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百物語 - Yōkai​ Stories, 蟹ヶ淵(かにがふち)

蟹 ヶ 淵 (かに が ふち)

蟹 ヶ 淵 ( かに が ふち )

むかし 、 平戸 (→ 平戸 市 ) の 町 の はずれ に は 蟹 ヶ 淵 ( かに が ふち ) と いう 深い 淵 が あって 、 ここ に は 何 十 年 も 前 から 人 を 襲う 主 が 住みついて いる と の うわさ が あり ました 。

ある 日 の 事 、 お 百姓 の 三吉 ( さん きち ) の 三 人 兄弟 の 二 番 目 の 子ども が 遊び に 出た まま 、 いつまで たって も 戻って き ませ ん でした 。 心配 した 家族 が 総出 で 探し ました が 、 どこ を 探して も 見つかり ませ ん 。 「 まさか 、 淵 に 行った ので は 」 三吉 が 村 の はずれ の 淵 に 行って みる と 、 何と 子ども の 着物 が 浮いて いた のです 。 「 ああ っ 、 何て 事 だ ・・・」 その 着物 は 、 二 番 目 の 子ども が 着て いた 着物 でした 。

さあ 、 村中 が 大騒ぎ と なり ました 。 「 あそこ に は むかし から 、 人 を 食う 主 が おる と いう から な 」 「 きっと 、 主に 食わ れて しまった に 違いない 」 やがて その 話 は 、 松浦 ( まつら ) の 殿さま の 耳 に まで 届き ました 。 それ を 聞いた 殿さま は 、 さっそく 家来 を 集める と 、 「 百姓 と は いえ 、 領地 の 者 は 家族 も 同然だ ! いかに 淵 の 主 でも 、 その 家族 を 襲う と は 絶対 に 許せ ん ! 」 と 、 自ら 先頭 に 立って 、 淵 の 主 退治 に 出かけ ました 。 そして 淵 に 到着 した 殿さま は 、 ふんどし 姿 で 口 に 刀 を くわえる と 、 「 お前たち は 、 ここ で 待って おれ 」 と 、 家来 や 村人 たち が 引き止める の を 振り切って 淵 に 飛び込んだ のです 。

みんな が ハラハラ し ながら 待って いる と 、 やがて 殿さま が 水 の 中 から 顔 を 出し ました 。 「 ここ に は 、 何も おら ん 。 あっ ち を 探す と しよう 」 そう 言って 今度 は 岸 から もっと 離れた 草 が ボウボウ に 生い茂る あたり まで 泳いで いって 、 もう 一 度 水 の 中 に 潜り ました 。

さて 、 しばらく する と 水面 が 泡立ち 、 急に 淵 の 水 が にごって き ました 。 よく 見る と 、 その にごり は 血 の 色 です 。 「 大変だ ー ! 殿さま が やられて し も うた ! 」 「 殿 ! いま 参り ます ! 」 家来 の 一 人 が 飛び込もう と した 時 、 水 の 中 から 殿さま が 元気な 姿 を 現し ました 。 「 お ー い 。 淵 の 主 を 退治 した ぞ ! す まんが 、 引き上げる の を 手伝って くれ 」 殿さま の 指示 で 、 家来 たち が さっそく 退治 した 主 を 引き上げる 事 に なり ました 。 ところが 、 その 主 が 重 すぎて なかなか 引き上げる 事 が 出来 ませ ん 。 そこ で 村人 たち も 一緒に なって 何とか 引き上げる と 、 それ は 、 たたみ 三 畳 分 ほど の 大きな こうら を 持った 大 ガニ だった のです 。 「 こうら が 固くて 刀 が 通ら ず 、 退治 する の に 苦労 を した ぞ 」 殿さま は にっこり 笑って 、 家来 たち に そう 言い ました 。

その後 、 この 淵 で 命 を 落とす 者 は い なく なり 、 淵 は 『 蟹 ヶ 淵 ( かに が ふち )』 と 呼ば れる ように なった そうです 。

おしまい

蟹 ヶ 淵 (かに が ふち) かに||ふち||| Krabben-ga-fuchi Kanigafuchi Cangrejo-ga-fuchi Crabe-ga-fuchi Granchio-ga-fuchi Caranguejo-ga-fuchi Краб-га-фучи 螃蟹加渊 螃蟹加渊

蟹 ヶ 淵 ( かに が ふち ) かに||ふち||| Kanigabuchi (Crab Gabuchi)

むかし 、 平戸 (→ 平戸 市 ) の 町 の はずれ に は 蟹 ヶ 淵 ( かに が ふち ) と いう 深い 淵 が あって 、 ここ に は 何 十 年 も 前 から 人 を 襲う 主 が 住みついて いる と の うわさ が あり ました 。 |ひらと|ひらと|し||まち|||||かに||ふち||||||ふかい|ふち||||||なん|じゅう|とし||ぜん||じん||おそう|おも||すみついて||||||| Once upon a time, on the outskirts of the town of Hirado (→ Hirado City), there was a deep pool called Kanigafuchi, where the Lord who attacked people has lived for decades. There was a rumor.

ある 日 の 事 、 お 百姓 の 三吉 ( さん きち ) の 三 人 兄弟 の 二 番 目 の 子ども が 遊び に 出た まま 、 いつまで たって も 戻って き ませ ん でした 。 |ひ||こと||ひゃくしょう||みよし||||みっ|じん|きょうだい||ふた|ばん|め||こども||あそび||でた|||||もどって|||| One day, the second child of the three brothers of the peasant Sankichi was out to play and never returned. 心配 した 家族 が 総出 で 探し ました が 、 どこ を 探して も 見つかり ませ ん 。 しんぱい||かぞく||そうで||さがし|||||さがして||みつかり|| The worried family searched all over, but no matter where they looked, they couldn't find it. 「 まさか 、 淵 に 行った ので は 」   三吉 が 村 の はずれ の 淵 に 行って みる と 、 何と 子ども の 着物 が 浮いて いた のです 。 |ふち||おこなった|||みよし||むら||||ふち||おこなって|||なんと|こども||きもの||ういて|| "No way, I went to the abyss." When Miyoshi went to the abyss on the outskirts of the village, a child's kimono was floating. 「 ああ っ 、 何て 事 だ ・・・」   その 着物 は 、 二 番 目 の 子ども が 着て いた 着物 でした 。 ||なんて|こと|||きもの||ふた|ばん|め||こども||きて||きもの| "Oh my God..." The kimono was the one worn by the second child.

さあ 、 村中 が 大騒ぎ と なり ました 。 |むらなか||おおさわぎ||| Now, the whole village is in an uproar. 「 あそこ に は むかし から 、 人 を 食う 主 が おる と いう から な 」 「 きっと 、 主に 食わ れて しまった に 違いない 」   やがて その 話 は 、 松浦 ( まつら ) の 殿さま の 耳 に まで 届き ました 。 |||||じん||くう|おも||||||||おもに|くわ||||ちがいない|||はなし||まつうら|||とのさま||みみ|||とどき| "Because it is said that there is a master who eats people over there." . それ を 聞いた 殿さま は 、 さっそく 家来 を 集める と 、 「 百姓 と は いえ 、 領地 の 者 は 家族 も 同然だ ! ||きいた|とのさま|||けらい||あつめる||ひゃくしょう||||りょうち||もの||かぞく||どうぜんだ When the lord heard that, he immediately gathered his servants and said, "Although it is a farmer, the people in the territory are like family members! いかに 淵 の 主 でも 、 その 家族 を 襲う と は 絶対 に 許せ ん ! |ふち||おも|||かぞく||おそう|||ぜったい||ゆるせ| Even the owner of the abyss will never forgive an attack on his family! 」 と 、 自ら 先頭 に 立って 、 淵 の 主 退治 に 出かけ ました 。 |おのずから|せんとう||たって|ふち||おも|たいじ||でかけ| He took the lead himself and went to exterminate the Lord of the Fuchi. そして 淵 に 到着 した 殿さま は 、 ふんどし 姿 で 口 に 刀 を くわえる と 、 「 お前たち は 、 ここ で 待って おれ 」 と 、 家来 や 村人 たち が 引き止める の を 振り切って 淵 に 飛び込んだ のです 。 |ふち||とうちゃく||とのさま|||すがた||くち||かたな||||おまえたち||||まって|||けらい||むらびと|||ひきとめる|||ふりきって|ふち||とびこんだ| When the lord arrived at the abyss, he put a sword in his mouth in a loincloth and said, "Wait here," and jumped into the abyss, shaking off the restraints of the servants and villagers.

みんな が ハラハラ し ながら 待って いる と 、 やがて 殿さま が 水 の 中 から 顔 を 出し ました 。 ||はらはら|||まって||||とのさま||すい||なか||かお||だし| As everyone waited in a hurry, the lord soon came out of the water. 「 ここ に は 、 何も おら ん 。 |||なにも|| "There's nothing here. あっ ち を 探す と しよう 」   そう 言って 今度 は 岸 から もっと 離れた 草 が ボウボウ に 生い茂る あたり まで 泳いで いって 、 もう 一 度   水 の 中 に 潜り ました 。 |||さがす||||いって|こんど||きし|||はなれた|くさ||||おいしげる|||およいで|||ひと|たび|すい||なか||くぐり| Let's look for that. ”That said, this time I swam to the point where the grass, which was farther from the shore, overgrown the bow bow, and dived into the water again.

さて 、 しばらく する と 水面 が 泡立ち 、 急に 淵 の 水 が にごって き ました 。 ||||すいめん||あわだち|きゅうに|ふち||すい|||| Well, after a while, the surface of the water bubbling, and suddenly the water at the edge became muddy. よく 見る と 、 その にごり は 血 の 色 です 。 |みる|||||ち||いろ| If you look closely, the turbidity is the color of blood. 「 大変だ ー ! たいへんだ|- Oh my God! 殿さま が やられて し も うた ! とのさま||||| The lord has been killed! 」 「 殿 ! しんがり Lord! いま 参り ます ! |まいり| I'm coming now! 」   家来 の 一 人 が 飛び込もう と した 時 、 水 の 中 から 殿さま が 元気な 姿 を 現し ました 。 けらい||ひと|じん||とびこもう|||じ|すい||なか||とのさま||げんきな|すがた||あらわし| When one of the servants tried to jump in, the lord appeared energetic from the water. 「 お ー い 。 |-| "Hey. 淵 の 主 を 退治 した ぞ ! ふち||おも||たいじ|| You've defeated the Lord of the Abyss! す まんが 、 引き上げる の を 手伝って くれ 」   殿さま の 指示 で 、 家来 たち が さっそく 退治 した 主 を 引き上げる 事 に なり ました 。 ||ひきあげる|||てつだって||とのさま||しじ||けらい||||たいじ||おも||ひきあげる|こと||| I'm sorry, please help me pull him up." Following the Lord's instructions, the servants immediately pulled up the defeated master. ところが 、 その 主 が 重 すぎて なかなか 引き上げる 事 が 出来 ませ ん 。 ||おも||おも|||ひきあげる|こと||でき|| However, the master was too heavy to lift. そこ で 村人 たち も 一緒に なって 何とか 引き上げる と 、 それ は 、 たたみ 三 畳 分 ほど の 大きな こうら を 持った 大 ガニ だった のです 。 ||むらびと|||いっしょに||なんとか|ひきあげる|||||みっ|たたみ|ぶん|||おおきな|||もった|だい||| When the villagers managed to pull it out together, it turned out to be a giant crab with a shell as large as three tatami mats. 「 こうら が 固くて 刀 が 通ら ず 、 退治 する の に 苦労 を した ぞ 」   殿さま は にっこり 笑って 、 家来 たち に そう 言い ました 。 ||かたくて|かたな||とおら||たいじ||||くろう||||とのさま|||わらって|けらい||||いい| "These were so hard that the sword couldn't go through, and I had a hard time getting rid of them." The lord smiled and said to his servants.

その後 、 この 淵 で 命 を 落とす 者 は い なく なり 、 淵 は 『 蟹 ヶ 淵 ( かに が ふち )』 と 呼ば れる ように なった そうです 。 そのご||ふち||いのち||おとす|もの|||||ふち||かに||ふち|||||よば||||そう です After that, no one died at this abyss, and the abyss became known as "Kanigafuchi".

おしまい the end