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こころ - 夏目漱石, Section 006 - Kokoro - Soseki Project

Section 006 - Kokoro - Soseki Project

しばらく して 海 の 中 で 起き上がる ように 姿勢 を 改めた 先生 は 、「 もう 帰りません か 」 と いって 私 を 促した 。 比較的 強い 体質 を もった 私 は 、 もっと 海 の 中 で 遊んで い たかった 。 しかし 先生 から 誘わ れた 時 、 私 は すぐ 「 ええ 帰りましょう 」 と 快く 答えた 。 そうして 二 人 で また 元 の 路 を 浜辺 へ 引き返した 。

私 は これ から 先生 と 懇意に なった 。 しかし 先生 が どこ に いる か は まだ 知ら なかった 。

それ から 中 二 日 おいて ちょうど 三 日 目 の 午後 だった と 思う 。 先生 と 掛 茶屋 で 出会った 時 、 先生 は 突然 私 に 向かって 、「 君 は まだ 大分 長く ここ に いる つもりです か 」 と 聞いた 。 考え の ない 私 は こういう 問い に 答える だけ の 用意 を 頭 の 中 に 蓄えて い なかった 。 それ で 「 どう だ か 分 りません 」 と 答えた 。 しかし に やに や 笑って いる 先生 の 顔 を 見た 時 、 私 は 急に 極 り が 悪く なった 。 「 先生 は ? 」 と 聞き返さ ず に は いられ なかった 。 これ が 私 の 口 を 出た 先生 と いう 言葉 の 始まり である 。

私 は その 晩 先生 の 宿 を 尋ねた 。 宿 と いって も 普通の 旅館 と 違って 、 広い 寺 の 境内 に ある 別荘 の ような 建物 であった 。 そこ に 住んで いる 人 の 先生 の 家族 で ない 事 も 解った 。 私 が 先生 先生 と 呼び掛ける ので 、 先生 は 苦笑い を した 。 私 は それ が 年長 者 に 対する 私 の 口癖 だ と いって 弁解 した 。 私 は この 間 の 西洋 人 の 事 を 聞いて みた 。 先生 は 彼 の 風変り の ところ や 、 もう 鎌倉 に いない 事 や 、 色々の 話 を した 末 、 日本 人 に さえ あまり 交際 を もた ない のに 、 そういう 外国 人 と 近付き に なった の は 不思議だ と いったり した 。 私 は 最後に 先生 に 向かって 、 どこ か で 先生 を 見た ように 思う けれども 、 どうしても 思い出せ ない と いった 。 若い 私 は その 時 暗に 相手 も 私 と 同じ ような 感じ を 持って い は しまい か と 疑った 。 そうして 腹 の 中 で 先生 の 返事 を 予期 して かかった 。 ところが 先生 は しばらく 沈 吟 した あと で 、「 どうも 君 の 顔 に は 見覚え が ありません ね 。 人違い じゃ ない です か 」 と いった ので 私 は 変に 一種 の 失望 を 感じた 。


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しばらく して 海 の 中 で 起き上がる ように 姿勢 を 改めた 先生 は 、「 もう 帰りません か 」 と いって 私 を 促した 。 ||うみ||なか||おきあがる||しせい||あらためた|せんせい|||かえり ませ ん||||わたくし||うながした After a while, the teacher changed his posture to get up in the sea and urged me to say, "Why don't you go home anymore?" 比較的 強い 体質 を もった 私 は 、 もっと 海 の 中 で 遊んで い たかった 。 ひかくてき|つよい|たいしつ|||わたくし|||うみ||なか||あそんで|| Having a relatively strong constitution, I wanted to play more in the sea. しかし 先生 から 誘わ れた 時 、 私 は すぐ 「 ええ 帰りましょう 」 と 快く 答えた 。 |せんせい||さそわ||じ|わたくし||||かえり ましょう||こころよく|こたえた そうして 二 人 で また 元 の 路 を 浜辺 へ 引き返した 。 |ふた|じん|||もと||じ||はまべ||ひきかえした

私 は これ から 先生 と 懇意に なった 。 わたくし||||せんせい||こんいに| しかし 先生 が どこ に いる か は まだ 知ら なかった 。 |せんせい||||||||しら| But I still didn't know where the teacher was.

それ から 中 二 日 おいて ちょうど 三 日 目 の 午後 だった と 思う 。 ||なか|ふた|ひ|||みっ|ひ|め||ごご|||おもう I think it was just the afternoon of the third day, two days later. 先生 と 掛 茶屋 で 出会った 時 、 先生 は 突然 私 に 向かって 、「 君 は まだ 大分 長く ここ に いる つもりです か 」 と 聞いた 。 せんせい||かかり|ちゃや||であった|じ|せんせい||とつぜん|わたくし||むかって|きみ|||だいぶ|ながく|||||||きいた When I met my teacher at Kake Chaya, he suddenly asked me, "Are you going to stay here for a long time?" 考え の ない 私 は こういう 問い に 答える だけ の 用意 を 頭 の 中 に 蓄えて い なかった 。 かんがえ|||わたくし|||とい||こたえる|||ようい||あたま||なか||たくわえて|| それ で 「 どう だ か 分 りません 」 と 答えた 。 |||||ぶん|り ませ ん||こたえた しかし に やに や 笑って いる 先生 の 顔 を 見た 時 、 私 は 急に 極 り が 悪く なった 。 ||||わらって||せんせい||かお||みた|じ|わたくし||きゅうに|ごく|||わるく| But when I saw the teacher's face grinning, I suddenly became extremely ill. 「 先生 は ? せんせい| 」 と 聞き返さ ず に は いられ なかった 。 |ききかえさ||||いら れ| I couldn't help but ask back. これ が 私 の 口 を 出た 先生 と いう 言葉 の 始まり である 。 ||わたくし||くち||でた|せんせい|||ことば||はじまり|

私 は その 晩 先生 の 宿 を 尋ねた 。 わたくし|||ばん|せんせい||やど||たずねた 宿 と いって も 普通の 旅館 と 違って 、 広い 寺 の 境内 に ある 別荘 の ような 建物 であった 。 やど||||ふつうの|りょかん||ちがって|ひろい|てら||けいだい|||べっそう|||たてもの| そこ に 住んで いる 人 の 先生 の 家族 で ない 事 も 解った 。 ||すんで||じん||せんせい||かぞく|||こと||わかった I also found out that it was not the family of the teacher who lived there. 私 が 先生 先生 と 呼び掛ける ので 、 先生 は 苦笑い を した 。 わたくし||せんせい|せんせい||よびかける||せんせい||にがわらい|| 私 は それ が 年長 者 に 対する 私 の 口癖 だ と いって 弁解 した 。 わたくし||||ねんちょう|もの||たいする|わたくし||くちぐせ||||べんかい| I excuse that it was my habit of talking to the elders. 私 は この 間 の 西洋 人 の 事 を 聞いて みた 。 わたくし|||あいだ||せいよう|じん||こと||きいて| 先生 は 彼 の 風変り の ところ や 、 もう 鎌倉 に いない 事 や 、 色々の 話 を した 末 、 日本 人 に さえ あまり 交際 を もた ない のに 、 そういう 外国 人 と 近付き に なった の は 不思議だ と いったり した 。 せんせい||かれ||ふうがわり|||||かまくら|||こと||いろいろの|はなし|||すえ|にっぽん|じん||||こうさい||||||がいこく|じん||ちかづき|||||ふしぎだ||| It is strange that the teacher got close to such a foreigner even though he did not have much relationship with Japanese people after talking about his eccentricity, things that he was no longer in Kamakura, and various stories. I did. 私 は 最後に 先生 に 向かって 、 どこ か で 先生 を 見た ように 思う けれども 、 どうしても 思い出せ ない と いった 。 わたくし||さいごに|せんせい||むかって||||せんせい||みた||おもう|||おもいだせ||| Finally, I told the teacher that I thought I saw him somewhere, but I just can't remember. 若い 私 は その 時 暗に 相手 も 私 と 同じ ような 感じ を 持って い は しまい か と 疑った 。 わかい|わたくし|||じ|あんに|あいて||わたくし||おなじ||かんじ||もって||||||うたがった When I was young, I implicitly suspected that the other person might have the same feeling as I did. そうして 腹 の 中 で 先生 の 返事 を 予期 して かかった 。 |はら||なか||せんせい||へんじ||よき|| Then, in my stomach, I expected the teacher's reply. ところが 先生 は しばらく 沈 吟 した あと で 、「 どうも 君 の 顔 に は 見覚え が ありません ね 。 |せんせい|||しず|ぎん|||||きみ||かお|||みおぼえ||あり ませ ん| However, after scrutinizing for a while, the teacher said, "I don't know what you see on your face. 人違い じゃ ない です か 」 と いった ので 私 は 変に 一種 の 失望 を 感じた 。 ひとちがい||||||||わたくし||へんに|いっしゅ||しつぼう||かんじた Isn't it wrong? "I felt a kind of disappointment.