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人形 使い

人形 使い

豊島 与 志雄

一 むかし 、 ある 田舎 の 小さな 町 に 、 甚兵衛 と いう いたって 下手な 人形 使い がいました 。 お 正月 だの お盆 だの 、 または いろんな お祭り の 折 に 、 町 の 賑やかな 広場 に 小屋がけ を して 、 さまざまの 人形 を 使いました 。 けれどもたいへん 下手です から 、 見物人 が さっぱり ありません で 、 非常に 困りました 。 「 甚兵衛 の 人形 は 馬鹿 人形 」 と 町 の 人々 は いって いました 。 甚兵衛 は 口惜しくて たまりません でした 。 それ で いろいろ 工夫 を して 、 人形 を 上手に 使おう と 考えました が 、 どうも うまく ゆきません 。 しまい に は 、 もう 神様 に 願う より ほか に 、 仕方 が ない と 思いました 。 どの 神様 が よかろう かしら 、 と 甚兵衛 は あれこれ 考えて みました 。 町 に は いく つ も 神社 が ありました が 、 上手に 人形 を 使う こと を 教えて くださる ような の は 、 どれ だ か わかりません でした 。 さんざん 考え あぐんだ 末 、 いっそ 人 の あまり 詣 ら ぬ 神社 に しよう と 、 一 人 で きめました 。 町 の 裏手 に 山 が あり まして 、 その 山 の 奥 に 、 淋しい 神社 が 一 つ ありました 。 甚兵衛 は 毎日 、 そこ に お 詣 り を しました 。 あたり に は 大きな 杉 の 木 が 立ち 並んで いて 、 昼間 でも 恐ろしい ような ところ でした 。 けれども 甚兵衛 は 一心に なって 、 どうか 上手な 人形 使い に なります ように と 、 神様 に 願いました 。 ある 日 の こと 、 甚兵衛 は いつも の とおり に 、 その 神社 の 前 に 跪いて 、 長い 間 お 祈り を しました 。 そして ふと 顔 を あげて みます と 、 自分 の すぐ 眼 の 前 に 、 真 黒 な もの が つっ立って いました 。 甚兵衛 は びっくり して 、 あっ! と いった まま 、 腰 を 抜 さん ばかり に なって 、 そこ に 倒れかかりました 。 すると その 真 黒 な もの が 、 から から と 笑いました 。 甚兵衛 は 二 度 びっくり して 、 よくよく 眺めます と 、 それ は 一 匹 の 猿 でした 。 「 甚兵衛 さん 、 甚兵衛 さん 」 と 猿 は いいました 。 甚兵衛 は 口 を あん ぐ り 開いた まま 、 猿 の 顔 を 眺めて いました 。 それ を 見て 猿 は また 笑い だし ながら 、 いい 続けました 。 「 甚兵衛 さん 、 なにも びっくり なさる こと は ありません 。 私 は この 神社 に 長く 住んで いる 猿 で あります が 、 人間 の ように 口 を 利く こと も できます し 、 どんな こと でも できます 。 あなた が 毎日 熱心に お 祈り なさる の を 感心 して 、 上手に 人形 を 使う こと を 教えて あげたい と 思って 、 ここ に でて まいった のです 。 けれども その 前 に 、 あなた に 一 つ お 頼み したい こと が あります が 、 聞いて くださいます か 」 そういう 猿 の 声 が たいへん やさしい もの です から 、 甚兵衛 も ようよう 安心 しました 。 そして 答えました 。 「 お前 さん が 私 を 上手な 人形 使い に して くれる なら 、 頼み を 聞いて あげよう 」 そこ で 猿 は たいそう 喜び まして 、 頼み の 用 を うち明けました 。 用 と いう の は 、 大 蛇 を 退治 する こと でした 。 いつ の 頃 から か 、 山 に 大 蛇 が でて き まして 、 いろんな 獣 を 取って は 食べ 、 猿 の 仲間 まで も 食べ 初めました 。 それ で この 猿 は 、 さまざまに 工夫 を こらして 、 大 蛇 を 山 から 逐 い 払おう と しました が 、 どうしても 敵 いま せ ん でした 。 そして 甚兵衛 に 、 大 蛇 退治 を 頼んだ のでした 。 「 お前 は なんでも できる と いった のに 、 大 蛇 位 な もの に 負ける の かい ? 」 と 甚兵衛 は いいました 。 「 はい 」 と 猿 は 面目 なさそう に 答えました 。 「 智 慧 で なら 誰 に も 負けません が 、 力ずく の こと は 困って しまいます 。 甚兵衛 さん 、 どうか その 大 蛇 を 退治 て ください 」 甚兵衛 も それ に は 困りました 。 なにしろ 相手 は 大 蛇 です もの 、 へたな こと を やれば 、 こちら が 一 呑 み に されて しまう ばかりです 。 長い 間 考えこんで いました が 、 いい 考え を 思いついて 、 はたと 額 を 叩きました 。 「 そう だ 、 これ なら 大丈夫 。 ねえ 猿 さん 、 お前 は 猿 智 慧 と いって 、たいそう 利巧 だ そうだ が 、 案外 馬鹿だ なあ 。 今 私 が 大 蛇 を 退治 て あげる から 、 見て い なさい よ 」 甚兵衛 は 急いで 家 へ 帰り まして 、 綺麗な 女 の 人形 を 一 つ 取り 、 その 中 に 釘 を いっぱい つめて 、 釘 の 尖った 先 が 、 皆 外 の 方 に 向く ように 拵え あげました 。 それ を 持って 猿 の 所 へ もどって きました 。 「 そんな 人形 を なん に なさ います ? 」 と 猿 は 不思議 そうに 尋ねました 。 「 まあ いい から 、 私 の する こと を 見て い なさい 」 と 甚兵衛 は 答えました 。 彼 は 猿 に 案内 さして 、 大 蛇 の でて き そうな ところ へ 行き 、 そこ に 女 の 人形 を 立た せました 。 そして 猿 と 二 人 で 、 大 蛇 に 見つから ない ような 蔭 に 隠れて 、 じっと 待って いました 。 しばらく する と 、 ご ー と 山鳴り が してき まして 、 向 う の 茂み の 間 から 、 樽 の ように 大きな 大 蛇 が 、 真 赤 な 舌 を ぺろり ぺろり だし ながら 、 ぬっと 現われ でました 。 大 蛇 は 人形 を 見る と 、 それ を 生きた 人間 と 思った のでしょう 、 いきなり 大きな 鎌 首 を もたげて 、 恐ろしい 勢 で 寄って きました 。 そして 側 に 寄る が 早い か 、 その 大きな 身体 で 、 ぐるぐる と 人形 に 巻きついて 、 力いっぱい に しめつけました 。 ところが 人形 に は 、 薄い 着物 の 下 に 釘 が いっぱい 、 尖った 先 を 外 に 向けて つまって いる のです 。 いくら 大 蛇 で も たまりません 。 柔 かな 腹 の 鱗 の 間 に 、 一面に 釘 が ささり まして 、 そこ から 血 が 流れだし 、 そのまま 死んで しまいました 。 二 首尾よく 大 蛇 退治 が できました ので 、 猿 はたいへん 喜びました 。 「 お蔭 で 山 の 中 の 獣 は 、 皆 助かります 。 これ から 、 お 約束 です から 、 上手に 人形 を 使う こと を 、 あなた に お 教え しましょう 。 ただ 黙って 、 私 の いう とおり に なさら なければ いけません よ 」 甚兵衛 は 承知 しました 。 猿 は 甚兵衛 の 家 へ やってきました 。 そして 家 に ある 人形 を 皆 売って しまい なさい と いいました 。 甚兵衛 は 人形 を 残らず 売って しまいました 。 すると 猿 は いいました 。 「 三 日 の 間 、 この 人形 部屋 に は いって は いけません 。 三 日 たったら この 部屋 に おいで なさい 、 すると 大きな 人形 が 一 つ 立って います 。 その 人形 は なんでも 、 あなた の いう とおり に ひとりでに 動きます 」 甚兵衛 は 不思議に 思いました が 、 ともかくも 猿 の いう とおり に して 、 三 日間 人形 部屋 の 襖 を 閉め切って 置きました 。 猿 は どこ か へ 行って しまいました 。 三 日 たって から 、 甚兵衛 は そっと 人形 部屋 を 覗いて みました 。 すると 部屋 の 真中 に 、 大きな ひょっとこ の 人形 が 立って います 。 甚兵衛 は びっくり しました が 、 猿 の 言葉 を 思いだして 、 手 を あげろ と 人形 に いって みました 。 人形 は ひとりでに 手 を あげました 。 歩け と 甚兵衛 は いって みました 。 人形 は ひとりでに 歩き だしました 。 それ から 、 踊れ と いえば 踊る し 、 坐れ と いえば 坐る し 、 人形 は いう とおり に 動き 廻る のです 。 甚兵衛 は 呆れ返って しまいました 。 そして ぼんやり 人形 を 眺めて います と 、 その 背中 が 、 むくむく 動きだして 、 中 から 、 猿 が 飛びだして きました 。 「 甚兵衛 さん 、 びっくり な すった でしょう 。 なあ に 、 私 が 中 に は いって いた んです 。 あの 人形 は 空っぽで 、 背中 に 私 の 出入 口 が ついて る のです 。 大 蛇 を 退治 て くださった お礼 に 、 これ から 私 が 人形 を 踊ら せます から 、 それ で あなた は 一 儲け なさい 。 私 も 山 の 中 より 町 の 方 が 面白い から 、 御飯 だけ 食べ さ して くだされば 、 長く あなた の 側 に 仕えて 、 人形 を 踊ら せましょう 」 なるほど 猿 が 中 に は いって おれば 、 人形 が ひとりでに 踊る の も 不思議 では ありません 。 甚兵衛 は 手 を 打って 面白がりました 。 やがて 町 の 祭礼 と なります と 、 甚兵衛 は 一 番 賑やかな 広場 に 小屋がけ を し まして 、「 世界 一 の 人形 使い 、 独り で 踊る ひょっとこ 人形 」 と いう 看板 を だしました 。 町 の 人 たち は 、 あの 馬鹿 甚兵衛 が たいそう な 看板 を だした が 、 どんな こと を する の かしら と 、 面白 半分 に 小屋 へ は いって みました 。 正面 に 広い 舞台 が できて いました 。 間もなく 甚兵衛 は 、 大きな ひょっとこ の 人形 を 持ちだし 、 それ を 舞台 の 真中 に 据え まして 、 自分 は 小さな 鞭 を 手 に 持ち 、 人形 の 側 に 立って 、 挨拶 を しました 。 「 この度 私 が 人形 を ひとり で 踊ら せる 術 を 、 神 から 授かりました ので 、 それ を 皆様 に お 目 に かけます 。 この とおり 人形 に は 、 なんの 仕掛 も ございませ ん 」 そう いって 彼 は 、 手 の 鞭 で 人形 を 二 、 三 度 叩いて みせました 。 それ から 鞭 を 差上げて い いました 。 「 歩いたり 、 歩いたり 」 人形 は 歩き だしました 。 「 廻ったり 、 廻ったり 」 人形 は ぐるぐる 廻りました 。 「 踊ったり 、 踊ったり 」 人形 は おかしな 恰好で 踊りました 。 「 飛んだり 、 跳ねたり 」 人形 は 飛び 跳ねました 。 見物人 は 驚いて しまいました 。 なにしろ 人形 が 独り で 動き 廻る の は 、 見た こと も 聞いた こと も ありません 。 皆 立ちあがって 、 や ん や と 喝采 しました 。 中 に は 不思議に 思う 者 も あって 、 舞台 を 調べて みたり 、 人形 を 検査 したり しました 。 けれども もとより 、 舞台 に は なんの 仕掛 も ありません し 、 猿 は 人形 の 中 に じっと 屈んで いま す ので 、 誰 に も 気づか れません でした 。 そして 、 やはり 、 甚兵衛 は 神様 から 人形 使い の 法 を 教わった と いう こと に なりました 。 さあ それ が 評判 に なり まして 、「 甚兵衛 の 人形 は 生 人形 」 と いい はやさ れ 、 町 の 人 たち は もちろん の こと 、 遠く の 人 まで 、 甚兵衛 の 人形 小屋 へ 見物 に 参りました 。 三 町 の 祭礼 が すみます と 、 猿 は 甚兵衛 に 向って 、 都 に でて み よう では ありません か と いいました 。 甚兵衛 も そう 思って た ところ です 。 田舎 の 小さな 町 で は 仕方 が ありません 。 大きな 都 に でて 、 世間 の 人 を びっくり さ せる の も 楽しみです 。 それ で さっそく 支度 を し まして 、 だいぶ 遠い 都 へ でて ゆきました 。 甚兵衛 は 、 都 の 一 番 賑やかな 場所 に 、 直ちに 小屋がけ を し まして 、「 世界 一 の 人形 使い 、 独り で 踊る ひょっとこ 人形 」 と いう 例 の 看板 を だしました 。 すると 、 甚兵衛 の 評判 は もう その 都 に も 伝わって います ので 、 見物人 が 朝 から つめかけて 、たいへんな 繁昌 です 。 甚兵衛 は 得意に なって 、 毎日 ひょっとこ の 人形 を 踊ら せました 。 ところが ある 日 、 甚兵衛 は 例の とおり 、「 歩いたり 、 歩いたり 、…… 踊ったり 、 踊ったり 、…… 飛んだり 、 跳ねたり 」 など と いって 、 自由自在に 人形 を 使って います うち 、 つい 調子 に のって 、「 鳴いたり 、 鳴いたり 」 と 口 を 滑らせました 。 けれども 人形 は 一 向 鳴きません でした 。 さあ 甚兵衛 は 弱って しまいました 。 でも 一 度 いいだした こと です から 、 今さら 取消す わけに は ゆきません 。 甚兵衛 は 泣きだし そうな 顔 を して 、 人形 の 中 の 猿 に そっと 頼みました 。 「 猿 や 、 どうか 鳴いて くれ 、 私 が 困る から 」「 では 泣きましょう 」 と 猿 は 答えました 。 そこ で 甚兵衛 は 鞭 を 高く 差上げ 、 大きな 声 で いいました 。 「 鳴いたり 、 鳴いたり 」 人形 は 「 キイ 、 キイ 、 キャッキャッ 」 と 鳴きました 。 見物人 は 驚いた の 驚か ない の 、 それ はたいへんな 騒ぎ に なりました 。 「 人形 が 鳴いた 」 と いう 者 も あれば 、「 あれ は 猿 の 鳴き声 だ 」 と いう 者 も ある し 、 一度に 立ちあがって はやし立てました 。 すると 甚兵衛 は 一 きわ 声 を 張りあげて い いました 。 「 今 の は 猿 の 鳴き声 で あります 。 これ から また 他の 鳴き声 を お 聞か せ いたします 。 …… さあ ひょっとこ 人形 、 鳴いたり 鳴いたり 、 犬 の 鳴き声 」 人形 は 「 ワン 、 ワン 、 ワンワン 」 と 鳴きました 。 「 鳴いたり 鳴いたり 、 猫 の 鳴き声 」 人形 は 「 ニャア 、 ニャア 、 ニャー 」 と 鳴きました 。 「 鳴いたり 鳴いたり 、 鼠 の 鳴き声 」 人形 は 「 チュウ 、 チュウ 、 チュチュー 」 と 鳴きました 。 「 鳴いたり 鳴いたり 、 狐 の 鳴き声 」 人形 は 「 コン 、 コン 、 コンコン 」 と 鳴きました 。 「 鳴いたり 鳴いたり 、 狸 の 鳴き声 」 する と 見物人 は 喜びました 。 誰 も まだ 、 狸 の 鳴き声 を 聞いた 者 が ありません でした 。 皆 静まり返って 耳 を 澄 しました 。 ところが 、 いつまで たって も 人形 は 鳴きません 。 甚兵衛 は また くり返しました 。 「 鳴いたり 鳴いたり 、 狸 の 鳴き声 」 それ でも まだ 人形 は 鳴きません でした 。 鳴か ない の も 道理 です 。 人形 の 中 の 猿 は 、 狸 の 泣き声 を 知ら なかった のです 。 甚兵衛 は そんな こと と は 気づか ないで 、 三 度 くり返しました 。 「 鳴いたり 鳴いたり 、 狸 の 鳴き声 」 する と 人形 は 大きな 声 で こう いいました 。 「 狸 の 鳴き声 、 知ら ない 知ら ない 、 キイ 、 キイ 、 キャッキャッ 」 それ を 聞く と 、 小屋 の 中 は 沸き返る ような 騒ぎ に なりました 。 「 狸 の 声 を 人形 も 知ら ない ―― 人形 が 口 を 利いた ―― 猿 の 鳴き声 を した 」 と てんで に いい はやして 、 見物人 の ほう が 踊り だしました 。 甚兵衛 は 初め 呆 気 に とられて いました が 、 やがて 程よい ところ で 挨拶 を して 、 その 日 は それ で おしまい に しました 。 甚兵衛 と 猿 と 二 人きり に なります と 、 猿 は 顔 から 汗 を 流し ながら いいました 。 「 甚兵衛 さん 、 今日 の ように 困った こと は ありません 。 狸 の 鳴き声 を 知ら ない のに 、 鳴け と なん 遍 も いわれて 、 私 は どう しよう か と 思いました 」「 いや 私 も うっかり いって しまって 、 後 で 困った な と 思った が 、 しかし お前 が 知ら ない 知ら ない と いった の は 大 でき だった 」 そして 翌日 から は 、 踊り や 鳴き声 を 前 から きめて おいて 、 それ だけ を やる こと に しました 。 四 ところが その 都 に 、 四 、 五 人 で 組 を なした 盗賊 が い まして 、 甚兵衛 の 人形 の 評判 を きき 、 それ を 盗み 取ろう と はかりました 。 そして ある 晩 、 にわかに 甚兵衛 の 所 へ 押し入り 、 眠って る 甚兵衛 を 縛り あげ 、 刀 を つきつけて 、 人形 を だせ と 嚇 かしました 。 甚兵衛 は びっくり して 、 あたり を 見 廻しました が 、 猿 は どこ か へ 逃げて しまって 居ません し 、 まごまご する と 刀 で 切ら れ そうです から 、 仕方なく 人形 の ある 室 を 教えました 。 盗賊 ども は 人形 を 奪う と 、 そのまま どこ か へ 行って しまいました 。 盗賊 ども が 居 なく なった 時 、 押入 の 中 に 隠れて いた 猿 は 、 ようよう でて きて 、 甚兵衛 の 縛られて る 繩 を 解いて やりました 。 けれども 盗賊 ども が 逃げて しまった 後 な ので 、 どうにも 仕方 が ありません でした 。 ただ この上 は 、 盗賊 の 住居 を 探しあてて 人形 を 取り返す より ほか は ありません 。 それ から 毎日 、 昼間 は 甚兵衛 が でかけ 、 夜 に なる と 猿 が でかけて 、 人形 の 行方 を 探しました 。 けれど なかなか 見つかりません でした 。 ちょうど 半月 ばかり たった 時 、 その 日 も 甚兵衛 は 尋ね あぐんで 、 ぼんやり 家 に 帰り かけます と 、 ある 河 岸 の 木 影 に 、 白 髯 の 占い 者 が 卓 を 据えて 、 にこにこ 笑って いました 。 甚兵衛 は その 白 髯 の お 爺さん の 前 へ 行って 、 人形 の 行方 を 占って もらいました 。 お 爺さん は しばらく 考えて いました が 、 やがて こう いいました 。 「 は は あ 、 わかった わかった 。 その 人形 は 地獄 に 居る 。 訳 は ない から 取り に 行く が いい 」 甚兵衛 は びっくり して 、 なお いろいろ 尋ねました が 、 白 髯 の お 爺さん は 眼 を つぶった きり 、 もう なんとも 答えません でした 。 甚兵衛 は 家 に 帰って 、 その 話 を 猿 に いって きかせ 、 占い 者 の 言葉 を 二 人 で 考えて みました 。 地獄 に 居る が 訳 は ない と いう の が 、 どうも わかりません でした 。 二 人 は 一晩 中 考えました 。 そして 朝 に なる と 、 二 人 と も うまい こと を 考えつきました 。 甚兵衛 は こう 考えました 。 「 これ は なんでも 、 地獄 に 関係 の ある 古い お 寺 か 荒れはてた お 寺 に 違いない 」 猿 は こう 考えました 。 「 地獄 の こと なら 鬼 の 思う まま だ から 、 鬼 の 人形 を こしらえたら 、 それ で あの 人形 が 取りもどせる だろう 」 五 それ から は 、 猿 は 大きな 鬼 の 人形 を こしらえ 、 甚兵衛 は 荒れはてた 寺 を 尋ねて 歩きました 。 ちょうど 都 の 町 はずれ に 、 大きな 古寺 が ありました ので 、 甚兵衛 は そっと 中 に はいりこんで 様子 を 窺って みます と 、 畳 も なにも ない ような 荒れはてた 本堂 の なか に 、 四 、 五 人 の 男 が 坐って 、 なに か ひそひそ 相談 を して いました 。 よく 見る と 、 それ が あの 盗賊 ども では ありません か 。 甚兵衛 は びっくり して 、 見られ ない ように 逃げだして きました 。 そして 猿 に その こと を 告げました 。 「 もう 大丈夫です 」 と 猿 は いいました 。 「 人形 は 盗賊 ども の 所 に ある に 違い ありません 。 私 が 行って 取りもどして きましょう 」 甚兵衛 は 危な がりました が 、 猿 が 大丈夫だ と いう もの です から 、 その いう とおり に 従いました 。 晩 に なります と 、 二 人 は 鬼 の 人形 を かついで 、 盗賊 の 古寺 へ 行きました 。 それ から 猿 は 人形 の 中 に は いって 、 一 人 で のそのそ 本堂 に やって ゆきました 。 本堂 の 中 に は 蝋燭 が 明るく ともって いました が 、 盗賊 ども は 酒 に 酔っ払って 、 そこ に ごろごろ 眠って いました 。 「 こら ! 」 と 猿 は 人形 の 中 から 大きな 声 で どなりました 。 盗賊 ども は びっくり して 起きあがります と 、 眼 の 前 に 大きな 鬼 が つっ立って る では ありません か 。 みんな 胆 を つぶして 、 腰 を 抜 して しまいました 。 鬼 の 人形 の 中 から 、 猿 は 大きな 声 で いいました 。 「 貴 様 ども は 悪い 奴 だ 。 甚兵衛 さん の 生 人形 を 盗んだろう 。 あれ を すぐ ここ に だせ 、 だせば 命 は 助けて やる 。 ださ なければ 八 裂き に して しまう ぞ 」「 はい 、 だします 、 だします 」 と 盗賊 ども は 答えました 。 やがて 盗賊 ども は 、 生 人形 を 奥 から 持ってきました が 、 首 は ぬけ 手足 は もぎれて 、 さんざんな 姿 に なって いました 。 それ も 道理 です 。 盗賊 ども は 人形 を 踊らして 、 金儲け を する つもりでした が 、 中 に 猿 が はいって いない んです から 、 人形 は 踊れよう わけ が ありません 。 盗賊 ども は 腹 を 立てて 、 人形 の 首 を 引きぬき 、 手足 を もぎ取って 、 本堂 の 隅っこ に 投げ捨てて 置いた のです 。 それ を 見て 猿 は 、 鬼 の 人形 の 中 から どなりつけました 。 「 不都合な 奴 だ 。 しかし おとなしく 人形 を だした から 、 命 だけ は 助けて やる 。 どこ へ なり と いって しまえ 。 また これ から 泥 坊 を する と 許さ ん ぞ 」 盗賊 ども は 震えあがって 、 逃げ う せて しまいました 。 猿 は 鬼 の 中 から でて きて 、 甚兵衛 と 二 人 で 、 壊れた 人形 を 抱いて 、 非常に 悲しみました 。 けれども 、 いくら 悲しんで も いまさら 仕方 は ありません 。 二 人 は 壊れた 人形 を 持って 、 田舎 の 町 へ 帰りました 。 甚兵衛 は もうたいへん 金 を 儲けて いました し 、 壊れた 人形 を 見る と 、 再び 人形 を 使う 気 に も なりません でした 。 猿 も 都 を 見物 しました し 、 そろそろ 元 の 山 に もどり たく なって る 折 でした 。 それ で 二 人 は 、 壊れた 人形 を 立派に 繕って 、 それ を 山 の 神社 へ 納めました 。 猿 は 山 の 中 へ もどりました 。 甚兵衛 は 、 もう 誰 が 頼んで も 人形 を 使いません でした 。 そして 山 から ときどき 遊び に くる 猿 を 相手 に 、 楽しく 一生 を 送りました そうです 。


人形 使い にんぎょう|つかい Puppenspieler puppet operator opérateur de marionnettes operatore di marionette 인형 사용 operator lalek

人形 使い にんぎょう|つかい Puppet messenger

豊島 与 志雄 としま|あずか|しお Yoshio Toyoshima

一 むかし 、 ある 田舎 の 小さな 町 に 、 甚兵衛 と いう いたって 下手な 人形 使い がいました 。 ひと|||いなか||ちいさな|まち||じん ひょうえ||||へたな|にんぎょう|つかい|が い ました Once upon a time, in a small rural town, there was a very poor puppeteer named Jinbei. お 正月 だの お盆 だの 、 または いろんな お祭り の 折 に 、 町 の 賑やかな 広場 に 小屋がけ を して 、 さまざまの 人形 を 使いました 。 |しょうがつ||おぼん||||おまつり||お||まち||にぎやかな|ひろば||こやがけ||||にんぎょう||つかい ました On New Year's Day, Obon Festival, and at various festivals, we used a variety of dolls to hang a shed on a lively plaza in the town. けれどもたいへん 下手です から 、 見物人 が さっぱり ありません で 、 非常に 困りました 。 けれども たいへん|へたです||けんぶつにん|||あり ませ ん||ひじょうに|こまり ました However, I'm not very good at it, so I didn't have any onlookers, so I was in great trouble. 「 甚兵衛 の 人形 は 馬鹿 人形 」 と 町 の 人々 は いって いました 。 じん ひょうえ||にんぎょう||ばか|にんぎょう||まち||ひとびと|||い ました "Jinbei's doll is a stupid doll," said the townspeople. 甚兵衛 は 口惜しくて たまりません でした 。 じん ひょうえ||くちおしくて|たまり ませ ん| Jinbei was regrettable. それ で いろいろ 工夫 を して 、 人形 を 上手に 使おう と 考えました が 、 どうも うまく ゆきません 。 |||くふう|||にんぎょう||じょうずに|つかおう||かんがえ ました||||ゆき ませ ん So I thought about using the doll well with various ideas, but it didn't work out. しまい に は 、 もう 神様 に 願う より ほか に 、 仕方 が ない と 思いました 。 ||||かみさま||ねがう||||しかた||||おもい ました In the end, I thought that there was no other way but to ask God. どの 神様 が よかろう かしら 、 と 甚兵衛 は あれこれ 考えて みました 。 |かみさま|||||じん ひょうえ|||かんがえて|み ました 町 に は いく つ も 神社 が ありました が 、 上手に 人形 を 使う こと を 教えて くださる ような の は 、 どれ だ か わかりません でした 。 まち||||||じんじゃ||あり ました||じょうずに|にんぎょう||つかう|||おしえて||||||||わかり ませ ん| さんざん 考え あぐんだ 末 、 いっそ 人 の あまり 詣 ら ぬ 神社 に しよう と 、 一 人 で きめました 。 |かんがえ||すえ||じん|||けい|||じんじゃ||||ひと|じん||きめ ました After a lot of thought, I decided to make it a shrine that people don't know much about. 町 の 裏手 に 山 が あり まして 、 その 山 の 奥 に 、 淋しい 神社 が 一 つ ありました 。 まち||うらて||やま|||||やま||おく||さびしい|じんじゃ||ひと||あり ました 甚兵衛 は 毎日 、 そこ に お 詣 り を しました 。 じん ひょうえ||まいにち||||けい|||し ました Jinbei prayed there every day. あたり に は 大きな 杉 の 木 が 立ち 並んで いて 、 昼間 でも 恐ろしい ような ところ でした 。 |||おおきな|すぎ||き||たち|ならんで||ひるま||おそろしい||| Large cedar trees lined up around the area, and it was a scary place even in the daytime. けれども 甚兵衛 は 一心に なって 、 どうか 上手な 人形 使い に なります ように と 、 神様 に 願いました 。 |じん ひょうえ||いっしんに|||じょうずな|にんぎょう|つかい||なり ます|||かみさま||ねがい ました ある 日 の こと 、 甚兵衛 は いつも の とおり に 、 その 神社 の 前 に 跪いて 、 長い 間 お 祈り を しました 。 |ひ|||じん ひょうえ|||||||じんじゃ||ぜん||ひざまずいて|ながい|あいだ||いのり||し ました そして ふと 顔 を あげて みます と 、 自分 の すぐ 眼 の 前 に 、 真 黒 な もの が つっ立って いました 。 ||かお|||み ます||じぶん|||がん||ぜん||まこと|くろ||||つったって|い ました Then, when I raised my face, I found a black object standing right in front of me. 甚兵衛 は びっくり して 、 あっ! じん ひょうえ|||| と いった まま 、 腰 を 抜 さん ばかり に なって 、 そこ に 倒れかかりました 。 |||こし||ぬき|||||||たおれかかり ました すると その 真 黒 な もの が 、 から から と 笑いました 。 ||まこと|くろ|||||||わらい ました 甚兵衛 は 二 度 びっくり して 、 よくよく 眺めます と 、 それ は 一 匹 の 猿 でした 。 じん ひょうえ||ふた|たび||||ながめ ます||||ひと|ひき||さる| Jinbei was surprised twice and looked closely, it was a monkey. 「 甚兵衛 さん 、 甚兵衛 さん 」 と 猿 は いいました 。 じん ひょうえ||じん ひょうえ|||さる||いい ました 甚兵衛 は 口 を あん ぐ り 開いた まま 、 猿 の 顔 を 眺めて いました 。 じん ひょうえ||くち|||||あいた||さる||かお||ながめて|い ました それ を 見て 猿 は また 笑い だし ながら 、 いい 続けました 。 ||みて|さる|||わらい||||つづけ ました 「 甚兵衛 さん 、 なにも びっくり なさる こと は ありません 。 じん ひょうえ|||||||あり ませ ん 私 は この 神社 に 長く 住んで いる 猿 で あります が 、 人間 の ように 口 を 利く こと も できます し 、 どんな こと でも できます 。 わたくし|||じんじゃ||ながく|すんで||さる||あり ます||にんげん|||くち||きく|||でき ます|||||でき ます あなた が 毎日 熱心に お 祈り なさる の を 感心 して 、 上手に 人形 を 使う こと を 教えて あげたい と 思って 、 ここ に でて まいった のです 。 ||まいにち|ねっしんに||いのり||||かんしん||じょうずに|にんぎょう||つかう|||おしえて|あげ たい||おもって||||| I was impressed with your enthusiastic prayers every day and wanted to teach you how to use dolls well, so I came here. けれども その 前 に 、 あなた に 一 つ お 頼み したい こと が あります が 、 聞いて くださいます か 」 そういう 猿 の 声 が たいへん やさしい もの です から 、 甚兵衛 も ようよう 安心 しました 。 ||ぜん||||ひと|||たのみ|し たい|||あり ます||きいて|くださ い ます|||さる||こえ|||||||じん ひょうえ|||あんしん|し ました But before that, I would like to ask you one thing, but would you like to hear it? ”Since such a monkey's voice is very gentle, I was relieved to ask Jinbei. そして 答えました 。 |こたえ ました 「 お前 さん が 私 を 上手な 人形 使い に して くれる なら 、 頼み を 聞いて あげよう 」 そこ で 猿 は たいそう 喜び まして 、 頼み の 用 を うち明けました 。 おまえ|||わたくし||じょうずな|にんぎょう|つかい|||||たのみ||きいて||||さる|||よろこび||たのみ||よう||うちあけ ました "If you make me a good puppeteer, I'll listen to your request." Then the monkey was very pleased and gave up his request. 用 と いう の は 、 大 蛇 を 退治 する こと でした 。 よう|||||だい|へび||たいじ||| The purpose was to get rid of the big snake. いつ の 頃 から か 、 山 に 大 蛇 が でて き まして 、 いろんな 獣 を 取って は 食べ 、 猿 の 仲間 まで も 食べ 初めました 。 ||ころ|||やま||だい|へび||||||けだもの||とって||たべ|さる||なかま|||たべ|はじめ ました それ で この 猿 は 、 さまざまに 工夫 を こらして 、 大 蛇 を 山 から 逐 い 払おう と しました が 、 どうしても 敵 いま せ ん でした 。 |||さる|||くふう|||だい|へび||やま||ちく||はらおう||し ました|||てき|||| そして 甚兵衛 に 、 大 蛇 退治 を 頼んだ のでした 。 |じん ひょうえ||だい|へび|たいじ||たのんだ| 「 お前 は なんでも できる と いった のに 、 大 蛇 位 な もの に 負ける の かい ? おまえ|||||||だい|へび|くらい||||まける|| 」 と 甚兵衛 は いいました 。 |じん ひょうえ||いい ました 「 はい 」 と 猿 は 面目 なさそう に 答えました 。 ||さる||めんぼく|な さ そう||こたえ ました 「 智 慧 で なら 誰 に も 負けません が 、 力ずく の こと は 困って しまいます 。 さとし|さとし|||だれ|||まけ ませ ん||ちからずく||||こまって|しまい ます 甚兵衛 さん 、 どうか その 大 蛇 を 退治 て ください 」 甚兵衛 も それ に は 困りました 。 じん ひょうえ||||だい|へび||たいじ|||じん ひょうえ|||||こまり ました なにしろ 相手 は 大 蛇 です もの 、 へたな こと を やれば 、 こちら が 一 呑 み に されて しまう ばかりです 。 |あいて||だい|へび|||||||||ひと|どん|||さ れて|| 長い 間 考えこんで いました が 、 いい 考え を 思いついて 、 はたと 額 を 叩きました 。 ながい|あいだ|かんがえこんで|い ました|||かんがえ||おもいついて||がく||たたき ました 「 そう だ 、 これ なら 大丈夫 。 ||||だいじょうぶ ねえ 猿 さん 、 お前 は 猿 智 慧 と いって 、たいそう 利巧 だ そうだ が 、 案外 馬鹿だ なあ 。 |さる||おまえ||さる|さとし|さとし||||り こう||そう だ||あんがい|ばかだ| 今 私 が 大 蛇 を 退治 て あげる から 、 見て い なさい よ 」 甚兵衛 は 急いで 家 へ 帰り まして 、 綺麗な 女 の 人形 を 一 つ 取り 、 その 中 に 釘 を いっぱい つめて 、 釘 の 尖った 先 が 、 皆 外 の 方 に 向く ように 拵え あげました 。 いま|わたくし||だい|へび||たいじ||||みて||||じん ひょうえ||いそいで|いえ||かえり||きれいな|おんな||にんぎょう||ひと||とり||なか||くぎ||||くぎ||とがった|さき||みな|がい||かた||むく||こしらえ|あげ ました それ を 持って 猿 の 所 へ もどって きました 。 ||もって|さる||しょ|||き ました 「 そんな 人形 を なん に なさ います ? |にんぎょう||||な さ|い ます 」 と 猿 は 不思議 そうに 尋ねました 。 |さる||ふしぎ|そう に|たずね ました 「 まあ いい から 、 私 の する こと を 見て い なさい 」 と 甚兵衛 は 答えました 。 |||わたくし|||||みて||||じん ひょうえ||こたえ ました 彼 は 猿 に 案内 さして 、 大 蛇 の でて き そうな ところ へ 行き 、 そこ に 女 の 人形 を 立た せました 。 かれ||さる||あんない||だい|へび||||そう な|||いき|||おんな||にんぎょう||たた|せま した そして 猿 と 二 人 で 、 大 蛇 に 見つから ない ような 蔭 に 隠れて 、 じっと 待って いました 。 |さる||ふた|じん||だい|へび||みつから|||おん||かくれて||まって|い ました しばらく する と 、 ご ー と 山鳴り が してき まして 、 向 う の 茂み の 間 から 、 樽 の ように 大きな 大 蛇 が 、 真 赤 な 舌 を ぺろり ぺろり だし ながら 、 ぬっと 現われ でました 。 ||||-||やまなり||||むかい|||しげみ||あいだ||たる|||おおきな|だい|へび||まこと|あか||した||||||ぬ っと|あらわれ|で ました 大 蛇 は 人形 を 見る と 、 それ を 生きた 人間 と 思った のでしょう 、 いきなり 大きな 鎌 首 を もたげて 、 恐ろしい 勢 で 寄って きました 。 だい|へび||にんぎょう||みる||||いきた|にんげん||おもった|||おおきな|かま|くび|||おそろしい|ぜい||よって|き ました When the snake saw the doll, he probably thought it was a living human being, and suddenly he lifted his big sickle neck and approached with a terrifying force. そして 側 に 寄る が 早い か 、 その 大きな 身体 で 、 ぐるぐる と 人形 に 巻きついて 、 力いっぱい に しめつけました 。 |がわ||よる||はやい|||おおきな|からだ||||にんぎょう||まきついて|ちからいっぱい||しめつけ ました Then, as soon as he approached the side, with his big body, he wrapped around the doll and squeezed it with all his might. ところが 人形 に は 、 薄い 着物 の 下 に 釘 が いっぱい 、 尖った 先 を 外 に 向けて つまって いる のです 。 |にんぎょう|||うすい|きもの||した||くぎ|||とがった|さき||がい||むけて||| いくら 大 蛇 で も たまりません 。 |だい|へび|||たまり ませ ん 柔 かな 腹 の 鱗 の 間 に 、 一面に 釘 が ささり まして 、 そこ から 血 が 流れだし 、 そのまま 死んで しまいました 。 じゅう||はら||うろこ||あいだ||いちめんに|くぎ||||||ち||ながれだし||しんで|しまい ました Between the scales of the soft belly, a nail struck all over, and blood began to flow from there, and he died as it was. 二 首尾よく 大 蛇 退治 が できました ので 、 猿 はたいへん 喜びました 。 ふた|しゅびよく|だい|へび|たいじ||でき ました||さる|は たいへん|よろこび ました The monkey was very pleased because he was able to successfully exterminate the large snake. 「 お蔭 で 山 の 中 の 獣 は 、 皆 助かります 。 おかげ||やま||なか||けだもの||みな|たすかり ます これ から 、 お 約束 です から 、 上手に 人形 を 使う こと を 、 あなた に お 教え しましょう 。 |||やくそく|||じょうずに|にんぎょう||つかう||||||おしえ|し ましょう ただ 黙って 、 私 の いう とおり に なさら なければ いけません よ 」 甚兵衛 は 承知 しました 。 |だまって|わたくし|||||||いけ ませ ん||じん ひょうえ||しょうち|し ました 猿 は 甚兵衛 の 家 へ やってきました 。 さる||じん ひょうえ||いえ||やってき ました そして 家 に ある 人形 を 皆 売って しまい なさい と いいました 。 |いえ|||にんぎょう||みな|うって||||いい ました 甚兵衛 は 人形 を 残らず 売って しまいました 。 じん ひょうえ||にんぎょう||のこらず|うって|しまい ました Jinbei has sold all the dolls. すると 猿 は いいました 。 |さる||いい ました 「 三 日 の 間 、 この 人形 部屋 に は いって は いけません 。 みっ|ひ||あいだ||にんぎょう|へや|||||いけ ませ ん 三 日 たったら この 部屋 に おいで なさい 、 すると 大きな 人形 が 一 つ 立って います 。 みっ|ひ|||へや|||||おおきな|にんぎょう||ひと||たって|い ます その 人形 は なんでも 、 あなた の いう とおり に ひとりでに 動きます 」 甚兵衛 は 不思議に 思いました が 、 ともかくも 猿 の いう とおり に して 、 三 日間 人形 部屋 の 襖 を 閉め切って 置きました 。 |にんぎょう|||||||||うごき ます|じん ひょうえ||ふしぎに|おもい ました|||さる||||||みっ|にち かん|にんぎょう|へや||ふすま||しめきって|おき ました 猿 は どこ か へ 行って しまいました 。 さる|||||おこなって|しまい ました 三 日 たって から 、 甚兵衛 は そっと 人形 部屋 を 覗いて みました 。 みっ|ひ|||じん ひょうえ|||にんぎょう|へや||のぞいて|み ました すると 部屋 の 真中 に 、 大きな ひょっとこ の 人形 が 立って います 。 |へや||まんなか||おおきな|||にんぎょう||たって|い ます Then, in the middle of the room, there stands a big doll of a cherub. 甚兵衛 は びっくり しました が 、 猿 の 言葉 を 思いだして 、 手 を あげろ と 人形 に いって みました 。 じん ひょうえ|||し ました||さる||ことば||おもいだして|て||||にんぎょう|||み ました Jinbei was surprised, but he remembered the words of the monkey and went to the doll to raise his hand. 人形 は ひとりでに 手 を あげました 。 にんぎょう|||て||あげ ました 歩け と 甚兵衛 は いって みました 。 あるけ||じん ひょうえ|||み ました 人形 は ひとりでに 歩き だしました 。 にんぎょう|||あるき|だし ました それ から 、 踊れ と いえば 踊る し 、 坐れ と いえば 坐る し 、 人形 は いう とおり に 動き 廻る のです 。 ||おどれ|||おどる||すわれ|||すわる||にんぎょう|||||うごき|まわる| Then, when we talk about dancing, we dance, when we talk about sitting, we sit, and the dolls move around as they say. 甚兵衛 は 呆れ返って しまいました 。 じん ひょうえ||あきれかえって|しまい ました そして ぼんやり 人形 を 眺めて います と 、 その 背中 が 、 むくむく 動きだして 、 中 から 、 猿 が 飛びだして きました 。 ||にんぎょう||ながめて|い ます|||せなか|||うごきだして|なか||さる||とびだして|き ました 「 甚兵衛 さん 、 びっくり な すった でしょう 。 じん ひょうえ||||| "Mr. Jinbei, you must have been surprised. なあ に 、 私 が 中 に は いって いた んです 。 ||わたくし||なか||||| あの 人形 は 空っぽで 、 背中 に 私 の 出入 口 が ついて る のです 。 |にんぎょう||からっぽで|せなか||わたくし||しゅつにゅう|くち|||| 大 蛇 を 退治 て くださった お礼 に 、 これ から 私 が 人形 を 踊ら せます から 、 それ で あなた は 一 儲け なさい 。 だい|へび||たいじ|||お れい||||わたくし||にんぎょう||おどら|せま す||||||ひと|もうけ| 私 も 山 の 中 より 町 の 方 が 面白い から 、 御飯 だけ 食べ さ して くだされば 、 長く あなた の 側 に 仕えて 、 人形 を 踊ら せましょう 」 なるほど 猿 が 中 に は いって おれば 、 人形 が ひとりでに 踊る の も 不思議 では ありません 。 わたくし||やま||なか||まち||かた||おもしろい||ごはん||たべ||||ながく|||がわ||つかえて|にんぎょう||おどら|せ ましょう||さる||なか|||||にんぎょう|||おどる|||ふしぎ||あり ませ ん 甚兵衛 は 手 を 打って 面白がりました 。 じん ひょうえ||て||うって|おもしろがり ました Jinbei struck a hand and was amused. やがて 町 の 祭礼 と なります と 、 甚兵衛 は 一 番 賑やかな 広場 に 小屋がけ を し まして 、「 世界 一 の 人形 使い 、 独り で 踊る ひょっとこ 人形 」 と いう 看板 を だしました 。 |まち||さいれい||なり ます||じん ひょうえ||ひと|ばん|にぎやかな|ひろば||こやがけ||||せかい|ひと||にんぎょう|つかい|ひとり||おどる||にんぎょう|||かんばん||だし ました 町 の 人 たち は 、 あの 馬鹿 甚兵衛 が たいそう な 看板 を だした が 、 どんな こと を する の かしら と 、 面白 半分 に 小屋 へ は いって みました 。 まち||じん||||ばか|じん ひょうえ||||かんばん|||||||||||おもしろ|はんぶん||こや||||み ました 正面 に 広い 舞台 が できて いました 。 しょうめん||ひろい|ぶたい|||い ました 間もなく 甚兵衛 は 、 大きな ひょっとこ の 人形 を 持ちだし 、 それ を 舞台 の 真中 に 据え まして 、 自分 は 小さな 鞭 を 手 に 持ち 、 人形 の 側 に 立って 、 挨拶 を しました 。 まもなく|じん ひょうえ||おおきな|||にんぎょう||もちだし|||ぶたい||まんなか||すえ||じぶん||ちいさな|むち||て||もち|にんぎょう||がわ||たって|あいさつ||し ました 「 この度 私 が 人形 を ひとり で 踊ら せる 術 を 、 神 から 授かりました ので 、 それ を 皆様 に お 目 に かけます 。 このたび|わたくし||にんぎょう||||おどら||じゅつ||かみ||さずかり ました||||みなさま|||め||かけ ます "This time, God has given me the technique of making a doll dance by myself, so I would like to see it for everyone. この とおり 人形 に は 、 なんの 仕掛 も ございませ ん 」 そう いって 彼 は 、 手 の 鞭 で 人形 を 二 、 三 度 叩いて みせました 。 ||にんぎょう||||しかけ||||||かれ||て||むち||にんぎょう||ふた|みっ|たび|たたいて|みせ ました As you can see, there is no work in process for the doll. "He said that he hit the doll with his whip a couple of times. それ から 鞭 を 差上げて い いました 。 ||むち||さしあげて||い ました Then he gave me a whip. 「 歩いたり 、 歩いたり 」 人形 は 歩き だしました 。 あるいたり|あるいたり|にんぎょう||あるき|だし ました 「 廻ったり 、 廻ったり 」 人形 は ぐるぐる 廻りました 。 まわったり|まわったり|にんぎょう|||まわり ました 「 踊ったり 、 踊ったり 」 人形 は おかしな 恰好で 踊りました 。 おどったり|おどったり|にんぎょう|||かっこうで|おどり ました 「 飛んだり 、 跳ねたり 」 人形 は 飛び 跳ねました 。 とんだり|はねたり|にんぎょう||とび|はね ました 見物人 は 驚いて しまいました 。 けんぶつにん||おどろいて|しまい ました なにしろ 人形 が 独り で 動き 廻る の は 、 見た こと も 聞いた こと も ありません 。 |にんぎょう||ひとり||うごき|まわる|||みた|||きいた|||あり ませ ん 皆 立ちあがって 、 や ん や と 喝采 しました 。 みな|たちあがって|||||かっさい|し ました 中 に は 不思議に 思う 者 も あって 、 舞台 を 調べて みたり 、 人形 を 検査 したり しました 。 なか|||ふしぎに|おもう|もの|||ぶたい||しらべて||にんぎょう||けんさ||し ました けれども もとより 、 舞台 に は なんの 仕掛 も ありません し 、 猿 は 人形 の 中 に じっと 屈んで いま す ので 、 誰 に も 気づか れません でした 。 ||ぶたい||||しかけ||あり ませ ん||さる||にんぎょう||なか|||くっ んで||||だれ|||きづか|れ ませ ん| そして 、 やはり 、 甚兵衛 は 神様 から 人形 使い の 法 を 教わった と いう こと に なりました 。 ||じん ひょうえ||かみさま||にんぎょう|つかい||ほう||おそわった|||||なり ました さあ それ が 評判 に なり まして 、「 甚兵衛 の 人形 は 生 人形 」 と いい はやさ れ 、 町 の 人 たち は もちろん の こと 、 遠く の 人 まで 、 甚兵衛 の 人形 小屋 へ 見物 に 参りました 。 |||ひょうばん||||じん ひょうえ||にんぎょう||せい|にんぎょう|||はや さ||まち||じん||||||とおく||じん||じん ひょうえ||にんぎょう|こや||けんぶつ||まいり ました 三 町 の 祭礼 が すみます と 、 猿 は 甚兵衛 に 向って 、 都 に でて み よう では ありません か と いいました 。 みっ|まち||さいれい||すみ ます||さる||じん ひょうえ||むかい って|と||||||あり ませ ん|||いい ました 甚兵衛 も そう 思って た ところ です 。 じん ひょうえ|||おもって||| 田舎 の 小さな 町 で は 仕方 が ありません 。 いなか||ちいさな|まち|||しかた||あり ませ ん 大きな 都 に でて 、 世間 の 人 を びっくり さ せる の も 楽しみです 。 おおきな|と|||せけん||じん|||||||たのしみです それ で さっそく 支度 を し まして 、 だいぶ 遠い 都 へ でて ゆきました 。 |||したく|||||とおい|と|||ゆき ました 甚兵衛 は 、 都 の 一 番 賑やかな 場所 に 、 直ちに 小屋がけ を し まして 、「 世界 一 の 人形 使い 、 独り で 踊る ひょっとこ 人形 」 と いう 例 の 看板 を だしました 。 じん ひょうえ||と||ひと|ばん|にぎやかな|ばしょ||ただちに|こやがけ||||せかい|ひと||にんぎょう|つかい|ひとり||おどる||にんぎょう|||れい||かんばん||だし ました すると 、 甚兵衛 の 評判 は もう その 都 に も 伝わって います ので 、 見物人 が 朝 から つめかけて 、たいへんな 繁昌 です 。 |じん ひょうえ||ひょうばん||||と|||つたわって|い ます||けんぶつにん||あさ||||はんじょう| 甚兵衛 は 得意に なって 、 毎日 ひょっとこ の 人形 を 踊ら せました 。 じん ひょうえ||とくいに||まいにち|||にんぎょう||おどら|せま した ところが ある 日 、 甚兵衛 は 例の とおり 、「 歩いたり 、 歩いたり 、…… 踊ったり 、 踊ったり 、…… 飛んだり 、 跳ねたり 」 など と いって 、 自由自在に 人形 を 使って います うち 、 つい 調子 に のって 、「 鳴いたり 、 鳴いたり 」 と 口 を 滑らせました 。 ||ひ|じん ひょうえ||れいの||あるいたり|あるいたり|おどったり|おどったり|とんだり|はねたり||||じゆうじざいに|にんぎょう||つかって|い ます|||ちょうし|||ないたり|ないたり||くち||すべらせ ました けれども 人形 は 一 向 鳴きません でした 。 |にんぎょう||ひと|むかい|なき ませ ん| さあ 甚兵衛 は 弱って しまいました 。 |じん ひょうえ||よわって|しまい ました でも 一 度 いいだした こと です から 、 今さら 取消す わけに は ゆきません 。 |ひと|たび|||||いまさら|とりけす|||ゆき ませ ん 甚兵衛 は 泣きだし そうな 顔 を して 、 人形 の 中 の 猿 に そっと 頼みました 。 じん ひょうえ||なきだし|そう な|かお|||にんぎょう||なか||さる|||たのみ ました 「 猿 や 、 どうか 鳴いて くれ 、 私 が 困る から 」「 では 泣きましょう 」 と 猿 は 答えました 。 さる|||ないて||わたくし||こまる|||なき ましょう||さる||こたえ ました そこ で 甚兵衛 は 鞭 を 高く 差上げ 、 大きな 声 で いいました 。 ||じん ひょうえ||むち||たかく|さしあげ|おおきな|こえ||いい ました 「 鳴いたり 、 鳴いたり 」 人形 は 「 キイ 、 キイ 、 キャッキャッ 」 と 鳴きました 。 ないたり|ないたり|にんぎょう||きい|きい|||なき ました 見物人 は 驚いた の 驚か ない の 、 それ はたいへんな 騒ぎ に なりました 。 けんぶつにん||おどろいた||おどろか||||は たいへんな|さわぎ||なり ました 「 人形 が 鳴いた 」 と いう 者 も あれば 、「 あれ は 猿 の 鳴き声 だ 」 と いう 者 も ある し 、 一度に 立ちあがって はやし立てました 。 にんぎょう||ないた|||もの|||||さる||なきごえ||||もの||||いちどに|たちあがって|はやしたて ました Some said, "The doll rang," while others said, "That's the cry of a monkey." すると 甚兵衛 は 一 きわ 声 を 張りあげて い いました 。 |じん ひょうえ||ひと||こえ||はりあげて||い ました 「 今 の は 猿 の 鳴き声 で あります 。 いま|||さる||なきごえ||あり ます これ から また 他の 鳴き声 を お 聞か せ いたします 。 |||たの|なきごえ|||きか||いたし ます …… さあ ひょっとこ 人形 、 鳴いたり 鳴いたり 、 犬 の 鳴き声 」 人形 は 「 ワン 、 ワン 、 ワンワン 」 と 鳴きました 。 ||にんぎょう|ないたり|ないたり|いぬ||なきごえ|にんぎょう||わん|わん|わんわん||なき ました 「 鳴いたり 鳴いたり 、 猫 の 鳴き声 」 人形 は 「 ニャア 、 ニャア 、 ニャー 」 と 鳴きました 。 ないたり|ないたり|ねこ||なきごえ|にんぎょう||||||なき ました 「 鳴いたり 鳴いたり 、 鼠 の 鳴き声 」 人形 は 「 チュウ 、 チュウ 、 チュチュー 」 と 鳴きました 。 ないたり|ないたり|ねずみ||なきごえ|にんぎょう||||||なき ました 「 鳴いたり 鳴いたり 、 狐 の 鳴き声 」 人形 は 「 コン 、 コン 、 コンコン 」 と 鳴きました 。 ないたり|ないたり|きつね||なきごえ|にんぎょう||||||なき ました 「 鳴いたり 鳴いたり 、 狸 の 鳴き声 」 する と 見物人 は 喜びました 。 ないたり|ないたり|たぬき||なきごえ|||けんぶつにん||よろこび ました The spectators were delighted when they said, "Screaming, squeaking, raccoon dogs." 誰 も まだ 、 狸 の 鳴き声 を 聞いた 者 が ありません でした 。 だれ|||たぬき||なきごえ||きいた|もの||あり ませ ん| 皆 静まり返って 耳 を 澄 しました 。 みな|しずまりかえって|みみ||きよし|し ました Everyone calmed down and listened. ところが 、 いつまで たって も 人形 は 鳴きません 。 ||||にんぎょう||なき ませ ん 甚兵衛 は また くり返しました 。 じん ひょうえ|||くりかえし ました 「 鳴いたり 鳴いたり 、 狸 の 鳴き声 」 それ でも まだ 人形 は 鳴きません でした 。 ないたり|ないたり|たぬき||なきごえ||||にんぎょう||なき ませ ん| 鳴か ない の も 道理 です 。 なか||||どうり| 人形 の 中 の 猿 は 、 狸 の 泣き声 を 知ら なかった のです 。 にんぎょう||なか||さる||たぬき||なきごえ||しら|| 甚兵衛 は そんな こと と は 気づか ないで 、 三 度 くり返しました 。 じん ひょうえ||||||きづか||みっ|たび|くりかえし ました 「 鳴いたり 鳴いたり 、 狸 の 鳴き声 」 する と 人形 は 大きな 声 で こう いいました 。 ないたり|ないたり|たぬき||なきごえ|||にんぎょう||おおきな|こえ|||いい ました 「 狸 の 鳴き声 、 知ら ない 知ら ない 、 キイ 、 キイ 、 キャッキャッ 」 それ を 聞く と 、 小屋 の 中 は 沸き返る ような 騒ぎ に なりました 。 たぬき||なきごえ|しら||しら||きい|きい||||きく||こや||なか||わきかえる||さわぎ||なり ました 「 狸 の 声 を 人形 も 知ら ない ―― 人形 が 口 を 利いた ―― 猿 の 鳴き声 を した 」 と てんで に いい はやして 、 見物人 の ほう が 踊り だしました 。 たぬき||こえ||にんぎょう||しら||にんぎょう||くち||きいた|さる||なきごえ||||||||けんぶつにん||||おどり|だし ました 甚兵衛 は 初め 呆 気 に とられて いました が 、 やがて 程よい ところ で 挨拶 を して 、 その 日 は それ で おしまい に しました 。 じん ひょうえ||はじめ|ぼけ|き||とら れて|い ました|||ほどよい|||あいさつ||||ひ||||||し ました 甚兵衛 と 猿 と 二 人きり に なります と 、 猿 は 顔 から 汗 を 流し ながら いいました 。 じん ひょうえ||さる||ふた|ひときり||なり ます||さる||かお||あせ||ながし||いい ました 「 甚兵衛 さん 、 今日 の ように 困った こと は ありません 。 じん ひょうえ||きょう|||こまった|||あり ませ ん "Mr. Jinbei, I haven't had a problem like today. 狸 の 鳴き声 を 知ら ない のに 、 鳴け と なん 遍 も いわれて 、 私 は どう しよう か と 思いました 」「 いや 私 も うっかり いって しまって 、 後 で 困った な と 思った が 、 しかし お前 が 知ら ない 知ら ない と いった の は 大 でき だった 」 そして 翌日 から は 、 踊り や 鳴き声 を 前 から きめて おいて 、 それ だけ を やる こと に しました 。 たぬき||なきごえ||しら|||なけ|||へん||いわ れて|わたくし||||||おもい ました||わたくし|||||あと||こまった|||おもった|||おまえ||しら||しら||||||だい||||よくじつ|||おどり||なきごえ||ぜん||||||||||し ました Even though I didn't know the raccoon dog's bark, I was wondering what to do when I was told that it was barking. " I didn't know I didn't know it was a big deal. ”And from the next day, I decided to keep the dance and cry from the front and do only that. 四 ところが その 都 に 、 四 、 五 人 で 組 を なした 盗賊 が い まして 、 甚兵衛 の 人形 の 評判 を きき 、 それ を 盗み 取ろう と はかりました 。 よっ|||と||よっ|いつ|じん||くみ|||とうぞく||||じん ひょうえ||にんぎょう||ひょうばん|||||ぬすみ|とろう||はかり ました However, in that city, there were four or five bandits, who heard the reputation of Jinbei's dolls and tried to steal them. そして ある 晩 、 にわかに 甚兵衛 の 所 へ 押し入り 、 眠って る 甚兵衛 を 縛り あげ 、 刀 を つきつけて 、 人形 を だせ と 嚇 かしました 。 ||ばん||じん ひょうえ||しょ||おしいり|ねむって||じん ひょうえ||しばり||かたな|||にんぎょう||||かく|かし ました 甚兵衛 は びっくり して 、 あたり を 見 廻しました が 、 猿 は どこ か へ 逃げて しまって 居ません し 、 まごまご する と 刀 で 切ら れ そうです から 、 仕方なく 人形 の ある 室 を 教えました 。 じん ひょうえ||||||み|まわし ました||さる|||||にげて||い ませ ん|||||かたな||きら||そう です||しかたなく|にんぎょう|||しつ||おしえ ました 盗賊 ども は 人形 を 奪う と 、 そのまま どこ か へ 行って しまいました 。 とうぞく|||にんぎょう||うばう||||||おこなって|しまい ました 盗賊 ども が 居 なく なった 時 、 押入 の 中 に 隠れて いた 猿 は 、 ようよう でて きて 、 甚兵衛 の 縛られて る 繩 を 解いて やりました 。 とうぞく|||い|||じ|おしい||なか||かくれて||さる|||||じん ひょうえ||しばら れて||なわ||といて|やり ました けれども 盗賊 ども が 逃げて しまった 後 な ので 、 どうにも 仕方 が ありません でした 。 |とうぞく|||にげて||あと||||しかた||あり ませ ん| ただ この上 は 、 盗賊 の 住居 を 探しあてて 人形 を 取り返す より ほか は ありません 。 |このうえ||とうぞく||じゅうきょ||さがしあてて|にんぎょう||とりかえす||||あり ませ ん それ から 毎日 、 昼間 は 甚兵衛 が でかけ 、 夜 に なる と 猿 が でかけて 、 人形 の 行方 を 探しました 。 ||まいにち|ひるま||じん ひょうえ|||よ||||さる|||にんぎょう||ゆくえ||さがし ました けれど なかなか 見つかりません でした 。 ||みつかり ませ ん| ちょうど 半月 ばかり たった 時 、 その 日 も 甚兵衛 は 尋ね あぐんで 、 ぼんやり 家 に 帰り かけます と 、 ある 河 岸 の 木 影 に 、 白 髯 の 占い 者 が 卓 を 据えて 、 にこにこ 笑って いました 。 |はんつき|||じ||ひ||じん ひょうえ||たずね|||いえ||かえり|かけ ます|||かわ|きし||き|かげ||しろ|ぜん||うらない|もの||すぐる||すえて||わらって|い ました 甚兵衛 は その 白 髯 の お 爺さん の 前 へ 行って 、 人形 の 行方 を 占って もらいました 。 じん ひょうえ|||しろ|ぜん|||じいさん||ぜん||おこなって|にんぎょう||ゆくえ||うらなって|もらい ました お 爺さん は しばらく 考えて いました が 、 やがて こう いいました 。 |じいさん|||かんがえて|い ました||||いい ました 「 は は あ 、 わかった わかった 。 その 人形 は 地獄 に 居る 。 |にんぎょう||じごく||いる 訳 は ない から 取り に 行く が いい 」 甚兵衛 は びっくり して 、 なお いろいろ 尋ねました が 、 白 髯 の お 爺さん は 眼 を つぶった きり 、 もう なんとも 答えません でした 。 やく||||とり||いく|||じん ひょうえ||||||たずね ました||しろ|ぜん|||じいさん||がん||||||こたえ ませ ん| 甚兵衛 は 家 に 帰って 、 その 話 を 猿 に いって きかせ 、 占い 者 の 言葉 を 二 人 で 考えて みました 。 じん ひょうえ||いえ||かえって||はなし||さる||||うらない|もの||ことば||ふた|じん||かんがえて|み ました Jinbei went home, told the story to the monkey, and thought about the words of the fortune-teller together. 地獄 に 居る が 訳 は ない と いう の が 、 どうも わかりません でした 。 じごく||いる||やく||||||||わかり ませ ん| 二 人 は 一晩 中 考えました 。 ふた|じん||ひとばん|なか|かんがえ ました そして 朝 に なる と 、 二 人 と も うまい こと を 考えつきました 。 |あさ||||ふた|じん||||||かんがえつき ました 甚兵衛 は こう 考えました 。 じん ひょうえ|||かんがえ ました 「 これ は なんでも 、 地獄 に 関係 の ある 古い お 寺 か 荒れはてた お 寺 に 違いない 」 猿 は こう 考えました 。 |||じごく||かんけい|||ふるい||てら||あれはてた||てら||ちがいない|さる|||かんがえ ました "Anything must be an old temple or a rugged temple related to hell," the monkey thought. 「 地獄 の こと なら 鬼 の 思う まま だ から 、 鬼 の 人形 を こしらえたら 、 それ で あの 人形 が 取りもどせる だろう 」 五 それ から は 、 猿 は 大きな 鬼 の 人形 を こしらえ 、 甚兵衛 は 荒れはてた 寺 を 尋ねて 歩きました 。 じごく||||おに||おもう||||おに||にんぎょう||||||にんぎょう||とりもどせる||いつ||||さる||おおきな|おに||にんぎょう|||じん ひょうえ||あれはてた|てら||たずねて|あるき ました "If it's about hell, it's the demon's will, so if you make a demon doll, then that doll will be able to get it back." I asked for a temple and walked. ちょうど 都 の 町 はずれ に 、 大きな 古寺 が ありました ので 、 甚兵衛 は そっと 中 に はいりこんで 様子 を 窺って みます と 、 畳 も なにも ない ような 荒れはてた 本堂 の なか に 、 四 、 五 人 の 男 が 坐って 、 なに か ひそひそ 相談 を して いました 。 |と||まち|||おおきな|こでら||あり ました||じん ひょうえ|||なか|||ようす||き って|み ます||たたみ|||||あれはてた|ほんどう||||よっ|いつ|じん||おとこ||すわって||||そうだん|||い ました よく 見る と 、 それ が あの 盗賊 ども では ありません か 。 |みる|||||とうぞく|||あり ませ ん| 甚兵衛 は びっくり して 、 見られ ない ように 逃げだして きました 。 じん ひょうえ||||み られ|||にげだして|き ました Jinbei was surprised and ran away so that he could not be seen. そして 猿 に その こと を 告げました 。 |さる|||||つげ ました 「 もう 大丈夫です 」 と 猿 は いいました 。 |だいじょうぶです||さる||いい ました 「 人形 は 盗賊 ども の 所 に ある に 違い ありません 。 にんぎょう||とうぞく|||しょ||||ちがい|あり ませ ん 私 が 行って 取りもどして きましょう 」 甚兵衛 は 危な がりました が 、 猿 が 大丈夫だ と いう もの です から 、 その いう とおり に 従いました 。 わたくし||おこなって|とりもどして|き ましょう|じん ひょうえ||あぶな|がり ました||さる||だいじょうぶだ||||||||||したがい ました 晩 に なります と 、 二 人 は 鬼 の 人形 を かついで 、 盗賊 の 古寺 へ 行きました 。 ばん||なり ます||ふた|じん||おに||にんぎょう|||とうぞく||こでら||いき ました それ から 猿 は 人形 の 中 に は いって 、 一 人 で のそのそ 本堂 に やって ゆきました 。 ||さる||にんぎょう||なか||||ひと|じん|||ほんどう|||ゆき ました 本堂 の 中 に は 蝋燭 が 明るく ともって いました が 、 盗賊 ども は 酒 に 酔っ払って 、 そこ に ごろごろ 眠って いました 。 ほんどう||なか|||ろうそく||あかるく||い ました||とうぞく|||さけ||よっぱらって||||ねむって|い ました 「 こら ! 」 と 猿 は 人形 の 中 から 大きな 声 で どなりました 。 |さる||にんぎょう||なか||おおきな|こえ||どなり ました 盗賊 ども は びっくり して 起きあがります と 、 眼 の 前 に 大きな 鬼 が つっ立って る では ありません か 。 とうぞく|||||おきあがり ます||がん||ぜん||おおきな|おに||つったって|||あり ませ ん| みんな 胆 を つぶして 、 腰 を 抜 して しまいました 。 |たん|||こし||ぬき||しまい ました Everyone crushed their gall bladder and pulled out their hips. 鬼 の 人形 の 中 から 、 猿 は 大きな 声 で いいました 。 おに||にんぎょう||なか||さる||おおきな|こえ||いい ました 「 貴 様 ども は 悪い 奴 だ 。 とうと|さま|||わるい|やつ| 甚兵衛 さん の 生 人形 を 盗んだろう 。 じん ひょうえ|||せい|にんぎょう||ぬすんだろう あれ を すぐ ここ に だせ 、 だせば 命 は 助けて やる 。 |||||||いのち||たすけて| ださ なければ 八 裂き に して しまう ぞ 」「 はい 、 だします 、 だします 」 と 盗賊 ども は 答えました 。 ||やっ|さき||||||だし ます|だし ます||とうぞく|||こたえ ました やがて 盗賊 ども は 、 生 人形 を 奥 から 持ってきました が 、 首 は ぬけ 手足 は もぎれて 、 さんざんな 姿 に なって いました 。 |とうぞく|||せい|にんぎょう||おく||もってき ました||くび|||てあし||もぎ れて||すがた|||い ました Eventually, the thieves brought raw dolls from the back, but their necks were missing and their limbs were torn off, and they were in various shapes. それ も 道理 です 。 ||どうり| 盗賊 ども は 人形 を 踊らして 、 金儲け を する つもりでした が 、 中 に 猿 が はいって いない んです から 、 人形 は 踊れよう わけ が ありません 。 とうぞく|||にんぎょう||おどらして|かねもうけ|||||なか||さる||||||にんぎょう||おどれよう|||あり ませ ん The bandits intended to make money by dancing the dolls, but there are no monkeys inside, so the dolls can't dance. 盗賊 ども は 腹 を 立てて 、 人形 の 首 を 引きぬき 、 手足 を もぎ取って 、 本堂 の 隅っこ に 投げ捨てて 置いた のです 。 とうぞく|||はら||たてて|にんぎょう||くび||ひきぬき|てあし||もぎとって|ほんどう||すみ っこ||なげすてて|おいた| それ を 見て 猿 は 、 鬼 の 人形 の 中 から どなりつけました 。 ||みて|さる||おに||にんぎょう||なか||どなりつけ ました 「 不都合な 奴 だ 。 ふつごうな|やつ| しかし おとなしく 人形 を だした から 、 命 だけ は 助けて やる 。 ||にんぎょう||||いのち|||たすけて| どこ へ なり と いって しまえ 。 また これ から 泥 坊 を する と 許さ ん ぞ 」 盗賊 ども は 震えあがって 、 逃げ う せて しまいました 。 |||どろ|ぼう||||ゆるさ|||とうぞく|||ふるえあがって|にげ|||しまい ました 猿 は 鬼 の 中 から でて きて 、 甚兵衛 と 二 人 で 、 壊れた 人形 を 抱いて 、 非常に 悲しみました 。 さる||おに||なか||||じん ひょうえ||ふた|じん||こぼれた|にんぎょう||いだいて|ひじょうに|かなしみ ました けれども 、 いくら 悲しんで も いまさら 仕方 は ありません 。 ||かなしんで|||しかた||あり ませ ん 二 人 は 壊れた 人形 を 持って 、 田舎 の 町 へ 帰りました 。 ふた|じん||こぼれた|にんぎょう||もって|いなか||まち||かえり ました 甚兵衛 は もうたいへん 金 を 儲けて いました し 、 壊れた 人形 を 見る と 、 再び 人形 を 使う 気 に も なりません でした 。 じん ひょうえ||もう たいへん|きむ||もうけて|い ました||こぼれた|にんぎょう||みる||ふたたび|にんぎょう||つかう|き|||なり ませ ん| 猿 も 都 を 見物 しました し 、 そろそろ 元 の 山 に もどり たく なって る 折 でした 。 さる||と||けんぶつ|し ました|||もと||やま||||||お| それ で 二 人 は 、 壊れた 人形 を 立派に 繕って 、 それ を 山 の 神社 へ 納めました 。 ||ふた|じん||こぼれた|にんぎょう||りっぱに|つくろって|||やま||じんじゃ||おさめ ました 猿 は 山 の 中 へ もどりました 。 さる||やま||なか||もどり ました 甚兵衛 は 、 もう 誰 が 頼んで も 人形 を 使いません でした 。 じん ひょうえ|||だれ||たのんで||にんぎょう||つかい ませ ん| そして 山 から ときどき 遊び に くる 猿 を 相手 に 、 楽しく 一生 を 送りました そうです 。 |やま|||あそび|||さる||あいて||たのしく|いっしょう||おくり ました|そう です