the long brazier. ついて 来た 女将 は 立った まま しばらく 二 人 を 見くらべて いた が 、・・ |きた|おかみ||たった|||ふた|じん||みくらべて||

「 ようよう …… 変てこな お 内裏 雛 様 」・・ |へんてこな||だいり|ひな|さま "Yo yo... strange Odairi Hina-sama"...

と 陽気に かけ声 を して 笑いこける ように ぺ ちゃん と そこ に すわり込んだ 。 |ようきに|かけごえ|||わらいこける|||||||すわりこんだ I shouted cheerfully and sat down there with a smile on my face. 三 人 は 声 を 立てて 笑った 。 みっ|じん||こえ||たてて|わらった ・・

と 、 女将 は 急に まじめに 返って 倉地 に 向かい 、・・ |おかみ||きゅうに||かえって|くらち||むかい

「 こちら は きょう の 報 正 新報 を ……」・・ ||||ほう|せい|しんぽう|

と いい かける の を 、 葉子 は すばやく 目 で さえぎった 。 |||||ようこ|||め|| 女将 は あぶない 土 端 場 で 踏みとどまった 。 おかみ|||つち|はし|じょう||ふみとどまった 倉地 は 酔 眼 を 女将 に 向け ながら 、・・ くらち||よ|がん||おかみ||むけ| Kurachi turned his drunken eyes on the proprietress and said,

「 何 」・・ なん

と 尻上がり に 問い返した 。 |しりあがり||といかえした ・・

「 そう 早耳 を 走ら す と つんぼ と 間違えられます と さ 」・・ |はやみみ||はしら|||||まちがえ られ ます|| "That's right, if you run your ear too fast, you'll be mistaken for a tumbler."

と 女将 は 事もなげに 受け流した 。 |おかみ||こともなげに|うけながした 三 人 は また 声 を 立てて 笑った 。 みっ|じん|||こえ||たてて|わらった ・・

倉地 と 女将 と の 間 に 一 別 以来 の うわさ 話 が しばらく の 間 取りかわされて から 、 今度 は 倉地 が まじめに なった 。 くらち||おかみ|||あいだ||ひと|べつ|いらい|||はなし||||あいだ|とりかわさ れて||こんど||くらち||| After the gossip exchanged between Kurachi and the proprietress for a while since their separation, Kurachi became serious this time. そして 葉子 に 向かって ぶっきらぼうに 、・・ |ようこ||むかって|

「 お前 もう 寝ろ 」・・ おまえ||ねろ

と いった 。 葉子 は 倉地 と 女将 と を ならべて 一目 見た ばかりで 、 二 人 の 間 の 潔白な の を 見て取って いた し 、 自分 が 寝て あと の 相談 と いう て も 、 今度 の 事件 を 上手に まとめよう と いう に ついて の 相談 だ と いう 事 が のみ 込めて いた ので 、 素直に 立って 座 を はずした 。 ようこ||くらち||おかみ||||いちもく|みた||ふた|じん||あいだ||けっぱくな|||みてとって|||じぶん||ねて|||そうだん|||||こんど||じけん||じょうずに|||||||そうだん||||こと|||こめて|||すなおに|たって|ざ|| Yoko had just taken a look at Kurachi and the proprietress side by side, and she could see that the two were innocent. I knew that it was a discussion about what to say, so I obediently stood up and left my seat. ・・

中 の 十 畳 を 隔てた 十六 畳 に 二 人 の 寝床 は 取って あった が 、 二 人 の 会話 は おりおり かなり はっきり もれて 来た 。 なか||じゅう|たたみ||へだてた|じゅうろく|たたみ||ふた|じん||ねどこ||とって|||ふた|じん||かいわ||||||きた 葉子 は 別に 疑い を かける と いう ので は なかった が 、 やはり じっと 耳 を 傾け ないで はいら れ なかった 。 ようこ||べつに|うたがい|||||||||||みみ||かたむけ|||| ・・

何 か の 話 の ついで に 入用な 事 が 起こった のだろう 、 倉地 は しきりに 身 の まわり を 探って 、 何 か を 取り出そう と して いる 様子 だった が 、「 あいつ の 手 携 げ に 入れた か しら ん 」 と いう 声 が した ので 葉子 は はっと 思った 。 なん|||はなし||||いりような|こと||おこった||くらち|||み||||さぐって|なん|||とりだそう||||ようす|||||て|けい|||いれた||||||こえ||||ようこ|||おもった Kurachi was searching around for something, probably something he needed to do while he was talking about something. Takashiran,” said a voice, and Yoko was startled. あれ に は 「 報 正 新報 」 の 切り抜き が 入れて ある のだ 。 |||ほう|せい|しんぽう||きりぬき||いれて|| もう 飛び出して 行って も おそい と 思って 葉子 は 断念 して いた 。 |とびだして|おこなって||||おもって|ようこ||だんねん|| やがて はたして 二 人 は 切り抜き を 見つけ出した 様子 だった 。 ||ふた|じん||きりぬき||みつけだした|ようす| ・・

「 なんだ あいつ も 知っとった の か 」・・ |||ち っと った||

思わず 少し 高く なった 倉地 の 声 が こう 聞こえた 。 おもわず|すこし|たかく||くらち||こえ|||きこえた ・・

「 道理で さっき 私 が この 事 を いい かける と あの 方 が 目 で 留めた んです よ 。 どうりで||わたくし|||こと||||||かた||め||とどめた|| "Of course, when I mentioned this earlier, he took notice. やはり 先方 でも あなた に 知らせ まい と して 。 |せんぽう||||しらせ||| いじらしい じゃ ありません か 」・・ ||あり ませ ん|

そういう 女将 の 声 も した 。 |おかみ||こえ|| そして 二 人 は しばらく 黙って いた 。 |ふた|じん|||だまって| ・・

葉子 は 寝床 を 出て その 場 に 行こう か と も 思った 。 ようこ||ねどこ||でて||じょう||いこう||||おもった しかし 今夜 は 二 人 に 任せて おく ほう が いい と 思い返して ふとん を 耳 まで かぶった 。 |こんや||ふた|じん||まかせて||||||おもいかえして|||みみ|| そして だいぶ 夜 が ふけて から 倉地 が 寝 に 来る まで 快い 安眠 に 前後 を 忘れて いた 。 ||よ||||くらち||ね||くる||こころよい|あんみん||ぜんご||わすれて|