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三姉妹探偵団 4 怪奇篇, 三姉妹探偵団 4 Chapter 06

三 姉妹 探偵 団 4 Chapter 06

6 消えた 娘

夕 里子 に とって は 、 朝 昼 兼用 の 食事 の 後 、 割合 すぐ に 夕食 、 と いう 時間 に なって しまった 。

しかし 、 この 爽 や か に 、 冷え 切った 空気 の 中 で 呼吸 して いる だけ でも 、 お腹 は 空く の かも しれ ない 。

夜 、 七 時 の 夕食 の 席 に ついた とき に は 、 夕 里子 の お腹 が グーグー 鳴って いた のである 。

「── お 手伝い し ましょう か 」

と 、 夕 里子 は 、 忙しく スープ を 運んで 来る 園子 に 言った が 、

「 いい の よ 。

作って る の は 主人 な んです もの 。 私 は 運ぶ だけ 」

「 でも ──」

「 座って いて 。

主人 は 、 お 客 さん に 手伝わ せたり したら 、 怒る の よ 」

「 そう です か 」

夕 里子 は 、 言わ れた 通り 、 席 に 座った 。

「── さあ 、 どうぞ 熱い 内 に 召し上って ね 」

と 言って 、 園子 は 台所 の 方 へ 戻ろう と する 。

「 あの ──」

と 、 綾子 が 言った 。

「 何 か ?

「 いえ ── 秀 哉 君 は 、 一緒に 食べ ない んでしょう か ?

「 あの 子 は いい の 。

── ちょっと 体 を こわした こと が あって 、 色々 と 、 食べ られ ない もの も ある から 」

「 そう です か 」

「 じゃ 、 また 料理 が できたら 、 運び ます から ね 」

園子 が 出て 行く と 、 夕 里子 たち 姉妹 と 国 友 の 四 人 が テーブル に 残る 。

「 食べ よう っと 」

珠美 は 、 さっさと スープ を 飲み 始めた 。

「── うん ! 旨 い ! うち の スープ と 大分 違う よ 」

「 悪かった わ ね 」

と 、 夕 里子 は にらんで やった 。

しかし 、 まあ 、 飲んで みる と 、 珠美 の 言う こと も 分 る だけ の 味 で は ある 。

「── お 姉ちゃん 」

と 、 夕 里子 は 綾子 の 方 へ 、「 どう ?

家庭 教師 の 方 は 、 うまく やって る ? 「 うん 」

綾子 は 肯 いて 、「 とっても 分 り やすい 、 って 、 ほめて くれた わ 」

「 へえ 、 大した もん だ 」

と 、 珠美 が 冷やかした 。

「 ただ ね ……」

と 、 綾子 が 複雑な 顔 を する 。

「 何 か あった の ?

「 そう じゃ ない けど ……。

ともかく 、 飲み こみ の 早い 子 な の 。 一 回 説明 した だけ で 、 何でも 分 っちゃ う の よ 」

「 頭 よ さ そうだ もん ね 」

「 でも ねえ ……。

何だか 、 手応え が なくて 」

「 と いう と ?

「 何もかも 、 ちゃんと 分 って る んじゃ ない か って 気 が する の 。

私 の 教える こと ぐらい 、 全部 、 知って る んじゃ ない か なあ 」

夕 里子 は 、 ちょっと 肯 いた 。

綾子 は 、 およそ 推理 と か 論理 的 能力 に かけて は 、 小学生 並み である が 、 その分 、 直感 は 鋭い 。

当人 が 、 全く それ を 自覚 して い ない 分 、 余計に そう な のである 。

しかし 、 それ が 正しい と する と 、 なぜ わざわざ こんな 所 まで 家庭 教師 を 連れて 来る 必要 が あった のだろう ?

しかも 、 こんなに 大勢 の 「 同行 客 」 を つけて 。

タダ で 全部 泊めよう と いう のだ から 、 相当な 出費 に なる はずだ が ……。

「 夕 里子 君 」

と 、 国 友 に 呼ば れて 、

「 え ?

── 何 か 言った ? と 、 夕 里子 は 、 我 に 返って 訊 いた 。

「 いや 、 その 顔 さ 」

「 あら 」

夕 里子 は 、 国 友 を にらんで 、「 この 顔 が 気 に 入り ませ ん の ?

「 そう じゃ ない よ 」

と 、 国 友 は 笑って 、「 ただ 、 そういう 表情 の とき は 危ない から さ 」

「 危ない 、 って ?

「 何 か に 好奇心 を 燃やして る 。

── 図星 だ ろ ? いつも 君 が 事件 に 首 を 突っ込む とき は 、 そういう 顔 を して る よ 」

「 だって ──」

夕 里子 は 、 隣 の 席 の 国 友 の 方 へ 、 低い 声 で 言った 。

「 どこ か 変 よ 。 そう 思わ ない ? 「 うん ……。

しかし 、 こういう 山 の 中 に ずっと 住んで れば 、 多少 、 ずれて 来る んじゃ ない か ? 「 それ だけ じゃ ない わ 。

ここ の ご 主人 に 会った ? 「 いい や 」

「 でしょ ?

おかしい わ よ 。 どうして 一 度 も 顔 を 出さ ない の ? 「 さあ ね 」

「 何 か ある んだ わ 。

── 私 、 そう 思う 」

夕 里子 は 、 スープ を きれいに 飲み干した 。

「 しかし ね ──」

「 なあ に ?

「 その スープ に 毒 が 入って たら 、 君 は イチコロ だ ぜ 」

「 意地悪 ね !

と 、 夕 里子 は 、 国 友 を つついて やった 。

「 や あ ねえ 、 イチャ つい ちゃ って 」

と 、 珠美 が 冷やかす 。

「 夜中 に こっそり 部屋 を 出て ったら 、 後 つけて やる 」

「 そんな こと し ませ ん よ 、 だ 」

「 そう ね 。

夕 里子 姉ちゃん 、 そんな 度胸 、 ない もん ね 」

「 言った わ ね !

「 でき っこ な いって 方 に 、 千 円 賭ける 」

「 よし なさい よ 」

と 、 綾子 が おっとり と 言った 。

「 男女 の 愛 は 、 神聖な もの よ 。 賭け の 対象 なんか に しちゃ いけない わ 」

「 シンセイ 、 です か 」

と 、 珠美 は 首 を 振って 、「 綾子 姉ちゃん は 、 生まれて 来る の が 百 年 遅かった 」

「── あら 、 電話 じゃ ない ?

と 、 夕 里子 が 言った 。

客 が 休む 広い リビングルーム の 方 から 、 電話 の 音 が する 。

「 出て みる わ 」

夕 里子 は 、 急いで ダイニングルーム を 出て 行った 。

電話 が 鳴って いる 。

── 石垣 園子 は 台所 に いる ので 、 聞こえ ない のだろう 。

「── はい 」

と 、 夕 里子 は 、 受話器 を 取った 。

「 もしもし ? 「── 夕 里子 ?

と 、 どこ か で 聞いた 声 。

「 何 だ 、 敦子 か 。

よく 分 った ね 、 ここ の 電話 番号 」

「 あの ドライブ ・ イン で 聞いた 」

と 、 敦子 が 言った 。

「 ねえ 、 そこ 、 泊れ ない かしら 、 私 たち ? 「 ええ ?

夕 里子 は 面食らった 。

「 でも ── 敦子 たち 、 民宿 に 泊って る んでしょ ? 「 それ が ね 、 ひどい 話 な の 」

敦子 が 、 珍しく カッカ 来て いる らしい 。

「 ゆうべ 行ったら 、 私 たち の 予約 、 キャンセル に なって ん の よ 」

「 キャンセル ?

どうして ?

「 知ら ない わ 。

ともかく 、 向 う の 話 じゃ 、 誰 か が 電話 を かけて 来て 、 予約 を 取り消した 、 って いう の 」

「 変 ね 。

誰 も そんな こと ──」

「 して ない の !

それなのに 、 さ 」

「 で 、 どうした の ?

「 そこ 、 もう 他の 予約 を 入れちゃ った って わけな の 。

部屋 は 空いて い ない し 」

「 じゃ 、 ゆうべ は ?

「 うん 、 近く の 民宿 に 訊 いて くれて ね 、 三 つ に 分 れて 、 辛うじて 一 泊 だけ 。

── それ も 、 今日 から は どこ も 一杯 だって 、 追 ん 出さ れて ね 」

「 まあ 、 災難 ね 」

「 で 、 そこ 、 もし まだ 部屋 が あったら 、 と 思って ──」

「 そう ね ……。

でも ──」

「 訊 くだけ 訊 いて みて よ 。

帰っちゃ った 子 も いる の 。 他の 車 に 乗せて もらって 」

「 じゃ 、 今 は 何 人 ?

「 水谷 先生 と 、 吾郎 君 と 川西 みどり さん 」

「 じゃ 、 敦子 入れて 四 人 ね 」

「 そう 。

男 同士 、 女 同士 、 二 部屋 あれば いい の 。 料金 は 高くて も いい って 、 水谷 先生 が 言って くれて る から 」

「 そう 」

夕 里子 は 、 しかし 、 何となく 気 が 進ま なかった 。

この 山荘 に 、 敦子 たち が 来る 。

── 心強い に は 違いない のだ が ……。

帰った 方 が いい 。

── そう 言おう か 、 と 思った 。

「 どうかした の ?

声 が して 、 ハッと 振り向く と 、 石垣 園子 が 立って いる 。

「 あ 、 あの ──」

仕方ない 。

夕 里子 は 、 事情 を 説明 した 。

「 まあ 、 それ は 気の毒 ね 」

と 、 園子 は 言って 、 エプロン で 手 を 拭った 。

「 でも ── 突然じゃ 、 ご 迷惑 だ し 、 東京 へ 帰って も いい と 言って ます から ──」

「 こちら は 構わ ない の よ 。

こんな とき に は 、 利用 して いただいて 」

「 でも ──」

「 私 が 代り ま しょ 」

園子 が 受話器 を 取った 。

「── もしもし ? ── ええ 、 この 山荘 の ── そう 、 あの とき お 会い した わ ね 。 事情 は うかがった わ 。 こちら は 構い ませ ん から 、 どうぞ いら して 」

夕 里子 は 、 向 うで 大喜び して いる 敦子 の 声 を 、 かすかに 聞いて 、 立って いた 。

「 道 を 説明 し ます から 、 運転 なさる 方 に 、 代って 下さい な 。

── あ 、 先生 で いらっしゃい ます ね ? ── ええ 、 こちら は 一向に 。 で 、 今 、 どの 辺 に おい で です の ? 夕 里子 は 、 肩 を すくめた 。

まあ 、 敦子 も 一緒 と いう の は 、 夕 里子 に とって も 嬉しい こと だった し 、 それ に 水谷 先生 も 来る 。

もし 、 この 山荘 に 、 何 か 妙な こと が あって も 、 仲間 が ふえれば 安心で は ある 。

「── はい 、 それ じゃ 、 お 待ち して い ます 。

雪道 です から 、 お 気 を 付けて 」

園子 が 電話 を 切った 。

「── 一 時間 ほど の 所 に いる ようだ わ 。 あったかい 食事 を 用意 して おき ま しょ 」

「 すみません 、 突然 こんな こと に なって 」

「 いいえ !

── さ 、 お 料理 が 出て い ます から 、 冷め ない 内 に 召し上って 」

園子 は 、 あくまで 愛想 が いい 。

夕 里子 は 、 ダイニングルーム へ 戻った 。

夕食 は 文句なしに おいしく 、 夕 里子 も 珍しく 、 お腹 が 苦しく なる くらい 食べて しまって いた 。

デザート の ケーキ も 二 つ !

── これ が また おいしい のである 。

「── 太っちゃ う 、 これ じゃ 」

と 、 珠美 も 悲鳴 を 上げて いる 。

「 本当 ね 」

綾子 も 、 夕 里子 や 珠美 に 劣ら ず 食べて いる はずだ が 、 割合 に 平然と して いた 。

「 お 姉ちゃん 、 大 食い だ ね 」

と 、 夕 里子 が 言う と 、

「 そう ?

でも 、 出さ れた のに 、 食べ なきゃ 悪い じゃ ない 」

「 リビング に 行こう 」

と 、 珠美 が 立ち上って 、「 綾子 姉ちゃん 、 行 こ 」

「 後 で 」

「 どうして ?

まだ 食べる の ? 「 まさか 。

── 苦しくて 動け ない の よ 」

こういう こと を 、 平然 と 言う の が 、 綾子 らしい ところ だ 。

「── これ で タダ !

いい の か なあ 」

珠美 も 珍しく 気 が 咎めて いる 様子 。

「 私 、 裏 へ 出て みる 」

と 、 夕 里子 が 立ち上った 。

「 こんな 夜 に ?

「 うん 。

敦子 たち の 車 が 来れば 、 あの 道 に 見える でしょ 。 そろそろ 来る ころ だ し 」

「 物好き ね 」

「 人 の こと は 放っといて 」

夕 里子 は 、 厚い ジャンパー を はおって 、 裏 の 戸口 から 、 長靴 を はいて 、 外 へ 出た 。

── 寒い 。

さすが に 、 夜 に なる と 肌 が こわばって 来る 寒 さ である 。

しかし 、 雪 の 反射 で 、 辺り は 充分に 明るい 。

少し 歩いて 行く と 、 後ろ から 、

「 おい 、 待てよ 」

と 国 友 が 追って 来る 。

「 あら 、 お 年寄 に は 、 寒 さ が 応える んじゃ ない ?

「 からかう な よ 。

── 目 が 覚める な 」

「 うん 」

夕 里子 は 、 ふと 目 を 空 へ 向けて 、「 見て !

と 、 声 を 上げた 。

星空 、 だった 。

でも ── これ 、 本当に 全部 星 な の ?

夕 里子 は 、 こんなに 星 が ひしめき 合って 、 今にも 降って 来 そうな 空 を 見た の は 初めて だった 。

「── 凄い !

我ながら 、 情 ない と は 思う けど 、 夕 里子 は 、 そんな 感想 しか 述べ られ ない のである 。

「 本当だ 。

── 凄い や 」

国 友 も 同様 らしい 。

二 人 は 、 何となく 顔 を 見合わせ 、 そして 笑った 。

「 どうも 、 僕 ら は 詩人 に なれ そうに ない ね 」

「 でも 、 恋 は できる わ 」

「 ドキッ と する こと を 言って くれる ね 」

「 あら 、 いけなかった ?

「 いい や 」

国 友 は 、 夕 里子 の 肩 を 抱いて 、「 もう 少し 先 に 行こう 」

「 うん ……」

二 人 は 、 山荘 を 背 に 、 ゆっくり と 歩いて 行った 。

「── 寒く ない か ?

「 大丈夫 」

「 まぶしく ない ?

「 夜 よ 」

「 でも ── 星 の 光 で さ 」

「 そう ね ……。

ちょっと 目 を つぶって いよう か な 」

「 そう したら ?

と 、 昼間 の つづき 。

夕 里子 は 、 軽く 目 を 閉じて 、 国 友 が キス して くれる の を 待って いた 。

まさか 、 今度 は 雪 玉 が 飛んで 来 ない だろう ……。

国 友 が 夕 里子 を 抱き 寄せて 、 さて ──。

「 動か ないで 」

と 、 声 が した 。

「 え ?

振り向く と 、 また 秀 哉 である 。

「 動いちゃ だめだ よ 」

「 何の こと ?

夕 里子 は 少々 ムッと して 、「 子供 は ね 、 こういう とこ に 来ちゃ いけない の 」

と 言って やった 。

「 いい から 、 こっち へ 来て 」

夕 里子 は 、 国 友 と 顔 を 見合わせた 。

「── ゆっくり 。

そっと 歩いて 」

仕方ない 。

── 国 友 と 夕 里子 は 、 秀 哉 の 方 へ と 歩いて 行った 。

「 何 な の よ 、 一体 ?

と 、 夕 里子 が 言った とき 、 ドドッ 、 と いう 音 が した 。

振り向いて 、 夕 里子 は 目 を みはった 。

たった今 、 国 友 と ラブ シーン を 演じよう と して いた 所 が 、 ポッカリ と なくなって いる のだ !

「── あそこ 、 崖 の 向 うだった んだ よ 」

と 、 秀 哉 が 言った 。

「 気 を 付け ない と 、 夜 は 、 距離 の 感じ が 狂う から 」

秀 哉 は 、 クルッ と 背 を 向け 、 山荘 へ と 戻って 行った 。

── 夕 里子 は 、 今に なって 青ざめる と 、

「 国 友 さん ……」

「 いや ── すま ん 。

僕 の 不注意だ ……」

二 人 は 、 思わず しっかり と 抱き合って いた 。

「── あの 灯 」

と 、 夕 里子 は 、 ハッと した 。

遠く に 、 車 の ライト が 見える 。

あの 山腹 の 道 を 、 ゆっくり と 進んで 来る のだ 。

「 や あ 、 あれ が 例の ──」

「 敦子 たち だ わ 、 きっと 」

と 、 夕 里子 は 言った 。

「 水谷 先生 の 運転 で 大丈夫 か な 、 と 思って た んだ けど 」

「 そんなに 下手な の かい ?

「 そう じゃ ない けど ね 」

と 、 夕 里子 は 言った 。

「 確か 、 免許 取って まだ 三 ヵ 月 よ 」

「 それ で 雪 の 山道 ?

「 敦子 たち は 知ら ない の 。

内緒 よ 」

「 知ら ぬ が 仏 、 だ な 」

と 、 国 友 は 首 を 振った 。

「 でも 、 水谷 先生 、 運動 神経 抜群だ し ね 」

「 二 枚 目 で スポーツマン で 詩人 、 だ ろ 」

「 妬 いて る ?

「 まあ ね 」

「 面白い 」

夕 里子 は 、 やっと ショック から 立ち直って 、 国 友 の 腕 を つかんだ 。

「 水谷 先生 、 敦子 に 気 が ある の よ ね 」

「── 片 瀬 敦子 君 ?

「 そう 。

やっぱり 美人 じゃ ない 」

「 そりゃ そう だ けど ……。

先生 と 女子 高 生 か 。 危険だ ね 」

「 刑事 と 女子 高 生 は ?

と 、 夕 里子 が 訊 いて 、 笑った ── その とき だった 。

「 おい !

と 、 国 友 が 緊迫 した 声 を 出した 。

夕 里子 は 、 信じ られ ない 思い で 、 見て いた 。

車 の ライト が 、 急に 向き を 変えて 、 雪 の 斜面 に 向 って 、 滑る ように ──。

「── 落ちた !

国 友 が 叫んだ 。

ライト が 、 二 転 、 三 転して 、 消えた 。

── 山腹 に は 、 もう 何も 見え ない 。

「── 敦子 !

「 助け なきゃ !

行こう ! 国 友 と 夕 里子 は 、 山荘 に 向 って 駆け 出して 行った 。


三 姉妹 探偵 団 4 Chapter 06 みっ|しまい|たんてい|だん|chapter

6  消えた 娘 きえた|むすめ 6 The disappeared daughter

夕 里子 に とって は 、 朝 昼 兼用 の 食事 の 後 、 割合 すぐ に 夕食 、 と いう 時間 に なって しまった 。 ゆう|さとご||||あさ|ひる|けんよう||しょくじ||あと|わりあい|||ゆうしょく|||じかん||| For foster children, it was time to have dinner soon after the morning and lunch meals.

しかし 、 この 爽 や か に 、 冷え 切った 空気 の 中 で 呼吸 して いる だけ でも 、 お腹 は 空く の かも しれ ない 。 ||そう||||ひえ|きった|くうき||なか||こきゅう|||||おなか||あく|||| However, just breathing in this refreshing, chilled air may make you hungry.

夜 、 七 時 の 夕食 の 席 に ついた とき に は 、 夕 里子 の お腹 が グーグー 鳴って いた のである 。 よ|なな|じ||ゆうしょく||せき||||||ゆう|さとご||おなか|||なって|| At night, when I got to the supper seat at 7 o'clock, the foster child's stomach was rumbling.

「── お 手伝い し ましょう か 」 |てつだい|||

と 、 夕 里子 は 、 忙しく スープ を 運んで 来る 園子 に 言った が 、 |ゆう|さとご||いそがしく|すーぷ||はこんで|くる|そのこ||いった| Yuriko said to Sonoko, who is busy carrying soup.

「 いい の よ 。 "It's good.

作って る の は 主人 な んです もの 。 つくって||||あるじ||| It's the master who makes it. 私 は 運ぶ だけ 」 わたくし||はこぶ| I just carry

「 でも ──」 "But ──"

「 座って いて 。 すわって| "Sit down.

主人 は 、 お 客 さん に 手伝わ せたり したら 、 怒る の よ 」 あるじ|||きゃく|||てつだわ|||いかる|| My husband gets angry if he helps his customers. "

「 そう です か 」

夕 里子 は 、 言わ れた 通り 、 席 に 座った 。 ゆう|さとご||いわ||とおり|せき||すわった Yuriko sat down, as she was told.

「── さあ 、 どうぞ 熱い 内 に 召し上って ね 」 ||あつい|うち||めしあがって| "── Come on, please enjoy it while it's hot."

と 言って 、 園子 は 台所 の 方 へ 戻ろう と する 。 |いって|そのこ||だいどころ||かた||もどろう|| With that said, Sonoko tries to return to the kitchen.

「 あの ──」 "That ──"

と 、 綾子 が 言った 。 |あやこ||いった Said Ayako.

「 何 か ? なん| "What?

「 いえ ── 秀 哉 君 は 、 一緒に 食べ ない んでしょう か ? |しゅう|や|きみ||いっしょに|たべ||| "No ── Hideya, don't you eat together?

「 あの 子 は いい の 。 |こ||| "I like that child.

── ちょっと 体 を こわした こと が あって 、 色々 と 、 食べ られ ない もの も ある から 」 |からだ||||||いろいろ||たべ|||||| ──I've been a little sick, and there are a lot of things I can't eat. "

「 そう です か 」 " Is that so "

「 じゃ 、 また 料理 が できたら 、 運び ます から ね 」 ||りょうり|||はこび||| "Then, if I can cook again, I'll carry it."

園子 が 出て 行く と 、 夕 里子 たち 姉妹 と 国 友 の 四 人 が テーブル に 残る 。 そのこ||でて|いく||ゆう|さとご||しまい||くに|とも||よっ|じん||てーぶる||のこる When Sonoko leaves, four foster children, sisters and national friends, remain at the table.

「 食べ よう っと 」 たべ|| "Let's eat"

珠美 は 、 さっさと スープ を 飲み 始めた 。 たまみ|||すーぷ||のみ|はじめた Tamami quickly started drinking soup.

「── うん ! 旨 い ! むね| うち の スープ と 大分 違う よ 」 ||すーぷ||だいぶ|ちがう|

「 悪かった わ ね 」 わるかった||

と 、 夕 里子 は にらんで やった 。 |ゆう|さとご|||

しかし 、 まあ 、 飲んで みる と 、 珠美 の 言う こと も 分 る だけ の 味 で は ある 。 ||のんで|||たまみ||いう|||ぶん||||あじ|||

「── お 姉ちゃん 」 |ねえちゃん

と 、 夕 里子 は 綾子 の 方 へ 、「 どう ? |ゆう|さとご||あやこ||かた||

家庭 教師 の 方 は 、 うまく やって る ? かてい|きょうし||かた|||| 「 うん 」

綾子 は 肯 いて 、「 とっても 分 り やすい 、 って 、 ほめて くれた わ 」 あやこ||こう|||ぶん||||||

「 へえ 、 大した もん だ 」 |たいした||

と 、 珠美 が 冷やかした 。 |たまみ||ひやかした

「 ただ ね ……」

と 、 綾子 が 複雑な 顔 を する 。 |あやこ||ふくざつな|かお||

「 何 か あった の ? なん|||

「 そう じゃ ない けど ……。

ともかく 、 飲み こみ の 早い 子 な の 。 |のみ|||はやい|こ|| 一 回 説明 した だけ で 、 何でも 分 っちゃ う の よ 」 ひと|かい|せつめい||||なんでも|ぶん||||

「 頭 よ さ そうだ もん ね 」 あたま|||そう だ||

「 でも ねえ ……。

何だか 、 手応え が なくて 」 なんだか|てごたえ||

「 と いう と ?

「 何もかも 、 ちゃんと 分 って る んじゃ ない か って 気 が する の 。 なにもかも||ぶん|||||||き|||

私 の 教える こと ぐらい 、 全部 、 知って る んじゃ ない か なあ 」 わたくし||おしえる|||ぜんぶ|しって|||||

夕 里子 は 、 ちょっと 肯 いた 。 ゆう|さとご|||こう|

綾子 は 、 およそ 推理 と か 論理 的 能力 に かけて は 、 小学生 並み である が 、 その分 、 直感 は 鋭い 。 あやこ|||すいり|||ろんり|てき|のうりょく||||しょうがくせい|なみ|||そのぶん|ちょっかん||するどい

当人 が 、 全く それ を 自覚 して い ない 分 、 余計に そう な のである 。 とうにん||まったく|||じかく||||ぶん|よけいに|||

しかし 、 それ が 正しい と する と 、 なぜ わざわざ こんな 所 まで 家庭 教師 を 連れて 来る 必要 が あった のだろう ? |||ただしい|||||||しょ||かてい|きょうし||つれて|くる|ひつよう||| But, if that is correct, why did you have to bother bringing a tutor to such a place?

しかも 、 こんなに 大勢 の 「 同行 客 」 を つけて 。 ||おおぜい||どうこう|きゃく||

タダ で 全部 泊めよう と いう のだ から 、 相当な 出費 に なる はずだ が ……。 ただ||ぜんぶ|とめよう|||||そうとうな|しゅっぴ||||

「 夕 里子 君 」 ゆう|さとご|きみ

と 、 国 友 に 呼ば れて 、 |くに|とも||よば|

「 え ?

── 何 か 言った ? なん||いった と 、 夕 里子 は 、 我 に 返って 訊 いた 。 |ゆう|さとご||われ||かえって|じん|

「 いや 、 その 顔 さ 」 ||かお|

「 あら 」

夕 里子 は 、 国 友 を にらんで 、「 この 顔 が 気 に 入り ませ ん の ? ゆう|さとご||くに|とも||||かお||き||はいり|||

「 そう じゃ ない よ 」

と 、 国 友 は 笑って 、「 ただ 、 そういう 表情 の とき は 危ない から さ 」 |くに|とも||わらって|||ひょうじょう||||あぶない||

「 危ない 、 って ? あぶない|

「 何 か に 好奇心 を 燃やして る 。 なん|||こうきしん||もやして|

── 図星 だ ろ ? ずぼし|| いつも 君 が 事件 に 首 を 突っ込む とき は 、 そういう 顔 を して る よ 」 |きみ||じけん||くび||つっこむ||||かお||||

「 だって ──」

夕 里子 は 、 隣 の 席 の 国 友 の 方 へ 、 低い 声 で 言った 。 ゆう|さとご||となり||せき||くに|とも||かた||ひくい|こえ||いった

「 どこ か 変 よ 。 ||へん| そう 思わ ない ? |おもわ| 「 うん ……。

しかし 、 こういう 山 の 中 に ずっと 住んで れば 、 多少 、 ずれて 来る んじゃ ない か ? ||やま||なか|||すんで||たしょう||くる||| 「 それ だけ じゃ ない わ 。

ここ の ご 主人 に 会った ? |||あるじ||あった 「 いい や 」

「 でしょ ?

おかしい わ よ 。 どうして 一 度 も 顔 を 出さ ない の ? |ひと|たび||かお||ださ|| 「 さあ ね 」

「 何 か ある んだ わ 。 なん||||

── 私 、 そう 思う 」 わたくし||おもう

夕 里子 は 、 スープ を きれいに 飲み干した 。 ゆう|さとご||すーぷ|||のみほした

「 しかし ね ──」

「 なあ に ?

「 その スープ に 毒 が 入って たら 、 君 は イチコロ だ ぜ 」 |すーぷ||どく||はいって||きみ||||

「 意地悪 ね ! いじわる|

と 、 夕 里子 は 、 国 友 を つついて やった 。 |ゆう|さとご||くに|とも|||

「 や あ ねえ 、 イチャ つい ちゃ って 」

と 、 珠美 が 冷やかす 。 |たまみ||ひやかす

「 夜中 に こっそり 部屋 を 出て ったら 、 後 つけて やる 」 よなか|||へや||でて||あと||

「 そんな こと し ませ ん よ 、 だ 」

「 そう ね 。

夕 里子 姉ちゃん 、 そんな 度胸 、 ない もん ね 」 ゆう|さとご|ねえちゃん||どきょう|||

「 言った わ ね ! いった||

「 でき っこ な いって 方 に 、 千 円 賭ける 」 ||||かた||せん|えん|かける

「 よし なさい よ 」

と 、 綾子 が おっとり と 言った 。 |あやこ||||いった

「 男女 の 愛 は 、 神聖な もの よ 。 だんじょ||あい||しんせいな|| 賭け の 対象 なんか に しちゃ いけない わ 」 かけ||たいしょう|||||

「 シンセイ 、 です か 」

と 、 珠美 は 首 を 振って 、「 綾子 姉ちゃん は 、 生まれて 来る の が 百 年 遅かった 」 |たまみ||くび||ふって|あやこ|ねえちゃん||うまれて|くる|||ひゃく|とし|おそかった , Ms. Ami waved his head, "Ayako's sister was born a hundred years late."

「── あら 、 電話 じゃ ない ? |でんわ||

と 、 夕 里子 が 言った 。 |ゆう|さとご||いった

客 が 休む 広い リビングルーム の 方 から 、 電話 の 音 が する 。 きゃく||やすむ|ひろい|||かた||でんわ||おと||

「 出て みる わ 」 でて||

夕 里子 は 、 急いで ダイニングルーム を 出て 行った 。 ゆう|さとご||いそいで|||でて|おこなった

電話 が 鳴って いる 。 でんわ||なって|

── 石垣 園子 は 台所 に いる ので 、 聞こえ ない のだろう 。 いしがき|そのこ||だいどころ||||きこえ||

「── はい 」

と 、 夕 里子 は 、 受話器 を 取った 。 |ゆう|さとご||じゅわき||とった

「 もしもし ? 「── 夕 里子 ? ゆう|さとご

と 、 どこ か で 聞いた 声 。 ||||きいた|こえ

「 何 だ 、 敦子 か 。 なん||あつこ|

よく 分 った ね 、 ここ の 電話 番号 」 |ぶん|||||でんわ|ばんごう

「 あの ドライブ ・ イン で 聞いた 」 |どらいぶ|いん||きいた

と 、 敦子 が 言った 。 |あつこ||いった

「 ねえ 、 そこ 、 泊れ ない かしら 、 私 たち ? ||とまれ|||わたくし| 「 ええ ?

夕 里子 は 面食らった 。 ゆう|さとご||めんくらった

「 でも ── 敦子 たち 、 民宿 に 泊って る んでしょ ? |あつこ||みんしゅく||とまって|| 「 それ が ね 、 ひどい 話 な の 」 ||||はなし||

敦子 が 、 珍しく カッカ 来て いる らしい 。 あつこ||めずらしく|かっか|きて||

「 ゆうべ 行ったら 、 私 たち の 予約 、 キャンセル に なって ん の よ 」 |おこなったら|わたくし|||よやく|きゃんせる|||||

「 キャンセル ? きゃんせる

どうして ?

「 知ら ない わ 。 しら||

ともかく 、 向 う の 話 じゃ 、 誰 か が 電話 を かけて 来て 、 予約 を 取り消した 、 って いう の 」 |むかい|||はなし||だれ|||でんわ|||きて|よやく||とりけした|||

「 変 ね 。 へん|

誰 も そんな こと ──」 だれ|||

「 して ない の !

それなのに 、 さ 」

「 で 、 どうした の ?

「 そこ 、 もう 他の 予約 を 入れちゃ った って わけな の 。 ||たの|よやく||いれちゃ||||

部屋 は 空いて い ない し 」 へや||あいて|||

「 じゃ 、 ゆうべ は ?

「 うん 、 近く の 民宿 に 訊 いて くれて ね 、 三 つ に 分 れて 、 辛うじて 一 泊 だけ 。 |ちかく||みんしゅく||じん||||みっ|||ぶん||かろうじて|ひと|はく|

── それ も 、 今日 から は どこ も 一杯 だって 、 追 ん 出さ れて ね 」 ||きょう|||||いっぱい||つい||ださ|| ─ ─ It's been crowded everywhere from today as well. "

「 まあ 、 災難 ね 」 |さいなん|

「 で 、 そこ 、 もし まだ 部屋 が あったら 、 と 思って ──」 ||||へや||||おもって

「 そう ね ……。

でも ──」

「 訊 くだけ 訊 いて みて よ 。 じん||じん|||

帰っちゃ った 子 も いる の 。 かえっちゃ||こ||| 他の 車 に 乗せて もらって 」 たの|くるま||のせて|

「 じゃ 、 今 は 何 人 ? |いま||なん|じん

「 水谷 先生 と 、 吾郎 君 と 川西 みどり さん 」 みずたに|せんせい||われろう|きみ||かわにし||

「 じゃ 、 敦子 入れて 四 人 ね 」 |あつこ|いれて|よっ|じん|

「 そう 。

男 同士 、 女 同士 、 二 部屋 あれば いい の 。 おとこ|どうし|おんな|どうし|ふた|へや||| 料金 は 高くて も いい って 、 水谷 先生 が 言って くれて る から 」 りょうきん||たかくて||||みずたに|せんせい||いって|||

「 そう 」

夕 里子 は 、 しかし 、 何となく 気 が 進ま なかった 。 ゆう|さとご|||なんとなく|き||すすま| Yuriko, however, somewhat disappointed.

この 山荘 に 、 敦子 たち が 来る 。 |さんそう||あつこ|||くる

── 心強い に は 違いない のだ が ……。 こころづよい|||ちがいない||

帰った 方 が いい 。 かえった|かた||

── そう 言おう か 、 と 思った 。 |いおう|||おもった

「 どうかした の ?

声 が して 、 ハッと 振り向く と 、 石垣 園子 が 立って いる 。 こえ|||はっと|ふりむく||いしがき|そのこ||たって|

「 あ 、 あの ──」

仕方ない 。 しかたない

夕 里子 は 、 事情 を 説明 した 。 ゆう|さとご||じじょう||せつめい|

「 まあ 、 それ は 気の毒 ね 」 |||きのどく|

と 、 園子 は 言って 、 エプロン で 手 を 拭った 。 |そのこ||いって|えぷろん||て||ぬぐった

「 でも ── 突然じゃ 、 ご 迷惑 だ し 、 東京 へ 帰って も いい と 言って ます から ──」 |とつぜんじゃ||めいわく|||とうきょう||かえって||||いって||

「 こちら は 構わ ない の よ 。 ||かまわ|||

こんな とき に は 、 利用 して いただいて 」 ||||りよう||

「 でも ──」

「 私 が 代り ま しょ 」 わたくし||かわり||

園子 が 受話器 を 取った 。 そのこ||じゅわき||とった

「── もしもし ? ── ええ 、 この 山荘 の ── そう 、 あの とき お 会い した わ ね 。 ||さんそう||||||あい||| 事情 は うかがった わ 。 じじょう||| こちら は 構い ませ ん から 、 どうぞ いら して 」 ||かまい||||||

夕 里子 は 、 向 うで 大喜び して いる 敦子 の 声 を 、 かすかに 聞いて 、 立って いた 。 ゆう|さとご||むかい||おおよろこび|||あつこ||こえ|||きいて|たって|

「 道 を 説明 し ます から 、 運転 なさる 方 に 、 代って 下さい な 。 どう||せつめい||||うんてん||かた||かわって|ください|

── あ 、 先生 で いらっしゃい ます ね ? |せんせい|||| ── ええ 、 こちら は 一向に 。 |||いっこうに で 、 今 、 どの 辺 に おい で です の ? |いま||ほとり||||| 夕 里子 は 、 肩 を すくめた 。 ゆう|さとご||かた||

まあ 、 敦子 も 一緒 と いう の は 、 夕 里子 に とって も 嬉しい こと だった し 、 それ に 水谷 先生 も 来る 。 |あつこ||いっしょ|||||ゆう|さとご||||うれしい||||||みずたに|せんせい||くる

もし 、 この 山荘 に 、 何 か 妙な こと が あって も 、 仲間 が ふえれば 安心で は ある 。 ||さんそう||なん||みょうな|||||なかま|||あんしんで||

「── はい 、 それ じゃ 、 お 待ち して い ます 。 ||||まち|||

雪道 です から 、 お 気 を 付けて 」 ゆきみち||||き||つけて

園子 が 電話 を 切った 。 そのこ||でんわ||きった

「── 一 時間 ほど の 所 に いる ようだ わ 。 ひと|じかん|||しょ|||| あったかい 食事 を 用意 して おき ま しょ 」 |しょくじ||ようい||||

「 すみません 、 突然 こんな こと に なって 」 |とつぜん||||

「 いいえ !

── さ 、 お 料理 が 出て い ます から 、 冷め ない 内 に 召し上って 」 ||りょうり||でて||||さめ||うち||めしあがって

園子 は 、 あくまで 愛想 が いい 。 そのこ|||あいそ||

夕 里子 は 、 ダイニングルーム へ 戻った 。 ゆう|さとご||||もどった

夕食 は 文句なしに おいしく 、 夕 里子 も 珍しく 、 お腹 が 苦しく なる くらい 食べて しまって いた 。 ゆうしょく||もんくなしに||ゆう|さとご||めずらしく|おなか||くるしく|||たべて|| Dinner was delicious without any complaints, evening evening Riko was eaten enough to make my stomach painful.

デザート の ケーキ も 二 つ ! でざーと||けーき||ふた|

── これ が また おいしい のである 。

「── 太っちゃ う 、 これ じゃ 」 ふとっちゃ|||

と 、 珠美 も 悲鳴 を 上げて いる 。 |たまみ||ひめい||あげて|

「 本当 ね 」 ほんとう|

綾子 も 、 夕 里子 や 珠美 に 劣ら ず 食べて いる はずだ が 、 割合 に 平然と して いた 。 あやこ||ゆう|さとご||たまみ||おとら||たべて||||わりあい||へいぜんと||

「 お 姉ちゃん 、 大 食い だ ね 」 |ねえちゃん|だい|くい||

と 、 夕 里子 が 言う と 、 |ゆう|さとご||いう|

「 そう ?

でも 、 出さ れた のに 、 食べ なきゃ 悪い じゃ ない 」 |ださ|||たべ||わるい||

「 リビング に 行こう 」 りびんぐ||いこう

と 、 珠美 が 立ち上って 、「 綾子 姉ちゃん 、 行 こ 」 |たまみ||たちのぼって|あやこ|ねえちゃん|ぎょう|

「 後 で 」 あと|

「 どうして ?

まだ 食べる の ? |たべる| 「 まさか 。

── 苦しくて 動け ない の よ 」 くるしくて|うごけ|||

こういう こと を 、 平然 と 言う の が 、 綾子 らしい ところ だ 。 |||へいぜん||いう|||あやこ||| It is Ayako's point that is sort of like this kind of things.

「── これ で タダ ! ||ただ

いい の か なあ 」

珠美 も 珍しく 気 が 咎めて いる 様子 。 たまみ||めずらしく|き||とがめて||ようす

「 私 、 裏 へ 出て みる 」 わたくし|うら||でて|

と 、 夕 里子 が 立ち上った 。 |ゆう|さとご||たちのぼった

「 こんな 夜 に ? |よ|

「 うん 。

敦子 たち の 車 が 来れば 、 あの 道 に 見える でしょ 。 あつこ|||くるま||くれば||どう||みえる| そろそろ 来る ころ だ し 」 |くる|||

「 物好き ね 」 ものずき|

「 人 の こと は 放っといて 」 じん||||ほっといて

夕 里子 は 、 厚い ジャンパー を はおって 、 裏 の 戸口 から 、 長靴 を はいて 、 外 へ 出た 。 ゆう|さとご||あつい|じゃんぱー|||うら||とぐち||ながぐつ|||がい||でた

── 寒い 。 さむい

さすが に 、 夜 に なる と 肌 が こわばって 来る 寒 さ である 。 ||よ||||はだ|||くる|さむ||

しかし 、 雪 の 反射 で 、 辺り は 充分に 明るい 。 |ゆき||はんしゃ||あたり||じゅうぶんに|あかるい

少し 歩いて 行く と 、 後ろ から 、 すこし|あるいて|いく||うしろ|

「 おい 、 待てよ 」 |まてよ

と 国 友 が 追って 来る 。 |くに|とも||おって|くる

「 あら 、 お 年寄 に は 、 寒 さ が 応える んじゃ ない ? ||としより|||さむ|||こたえる||

「 からかう な よ 。

── 目 が 覚める な 」 め||さめる|

「 うん 」

夕 里子 は 、 ふと 目 を 空 へ 向けて 、「 見て ! ゆう|さとご|||め||から||むけて|みて

と 、 声 を 上げた 。 |こえ||あげた

星空 、 だった 。 ほしぞら|

でも ── これ 、 本当に 全部 星 な の ? ||ほんとうに|ぜんぶ|ほし||

夕 里子 は 、 こんなに 星 が ひしめき 合って 、 今にも 降って 来 そうな 空 を 見た の は 初めて だった 。 ゆう|さとご|||ほし|||あって|いまにも|ふって|らい|そう な|から||みた|||はじめて|

「── 凄い ! すごい

我ながら 、 情 ない と は 思う けど 、 夕 里子 は 、 そんな 感想 しか 述べ られ ない のである 。 われながら|じょう||||おもう||ゆう|さとご|||かんそう||のべ|||

「 本当だ 。 ほんとうだ

── 凄い や 」 すごい|

国 友 も 同様 らしい 。 くに|とも||どうよう|

二 人 は 、 何となく 顔 を 見合わせ 、 そして 笑った 。 ふた|じん||なんとなく|かお||みあわせ||わらった

「 どうも 、 僕 ら は 詩人 に なれ そうに ない ね 」 |ぼく|||しじん|||そう に||

「 でも 、 恋 は できる わ 」 |こい|||

「 ドキッ と する こと を 言って くれる ね 」 |||||いって||

「 あら 、 いけなかった ?

「 いい や 」

国 友 は 、 夕 里子 の 肩 を 抱いて 、「 もう 少し 先 に 行こう 」 くに|とも||ゆう|さとご||かた||いだいて||すこし|さき||いこう The national friend hugged Yuriko's shoulder and said, "Let's go ahead ahead"

「 うん ……」

二 人 は 、 山荘 を 背 に 、 ゆっくり と 歩いて 行った 。 ふた|じん||さんそう||せ||||あるいて|おこなった

「── 寒く ない か ? さむく||

「 大丈夫 」 だいじょうぶ

「 まぶしく ない ?

「 夜 よ 」 よ|

「 でも ── 星 の 光 で さ 」 |ほし||ひかり||

「 そう ね ……。

ちょっと 目 を つぶって いよう か な 」 |め|||||

「 そう したら ?

と 、 昼間 の つづき 。 |ひるま||

夕 里子 は 、 軽く 目 を 閉じて 、 国 友 が キス して くれる の を 待って いた 。 ゆう|さとご||かるく|め||とじて|くに|とも||きす|||||まって|

まさか 、 今度 は 雪 玉 が 飛んで 来 ない だろう ……。 |こんど||ゆき|たま||とんで|らい||

国 友 が 夕 里子 を 抱き 寄せて 、 さて ──。 くに|とも||ゆう|さとご||いだき|よせて|

「 動か ないで 」 うごか|

と 、 声 が した 。 |こえ||

「 え ?

振り向く と 、 また 秀 哉 である 。 ふりむく|||しゅう|や|

「 動いちゃ だめだ よ 」 うごいちゃ||

「 何の こと ? なんの|

夕 里子 は 少々 ムッと して 、「 子供 は ね 、 こういう とこ に 来ちゃ いけない の 」 ゆう|さとご||しょうしょう|むっと||こども||||||きちゃ||

と 言って やった 。 |いって|

「 いい から 、 こっち へ 来て 」 ||||きて

夕 里子 は 、 国 友 と 顔 を 見合わせた 。 ゆう|さとご||くに|とも||かお||みあわせた

「── ゆっくり 。

そっと 歩いて 」 |あるいて

仕方ない 。 しかたない

── 国 友 と 夕 里子 は 、 秀 哉 の 方 へ と 歩いて 行った 。 くに|とも||ゆう|さとご||しゅう|や||かた|||あるいて|おこなった

「 何 な の よ 、 一体 ? なん||||いったい

と 、 夕 里子 が 言った とき 、 ドドッ 、 と いう 音 が した 。 |ゆう|さとご||いった|||||おと||

振り向いて 、 夕 里子 は 目 を みはった 。 ふりむいて|ゆう|さとご||め||

たった今 、 国 友 と ラブ シーン を 演じよう と して いた 所 が 、 ポッカリ と なくなって いる のだ ! たったいま|くに|とも||らぶ|しーん||えんじよう||||しょ||ぽっかり||||

「── あそこ 、 崖 の 向 うだった んだ よ 」 |がけ||むかい|||

と 、 秀 哉 が 言った 。 |しゅう|や||いった

「 気 を 付け ない と 、 夜 は 、 距離 の 感じ が 狂う から 」 き||つけ|||よ||きょり||かんじ||くるう|

秀 哉 は 、 クルッ と 背 を 向け 、 山荘 へ と 戻って 行った 。 しゅう|や||||せ||むけ|さんそう|||もどって|おこなった

── 夕 里子 は 、 今に なって 青ざめる と 、 ゆう|さとご||いまに||あおざめる|

「 国 友 さん ……」 くに|とも|

「 いや ── すま ん 。

僕 の 不注意だ ……」 ぼく||ふちゅういだ

二 人 は 、 思わず しっかり と 抱き合って いた 。 ふた|じん||おもわず|||だきあって|

「── あの 灯 」 |とう

と 、 夕 里子 は 、 ハッと した 。 |ゆう|さとご||はっと|

遠く に 、 車 の ライト が 見える 。 とおく||くるま||らいと||みえる

あの 山腹 の 道 を 、 ゆっくり と 進んで 来る のだ 。 |さんぷく||どう||||すすんで|くる|

「 や あ 、 あれ が 例の ──」 ||||れいの

「 敦子 たち だ わ 、 きっと 」 あつこ||||

と 、 夕 里子 は 言った 。 |ゆう|さとご||いった

「 水谷 先生 の 運転 で 大丈夫 か な 、 と 思って た んだ けど 」 みずたに|せんせい||うんてん||だいじょうぶ||||おもって|||

「 そんなに 下手な の かい ? |へたな||

「 そう じゃ ない けど ね 」

と 、 夕 里子 は 言った 。 |ゆう|さとご||いった

「 確か 、 免許 取って まだ 三 ヵ 月 よ 」 たしか|めんきょ|とって||みっ||つき|

「 それ で 雪 の 山道 ? ||ゆき||やまみち

「 敦子 たち は 知ら ない の 。 あつこ|||しら||

内緒 よ 」 ないしょ|

「 知ら ぬ が 仏 、 だ な 」 しら|||ふつ||

と 、 国 友 は 首 を 振った 。 |くに|とも||くび||ふった

「 でも 、 水谷 先生 、 運動 神経 抜群だ し ね 」 |みずたに|せんせい|うんどう|しんけい|ばつぐんだ||

「 二 枚 目 で スポーツマン で 詩人 、 だ ろ 」 ふた|まい|め||すぽーつまん||しじん||

「 妬 いて る ? ねた||

「 まあ ね 」

「 面白い 」 おもしろい

夕 里子 は 、 やっと ショック から 立ち直って 、 国 友 の 腕 を つかんだ 。 ゆう|さとご|||しょっく||たちなおって|くに|とも||うで||

「 水谷 先生 、 敦子 に 気 が ある の よ ね 」 みずたに|せんせい|あつこ||き|||||

「── 片 瀬 敦子 君 ? かた|せ|あつこ|きみ

「 そう 。

やっぱり 美人 じゃ ない 」 |びじん||

「 そりゃ そう だ けど ……。

先生 と 女子 高 生 か 。 せんせい||じょし|たか|せい| 危険だ ね 」 きけんだ|

「 刑事 と 女子 高 生 は ? けいじ||じょし|たか|せい|

と 、 夕 里子 が 訊 いて 、 笑った ── その とき だった 。 |ゆう|さとご||じん||わらった|||

「 おい !

と 、 国 友 が 緊迫 した 声 を 出した 。 |くに|とも||きんぱく||こえ||だした

夕 里子 は 、 信じ られ ない 思い で 、 見て いた 。 ゆう|さとご||しんじ|||おもい||みて|

車 の ライト が 、 急に 向き を 変えて 、 雪 の 斜面 に 向 って 、 滑る ように ──。 くるま||らいと||きゅうに|むき||かえて|ゆき||しゃめん||むかい||すべる|

「── 落ちた ! おちた

国 友 が 叫んだ 。 くに|とも||さけんだ

ライト が 、 二 転 、 三 転して 、 消えた 。 らいと||ふた|てん|みっ|こかして|きえた

── 山腹 に は 、 もう 何も 見え ない 。 さんぷく||||なにも|みえ|

「── 敦子 ! あつこ

「 助け なきゃ ! たすけ|

行こう ! いこう 国 友 と 夕 里子 は 、 山荘 に 向 って 駆け 出して 行った 。 くに|とも||ゆう|さとご||さんそう||むかい||かけ|だして|おこなった