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こころ - 夏目漱石, Section 005 - Kokoro - Soseki Project

Section 005 - Kokoro - Soseki Project

私 は 次の 日 も 同じ 時刻 に 浜 へ 行って 先生 の 顔 を 見た 。 その 次の 日 に も また 同じ 事 を 繰り返した 。 けれども 物 を いい 掛ける 機会 も 、 挨拶 を する 場合 も 、 二 人 の 間 に は 起ら なかった 。 その 上 先生 の 態度 は むしろ 非 社交 的であった 。 一定 の 時刻 に 超然 と して 来て 、 また 超然 と 帰って 行った 。 周囲 が いくら 賑やかで も 、 それ に は ほとんど 注意 を 払う 様子 が 見え なかった 。 最初 いっしょに 来た 西洋 人 は その後 まるで 姿 を 見せ なかった 。 先生 は いつでも 一 人 であった 。

或る 時 先生 が 例の 通り さっさと 海 から 上がって 来て 、 いつも の 場所 に 脱ぎ 棄 て た 浴衣 を 着よう と する と 、 どうした 訳 か 、 その 浴衣 に 砂 が いっぱい 着いて いた 。 先生 は それ を 落す ため に 、 後ろ向き に なって 、 浴衣 を 二 、 三 度 振った 。 すると 着物 の 下 に 置いて あった 眼鏡 が 板 の 隙間 から 下 へ 落ちた 。 先生 は 白 絣 の 上 へ 兵 児 帯 を 締めて から 、 眼鏡 の 失 く なった のに 気 が 付いた と 見えて 、 急に そこ い ら を 探し 始めた 。 私 は すぐ 腰 掛 の 下 へ 首 と 手 を 突 ッ 込んで 眼鏡 を 拾い 出した 。 先生 は 有難う と いって 、 それ を 私 の 手 から 受け取った 。

次の 日 私 は 先生 の 後 に つづいて 海 へ 飛び込んだ 。 そうして 先生 と いっしょの 方角 に 泳いで 行った 。 二 丁 ほど 沖 へ 出る と 、 先生 は 後ろ を 振り返って 私 に 話し掛けた 。 広い 蒼 い 海 の 表面 に 浮いて いる もの は 、 その 近所 に 私ら 二 人 より 外 に なかった 。 そうして 強い 太陽 の 光 が 、 眼 の 届く 限り 水 と 山 と を 照らして いた 。 私 は 自由 と 歓喜 に 充 ち た 筋肉 を 動かして 海 の 中 で 躍り 狂った 。 先生 は また ぱたり と 手足 の 運動 を 已 め て 仰向け に なった まま 浪 の 上 に 寝た 。 私 も その 真似 を した 。 青空 の 色 が ぎらぎら と 眼 を 射る ように 痛烈な 色 を 私 の 顔 に 投げ付けた 。 「 愉快です ね 」 と 私 は 大きな 声 を 出した 。


Section 005 - Kokoro - Soseki Project section|kokoro|soseki|project Section 005 - Kokoro - Soseki Project Sekcja 005 - Projekt Kokoro - Soseki

私 は 次の 日 も 同じ 時刻 に 浜 へ 行って 先生 の 顔 を 見た 。 わたくし||つぎの|ひ||おなじ|じこく||はま||おこなって|せんせい||かお||みた その 次の 日 に も また 同じ 事 を 繰り返した 。 |つぎの|ひ||||おなじ|こと||くりかえした けれども 物 を いい 掛ける 機会 も 、 挨拶 を する 場合 も 、 二 人 の 間 に は 起ら なかった 。 |ぶつ|||かける|きかい||あいさつ|||ばあい||ふた|じん||あいだ|||おこら| But neither the opportunity to hang things nor the greetings happened between the two. その 上 先生 の 態度 は むしろ 非 社交 的であった 。 |うえ|せんせい||たいど|||ひ|しゃこう|てきであった Moreover, the teacher's attitude was rather unsociable. 一定 の 時刻 に 超然 と して 来て 、 また 超然 と 帰って 行った 。 いってい||じこく||ちょうぜん|||きて||ちょうぜん||かえって|おこなった I came abruptly at a certain time and went back abruptly. 周囲 が いくら 賑やかで も 、 それ に は ほとんど 注意 を 払う 様子 が 見え なかった 。 しゅうい|||にぎやかで||||||ちゅうい||はらう|ようす||みえ| No matter how busy the surroundings were, I couldn't see any attention to it. 最初 いっしょに 来た 西洋 人 は その後 まるで 姿 を 見せ なかった 。 さいしょ||きた|せいよう|じん||そのご||すがた||みせ| The Westerners who came with us initially did not appear at all. 先生 は いつでも 一 人 であった 。 せんせい|||ひと|じん|

或る 時 先生 が 例の 通り さっさと 海 から 上がって 来て 、 いつも の 場所 に 脱ぎ 棄 て た 浴衣 を 着よう と する と 、 どうした 訳 か 、 その 浴衣 に 砂 が いっぱい 着いて いた 。 ある|じ|せんせい||れいの|とおり||うみ||あがって|きて|||ばしょ||ぬぎ|き|||ゆかた||きよう|||||やく|||ゆかた||すな|||ついて| At one point, as usual, the teacher came up from the sea and tried to put on the yukata that he had taken off at his usual place, and for some reason, the yukata was full of sand. 先生 は それ を 落す ため に 、 後ろ向き に なって 、 浴衣 を 二 、 三 度 振った 。 せんせい||||おとす|||うしろむき|||ゆかた||ふた|みっ|たび|ふった The teacher turned backwards and shook the yukata a couple of times to drop it. すると 着物 の 下 に 置いて あった 眼鏡 が 板 の 隙間 から 下 へ 落ちた 。 |きもの||した||おいて||めがね||いた||すきま||した||おちた 先生 は 白 絣 の 上 へ 兵 児 帯 を 締めて から 、 眼鏡 の 失 く なった のに 気 が 付いた と 見えて 、 急に そこ い ら を 探し 始めた 。 せんせい||しろ|かすり||うえ||つわもの|じ|おび||しめて||めがね||うしな||||き||ついた||みえて|きゅうに|||||さがし|はじめた 私 は すぐ 腰 掛 の 下 へ 首 と 手 を 突 ッ 込んで 眼鏡 を 拾い 出した 。 わたくし|||こし|かかり||した||くび||て||つ||こんで|めがね||ひろい|だした 先生 は 有難う と いって 、 それ を 私 の 手 から 受け取った 。 せんせい||ありがたう|||||わたくし||て||うけとった

次の 日 私 は 先生 の 後 に つづいて 海 へ 飛び込んだ 。 つぎの|ひ|わたくし||せんせい||あと|||うみ||とびこんだ そうして 先生 と いっしょの 方角 に 泳いで 行った 。 |せんせい|||ほうがく||およいで|おこなった 二 丁 ほど 沖 へ 出る と 、 先生 は 後ろ を 振り返って 私 に 話し掛けた 。 ふた|ちょう||おき||でる||せんせい||うしろ||ふりかえって|わたくし||はなしかけた 広い 蒼 い 海 の 表面 に 浮いて いる もの は 、 その 近所 に 私ら 二 人 より 外 に なかった 。 ひろい|あお||うみ||ひょうめん||ういて|||||きんじょ||わたしら|ふた|じん||がい|| Nothing floating on the surface of the wide blue sea was more than two of us in that neighborhood. そうして 強い 太陽 の 光 が 、 眼 の 届く 限り 水 と 山 と を 照らして いた 。 |つよい|たいよう||ひかり||がん||とどく|かぎり|すい||やま|||てらして| Then the strong sunshine was shining on the water and the mountains as far as the eyes could reach. 私 は 自由 と 歓喜 に 充 ち た 筋肉 を 動かして 海 の 中 で 躍り 狂った 。 わたくし||じゆう||かんき||まこと|||きんにく||うごかして|うみ||なか||おどり|くるった I moved my muscles with freedom and joy and went crazy in the sea. 先生 は また ぱたり と 手足 の 運動 を 已 め て 仰向け に なった まま 浪 の 上 に 寝た 。 せんせい|||||てあし||うんどう||い|||あおむけ||||ろう||うえ||ねた The teacher also slept on the waves while lying on his back after exercising his limbs. 私 も その 真似 を した 。 わたくし|||まね|| 青空 の 色 が ぎらぎら と 眼 を 射る ように 痛烈な 色 を 私 の 顔 に 投げ付けた 。 あおぞら||いろ||||がん||いる||つうれつな|いろ||わたくし||かお||なげつけた 「 愉快です ね 」 と 私 は 大きな 声 を 出した 。 ゆかいです|||わたくし||おおきな|こえ||だした