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縛ら れ 地蔵
縛ら れ 地蔵
むかし むかし 、 室 町 の 越後 屋 八郎 右 衛 門 の 店 に 出入り して いる 人間 に 、 弥 五郎 と いう 荷 担ぎ がい ました 。
ある 暑い 日 の 事 、 弥 五郎 は 松戸 郷 から 室 町 の 越後 屋 まで 、 白木 綿 を 運んで い ました 。
その 途中 、 本 所 中 の 郷 (→ 今 の 浅草 ) と いう ところ に さしかかる と 、 ある お 寺 の 大きな 木 の 下 に 石 の お 地蔵 さん あった ので 、 弥 五郎 は 、 「 ああ 、 ちょうど いい 木陰 が ある ぞ 。
お 地蔵 さま 、 ちょいと 休ま せて もらい ます よ 」 と 、 一休み した のです が 、 あまりに も 疲れて いた ので 、 そのまま すっかり 眠り 込んで しまった のです 。
さて 、 弥 五郎 が ふと 目 を 覚ます と 、 もう すっかり 日 が 傾いて いて 、 通り に は 人気 が あり ませ ん でした 。
「 いけ ねえ !
寝 過ごした !
」 弥 五郎 は すぐ に 出発 しよう と 、 そば に 置いた はずの 荷物 を 探した のです が 、 どうした 事か 荷物 が ない のです 。
「 しまった !
荷物 を 盗ま れた !
」 あわてた 弥 五郎 は 、 近く の お 寺 に 飛び 込んで 、 「 すみません !
おれ の 荷物 、 白木 綿 の 反物 を 持ち 去った 者 を 見 ませ ん でした か !
」 と 、 たずね ました が 、 お 坊さん は 気の毒 そうな 顔 を し ながら 、 「 さあ 、 そういう 者 は 見 なかった ねえ 」 と 、 言う のです 弥 五郎 は 仕方なく 、 手ぶら の まま 室 町 の 越後 屋 へ 帰る と 、 今 まで の 訳 を 話し ました が 、 「 何 だって ?
昼寝 を して いて 荷物 を 持って いかれた だって !
はん 。
そんな マヌケ な 話 を 誰 が 信じる もん か 。
おおかた 、 勝手に 売り払って 博打 に でも 使った んだろう 。
まあ 、 どっち に しろ 、 無くなった 荷物 の 代金 は 弁償 して もらう よ 」 と 、 言わ れて 、 弥 五郎 は すっかり 困って しまい ました 。
弁償 しよう に も 、 反物 は 五百 反 も あった ので 、 そんなに たくさんの 白木 綿 を 弥 五郎 一 人 で 弁償 出来る はず が あり ませ ん 。
荷 担ぎ の 元締め に も 相談 して み ました が 、 元締め の 生活 も 楽で は ない ので 、 代わり に 弁償 する 事 は 出来 ませ ん でした 。
「 思えば 、 自分 が 油断 して 寝 込んで しまった の が いけなかった な 。
この上 は 、 死んで おわび を する しか ない か 」 そこ で 弥 五郎 は 、 親しい 友人 に 最後の 別れ を 言い に 行った のです 。
する と その 友人 は 、 弥 五郎 に こう 言い ました 。
「 この マヌケ !
お前 が 死んで も 、 残さ れた 元締め や 家族 や 親類 に 迷惑 が かかる だけ だろう 。
それ より も 、 死ぬ 覚悟 が ある の なら 、 南 町 奉行 所 の 大岡 さま に 訴えて みろ 。
忙しい お方 だ から 、 ただ の 町人 が 行って も 簡単に は 会って くれ ない だろう が 、 一 歩 も 動か ず 何 日 も 死ぬ 気 で 訴えりゃ 、 その内 に 大岡 さま が 直々 に お 取り調べ と なって 、 万事 うまく 治めて くださる さ 」 弥 五郎 は それ を 聞く と 、 大喜びで 奉行 所 へ 行き 、 大きな 門 の 前 で 声 を 張り上げて 言い ました 。
「 私 は 室 町 の 越後 屋 さん に 出入り して いる 、 荷 担ぎ の 弥 五郎 と 申す 者 で ございます !
本 所 中 の 郷 の 石 地蔵 の 前 で 居眠り を して いた ところ 、 大事な 荷物 を 何者 か に 持ち 去ら れて しまい ました !
越後 屋 さん は 反物 を 弁償 しろ と おっしゃい ました が 、 五百 反もの 白木 綿 を 弁償 出来る あて も あり ませ ん !
この上 は 入水 して おわび を と 決心 し ました が 、 私 が 死ねば 責任 は 荷 担ぎ の 元締め に ふりかかって しまい ます !
お 忙しい と は 思い ます が 、 どう か 大岡 さま じきじき の お 取り調べ を お 願い 申しあげ ます !
お 聞き届け いただけ ない 時 は 、 身 を 投げて 死ぬ 覚悟 で ございます !
」 友だち の 言った 通り 、 ただ の 町人 の 弥 五郎 が 行って も 、 なかなか 越前 に は 取り次いで もらえ ませ ん でした 。
しかし 、 弥 五郎 は 三 日 の 間 、 物 も 食べ ず に 座り 込んで 頑張って いる と 、 役人 が やっと 、 弥 五郎 の 事 を 越前 の 耳 に 入れた のです 。
する と 越前 は 、 やって いた 仕事 を 中断 して 、 「 人 の 命 を 救う 事 より 、 重い 仕事 は ある まい 」 と 、 さっそく 弥 五郎 を 呼んで 、 事 の 次第 を 詳しく 聞いて くれた のです 。
越前 は 弥 五郎 の 話 を 聞き 終わる と 、 少し 考えて こう 言い ました 。
「 ふむ 、 なるほど 、 あい わかった 。
地蔵 菩薩 と いえば 国土 を 守る 仏 である 。
その方 は 地蔵 に 預ければ 安心 と 思い 、 荷 を 下ろして 休んだ のであろう 。
その方 の 油断 に も 責任 が ある が 、 地蔵 と も あろう 者 が 目の前 で 盗み を 働く 者 を 見て 見 ぬ ふり を する と はけ しから ん 。
さっそく 縄 を うち 、 引 っ 捕らえて 取り調べ を せ ねば なら ん 。
あるいは この 地蔵 こそ 、 盗人 と つるんで 悪事 を 働いて いる の かも しれ ぬ ぞ 」 それ を 聞いた 弥 五郎 は 、 ( 地蔵 さま が 悪い と は 。
・・・ こ の お 奉行 さま 、 大丈夫 かな ?
) と 、 思い ました が 、 ここ まで くれば 、 全て を 越前 に 任せる しか あり ませ ん 。
やがて 越前 の 命令 に より 、 お 地蔵 さん は 縄 で ぐるぐる巻き に さ れ 、 大八車 に 乗せ られて 両 国 の 方 へ と ガラガラ と 引か れて いき ました 。
この 、 越前 が お 地蔵 さん を お 取り調べ に なる と いう 話 は たちまち 評判 に なり 、 江戸 中 から 町民 たち が ぞろぞろ と 集まって き ました 。
やがて お 地蔵 さん は 奉行 所 に 到着 し 、 ついて きた 野次馬 たち も 大八車 の あと に ついて 奉行 所 に 入って いき ました 。
さて 、 お 白 州 に 引き出さ れた お 地蔵 さん に 、 越前 は 恐い 顔 を して 言い ました 。
「 その方 、 人々 から 南 無地 蔵 大 菩薩 と 尊敬 を うけ 、 人々 を 慈悲 にて 救わ ねば なら ぬ 身 で あり ながら 、 目の前 で 盗み を 働く 者 を 見過ごす と は 不 埒 千万 である 。
盗み を 知って いて 止め ぬ は 、 盗人 と 同じである ぞ 。
さあ 、 今 すぐ 盗賊 の 事 を 白状 いたせ 。
さもなくば 、 入 牢 申しつける ぞ !
」 「・・・・・・」 越前 は お 地蔵 さん の 返事 を 待ち ました が 、 むろん 、 石 の お 地蔵 さん は 返事 を し ませ ん 。
さて 、 事 の 次第 を 見物 して いた 野次馬 たち は 、 この おかしな やり取り に あきれて 、 ひそひそ と 話し はじめ ました 。
「 大岡 さま は 、 いったい 何の つもりだ ?
」 「 まさか 本当に 、 お 地蔵 さま を 罰する つもりだ ろうか ?
」 する と 、 その ひそひそ 話 を 聞いて 、 越前 が 言い ました 。
「 この 者 たち は 何 じゃ !
お 白 州 に 勝手気ままに 入り 込み 、 吟味 を 見物 する と は 不届き 千万 。
前後 の 門 を 閉じよ !
一 人 も 逃す な !
」 さあ 、 野次馬 たち は びっくり です 。
みんな は 名前 や 住所 を 調べ られる と 、 いったん は 家 に 帰して くれ ました が 、 あと で きつい お 仕置き が ある ぞ と 、 全員 が きびしく 言い 渡さ れた のです 。
それ から 半月 ほど たって 、 奉行 所 から お 達し が あり ました 。
《 奉行 所 に 勝手に 入り 込む こと は 不届きである 。
重罪 を 申し付けて も よい が 、 もと は 白木 綿 の 吟味 から 始まった 事 ゆえ 、 白木 綿 一 反 の 罰金 で 許す 事 に する 。
三 日 の うち に 持参 いたせ 》 野次馬 たち は 、 牢屋 に 入れ られる ので は ない か と 思って いた ので 、 そんな 事 で 済む のならば と 、 みんな ほっと 胸 を なでおろし ながら 、 奉行 所 へ 白木 綿 を 持って 行き ました 。
こうして 三 日 の うち に 、 白木 綿 の 反物 が 山 と 積み あげ られた のです 。
そこ で 越前 は 、 弥 五郎 を 呼んで きて 尋ね ました 。
「 弥 五郎 よ 。
この 中 から 、 盗ま れた 反物 を 見分ける 事 が 出来る か ?
」 「 はい 。
盗ま れた 反物 は 、 しかと 覚えて い ます 」 そこ で 弥 五郎 が 反物 を 調べて いく と 、 中 に 二 反 だけ 、 盗ま れた 反物 が 混じって いた のです 。
する と 越前 は 、 その 反物 を 持って きた 町人 に 、 「 これ を 、 どこ で 買い求めた のだ ?
」 と 、 尋ねて 、 さらに 売り 主 を 問い 正した ところ 、 本 所 表 町 に 住む 者 が 盗賊 と 判明 した のです 。
こうして 盗ま れた 反物 は 、 そっくりそのまま 戻って き ました 。
越前 は 弥 五郎 に 反物 を 渡して 、 こう 言い ました 。
「 これ は その方 に 返す ゆえ 、 今後 は 油断 して 、 地蔵 に 苦労 を かけて は なら ん ぞ 」 また 、 野次馬 たち から 集めた 反物 も 、 持って きた 者 たち に 返し ました 。
「 その方 ら の 協力 に より 、 無事に 盗賊 を 見つける 事 が 出来た 。
これ ら の 反物 は その方 ら に 返そう 。
また 、 地蔵 も 赦免 申しつける ゆえ 、 中 の 郷 に 持ち帰り 安置 する ように 。
・・・ うむ 。
これ にて 、 一 件 落着 !
さて 、 この 話 は たちまち 知れ 渡り 、 この お 地蔵 さん に 頼めば どんな 事 でも 願い が 叶う と 評判 に なり ました 。
そして 越前 の お 裁き に ちなんで 荒 縄 で 地蔵 を しばり 、 『 願い が 叶ったら 、 縄 を 解き ます 』 と 、 願 を 掛ける ように なった と いう こと です 。
→ 物語 の 舞台 の 「 天台宗 南 蔵 院 」
おしまい
縛ら れ 地蔵
しばら||じぞう
縛ら れ 地蔵
しばら||じぞう
むかし むかし 、 室 町 の 越後 屋 八郎 右 衛 門 の 店 に 出入り して いる 人間 に 、 弥 五郎 と いう 荷 担ぎ がい ました 。
||しつ|まち||えちご|や|はちろう|みぎ|まもる|もん||てん||でいり|||にんげん||わたる|ごろう|||に|かつぎ||
ある 暑い 日 の 事 、 弥 五郎 は 松戸 郷 から 室 町 の 越後 屋 まで 、 白木 綿 を 運んで い ました 。
|あつい|ひ||こと|わたる|ごろう||まつど|ごう||しつ|まち||えちご|や||しらき|めん||はこんで||
その 途中 、 本 所 中 の 郷 (→ 今 の 浅草 ) と いう ところ に さしかかる と 、 ある お 寺 の 大きな 木 の 下 に 石 の お 地蔵 さん あった ので 、 弥 五郎 は 、 「 ああ 、 ちょうど いい 木陰 が ある ぞ 。
|とちゅう|ほん|しょ|なか||ごう|いま||あさくさ|||||||||てら||おおきな|き||した||いし|||じぞう||||わたる|ごろう|||||こかげ|||
お 地蔵 さま 、 ちょいと 休ま せて もらい ます よ 」 と 、 一休み した のです が 、 あまりに も 疲れて いた ので 、 そのまま すっかり 眠り 込んで しまった のです 。
|じぞう|||やすま||||||ひとやすみ||||||つかれて|||||ねむり|こんで||
さて 、 弥 五郎 が ふと 目 を 覚ます と 、 もう すっかり 日 が 傾いて いて 、 通り に は 人気 が あり ませ ん でした 。
|わたる|ごろう|||め||さます||||ひ||かたむいて||とおり|||にんき|||||
「 いけ ねえ !
寝 過ごした !
ね|すごした
」 弥 五郎 は すぐ に 出発 しよう と 、 そば に 置いた はずの 荷物 を 探した のです が 、 どうした 事か 荷物 が ない のです 。
わたる|ごろう||||しゅっぱつ|||||おいた||にもつ||さがした||||ことか|にもつ|||
「 しまった !
荷物 を 盗ま れた !
にもつ||ぬすま|
」 あわてた 弥 五郎 は 、 近く の お 寺 に 飛び 込んで 、 「 すみません !
|わたる|ごろう||ちかく|||てら||とび|こんで|
おれ の 荷物 、 白木 綿 の 反物 を 持ち 去った 者 を 見 ませ ん でした か !
||にもつ|しらき|めん||たんもの||もち|さった|もの||み||||
」 と 、 たずね ました が 、 お 坊さん は 気の毒 そうな 顔 を し ながら 、 「 さあ 、 そういう 者 は 見 なかった ねえ 」 と 、 言う のです 弥 五郎 は 仕方なく 、 手ぶら の まま 室 町 の 越後 屋 へ 帰る と 、 今 まで の 訳 を 話し ました が 、 「 何 だって ?
|||||ぼうさん||きのどく|そう な|かお||||||もの||み||||いう||わたる|ごろう||しかたなく|てぶら|||しつ|まち||えちご|や||かえる||いま|||やく||はなし|||なん|
昼寝 を して いて 荷物 を 持って いかれた だって !
ひるね||||にもつ||もって|いか れた|
はん 。
そんな マヌケ な 話 を 誰 が 信じる もん か 。
|||はなし||だれ||しんじる||
おおかた 、 勝手に 売り払って 博打 に でも 使った んだろう 。
|かってに|うりはらって|ばくち|||つかった|
まあ 、 どっち に しろ 、 無くなった 荷物 の 代金 は 弁償 して もらう よ 」 と 、 言わ れて 、 弥 五郎 は すっかり 困って しまい ました 。
||||なくなった|にもつ||だいきん||べんしょう|||||いわ||わたる|ごろう|||こまって||
弁償 しよう に も 、 反物 は 五百 反 も あった ので 、 そんなに たくさんの 白木 綿 を 弥 五郎 一 人 で 弁償 出来る はず が あり ませ ん 。
べんしょう||||たんもの||ごひゃく|はん||||||しらき|めん||わたる|ごろう|ひと|じん||べんしょう|できる|||||
荷 担ぎ の 元締め に も 相談 して み ました が 、 元締め の 生活 も 楽で は ない ので 、 代わり に 弁償 する 事 は 出来 ませ ん でした 。
に|かつぎ||もとじめ|||そうだん|||||もとじめ||せいかつ||らくで||||かわり||べんしょう||こと||でき|||
「 思えば 、 自分 が 油断 して 寝 込んで しまった の が いけなかった な 。
おもえば|じぶん||ゆだん||ね|こんで|||||
この上 は 、 死んで おわび を する しか ない か 」 そこ で 弥 五郎 は 、 親しい 友人 に 最後の 別れ を 言い に 行った のです 。
このうえ||しんで|||||||||わたる|ごろう||したしい|ゆうじん||さいご の|わかれ||いい||おこなった|
する と その 友人 は 、 弥 五郎 に こう 言い ました 。
|||ゆうじん||わたる|ごろう|||いい|
「 この マヌケ !
お前 が 死んで も 、 残さ れた 元締め や 家族 や 親類 に 迷惑 が かかる だけ だろう 。
おまえ||しんで||のこさ||もとじめ||かぞく||しんるい||めいわく||||
それ より も 、 死ぬ 覚悟 が ある の なら 、 南 町 奉行 所 の 大岡 さま に 訴えて みろ 。
|||しぬ|かくご|||||みなみ|まち|ぶぎょう|しょ||おおおか|||うったえて|
忙しい お方 だ から 、 ただ の 町人 が 行って も 簡単に は 会って くれ ない だろう が 、 一 歩 も 動か ず 何 日 も 死ぬ 気 で 訴えりゃ 、 その内 に 大岡 さま が 直々 に お 取り調べ と なって 、 万事 うまく 治めて くださる さ 」 弥 五郎 は それ を 聞く と 、 大喜びで 奉行 所 へ 行き 、 大きな 門 の 前 で 声 を 張り上げて 言い ました 。
いそがしい|おかた|||||ちょうにん||おこなって||かんたんに||あって|||||ひと|ふ||うごか||なん|ひ||しぬ|き||うったえりゃ|その うち||おおおか|||じきじき|||とりしらべ|||ばんじ||おさめて|||わたる|ごろう||||きく||おおよろこびで|ぶぎょう|しょ||いき|おおきな|もん||ぜん||こえ||はりあげて|いい|
「 私 は 室 町 の 越後 屋 さん に 出入り して いる 、 荷 担ぎ の 弥 五郎 と 申す 者 で ございます !
わたくし||しつ|まち||えちご|や|||でいり|||に|かつぎ||わたる|ごろう||もうす|もの||
本 所 中 の 郷 の 石 地蔵 の 前 で 居眠り を して いた ところ 、 大事な 荷物 を 何者 か に 持ち 去ら れて しまい ました !
ほん|しょ|なか||ごう||いし|じぞう||ぜん||いねむり|||||だいじな|にもつ||なにもの|||もち|さら|||
越後 屋 さん は 反物 を 弁償 しろ と おっしゃい ました が 、 五百 反もの 白木 綿 を 弁償 出来る あて も あり ませ ん !
えちご|や|||たんもの||べんしょう||||||ごひゃく|たんもの|しらき|めん||べんしょう|できる|||||
この上 は 入水 して おわび を と 決心 し ました が 、 私 が 死ねば 責任 は 荷 担ぎ の 元締め に ふりかかって しまい ます !
このうえ||はい すい|||||けっしん||||わたくし||しねば|せきにん||に|かつぎ||もとじめ||||
お 忙しい と は 思い ます が 、 どう か 大岡 さま じきじき の お 取り調べ を お 願い 申しあげ ます !
|いそがしい|||おもい|||||おおおか|||||とりしらべ|||ねがい|もうしあげ|
お 聞き届け いただけ ない 時 は 、 身 を 投げて 死ぬ 覚悟 で ございます !
|ききとどけ|||じ||み||なげて|しぬ|かくご||
」 友だち の 言った 通り 、 ただ の 町人 の 弥 五郎 が 行って も 、 なかなか 越前 に は 取り次いで もらえ ませ ん でした 。
ともだち||いった|とおり|||ちょうにん||わたる|ごろう||おこなって|||えちぜん|||とりついで||||
しかし 、 弥 五郎 は 三 日 の 間 、 物 も 食べ ず に 座り 込んで 頑張って いる と 、 役人 が やっと 、 弥 五郎 の 事 を 越前 の 耳 に 入れた のです 。
|わたる|ごろう||みっ|ひ||あいだ|ぶつ||たべ|||すわり|こんで|がんばって|||やくにん|||わたる|ごろう||こと||えちぜん||みみ||いれた|
する と 越前 は 、 やって いた 仕事 を 中断 して 、 「 人 の 命 を 救う 事 より 、 重い 仕事 は ある まい 」 と 、 さっそく 弥 五郎 を 呼んで 、 事 の 次第 を 詳しく 聞いて くれた のです 。
||えちぜん||||しごと||ちゅうだん||じん||いのち||すくう|こと||おもい|しごと||||||わたる|ごろう||よんで|こと||しだい||くわしく|きいて||
越前 は 弥 五郎 の 話 を 聞き 終わる と 、 少し 考えて こう 言い ました 。
えちぜん||わたる|ごろう||はなし||きき|おわる||すこし|かんがえて||いい|
「 ふむ 、 なるほど 、 あい わかった 。
地蔵 菩薩 と いえば 国土 を 守る 仏 である 。
じぞう|ぼさつ|||こくど||まもる|ふつ|
その方 は 地蔵 に 預ければ 安心 と 思い 、 荷 を 下ろして 休んだ のであろう 。
そのほう||じぞう||あずければ|あんしん||おもい|に||おろして|やすんだ|
その方 の 油断 に も 責任 が ある が 、 地蔵 と も あろう 者 が 目の前 で 盗み を 働く 者 を 見て 見 ぬ ふり を する と はけ しから ん 。
そのほう||ゆだん|||せきにん||||じぞう||||もの||めのまえ||ぬすみ||はたらく|もの||みて|み|||||||し から|
さっそく 縄 を うち 、 引 っ 捕らえて 取り調べ を せ ねば なら ん 。
|なわ|||ひ||とらえて|とりしらべ|||||
あるいは この 地蔵 こそ 、 盗人 と つるんで 悪事 を 働いて いる の かも しれ ぬ ぞ 」 それ を 聞いた 弥 五郎 は 、 ( 地蔵 さま が 悪い と は 。
||じぞう||ぬすびと|||あくじ||はたらいて|||||||||きいた|わたる|ごろう||じぞう|||わるい||
・・・ こ の お 奉行 さま 、 大丈夫 かな ?
|||ぶぎょう||だいじょうぶ|
) と 、 思い ました が 、 ここ まで くれば 、 全て を 越前 に 任せる しか あり ませ ん 。
|おもい||||||すべて||えちぜん||まかせる||||
やがて 越前 の 命令 に より 、 お 地蔵 さん は 縄 で ぐるぐる巻き に さ れ 、 大八車 に 乗せ られて 両 国 の 方 へ と ガラガラ と 引か れて いき ました 。
|えちぜん||めいれい||||じぞう|||なわ||ぐるぐるまき||||だいはちぐるま||のせ||りょう|くに||かた|||||ひか|||
この 、 越前 が お 地蔵 さん を お 取り調べ に なる と いう 話 は たちまち 評判 に なり 、 江戸 中 から 町民 たち が ぞろぞろ と 集まって き ました 。
|えちぜん|||じぞう||||とりしらべ|||||はなし|||ひょうばん|||えど|なか||ちょうみん|||||あつまって||
やがて お 地蔵 さん は 奉行 所 に 到着 し 、 ついて きた 野次馬 たち も 大八車 の あと に ついて 奉行 所 に 入って いき ました 。
||じぞう|||ぶぎょう|しょ||とうちゃく||||やじうま|||だいはちぐるま|||||ぶぎょう|しょ||はいって||
さて 、 お 白 州 に 引き出さ れた お 地蔵 さん に 、 越前 は 恐い 顔 を して 言い ました 。
||しろ|しゅう||ひきださ|||じぞう|||えちぜん||こわい|かお|||いい|
「 その方 、 人々 から 南 無地 蔵 大 菩薩 と 尊敬 を うけ 、 人々 を 慈悲 にて 救わ ねば なら ぬ 身 で あり ながら 、 目の前 で 盗み を 働く 者 を 見過ごす と は 不 埒 千万 である 。
そのほう|ひとびと||みなみ|むじ|くら|だい|ぼさつ||そんけい|||ひとびと||じひ||すくわ||||み||||めのまえ||ぬすみ||はたらく|もの||みすごす|||ふ|らち|せんまん|
盗み を 知って いて 止め ぬ は 、 盗人 と 同じである ぞ 。
ぬすみ||しって||とどめ|||ぬすびと||おなじである|
さあ 、 今 すぐ 盗賊 の 事 を 白状 いたせ 。
|いま||とうぞく||こと||はくじょう|
さもなくば 、 入 牢 申しつける ぞ !
|はい|ろう|もうしつける|
」 「・・・・・・」 越前 は お 地蔵 さん の 返事 を 待ち ました が 、 むろん 、 石 の お 地蔵 さん は 返事 を し ませ ん 。
えちぜん|||じぞう|||へんじ||まち||||いし|||じぞう|||へんじ||||
さて 、 事 の 次第 を 見物 して いた 野次馬 たち は 、 この おかしな やり取り に あきれて 、 ひそひそ と 話し はじめ ました 。
|こと||しだい||けんぶつ|||やじうま|||||やりとり|||||はなし||
「 大岡 さま は 、 いったい 何の つもりだ ?
おおおか||||なんの|
」 「 まさか 本当に 、 お 地蔵 さま を 罰する つもりだ ろうか ?
|ほんとうに||じぞう|||ばっする||
」 する と 、 その ひそひそ 話 を 聞いて 、 越前 が 言い ました 。
||||はなし||きいて|えちぜん||いい|
「 この 者 たち は 何 じゃ !
|もの|||なん|
お 白 州 に 勝手気ままに 入り 込み 、 吟味 を 見物 する と は 不届き 千万 。
|しろ|しゅう||かってきままに|はいり|こみ|ぎんみ||けんぶつ||||ふとどき|せんまん
前後 の 門 を 閉じよ !
ぜんご||もん||とじよ
一 人 も 逃す な !
ひと|じん||のがす|
」 さあ 、 野次馬 たち は びっくり です 。
|やじうま||||
みんな は 名前 や 住所 を 調べ られる と 、 いったん は 家 に 帰して くれ ました が 、 あと で きつい お 仕置き が ある ぞ と 、 全員 が きびしく 言い 渡さ れた のです 。
||なまえ||じゅうしょ||しらべ|||||いえ||かえして||||||||し おき|||||ぜんいん|||いい|わたさ||
それ から 半月 ほど たって 、 奉行 所 から お 達し が あり ました 。
||はんつき|||ぶぎょう|しょ|||たっし|||
《 奉行 所 に 勝手に 入り 込む こと は 不届きである 。
ぶぎょう|しょ||かってに|はいり|こむ|||ふとどきである
重罪 を 申し付けて も よい が 、 もと は 白木 綿 の 吟味 から 始まった 事 ゆえ 、 白木 綿 一 反 の 罰金 で 許す 事 に する 。
じゅうざい||もうしつけて||||||しらき|めん||ぎんみ||はじまった|こと||しらき|めん|ひと|はん||ばっきん||ゆるす|こと||
三 日 の うち に 持参 いたせ 》 野次馬 たち は 、 牢屋 に 入れ られる ので は ない か と 思って いた ので 、 そんな 事 で 済む のならば と 、 みんな ほっと 胸 を なでおろし ながら 、 奉行 所 へ 白木 綿 を 持って 行き ました 。
みっ|ひ||||じさん||やじうま|||ろうや||いれ|||||||おもって||||こと||すむ|||||むね||||ぶぎょう|しょ||しらき|めん||もって|いき|
こうして 三 日 の うち に 、 白木 綿 の 反物 が 山 と 積み あげ られた のです 。
|みっ|ひ||||しらき|めん||たんもの||やま||つみ|||
そこ で 越前 は 、 弥 五郎 を 呼んで きて 尋ね ました 。
||えちぜん||わたる|ごろう||よんで||たずね|
「 弥 五郎 よ 。
わたる|ごろう|
この 中 から 、 盗ま れた 反物 を 見分ける 事 が 出来る か ?
|なか||ぬすま||たんもの||みわける|こと||できる|
」 「 はい 。
盗ま れた 反物 は 、 しかと 覚えて い ます 」 そこ で 弥 五郎 が 反物 を 調べて いく と 、 中 に 二 反 だけ 、 盗ま れた 反物 が 混じって いた のです 。
ぬすま||たんもの|||おぼえて|||||わたる|ごろう||たんもの||しらべて|||なか||ふた|はん||ぬすま||たんもの||まじって||
する と 越前 は 、 その 反物 を 持って きた 町人 に 、 「 これ を 、 どこ で 買い求めた のだ ?
||えちぜん|||たんもの||もって||ちょうにん||||||かいもとめた|
」 と 、 尋ねて 、 さらに 売り 主 を 問い 正した ところ 、 本 所 表 町 に 住む 者 が 盗賊 と 判明 した のです 。
|たずねて||うり|おも||とい|ただした||ほん|しょ|ひょう|まち||すむ|もの||とうぞく||はんめい||
こうして 盗ま れた 反物 は 、 そっくりそのまま 戻って き ました 。
|ぬすま||たんもの|||もどって||
越前 は 弥 五郎 に 反物 を 渡して 、 こう 言い ました 。
えちぜん||わたる|ごろう||たんもの||わたして||いい|
「 これ は その方 に 返す ゆえ 、 今後 は 油断 して 、 地蔵 に 苦労 を かけて は なら ん ぞ 」 また 、 野次馬 たち から 集めた 反物 も 、 持って きた 者 たち に 返し ました 。
||そのほう||かえす||こんご||ゆだん||じぞう||くろう||||||||やじうま|||あつめた|たんもの||もって||もの|||かえし|
「 その方 ら の 協力 に より 、 無事に 盗賊 を 見つける 事 が 出来た 。
そのほう|||きょうりょく|||ぶじに|とうぞく||みつける|こと||できた
これ ら の 反物 は その方 ら に 返そう 。
|||たんもの||そのほう|||かえそう
また 、 地蔵 も 赦免 申しつける ゆえ 、 中 の 郷 に 持ち帰り 安置 する ように 。
|じぞう||しゃめん|もうしつける||なか||ごう||もちかえり|あんち||
・・・ うむ 。
これ にて 、 一 件 落着 !
||ひと|けん|らくちゃく
さて 、 この 話 は たちまち 知れ 渡り 、 この お 地蔵 さん に 頼めば どんな 事 でも 願い が 叶う と 評判 に なり ました 。
||はなし|||しれ|わたり|||じぞう|||たのめば||こと||ねがい||かなう||ひょうばん|||
そして 越前 の お 裁き に ちなんで 荒 縄 で 地蔵 を しばり 、 『 願い が 叶ったら 、 縄 を 解き ます 』 と 、 願 を 掛ける ように なった と いう こと です 。
|えちぜん|||さばき|||あら|なわ||じぞう|||ねがい||かなったら|なわ||とき|||ねがい||かける||||||
→ 物語 の 舞台 の 「 天台宗 南 蔵 院 」
ものがたり||ぶたい||てんだいしゅう|みなみ|くら|いん
おしまい
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