1.第 一 夜 (3)
自分 は 苔 の 上 に 坐った 。 これ から 百 年 の 間 こうして 待って いる んだ な と 考え ながら 、腕組 を して 、丸い 墓石 を 眺めて いた 。 その うち に 、女 の 云った 通り 日 が 東 から 出た 。 大きな 赤い 日 であった 。 それ が また 女 の 云った 通り 、やがて 西 へ 落ちた 。 赤い まん まで のっと 落ちて 行った 。 一つ と 自分 は 勘定 した 。 ・・
しばらく する と また 唐紅 の 天道 が の そり と 上って 来た 。 そうして 黙って 沈んで しまった 。 二つ と また 勘定 した 。 ・・
自分 は こう 云う 風 に 一 つ 二 つ と 勘定して 行く うちに 、赤い 日 を いくつ 見た か 分らない 。 勘定 して も 、勘定 して も 、しつくせ ない ほど 赤い 日 が 頭 の 上 を 通り越して 行った 。 それ でも 百 年 が まだ 来ない 。 しまい に は 、苔 の 生えた 丸い 石 を 眺めて 、自分 は 女 に 欺さ れた ので は なかろう か と 思い出した 。 ・・
すると 石 の 下 から 斜 に 自分 の 方 へ 向いて 青い 茎 が 伸びて 来た 。 見る 間 に 長く なって ちょうど 自分 の 胸 の あたり まで 来て 留まった 。 と 思う と 、 すらりと 揺 ぐ 茎 の 頂 に 、 心 持 首 を 傾けて いた 細長い 一 輪 の 蕾 が 、 ふっくら と 弁 を 開いた 。 真白 な 百合 が 鼻 の 先 で 骨 に 徹える ほど 匂った 。 そこ へ 遥 の 上 から 、ぽたり と 露 が 落ちた ので 、花 は 自分 の 重み で ふらふら と 動いた 。 自分 は 首 を 前 へ 出して 冷たい 露 の 滴る 、白い 花弁 に 接吻 した 。 自分 が 百合 から 顔 を 離す 拍子 に 思わず 、遠い 空 を 見たら 、暁 の 星 が たった 一つ 瞬いて いた 。 ・・
「百年 は もう 来て いた んだ な 」と この 時 始めて 気 が ついた 。