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こころ - 夏目漱石, Section 002 - Kokoro - Soseki Project

Section 002 - Kokoro - Soseki Project

学校 の 授業 が 始まる に は まだ 大分 日数 が ある ので 鎌倉 に おって も よし 、 帰って も よい と いう 境遇 に いた 私 は 、 当分 元 の 宿 に 留まる 覚悟 を した 。 友達 は 中国 の ある 資産 家 の 息子 で 金 に 不自由 の ない 男 であった けれども 、 学校 が 学校 な の と 年 が 年 な ので 、 生活 の 程度 は 私 と そう 変り も し なかった 。 したがって 一 人 ぼっち に なった 私 は 別に 恰好な 宿 を 探す 面倒 も もた なかった のである 。 宿 は 鎌倉 でも 辺鄙な 方角 に あった 。 玉突き だの アイスクリーム だの と いう ハイカラな もの に は 長い 畷 を 一 つ 越さ なければ 手 が 届か なかった 。 車 で 行って も 二十 銭 は 取ら れた 。 けれども 個人 の 別荘 は そこ ここ に いく つ でも 建てられて いた 。 それ に 海 へ は ごく 近い ので 海水 浴 を やる に は 至極 便利な 地位 を 占めて いた 。

私 は 毎日 海 へ はいり に 出掛けた 。 古い 燻 ぶり 返った 藁葺 の 間 を 通り抜けて 磯 へ 下りる と 、 この 辺 に これほど の 都会 人種 が 住んで いる か と 思う ほど 、 避暑 に 来た 男 や 女 で 砂 の 上 が 動いて いた 。 ある 時 は 海 の 中 が 銭湯 の ように 黒い 頭 で ご ちゃ ご ちゃ して いる 事 も あった 。 その 中 に 知った 人 を 一 人 も もた ない 私 も 、 こういう 賑やかな 景色 の 中 に 裹 まれて 、 砂 の 上 に 寝そべって みたり 、 膝頭 を 波 に 打た して そこ い ら を 跳ね 廻る の は 愉快であった 。 私 は 実に 先生 を この 雑 沓 の 間 に 見付け出した のである 。 その 時 海岸 に は 掛 茶屋 が 二 軒 あった 。 私 は ふとした 機会 から その 一 軒 の 方 に 行き 慣れて いた 。 長谷 辺 に 大きな 別荘 を 構えて いる 人 と 違って 、 各自 に 専有 の 着 換場 を 拵えて いない ここ い ら の 避暑 客 に は 、 ぜひとも こうした 共同 着 換所 と いった 風 な もの が 必要な のであった 。 彼ら は ここ で 茶 を 飲み 、 ここ で 休息 する 外 に 、 ここ で 海水 着 を 洗濯 さ せたり 、 ここ で 鹹 は ゆい 身体 を 清めたり 、 ここ へ 帽子 や 傘 を 預けたり する のである 。 海水 着 を 持た ない 私 に も 持物 を 盗ま れる 恐 れ は あった ので 、 私 は 海 へ は いる たび に その 茶屋 へ 一切 を 脱ぎ 棄 てる 事 に して いた 。


Section 002 - Kokoro - Soseki Project section|kokoro|soseki|project Abschnitt 002 - Projekt Kokoro - Soseki Section 002 - Kokoro - Soseki Project Sekcja 002 - Projekt Kokoro - Soseki

学校 の 授業 が 始まる に は まだ 大分 日数 が ある ので 鎌倉 に おって も よし 、 帰って も よい と いう 境遇 に いた 私 は 、 当分 元 の 宿 に 留まる 覚悟 を した 。 がっこう||じゅぎょう||はじまる||||だいぶ|にっすう||||かまくら|||||かえって|||||きょうぐう|||わたくし||とうぶん|もと||やど||とどまる|かくご|| It's still a long time before school classes start, so I was in a situation where I could stay in Kamakura or go home, so I was prepared to stay at my original inn for the time being. 友達 は 中国 の ある 資産 家 の 息子 で 金 に 不自由 の ない 男 であった けれども 、 学校 が 学校 な の と 年 が 年 な ので 、 生活 の 程度 は 私 と そう 変り も し なかった 。 ともだち||ちゅうごく|||しさん|いえ||むすこ||きむ||ふじゆう|||おとこ|||がっこう||がっこう||||とし||とし|||せいかつ||ていど||わたくし|||かわり||| My friend was the son of a wealthy Chinese man and a man with no cripples of money, but because the school was in school and the year was years, the degree of life was not so different from me. したがって 一 人 ぼっち に なった 私 は 別に 恰好な 宿 を 探す 面倒 も もた なかった のである 。 |ひと|じん|ぼ っち|||わたくし||べつに|かっこうな|やど||さがす|めんどう|||| Therefore, as a single person, I had no trouble finding another suitable accommodation. 宿 は 鎌倉 でも 辺鄙な 方角 に あった 。 やど||かまくら||へんぴな|ほうがく|| The inn was in a remote direction even in Kamakura. 玉突き だの アイスクリーム だの と いう ハイカラな もの に は 長い 畷 を 一 つ 越さ なければ 手 が 届か なかった 。 たまつき||あいすくりーむ||||はいからな||||ながい|なわて||ひと||こさ||て||とどか| I couldn't reach a high-colored thing such as a pool of ice cream without one long ridge. 車 で 行って も 二十 銭 は 取ら れた 。 くるま||おこなって||にじゅう|せん||とら| Twenty sen was taken even if I went there by car. けれども 個人 の 別荘 は そこ ここ に いく つ でも 建てられて いた 。 |こじん||べっそう||||||||たて られて| But private villas were built everywhere. それ に 海 へ は ごく 近い ので 海水 浴 を やる に は 至極 便利な 地位 を 占めて いた 。 ||うみ||||ちかい||かいすい|よく|||||しごく|べんりな|ちい||しめて| In addition, because it is very close to the sea, it occupies a very convenient position for bathing in the sea.

私 は 毎日 海 へ はいり に 出掛けた 。 わたくし||まいにち|うみ||||でかけた I went out to sea every day. 古い 燻 ぶり 返った 藁葺 の 間 を 通り抜けて 磯 へ 下りる と 、 この 辺 に これほど の 都会 人種 が 住んで いる か と 思う ほど 、 避暑 に 来た 男 や 女 で 砂 の 上 が 動いて いた 。 ふるい|いぶ||かえった|わらぶき||あいだ||とおりぬけて|いそ||おりる|||ほとり||||とかい|じんしゅ||すんで||||おもう||ひしょ||きた|おとこ||おんな||すな||うえ||うごいて| As I passed through the old smoked thatched straws and went down to the rocky shore, the man and woman who had come to the summer were moving the sand so much that I thought there were so many urban races around here. ある 時 は 海 の 中 が 銭湯 の ように 黒い 頭 で ご ちゃ ご ちゃ して いる 事 も あった 。 |じ||うみ||なか||せんとう|||くろい|あたま||||||||こと|| その 中 に 知った 人 を 一 人 も もた ない 私 も 、 こういう 賑やかな 景色 の 中 に 裹 まれて 、 砂 の 上 に 寝そべって みたり 、 膝頭 を 波 に 打た して そこ い ら を 跳ね 廻る の は 愉快であった 。 |なか||しった|じん||ひと|じん||||わたくし|||にぎやかな|けしき||なか||くぐつ|ま れて|すな||うえ||ねそべって||ひざがしら||なみ||うた||||||はね|まわる|||ゆかいであった I don't have anybody I knew in it, but I was laid down in such a lively landscape, laying down on the sand, and hitting my kneecap with waves and bouncing around there. It was fun. 私 は 実に 先生 を この 雑 沓 の 間 に 見付け出した のである 。 わたくし||じつに|せんせい|||ざつ|くつ||あいだ||みつけだした| I really found a teacher during this mess. その 時 海岸 に は 掛 茶屋 が 二 軒 あった 。 |じ|かいがん|||かかり|ちゃや||ふた|のき| 私 は ふとした 機会 から その 一 軒 の 方 に 行き 慣れて いた 。 わたくし|||きかい|||ひと|のき||かた||いき|なれて| I was accustomed to going to that one house from an unexpected opportunity. 長谷 辺 に 大きな 別荘 を 構えて いる 人 と 違って 、 各自 に 専有 の 着 換場 を 拵えて いない ここ い ら の 避暑 客 に は 、 ぜひとも こうした 共同 着 換所 と いった 風 な もの が 必要な のであった 。 はせ|ほとり||おおきな|べっそう||かまえて||じん||ちがって|かくじ||せんゆう||ちゃく|かんば||こしらえて||||||ひしょ|きゃく|||||きょうどう|ちゃく|かんところ|||かぜ||||ひつような| Unlike those who set up large villas in Hasebe, those summer resorts who do not have their own private changing rooms need such kind of common changing rooms. there were . 彼ら は ここ で 茶 を 飲み 、 ここ で 休息 する 外 に 、 ここ で 海水 着 を 洗濯 さ せたり 、 ここ で 鹹 は ゆい 身体 を 清めたり 、 ここ へ 帽子 や 傘 を 預けたり する のである 。 かれら||||ちゃ||のみ|||きゅうそく||がい||||かいすい|ちゃく||せんたく|||||かん|||からだ||きよめたり|||ぼうし||かさ||あずけたり|| 海水 着 を 持た ない 私 に も 持物 を 盗ま れる 恐 れ は あった ので 、 私 は 海 へ は いる たび に その 茶屋 へ 一切 を 脱ぎ 棄 てる 事 に して いた 。 かいすい|ちゃく||もた||わたくし|||もちもの||ぬすま||こわ|||||わたくし||うみ|||||||ちゃや||いっさい||ぬぎ|き||こと||| I had no fear of my belongings being stolen, so I decided to take off everything to the teahouse every time I went to the sea.