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【朗読】声を便りに、声を頼りに, 萩原朔太郎、猫町(1)

萩原 朔 太郎 、猫 町(1)

猫 町

散文 詩 風 な 小説

萩原 朔 太郎

蠅 を 叩き つぶした ところ で 、 蠅 の 「 物 そのもの 」 は 死に は し ない 。 単に 蠅 の 現象 を つぶした ばかりだ 。 ―― ショウペンハウエル 。

旅 へ の 誘い が 、 次第に 私 の 空想 から 消えて 行った 。 昔 は ただ それ の 表 象 、 汽車 や 、 汽船 や 、 見知らぬ 他国 の 町 々 やを 、 イメージ する だけ でも 心 が 躍った 。 しかる に 過去 の 経験 は 、 旅 が 単なる 「 同一 空間 に おける 同一 事物 の 移動 」 に すぎ ない こと を 教えて くれた 。 何 処 へ 行って 見て も 、 同じ ような 人間 ばかり 住んで おり 、 同じ ような 村 や 町 や で 、 同じ ような 単調な 生活 を 繰り返して いる 。 田舎 の どこ の 小さな 町 でも 、 商人 は 店先 で 算盤 を 弾き ながら 、 終日 白っぽい 往来 を 見て 暮して いる し 、 官吏 は 役所 の 中 で 煙草 を 吸い 、 昼 飯 の 菜 の こと など 考え ながら 、 来る 日 も 来る 日 も 同じ ように 、 味気ない 単調な 日 を 暮し ながら 、 次第に 年老いて 行く 人生 を 眺めて いる 。 旅 へ の 誘い は 、 私 の 疲労 した 心 の 影 に 、 とある 空地 に 生えた 青 桐 みたいな 、 無限の 退屈 した 風景 を 映像 さ せ 、 どこ でも 同 一 性 の 法則 が 反 覆して いる 、 人間 生活 へ の 味気ない 嫌 厭 を 感じ させる ばかりに なった 。 私 は もはや 、 どんな 旅 に も 興味 と ロマンス を なくして しまった 。

久しい 以前 から 、 私 は 私 自身 の 独特な 方法 に よる 、 不思議な 旅行 ばかり を 続けて いた 。 その 私 の 旅行 と いう の は 、 人 が 時空 と 因果 の 外 に 飛翔 し 得る 唯一 の 瞬間 、 即 ち あの 夢 と 現実 と の 境界 線 を 巧みに 利用 し 、 主観 の 構成 する 自由な 世界 に 遊ぶ のである 。 と 言って しまえば 、 もはや この上 、 私 の 秘密に ついて 多く 語る 必要 は ないで あろう 。 ただ 私 の 場合 は 、 用具 や 設備 に 面倒な 手間 が かかり 、 かつ 日本 で 入手 の 困難な 阿 片 の 代り に 、 簡単な 注射 や 服用 で すむ モルヒネ 、 コカイン の 類 を 多く 用いた と いう こと だけ を 附記 して おこう 。 そうした 麻酔 に よる エクスタシイ の 夢 の 中 で 、 私 の 旅行 した 国々 の こと に ついて は 、 此所 に 詳しく 述べる 余裕 が ない 。 だがたいてい の 場合 、 私 は 蛙 ども の 群がって る 沼沢 地方 や 、 極地 に 近く 、 ペンギン 鳥 の いる 沿海 地方 など を 彷徊 した 。 それ ら の 夢 の 景色 の 中 で は 、 すべて の 色彩 が 鮮やかな 原色 を して 、 海 も 、 空 も 、 硝子 の ように 透明な 真 青 だった 。 醒 め て の 後 に も 、 私 は その ヴィジョン を 記憶 して おり 、 しばしば 現実 の 世界 の 中 で 、 異様 の 錯覚 を 起したり した 。

薬物 に よる こうした 旅行 は 、 だが 私 の 健康 を ひどく 害した 。 私 は 日々 に 憔悴 し 、 血色 が 悪く なり 、 皮膚 が 老衰 に 澱んで しまった 。 私 は 自分 の 養生 に 注意 し 始めた 。 そして 運動 の ため の 散歩 の 途中 で 、 或る 日 偶然 、 私 の 風変りな 旅行 癖 を 満足 さ せ 得る 、 一 つ の 新しい 方法 を 発見 した 。 私 は 医師 の 指定 して くれた 注意 に よって 、 毎日 家 から 四 、 五十 町 ( 三十 分 から 一 時間 位 ) の 附近 を 散歩 して いた 。 その 日 も やはり 何時も 通り に 、 ふだん の 散歩 区域 を 歩いて いた 。 私 の 通る 道筋 は 、 いつも 同じ ように 決まって いた 。 だが その 日 に 限って 、 ふと 知ら ない 横丁 を 通り抜けた 。 そして すっかり 道 を まちがえ 、 方角 を 解ら なく して しまった 。 元来 私 は 、 磁石 の 方角 を 直 覚 する 感 官 機能 に 、 何 か の 著 る しい 欠陥 を もった 人間 である 。 その ため 道 の おぼえ が 悪く 、 少し 慣れ ない 土地 へ 行く と 、 すぐ 迷 児 に なって しまった 。 その 上 私 に は 、 道 を 歩き ながら 瞑想 に 耽 る 癖 が あった 。 途中 で 知人 に 挨拶 されて も 、 少しも 知ら ず に いる 私 は 、 時々 自分 の 家 の すぐ 近所 で 迷 児 に なり 、 人 に 道 を きいて 笑われたり する 。 かつて 私 は 、 長く 住んで いた 家 の 廻り を 、 塀 に 添う て 何 十 回 も ぐるぐる と 廻り 歩いた こと が あった 。 方向 観念 の 錯誤 から 、 すぐ 目の前 に ある 門 の 入口 が 、 どうしても 見つから なかった のである 。 家人 は 私 が 、 まさしく 狐 に 化かさ れた のだ と 言った 。 狐 に 化かさ れる と いう 状態 は 、 つまり 心理 学 者 の いう 三半規管 の 疾病 である のだろう 。 なぜなら 学者 の 説 に よれば 、 方角 を 知覚 する 特殊の 機能 は 、 耳 の 中 に ある 三半規管 の 作用 だ と 言う こと だ から 。

余 事 は とにかく 、 私 は 道 に 迷って 困惑 し ながら 、 当 推量 で 見当 を つけ 、 家 の 方 へ 帰ろう と して 道 を 急いだ 。 そして 樹木 の 多い 郊外 の 屋敷 町 を 、 幾 度 か ぐるぐる 廻った あと で 、 ふと 或る 賑やかな 往来 へ 出た 。 それ は 全く 、 私 の 知ら ない 何 所 か の 美しい 町 であった 。 街路 は 清潔に 掃除 されて 、 鋪石 が しっとり と 露 に 濡れて いた 。 どの 商店 も 小綺麗に さっぱり して 、 磨いた 硝子 の 飾 窓 に は 、 様々の 珍しい 商品 が 並んで いた 。 珈琲 店 の 軒 に は 花 樹 が 茂り 、 町 に 日 蔭 の ある 情 趣 を 添えて いた 。 四つ辻 の 赤い ポスト も 美しく 、 煙草 屋 の 店 に いる 娘 さえ も 、 杏 の ように 明るくて 可憐であった 。 かつて 私 は 、 こんな 情 趣 の 深い 町 を 見た こと が なかった 。 一体 こんな 町 が 、 東京 の 何 所 に あった のだろう 。 私 は 地理 を 忘れて しまった 。 しかし 時間 の 計算 から 、 それ が 私 の 家 の 近所 である こと 、 徒歩 で 半 時間 位 しか 離れて いない いつも の 私 の 散歩 区域 、 もしくは その すぐ 近い 範囲 に ある こと だけ は 、 確実に 疑い なく 解って いた 。 しかも そんな 近い ところ に 、 今 まで 少しも 人 に 知れ ず に 、 どうして こんな 町 が あった のだろう ?

私 は 夢 を 見て いる ような 気 が した 。 それ が 現実 の 町 で は なくって 、 幻 燈 の 幕 に 映った 、 影絵 の 町 の ように 思わ れた 。 だが その 瞬間 に 、 私 の 記憶 と 常識 が 回復 した 。 気 が 付いて 見れば 、 それ は 私 の よく 知っている 、 近所 の 詰ら ない 、 あり ふれた 郊外 の 町 な のである 。 いつも の ように 、 四 ツ 辻 に ポスト が 立って 、 煙草 屋 に は 胃 病 の 娘 が 坐って いる 。 そして 店 々 の 飾 窓 に は 、 いつも の 流行 おくれ の 商品 が 、 埃っぽく 欠 伸 を して 並んで いる し 、 珈琲 店 の 軒 に は 、 田舎 らしく 造花 の アーチ が 飾られて いる 。 何もかも 、 すべて 私 が 知っている 通り の 、 いつも の 退屈な 町 に すぎ ない 。 一 瞬間 の 中 に 、 すっかり 印象 が 変って しまった 。 そして この 魔法 の ような 不思議 の 変化 は 、 単に 私 が 道 に 迷って 、 方位 を 錯覚 した こと に だけ 原因 して いる 。 いつも 町 の 南 は ずれ に ある ポスト が 、 反対の 入口 である 北 に 見えた 。 いつも は 左側 に ある 街路 の 町 家 が 、 逆に 右側 の 方 へ 移って しまった 。 そして ただ この 変化 が 、 すべて の 町 を 珍しく 新しい 物 に 見せた のだった 。


萩原 朔 太郎 、猫 町(1) はぎはら|さく|たろう|ねこ|まち Sakutaro Hagiwara, Nekomachi (1) Sakutaro Hagiwara, Ciudad de Gatos (1).

猫 町 ねこ|まち Cidade dos gatos

散文 詩 風 な 小説 さんぶん|し|かぜ||しょうせつ Prosa, poesia, romances.

萩原 朔 太郎 はぎはら|さく|たろう Hagiwara Sakutaro

蠅 を 叩き つぶした ところ で 、 蠅 の 「 物 そのもの 」 は 死に は し ない 。 はえ||たたき||||はえ||ぶつ|その もの||しに||| O facto de se abater uma mosca não mata a mosca "em si". 単に 蠅 の 現象 を つぶした ばかりだ 。 たんに|はえ||げんしょう||| Limitámo-nos a esmagar o fenómeno das moscas. ―― ショウペンハウエル 。 -- Schopenhauer .

旅 へ の 誘い が 、 次第に 私 の 空想 から 消えて 行った 。 たび|||さそい||しだいに|わたくし||くうそう||きえて|おこなった O convite para viajar foi-se desvanecendo gradualmente da minha imaginação. 昔 は ただ それ の 表 象 、 汽車 や 、 汽船 や 、 見知らぬ 他国 の 町 々 やを 、 イメージ する だけ でも 心 が 躍った 。 むかし|||||ひょう|ぞう|きしゃ||きせん||みしらぬ|たこく||まち||やお|いめーじ||||こころ||おどった Antigamente, era emocionante imaginar os símbolos, os comboios, os navios a vapor, as vilas e cidades em terras estranhas. しかる に 過去 の 経験 は 、 旅 が 単なる 「 同一 空間 に おける 同一 事物 の 移動 」 に すぎ ない こと を 教えて くれた 。 ||かこ||けいけん||たび||たんなる|どういつ|くうかん|||どういつ|じぶつ||いどう||||||おしえて| No entanto, as experiências do passado ensinaram-nos que viajar não é mais do que "o movimento da mesma coisa no mesmo espaço". 何 処 へ 行って 見て も 、 同じ ような 人間 ばかり 住んで おり 、 同じ ような 村 や 町 や で 、 同じ ような 単調な 生活 を 繰り返して いる 。 なん|しょ||おこなって|みて||おなじ||にんげん||すんで||おなじ||むら||まち|||おなじ||たんちょうな|せいかつ||くりかえして| Onde quer que vá, encontrará as mesmas pessoas a viver nas mesmas aldeias e cidades, repetindo o mesmo estilo de vida monótono. 田舎 の どこ の 小さな 町 でも 、 商人 は 店先 で 算盤 を 弾き ながら 、 終日 白っぽい 往来 を 見て 暮して いる し 、 官吏 は 役所 の 中 で 煙草 を 吸い 、 昼 飯 の 菜 の こと など 考え ながら 、 来る 日 も 来る 日 も 同じ ように 、 味気ない 単調な 日 を 暮し ながら 、 次第に 年老いて 行く 人生 を 眺めて いる 。 いなか||||ちいさな|まち||しょうにん||みせさき||そろばん||はじき||しゅうじつ|しろ っぽい|おうらい||みて|くらして|||かんり||やくしょ||なか||たばこ||すい|ひる|めし||な||||かんがえ||くる|ひ||くる|ひ||おなじ||あじけない|たんちょうな|ひ||くらし||しだいに|としおいて|いく|じんせい||ながめて| Em todas as pequenas cidades do interior, os comerciantes passam o dia inteiro a jogar ao tabuleiro de aritmética nas suas lojas e a ver passar o trânsito branco, enquanto os funcionários se sentam nos seus gabinetes a fumar cigarros e a pensar nos legumes para o almoço, dia após dia, vivendo a mesma vida monótona e aborrecida, vendo-a envelhecer cada vez mais. 旅 へ の 誘い は 、 私 の 疲労 した 心 の 影 に 、 とある 空地 に 生えた 青 桐 みたいな 、 無限の 退屈 した 風景 を 映像 さ せ 、 どこ でも 同 一 性 の 法則 が 反 覆して いる 、 人間 生活 へ の 味気ない 嫌 厭 を 感じ させる ばかりに なった 。 たび|||さそい||わたくし||ひろう||こころ||かげ|||あきち||はえた|あお|きり||むげんの|たいくつ||ふうけい||えいぞう|||||どう|ひと|せい||ほうそく||はん|くつがえして||にんげん|せいかつ|||あじけない|いや|いと||かんじ|さ せる|| O convite para viajar apenas fez com que a minha mente cansada visualizasse paisagens aborrecidas sem fim, como a paulownia azul que crescia num certo terreno baldio, e fez-me sentir um desencanto insípido com a vida humana, onde as leis da mesmice são subvertidas por todo o lado. 私 は もはや 、 どんな 旅 に も 興味 と ロマンス を なくして しまった 。 わたくし||||たび|||きょうみ||ろまんす||| Perdi o interesse e o romance por qualquer tipo de viagem.

久しい 以前 から 、 私 は 私 自身 の 独特な 方法 に よる 、 不思議な 旅行 ばかり を 続けて いた 。 ひさしい|いぜん||わたくし||わたくし|じしん||どくとくな|ほうほう|||ふしぎな|りょこう|||つづけて| Há já algum tempo que viajo à minha maneira inimitável e misteriosa. その 私 の 旅行 と いう の は 、 人 が 時空 と 因果 の 外 に 飛翔 し 得る 唯一 の 瞬間 、 即 ち あの 夢 と 現実 と の 境界 線 を 巧みに 利用 し 、 主観 の 構成 する 自由な 世界 に 遊ぶ のである 。 |わたくし||りょこう|||||じん||じくう||いんが||がい||ひしょう||える|ゆいいつ||しゅんかん|そく|||ゆめ||げんじつ|||きょうかい|せん||たくみに|りよう||しゅかん||こうせい||じゆうな|せかい||あそぶ| As minhas viagens são os únicos momentos em que se pode voar para fora do tempo, do espaço e da causalidade, em que se pode explorar habilmente essa fronteira entre o sonho e a realidade, e brincar no mundo livre da composição do próprio sujeito. と 言って しまえば 、 もはや この上 、 私 の 秘密に ついて 多く 語る 必要 は ないで あろう 。 |いって|||このうえ|わたくし||ひみつに||おおく|かたる|ひつよう||| Dito isto, já não é necessário dizer muito mais sobre os meus segredos. ただ 私 の 場合 は 、 用具 や 設備 に 面倒な 手間 が かかり 、 かつ 日本 で 入手 の 困難な 阿 片 の 代り に 、 簡単な 注射 や 服用 で すむ モルヒネ 、 コカイン の 類 を 多く 用いた と いう こと だけ を 附記 して おこう 。 |わたくし||ばあい||ようぐ||せつび||めんどうな|てま||||にっぽん||にゅうしゅ||こんなんな|おもね|かた||かわり||かんたんな|ちゅうしゃ||ふくよう|||もるひね|こかいん||るい||おおく|もちいた||||||ふき|| Gostaria de acrescentar que, no meu caso, em vez de utilizar as ferramentas e o equipamento, que eram demorados e difíceis de obter no Japão, utilizei frequentemente morfina e cocaína, que podem ser facilmente injectadas ou administradas. そうした 麻酔 に よる エクスタシイ の 夢 の 中 で 、 私 の 旅行 した 国々 の こと に ついて は 、 此所 に 詳しく 述べる 余裕 が ない 。 |ますい|||||ゆめ||なか||わたくし||りょこう||くにぐに||||||これところ||くわしく|のべる|よゆう|| Não tenho tempo para entrar em pormenores sobre os países para onde viajei nestes sonhos de êxtase anestésico. だがたいてい の 場合 、 私 は 蛙 ども の 群がって る 沼沢 地方 や 、 極地 に 近く 、 ペンギン 鳥 の いる 沿海 地方 など を 彷徊 した 。 だが たいてい||ばあい|わたくし||かえる|||むらがって||ぬまさわ|ちほう||きょくち||ちかく|ぺんぎん|ちょう|||えんかい|ちほう|||ほうかい| Mas, na maior parte do tempo, vagueei pelos pântanos e brejos repletos de rãs, ou pelas zonas costeiras perto dos pólos com as suas aves pinguins. それ ら の 夢 の 景色 の 中 で は 、 すべて の 色彩 が 鮮やかな 原色 を して 、 海 も 、 空 も 、 硝子 の ように 透明な 真 青 だった 。 |||ゆめ||けしき||なか|||||しきさい||あざやかな|げんしょく|||うみ||から||がらす|||とうめいな|まこと|あお| Nestas paisagens de sonho, todas as cores eram cores primárias brilhantes, e o mar e o céu eram azuis claros como vidro. 醒 め て の 後 に も 、 私 は その ヴィジョン を 記憶 して おり 、 しばしば 現実 の 世界 の 中 で 、 異様 の 錯覚 を 起したり した 。 せい||||あと|||わたくし|||||きおく||||げんじつ||せかい||なか||いよう||さっかく||おこしたり| Mesmo depois de ter acordado, ainda me lembrava das visões e tinha frequentemente ilusões bizarras no mundo real.

薬物 に よる こうした 旅行 は 、 だが 私 の 健康 を ひどく 害した 。 やくぶつ||||りょこう|||わたくし||けんこう|||がいした No entanto, estas viagens de droga foram muito prejudiciais para a minha saúde. 私 は 日々 に 憔悴 し 、 血色 が 悪く なり 、 皮膚 が 老衰 に 澱んで しまった 。 わたくし||ひび||しょうすい||けっしょく||わるく||ひふ||ろうすい||よどんで| Estava cada vez mais exausta todos os dias, a minha tez estava mais pálida e a minha pele envelhecia. 私 は 自分 の 養生 に 注意 し 始めた 。 わたくし||じぶん||ようじょう||ちゅうい||はじめた Comecei a prestar atenção aos meus próprios cuidados de saúde. そして 運動 の ため の 散歩 の 途中 で 、 或る 日 偶然 、 私 の 風変りな 旅行 癖 を 満足 さ せ 得る 、 一 つ の 新しい 方法 を 発見 した 。 |うんどう||||さんぽ||とちゅう||ある|ひ|ぐうぜん|わたくし||ふうがわりな|りょこう|くせ||まんぞく|||える|ひと|||あたらしい|ほうほう||はっけん| Então, um dia, durante uma caminhada para fazer exercício, descobri uma nova forma de satisfazer os meus excêntricos hábitos de viagem. 私 は 医師 の 指定 して くれた 注意 に よって 、 毎日 家 から 四 、 五十 町 ( 三十 分 から 一 時間 位 ) の 附近 を 散歩 して いた 。 わたくし||いし||してい|||ちゅうい|||まいにち|いえ||よっ|ごじゅう|まち|さんじゅう|ぶん||ひと|じかん|くらい||ふきん||さんぽ|| Passei a fazer caminhadas diárias nas imediações de 40-50 municípios (30 minutos a uma hora) da minha casa, seguindo as precauções prescritas pelo médico. その 日 も やはり 何時も 通り に 、 ふだん の 散歩 区域 を 歩いて いた 。 |ひ|||いつも|とおり||||さんぽ|くいき||あるいて| Nesse dia, como de costume, estava a caminhar na minha zona normal de passeio. 私 の 通る 道筋 は 、 いつも 同じ ように 決まって いた 。 わたくし||とおる|みちすじ|||おなじ||きまって| O meu caminho foi sempre o mesmo. だが その 日 に 限って 、 ふと 知ら ない 横丁 を 通り抜けた 。 ||ひ||かぎって||しら||よこちょう||とおりぬけた Mas só nesse dia, de repente, dei por mim a passar por um beco desconhecido. そして すっかり 道 を まちがえ 、 方角 を 解ら なく して しまった 。 ||どう|||ほうがく||わから||| Enganou-se no caminho e perdeu a orientação. 元来 私 は 、 磁石 の 方角 を 直 覚 する 感 官 機能 に 、 何 か の 著 る しい 欠陥 を もった 人間 である 。 がんらい|わたくし||じしゃく||ほうがく||なお|あきら||かん|かん|きのう||なん|||ちょ|||けっかん|||にんげん| Originalmente, sou uma pessoa com alguns defeitos significativos na função sensorial de intuir a direção de um íman. その ため 道 の おぼえ が 悪く 、 少し 慣れ ない 土地 へ 行く と 、 すぐ 迷 児 に なって しまった 。 ||どう||||わるく|すこし|なれ||とち||いく|||まよ|じ||| Por isso, tinha dificuldade em lembrar-se do caminho e, se fosse a sítios desconhecidos, depressa se tornava uma criança perdida. その 上 私 に は 、 道 を 歩き ながら 瞑想 に 耽 る 癖 が あった 。 |うえ|わたくし|||どう||あるき||めいそう||たん||くせ|| Além disso, tinha o hábito de meditar enquanto caminhava pela estrada. 途中 で 知人 に 挨拶 されて も 、 少しも 知ら ず に いる 私 は 、 時々 自分 の 家 の すぐ 近所 で 迷 児 に なり 、 人 に 道 を きいて 笑われたり する 。 とちゅう||ちじん||あいさつ|さ れて||すこしも|しら||||わたくし||ときどき|じぶん||いえ|||きんじょ||まよ|じ|||じん||どう|||えみわれたり| Por vezes, torno-me uma criança perdida nas imediações da minha casa e as pessoas riem-se de mim quando peço indicações. かつて 私 は 、 長く 住んで いた 家 の 廻り を 、 塀 に 添う て 何 十 回 も ぐるぐる と 廻り 歩いた こと が あった 。 |わたくし||ながく|すんで||いえ||まわり||へい||そう||なん|じゅう|かい||||まわり|あるいた||| Costumava dar dezenas de voltas às paredes da minha casa há muito estabelecida. 方向 観念 の 錯誤 から 、 すぐ 目の前 に ある 門 の 入口 が 、 どうしても 見つから なかった のである 。 ほうこう|かんねん||さくご|||めのまえ|||もん||いりぐち|||みつから|| Devido a um erro de orientação, não conseguiram encontrar a entrada do portão que estava mesmo à sua frente. 家人 は 私 が 、 まさしく 狐 に 化かさ れた のだ と 言った 。 かじん||わたくし|||きつね||ばかさ||||いった O senhorio disse que eu tinha sido, de facto, possuído por uma raposa. 狐 に 化かさ れる と いう 状態 は 、 つまり 心理 学 者 の いう 三半規管 の 疾病 である のだろう 。 きつね||ばかさ||||じょうたい|||しんり|まな|もの|||さんはんきかん||しっぺい|| A condição de ser raposa é provavelmente aquilo a que os psicólogos chamam uma doença do canal semicircular. なぜなら 学者 の 説 に よれば 、 方角 を 知覚 する 特殊の 機能 は 、 耳 の 中 に ある 三半規管 の 作用 だ と 言う こと だ から 。 |がくしゃ||せつ|||ほうがく||ちかく||とくしゅの|きのう||みみ||なか|||さんはんきかん||さよう|||いう||| Isto porque, segundo os estudiosos, a função especial da perceção da direção se deve à ação dos canais semicirculares dos ouvidos.

余 事 は とにかく 、 私 は 道 に 迷って 困惑 し ながら 、 当 推量 で 見当 を つけ 、 家 の 方 へ 帰ろう と して 道 を 急いだ 。 よ|こと|||わたくし||どう||まよって|こんわく|||とう|すいりょう||けんとう|||いえ||かた||かえろう|||どう||いそいだ De qualquer modo, estava perdido e desorientado, mas adivinhei para onde ia e apressei-me a regressar a casa. そして 樹木 の 多い 郊外 の 屋敷 町 を 、 幾 度 か ぐるぐる 廻った あと で 、 ふと 或る 賑やかな 往来 へ 出た 。 |じゅもく||おおい|こうがい||やしき|まち||いく|たび|||まわった||||ある|にぎやかな|おうらい||でた Depois de mais algumas voltas à zona residencial suburbana arborizada, encontrei-me subitamente numa zona de trânsito intenso. それ は 全く 、 私 の 知ら ない 何 所 か の 美しい 町 であった 。 ||まったく|わたくし||しら||なん|しょ|||うつくしい|まち| Era uma cidade muito bonita, onde nunca tinha estado antes. 街路 は 清潔に 掃除 されて 、 鋪石 が しっとり と 露 に 濡れて いた 。 がいろ||せいけつに|そうじ|さ れて|ほいし||||ろ||ぬれて| As ruas estavam limpas e as pedras do pavimento estavam húmidas de orvalho. どの 商店 も 小綺麗に さっぱり して 、 磨いた 硝子 の 飾 窓 に は 、 様々の 珍しい 商品 が 並んで いた 。 |しょうてん||こぎれいに|||みがいた|がらす||かざ|まど|||さまざまの|めずらしい|しょうひん||ならんで| Todas as lojas estavam limpas e arrumadas, com montras de vidro polido que exibiam uma vasta gama de produtos invulgares. 珈琲 店 の 軒 に は 花 樹 が 茂り 、 町 に 日 蔭 の ある 情 趣 を 添えて いた 。 こーひー|てん||のき|||か|き||しげり|まち||ひ|おん|||じょう|おもむき||そえて| As árvores floridas nos beirais dos cafés dão um toque de sombra à cidade. 四つ辻 の 赤い ポスト も 美しく 、 煙草 屋 の 店 に いる 娘 さえ も 、 杏 の ように 明るくて 可憐であった 。 よつつじ||あかい|ぽすと||うつくしく|たばこ|や||てん|||むすめ|||あんず|||あかるくて|かれんであった O poste vermelho no cruzamento era lindo, e até a rapariga da tabacaria era tão brilhante e bonita como um alperce. かつて 私 は 、 こんな 情 趣 の 深い 町 を 見た こと が なかった 。 |わたくし|||じょう|おもむき||ふかい|まち||みた||| Nunca tinha visto uma cidade tão pitoresca. 一体 こんな 町 が 、 東京 の 何 所 に あった のだろう 。 いったい||まち||とうきょう||なん|しょ||| Em que sítio de Tóquio é que havia uma cidade assim? 私 は 地理 を 忘れて しまった 。 わたくし||ちり||わすれて| Esqueci-me da minha geografia. しかし 時間 の 計算 から 、 それ が 私 の 家 の 近所 である こと 、 徒歩 で 半 時間 位 しか 離れて いない いつも の 私 の 散歩 区域 、 もしくは その すぐ 近い 範囲 に ある こと だけ は 、 確実に 疑い なく 解って いた 。 |じかん||けいさん||||わたくし||いえ||きんじょ|||とほ||はん|じかん|くらい||はなれて||||わたくし||さんぽ|くいき||||ちかい|はんい||||||かくじつに|うたがい||わかって| No entanto, pelos cálculos de tempo, sabia sem dúvida que era no meu bairro, na minha zona habitual de passeio, que fica apenas a meia hora a pé, ou muito perto disso. しかも そんな 近い ところ に 、 今 まで 少しも 人 に 知れ ず に 、 どうして こんな 町 が あった のだろう ? ||ちかい|||いま||すこしも|じん||しれ|||||まち||| Como é que uma cidade destas podia existir tão perto sem ser notada?

私 は 夢 を 見て いる ような 気 が した 。 わたくし||ゆめ||みて|||き|| Sentia-me como se estivesse a sonhar. それ が 現実 の 町 で は なくって 、 幻 燈 の 幕 に 映った 、 影絵 の 町 の ように 思わ れた 。 ||げんじつ||まち|||なく って|まぼろし|とも||まく||うつった|かげえ||まち|||おもわ| Não era uma cidade real, mas uma cidade sombria reflectida na cortina de uma luz fantasma. だが その 瞬間 に 、 私 の 記憶 と 常識 が 回復 した 。 ||しゅんかん||わたくし||きおく||じょうしき||かいふく| Mas, nesse momento, a minha memória e o meu bom senso voltaram. 気 が 付いて 見れば 、 それ は 私 の よく 知っている 、 近所 の 詰ら ない 、 あり ふれた 郊外 の 町 な のである 。 き||ついて|みれば|||わたくし|||しっている|きんじょ||なじら||||こうがい||まち|| Encontrei-me numa típica cidade suburbana com uma vizinhança desordenada, que eu conhecia muito bem. いつも の ように 、 四 ツ 辻 に ポスト が 立って 、 煙草 屋 に は 胃 病 の 娘 が 坐って いる 。 |||よっ||つじ||ぽすと||たって|たばこ|や|||い|びょう||むすめ||すわって| Como de costume, há um posto em Yotsuji, e na tabacaria está sentada uma filha com problemas de estômago. そして 店 々 の 飾 窓 に は 、 いつも の 流行 おくれ の 商品 が 、 埃っぽく 欠 伸 を して 並んで いる し 、 珈琲 店 の 軒 に は 、 田舎 らしく 造花 の アーチ が 飾られて いる 。 |てん|||かざ|まど|||||りゅうこう|||しょうひん||ほこり っぽく|けつ|しん|||ならんで|||こーひー|てん||のき|||いなか||ぞうか||あーち||かざら れて| As montras das lojas estão repletas de produtos empoeirados e fora de moda e os beirais dos cafés estão decorados com arcos de flores artificiais em estilo campestre. 何もかも 、 すべて 私 が 知っている 通り の 、 いつも の 退屈な 町 に すぎ ない 。 なにもかも||わたくし||しっている|とおり||||たいくつな|まち||| Tudo é tal e qual como eu o conheço, apenas mais uma cidade aborrecida. 一 瞬間 の 中 に 、 すっかり 印象 が 変って しまった 。 ひと|しゅんかん||なか|||いんしょう||かわって| Num só momento, a impressão foi completamente transformada. そして この 魔法 の ような 不思議 の 変化 は 、 単に 私 が 道 に 迷って 、 方位 を 錯覚 した こと に だけ 原因 して いる 。 ||まほう|||ふしぎ||へんか||たんに|わたくし||どう||まよって|ほうい||さっかく|||||げんいん|| E esta mudança mágica deve-se unicamente ao facto de me ter perdido e de ter tido uma ilusão de direção. いつも 町 の 南 は ずれ に ある ポスト が 、 反対の 入口 である 北 に 見えた 。 |まち||みなみ|||||ぽすと||はんたいの|いりぐち||きた||みえた O posto, normalmente situado no extremo sul da cidade, era visível a norte, na entrada oposta. いつも は 左側 に ある 街路 の 町 家 が 、 逆に 右側 の 方 へ 移って しまった 。 ||ひだりがわ|||がいろ||まち|いえ||ぎゃくに|みぎがわ||かた||うつって| As casas da rua, normalmente à esquerda, passaram para a direita. そして ただ この 変化 が 、 すべて の 町 を 珍しく 新しい 物 に 見せた のだった 。 |||へんか||||まち||めずらしく|あたらしい|ぶつ||みせた| E foi precisamente esta mudança que fez com que toda a cidade parecesse invulgarmente nova.