109. ねこ と お しるこ - 小川 未明
ねこ と お しるこ -小川 未明
「お姉ちゃん 、お姉ちゃん 、たいへん 。」 と 、まくら を ならべて いる 正 ちゃん が 、夜中 に お姉さん を 起こしました 。 よく 眠 入って いた お姉さん は 、何事 か と 思って 、おどろいて 目 を さまして 、・・
「どうした の 、正 ちゃん 。」 と 、いまにも 立ち上がろう と なさ いました 。 ・・
「あれ 、たいへん じゃ ない か 。」 と 、正 ちゃん は 、大きな 目 を あけて 、耳 を すまして いました 。 ・・
「なに さ 、なに が たいへん な の 。」 ・・
「アオン 、アオン と いっている だろう 。 あれ は 、黒い どらねこ だ よ 。 そして 、ニャア 、ニャア と いっている の は 、三毛 なんだ よ 。」 ・・
正 ちゃん は 、ねこ の けんか で 目 を さました のでした 。 小さい 三毛 が 、大きな 黒 ねこ に いじめられて いる ので 、たいへんだ と 思った のです 。 ・・
「ねこ の けんか でしょう 。 そんな こと で 、人 を 起こす もの が あります か 、びっくり する じゃ ありません か 。」 と 、お姉さん は 、正ちゃん を しかりました 。 正 ちゃん は 、お 床 の 中 で 、しばらく 黒 ねこ と 三毛ねこ の けんか を きいて いました が 、我慢 が しきれなく なって 、・・
「 しっ! 」と 、どなりました 。 ・・
その うち に 、ねこ の なき声 が しなく なりました 。 ・・
「わるい どら ねこ だ な 。 こんど 見つけたら 、石 を 投げて やる から 。」 ・・
そう いって 、正 ちゃん は 、眠りました が 、お姉さん は 、なかなか 眠れませんでした 。 明くる 日 の 朝 、みんな が 、テーブル の 前 に すわった とき 、・・
「あんな こと で 、起こす もの じゃなくて よ 。」 と 、正 ちゃん は 、お姉さん に しかられました 。 ところが 、その 日 の 午後 で ありました 。 お姉さん が 、学校 から 帰ってくる と 、往来 で 遊んでいた 正ちゃん が 、遠く から 、見つけて かけてきて 、・・
「お 姉さん ! 」と 、呼びました 。 これ を 見た 、 お 姉さん は 、 思わず にっこり なさ いました 。 正 ちゃん は 、やっと 、お姉さん に 近づく と 、・・
「お姉ちゃん 、お しるこ が ある よ 。 だけど 、たった 、一杯 ! 」と 、大きな 声 で 、いいました 。 歩いて いる 人 が 、これ を きいて 、笑って ゆきました 。 お 姉 ねえさん も 、 きまり が 悪く なりました 。 お家 へ 帰る と 、お姉さん は 、・・
「なぜ 、あんな みっともない こと を いう の 、人 が 笑って ゆく じゃありませんか 。」 と いって 、正 ちゃん を しかりました 。 ・・
「ほんとう だ から 、いい だろう 。 僕 、お しるこ たべたい な 。」 と 、正 ちゃん は 、いいました 。 ・・
「いいえ 、もう 、あんた は いけません 。」 と 、お母さん が おっしゃいました 。 ・・
正 ちゃん は 、外 へ 遊び に ゆきました 。 それ から 、だいぶ 時間 が たちました 。 その うち に 、日 が 陰って 、風 が 寒く なりました 。 ・・
「さっき 、正 ちゃん は 、セーター を ぬいだ の よ 。 寒く なった から 、呼んで きて 、着せて おやり 、かぜ を ひく と いけない 。」 ・・
こう 、お母さん が 、おっしゃった ので 、お姉さん は 、正ちゃん を さがし に ゆきました 。 しかし 、どこ に も 、その 姿 が 、見つかりません でした 。 ・・
「いま せん の よ 。」 と 、お姉さん は 、帰って きました 。 ・・
「赤土 の 原っぱ に も 。」 ・・
「ええ 、原っぱ に も 、お宮 の 境内 に も 。」 ・・
正 ちゃん は 、よく 、その 原っぱ や 、お宮 の 境内 で 、お友だち と いろいろの こと を して 遊ぶ のです 。 ・・
「どこ へ いった でしょう 。 こんなに おそく まで 遊んで いる こと は 、ない のに 。」 と 、お母さん は おっしゃいました 。 ・・
「私 、心配 だ から 、もう 一度 見て くる わ 。」 と 、お姉さん は 、目 に 涙 を ためて 、お家 を 出ました 。 昨日 から 、いろんな こと で 、正ちゃん を しかった の を 思い出して 、悪い こと を した と 後悔しました 。 なぜなら 、それ は 、正 ちゃん が 、無邪気 であった から です 。 ・・
「ねこ の けんか も 、お しるこ の こと も 。」 と 、お姉さん は 、歩きながら 、考えました 。 その とき 、あちら から 、子供 たち の 声 が して 、わ あわあいって 、き かかる 中 に 、正 ちゃん も いた のです 。 お姉さん は 、やっと 安心 して 、その そば に まいりました 。 ・・
「正 ちゃん 、どこ へ いって いた の ? 」と 、お姉さん は 、ききました 。 ・・
「本屋 の 二階 で 、学校 ごっこ を やって いた の さ 、僕 は 、算術 が 七点 で 、読み方 が 八点 で 、三番 だ 。 えらい だろう 。」 と 、正 ちゃん は 、いいました 。 ・・
「だめ よ 。 もっと 、いい お 点 を とら なけりゃ 。」 と 、お姉さん は 、しかって から 、はっと して 、いつも 弟 に 小言 を いう 悪い くせに 気がついて 顔 を 赤く しました 。