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火星の記憶 (The Memory of Mars) by Raymond F. Jones, パート19

パート 19

それ ら は すばやく 近づいて きた 。 いちばん 近く の ロボット が メル の 速度 に 合わせ ながら 十 数 フィート そば まで やってきた 。 突然 、機械 の 小さな 開口部 から しなやかな 金属製 の 触手 が 飛び出し 、ヘビ の ように 身体 に 巻きついた 。 二 台 目 の ロボット が 近づき 彼 を さらに 拘束 した 。 メル は 腕 も 足 も 押さえられた 。 必死 に なって 宇宙服 の 手袋 内 に ある 、噴射装置 の コントロール を 操作した が 、触手 が いっそう きつく 、痛い くらい に 身体 を 締めつけ 、宇宙服 の 外皮 を 破りそうに なった だけ だった 。 彼 は 噴射 装置 を 止め 、必死の 努力 が 失敗 だった こと を 認めた 。

彼ら は すぐに また 宇宙 船 の 近く に 戻った 。 マーシャン ・プリンセス 号 の 乗務員 は どんな 非難 を 浴びせて くる だろう 、また 彼ら の 振る舞い にたいして どんな 途方もない 言い訳 を 聞かせて くれる だろう 、と メル は 思った 。 しかし 彼 が 連れて いかれた 先 は マーシャン ・プリンセス 号 で は なかった 。 ロボット の 触手 に つかまれた 身体 を 無理に ねじって 、自分 が 黒い 宇宙船 に 連れて いかれ つつ ある こと を 確認 した 。 ハッチ が 静かに 、すべる ように 開き 、ロボット は たちどころに 彼 の 身体 を 暗い 船内 に 運び入れた 。 固い 金属 製 の 床 に 落とされる の を 感じ 、触手 が ほどけた 。 彼 は 自力 で 立ちあがり 、宇宙 服 の フラッシュ ライト を たいて まわり の 壁 を 照らした 。 壁 、床 、天井 は 見分け の つかない 濃い 灰色 を しており 、部屋 の 中 に は 彼 以外 どんな 物体 も なかった 。

つるり と した 金属 の 表面 に なに か 特徴 は ない か と 眼 を 凝らしている と 、歯切れ の よい 外国人 の ような 声 が しゃべりかけてきた 。 「宇宙服 を 脱いで 、壁 の 開口部 の ほう へ 行きたまえ 。 逃げよう と したり 、襲いかかろう と は し ない こと だ 。 襲って こ ない かぎり 、君 は 安全 だ よ 」

あらがって も 意味 が ない と 、彼 は 命令 に 従った 。 目の前 の 壁 に 光り輝く ドア が あらわれ 、彼 は そこ を 抜けた 。

中 は 臨床 検査 室 を 思わ せた 。 手 用 器械 や 電子 器具 の 並ぶ 棚 や キャビネット が まわり を 取り囲んで いる 。 部屋 の 中 に は 三人 の 男 が 座って いて 、彼 が 通って きた ドア の ほう を 見て いた 。 彼 も 見知らぬ 男 たち を 見つめ 返した 。

外科 医用 の 白衣 を 着た 男 たち は ごく 普通 の 人間 の ように 見えた 。 全員 、中年 らしく 、黒い 髪 の 毛 の すそ の ほう が 白く なり かけて いる 。 一 人 は ほか の 二 人 より も はるかに 筋肉質 で 、一 人 は 肥満気味 、三 人 目 は ひどく やせて いた 。 にもかかわらず メル は 自分 が まるで 月 の ない 夜 に 毛 を 逆立てて いる 犬 の ように 感じられた 。 どれほど 普通に 見えよう と も 、この 三人 は 地球 の 人間 で は ない のだ 。 紛れ も ない この 事実 が 冷たい 重し の ように ずしり と 腹 に こたえた 。

「あんた たち は ――」彼 は 言いよどんだ 。 言葉 が 見つから なかった 。

「この 長いす に 横 に なって ください 」いちばん 近く の 筋肉質 の 男 が 言った 。 「危害 を 与える つもり は ない から 、こわがら ないで 。 宇宙 に 飛び出して けが を して いない か 確かめたい だけ です 」 三 人 と も 緊張 して いた 。 なに か を 心配 している んだ 、と メル は 確信 した 。 ぼく が 逃げ出した せい だ な 。 知らない あいだに 、ぼく は なにか の 秘密 を 暴露 し そうに なった のだろうか 。

「 さ 、 どうぞ ――」 と 筋肉 質 の 男 が 言った 。

選択肢 は なかった 。 暴れて も せいぜい 器具 を こわし まくる 程度 で 、彼ら を 圧倒 できる 見込み は ない 。 彼 は 指示 さ れた ように 長いす に 横 に なった 。 ほとんど それ と 同時に 肥満 した 男 が 彼 の 後ろ に 立った 。 一方 の 腕 を つかまれ 、針 が ちく り と 刺さる の を 感じた 。 やせた 男 が 足元 に 立ち 、冷静 に 彼 を 見下ろした 。 「彼 が 眠ったら 、処置 の 仕方 が わかる だろう 」と やせた 男 が 言った 。

眠り は 十億 年 も つづいた ように 思わ れた 。 ようやく 目 が 覚めた とき 、とてつもなく 長い 時間 が 過ぎた ような 気 が した 。 視界 は ぼやけて いた が 、目の前 に 立つ 姿 は 見間違い よう が なかった 。

アリス だ 。 ぼく の アリス だ ――無事 だった んだ 。

彼女 は ベッド の 端 に 腰かけ 、彼 に ほほえみ かけて いた 。 彼 は なんとか 上半身 を 起こそう と した 。 「 アリス ! 」彼 は 涙 を こぼした 。

その あと で 彼 は 言った 。 「ここ は どこ だい ? なに が あった んだ ? わけ の わからない こと が ずいぶん 起きた ように 記憶している んだ が ――火星 へ の 旅行 とか 」

「あなた 、思い出さ なくて いい の よ 」と 彼女 は 言った 。 「病気 に なった の よ 。 むこう に いる とき 、ヒステリー か 記憶 喪失 みたいな もの に みまわれた の 。 いま は 地球 に 戻った の よ 。 もう すぐ 退院 できる し 、心配 する こと なんて なにも ない わ 」

「ぼく の せい で 旅行 は 台無し に なった んだ ね 」と 彼 は つぶやいた 。 「せっかく 君 が 楽しみに して いた のに 」

「そんな こと 、ない わ 。 あなた が 治る こと は わかって いた もの 。 ひとり でも いっぱい 楽しんだ の よ 。 でも 、また 行きましょう ね 。 あなた が 全快 したら 、お金 を 貯めて 、もう 一度 行きましょう 」 彼 は 眠 そうに うなずいた 。 「もちろん だ 。 もう 一 度 火星 に 行って 、その とき こそ 本当の 休暇 を 楽しむ んだ 」

アリス は 消えて いった 。 すべて が 消えて いった 。

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