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江戸小話, ただ

ただ

ある 日 、 お 調子 者 の 松 さん が 、 隠居 の 家 に 遊び に 行き ました 。 「 ご 隠居 、 ご 隠居 は い ます か ? 」 「 おや 、 これ は 珍しい 。 誰 か と 思えば 松 さん かい 。 さあ 、 あが んな 、 あが ん な 」 「 はい 、 それでは あがら せて もらい ます 。 しかし ご 隠居 は 、 いつも お 若い です ね 」 「 いやいや 、 もう 若く は ない よ 」 「 でも 、 五十四 か 五 で ございましょう ? 」 「 いやいや 、 わし も 、 もう 七十 に なった 」 「 へ ー っ 、 そう です か 。 とても 、 そんな お 年 に は 見え ませ ん ね 」 「 そうかい 、 そうかい 。 おせじ でも 、 うれしい 事 を 言う ねえ 。 まあ 、 酒 でも 一 杯 飲んで 行き なさい 」 こんな 調子 で 松 さん は 、 うまく ごちそう に なる 事 が 出来 ました 。

しかし 松 さん は 、 まだ 飲み 足りない 様子 です 。 そこ で 友だち の 太郎 兵衛 ( たろう べ え ) に 、 子ども が 生まれた の を 思い出して 、 「 あそこ に 行って 、 適当に お 祝い を 言えば 、 もう 一 杯 ぐらい は 飲める だろう 」 と 、 出かけて いき ました 。 「 こん に はち 。 この度 は 、 ご 安産 ( あんざん → 子ども が 無事に 生まれる 事 ) で 、 おめでとう ございます 」 松 さん が 言う と 、 太郎 兵衛 は うれし そうな 顔 で 、 「 おお 、 松 さん 。 ほれ ほれ 、 見てくれ 、 ついに 念願 の 男の子 が 産まれた んだ 」 と 、 赤ん坊 を を 見せて くれ ました 。 そこ で 松 さん は 、 そろそろ 酒 を 飲ま せて 貰おう と 思い 、 得意の お世辞 を 始め ました 。 「 さて さて 、 これ は お 若い お 子 さま だ 。 して 、 お いく つ で ございます か ? 」 それ を 聞いた 太郎 兵衛 は 、 不思議 そうな 顔 で 言い ました 。 「 おや ? お前 さん も おかしな 男 だ な 。 おととい 生まれた から 、 たった の 一 つ (→ 数え年 で は 、0 才 で は なくて 、1 才 です ) だ 」 「 おお 、 とても 一つには 見え ませ ん な 。 わたし は また 、 ただ か と 思い ました よ 」

おしまい


ただ

ある 日 、 お 調子 者 の 松 さん が 、 隠居 の 家 に 遊び に 行き ました 。 |ひ||ちょうし|もの||まつ|||いんきょ||いえ||あそび||いき| 「 ご 隠居 、 ご 隠居 は い ます か ? |いんきょ||いんきょ|||| 」 「 おや 、 これ は 珍しい 。 |||めずらしい 誰 か と 思えば 松 さん かい 。 だれ|||おもえば|まつ|| さあ 、 あが んな 、 あが ん な 」 「 はい 、 それでは あがら せて もらい ます 。 しかし ご 隠居 は 、 いつも お 若い です ね 」 「 いやいや 、 もう 若く は ない よ 」 「 でも 、 五十四 か 五 で ございましょう ? ||いんきょ||||わかい|||||わかく|||||ごじゅうし||いつ|| 」 「 いやいや 、 わし も 、 もう 七十 に なった 」 「 へ ー っ 、 そう です か 。 ||||しちじゅう||||-|||| とても 、 そんな お 年 に は 見え ませ ん ね 」 「 そうかい 、 そうかい 。 |||とし|||みえ||||| おせじ でも 、 うれしい 事 を 言う ねえ 。 |||こと||いう| まあ 、 酒 でも 一 杯 飲んで 行き なさい 」   こんな 調子 で 松 さん は 、 うまく ごちそう に なる 事 が 出来 ました 。 |さけ||ひと|さかずき|のんで|いき|||ちょうし||まつ|||||||こと||でき|

しかし 松 さん は 、 まだ 飲み 足りない 様子 です 。 |まつ||||のみ|たりない|ようす| そこ で 友だち の 太郎 兵衛 ( たろう べ え ) に 、 子ども が 生まれた の を 思い出して 、 「 あそこ に 行って 、 適当に お 祝い を 言えば 、 もう 一 杯 ぐらい は 飲める だろう 」 と 、 出かけて いき ました 。 ||ともだち||たろう|ひょうえ|||||こども||うまれた|||おもいだして|||おこなって|てきとうに||いわい||いえば||ひと|さかずき|||のめる|||でかけて|| 「 こん に はち 。 この度 は 、 ご 安産 ( あんざん → 子ども が 無事に 生まれる 事 ) で 、 おめでとう ございます 」   松 さん が 言う と 、 太郎 兵衛 は うれし そうな 顔 で 、 「 おお 、 松 さん 。 このたび|||あんざん||こども||ぶじに|うまれる|こと||||まつ|||いう||たろう|ひょうえ|||そう な|かお|||まつ| ほれ ほれ 、 見てくれ 、 ついに 念願 の 男の子 が 産まれた んだ 」 と 、 赤ん坊 を を 見せて くれ ました 。 ||みてくれ||ねんがん||おとこのこ||うまれた|||あかんぼう|||みせて|| そこ で 松 さん は 、 そろそろ 酒 を 飲ま せて 貰おう と 思い 、 得意の お世辞 を 始め ました 。 ||まつ||||さけ||のま||もらおう||おもい|とくいの|おせじ||はじめ| 「 さて さて 、 これ は お 若い お 子 さま だ 。 |||||わかい||こ|| して 、 お いく つ で ございます か ? 」   それ を 聞いた 太郎 兵衛 は 、 不思議 そうな 顔 で 言い ました 。 ||きいた|たろう|ひょうえ||ふしぎ|そう な|かお||いい| 「 おや ? お前 さん も おかしな 男 だ な 。 おまえ||||おとこ|| おととい 生まれた から 、 たった の 一 つ (→ 数え年 で は 、0 才 で は なくて 、1 才 です ) だ 」 「 おお 、 とても 一つには 見え ませ ん な 。 |うまれた||||ひと||かぞえどし|||さい||||さい|||||ひとつには|みえ||| わたし は また 、 ただ か と 思い ました よ 」 ||||||おもい||

おしまい