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こころ - 夏目漱石, Section 004 - Kokoro - Soseki Project

Section 004 - Kokoro - Soseki Project

私 は 単に 好奇心 の ため に 、 並んで 浜辺 を 下りて 行く 二 人 の 後 姿 を 見守って いた 。 すると 彼ら は 真 直 に 波 の 中 に 足 を 踏み込んだ 。 そうして 遠浅 の 磯 近く にわ いわい 騒いで いる 多人数 の 間 を 通り抜けて 、 比較的 広々 した 所 へ 来る と 、 二 人 と も 泳ぎ 出した 。 彼ら の 頭 が 小さく 見える まで 沖 の 方 へ 向いて 行った 。 それ から 引き返して また 一直線 に 浜辺 まで 戻って 来た 。 掛 茶屋 へ 帰る と 、 井戸 の 水 も 浴び ず に 、 すぐ 身体 を 拭いて 着物 を 着て 、 さっさと どこ へ か 行って しまった 。

彼ら の 出て 行った 後 、 私 は やはり 元 の 床 几 に 腰 を おろして 烟草 を 吹かして いた 。 その 時 私 は ぽか ん と し ながら 先生 の 事 を 考えた 。 どうも どこ か で 見た 事 の ある 顔 の ように 思われて なら なかった 。 しかし どうしても いつ どこ で 会った 人 か 想い出 せ ず に しまった 。

その 時 の 私 は 屈 托 が ない と いう より むしろ 無 聊 に 苦しんで いた 。 それ で 翌日 も また 先生 に 会った 時刻 を 見計らって 、 わざわざ 掛 茶屋 まで 出かけて みた 。 すると 西洋 人 は 来 ないで 先生 一 人 麦藁 帽 を 被って やって 来た 。 先生 は 眼鏡 を とって 台 の 上 に 置いて 、 すぐ 手拭 で 頭 を 包んで 、 すたすた 浜 を 下りて 行った 。 先生 が 昨日 の ように 騒がしい 浴 客 の 中 を 通り抜けて 、 一 人 で 泳ぎ 出した 時 、 私 は 急に その後 が 追い掛け たく なった 。 私 は 浅い 水 を 頭 の 上 まで 跳 か して 相当 の 深 さ の 所 まで 来て 、 そこ から 先生 を 目標 に 抜手 を 切った 。 すると 先生 は 昨日 と 違って 、 一種 の 弧 線 を 描いて 、 妙な 方向 から 岸 の 方 へ 帰り 始めた 。 それ で 私 の 目的 は ついに 達せられ なかった 。 私 が 陸 へ 上がって 雫 の 垂れる 手 を 振り ながら 掛 茶屋 に 入る と 、 先生 は もう ちゃんと 着物 を 着て 入れ違い に 外 へ 出て 行った 。


Section 004 - Kokoro - Soseki Project section|kokoro|soseki|project Section 004 - Kokoro - Soseki Project Sekcja 004 - Projekt Kokoro - Soseki

私 は 単に 好奇心 の ため に 、 並んで 浜辺 を 下りて 行く 二 人 の 後 姿 を 見守って いた 。 わたくし||たんに|こうきしん||||ならんで|はまべ||おりて|いく|ふた|じん||あと|すがた||みまもって| I was watching the rear view of the two going down the beach side by side, just for curiosity. すると 彼ら は 真 直 に 波 の 中 に 足 を 踏み込んだ 。 |かれら||まこと|なお||なみ||なか||あし||ふみこんだ Then they stepped straight into the waves. そうして 遠浅 の 磯 近く にわ いわい 騒いで いる 多人数 の 間 を 通り抜けて 、 比較的 広々 した 所 へ 来る と 、 二 人 と も 泳ぎ 出した 。 |とおあさ||いそ|ちかく|||さわいで||たにんずう||あいだ||とおりぬけて|ひかくてき|ひろびろ||しょ||くる||ふた|じん|||およぎ|だした Then, when I passed through a large number of people who were making noise near the shallow rocky shore and came to a relatively spacious place, they both started swimming. 彼ら の 頭 が 小さく 見える まで 沖 の 方 へ 向いて 行った 。 かれら||あたま||ちいさく|みえる||おき||かた||むいて|おこなった They headed offshore until their heads looked small. それ から 引き返して また 一直線 に 浜辺 まで 戻って 来た 。 ||ひきかえして||いっちょくせん||はまべ||もどって|きた 掛 茶屋 へ 帰る と 、 井戸 の 水 も 浴び ず に 、 すぐ 身体 を 拭いて 着物 を 着て 、 さっさと どこ へ か 行って しまった 。 かかり|ちゃや||かえる||いど||すい||あび||||からだ||ふいて|きもの||きて|||||おこなって|

彼ら の 出て 行った 後 、 私 は やはり 元 の 床 几 に 腰 を おろして 烟草 を 吹かして いた 。 かれら||でて|おこなった|あと|わたくし|||もと||とこ|き||こし|||たばこ||ふかして| After they left, I was still sitting on the original floor camp and blowing smoke. その 時 私 は ぽか ん と し ながら 先生 の 事 を 考えた 。 |じ|わたくし|||||||せんせい||こと||かんがえた At that time, I thought about the teacher while I was afraid. どうも どこ か で 見た 事 の ある 顔 の ように 思われて なら なかった 。 ||||みた|こと|||かお|||おもわ れて|| It had to look like a face I had seen somewhere. しかし どうしても いつ どこ で 会った 人 か 想い出 せ ず に しまった 。 |||||あった|じん||おもいで|||| But I couldn't remember when and where I met.

その 時 の 私 は 屈 托 が ない と いう より むしろ 無 聊 に 苦しんで いた 。 |じ||わたくし||くっ|たく|||||||む|りょう||くるしんで| At that time, I was suffering rather than being unyielding. それ で 翌日 も また 先生 に 会った 時刻 を 見計らって 、 わざわざ 掛 茶屋 まで 出かけて みた 。 ||よくじつ|||せんせい||あった|じこく||みはからって||かかり|ちゃや||でかけて| So, the next day, I decided to go to the teahouse to see the time when I met the teacher again. すると 西洋 人 は 来 ないで 先生 一 人 麦藁 帽 を 被って やって 来た 。 |せいよう|じん||らい||せんせい|ひと|じん|むぎわら|ぼう||おおって||きた Then, the Westerner did not come, and one teacher came over wearing a straw hat. 先生 は 眼鏡 を とって 台 の 上 に 置いて 、 すぐ 手拭 で 頭 を 包んで 、 すたすた 浜 を 下りて 行った 。 せんせい||めがね|||だい||うえ||おいて||てぬぐい||あたま||つつんで||はま||おりて|おこなった The teacher took his glasses and put them on the table, immediately wrapped his head with a towel, and went down the beach. 先生 が 昨日 の ように 騒がしい 浴 客 の 中 を 通り抜けて 、 一 人 で 泳ぎ 出した 時 、 私 は 急に その後 が 追い掛け たく なった 。 せんせい||きのう|||さわがしい|よく|きゃく||なか||とおりぬけて|ひと|じん||およぎ|だした|じ|わたくし||きゅうに|そのご||おいかけ|| When the teacher passed through a noisy bather like yesterday and swam alone, I suddenly wanted to chase after that. 私 は 浅い 水 を 頭 の 上 まで 跳 か して 相当 の 深 さ の 所 まで 来て 、 そこ から 先生 を 目標 に 抜手 を 切った 。 わたくし||あさい|すい||あたま||うえ||と|||そうとう||ふか|||しょ||きて|||せんせい||もくひょう||ぬきて||きった I bounced the shallow water over my head to a considerable depth, and from there I made the cut with the teacher as my goal. すると 先生 は 昨日 と 違って 、 一種 の 弧 線 を 描いて 、 妙な 方向 から 岸 の 方 へ 帰り 始めた 。 |せんせい||きのう||ちがって|いっしゅ||こ|せん||えがいて|みょうな|ほうこう||きし||かた||かえり|はじめた Then, unlike yesterday, the teacher drew a kind of arc line and began to return to the shore from a strange direction. それ で 私 の 目的 は ついに 達せられ なかった 。 ||わたくし||もくてき|||たっせ られ| So my purpose was finally not achieved. 私 が 陸 へ 上がって 雫 の 垂れる 手 を 振り ながら 掛 茶屋 に 入る と 、 先生 は もう ちゃんと 着物 を 着て 入れ違い に 外 へ 出て 行った 。 わたくし||りく||あがって|しずく||しだれる|て||ふり||かかり|ちゃや||はいる||せんせい||||きもの||きて|いれちがい||がい||でて|おこなった When I went up to the land and shook my hand with drops of water to enter the Kakechaya, the teacher put on a kimono and went out in a wrong way.