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三姉妹探偵団 4 怪奇篇, 三姉妹探偵団 4 Chapter 07

三 姉妹 探偵 団 4 Chapter 07

7 救 出

雪 の 道 を 、 夕 里子 が 必死で 走った 。

国 友 が 、 ロープ を 肩 に 、 先 に 立って 走って 行く 。

珠美 と 綾子 が 、 ついて 来て いる 。

雪 で 明るい の が 幸いだった 。

「 足下 に 気 を 付けろ !

と 、 走り ながら 、 国 友 が 叫んだ 。

確かに 、 ガード レール も ない 道 である 。

足 を 滑ら したら 、 崖 の 下 へ 転がり 落ちて しまう かも しれ ない 。

夕 里子 は 、 振り向いて 、

「 珠美 !

崖 の 側 に 近寄ら ないで ! お 姉ちゃん に 気 を 付けて ね ! と 怒鳴った 。

「 了解 !

珠美 が 手 を 振った 。

綾子 が 一緒な ので 、 どうしても 遅く なる のだ 。

しかし ── 夕 里子 は 、 首 を かしげた 。

こんな とき に も 、 石垣 園子 の 夫 は 、 姿 を 見せ ない 。

園子 は 、 ロープ を 出して 来て 、 警察 へ 連絡 する と 言って 残って いた が 、 夫 の こと は 、

「 疲れて いる ので ……」

と しか 言わ なかった 。

おかしい 。

── 夕 里子 は 、 腹 が 立つ より も 、 奇妙な 不安 を 覚えて いた 。

「── あそこ だ !

国 友 が 足 を 止めた 。

雪 に 、 深く えぐった 跡 が あった 。

「 そこ で 止って る ぞ !

覗き 込む と 、 雪 の 中 で 、 車 が うまく うけ止め られた 格好に なって 、 逆さ に なって は いる が 、 五 、 六 メートル 下 で 、 大破 も して い ない ようだった 。

「 これ なら 、 助かる かも しれ ない 」

国 友 が 、 大声 で 、「 お ー い !

誰 か 、 返事 を しろ ! と 怒鳴った 。

「 敦子 !

聞えて たら 、 返事 して ! 夕 里子 も 精一杯 の 声 を 出す 。

する と ──。

「 お ー い !

と 、 男 の 声 が 、 返って 来た !

「 水谷 先生 だ !

先生 !

「 佐々 本 か !

「 ロープ を 垂らす ぞ !

と 、 国 友 が 叫んだ 。

「 動ける か ? 「── 大丈夫 !

みんな けが は して ない ! 良かった !

夕 里子 は 、 息 を ついた 。

「 しかし 、 急が ない と 」

国 友 は 、 長い ロープ を のばして 、「 あそこ で いつまでも 車 が 止って いる と は 限ら ない 。

もっと 下 へ 転がり 落ちて 行ったら 、 もう 助から ない だろう 」

「 じゃ 、 早く ロープ を !

国 友 が 、 自分 の 体 に ロープ を 巻き つける と 、 一方 の 端 を 結び目 に して 、 下 へ 投げた 。

車 の ドア が 開いて 、 水谷 が 這う ように 出て 来て 、 垂れた ロープ を つかんだ 。

「── 生徒 を 一 人 ずつ 上げる から 、 引 張って くれ !

「 分 った !

と 、 国 友 は 答えた 。

「 君 も 引 張って くれ 」

「 ええ 。

── 珠美 ! 急いで ! やっと 、 二 人 も 駆けつけて 来た 。

まず 敦子 。

── ロープ を 腰 に 巻いて 、 車 から 押し出さ れて 来る と 、 国 友 や 夕 里子 たち が 一斉に 、 全力 で 引 張り上げる 。

「── よし !

その 調子 だ ! ぐ い 、 ぐ い 、 と 手応え が あって 、 やがて 、 雪 だらけ で 真 白 に なった 敦子 が 、 道 に 這い上って きた 。

「 敦子 !

「 夕 里子 !

怖かった ! 敦子 は 、 泣き ながら 、 夕 里子 に 抱きついた が 、 すぐ に 、「── 他の 人 を 早く !

と 、 自分 で ロープ を ほどいた 。

国 友 が 、 再び ロープ を 投げ 落とす 。

次に 川西 みどり 。

引上げ られた とき は 、 敦子 と 同じで 雪 だらけ だった が 、

「 大丈夫 ?

と 夕 里子 が 訊 いて も 、 ただ 黙って 肯 くだけ だった 。

「 よし 、 早く 次 だ !

── 次 は 金田 吾郎 で 、 やはり 体重 が ある だけ 、 少々 骨 が 折れた 。

引っ張る 方 も 、 三 人 目 で 、 少し 疲れて いた の かも しれ ない 。

しかし 、 少し 時間 は かかった が 、 何とか 這い上って 、 道 に 転がる ように して 上って 来た 。 そして 、

「── 助かった !

と 、 座り 込んで しまう 。

「 ほら 、 男 でしょ !

と 、 夕 里子 は 、 金田 の 肩 を つかんで 、「 立って !

水谷 先生 を 引き上げる の よ ! 「 う 、 うん !

よろけ ながら 、 金田 は 立ち上った 。

「 ロープ を 外して 。

── そう 。 じゃ 、 国 友 さん 」

「 下 へ 投げて くれ 」

「 ええ 。

── 一 、 二 、 の ──」

夕 里子 の 手 が 止まった 。

ポカン と して 、 下 を 見て いる 。

「 どうした ?

国 友 が やって 来た 。

「 車 が ……」

もう 、 さっき の 所 に 、 車 は なかった 。

また 転がり 落ちて 行った のだ 。

── ずっと ずっと 下 の 方 まで 、 その 跡 は 続いて いた 。

「 水谷 先生 ……」

と 、 夕 里子 は 呟いた 。

「 そんな ……」

「 もう 少し だった のに 」

と 、 国 友 は 、 息 を 弾ま せ ながら 、「 しかし 、 ともかく 生徒 たち を 助けた んだ 。

── よく やった よ 」

「 でも 、 先生 …… 助から ない かしら ?

「 どうか な 」

と 、 国 友 は 首 を 振った 。

「 ともかく 、 あそこ まで は いけない 。 本格 的な 救助 隊 が 来 ない と ……」

「── 見て !

と 、 夕 里子 は 叫んだ 。

少し 下った ところ の 雪 が 、 何だか 盛り上って いる ── と 思ったら 、 ヒョイ 、 と 水谷 の 頭 が 出た 。

「 おい !

ここ だ ! 「 先生 !

夕 里子 は 、 歓声 を 上げた 。

「 危うく 飛び出した んだ !

ロープ を !

「 はい !

夕 里子 は ロープ を 、 水谷 の 方 へ と 力一杯 、 投げて やった ──。

── 水谷 は ほとんど 自力 で 上って 来る と 、

「── みんな 無事 か !

と 言う なり 、 その 場 に へたり 込んで しまった 。

「 よく やった ね 」

国 友 が 、 水谷 の 肩 を 叩いて 、 言った 。

「 教師 の 運転 です から ね 。

── 生徒 を 死な せる わけに ゃい か ない 」

水谷 は 、 よろけ ながら 、 立ち上った 。

「 いや 助かった ! どう しよう か と 思って た んです よ 」

「 ともかく 山荘 へ 」

と 、 夕 里子 は 言った 。

「 みんな 疲れ 切って る わ 」

「 よし 、 行こう 。

── おい 、 金田 」

「 はい 」

「 お前 、 川西 君 に 肩 を かして やれ 。

俺 は 片 瀬 を ──」

「 い ない わ 」

と 、 敦子 が 言った 。

「 え ?

夕 里子 は 振り向いて 、「 いない ?

「 川西 さん 。

── い なく なっちゃ った 」

「 まさか !

しかし 、 事実 だった 。

道 の 上 は 、 雪 の 明り で 、 決して 暗く は ない 。

しかし 、 どこ に も 川西 みどり の 姿 は 見え ない のだ 。

「 珠美 !

見 なかった ? 「 全然 。

夢中で ロープ を 引いて た から 」

「 お 姉ちゃん は ?

「 私 も ──」

と 、 綾子 が 首 を 振る 。

「 くたびれて 、 座って た から ……」

「 そんな 馬鹿な こと って ──」

川西 みどり は 確かに 上って 来た のだ 。

それなのに ……。

どこ へ 行って しまった のだろう ?

「 川西 君 !

「 みどり さん !

みんな 、 てんで ん に 呼んで みた が 、 虚 しかった 。

川西 みどり の 姿 は 、 消えて しまった のである 。

── 落ちついた の は 、 もう 夜中 だった 。

水谷 、 敦子 、 金田 の 三 人 も 、 熱い 風呂 へ 入って 、 食事 を し 、 やっと 生き返った ようだった 。

夕 里子 たち に して も 同じ ような もの だ 。

手 の 皮 が すり むけたり 、 真 赤 に なって 、 お 風呂 へ 入る と 、 しみて 痛んだ 。

「── これ じゃ 、 明日 は 一 日 中 、 筋肉 痛 だ 」

と 、 リビング で 、 国 友 が 言った 。

「 ご苦労さま 」

夕 里子 も 湯上 り で 、 パジャマ の 上 に セーター を 着て やって 来た 。

「 でも 、 どうして 一 人 だけ が ……」

「 うん 。

妙な 話 だ 」

と 、 国 友 は 肯 いた 。

「 さあ 、 どうぞ 」

石垣 園子 が 、 レモネード を 持って 来て くれた 。

「 疲れ が 取れ ます よ 」

「 や 、 こりゃ どうも 」

水谷 が 、 それ を 受け取って 、 一気に 飲み干す 。

「── すみません 」

と 、 夕 里子 は 、 園子 へ 言った 。

「 救助 の 方 は ? 「 それ が ね ──」

と 、 園子 は 申し訳な さ そうに 、「 さっき 、 警察 へ かけよう と したら 、 電話 が 通じ ない の 」

「 ええ ?

不 通な んです か ? 「 雪 の せい で ね 。

よく ある の よ 、 ここ で は 」

「 じゃ 、 連絡 が 取れ ない んです ね 」

「 そう な の 。

一 日 、 二 日 で 、 また 通じる ように なる と 思う んだ けど 」

「 それ じゃ 間に合わ ない 」

と 、 国 友 は 言った 。

「 僕 が 車 で 下 の 町 へ 行って 来よう 」

「── むだだ よ 」

と 、 声 が した 。

「 秀 哉 、 まだ 起きて た の ?

「 秀 哉 君 、 むだ 、 って 、 どうして ?

と 、 夕 里子 は 訊 いた 。

「 道 が ふさがって る 。

雪 が 崩れて 来て 。 車 、 通れ ない よ 」

と 、 秀 哉 は 言った 。

「── どうして 知って る の ?

と 、 夕 里子 は 言った 。

「 二 階 から 見えた よ 。

見て ごらん 、 噓 だ と 思ったら 」

「 秀 哉 」

と 、 園子 が 、 少し きつい 調子 で 、「 早く 寝る の よ 」

と 言った 。

「 うん 」

秀 哉 は 、 リビング を 出て 行った 。

夕 里子 は 、 国 友 を 見た 。

「 外 へ 出て みよう 」

国 友 は 、 立ち上った 。

「 崩れて る に して も 、 通って 通れ ない こと は ない かも しれ ない 」

国 友 が 出て 行く と 、 入れかわり に 、 敦子 が 入って 来た 。

可愛い 花柄 の パジャマ である 。

「 敦子 、 風邪 引く わ よ 」

「 いい よ 。

風邪 ぐらい 。 死ぬ とこ だった んだ もん 」

敦子 は 、 夕 里子 と 並んで ソファ に 座る と 、

「── ああ 、 生きて て 良かった !

「 何 よ 、 それ 」

「 だって 本当じゃ ない 」

敦子 は 、 フーッ と 息 を ついて 、「 あれ で 死んじゃ ったら 、 恋 も 結婚 も 、 ついに 夢 の まま で 終わる ところ だ わ 。

私 、 車 の 中 で 、 考えちゃ った 」

「 何 を ?

「 もし 助かったら 、 どんどん ボーイフレンド 作ろう 、 って 。

だって 、 いつ こんな 目 に 遭う か 分 ら ない わけでしょ ? 恋 ぐらい 早く し と か なきゃ 」

「 敦子 ったら 」

と 、 夕 里子 は 苦笑 して 、「 スーパー で 買物 する の と は 違う の よ 。

恋 は 、 そう 都合 よく 手 に 入り ませ ん 」

「 もう 恋人 の いる 人 は 黙れ !

敦子 は そう 言って 笑った 。

いや 、 本当 は 笑っちゃ い られ ない のだ が 。

── でも 、 助かった と いう 安心 感 の 方 が 大きい のだ 。

「 だけど 、 川西 さん 、 どう しちゃ った んだろう ね 」

と 、 敦子 が 言った 。

「 うん ……」

夕 里子 は 、 少し 考え 込んで から 、「 でも 、 大体 あの 人 、 どこ か 変って た と 思わ ない ?

「 そう ね 。

それ は そう だ わ 」

敦子 は 肯 いた 。

夕 里子 は 、 あの ドライブ ・ イン を 出る とき に 、 川西 みどり が 、 言った 言葉 が ひっかかって いた のだ 。

── 予言 者 めいた ところ が あって 、 どこ か まともで ない 、 と いう 気 が した 。

「 予言 者 は 、 一 人 で 沢山だ わ 」

と 、 夕 里子 が 呟く と 、

「 何の こと 、 それ ?

と 、 敦子 が 不思議 そうに 訊 く 。

「 車 が 落ちた とき の こと 、 憶 えて る ?

と 、 夕 里子 が 訊 く と 、 水谷 の 耳 に も 入った の か 、

「 おい 、 佐々 本 」

と 、 二 人 の 方 へ やって 来た 。

「 お前 、 この こと を 学校 へ 報告 する の か ?

「 どうせ 分 り ます よ 。

車 だって 引き上げ なきゃ いけない んだ し 」

「 うん 、 それ は まあ 、 そう だ が ……」

「 先生 、 私 たち に 口止め しよう って いう んです か ?

「 そう じゃ ない よ 」

「 テスト 、 全部 一〇〇 点 に して くれたら 、 黙って て も いい 」

「 馬鹿 言え 」

と 、 水谷 は ふくれ っ つ ら に なって 、「 俺 は そういう こと は 絶対 に し ない !

「 じゃ 、 どうして あんな こと 訊 いたん です か ?

「 俺 が 自分 で 報告 し たい んだ 。

だから 、 お前 たち に 先 に しゃべら れる と 困る 」

「 分 った !

と 、 敦子 が 声 を 上げた 。

「 先生 、 生徒 を 助けた こと だけ 、 強調 する つもりな んだ わ 」

「 なるほど ね 」

夕 里子 は 肯 いて 、「 自分 の 運転 技術 が 原因 と いう 点 から 目 を そらす ため ね 」

「 それ を 言う な よ 」

と 、 水谷 は 情 ない 顔 に なった 。

「 これ でも 路上 試験 じゃ 賞 め られた んだ ぞ 」

「 あと 十 年 運転 して から 、 生徒 を 乗せて 下さい ね 」

と 、 夕 里子 は 言って やった 。

「 佐々 本 。

── お前 、 車 が 落ちる の を 見て た の か ? 「 ええ 、 こっち から 」

「 そう か 。

── いや 、 決して 俺 は 責任 逃れ を する つもり は ない 。 ただ な 、 あの 状況 は 、 どうも おかしかった 」

水谷 は 真顔 だった 。

「 どういう こと です か ?

「 うん 、 チェーン を 巻いて いた し 、 あそこ まで は 、 至って 順調に 走って 来た んだ 。

── な 、 片 瀬 も そう 思う だ ろ ? 「 ええ 。

── それ は 確か 。 スリップ も し ない し 、 フラ つき も なかった わ 」

「 あの 車 は 、 そう 大きく ない が 、 パワー は ある んだ 。

あれ ぐらい の 道 なら 、 まず 安定 して 走れる 」

「 でも 、 落 っこ ち たわ 」

「 そう な んだ 。

── どうも おかしい 。 何だか 、 突然な んだ 。 突然 、 ガクン と 片側 の 車輪 が 、 何 か に 乗り 上げた ように なって ──」

「 そう 。

それ は 私 も 憶 えて る わ 」

と 敦子 が 言った 。

「 スリップ した と か 、 そんな 感じ じゃ なかった の よ 」

「 じゃ ── 事故 じゃ なかった 、 って こと ?

水谷 は 、 少し 黙って いた が 、 やがて 、

「 そういう こと だ な 」

と 、 肯 いた 。

そこ へ 、 国 友 が 戻って 来た 。

ちょっと 外 へ 出て いた だけ で 、 顔 が 少し 青く なって いる 。 よほど の 寒 さ な のだろう 。

「 どう だった ?

と 、 夕 里子 が 訊 く と 、 国 友 は 、 難しい 顔 で 言った 。

「 だめだ よ 。

ここ から でも はっきり 分 る くらい 、 ずっと 雪 で 埋 って しまって いる 」

「 そんなに ?

「 歩いて なら 、 行け ない こと は ない かも しれ ない が 、 途中 で また 崩れる 心配 も ある し な 」

「 他の 道 は ない の かしら ?

「 今 、 ここ の 奥さん に 訊 いて みた が 、 他 に は 下 の 町 へ 出る 道 は ない んだ そうだ 」

聞いて いた 敦子 が 、

「 それ じゃ ── 私 たち 、 ここ から 降り られ ない の ?

と 、 目 を 見開いて 言った 。

「 まあ 、 二 、 三 日 の 内 に は 、 電話 が 通じる ように なる だろう 。

── 食べる もの なんか は 、 充分に ある から 、 大丈夫 って こと だった よ 」

そう 聞か さ れて も 、 夕 里子 は 安心 する より 却って 不安に なった 。

── この 山荘 の 主人 は 、 なぜ 出て 来 ない のだろう ?

そして 川西 みどり は どこ に 行って しまった の か 。

水谷 たち の 車 が 、 故意 に 落とさ れた のだ と したら 、 何の ため だった の か ……。

秀 哉 は 、 何もかも 分 って いる くせ に 、 なぜ 家庭 教師 を 必要 と した の か 。

そして ……。

「── ともかく 、 今夜 は どう しよう も ない 」

と 、 国 友 が 言った 。

「 みんな 、 ぐっすり 眠って 、 明日 、 明るく なったら 、 この 周辺 を 捜して みよう 」

「 寝よう 、 寝 よう っと !

一 人 、 陽気な の は 珠美 である 。

「 ね 、 お 姉ちゃん 」

「 何 よ 」

と 、 夕 里子 は 、 リビングルーム を 出 ながら 、「 そんなに 騒が ない の 」

「 いい じゃ ない 。

ずっと ここ に いたら 、 学校 に も 行か なくて 済む かも ね 」

「 あんた らしい こ と 言って る 。

── お 姉ちゃん は ? 「 もう 、 寝た んじゃ ない ?

「 そう ──。

いい わ ね 、 平和で 」

夕 里子 は 心から そう 言った 。

いつも 、 心配 役 は 私 が 引き受け なきゃ いけない んだ から !

── 夕 里子 たち が 当分 は 身動き の とれ なく なった 山荘 を 取り巻く 空気 も 、 もちろん 冷え冷え と して いた が 、 ここ 、 東京 の 、 この 部屋 の 中 も 、 それ と は 全く 別の 意味 で 、 もっと 寒々 と して いた 。

布 が めくら れて 、 死体 の 顔 が 青白い 光 に さらさ れる と 、

「 アッ 」

と 、 短い 声 が 、 婦人 の 口 から 洩 れた 。

三崎 刑事 は 、 その 夫婦 に 、 いささか 遠慮 がちな 視線 を 向けて 、

「 お嬢さん です か 」

と 言った 。

妻 の 方 が 、 泣き ながら 、 よろけ そうに なる 。

夫 が 、 それ を 抱き 寄せた 。

「── 娘 です 」

と 、 その 夫 の 方 が 言った 。

「 平川 浩子 さん です ね 」

三崎 が 念 を 押す 。

「 浩子 です 。

しかし 、 どうして こんな こと に ! 父親 の 声 が 震えて 、 涙 が 目 に 光って いた 。

「 お 気の毒な こと でした 」

と 、 三崎 は 頭 を 少し 下げて 、「 犯人 は 、 必ず 捕え ます 」

「 お 願い し ます 。

── できる こと なら 、 この 手 で 、 絞め 殺して やり たい ! 「 お 察し し ます 」

三崎 は 、 平川 夫婦 を 促して 、「 少し 、 お 話 を うかがい たい のです が ……」

と 言った 。

平川 浩 子 の 死体 は 、 再び 白い 布 で 覆わ れた 。

── 全く の 幸運だった のである 。

いや 、 死体 の 身 許 の 知れる こと が 、「 幸運 」 と 呼べる か どう か は 別 と して も ……。

行方 不明 の 届 や 、 指紋 、 TV ニュース で の 報道 ── 何一つ 、 この 娘 の 身 許 を あかす もの と は なら なかった 。

何 人 か の 申し出 も あった が 、 結局 は どれ も 人違い に 終った 。

そんな とき である 。

「── 浩子 ちゃん に 似て る なあ 」

ふと 、 そう 呟いた の は 、 何と 三崎 の 部下 の 刑事 だった 。

「 浩子 ちゃん ?

「 あ 、 いえ 、 いとこ で 、 そっくりの 娘 が いる んです 。

年齢 も 同じ くらい だし ……」

しかし 、 死体 と 生きて いる 人間 で は 、 全く 印象 が 違う 。

三崎 は 念のため に 、 その 刑事 に 、 娘 の 両親 と 連絡 を 取ら せた 。

泊り 込み で 家庭 教師 に 行って いる 、 と いう 返事 で 、 一 度 は 人違い か と 思い かけた のだった が 、 今度 は 、 心配に なった 両親 の 方 が 、 その 行って いる 先 の 家 に 電話 を した 。

もちろん 、 娘 が 、 番号 の メモ を 残して 行った のだ 。

ところが 、 その 番号 は 、 今 使わ れて い なかった 。

不安に なった 両親 が 、 三崎 の 所 へ 連絡 して 来て 、 この 悲しい 対面 と なった のだった 。

「── 行 先 が どんな 家 だ と か 、 聞いて い ました か ?

と 、 三崎 は 言った 。

「 いいえ 」

と 、 父親 が 首 を 振る 。

「── お前 は ? ずっと 泣き 通し の 母親 の 方 は 、 ハンカチ で 涙 を 拭って 、 呼吸 を 整える と 、

「 いいえ ……。

私 も 、 何も 聞いて い ませ ん でした 」

と 、 震える 声 で 言った 。

「 しかし ──」

「 信じて い ました 。

ともかく 、 大学 の 先生 の ご 紹介 でした から 」

「 そう だ 」

と 、 父親 の 方 が 顔 を 上げ 、「 あの 先生 なら 知って いる はずだ 」

「 何という 方 です ?

と 、 三崎 は 手帳 を 構えた 。

「 沼 ……。

何 だった かな ? 「 沼 淵 先生 よ 、 あなた 」

と 、 母親 が 言った 。

「 沼 淵 先生 と おっしゃる んです ……」


三 姉妹 探偵 団 4 Chapter 07 みっ|しまい|たんてい|だん|chapter

7  救   出 すく|だ 7 Rescue

雪 の 道 を 、 夕 里子 が 必死で 走った 。 ゆき||どう||ゆう|さとご||ひっしで|はしった Yuriko ran desperately on the snowy road.

国 友 が 、 ロープ を 肩 に 、 先 に 立って 走って 行く 。 くに|とも||ろーぷ||かた||さき||たって|はしって|いく Kunitomo stands and runs with the rope on his shoulder.

珠美 と 綾子 が 、 ついて 来て いる 。 たまみ||あやこ|||きて| Tamami and Ayako are coming along.

雪 で 明るい の が 幸いだった 。 ゆき||あかるい|||さいわいだった

「 足下 に 気 を 付けろ ! あしもと||き||つけろ

と 、 走り ながら 、 国 友 が 叫んだ 。 |はしり||くに|とも||さけんだ

確かに 、 ガード レール も ない 道 である 。 たしかに|がーど|れーる|||どう|

足 を 滑ら したら 、 崖 の 下 へ 転がり 落ちて しまう かも しれ ない 。 あし||すべら||がけ||した||ころがり|おちて||||

夕 里子 は 、 振り向いて 、 ゆう|さとご||ふりむいて

「 珠美 ! たまみ

崖 の 側 に 近寄ら ないで ! がけ||がわ||ちかよら| お 姉ちゃん に 気 を 付けて ね ! |ねえちゃん||き||つけて| と 怒鳴った 。 |どなった

「 了解 ! りょうかい

珠美 が 手 を 振った 。 たまみ||て||ふった

綾子 が 一緒な ので 、 どうしても 遅く なる のだ 。 あやこ||いっしょな|||おそく||

しかし ── 夕 里子 は 、 首 を かしげた 。 |ゆう|さとご||くび||

こんな とき に も 、 石垣 園子 の 夫 は 、 姿 を 見せ ない 。 ||||いしがき|そのこ||おっと||すがた||みせ|

園子 は 、 ロープ を 出して 来て 、 警察 へ 連絡 する と 言って 残って いた が 、 夫 の こと は 、 そのこ||ろーぷ||だして|きて|けいさつ||れんらく|||いって|のこって|||おっと|||

「 疲れて いる ので ……」 つかれて||

と しか 言わ なかった 。 ||いわ| I only said it.

おかしい 。

── 夕 里子 は 、 腹 が 立つ より も 、 奇妙な 不安 を 覚えて いた 。 ゆう|さとご||はら||たつ|||きみょうな|ふあん||おぼえて|

「── あそこ だ !

国 友 が 足 を 止めた 。 くに|とも||あし||とどめた

雪 に 、 深く えぐった 跡 が あった 。 ゆき||ふかく||あと||

「 そこ で 止って る ぞ ! ||とまって||

覗き 込む と 、 雪 の 中 で 、 車 が うまく うけ止め られた 格好に なって 、 逆さ に なって は いる が 、 五 、 六 メートル 下 で 、 大破 も して い ない ようだった 。 のぞき|こむ||ゆき||なか||くるま|||うけとめ||かっこうに||さかさ||||||いつ|むっ|めーとる|した||たいは|||||

「 これ なら 、 助かる かも しれ ない 」 ||たすかる|||

国 友 が 、 大声 で 、「 お ー い ! くに|とも||おおごえ|||-|

誰 か 、 返事 を しろ ! だれ||へんじ|| と 怒鳴った 。 |どなった

「 敦子 ! あつこ

聞えて たら 、 返事 して ! きこえて||へんじ| 夕 里子 も 精一杯 の 声 を 出す 。 ゆう|さとご||せいいっぱい||こえ||だす

する と ──。

「 お ー い ! |-|

と 、 男 の 声 が 、 返って 来た ! |おとこ||こえ||かえって|きた

「 水谷 先生 だ ! みずたに|せんせい|

先生 ! せんせい

「 佐々 本 か ! ささ|ほん|

「 ロープ を 垂らす ぞ ! ろーぷ||たらす|

と 、 国 友 が 叫んだ 。 |くに|とも||さけんだ

「 動ける か ? うごける| 「── 大丈夫 ! だいじょうぶ

みんな けが は して ない ! 良かった ! よかった

夕 里子 は 、 息 を ついた 。 ゆう|さとご||いき||

「 しかし 、 急が ない と 」 |いそが||

国 友 は 、 長い ロープ を のばして 、「 あそこ で いつまでも 車 が 止って いる と は 限ら ない 。 くに|とも||ながい|ろーぷ||||||くるま||とまって||||かぎら|

もっと 下 へ 転がり 落ちて 行ったら 、 もう 助から ない だろう 」 |した||ころがり|おちて|おこなったら||たすから||

「 じゃ 、 早く ロープ を ! |はやく|ろーぷ|

国 友 が 、 自分 の 体 に ロープ を 巻き つける と 、 一方 の 端 を 結び目 に して 、 下 へ 投げた 。 くに|とも||じぶん||からだ||ろーぷ||まき|||いっぽう||はし||むすびめ|||した||なげた

車 の ドア が 開いて 、 水谷 が 這う ように 出て 来て 、 垂れた ロープ を つかんだ 。 くるま||どあ||あいて|みずたに||はう||でて|きて|しだれた|ろーぷ||

「── 生徒 を 一 人 ずつ 上げる から 、 引 張って くれ ! せいと||ひと|じん||あげる||ひ|はって|

「 分 った ! ぶん|

と 、 国 友 は 答えた 。 |くに|とも||こたえた

「 君 も 引 張って くれ 」 きみ||ひ|はって|

「 ええ 。

── 珠美 ! たまみ 急いで ! いそいで やっと 、 二 人 も 駆けつけて 来た 。 |ふた|じん||かけつけて|きた

まず 敦子 。 |あつこ

── ロープ を 腰 に 巻いて 、 車 から 押し出さ れて 来る と 、 国 友 や 夕 里子 たち が 一斉に 、 全力 で 引 張り上げる 。 ろーぷ||こし||まいて|くるま||おしださ||くる||くに|とも||ゆう|さとご|||いっせいに|ぜんりょく||ひ|はりあげる

「── よし !

その 調子 だ ! |ちょうし| ぐ い 、 ぐ い 、 と 手応え が あって 、 やがて 、 雪 だらけ で 真 白 に なった 敦子 が 、 道 に 這い上って きた 。 |||||てごたえ||||ゆき|||まこと|しろ|||あつこ||どう||はいあがって|

「 敦子 ! あつこ

「 夕 里子 ! ゆう|さとご

怖かった ! こわかった 敦子 は 、 泣き ながら 、 夕 里子 に 抱きついた が 、 すぐ に 、「── 他の 人 を 早く ! あつこ||なき||ゆう|さとご||だきついた||||たの|じん||はやく

と 、 自分 で ロープ を ほどいた 。 |じぶん||ろーぷ||

国 友 が 、 再び ロープ を 投げ 落とす 。 くに|とも||ふたたび|ろーぷ||なげ|おとす

次に 川西 みどり 。 つぎに|かわにし|

引上げ られた とき は 、 敦子 と 同じで 雪 だらけ だった が 、 ひきあげ||||あつこ||おなじで|ゆき|||

「 大丈夫 ? だいじょうぶ

と 夕 里子 が 訊 いて も 、 ただ 黙って 肯 くだけ だった 。 |ゆう|さとご||じん||||だまって|こう||

「 よし 、 早く 次 だ ! |はやく|つぎ|

── 次 は 金田 吾郎 で 、 やはり 体重 が ある だけ 、 少々 骨 が 折れた 。 つぎ||かなだ|われろう|||たいじゅう||||しょうしょう|こつ||おれた

引っ張る 方 も 、 三 人 目 で 、 少し 疲れて いた の かも しれ ない 。 ひっぱる|かた||みっ|じん|め||すこし|つかれて|||||

しかし 、 少し 時間 は かかった が 、 何とか 這い上って 、 道 に 転がる ように して 上って 来た 。 |すこし|じかん||||なんとか|はいあがって|どう||ころがる|||のぼって|きた そして 、

「── 助かった ! たすかった

と 、 座り 込んで しまう 。 |すわり|こんで|

「 ほら 、 男 でしょ ! |おとこ|

と 、 夕 里子 は 、 金田 の 肩 を つかんで 、「 立って ! |ゆう|さとご||かなだ||かた|||たって

水谷 先生 を 引き上げる の よ ! みずたに|せんせい||ひきあげる|| 「 う 、 うん !

よろけ ながら 、 金田 は 立ち上った 。 ||かなだ||たちのぼった

「 ロープ を 外して 。 ろーぷ||はずして

── そう 。 じゃ 、 国 友 さん 」 |くに|とも|

「 下 へ 投げて くれ 」 した||なげて|

「 ええ 。

── 一 、 二 、 の ──」 ひと|ふた|

夕 里子 の 手 が 止まった 。 ゆう|さとご||て||とまった

ポカン と して 、 下 を 見て いる 。 |||した||みて|

「 どうした ?

国 友 が やって 来た 。 くに|とも|||きた

「 車 が ……」 くるま|

もう 、 さっき の 所 に 、 車 は なかった 。 |||しょ||くるま||

また 転がり 落ちて 行った のだ 。 |ころがり|おちて|おこなった|

── ずっと ずっと 下 の 方 まで 、 その 跡 は 続いて いた 。 ||した||かた|||あと||つづいて|

「 水谷 先生 ……」 みずたに|せんせい

と 、 夕 里子 は 呟いた 。 |ゆう|さとご||つぶやいた

「 そんな ……」

「 もう 少し だった のに 」 |すこし||

と 、 国 友 は 、 息 を 弾ま せ ながら 、「 しかし 、 ともかく 生徒 たち を 助けた んだ 。 |くに|とも||いき||はずま|||||せいと|||たすけた|

── よく やった よ 」

「 でも 、 先生 …… 助から ない かしら ? |せんせい|たすから||

「 どうか な 」

と 、 国 友 は 首 を 振った 。 |くに|とも||くび||ふった

「 ともかく 、 あそこ まで は いけない 。 本格 的な 救助 隊 が 来 ない と ……」 ほんかく|てきな|きゅうじょ|たい||らい||

「── 見て ! みて

と 、 夕 里子 は 叫んだ 。 |ゆう|さとご||さけんだ

少し 下った ところ の 雪 が 、 何だか 盛り上って いる ── と 思ったら 、 ヒョイ 、 と 水谷 の 頭 が 出た 。 すこし|くだった|||ゆき||なんだか|もりあがって|||おもったら|||みずたに||あたま||でた

「 おい !

ここ だ ! 「 先生 ! せんせい

夕 里子 は 、 歓声 を 上げた 。 ゆう|さとご||かんせい||あげた

「 危うく 飛び出した んだ ! あやうく|とびだした|

ロープ を ! ろーぷ|

「 はい !

夕 里子 は ロープ を 、 水谷 の 方 へ と 力一杯 、 投げて やった ──。 ゆう|さとご||ろーぷ||みずたに||かた|||ちからいっぱい|なげて|

── 水谷 は ほとんど 自力 で 上って 来る と 、 みずたに|||じりき||のぼって|くる|

「── みんな 無事 か ! |ぶじ|

と 言う なり 、 その 場 に へたり 込んで しまった 。 |いう|||じょう|||こんで|

「 よく やった ね 」

国 友 が 、 水谷 の 肩 を 叩いて 、 言った 。 くに|とも||みずたに||かた||たたいて|いった

「 教師 の 運転 です から ね 。 きょうし||うんてん|||

── 生徒 を 死な せる わけに ゃい か ない 」 せいと||しな|||||

水谷 は 、 よろけ ながら 、 立ち上った 。 みずたに||||たちのぼった

「 いや 助かった ! |たすかった どう しよう か と 思って た んです よ 」 ||||おもって||| I was wondering what to do. "

「 ともかく 山荘 へ 」 |さんそう|

と 、 夕 里子 は 言った 。 |ゆう|さとご||いった

「 みんな 疲れ 切って る わ 」 |つかれ|きって||

「 よし 、 行こう 。 |いこう

── おい 、 金田 」 |かなだ

「 はい 」

「 お前 、 川西 君 に 肩 を かして やれ 。 おまえ|かわにし|きみ||かた|||

俺 は 片 瀬 を ──」 おれ||かた|せ|

「 い ない わ 」

と 、 敦子 が 言った 。 |あつこ||いった

「 え ?

夕 里子 は 振り向いて 、「 いない ? ゆう|さとご||ふりむいて|

「 川西 さん 。 かわにし|

── い なく なっちゃ った 」

「 まさか !

しかし 、 事実 だった 。 |じじつ|

道 の 上 は 、 雪 の 明り で 、 決して 暗く は ない 。 どう||うえ||ゆき||あかり||けっして|くらく||

しかし 、 どこ に も 川西 みどり の 姿 は 見え ない のだ 。 ||||かわにし|||すがた||みえ||

「 珠美 ! たまみ

見 なかった ? み| 「 全然 。 ぜんぜん

夢中で ロープ を 引いて た から 」 むちゅうで|ろーぷ||ひいて||

「 お 姉ちゃん は ? |ねえちゃん|

「 私 も ──」 わたくし|

と 、 綾子 が 首 を 振る 。 |あやこ||くび||ふる

「 くたびれて 、 座って た から ……」 |すわって||

「 そんな 馬鹿な こと って ──」 |ばかな||

川西 みどり は 確かに 上って 来た のだ 。 かわにし|||たしかに|のぼって|きた|

それなのに ……。

どこ へ 行って しまった のだろう ? ||おこなって||

「 川西 君 ! かわにし|きみ

「 みどり さん !

みんな 、 てんで ん に 呼んで みた が 、 虚 しかった 。 ||||よんで|||きょ|

川西 みどり の 姿 は 、 消えて しまった のである 。 かわにし|||すがた||きえて||

── 落ちついた の は 、 もう 夜中 だった 。 おちついた||||よなか|

水谷 、 敦子 、 金田 の 三 人 も 、 熱い 風呂 へ 入って 、 食事 を し 、 やっと 生き返った ようだった 。 みずたに|あつこ|かなだ||みっ|じん||あつい|ふろ||はいって|しょくじ||||いきかえった|

夕 里子 たち に して も 同じ ような もの だ 。 ゆう|さとご|||||おなじ|||

手 の 皮 が すり むけたり 、 真 赤 に なって 、 お 風呂 へ 入る と 、 しみて 痛んだ 。 て||かわ||||まこと|あか||||ふろ||はいる|||いたんだ

「── これ じゃ 、 明日 は 一 日 中 、 筋肉 痛 だ 」 ||あした||ひと|ひ|なか|きんにく|つう|

と 、 リビング で 、 国 友 が 言った 。 |りびんぐ||くに|とも||いった

「 ご苦労さま 」 ごくろうさま

夕 里子 も 湯上 り で 、 パジャマ の 上 に セーター を 着て やって 来た 。 ゆう|さとご||ゆあがり|||ぱじゃま||うえ||せーたー||きて||きた

「 でも 、 どうして 一 人 だけ が ……」 ||ひと|じん||

「 うん 。

妙な 話 だ 」 みょうな|はなし|

と 、 国 友 は 肯 いた 。 |くに|とも||こう|

「 さあ 、 どうぞ 」

石垣 園子 が 、 レモネード を 持って 来て くれた 。 いしがき|そのこ||||もって|きて|

「 疲れ が 取れ ます よ 」 つかれ||とれ||

「 や 、 こりゃ どうも 」

水谷 が 、 それ を 受け取って 、 一気に 飲み干す 。 みずたに||||うけとって|いっきに|のみほす

「── すみません 」

と 、 夕 里子 は 、 園子 へ 言った 。 |ゆう|さとご||そのこ||いった

「 救助 の 方 は ? きゅうじょ||かた| 「 それ が ね ──」

と 、 園子 は 申し訳な さ そうに 、「 さっき 、 警察 へ かけよう と したら 、 電話 が 通じ ない の 」 |そのこ||もうしわけな||そう に||けいさつ|||||でんわ||つうじ||

「 ええ ?

不 通な んです か ? ふ|つうな|| 「 雪 の せい で ね 。 ゆき||||

よく ある の よ 、 ここ で は 」

「 じゃ 、 連絡 が 取れ ない んです ね 」 |れんらく||とれ|||

「 そう な の 。

一 日 、 二 日 で 、 また 通じる ように なる と 思う んだ けど 」 ひと|ひ|ふた|ひ|||つうじる||||おもう||

「 それ じゃ 間に合わ ない 」 ||まにあわ|

と 、 国 友 は 言った 。 |くに|とも||いった

「 僕 が 車 で 下 の 町 へ 行って 来よう 」 ぼく||くるま||した||まち||おこなって|こよう

「── むだだ よ 」

と 、 声 が した 。 |こえ||

「 秀 哉 、 まだ 起きて た の ? しゅう|や||おきて||

「 秀 哉 君 、 むだ 、 って 、 どうして ? しゅう|や|きみ|||

と 、 夕 里子 は 訊 いた 。 |ゆう|さとご||じん|

「 道 が ふさがって る 。 どう|||

雪 が 崩れて 来て 。 ゆき||くずれて|きて 車 、 通れ ない よ 」 くるま|とおれ||

と 、 秀 哉 は 言った 。 |しゅう|や||いった

「── どうして 知って る の ? |しって||

と 、 夕 里子 は 言った 。 |ゆう|さとご||いった

「 二 階 から 見えた よ 。 ふた|かい||みえた|

見て ごらん 、 噓 だ と 思ったら 」 みて|||||おもったら

「 秀 哉 」 しゅう|や

と 、 園子 が 、 少し きつい 調子 で 、「 早く 寝る の よ 」 |そのこ||すこし||ちょうし||はやく|ねる||

と 言った 。 |いった

「 うん 」

秀 哉 は 、 リビング を 出て 行った 。 しゅう|や||りびんぐ||でて|おこなった

夕 里子 は 、 国 友 を 見た 。 ゆう|さとご||くに|とも||みた

「 外 へ 出て みよう 」 がい||でて|

国 友 は 、 立ち上った 。 くに|とも||たちのぼった

「 崩れて る に して も 、 通って 通れ ない こと は ない かも しれ ない 」 くずれて|||||かよって|とおれ||||||| "Even if it collapses, it may not pass through."

国 友 が 出て 行く と 、 入れかわり に 、 敦子 が 入って 来た 。 くに|とも||でて|いく||いれかわり||あつこ||はいって|きた

可愛い 花柄 の パジャマ である 。 かわいい|はながら||ぱじゃま|

「 敦子 、 風邪 引く わ よ 」 あつこ|かぜ|ひく||

「 いい よ 。

風邪 ぐらい 。 かぜ| 死ぬ とこ だった んだ もん 」 しぬ||||

敦子 は 、 夕 里子 と 並んで ソファ に 座る と 、 あつこ||ゆう|さとご||ならんで|||すわる|

「── ああ 、 生きて て 良かった ! |いきて||よかった

「 何 よ 、 それ 」 なん||

「 だって 本当じゃ ない 」 |ほんとうじゃ|

敦子 は 、 フーッ と 息 を ついて 、「 あれ で 死んじゃ ったら 、 恋 も 結婚 も 、 ついに 夢 の まま で 終わる ところ だ わ 。 あつこ||||いき|||||しんじゃ||こい||けっこん|||ゆめ||||おわる||| Atsuko breathed a breath and said, "When it dies, love and marriage are finally over in a dream.

私 、 車 の 中 で 、 考えちゃ った 」 わたくし|くるま||なか||かんがえちゃ|

「 何 を ? なん|

「 もし 助かったら 、 どんどん ボーイフレンド 作ろう 、 って 。 |たすかったら||ぼーいふれんど|つくろう|

だって 、 いつ こんな 目 に 遭う か 分 ら ない わけでしょ ? |||め||あう||ぶん||| 恋 ぐらい 早く し と か なきゃ 」 こい||はやく||||

「 敦子 ったら 」 あつこ|

と 、 夕 里子 は 苦笑 して 、「 スーパー で 買物 する の と は 違う の よ 。 |ゆう|さとご||くしょう||すーぱー||かいもの|||||ちがう||

恋 は 、 そう 都合 よく 手 に 入り ませ ん 」 こい|||つごう||て||はいり||

「 もう 恋人 の いる 人 は 黙れ ! |こいびと|||じん||だまれ

敦子 は そう 言って 笑った 。 あつこ|||いって|わらった

いや 、 本当 は 笑っちゃ い られ ない のだ が 。 |ほんとう||わらっちゃ|||||

── でも 、 助かった と いう 安心 感 の 方 が 大きい のだ 。 |たすかった|||あんしん|かん||かた||おおきい|

「 だけど 、 川西 さん 、 どう しちゃ った んだろう ね 」 |かわにし||||||

と 、 敦子 が 言った 。 |あつこ||いった

「 うん ……」

夕 里子 は 、 少し 考え 込んで から 、「 でも 、 大体 あの 人 、 どこ か 変って た と 思わ ない ? ゆう|さとご||すこし|かんがえ|こんで|||だいたい||じん|||かわって|||おもわ|

「 そう ね 。

それ は そう だ わ 」

敦子 は 肯 いた 。 あつこ||こう|

夕 里子 は 、 あの ドライブ ・ イン を 出る とき に 、 川西 みどり が 、 言った 言葉 が ひっかかって いた のだ 。 ゆう|さとご|||どらいぶ|いん||でる|||かわにし|||いった|ことば||||

── 予言 者 めいた ところ が あって 、 どこ か まともで ない 、 と いう 気 が した 。 よげん|もの|||||||||||き||

「 予言 者 は 、 一 人 で 沢山だ わ 」 よげん|もの||ひと|じん||たくさんだ|

と 、 夕 里子 が 呟く と 、 |ゆう|さとご||つぶやく|

「 何の こと 、 それ ? なんの||

と 、 敦子 が 不思議 そうに 訊 く 。 |あつこ||ふしぎ|そう に|じん|

「 車 が 落ちた とき の こと 、 憶 えて る ? くるま||おちた||||おく||

と 、 夕 里子 が 訊 く と 、 水谷 の 耳 に も 入った の か 、 |ゆう|さとご||じん|||みずたに||みみ|||はいった||

「 おい 、 佐々 本 」 |ささ|ほん

と 、 二 人 の 方 へ やって 来た 。 |ふた|じん||かた|||きた

「 お前 、 この こと を 学校 へ 報告 する の か ? おまえ||||がっこう||ほうこく|||

「 どうせ 分 り ます よ 。 |ぶん|||

車 だって 引き上げ なきゃ いけない んだ し 」 くるま||ひきあげ||||

「 うん 、 それ は まあ 、 そう だ が ……」

「 先生 、 私 たち に 口止め しよう って いう んです か ? せんせい|わたくし|||くちどめ|||||

「 そう じゃ ない よ 」

「 テスト 、 全部 一〇〇 点 に して くれたら 、 黙って て も いい 」 てすと|ぜんぶ|ひと|てん||||だまって|||

「 馬鹿 言え 」 ばか|いえ

と 、 水谷 は ふくれ っ つ ら に なって 、「 俺 は そういう こと は 絶対 に し ない ! |みずたに||||||||おれ|||||ぜったい|||

「 じゃ 、 どうして あんな こと 訊 いたん です か ? ||||じん|||

「 俺 が 自分 で 報告 し たい んだ 。 おれ||じぶん||ほうこく|||

だから 、 お前 たち に 先 に しゃべら れる と 困る 」 |おまえ|||さき|||||こまる

「 分 った ! ぶん|

と 、 敦子 が 声 を 上げた 。 |あつこ||こえ||あげた

「 先生 、 生徒 を 助けた こと だけ 、 強調 する つもりな んだ わ 」 せんせい|せいと||たすけた|||きょうちょう||||

「 なるほど ね 」

夕 里子 は 肯 いて 、「 自分 の 運転 技術 が 原因 と いう 点 から 目 を そらす ため ね 」 ゆう|さとご||こう||じぶん||うんてん|ぎじゅつ||げんいん|||てん||め||||

「 それ を 言う な よ 」 ||いう||

と 、 水谷 は 情 ない 顔 に なった 。 |みずたに||じょう||かお||

「 これ でも 路上 試験 じゃ 賞 め られた んだ ぞ 」 ||ろじょう|しけん||しょう||||

「 あと 十 年 運転 して から 、 生徒 を 乗せて 下さい ね 」 |じゅう|とし|うんてん|||せいと||のせて|ください|

と 、 夕 里子 は 言って やった 。 |ゆう|さとご||いって|

「 佐々 本 。 ささ|ほん

── お前 、 車 が 落ちる の を 見て た の か ? おまえ|くるま||おちる|||みて||| 「 ええ 、 こっち から 」

「 そう か 。

── いや 、 決して 俺 は 責任 逃れ を する つもり は ない 。 |けっして|おれ||せきにん|のがれ||||| ただ な 、 あの 状況 は 、 どうも おかしかった 」 |||じょうきょう|||

水谷 は 真顔 だった 。 みずたに||まがお|

「 どういう こと です か ?

「 うん 、 チェーン を 巻いて いた し 、 あそこ まで は 、 至って 順調に 走って 来た んだ 。 |ちぇーん||まいて||||||いたって|じゅんちょうに|はしって|きた|

── な 、 片 瀬 も そう 思う だ ろ ? |かた|せ|||おもう|| 「 ええ 。

── それ は 確か 。 ||たしか スリップ も し ない し 、 フラ つき も なかった わ 」 すりっぷ|||||||||

「 あの 車 は 、 そう 大きく ない が 、 パワー は ある んだ 。 |くるま|||おおきく|||ぱわー|||

あれ ぐらい の 道 なら 、 まず 安定 して 走れる 」 |||どう|||あんてい||はしれる

「 でも 、 落 っこ ち たわ 」 |おと|||

「 そう な んだ 。

── どうも おかしい 。 何だか 、 突然な んだ 。 なんだか|とつぜんな| 突然 、 ガクン と 片側 の 車輪 が 、 何 か に 乗り 上げた ように なって ──」 とつぜん|がくん||かたがわ||しゃりん||なん|||のり|あげた||

「 そう 。

それ は 私 も 憶 えて る わ 」 ||わたくし||おく|||

と 敦子 が 言った 。 |あつこ||いった

「 スリップ した と か 、 そんな 感じ じゃ なかった の よ 」 すりっぷ|||||かんじ||||

「 じゃ ── 事故 じゃ なかった 、 って こと ? |じこ||||

水谷 は 、 少し 黙って いた が 、 やがて 、 みずたに||すこし|だまって|||

「 そういう こと だ な 」

と 、 肯 いた 。 |こう|

そこ へ 、 国 友 が 戻って 来た 。 ||くに|とも||もどって|きた

ちょっと 外 へ 出て いた だけ で 、 顔 が 少し 青く なって いる 。 |がい||でて||||かお||すこし|あおく|| よほど の 寒 さ な のだろう 。 ||さむ|||

「 どう だった ?

と 、 夕 里子 が 訊 く と 、 国 友 は 、 難しい 顔 で 言った 。 |ゆう|さとご||じん|||くに|とも||むずかしい|かお||いった

「 だめだ よ 。

ここ から でも はっきり 分 る くらい 、 ずっと 雪 で 埋 って しまって いる 」 ||||ぶん||||ゆき||うずま|||

「 そんなに ?

「 歩いて なら 、 行け ない こと は ない かも しれ ない が 、 途中 で また 崩れる 心配 も ある し な 」 あるいて||いけ|||||||||とちゅう|||くずれる|しんぱい||||

「 他の 道 は ない の かしら ? たの|どう||||

「 今 、 ここ の 奥さん に 訊 いて みた が 、 他 に は 下 の 町 へ 出る 道 は ない んだ そうだ 」 いま|||おくさん||じん||||た|||した||まち||でる|どう||||そう だ

聞いて いた 敦子 が 、 きいて||あつこ|

「 それ じゃ ── 私 たち 、 ここ から 降り られ ない の ? ||わたくし||||ふり|||

と 、 目 を 見開いて 言った 。 |め||みひらいて|いった

「 まあ 、 二 、 三 日 の 内 に は 、 電話 が 通じる ように なる だろう 。 |ふた|みっ|ひ||うち|||でんわ||つうじる|||

── 食べる もの なんか は 、 充分に ある から 、 大丈夫 って こと だった よ 」 たべる||||じゅうぶんに|||だいじょうぶ||||

そう 聞か さ れて も 、 夕 里子 は 安心 する より 却って 不安に なった 。 |きか||||ゆう|さとご||あんしん|||かえって|ふあんに|

── この 山荘 の 主人 は 、 なぜ 出て 来 ない のだろう ? |さんそう||あるじ|||でて|らい||

そして 川西 みどり は どこ に 行って しまった の か 。 |かわにし|||||おこなって|||

水谷 たち の 車 が 、 故意 に 落とさ れた のだ と したら 、 何の ため だった の か ……。 みずたに|||くるま||こい||おとさ|||||なんの||||

秀 哉 は 、 何もかも 分 って いる くせ に 、 なぜ 家庭 教師 を 必要 と した の か 。 しゅう|や||なにもかも|ぶん||||||かてい|きょうし||ひつよう||||

そして ……。

「── ともかく 、 今夜 は どう しよう も ない 」 |こんや|||||

と 、 国 友 が 言った 。 |くに|とも||いった

「 みんな 、 ぐっすり 眠って 、 明日 、 明るく なったら 、 この 周辺 を 捜して みよう 」 ||ねむって|あした|あかるく|||しゅうへん||さがして|

「 寝よう 、 寝 よう っと ! ねよう|ね||

一 人 、 陽気な の は 珠美 である 。 ひと|じん|ようきな|||たまみ|

「 ね 、 お 姉ちゃん 」 ||ねえちゃん

「 何 よ 」 なん|

と 、 夕 里子 は 、 リビングルーム を 出 ながら 、「 そんなに 騒が ない の 」 |ゆう|さとご||||だ|||さわが||

「 いい じゃ ない 。

ずっと ここ に いたら 、 学校 に も 行か なくて 済む かも ね 」 ||||がっこう|||いか||すむ||

「 あんた らしい こ と 言って る 。 ||||いって|

── お 姉ちゃん は ? |ねえちゃん| 「 もう 、 寝た んじゃ ない ? |ねた||

「 そう ──。

いい わ ね 、 平和で 」 |||へいわで

夕 里子 は 心から そう 言った 。 ゆう|さとご||こころから||いった

いつも 、 心配 役 は 私 が 引き受け なきゃ いけない んだ から ! |しんぱい|やく||わたくし||ひきうけ|||| Always, I have to underwrite worry!

── 夕 里子 たち が 当分 は 身動き の とれ なく なった 山荘 を 取り巻く 空気 も 、 もちろん 冷え冷え と して いた が 、 ここ 、 東京 の 、 この 部屋 の 中 も 、 それ と は 全く 別の 意味 で 、 もっと 寒々 と して いた 。 ゆう|さとご|||とうぶん||みうごき|||||さんそう||とりまく|くうき|||ひえびえ||||||とうきょう|||へや||なか|||||まったく|べつの|いみ|||さむざむ||| ── The air surrounding the mountain village where Riko Yuriko got no longer moved for the time being, of course, was chilly, but here in Tokyo, in this room, it is totally different from that, more coldly It was.

布 が めくら れて 、 死体 の 顔 が 青白い 光 に さらさ れる と 、 ぬの||||したい||かお||あおじろい|ひかり||||

「 アッ 」

と 、 短い 声 が 、 婦人 の 口 から 洩 れた 。 |みじかい|こえ||ふじん||くち||えい|

三崎 刑事 は 、 その 夫婦 に 、 いささか 遠慮 がちな 視線 を 向けて 、 みさき|けいじ|||ふうふ|||えんりょ||しせん||むけて

「 お嬢さん です か 」 おじょうさん||

と 言った 。 |いった

妻 の 方 が 、 泣き ながら 、 よろけ そうに なる 。 つま||かた||なき|||そう に|

夫 が 、 それ を 抱き 寄せた 。 おっと||||いだき|よせた

「── 娘 です 」 むすめ|

と 、 その 夫 の 方 が 言った 。 ||おっと||かた||いった

「 平川 浩子 さん です ね 」 ひらかわ|ひろこ|||

三崎 が 念 を 押す 。 みさき||ねん||おす

「 浩子 です 。 ひろこ|

しかし 、 どうして こんな こと に ! 父親 の 声 が 震えて 、 涙 が 目 に 光って いた 。 ちちおや||こえ||ふるえて|なみだ||め||ひかって|

「 お 気の毒な こと でした 」 |きのどくな||

と 、 三崎 は 頭 を 少し 下げて 、「 犯人 は 、 必ず 捕え ます 」 |みさき||あたま||すこし|さげて|はんにん||かならず|とらえ|

「 お 願い し ます 。 |ねがい||

── できる こと なら 、 この 手 で 、 絞め 殺して やり たい ! ||||て||しめ|ころして|| 「 お 察し し ます 」 |さっし||

三崎 は 、 平川 夫婦 を 促して 、「 少し 、 お 話 を うかがい たい のです が ……」 みさき||ひらかわ|ふうふ||うながして|すこし||はなし|||||

と 言った 。 |いった

平川 浩 子 の 死体 は 、 再び 白い 布 で 覆わ れた 。 ひらかわ|ひろし|こ||したい||ふたたび|しろい|ぬの||おおわ|

── 全く の 幸運だった のである 。 まったく||こううんだった|

いや 、 死体 の 身 許 の 知れる こと が 、「 幸運 」 と 呼べる か どう か は 別 と して も ……。 |したい||み|ゆる||しれる|||こううん||よべる|||||べつ||| No, whether knowing the body of a corpse can be called "lucky" or not ......

行方 不明 の 届 や 、 指紋 、 TV ニュース で の 報道 ── 何一つ 、 この 娘 の 身 許 を あかす もの と は なら なかった 。 ゆくえ|ふめい||とどけ||しもん|tv|にゅーす|||ほうどう|なにひとつ||むすめ||み|ゆる|||||||

何 人 か の 申し出 も あった が 、 結局 は どれ も 人違い に 終った 。 なん|じん|||もうしで||||けっきょく||||ひとちがい||しまった

そんな とき である 。

「── 浩子 ちゃん に 似て る なあ 」 ひろこ|||にて||

ふと 、 そう 呟いた の は 、 何と 三崎 の 部下 の 刑事 だった 。 ||つぶやいた|||なんと|みさき||ぶか||けいじ|

「 浩子 ちゃん ? ひろこ|

「 あ 、 いえ 、 いとこ で 、 そっくりの 娘 が いる んです 。 |||||むすめ|||

年齢 も 同じ くらい だし ……」 ねんれい||おなじ||

しかし 、 死体 と 生きて いる 人間 で は 、 全く 印象 が 違う 。 |したい||いきて||にんげん|||まったく|いんしょう||ちがう

三崎 は 念のため に 、 その 刑事 に 、 娘 の 両親 と 連絡 を 取ら せた 。 みさき||ねんのため|||けいじ||むすめ||りょうしん||れんらく||とら|

泊り 込み で 家庭 教師 に 行って いる 、 と いう 返事 で 、 一 度 は 人違い か と 思い かけた のだった が 、 今度 は 、 心配に なった 両親 の 方 が 、 その 行って いる 先 の 家 に 電話 を した 。 とまり|こみ||かてい|きょうし||おこなって||||へんじ||ひと|たび||ひとちがい|||おもい||||こんど||しんぱいに||りょうしん||かた|||おこなって||さき||いえ||でんわ||

もちろん 、 娘 が 、 番号 の メモ を 残して 行った のだ 。 |むすめ||ばんごう||めも||のこして|おこなった|

ところが 、 その 番号 は 、 今 使わ れて い なかった 。 ||ばんごう||いま|つかわ|||

不安に なった 両親 が 、 三崎 の 所 へ 連絡 して 来て 、 この 悲しい 対面 と なった のだった 。 ふあんに||りょうしん||みさき||しょ||れんらく||きて||かなしい|たいめん|||

「── 行 先 が どんな 家 だ と か 、 聞いて い ました か ? ぎょう|さき|||いえ||||きいて|||

と 、 三崎 は 言った 。 |みさき||いった

「 いいえ 」

と 、 父親 が 首 を 振る 。 |ちちおや||くび||ふる

「── お前 は ? おまえ| ずっと 泣き 通し の 母親 の 方 は 、 ハンカチ で 涙 を 拭って 、 呼吸 を 整える と 、 |なき|とおし||ははおや||かた||はんかち||なみだ||ぬぐって|こきゅう||ととのえる|

「 いいえ ……。

私 も 、 何も 聞いて い ませ ん でした 」 わたくし||なにも|きいて||||

と 、 震える 声 で 言った 。 |ふるえる|こえ||いった

「 しかし ──」

「 信じて い ました 。 しんじて||

ともかく 、 大学 の 先生 の ご 紹介 でした から 」 |だいがく||せんせい|||しょうかい||

「 そう だ 」

と 、 父親 の 方 が 顔 を 上げ 、「 あの 先生 なら 知って いる はずだ 」 |ちちおや||かた||かお||あげ||せんせい||しって||

「 何という 方 です ? なんという|かた|

と 、 三崎 は 手帳 を 構えた 。 |みさき||てちょう||かまえた

「 沼 ……。 ぬま

何 だった かな ? なん|| 「 沼 淵 先生 よ 、 あなた 」 ぬま|ふち|せんせい||

と 、 母親 が 言った 。 |ははおや||いった

「 沼 淵 先生 と おっしゃる んです ……」 ぬま|ふち|せんせい|||