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三姉妹探偵団 4 怪奇篇, 三姉妹探偵団 4 Chapter 05

三 姉妹 探偵 団 4 Chapter 05

5 白銀 の 朝

カーテン を 開けた とたん 、 まぶしい 光 が 溢れて 、 夕 里子 は 、 思わず 声 を 上げ そうに なった 。

「 珠美 !

起き なさい よ ! と 、 大声 で 呼ぶ 。

「 珠美 ──」

振り向いて 、 夕 里子 は 、 珠美 の ベッド が 空 に なって いる の に 気付いた 。

「 あれ ?

もう 起きた の か 」

珍しい な 、 と 思い つつ 、 やっと 目 が 少し 慣れて 来て 、 もう 一 つ の 、 綾子 の ベッド の 方 に も 目 が 向く と ──。

「 まさか !

夕 里子 は 目 を 疑った 。

── 綾子 の ベッド も 空 な のだ 。

こんな こと 、 ある わけ が ない !

何 か あった の かしら ?

夕 里子 は 、 ゆうべ の 、 あの 川西 みどり の 「 予言 」 を 思い出した 。

あれ は 、 夕 里子 自身 の こと を 言って いた のだ が ──。

国 友 さん ……。

そう だ わ 、 国 友 さん に 知らせ ない と !

綾子 と 珠美 、 二 人 と も 誘拐 さ れた のだろう か ?

もし そう なら 、 何 人 か で 、 一斉に 襲って 来た の に 違いない 。

パジャマ 姿 の まま 、 夕 里子 は 、 廊下 へ と 飛び出した 。

「 おっと !

「 キャッ !

夕 里子 は 、 目の前 に 立って いた 国 友 に 抱きつく ような 格好に なって 、 そのまま 二 人 と も 引っくり返って しまった 。

「 おい !

どうした ん だ ! 「 国 友 さん !

二 人 と も い ない の ! お 姉ちゃん も 珠美 も ! きっと どこ か に 連れて 行か れ ──」

顔 を 上げる と 、 分厚い セーター 姿 の 、 綾子 と 珠美 が 、 並んで 立って 、 廊下 に 折り重なって いる 国 友 と 夕 里子 を 見て いた 。

「── 何も 廊下 で ラブシーン 、 や ん なく たって いい じゃ ない 」

と 、 珠美 が 言った 。

「 ベッド に 行けば ? 「 風邪 引く よ 」

と 、 綾子 も 、 冷やかす 。

「 あ ── あの ──」

夕 里子 は 、 起き上って 、「 どうして 、 お 姉ちゃん 、 そんなに 早く 起きた の ?

「 早く って …… 夕 里子 、 今 、 午後 の 二 時 よ 」

夕 里子 は 、 ポカン と して 、

「 二 時 ……」

と 、 訊 き 返した 。

「 そう 」

珠美 が 肯 いて 、「 早く 食べ ない と 、 朝 も 昼 も 抜き だ よ 」

と 言った 。

天然 の 木 の 色 が しっとり と した ムード を 作って いる ダイニングルーム へ 夕 里子 が 入って 行く と 、 石垣 園子 が 、

「 あら 、 よく 眠れた ?

と 、 笑い かけた 。

「 ええ ……。

眠り 過ぎちゃ って 」

と 、 夕 里子 は 頭 を かいた 。

「 すみません 、 こんな 時間 に 」

「 いい の よ 。

ゆうべ 、 あんな 時間 に 着いた んです もの ね 」

でも ……。

大きな 、 木 の テーブル に 一 人 、 ポツンと ついて 、 夕 里子 は 、 いささか の ショック を かみしめて いた 。

学校 が 休み で 、 気 が 緩んだ の かも しれ ない が 、 それにしても ……。

「── 何 を しょげて る んだ ?

国 友 が 入って 来た 。

「 別に 。

しょげて なんかいな いわ よ 。 こんな すてきな 所 で 、 しかも 雪 景色 で 。 ── しょげる こと ない じゃ ない 」

夕 里子 も 、 少し は 強 が って み たかった のである 。

「 そう か ?

「 そう よ 」

夕 里子 は 、 国 友 を 見て 、 それ から 、 ちょっと 笑った 。

石垣 園子 が 、 朝食 兼 昼食 を 運んで 来て くれる と 、 夕 里子 は 、 最初 、 多少 遠慮 がちに 、 それ から 、 凄い 勢い で 食べ 始めた 。

かなり 、 お腹 も 空いて いる のである 。

「── 突っ張る こと ない よ 」

と 、 国 友 は 、 それ を 見て ニヤニヤ し ながら 言った 。

「 うん ……」

夕 里子 は 、 グーッ と コーヒー を 飲みほして 、

「 ああ 、 おいしかった !

「 少し 外 に 出て みたら ?

いい 気持 だ よ 」

「 そう ね 。

でも 、 これ 、 片付け ない と 」

夕 里子 が 、 皿 を 重ねて ( それほど の 枚数 だった わけで は ない 。

念のため )、 運んで 行こう と する と 、 園子 が すぐ に 姿 を 見せて 、

「 あら 、 いい んです よ 。

私 の 仕事 です から ね 」

と 、 皿 を 受け取る 。

「 でも ──」

「 いい の 。

ゆっくり して ちょうだい 」

その 笑顔 は 、 ちょっと ぐらい なら 、 甘えて も いい か な 、 と 思わ せる 優し さ を 湛えて いた ……。

「── まぶしい 」

一面の 雪 景色 の 中 へ 出て 行く と 、 夕 里子 は 、 目 を 細く した 。

それ でも 、 少し 目 が 痛い くらい だ 。

「 ほら 、 サングラス が ある 」

と 、 国 友 の 貸して くれた の を かけて 、 やっと ホッ と する 。

青空 は 、 まるで 凍り ついた 海 の 表面 の ように 、 深い 奥 行 を 思わ せる 色 を して いた 。

雪 は その 光 を 反射 して 、 まるで それ 自体 が 光って いる ようだ 。

「── わ っ 」

夕 里子 は 、 雪 の 中 へ 踏み出して 、 ズボッ と 膝 まで 埋 って しまった ので 、 びっくり して 、 声 を 上げた 。

もちろん 、 この 辺り で は 、 これ ぐらい 、 大した 雪 で は ない のだろう 。

「 久しぶりだ わ 、 こんな 雪 。

── 踏み つけ られて ない 雪 の 中 を 歩く なんて 」

と 、 夕 里子 は 言った 。

吐く 息 が 白く なる 。

空気 は 冷たい けど 、 でも 陽 射 し は 強く 、 暖かかった 。

「 少し のんびり する と いい よ 」

と 、 国 友 は 言った 。

「 すばらしい 眺め ね 」

と 、 思わず 声 が 大きく なる 。

今 の 夕 里子 ぐらい の 年齢 の 女の子 たち は 、 あんまり 、 感動 を 素直に 表わさ ない 。

ワーッ 、 と か 、 キャーッ と か 、 びっくり したり 感心 したり して しまう の は 、 あんまり カッコイイ こと じゃ なく って 、

「 こんな もん よ 」

と 、 分 った ような 顔 で 肩 を すくめる 、 と いう の が まともな 反応 だ 、 と さ れて いる 。

でも 、 やっぱり 、 いい もの は いい し 、 きれいな もの は きれいな のだ 。

夕 里子 は 、 こんな 所 に 来て まで 、 感情 に 素直に なれ ない 女の子 で は なかった 。

「 こんな 所 まで 上って 来て た んだ な 」

と 、 国 友 が 首 を 振って 、「 夜道 で 、 そんな こと 、 全く 気付か なかった 」

この 山荘 は 、 山 の 中腹 に ある 。

上って 来る 道 は 、 細い し 、 ガード レール も ない が 、 一応 ちゃん と 舗装 さ れ 、 ゆうべ 、 国 友 も 、 それほど 緊張 せ ず に 運転 して 来る こと が できた 。

「── ずっと 、 山腹 を 横切って る の が 、 ゆうべ 私 たち の 上って 来た 道 ?

「 そう だ よ 。

── そっち の 方 は 崖 に なって る らしい な 」

「 かなり ある わ よ 」

と 、 夕 里子 は 、 下 を こわごわ 覗き 込んで 、

「 落ちたら イチコロ ね 」

切り立った 、 五十 メートル 近い 絶壁 であった 。

近づく の を 防止 する 柵 も ロープ も ない 。 危ない なあ 、 と 夕 里子 は 思った 。

「 あんまり そっち へ 行く と 、 危ない よ !

国 友 が 、 夕 里子 の 腕 を 取って 、 引き戻し ながら 、 言った 。

「 大丈夫 よ 」

「 雪 が 、 崖 から せり 出して る 。

崩れたら 、 一緒に 下 へ 落ちて しまう ぞ 」

「 心配 して くれる ?

「 当り前だ 」

「 綾子 姉さん じゃ なくて も ?

「 おい ──」

「 冗談 よ 」

と 、 夕 里子 は 笑った 。

そして 、 大きく 、 思いっ切り 、 冷たく 冴え わたった 空気 を 吸い 込む と 、

「 うーん 、 気持 いい !

と 、 大声 を 上げた 。

「 僕 も だ 。

── あの 殺伐 と した 都会 から 来た なんて こと を 、 忘れて しまい そうだ よ 」

国 友 も 、 まぶし げ に 目 を 細く し ながら 、 遠く に 重なり 合う 山並み を 眺めて いた 。

今 は 、 そこ も 白く 化粧 を して いる 。

「 モンブラン の ケーキ みたい 」

と 、 夕 里子 が 、 素直な 感想 を 述べた 。

「 でも ── 参った なあ 」

「 何 が ?

「 珠美 は ともかく 、 お 姉さん まで 私 より 早く 起きちゃ う なんて !

立つ 瀬 が ない 」

「 オーバーだ よ 」

「 いえ 、 本当 。

だって ね ……」

夕 里子 は 、 軽く 目 を 伏せて 、「 ママ が 死んで から 、 私 が いつも ママ の 代り を して た でしょ 。

いつも 時間 通り に 起きて 、 他の 二 人 を 起こして やる 。 夕 ご飯 も 作った し 、 掃除 、 洗濯 も 、 二 人 に も やら せる けど 、 私 が 、 順番 や 手順 を きちんと 決め ない と 、 二 人 と も ボケッ と して る だけ 。 ── 時々 、 考えた わ 」

「 何 を ?

「 私 が もし 死んだら 、 二 人 で 、 どう する んだろう って 」

「 おいおい ──」

「 もしも 、 の 話 よ 」

と 、 夕 里子 は 、 ちょっと 照れた ように 笑って 、「 こんな 話 、 私 が する の 、 変 か なあ 」

「 そんな こと は ない さ 」

国 友 は 、 夕 里子 の 肩 を 抱いた 。

「 君 は ね 、 何もかも 、 一 人 で 引き受け 過ぎる んだ 」

「 そう …… かも ね 」

「 もう 少し 気楽に やれ よ 。

君 が い なくて も 、 あの 二 人 は 、 ちゃんと 起きて 来た じゃ ない か 。 ── そうだ ろ ? 「 うん 」

夕 里子 は 肯 いた 。

分 って る 。

でも ── 正直な ところ 、 夕 里子 は ちょっと 寂しい 気分 に も なって いた 。

私 が い なきゃ 、 何も でき ない んだ から !

そう 文句 は 言い つつ も 、 いつの間にか 、 夕 里子 に とって も 、 その 思い が 、 支え に なって しまった 。

いや ね !

夕 里子 は 、 ちょっと 顔 を しかめた 。

── まだ 十八 な のに 、 これ じゃ まる きり 「 お 母さん 」 じゃ ない の !

「 国 友 さん 」

夕 里子 は サングラス を 外す と 、「 まぶしい から 、 目 を つぶって る 」

「── それ で ?

夕 里子 は 、 目 を つぶった まま 、 国 友 の 方 に 、 少し 顔 を 上げた 。

── ま 、 これ で 、 キス して ほしい のだ と 分 ら ない ので は 、 男 と して 少々 鈍 すぎる と 言わ れて も 仕方 ある まい 。

が 、 国 友 は 、 少々 迷った もの の 、 然 る べき 結論 に は 、 無事に 辿りついた 。

夕 里子 は 、 国 友 の 腕 が 、 自分 を 抱き 寄せる の を 感じ 、 国 友 の 胸 に 自分 の 胸 が 押しつけ られる の を 感じた 。

── 心臓 が 高鳴って ── そして 、 国 友 の 熱い 息 が 、 顔 に かかる の を 感じた ……。

そこ へ ── ボカン !

「 キャッ !

夕 里子 は 悲鳴 を 上げた 。

雪 の 玉 が 、 みごと 、 二 人 の 顔 の 接着 点 (?

) に ぶつかった のである 。

「 冷たい !

「 誰 だ !

国 友 の 方 も 、 口 の 中 に 雪 が 入って しまって 、 ブル ブルッ と 頭 を 振り ながら 、 怒鳴った 。

「── や あ 、 ごめん 」

と 、 男の子 の 声 が した 。

夕 里子 は 振り向いた 。

紺 の ジャンパー を 着た 少年 が 、 毛糸 の 手袋 を はめて 、 立って いた 。

「 ぶつける 気 じゃ なかった んだ よ 」

と 、 少年 は 言った 。

「 本当だ よ 」

可愛い 顔立ち だ 。

「 君 ── 秀 哉 君 ?

と 、 夕 里子 は 訊 いた 。

「 うん 。

── 三 姉妹 の 真中 の 夕 里子 さん でしょ ? 「 知って る の ?

「 聞いた 。

── そっち が 国 友 さん だ ね 」

「 やっと 会えた ね 」

と 、 国 友 は 肯 いて 見せた 。

「 なかなか 会え ない んで 、 どうした の か と 思って いた んだ よ 」

「 色々 、 忙しい んだ よ 」

いやに 大人びた 口 の きき 方 を する 子 だった 。

何だか 、 冷めて いる 、 と いう 印象 。

「── 秀 哉 」

と 、 園子 が 、 雪 の 中 を やって 来た 。

「 ママ 」

「 どこ に いた の ?

せっかく 家庭 教師 の 先生 が いら した のに 」

と 、 園子 は 、 苦労 して 歩いて 来る 。

「── ワァ 、 凄 え 雪 !

珠美 の 声 だ 。

夕 里子 は 、 少々 恥ずかしく なって 、 サングラス を かけ 直した 。

「 待って よ 。

── 歩け ない よ 」

と 、 心細い 声 を 出して いる の は 、 もちろん 綾子 である 。

「 お 姉ちゃん 。

── 大丈夫 ? と 、 夕 里子 が 雪 を はね飛ばし ながら 駆けて 行く 。

「 うん 。

── ああ 、 くたびれた ! 綾子 は 、 ハアハア 息 を 切らして いる 。

「 まぶしくて 何も 見え ない ! 「 文句 、 多い の 」

夕 里子 は 、 サングラス を 、 綾子 に かけて やった 。

「 残って 待って ろ 、 って 言った じゃ ない 」

と 、 珠美 は 、 雪 を すくって 、 雪 玉 を 作ったり して いる 。

「 だって ── こんなに 凄い なんて 、 思わ なかった んだ もん 」

と 、 綾子 は 、 深呼吸 して 、「 でも 、 気持 いい わ ね !

園子 が 、 秀 哉 を 連れて 、 戻って きた 。

「 お 待た せ して 。

── これ が 秀 哉 です 」

珠美 が 、 気軽に 、

「 オス 」

と 言って 、 ポン と 雪 の 玉 を 秀 哉 の 方 へ 投げた 。

秀 哉 は 、 片手 で 器用に 受け止めた 。

「── あら 」

と 言った の は 、 綾子 である 。

「 あなた は ……」

「 また 会う よ 、 って 言った だ ろ 」

秀 哉 が 、 微笑んだ 。

「 秀 哉 、 この 先生 に 会った こと ある の ?

と 、 園子 が 不思議 そうな 顔 で 訊 く 。

「 そんな 気 が する だけ かも ね 」

と 言って 、 秀 哉 は 、 さっさと 山荘 の 方 へ 歩いて 行った 。

「 秀 哉 !

ちゃんと ご 挨拶 ぐらい し なくちゃ ──」

と 、 園子 が 追い かけて 行く 。

後 に 残った 夕 里子 たち 、 何となく 妙な 気分 で 、 それ を 見送って いた が ……。

「 お 姉ちゃん 、 知って る の 、 あの 子 ?

と 、 夕 里子 が 訊 いた 。

「 うん 。

── あの 子 よ 。 オレンジ色 の タクシー に 乗る な 、 って 言った の 」

「 ええ ?

夕 里子 は 、 目 を 丸く した 。

「 何 だい 、 それ は ?

訳 の 分 ら ない 国 友 に 、 夕 里子 は 、 命拾い した いきさつ を 話して やった 。

「── へえ 、 超 能力 か 。

そんな 顔 して る よ 、 あの 子 」

と 、 国 友 は 言った 。

「 うん 。

ただ ね 、 私 が 気 に なって いる の は 、 別の こと な の 」

「 と いう と ?

夕 里子 は 、 目 を 細め 、 手 を かざして 、 しばらく 雪 の 上 を 眺めて いた 。

「── じゃ 、 行こう 」

と 、 綾子 が 歩き 出す 。

「 こちら は 家庭 教師 な んだ から 。 仕事 を し なくちゃ 」

「 そう だ !

さっき 、 クッキー 焼く 匂い が して た 。 食べよ っと 」

珠美 が 、 身軽に 走って 行く 。

「── 行こう か 」

「 ええ 」

夕 里子 は 、 山荘 の 方 へ と 歩き ながら 、「 どうして 、 昨日 、 あの 子 は 東京 に いた の かしら ?

と 言った 。

「 え ?

「 う うん 、 何でもない 」

夕 里子 は 首 を 振った 。

そう 。

あの 子 が 東京 に いて も 、 それ は 別に 構わ ない が 、 しかし 、 園子 は 、 一言 も そんな こと は 言って い ない 。

と する と 、 秀 哉 は 、 父親 の 方 と 一緒だった のだろう か ?

「── ねえ 、 国 友 さん 」

「 何 だい ?

「 ここ の ご 主人 に 会った ?

「 いや 、 まだ だ 」

と 、 首 を 振って 、「 何だか 、 昼間 は 寝て る こと が 多い ん だって さ 。

何やら 研究 して る らしい 」

「 へえ 。

── 学者 ? 「 詳しく は 知ら ない けど 、 あの 奥さん の 話 じゃ 、 そんな こと だった よ 」

「 そう 」

夕 里子 は 、 それ きり 、 何も 言わ なかった 。

もう 一 つ 、 気 に なって いる こと が あった のだ 。

でも ── それ は 、 何だか 、 あまりに 馬鹿らしい こと で ……。

夕 里子 たち が 歩いて いる の は 、 山荘 の 裏手 である 。

玄関 は この ちょうど 反対 側 。

裏庭 の ように なった この 場所 は 、 今 、 雪 に 埋もれて 、 白 一色 だった 。

そこ に 、 夕 里子 たち の 足跡 が ……。

建物 へ 入る ところ で 、 夕 里子 が 、 ふと 振り返った 。

「── どうした ん だ ?

と 、 国 友 が 訊 く 。

「 う うん 。

別に ──」

上り口 で 、 みんな 長靴 を 脱いで 、 スリッパ に はき かえて いる 。

あの 少年 ── 秀 哉 の 靴 も 、 もちろん あった 。

夕 里子 は 、 国 友 が 上って 行った 後 、 一 人 で か が み込む と 、 秀 哉 の 長靴 を 手 に 取り 、 底 の 模様 を 見た 。

そして 、 少し 雪 の 方 へ 戻って みる 。

「── やっぱり 」

と 、 夕 里子 は 呟いた 。

当然の こと だ が 、 夕 里子 たち 、 みんな 、 足跡 が 、 出て 行った とき と 戻った とき 、 二 通り 、 雪 の 上 に 残って いる 。

ただ ── 秀 哉 の もの は 、 戻った 足跡 しか ない のだ 。

ここ から 出て 行った 跡 が 、 どこ に も ない 。

どういう こと だろう ?

いや 、 大した こと じゃ ない の かも ……。

どこ か 、 建物 の わき を 回って 出る 道 が ある の かも しれ ない 。

ただ ── 何となく 、 夕 里子 に は 気 に なった のだった 。

「── お 姉ちゃん 、 何 して ん の !

珠美 の 声 に 、 夕 里子 は 、

「 今 行 くわ よ !

と 返事 を して 、 急いで 長靴 を 脱いだ 。


三 姉妹 探偵 団 4 Chapter 05 みっ|しまい|たんてい|だん|chapter

5  白銀 の 朝 しろがね||あさ

カーテン を 開けた とたん 、 まぶしい 光 が 溢れて 、 夕 里子 は 、 思わず 声 を 上げ そうに なった 。 かーてん||あけた|||ひかり||あふれて|ゆう|さとご||おもわず|こえ||あげ|そう に|

「 珠美 ! たまみ

起き なさい よ ! おき|| と 、 大声 で 呼ぶ 。 |おおごえ||よぶ

「 珠美 ──」 たまみ

振り向いて 、 夕 里子 は 、 珠美 の ベッド が 空 に なって いる の に 気付いた 。 ふりむいて|ゆう|さとご||たまみ||べっど||から||||||きづいた

「 あれ ?

もう 起きた の か 」 |おきた||

珍しい な 、 と 思い つつ 、 やっと 目 が 少し 慣れて 来て 、 もう 一 つ の 、 綾子 の ベッド の 方 に も 目 が 向く と ──。 めずらしい|||おもい|||め||すこし|なれて|きて||ひと|||あやこ||べっど||かた|||め||むく|

「 まさか !

夕 里子 は 目 を 疑った 。 ゆう|さとご||め||うたがった

── 綾子 の ベッド も 空 な のだ 。 あやこ||べっど||から||

こんな こと 、 ある わけ が ない !

何 か あった の かしら ? なん||||

夕 里子 は 、 ゆうべ の 、 あの 川西 みどり の 「 予言 」 を 思い出した 。 ゆう|さとご|||||かわにし|||よげん||おもいだした

あれ は 、 夕 里子 自身 の こと を 言って いた のだ が ──。 ||ゆう|さとご|じしん||||いって|||

国 友 さん ……。 くに|とも|

そう だ わ 、 国 友 さん に 知らせ ない と ! |||くに|とも|||しらせ|| Yes, we must inform Mr. Kunitomo!

綾子 と 珠美 、 二 人 と も 誘拐 さ れた のだろう か ? あやこ||たまみ|ふた|じん|||ゆうかい|||| Were Ayako and Tamami both kidnapped?

もし そう なら 、 何 人 か で 、 一斉に 襲って 来た の に 違いない 。 |||なん|じん|||いっせいに|おそって|きた|||ちがいない If so, several people must have attacked us at once.

パジャマ 姿 の まま 、 夕 里子 は 、 廊下 へ と 飛び出した 。 ぱじゃま|すがた|||ゆう|さとご||ろうか|||とびだした Still in her pajamas, Yuriko ran out into the hallway.

「 おっと !

「 キャッ !

夕 里子 は 、 目の前 に 立って いた 国 友 に 抱きつく ような 格好に なって 、 そのまま 二 人 と も 引っくり返って しまった 。 ゆう|さとご||めのまえ||たって||くに|とも||だきつく||かっこうに|||ふた|じん|||ひっくりかえって| Yuriko became as if she was hugging Kunitomo who was standing in front of her, and both of them turned over.

「 おい !

どうした ん だ ! 「 国 友 さん ! くに|とも|

二 人 と も い ない の ! ふた|じん||||| They're both gone! お 姉ちゃん も 珠美 も ! |ねえちゃん||たまみ| きっと どこ か に 連れて 行か れ ──」 ||||つれて|いか| They're going to take me somewhere...

顔 を 上げる と 、 分厚い セーター 姿 の 、 綾子 と 珠美 が 、 並んで 立って 、 廊下 に 折り重なって いる 国 友 と 夕 里子 を 見て いた 。 かお||あげる||ぶあつい|せーたー|すがた||あやこ||たまみ||ならんで|たって|ろうか||おりかさなって||くに|とも||ゆう|さとご||みて|

「── 何も 廊下 で ラブシーン 、 や ん なく たって いい じゃ ない 」 なにも|ろうか||||||||| "But... it doesn't have to be a love scene in a hallway."

と 、 珠美 が 言った 。 |たまみ||いった

「 ベッド に 行けば ? べっど||いけば "Why don't you go to bed? 「 風邪 引く よ 」 かぜ|ひく|

と 、 綾子 も 、 冷やかす 。 |あやこ||ひやかす

「 あ ── あの ──」

夕 里子 は 、 起き上って 、「 どうして 、 お 姉ちゃん 、 そんなに 早く 起きた の ? ゆう|さとご||おきあがって|||ねえちゃん||はやく|おきた|

「 早く って …… 夕 里子 、 今 、 午後 の 二 時 よ 」 はやく||ゆう|さとご|いま|ごご||ふた|じ| Hurry up. ...... Yuriko, it's two o'clock in the afternoon.

夕 里子 は 、 ポカン と して 、 ゆう|さとご|||| Yuriko looked at him blankly,

「 二 時 ……」 ふた|じ

と 、 訊 き 返した 。 |じん||かえした

「 そう 」

珠美 が 肯 いて 、「 早く 食べ ない と 、 朝 も 昼 も 抜き だ よ 」 たまみ||こう||はやく|たべ|||あさ||ひる||ぬき|| Tamami nodded in agreement and said, "If you don't eat quickly, you'll have to skip breakfast and lunch.

と 言った 。 |いった

天然 の 木 の 色 が しっとり と した ムード を 作って いる ダイニングルーム へ 夕 里子 が 入って 行く と 、 石垣 園子 が 、 てんねん||き||いろ|||||むーど||つくって||||ゆう|さとご||はいって|いく||いしがき|そのこ|

「 あら 、 よく 眠れた ? ||ねむれた

と 、 笑い かけた 。 |わらい|

「 ええ ……。

眠り 過ぎちゃ って 」 ねむり|すぎちゃ| I've been sleeping too much."

と 、 夕 里子 は 頭 を かいた 。 |ゆう|さとご||あたま||

「 すみません 、 こんな 時間 に 」 ||じかん|

「 いい の よ 。

ゆうべ 、 あんな 時間 に 着いた んです もの ね 」 ||じかん||ついた||| You must have arrived at such a late hour last night."

でも ……。

大きな 、 木 の テーブル に 一 人 、 ポツンと ついて 、 夕 里子 は 、 いささか の ショック を かみしめて いた 。 おおきな|き||てーぶる||ひと|じん|ぽつんと||ゆう|さとご||||しょっく||| Sitting alone at a large wooden table, Yuriko was somewhat shocked.

学校 が 休み で 、 気 が 緩んだ の かも しれ ない が 、 それにしても ……。 がっこう||やすみ||き||ゆるんだ|||||| Perhaps the school vacations have made them feel a little more relaxed, but still, ...... is a good place to start.

「── 何 を しょげて る んだ ? なん|||| What are you looking down on?

国 友 が 入って 来た 。 くに|とも||はいって|きた

「 別に 。 べつに I don't know.

しょげて なんかいな いわ よ 。 I don't really care. こんな すてきな 所 で 、 しかも 雪 景色 で 。 ||しょ|||ゆき|けしき| ── しょげる こと ない じゃ ない 」

夕 里子 も 、 少し は 強 が って み たかった のである 。 ゆう|さとご||すこし||つよ||||| Yuriko also wanted to be a little stronger.

「 そう か ?

「 そう よ 」

夕 里子 は 、 国 友 を 見て 、 それ から 、 ちょっと 笑った 。 ゆう|さとご||くに|とも||みて||||わらった

石垣 園子 が 、 朝食 兼 昼食 を 運んで 来て くれる と 、 夕 里子 は 、 最初 、 多少 遠慮 がちに 、 それ から 、 凄い 勢い で 食べ 始めた 。 いしがき|そのこ||ちょうしょく|けん|ちゅうしょく||はこんで|きて|||ゆう|さとご||さいしょ|たしょう|えんりょ||||すごい|いきおい||たべ|はじめた

かなり 、 お腹 も 空いて いる のである 。 |おなか||あいて||

「── 突っ張る こと ない よ 」 つっぱる|||

と 、 国 友 は 、 それ を 見て ニヤニヤ し ながら 言った 。 |くに|とも||||みて||||いった

「 うん ……」

夕 里子 は 、 グーッ と コーヒー を 飲みほして 、 ゆう|さとご||||こーひー||のみほして

「 ああ 、 おいしかった !

「 少し 外 に 出て みたら ? すこし|がい||でて|

いい 気持 だ よ 」 |きもち||

「 そう ね 。

でも 、 これ 、 片付け ない と 」 ||かたづけ||

夕 里子 が 、 皿 を 重ねて ( それほど の 枚数 だった わけで は ない 。 ゆう|さとご||さら||かさねて|||まいすう||||

念のため )、 運んで 行こう と する と 、 園子 が すぐ に 姿 を 見せて 、 ねんのため|はこんで|いこう||||そのこ||||すがた||みせて

「 あら 、 いい んです よ 。

私 の 仕事 です から ね 」 わたくし||しごと|||

と 、 皿 を 受け取る 。 |さら||うけとる

「 でも ──」

「 いい の 。

ゆっくり して ちょうだい 」

その 笑顔 は 、 ちょっと ぐらい なら 、 甘えて も いい か な 、 と 思わ せる 優し さ を 湛えて いた ……。 |えがお|||||あまえて||||||おもわ||やさし|||たたえて| The smile was filled with a kindness to make me think that it might be amenable if it was a little ... ....

「── まぶしい 」

一面の 雪 景色 の 中 へ 出て 行く と 、 夕 里子 は 、 目 を 細く した 。 いちめんの|ゆき|けしき||なか||でて|いく||ゆう|さとご||め||ほそく|

それ でも 、 少し 目 が 痛い くらい だ 。 ||すこし|め||いたい|| But my eyes still hurt a little.

「 ほら 、 サングラス が ある 」 |さんぐらす|| "Look, I have sunglasses."

と 、 国 友 の 貸して くれた の を かけて 、 やっと ホッ と する 。 |くに|とも||かして||||||ほっ|| Finally, I put on a pair of shoes lent to me by a friend of mine in Japan and felt relieved.

青空 は 、 まるで 凍り ついた 海 の 表面 の ように 、 深い 奥 行 を 思わ せる 色 を して いた 。 あおぞら|||こおり||うみ||ひょうめん|||ふかい|おく|ぎょう||おもわ||いろ||| The blue sky had a color reminiscent of deep depth like the surface of the frozen sea.

雪 は その 光 を 反射 して 、 まるで それ 自体 が 光って いる ようだ 。 ゆき|||ひかり||はんしゃ||||じたい||ひかって||

「── わ っ 」

夕 里子 は 、 雪 の 中 へ 踏み出して 、 ズボッ と 膝 まで 埋 って しまった ので 、 びっくり して 、 声 を 上げた 。 ゆう|さとご||ゆき||なか||ふみだして|||ひざ||うずま||||||こえ||あげた Yuriko stepped out into the snow and was surprised to find herself knee-deep in the snow.

もちろん 、 この 辺り で は 、 これ ぐらい 、 大した 雪 で は ない のだろう 。 ||あたり|||||たいした|ゆき|||| Of course, in this area, it is not much snow this much.

「 久しぶりだ わ 、 こんな 雪 。 ひさしぶりだ|||ゆき

── 踏み つけ られて ない 雪 の 中 を 歩く なんて 」 ふみ||||ゆき||なか||あるく| Walking in the untrodden snow.

と 、 夕 里子 は 言った 。 |ゆう|さとご||いった

吐く 息 が 白く なる 。 はく|いき||しろく|

空気 は 冷たい けど 、 でも 陽 射 し は 強く 、 暖かかった 。 くうき||つめたい|||よう|い|||つよく|あたたかかった The air was cold, but the sun was strong and warm.

「 少し のんびり する と いい よ 」 すこし||||| "It's good to relax a little."

と 、 国 友 は 言った 。 |くに|とも||いった

「 すばらしい 眺め ね 」 |ながめ| "It's a beautiful view."

と 、 思わず 声 が 大きく なる 。 |おもわず|こえ||おおきく|

今 の 夕 里子 ぐらい の 年齢 の 女の子 たち は 、 あんまり 、 感動 を 素直に 表わさ ない 。 いま||ゆう|さとご|||ねんれい||おんなのこ||||かんどう||すなおに|あらわさ| The girls of the age of about even Riko this evening do not express obedience obediently.

ワーッ 、 と か 、 キャーッ と か 、 びっくり したり 感心 したり して しまう の は 、 あんまり カッコイイ こと じゃ なく って 、 ||||||||かんしん||||||||||| It's not cool to be surprised or impressed,

「 こんな もん よ 」 "This is what it looks like."

と 、 分 った ような 顔 で 肩 を すくめる 、 と いう の が まともな 反応 だ 、 と さ れて いる 。 |ぶん|||かお||かた||||||||はんのう||||| It is said that it is a decent reaction to shrug the shoulders with a distinctive face.

でも 、 やっぱり 、 いい もの は いい し 、 きれいな もの は きれいな のだ 。 But, after all, good things are good, and beautiful things are beautiful.

夕 里子 は 、 こんな 所 に 来て まで 、 感情 に 素直に なれ ない 女の子 で は なかった 。 ゆう|さとご|||しょ||きて||かんじょう||すなおに|||おんなのこ||| Yuriko was not a girl who could not be honest about her feelings until she came to this place.

「 こんな 所 まで 上って 来て た んだ な 」 |しょ||のぼって|きて||| "I didn't know they came this far up."

と 、 国 友 が 首 を 振って 、「 夜道 で 、 そんな こと 、 全く 気付か なかった 」 |くに|とも||くび||ふって|よみち||||まったく|きづか| My friend shook his head and said, "I didn't even notice that on the street at night.

この 山荘 は 、 山 の 中腹 に ある 。 |さんそう||やま||ちゅうふく|| This mountain lodge is located halfway up a mountain.

上って 来る 道 は 、 細い し 、 ガード レール も ない が 、 一応 ちゃん と 舗装 さ れ 、 ゆうべ 、 国 友 も 、 それほど 緊張 せ ず に 運転 して 来る こと が できた 。 のぼって|くる|どう||ほそい||がーど|れーる||||いちおう|||ほそう||||くに|とも|||きんちょう||||うんてん||くる||| The road up is narrow and has no guardrails, but it is well paved and Yuu and Kunitomo were able to drive it without too much tension.

「── ずっと 、 山腹 を 横切って る の が 、 ゆうべ 私 たち の 上って 来た 道 ? |さんぷく||よこぎって|||||わたくし|||のぼって|きた|どう "Is that the road that crosses the mountainside all the way up to where we were last night?

「 そう だ よ 。 Yes, that's right.

── そっち の 方 は 崖 に なって る らしい な 」 ||かた||がけ||||| I heard there's a cliff on that side.

「 かなり ある わ よ 」 There's quite a bit.

と 、 夕 里子 は 、 下 を こわごわ 覗き 込んで 、 |ゆう|さとご||した|||のぞき|こんで

「 落ちたら イチコロ ね 」 おちたら|| "If it fell, Ichikoro"

切り立った 、 五十 メートル 近い 絶壁 であった 。 きりたった|ごじゅう|めーとる|ちかい|ぜっぺき|

近づく の を 防止 する 柵 も ロープ も ない 。 ちかづく|||ぼうし||さく||ろーぷ|| 危ない なあ 、 と 夕 里子 は 思った 。 あぶない|||ゆう|さとご||おもった

「 あんまり そっち へ 行く と 、 危ない よ ! |||いく||あぶない|

国 友 が 、 夕 里子 の 腕 を 取って 、 引き戻し ながら 、 言った 。 くに|とも||ゆう|さとご||うで||とって|ひきもどし||いった

「 大丈夫 よ 」 だいじょうぶ|

「 雪 が 、 崖 から せり 出して る 。 ゆき||がけ|||だして| Snow is rising from the cliff.

崩れたら 、 一緒に 下 へ 落ちて しまう ぞ 」 くずれたら|いっしょに|した||おちて||

「 心配 して くれる ? しんぱい|| "You're worried about me?

「 当り前だ 」 あたりまえだ "Of course it is."

「 綾子 姉さん じゃ なくて も ? あやこ|ねえさん|||

「 おい ──」

「 冗談 よ 」 じょうだん|

と 、 夕 里子 は 笑った 。 |ゆう|さとご||わらった

そして 、 大きく 、 思いっ切り 、 冷たく 冴え わたった 空気 を 吸い 込む と 、 |おおきく|おもいっきり|つめたく|さえ||くうき||すい|こむ| And then, he took in a big, deep, cold, brilliant breath of air,

「 うーん 、 気持 いい ! |きもち|

と 、 大声 を 上げた 。 |おおごえ||あげた

「 僕 も だ 。 ぼく||

── あの 殺伐 と した 都会 から 来た なんて こと を 、 忘れて しまい そうだ よ 」 |さつばつ|||とかい||きた||||わすれて||そう だ| I almost forgot that I came from that bleak city.

国 友 も 、 まぶし げ に 目 を 細く し ながら 、 遠く に 重なり 合う 山並み を 眺めて いた 。 くに|とも|||||め||ほそく|||とおく||かさなり|あう|やまなみ||ながめて| Kunitomo also looked at the mountains in the distance with narrowed eyes.

今 は 、 そこ も 白く 化粧 を して いる 。 いま||||しろく|けしょう||| Now they are wearing white make-up there as well.

「 モンブラン の ケーキ みたい 」 ||けーき|

と 、 夕 里子 が 、 素直な 感想 を 述べた 。 |ゆう|さとご||すなおな|かんそう||のべた

「 でも ── 参った なあ 」 |まいった| But you know what?

「 何 が ? なん|

「 珠美 は ともかく 、 お 姉さん まで 私 より 早く 起きちゃ う なんて ! たまみ||||ねえさん||わたくし||はやく|おきちゃ|| I can't believe that even your sister woke up earlier than me, let alone Tamami!

立つ 瀬 が ない 」 たつ|せ|| There's nothing to stand on."

「 オーバーだ よ 」 おーばーだ|

「 いえ 、 本当 。 |ほんとう

だって ね ……」

夕 里子 は 、 軽く 目 を 伏せて 、「 ママ が 死んで から 、 私 が いつも ママ の 代り を して た でしょ 。 ゆう|さとご||かるく|め||ふせて|まま||しんで||わたくし|||まま||かわり||||

いつも 時間 通り に 起きて 、 他の 二 人 を 起こして やる 。 |じかん|とおり||おきて|たの|ふた|じん||おこして| I always get up on time and wake the other two up. 夕 ご飯 も 作った し 、 掃除 、 洗濯 も 、 二 人 に も やら せる けど 、 私 が 、 順番 や 手順 を きちんと 決め ない と 、 二 人 と も ボケッ と して る だけ 。 ゆう|ごはん||つくった||そうじ|せんたく||ふた|じん||||||わたくし||じゅんばん||てじゅん|||きめ|||ふた|じん||||||| I made dinner, and I let them do the cleaning and laundry, but unless I decide on the order and procedure, they just sit around and do nothing. ── 時々 、 考えた わ 」 ときどき|かんがえた| Sometimes I think about it.

「 何 を ? なん|

「 私 が もし 死んだら 、 二 人 で 、 どう する んだろう って 」 わたくし|||しんだら|ふた|じん||||| "If I die, what will we do together?"

「 おいおい ──」

「 もしも 、 の 話 よ 」 ||はなし|

と 、 夕 里子 は 、 ちょっと 照れた ように 笑って 、「 こんな 話 、 私 が する の 、 変 か なあ 」 |ゆう|さとご|||てれた||わらって||はなし|わたくし||||へん|| Yuriko smiled a little embarrassed and said, "Is it strange for me to talk about this?

「 そんな こと は ない さ 」

国 友 は 、 夕 里子 の 肩 を 抱いた 。 くに|とも||ゆう|さとご||かた||いだいた

「 君 は ね 、 何もかも 、 一 人 で 引き受け 過ぎる んだ 」 きみ|||なにもかも|ひと|じん||ひきうけ|すぎる| You know, you take on too much on your own.

「 そう …… かも ね 」

「 もう 少し 気楽に やれ よ 。 |すこし|きらくに||

君 が い なくて も 、 あの 二 人 は 、 ちゃんと 起きて 来た じゃ ない か 。 きみ||||||ふた|じん|||おきて|きた||| Even without you, those two got up just fine. ── そうだ ろ ? そう だ| 「 うん 」

夕 里子 は 肯 いた 。 ゆう|さとご||こう|

分 って る 。 ぶん||

でも ── 正直な ところ 、 夕 里子 は ちょっと 寂しい 気分 に も なって いた 。 |しょうじきな||ゆう|さとご|||さびしい|きぶん||||

私 が い なきゃ 、 何も でき ない んだ から ! わたくし||||なにも|||| Without me, you can't do anything!

そう 文句 は 言い つつ も 、 いつの間にか 、 夕 里子 に とって も 、 その 思い が 、 支え に なって しまった 。 |もんく||いい|||いつのまにか|ゆう|さとご|||||おもい||ささえ||| Despite saying complaints, unexpectedly, even for Yuriko, that feeling became a support.

いや ね !

夕 里子 は 、 ちょっと 顔 を しかめた 。 ゆう|さとご|||かお||

── まだ 十八 な のに 、 これ じゃ まる きり 「 お 母さん 」 じゃ ない の ! |じゅうはち||||||||かあさん||| She's only 18, and she's totally "Mom." No, it's not!

「 国 友 さん 」 くに|とも|

夕 里子 は サングラス を 外す と 、「 まぶしい から 、 目 を つぶって る 」 ゆう|さとご||さんぐらす||はずす||||め||| Yuriko takes off her sunglasses and says, "It's too bright, so I'm keeping my eyes closed.

「── それ で ?

夕 里子 は 、 目 を つぶった まま 、 国 友 の 方 に 、 少し 顔 を 上げた 。 ゆう|さとご||め||||くに|とも||かた||すこし|かお||あげた

── ま 、 これ で 、 キス して ほしい のだ と 分 ら ない ので は 、 男 と して 少々 鈍 すぎる と 言わ れて も 仕方 ある まい 。 |||きす|||||ぶん|||||おとこ|||しょうしょう|どん|||いわ|||しかた|| I am not sure what to make of this, but if you can't tell that I want you to kiss me, then you are being a bit obtuse as a man.

が 、 国 友 は 、 少々 迷った もの の 、 然 る べき 結論 に は 、 無事に 辿りついた 。 |くに|とも||しょうしょう|まよった|||ぜん|||けつろん|||ぶじに|たどりついた However, although Kunitomo was a little confused, he was able to reach the right conclusion without incident.

夕 里子 は 、 国 友 の 腕 が 、 自分 を 抱き 寄せる の を 感じ 、 国 友 の 胸 に 自分 の 胸 が 押しつけ られる の を 感じた 。 ゆう|さとご||くに|とも||うで||じぶん||いだき|よせる|||かんじ|くに|とも||むね||じぶん||むね||おしつけ||||かんじた

── 心臓 が 高鳴って ── そして 、 国 友 の 熱い 息 が 、 顔 に かかる の を 感じた ……。 しんぞう||たかなって||くに|とも||あつい|いき||かお|||||かんじた I felt my heart pounding, and then I felt Kunitomo's hot breath on my face. ......

そこ へ ── ボカン !

「 キャッ !

夕 里子 は 悲鳴 を 上げた 。 ゆう|さとご||ひめい||あげた

雪 の 玉 が 、 みごと 、 二 人 の 顔 の 接着 点 (? ゆき||たま|||ふた|じん||かお||せっちゃく|てん

) に ぶつかった のである 。

「 冷たい ! つめたい

「 誰 だ ! だれ|

国 友 の 方 も 、 口 の 中 に 雪 が 入って しまって 、 ブル ブルッ と 頭 を 振り ながら 、 怒鳴った 。 くに|とも||かた||くち||なか||ゆき||はいって||ぶる|ぶるっ||あたま||ふり||どなった

「── や あ 、 ごめん 」

と 、 男の子 の 声 が した 。 |おとこのこ||こえ||

夕 里子 は 振り向いた 。 ゆう|さとご||ふりむいた

紺 の ジャンパー を 着た 少年 が 、 毛糸 の 手袋 を はめて 、 立って いた 。 こん||じゃんぱー||きた|しょうねん||けいと||てぶくろ|||たって|

「 ぶつける 気 じゃ なかった んだ よ 」 |き|||| "I didn't mean to hit you."

と 、 少年 は 言った 。 |しょうねん||いった

「 本当だ よ 」 ほんとうだ|

可愛い 顔立ち だ 。 かわいい|かおだち|

「 君 ── 秀 哉 君 ? きみ|しゅう|や|きみ

と 、 夕 里子 は 訊 いた 。 |ゆう|さとご||じん|

「 うん 。

── 三 姉妹 の 真中 の 夕 里子 さん でしょ ? みっ|しまい||まんなか||ゆう|さとご|| 「 知って る の ? しって||

「 聞いた 。 きいた

── そっち が 国 友 さん だ ね 」 ||くに|とも||| That's your friend, isn't it?

「 やっと 会えた ね 」 |あえた| "It's so nice to finally meet you."

と 、 国 友 は 肯 いて 見せた 。 |くに|とも||こう||みせた

「 なかなか 会え ない んで 、 どうした の か と 思って いた んだ よ 」 |あえ|||||||おもって||| "I could not meet them easily, so I thought what was going on."

「 色々 、 忙しい んだ よ 」 いろいろ|いそがしい|| I'm busy with a lot of things."

いやに 大人びた 口 の きき 方 を する 子 だった 。 |おとなびた|くち|||かた|||こ| She was a child who had a very mature way of speaking.

何だか 、 冷めて いる 、 と いう 印象 。 なんだか|さめて||||いんしょう I got the impression that he was somewhat cold.

「── 秀 哉 」 しゅう|や

と 、 園子 が 、 雪 の 中 を やって 来た 。 |そのこ||ゆき||なか|||きた

「 ママ 」 まま

「 どこ に いた の ? Where were you?

せっかく 家庭 教師 の 先生 が いら した のに 」 |かてい|きょうし||せんせい|||| And yet you have a tutor here."

と 、 園子 は 、 苦労 して 歩いて 来る 。 |そのこ||くろう||あるいて|くる Sonoko walks over with great difficulty.

「── ワァ 、 凄 え 雪 ! |すご||ゆき "Wow, it's snowing like crazy!

珠美 の 声 だ 。 たまみ||こえ|

夕 里子 は 、 少々 恥ずかしく なって 、 サングラス を かけ 直した 。 ゆう|さとご||しょうしょう|はずかしく||さんぐらす|||なおした

「 待って よ 。 まって|

── 歩け ない よ 」 あるけ|| I can't walk.

と 、 心細い 声 を 出して いる の は 、 もちろん 綾子 である 。 |こころぼそい|こえ||だして|||||あやこ|

「 お 姉ちゃん 。 |ねえちゃん

── 大丈夫 ? だいじょうぶ と 、 夕 里子 が 雪 を はね飛ばし ながら 駆けて 行く 。 |ゆう|さとご||ゆき||はねとばし||かけて|いく

「 うん 。

── ああ 、 くたびれた ! Oh, I'm tired of it! 綾子 は 、 ハアハア 息 を 切らして いる 。 あやこ||はあはあ|いき||きらして|

「 まぶしくて 何も 見え ない ! |なにも|みえ| 「 文句 、 多い の 」 もんく|おおい|

夕 里子 は 、 サングラス を 、 綾子 に かけて やった 。 ゆう|さとご||さんぐらす||あやこ|||

「 残って 待って ろ 、 って 言った じゃ ない 」 のこって|まって|||いった||

と 、 珠美 は 、 雪 を すくって 、 雪 玉 を 作ったり して いる 。 |たまみ||ゆき|||ゆき|たま||つくったり||

「 だって ── こんなに 凄い なんて 、 思わ なかった んだ もん 」 ||すごい||おもわ||| Because I never thought it would be this great.

と 、 綾子 は 、 深呼吸 して 、「 でも 、 気持 いい わ ね ! |あやこ||しんこきゅう|||きもち|||

園子 が 、 秀 哉 を 連れて 、 戻って きた 。 そのこ||しゅう|や||つれて|もどって|

「 お 待た せ して 。 |また|| Sorry to keep you waiting.

── これ が 秀 哉 です 」 ||しゅう|や|

珠美 が 、 気軽に 、 たまみ||きがるに Tamami is at ease,

「 オス 」 おす

と 言って 、 ポン と 雪 の 玉 を 秀 哉 の 方 へ 投げた 。 |いって|||ゆき||たま||しゅう|や||かた||なげた

秀 哉 は 、 片手 で 器用に 受け止めた 。 しゅう|や||かたて||きように|うけとめた

「── あら 」

と 言った の は 、 綾子 である 。 |いった|||あやこ|

「 あなた は ……」

「 また 会う よ 、 って 言った だ ろ 」 |あう|||いった|| "You said you'd see me again."

秀 哉 が 、 微笑んだ 。 しゅう|や||ほおえんだ

「 秀 哉 、 この 先生 に 会った こと ある の ? しゅう|や||せんせい||あった|||

と 、 園子 が 不思議 そうな 顔 で 訊 く 。 |そのこ||ふしぎ|そう な|かお||じん|

「 そんな 気 が する だけ かも ね 」 |き||||| "Maybe it just feels that way."

と 言って 、 秀 哉 は 、 さっさと 山荘 の 方 へ 歩いて 行った 。 |いって|しゅう|や|||さんそう||かた||あるいて|おこなった

「 秀 哉 ! しゅう|や

ちゃんと ご 挨拶 ぐらい し なくちゃ ──」 ||あいさつ|||

と 、 園子 が 追い かけて 行く 。 |そのこ||おい||いく

後 に 残った 夕 里子 たち 、 何となく 妙な 気分 で 、 それ を 見送って いた が ……。 あと||のこった|ゆう|さとご||なんとなく|みょうな|きぶん||||みおくって|| The remaining Yuriko and her friends were looking away with a somewhat strange feeling. ......

「 お 姉ちゃん 、 知って る の 、 あの 子 ? |ねえちゃん|しって||||こ

と 、 夕 里子 が 訊 いた 。 |ゆう|さとご||じん|

「 うん 。

── あの 子 よ 。 |こ| オレンジ色 の タクシー に 乗る な 、 って 言った の 」 おれんじいろ||たくしー||のる|||いった|

「 ええ ?

夕 里子 は 、 目 を 丸く した 。 ゆう|さとご||め||まるく|

「 何 だい 、 それ は ? なん||| "What is it?

訳 の 分 ら ない 国 友 に 、 夕 里子 は 、 命拾い した いきさつ を 話して やった 。 やく||ぶん|||くに|とも||ゆう|さとご||いのちびろい||||はなして| Yuriko told her friend how she had saved her life.

「── へえ 、 超 能力 か 。 |ちょう|のうりょく|

そんな 顔 して る よ 、 あの 子 」 |かお|||||こ He's got that look on his face.

と 、 国 友 は 言った 。 |くに|とも||いった

「 うん 。

ただ ね 、 私 が 気 に なって いる の は 、 別の こと な の 」 ||わたくし||き||||||べつの|||

「 と いう と ?

夕 里子 は 、 目 を 細め 、 手 を かざして 、 しばらく 雪 の 上 を 眺めて いた 。 ゆう|さとご||め||ほそめ|て||||ゆき||うえ||ながめて|

「── じゃ 、 行こう 」 |いこう

と 、 綾子 が 歩き 出す 。 |あやこ||あるき|だす

「 こちら は 家庭 教師 な んだ から 。 ||かてい|きょうし||| 仕事 を し なくちゃ 」 しごと||| I have work to do."

「 そう だ !

さっき 、 クッキー 焼く 匂い が して た 。 |くっきー|やく|におい||| 食べよ っと 」 たべよ|

珠美 が 、 身軽に 走って 行く 。 たまみ||みがるに|はしって|いく

「── 行こう か 」 いこう|

「 ええ 」

夕 里子 は 、 山荘 の 方 へ と 歩き ながら 、「 どうして 、 昨日 、 あの 子 は 東京 に いた の かしら ? ゆう|さとご||さんそう||かた|||あるき|||きのう||こ||とうきょう||||

と 言った 。 |いった

「 え ?

「 う うん 、 何でもない 」 ||なんでもない "Uh-uh, nothing."

夕 里子 は 首 を 振った 。 ゆう|さとご||くび||ふった

そう 。

あの 子 が 東京 に いて も 、 それ は 別に 構わ ない が 、 しかし 、 園子 は 、 一言 も そんな こと は 言って い ない 。 |こ||とうきょう||||||べつに|かまわ||||そのこ||いちげん|||||いって|| I don't mind her being in Tokyo, but Sonoko has never said a word about it.

と する と 、 秀 哉 は 、 父親 の 方 と 一緒だった のだろう か ? |||しゅう|や||ちちおや||かた||いっしょだった||

「── ねえ 、 国 友 さん 」 |くに|とも|

「 何 だい ? なん|

「 ここ の ご 主人 に 会った ? |||あるじ||あった

「 いや 、 まだ だ 」 "No, not yet."

と 、 首 を 振って 、「 何だか 、 昼間 は 寝て る こと が 多い ん だって さ 。 |くび||ふって|なんだか|ひるま||ねて||||おおい||| He shook his head and said, "Well, he often sleeps during the day.

何やら 研究 して る らしい 」 なにやら|けんきゅう||| They're doing some kind of research."

「 へえ 。

── 学者 ? がくしゃ 「 詳しく は 知ら ない けど 、 あの 奥さん の 話 じゃ 、 そんな こと だった よ 」 くわしく||しら||||おくさん||はなし|||||

「 そう 」

夕 里子 は 、 それ きり 、 何も 言わ なかった 。 ゆう|さとご||||なにも|いわ|

もう 一 つ 、 気 に なって いる こと が あった のだ 。 |ひと||き||||||| There was one more thing on my mind.

でも ── それ は 、 何だか 、 あまりに 馬鹿らしい こと で ……。 |||なんだか||ばからしい||

夕 里子 たち が 歩いて いる の は 、 山荘 の 裏手 である 。 ゆう|さとご|||あるいて||||さんそう||うらて|

玄関 は この ちょうど 反対 側 。 げんかん||||はんたい|がわ The entrance is just on the opposite side.

裏庭 の ように なった この 場所 は 、 今 、 雪 に 埋もれて 、 白 一色 だった 。 うらにわ|||||ばしょ||いま|ゆき||うずもれて|しろ|いっしょく| This place, which had become like a backyard, was now buried in snow and was all white.

そこ に 、 夕 里子 たち の 足跡 が ……。 ||ゆう|さとご|||あしあと|

建物 へ 入る ところ で 、 夕 里子 が 、 ふと 振り返った 。 たてもの||はいる|||ゆう|さとご|||ふりかえった As we were entering the building, Yuriko suddenly turned around.

「── どうした ん だ ?

と 、 国 友 が 訊 く 。 |くに|とも||じん|

「 う うん 。

別に ──」 べつに

上り口 で 、 みんな 長靴 を 脱いで 、 スリッパ に はき かえて いる 。 あがりぐち|||ながぐつ||ぬいで|すりっぱ||||

あの 少年 ── 秀 哉 の 靴 も 、 もちろん あった 。 |しょうねん|しゅう|や||くつ|||

夕 里子 は 、 国 友 が 上って 行った 後 、 一 人 で か が み込む と 、 秀 哉 の 長靴 を 手 に 取り 、 底 の 模様 を 見た 。 ゆう|さとご||くに|とも||のぼって|おこなった|あと|ひと|じん||||みこむ||しゅう|や||ながぐつ||て||とり|そこ||もよう||みた

そして 、 少し 雪 の 方 へ 戻って みる 。 |すこし|ゆき||かた||もどって| Then, let's go back towards the snow.

「── やっぱり 」

と 、 夕 里子 は 呟いた 。 |ゆう|さとご||つぶやいた

当然の こと だ が 、 夕 里子 たち 、 みんな 、 足跡 が 、 出て 行った とき と 戻った とき 、 二 通り 、 雪 の 上 に 残って いる 。 とうぜんの||||ゆう|さとご|||あしあと||でて|おこなった|||もどった||ふた|とおり|ゆき||うえ||のこって| Naturally, Yuriko and the others left their footprints on the snow, either when they left or when they returned.

ただ ── 秀 哉 の もの は 、 戻った 足跡 しか ない のだ 。 |しゅう|や||||もどった|あしあと||| The only thing that belongs to Hideya is the footprints of his return.

ここ から 出て 行った 跡 が 、 どこ に も ない 。 ||でて|おこなった|あと||||| There is no sign of their departure from here.

どういう こと だろう ?

いや 、 大した こと じゃ ない の かも ……。 |たいした||||| No, it may not be a big deal. ......

どこ か 、 建物 の わき を 回って 出る 道 が ある の かも しれ ない 。 ||たてもの||||まわって|でる|どう||||||

ただ ── 何となく 、 夕 里子 に は 気 に なった のだった 。 |なんとなく|ゆう|さとご|||き|||

「── お 姉ちゃん 、 何 して ん の ! |ねえちゃん|なん|||

珠美 の 声 に 、 夕 里子 は 、 たまみ||こえ||ゆう|さとご|

「 今 行 くわ よ ! いま|ぎょう||

と 返事 を して 、 急いで 長靴 を 脱いだ 。 |へんじ|||いそいで|ながぐつ||ぬいだ