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1 - Harry Potter, 5.2ダイアゴン 横丁 (2)

5.2ダイアゴン 横丁 (2)

イ一ロップ ふくろう 百貨店 は 、暗くて バタバタ と 羽音 が し 、宝石 の ように 輝く 目 が あちらこちら で パチクリ していた 。 二十 分 後 、二 人 は 店 から 出てきた 。 ハリー は 大きな 鳥籠 を 下げて いる 。 籠 の 中 で は 、雪 の ように 白い 美しい ふくろう が 、羽根 に 頭 を 突っ込んで ぐっすり 眠って いる 。 ハリー は 、まるで クィレル 教授 の ように どもり ながら 何度 も お礼 を 言った 。

「礼 は いらん 」ハグリッド は ぶっきらぼうに 言った 。

「ダーズリー の 家 で は ほとんど プレゼント を もらう こと は なかった んだろう な 。 あと は オリバンダー の 店 だけ だ ……杖 は ここ に かぎる 。 杖 の オリバンダー だ 。 最高の 杖 を 持た に ゃ いかん 」

魔法 の 杖 ……これ こそ ハリー が 本当に 欲しかった 物 だ 。

最後 の 買い物 の 店 は 暗くて みすぼらしかった 。 剥がれ かかった 金色 の 文字 で 、扉 に オリバンダー の 店 ──紀元前 三八二 年 創業 高級 杖 メーカー と 書いて ある 。 埃っぽい ショーウィンドウ に は 、色褪せた 紫色 の クッション に 、杖 が 一 本 だけ 置かれていた 。 中 に 入る と どこ か 奥 の ほう で チリンチリン と ベル が 鳴った 。 小さな 店 内 に 古くさい 椅子 が 一つ だけ 置かれて いて 、ハグリッド は それ に 腰掛けて 待った 。 ハリー は 妙な こと に 、規律 の 厳しい 図書館 に いる ような 気 が した 。 ハリー は 、新たに 湧いて きた たくさんの 質問 を グッと のみ込んで 、天井 近く まで 整然と 積み重ねられた 何千 という 細長い 箱 の 山 を 見て いた 。 なぜ か 背中 が ゾクゾク した 。 埃 と 静けさ そのもの が 、密かな 魔力 を 秘めて いる ようだった 。

「いらっしゃいませ 」

柔らかな 声 が した 。 ハリー は 跳び上がった 。 ハグリッド も 跳び上がった に 違いない 。 古い 椅子 が バキバキ と 大きな 音 を たて 、ハグリッド は あわてて 華奢 な 椅子 から 立ち上がった 。

目の前 に 老人 が 立って いた 。 店 の 薄明かり の 中 で 、大きな 薄い 色 の 目 が 、二つ の 月 の ように 輝いている 。

「こんにちは 」ハリー が ぎごちなく 挨拶 した 。

「おお 、そう じゃ 」と 老人 が 言った 。

「 そう じゃ と も 、 そう じゃ と も 。 まもなく お目にかかれる と 思ってました よ 、ハリー・ポッターさん 」ハリー の こと を もう 知っている 。 「お母さん と 同じ 目 を して いなさる 。 あの 子 が ここ に 来て 、最初の 杖 を 買って いった の が ほんの 昨日 の こと の ようじゃ 。 あの 杖 は 二十六 センチ の 長さ 。 柳 の 木 で できて いて 、振りやすい 、妖精 の 呪文 に は ぴったりの 杖 じゃった 」オリバンダー 老人 は さらに ハリー に 近寄った 。 ハリー は 老人 が 瞬き して くれたら いい のに と 思った 。 銀色 に 光る 目 が 少し 気味 悪かった のだ 。

「お 父さん の 方 は マホガニー の 杖 が 気に入られて な 。 二十八 センチ の よく しなる 杖 じゃった 。 どれ より 力 が あって 変身 術 に は 最高 じゃ 。 いや 、父上 が 気に入った と言う たが ……実は もちろん 、杖 の 方 が 持ち主 の 魔法使い を 選ぶ のじゃ よ 」

オリバンダー 老人 が 、ほとんど 鼻 と 鼻 が くっつく ほど に 近寄ってきた ので 、ハリー に は 自分 の 姿 が 老人 の 霧 の ような 瞳 の 中 に 映っている の が 見えた 。

「それ で 、これ が 例の ……」

老人 は 白く 長い 指 で 、ハリー の 額 の 稲妻型 の 傷跡 に ふれた 。

「悲しい こと に 、この 傷 を つけた の も 、わし の 店 で 売った 杖 じゃ 」静かな 言い方 だった 。

「三十四 センチ も あって な 。 イチイ の 木 で できた 強力な 杖 じゃ 。 とても 強い が 、間違った 者 の 手 に ……そう 、もし あの 杖 が 世の中 に 出て 、何 を する の か わし が 知って おれば のう ……」

老人 は 頭 を 振り 、そして 、ハグリッド に 気づいた ので 、ハリー は ほっと した 。

「 ルビウス ! ルビウス ・ハグリッド じ や ない か ! また 会えて 嬉しい よ ……四十一 センチ の 樫 の 木 。 よく 曲がる 。 そう じゃった な 」「ああ 、じい さま 。 その とおり です 」

「いい 杖 じゃった 。 あれ は 。 じゃ が 、おまえ さん が 退学 に なった 時 、真っ二つ に 折られて し も うたのじゃった な ? オリバンダー 老人 は 急に 険しい 口調 に なった 。

「いや ……あの 、祈られました 。 はい 」

ハグリッド は 足 を モジモジ させ ながら 答えた 。

「でも 、まだ 折れた 杖 を 持ってます 」ハグリッド は 威勢 よく 言った 。

「じゃ が 、まさか 使って は おる まい の ? 」オリバンダー 老人 は ピシャリ と 言った 。

「 とんでもない 」

ハグリッド は あわてて 答えた が 、そう 言い ながら ピンク の 傘 の 柄 を ギュッと 強く 握りしめた のを ハリー は 見逃さ なかった 。

「ふ ー む 」

オリバンダー 老人 は 探る ような 目 で ハグリッド を 見た 。

「さて 、それでは ポッター さん 。 拝見 しましょう か 」老人 は 銀色 の 目盛り の 入った 長い 巻尺 を ポケット から 取り出した 。 「どちら が 杖 腕 です かな ?

「あ 、あの 、僕 、右利き です 」

「腕 を 伸ばして 。 そう そう 」

老人 は ハリー の 肩 から 指先 、手首 から 肘 、肩 から 床 、膝 から 脇の下 、頭 の 周り 、と 寸法 を 採った 。 測り ながら 老人 は 話 を 続けた 。

「ポッター さん 。 オリバンダー の 杖 は 一 本 一 本 、強力 な 魔力 を 持った 物 を 芯 に 使って おります 。 一角獣 の たてがみ 、不死鳥 の 尾 の 羽根 、ドラゴン の 心臓 の 琴線 。 一角獣 も 、ドラゴン も 、不死鳥 も みな それぞれ に 違う のじゃ から 、オリバンダー の 杖 に は 一 つ として 同じ 杖 は ない 。 もちろん 、他の 魔法使い の 杖 を 使って も 、決して 自分 の 杖 ほど の 力 は 出せ ない わけじゃ 」

ハリー は 巻尺 が 勝手に 鼻 の 穴 の 間 を 測って いる のに ハッと 気 が ついた 。 オリバンダー 老人 は 棚 の 間 を 飛び回って 、箱 を 取り出して いた 。

「もう よい 」と 言う と 、巻尺 は 床 の 上 に 落ちて 、クシャクシャ と 丸まった 。

「では 、ポッター さん 。 これ を お 試し ください 。 ぶな の 木 に ドラゴン の 心臓 の 琴線 。 二十三 センチ 、良質 で しなり が よい 。 手 に 取って 、振って ごらん なさい 」

ハリー は 杖 を 取り 、なんだか 気はずかしく 思い ながら 杖 を ちょっと 振って みた 。 オリバンダー 老人 は あっという間 に ハリー の 手 から その 杖 を もぎ取って しまった 。

「楓 に 不死鳥 の 羽根 。 十八 センチ 、振り 応え が ある 。 どうぞ 」

ハリー は 試して みた ……しかし 、振り上げる か 上げ ない うちに 、老人 が ひったくって しまった 。

「だめ だ 。 いかん ──次 は 黒檀 と 一角獣 の たてがみ 。 二十二 センチ 、バネ の よう 。 さあ 、どうぞ 試して ください 」

ハリー は 、次々 と 試して みた 。 いったい オリバンダー 老人 は 何 を 期待 している の か さっぱり わからない 。 試し 終わった 杖 の 山 が 古い 椅子 の 上 に だんだん 高く 積み上げられて ゆく 。 それなのに 、棚 から 新しい 杖 を 下ろす たびに 、老人 は ますます 嬉しそうな 顔 を した 。

「難しい 客 じゃ の 。 え ? 心配 なさる な 。 必ず ピッタリ 合う の を お 探し します で な 。 ……さて 、次 は どう する かな ……おお 、そう じゃ ……めったに ない 組 わせ じゃ が 、柊 と 不死鳥 の 羽根 、二十八 センチ 、良質 で しなやか 」

ハリー は 杖 を 手 に 取った 。 急に 指先 が 暖かく なった 。 杖 を 頭 の 上 まで 振り上げ 、埃っぽい 店内 の 空気 を 切る ように ヒュッ と 振り下ろした 。 する と 、杖 の 先 から 赤 と 金色 の 火花 が 花火 の ように 流れ出し 、光 の 玉 が 踊り ながら 壁 に 反射した 。 ハグリッド は 「オーッ 」と 声 を 上げて 手 を 叩き 、オリバンダー 老人 は 「ブラボー ! 」と 叫んだ 。

「 すばらしい 。 いや 、よかった 。 さて 、さて 、さて ……不思議な こと も ある もの よ ……まったく もって 不思議な ……」

老人 は ハリー の 杖 を 箱 に 戻し 、茶色 の 紙 で 包み ながら 、まだ ブツブツ と 繰り返して いた 。

「 不思議 じゃ …… 不思議 じゃ ……」

「あの う 。 何 が そんなに 不思議な んです か 」と ハリー が 聞いた 。

オリバンダー 老人 は 淡い 色 の 目 で ハリー を ジッと 見た 。

「ポッター さん 。 わし は 自分 の 売った 杖 は すべて 覚えて おる 。 全部 じゃ 。 あなた の 杖 に 入っている 不死鳥 の 羽根 は な 、同じ 不死鳥 が 尾羽根 を もう 一枚 だけ 提供した ……たった 一枚 だけ じゃが 。 あなた が この 杖 を 持つ 運命 に あった と は 、不思議な こと じや 。 兄弟 羽 が ……なんと 、兄弟 杖 が その 傷 を 負わ せた と いう のに ……」

ハリー は 息 を のんだ 。

「 さよう 。 三十四 センチ の イチイ の 木 じゃった 。 こういう こと が 起こる と は 、不思議な もの じゃ 。 杖 は 持ち主 の 魔法使い を 選ぶ 。 そういう こと じゃ ……。 ポッター さん 、あなた は きっと 偉大な こと を なさる に ちがいない ……。 『名前 を 言って は いけない あの 人 』も ある 意味 で は 、偉大な こと を した わけじゃ ……恐ろしい こと じゃった が 、偉大に は 違いない 」ハリー は 身震い した 。

オリバンダー 老人 が あまり 好き に なれ ない 気 が した 。 杖 の 代金 に 七 ガリオン を 支払い 、オリバンダー 老人 の お辞儀 に 送られて 二人 は 店 を 出た 。 夕暮 近く の 太陽 が 空 に 低く かかっていた 。 ハリー と ハグリッド は ダイアゴン 横丁 を 、元来た 道 へ と 歩き 、壁 を 抜けて 、もう 人気 の なくなった 「漏れ鍋 」に 戻った 。 ハリー は 黙りこくって いた 。

変な 形 の 荷物 を どっさり 抱え 、膝 の 上 で 雪 の ように 白い ふくろう が 眠っている 格好 の せい で 、地下鉄 の 乗客 が 唖然と して 自分 の こと を 見つめている こと に ハリー は まったく 気づか なかった 。 パディントン 駅 で 地下鉄 を 降り 、エスカレーター で 駅 の 構内 に 出た 。 ハグリッド に 肩 を 叩かれて 、ハリー は やっと 自分 が どこ に いる の か に 気づいた 。 「電車 が 出る まで 何 か 食べる 時間 が ある ぞ 」

ハグリッド が 言った 。

ハグリッド は ハリー に ハンバーガー を 買って やり 、二人 は プラスチック の 椅子 に 座って 食べた 。 ハリー は 周り を 眺めた 。 なぜ か すべて が ちぐはぐに 見える 。

「大丈夫 か ? なんだか ずいぶん 静か だが 」と ハグリッド が 声 を かけた 。

ハリー は 何 と 説明 すれば よい か わから なかった 。 こんなに すばらしい 誕生日 は 初めて だった ……それなのに ……ハリー は 言葉 を 探す ように ハンバーガー を かじった 。

「みんな が 僕 の こと を 特別 だって 思って る 」

ハリー は やっと 口 を 開いた 。

「『漏れ 鍋 』の みんな 、クィレル 先生 も 、オリバンダー さん も ……でも 、僕 、魔法 の こと は 何も 知ら ない 。 それなのに 、どうして 僕 に 偉大な こと を 期待 できる ? 有名 だって 言う けれど 、何 が 僕 を 有名に した か さえ 覚えて いない んだ よ 。 ヴォル ……あ 、ごめん ……僕 の 両親 が 死んだ 夜 だ けど 、僕 、何 が 起こった の かも 覚えて いない 」ハグリッド は テーブル の むこう 側 から 身 を 乗り出した 。 モジャモジャ の ひげ と 眉毛 の 奥 に 、やさしい 笑顔 が あった 。

「ハリー 、心配 する な 。 すぐに 様子 が わかって くる 。 みんな が ホグワーツ で 一 から 始める んだ よ 。 大丈夫 。 ありのまま で ええ 。 そりゃ 大変な の は わかる 。 おまえ さん は 選ば れた んだ 。 大変な こと だ 。 だが な 、ホグワーツ は 、楽しい 。 俺 も 楽しかった 。 今 も 実は 楽しい よ 」

ハグリッド は 、ハリー が ダーズリー 家 に 戻る 電車 に 乗り込む の を 手伝った 。

「ホグワーツ 行き の 切符 だ 」

ハグリッド は 封筒 を 手渡した 。

「九月 一日 ──キングズ ・クロス 駅 発 ──全部 切符 に 書いて ある 。 ダーズリー の とこ で まずい こと が あったら 、おまえ さん の ふくろう に 手紙 を 持たせて 寄こしな 。 ふくろう が 俺 の いる ところ を 探し出して くれる 。 ……じゃあ な 。 ハリー 。 また すぐ 会おう 」

電車 が 走り出した 。 ハリー は ハグリッド の 姿 が 見え なく なる まで 見て いたかった 。 座席 から 立ち上がり 、窓 に 鼻 を 押しつけて 見て いた が 、瞬き を した とたん 、ハグリッド の 姿 は 消えて いた 。

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