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こころ - 夏目漱石 - Soseki Project, Section 015 - Kokoro - Soseki Project

Section 015 - Kokoro - Soseki Project

幸いに して 先生 の 予言 は 実現 さ れ ず に 済んだ 。 経験 の ない 当時 の 私 は 、 この 予言 の 中 に 含まれて いる 明白な 意義 さえ 了解 し 得 なかった 。 私 は 依然と して 先生 に 会い に 行った 。 その 内 いつの間にか 先生 の 食卓 で 飯 を 食う ように なった 。 自然 の 結果 奥さん と も 口 を 利か なければ なら ない ように なった 。

普通の 人間 と して 私 は 女 に 対して 冷淡で は なかった 。 けれども 年 の 若い 私 の 今 まで 経過 して 来た 境遇 から いって 、 私 は ほとんど 交際 らしい 交際 を 女 に 結んだ 事 が なかった 。 それ が 源 因 か どう か は 疑問 だ が 、 私 の 興味 は 往来 で 出合う 知り も し ない 女 に 向かって 多く 働く だけ であった 。 先生 の 奥さん に は その 前 玄関 で 会った 時 、 美しい と いう 印象 を 受けた 。 それ から 会う たんび に 同じ 印象 を 受け ない 事 は なかった 。 しかし それ 以外 に 私 は これ と いって とくに 奥さん に ついて 語る べき 何物 も もた ない ような 気 が した 。

これ は 奥さん に 特色 が ない と いう より も 、 特色 を 示す 機会 が 来 なかった のだ と 解釈 する 方 が 正当 かも 知れ ない 。 しかし 私 は いつでも 先生 に 付属 した 一部分 の ような 心 持 で 奥さん に 対して いた 。 奥さん も 自分 の 夫 の 所 へ 来る 書生 だ から と いう 好意 で 、 私 を 遇 して いた らしい 。 だから 中間 に 立つ 先生 を 取り除ければ 、 つまり 二 人 は ばらばらに なって いた 。 それ で 始めて 知り合い に なった 時 の 奥さん に ついて は 、 ただ 美しい と いう 外 に 何の 感じ も 残って いない 。

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