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コンビニ人間, 22.

22 .

妹 が 白羽 さん を 叱り に 来た のは 、電話 から 1 ヵ月 経った 日曜日 の こと だった 。 ・・

妹 は 温和で 優しい 子 な のだ が 、「 お 姉ちゃん の ため に 、 一言 言って あげない と 」 と やけに 張り切って 、 どうしても と 押し切られた のだ 。 ・・

白羽 さん に は 外 に 行く よう に 言った が 、「いい です よ 、別に 」と 部屋 に いる ようだった 。 あんなに 叱ら れる の を 嫌がって いた のに 、意外 だった 。 ・・

「悠太郎 は 旦那 が 見て くれてる の 。 たまに は ね 」・・

「そう 。 狭い けれど ゆっくり して いって ね 」・・

赤ん坊 を 携えて いない 妹 を 久しぶりに 見た ので 、何だか 忘れ物 を している ように 見えた 。 ・・

「わざわざ 来て くれ なくて も 、呼んで くれれば いつも みたいに 家 まで 遊び に 行った のに 」・・

「いい の いい の 、今日 は お姉ちゃん と ゆっくり 話し たかった から ……お邪魔 じゃ なかった ? 」・・

妹 は 部屋 を 見回して 、「あの 、一緒に 暮らしてる 人 は ……今日 は お出かけ ? 気 を 遣わ せちゃった かな ……」と 言った 。 ・・

「 え ? う うん 、いる よ 」・・

「えっ !?ど 、どこ に ? ご挨拶 し ない と …… ! 」・・

慌てて 立ち上がった 妹 に 、「別に そんな の しないで いい よ 。 ああ 、でも そろそろ 餌 の 時間 か あ ……」と 言い 、台所 に 置いて あった 洗面器 に 、ご飯 と 、鍋 の 中 に ある お湯 で 茹でられた じゃがいも と キャベツ を 入れ 、風呂場 に 持って行った 。 ・・

白羽 さん は バスタブ の 中 に 敷き詰めた 座布団 に 座って スマホ を 弄って おり 、私 が 餌 を 渡す と 黙って 受け取った 。 ・・

「 お 風呂 場 ……? お 風呂 に 入ってる の ? 」・・

「うん 、一緒 の 部屋 だ と 狭い から そこ に 住まわせて る の 」・・

妹 が 唖然 と した 顔 を した ので 、私 は 詳しく 説明 した 。 ・・

「あの ね 、うち って 古い アパート でしょ 。 白羽 さん 、古い お 風呂 に 入る くらい なら コインシャワー の ほう が いい んだって 。 シャワー 代 と 餌 代 の 小銭 を もらってる の 。 ちょっと 面倒だ けれど 、でも 、あれ を 家 の 中 に 入れて おく と 便利な の 。 皆 、なんだか すごく 喜んで くれて 、『良かった 』『おめでとう 』って 祝福 して くれる んだ 。 勝手に 納得 して 、あんまり 干渉 して こなく なる の 。 だから 便利 な の 」・・

私 の 丁寧な 説明 を 理解 した の か 、妹 は 俯いた 。 ・・

「 そう だ 、昨日 、お店 で 売れ残った プリン を 買って きて あるんだ 。 食べる ? 」・・

「 こんな こと だ と 思わ なかった …… 」・・

妹 が 震える 声 を 出した ので 、 驚いて 顔 を 見る と 泣いて いる ようだった 。 ・・

「どうした の ? あ 、今 すぐ ティッシュ 持ってくる ね ! 」・・

咄嗟に 菅原 さん の 喋り方 で 立ち上がる と 、妹 が 言った 。 ・・

「 お 姉ちゃん は 、 いつ に なったら 治る の …… ? 」・・

妹 が 口 を 開いて 、私 を 叱る こと も せず 、顔 を 伏せた 。 ・・

「もう 限界 だ よ ……どう すれば 普通に なる の ? いつまで 我慢 すれば いい の ? 」・・

「え 、我慢 してる の ? それ なら 、無理に 私 に 会い に 来なくて も いい んじゃない ? 」・・

素直に 妹 に 言う と 、妹 は 涙 を 流し ながら 立ち上がった 。 ・・

「 お 姉ちゃん 、 お 願い だから 、 私 と 一緒に カウンセリング に 行こう ? 治して もらおう よ 、 もう それ しか ない よ 」・・

「小さい 頃 行った けど 、だめだった じゃない 。 それ に 、私 、何 を 治せば いい の か わからない んだ 」・・

「お姉ちゃん は 、コンビニ 始めて から ますます おかしかった よ 。 喋り 方 も 、家 でも コンビニ みたいに 声 を 張り上げたり する し 、表情 も 変だ よ 。 お 願い だ から 、普通に なって よ 」・・

妹 は ますます 泣き出して しまった 。 私 は 泣いて いる 妹 に 尋ねた 。 ・・

「じゃあ 、私 は 店員 を やめれば 治る の ? やって いた 方 が 治ってる の ? 白羽 さん を 家 から 追い出した ほうが 治る の ? 置いて おいた ほうが 治ってる の ? ねえ 、指示 を くれれば わたし は どうだって いい んだ よ 。 ちゃんと 的確に 教えて よ 」・・

「もう 、何も わから ない よ ……」・・

妹 は 泣きじゃくり 、返事 を くれる こと は なかった 。 ・・

私 は 妹 が 黙って しまった ので 暇 に なり 、冷蔵庫 から プリン を 取り出して 泣いている 妹 を 見ながら 食べた が 、妹 は なかなか 泣き止まなかった 。 ・・

その 時 、風呂場 の ドア が 開く 音 が した 。 驚いて 振り向く と 、白羽 さん が 立って いた 。 ・・

「すみません 、今 、実は ちょっと 古倉さん と ケンカ を して いたんです 。 お 見苦しい ところ を お 見せ しました 。 びっくり しました よ ね 」・・

突然 饒舌に 喋り 始めた 白羽さん を 、私 は 呆然と 見上げた 。 ・・

「 じつは 僕 、 元 カノ と フェイスブック で 連絡 を とりあって しまって 。 二人 で 飲み に 行った ん です 。 そう したら 恵子 が 怒り狂って 、 一緒に は 寝られない と 言って 、 僕 を 浴室 に 閉じ込めて しまった ん です 」・・

妹 は 、白羽 さん の 言って いる 意味 を 反芻 する ように しばらく 彼 の 顔 を 見つめ 続けた あと 、まるで 教会 で 神父 さん に 出会った 信者 みたいな 顔 で 、白羽 さん に 縋る ように 立ち上がった 。 ・・

「 そう だった ん です ね ……! そう です よ ね 、そう です よ ね ……! 」・・

「今日 は 、妹さん が 来る って 聞いて 、これ は まずい と 思って 隠れて たんです 。 僕 、叱ら れちゃ うなって 」・・

「そう です ……よ ! 姉 から 聞いて た んです けど 、仕事 も しないで 転がり込んで きて 、私 、姉 が 変な 男性 に 騙されてる んじゃないか って 心配で 心配で ……その 上 浮気 なんて ! 妹 として 、許せません よ ! 」・・

妹 は 白羽 さん を 叱り ながら 、この上なく うれしそうだった 。 ・・

そう か 。 叱る の は 、「 こちら 側 」 の人間 だ と 思って いる から な ん だ 。 だから 何も 問題 は 起きて いない のに 「 あちら 側 」 に いる 姉 より 、 問題 だらけ でも 「 こちら 側 」 に 姉 が いる ほう が 、 妹 は ずっと 嬉しい のだ 。 その ほう が ずっと 妹 に とって 理解 可能な 、正常な 世界 な のだ 。 ・・

「白羽 さん ! 私 、妹 と して 本当に 怒ってる んです よ ー ! 」 ・・

妹 は 、前 と 少し 喋り方 が 変わった 気 が する 。 妹 の 周り に は 、今 、どんな 人間 が いる のだろう 。 きっと その 人 に よく 似た 喋り方 なのだろう 。 ・・

「わかってます 。 ゆっくり です けど 仕事 は 探します し 、もちろん 、籍 だって 早めに 入れようって 思ってます から 」・・

「このまま じゃ 、私 、両親 に 報告 でき ない ですよ ー ! 」 ・・

きっと もう 限界 な のだろう 。 店員 として の 私 を 継続 する こと を 、誰 も 望んで いない 。 ・・

店員 に なる こと を あんなに 喜んで いた 妹 が 、今 は 、店員 で はなく なる こと こそ 、正常な のだ と 言う 。 妹 の 涙 は 乾いている が 、鼻水 は 流れ出て 、鼻 の 下 を 濡らしている 。 それ を 拭う こと も せず 、妹 は はしゃいで いる ような 調子 で 白羽 さん に 怒りつづけて いる 。 私 は 妹 の 鼻水 を 拭う こと すら できず 、食べかけ の プリン を 手 に した まま 二人 を 見つめて いた 。 ・・

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