×

We use cookies to help make LingQ better. By visiting the site, you agree to our cookie policy.


image

百物語 - Yōkai​ Stories, 虫の知らせ

虫 の 知らせ

虫 の 知らせ

むかし むかし 、 陸中 の 国 ( り くちゅう の くに → 岩手 県 ) に 、 笛吹 峠 ( ふえふき とうげ ) と 呼ば れる 険しい 峠 が あり ました 。

ある 日 の 事 、 この 峠 で 一 人 の 男 が 道 に 迷って しまい ました 。 「 困った な 。 行 けども 行 けども 、 山 の 中 だ 」 ようやく 小高い 岩 の 上 に 出 ました が 、 空 に は 細い 三日月 が ある だけ で 辺り は まっ 暗 です 。 「 どっち へ 行けば よい の やら 」 ぐ ーー っ お腹 が 空いて 腹の虫 が 鳴き ました が 、 何も 食べる 物 は あり ませ ん 。 ( このまま 誰 に も 知ら れ ず に 、 ここ で 飢え死に する ので は ない だろう な ) そう 思う と 、 男 の 脳裏 に 可愛い 子ども たち の 顔 が 次々 と 浮かび ました 。 ( ああ ・・・) たまらなく なった 父親 は 、 大声 で 子ども たち の 名前 を 呼んで み ました 。 何度 も 何度 も 、 繰り返し 繰り返し 、 子ども の 名前 を 呼び 続け ました 。 とりわけ 、 一 番 可愛がって いた 末っ子 の 名前 を 呼ぶ 時 は 、 思わず 涙 が こぼれ ました 。

その頃 、 家 で 寝て いた 子ども たち が 、 ふと 目 を 覚まし ました 。 父親 が 両手 で 強く 胸 を 押して 、 自分 の 名前 を 呼んだ 様 な 夢 を 見た から です 。 「 お 父 が やって 来て 、 おら の 胸 を 押した ぞ 」 末っ子 が 夢 の 事 を 話す と 、 他の 子ども たち も 言い ました 。 「 うん 。 おら も 同じ 夢 を 見た 」 「 おら も だ 」 「 みんな 同じ 夢 を 見る と は 、 もしや 、 お 父 に 何 か あった のだろう か ? 」 「 う う っ 、 お 父 」 みんな は 不安に なって 、 もう 眠る 事 は 出来 ませ ん 。 でも 、 どこ へ 探し に 行けば いい の か わから ない ので 、 子ども たち は 父親 の 安全 を 祈って 夜明け まで 起きて い ました 。

さて 、 山 の 中 で 一夜 を 過ごした 父親 は 、 ふと 、 鈴 の 音 を 聞いた ように 思い ました 。 それ は 山道 を 通る 馬 の 首 に つけ られた 、 鈴 の 音 に 違い あり ませ ん 。 ( 助かった 。 外 に 出る 道 は 近い ぞ ) 父親 は 立ち上がる と 、 草木 を かきわけて 鈴 の 音 の 聞こえる 方 に 足 を 早め ました 。 鈴 の 音 は 、 だんだん と 近づいて 来 ます 。 やがて 木 の 間 から 、 荷物 を 積んだ 馬 が 見え ました 。 「 お ー い 、 お ー い ! 」 父親 が 夢中で 呼びかける と 、 馬 の たづな を 持った 馬 方 が 不思議 そうな 顔 で 言い ました 。 「 どうした ? そんなに あわてて 」 「 ああ 、 実は ・・・」 父親 は 道 に 迷って 、 山 の 中 で ひと 晩 を 過ごした 事 を 話し ました 。 「 そい つ は 、 大変だった な 。 よし 、 わし が 送って やる から 、 お前 は 馬 に 乗れ 」 馬 方 は 父親 を 荷物 の 上 に 座ら せる と 、 ゆっくり と 山道 を 降りて いき ました 。

峠 まで 来る と 、 子ども たち が 心配 そうに 立って い ました 。 「 あっ 、 お 父 だ ! 」 子ども たち は 父親 の 姿 を 見て 、 うれし そうに 駆け寄って き ました 。 「 おかげ で 助かった 。 ありがとう 」 父親 は 馬 方 に お 礼 を 言う と 、 子ども たち を 力一杯 抱きしめ ました 。

家 に 帰った 父親 が 山 の 中 で 子ども たち の 名前 を 呼んだ 事 を 話す と 、 子ども たち も 口々に 不思議な 夢 の 事 を 話し ました 。 父親 が 、 頷いて 言い ました 。 「 なるほど 。 それ は 、『 虫 の 知らせ 』 と いう もの だ な 」 する と 末っ子 が 、 うれし そうに 言い ました 。 「 お 父 が 、 おら たち の 名前 を 一生懸命に 呼んで くれた から 、 虫 が 知らせて くれた んだ よ 」 「 そう と も 。 そして お前たち が 、 寝 ず に 待って いて くれた おかげ だ 。 お前たち 、 ありがとう よ 」 父親 の 言葉 に 、 子ども たち は にっこり 笑い ました 。

おしまい

虫 の 知らせ ちゅう||しらせ Vorahnung bug news premonitorio pressentiment presagio 벌레 소식 voorbode złowieszczy presságio предчувствие föraning 漏洞消息 错误新闻 畏惧

虫 の 知らせ ちゅう||しらせ Insect news 漏洞消息

むかし むかし 、 陸中 の 国 ( り くちゅう の くに → 岩手 県 ) に 、 笛吹 峠 ( ふえふき とうげ ) と 呼ば れる 険しい 峠 が あり ました 。 ||りくちゅう||くに|||||いわて|けん||うすい|とうげ||||よば||けわしい|とうげ||| Once upon a time, in the land-based country (Rikuchu no Kuni → Iwate Prefecture), there was a steep mountain pass called Fuefuki Toge. 从前,在陆中之国(岩手县)有一个陡峭的山口,叫做笛吹岭。

ある 日 の 事 、 この 峠 で 一 人 の 男 が 道 に 迷って しまい ました 。 |ひ||こと||とうげ||ひと|じん||おとこ||どう||まよって|| One day, a man got lost on this pass. 一天,一个人在这个山口迷了路。 「 困った な 。 こまった| " troubled . ” 困扰。 行 けども 行 けども 、 山 の 中 だ 」   ようやく 小高い 岩 の 上 に 出 ました が 、 空 に は 細い 三日月 が ある だけ で 辺り は まっ 暗 です 。 ぎょう||ぎょう||やま||なか|||こだかい|いわ||うえ||だ|||から|||ほそい|みかづき|||||あたり|||あん| It's in the mountains, and it's in the mountains. "I finally came out on a small rock, but the sky was pitch black with only a thin crescent moon. 我们在山里。” 我们终于爬上了一块小石头的顶部,但天上一片漆黑,只有一轮薄薄的新月。 「 どっち へ 行けば よい の やら 」   ぐ ーー っ   お腹 が 空いて 腹の虫 が 鳴き ました が 、 何も 食べる 物 は あり ませ ん 。 ||いけば|||||--||おなか||あいて|はらのむし||なき|||なにも|たべる|ぶつ|||| "Which one should I go to?" Guuuu I was hungry and the hungry bugs screamed, but I have nothing to eat. “我该去哪里啊?”我在肚子里咕哝着,却没有东西吃。 ( このまま 誰 に も 知ら れ ず に 、 ここ で 飢え死に する ので は ない だろう な )   そう 思う と 、 男 の 脳裏 に 可愛い 子ども たち の 顔 が 次々 と 浮かび ました 。 |だれ|||しら||||||うえじに||||||||おもう||おとこ||のうり||かわいい|こども|||かお||つぎつぎ||うかび| (I don't think I'm going to starve to death here without anyone knowing it.) When I thought about it, the faces of cute children came to my mind one after another. (我想我不会在这儿被饿死的。) 想着,男人的脑海里一个接一个地冒出可爱的孩子们的脸。 ( ああ ・・・)    たまらなく なった 父親 は 、 大声 で 子ども たち の 名前 を 呼んで み ました 。 |||ちちおや||おおごえ||こども|||なまえ||よんで|| (Oh ...) The irresistible father tried to call out the names of the children. ( ああ ・・・) たまらなく なった 父親 は 、 大声 で 子ども たち の 名前 を 呼んで み ました 。 (啊……) 已经忍无可忍的父亲大声喊着孩子们的名字。 何度 も 何度 も 、 繰り返し 繰り返し 、 子ども の 名前 を 呼び 続け ました 。 なんど||なんど||くりかえし|くりかえし|こども||なまえ||よび|つづけ| Over and over again, over and over again, I kept calling my child's name. 一遍又一遍,一遍又一遍,我不停地叫着孩子的名字。 とりわけ 、 一 番 可愛がって いた 末っ子 の 名前 を 呼ぶ 時 は 、 思わず 涙 が こぼれ ました 。 |ひと|ばん|かわいがって||すえっこ||なまえ||よぶ|じ||おもわず|なみだ||| Especially when I called the name of the youngest child I loved the most, I spilled tears. 尤其是当我喊出我最爱的小儿子的名字时,我忍不住流下了眼泪。

その頃 、 家 で 寝て いた 子ども たち が 、 ふと 目 を 覚まし ました 。 そのころ|いえ||ねて||こども||||め||さまし| At that time, the children who were sleeping at home suddenly woke up. 大约就在这时,正在家里睡觉的孩子们突然醒了。 父親 が 両手 で 強く 胸 を 押して 、 自分 の 名前 を 呼んだ 様 な 夢 を 見た から です 。 ちちおや||りょうて||つよく|むね||おして|じぶん||なまえ||よんだ|さま||ゆめ||みた|| I had a dream that my father called his name by pushing his chest hard with both hands. 梦见爸爸用双手用力按着我的胸口,叫着我的名字。 「 お 父 が やって 来て 、 おら の 胸 を 押した ぞ 」   末っ子 が 夢 の 事 を 話す と 、 他の 子ども たち も 言い ました 。 |ちち|||きて|||むね||おした||すえっこ||ゆめ||こと||はなす||たの|こども|||いい| "My dad came and pushed my chest." The youngest child talked about his dream, and the other children said. “爸爸过来摸了摸我的胸口,”当最小的孩子告诉他他的梦想时,其他孩子说。 「 うん 。 " yes . “ 是的 。 おら も 同じ 夢 を 見た 」 「 おら も だ 」 「 みんな 同じ 夢 を 見る と は 、 もしや 、 お 父 に 何 か あった のだろう か ? ||おなじ|ゆめ||みた|||||おなじ|ゆめ||みる|||||ちち||なん|||| I had the same dream. "" I have the same dream. "" I wonder if everyone had the same dream, what happened to my father? 我也做了同样的梦。”“我也是。” 」 「 う う っ 、 お 父 」    みんな は 不安に なって 、 もう 眠る 事 は 出来 ませ ん 。 ||||ちち|||ふあんに|||ねむる|こと||でき|| "Wow, dad." Everyone became anxious and couldn't sleep anymore. “哎呀,爸。” 众人都急得睡不着了。 でも 、 どこ へ 探し に 行けば いい の か わから ない ので 、 子ども たち は 父親 の 安全 を 祈って 夜明け まで 起きて い ました 。 |||さがし||いけば|||||||こども|||ちちおや||あんぜん||いのって|よあけ||おきて|| But I didn't know where to look, so the children stayed up until dawn to pray for their father's safety. 但不知道去哪里找他,孩子们一直到天亮才为父亲的安全祈祷。

さて 、 山 の 中 で 一夜 を 過ごした 父親 は 、 ふと 、 鈴 の 音 を 聞いた ように 思い ました 。 |やま||なか||いちや||すごした|ちちおや|||すず||おと||きいた||おもい| Now, my father, who spent the night in the mountains, suddenly thought he heard the sound of a bell. 嗯,在山里住了一夜,父亲突然觉得听到了钟声。 それ は 山道 を 通る 馬 の 首 に つけ られた 、 鈴 の 音 に 違い あり ませ ん 。 ||やまみち||とおる|うま||くび||||すず||おと||ちがい||| It was attached to the neck of a horse passing through a mountain road, and there was a difference in the sound of the bell. 一定是马匹过山时挂在马脖子上的铃铛发出的声音。 ( 助かった 。 たすかった ( Was saved . (被救了。 外 に 出る 道 は 近い ぞ )   父親 は 立ち上がる と 、 草木 を かきわけて 鈴 の 音 の 聞こえる 方 に 足 を 早め ました 。 がい||でる|どう||ちかい||ちちおや||たちあがる||くさき|||すず||おと||きこえる|かた||あし||はや め| The road to the outside is near.) When the father stood up, he squeezed through the vegetation and swiftly moved to hear the sound of the bell. 出路就在附近。) 父亲站起来,冲过植被,朝着铃声响起的方向跑去。 鈴 の 音 は 、 だんだん と 近づいて 来 ます 。 すず||おと||||ちかづいて|らい| The sound of the bell is getting closer and closer. 钟声越来越近。 やがて 木 の 間 から 、 荷物 を 積んだ 馬 が 見え ました 。 |き||あいだ||にもつ||つんだ|うま||みえ| Eventually, I saw a horse loaded with luggage through the trees. 最终,穿过树林,我看到了一匹负重的马。 「 お ー い 、 お ー い ! |-|||-| "Hey, hey! “嘿嘿! 」   父親 が 夢中で 呼びかける と 、 馬 の たづな を 持った 馬 方 が 不思議 そうな 顔 で 言い ました 。 ちちおや||むちゅうで|よびかける||うま||||もった|うま|かた||ふしぎ|そう な|かお||いい| When the father called out enthusiastically, the horse with the reins of the horse said with a mysterious face. 就在父亲出神地喊了一声时,牵着马皮带的骑马人一脸疑惑的说道。 「 どうした ? " what up ? “ 怎么了 ? そんなに あわてて 」 「 ああ 、 実は ・・・」    父親 は 道 に 迷って 、 山 の 中 で ひと 晩 を 過ごした 事 を 話し ました 。 |||じつは|ちちおや||どう||まよって|やま||なか|||ばん||すごした|こと||はなし| So hurried. "" Oh, actually ... "The father lost his way and told him that he spent the night in the mountains. 我当时太着急了。” “哦,其实……”父亲告诉他,他迷路了,在山里过夜了。 「 そい つ は 、 大変だった な 。 |||たいへんだった| "That one was tough. “那场比赛很艰难。 よし 、 わし が 送って やる から 、 お前 は 馬 に 乗れ 」   馬 方 は 父親 を 荷物 の 上 に 座ら せる と 、 ゆっくり と 山道 を 降りて いき ました 。 |||おくって|||おまえ||うま||のれ|うま|かた||ちちおや||にもつ||うえ||すわら|||||やまみち||おりて|| Alright, I'll send you a horse. ”The horse sat his father on his luggage and slowly descended the mountain path. 好,我送你过去,你上马去。”骑马的人将父亲放在行李上,缓缓下山。

峠 まで 来る と 、 子ども たち が 心配 そうに 立って い ました 。 とうげ||くる||こども|||しんぱい|そう に|たって|| When I came to the pass, the children stood worried. 当我到达隘口时,孩子们正站在那里,一脸担忧。 「 あっ 、 お 父 だ ! ||ちち| "Ah, it's my father! “啊,是我爸爸! 」   子ども たち は 父親 の 姿 を 見て 、 うれし そうに 駆け寄って き ました 。 こども|||ちちおや||すがた||みて||そう に|かけよって|| ’ The children, seeing their father, ran happily towards him. ’孩子们看到父亲,高兴地冲了过来。 「 おかげ で 助かった 。 ||たすかった "Thanks to you, I was saved. 「多亏了你,我才得救。」 ありがとう 」   父親 は 馬 方 に お 礼 を 言う と 、 子ども たち を 力一杯 抱きしめ ました 。 |ちちおや||うま|かた|||れい||いう||こども|||ちからいっぱい|だきしめ| Thank you." The father thanked the horseman and hugged the children as hard as he could. 谢谢你们。” 父亲向骑马的人道了谢,并使劲地拥抱了孩子们。

家 に 帰った 父親 が 山 の 中 で 子ども たち の 名前 を 呼んだ 事 を 話す と 、 子ども たち も 口々に 不思議な 夢 の 事 を 話し ました 。 いえ||かえった|ちちおや||やま||なか||こども|||なまえ||よんだ|こと||はなす||こども|||くちぐちに|ふしぎな|ゆめ||こと||はなし| When the father who returned home talked about calling the children's names in the mountains, the children also talked about mysterious dreams. 当父亲回到家,告诉孩子们他是如何在山里呼唤他们的名字时,孩子们也分享了他们所做的奇怪梦的故事。 父親 が 、 頷いて 言い ました 。 ちちおや||うなずいて|いい| The father nodded and said. 父亲点点头说道。 「 なるほど 。 " I see . “ 我懂了 。 それ は 、『 虫 の 知らせ 』 と いう もの だ な 」   する と 末っ子 が 、 うれし そうに 言い ました 。 ||ちゅう||しらせ||||||||すえっこ|||そう に|いい| It's called 'Bug News,'" said the youngest happily. “这就是《昆虫新闻》,”我最小的儿子高兴地说。 「 お 父 が 、 おら たち の 名前 を 一生懸命に 呼んで くれた から 、 虫 が 知らせて くれた んだ よ 」 「 そう と も 。 |ちち|||||なまえ||いっしょうけんめいに|よんで|||ちゅう||しらせて|||||| "My dad called us their names so hard that the bugs told me." "That's right. “父亲拼命喊我们的名字,虫子才让我们知道。” そして お前たち が 、 寝 ず に 待って いて くれた おかげ だ 。 |おまえたち||ね|||まって|||| And thanks to you guys waiting for me without sleeping. 也多亏了不眠不休等我的你们。 お前たち 、 ありがとう よ 」   父親 の 言葉 に 、 子ども たち は にっこり 笑い ました 。 おまえたち|||ちちおや||ことば||こども||||わらい| Thank you guys." The children smiled at their father's words. 谢谢大家。”听到父亲的话,孩子们都笑了。

おしまい end