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三姉妹探偵団 4 怪奇篇, 三姉妹探偵団 4 Chapter 02

三 姉妹 探偵 団 4 Chapter 02

2 家庭 教師

「── でも 、 妙な 話 だ ね 」

と 、 夕 里子 が 言った 。

「 その 男の子 、 超 能力 を 持って んじゃ ない の ? 「 未来 を 予知 する 能力 ね 。

あったら 便利だろう な 」

と 、 珠美 が ちょっと 考えて 、「 そう !

私 なら 、 まず 、 宝くじ の 当り 番号 を 教えて もらっちゃ う ! 「 あんた らしい わ 」

と 、 夕 里子 が 呆れて 、「 でも 、 ともかく その 子 の おかげ で 助かった んだ から 」

「 そう ね ……」

三 人 は 無事 を 祝って ── かつ 、 代り に 亡くなった あの 太った おばさん と 、 運転手 の 冥福 を 祈って (?

)── ホテル で 食事 を して いた 。

「 だけど 、 そんな こと って ある の かしら ?

と 、 綾子 は 言った 。

「 偶然 かも しれ ない わ 」

「 でも 、 それ に しちゃ でき すぎ て る よ !

珠美 は 、 断固と して 、「 絶対 に 超 能力 よ !

と 、 主張 した 。

「 どっち で も いい けど 、 ともかく 食べ なさい 。

高い の よ 、 残さ ないで 」

「 は あい 。

── 夕 里子 姉ちゃん 、 すっかり 世帯 じ みて 来た ね 」

と 、 珠美 が からかう 。

「 あんまり 世帯 じ みる と 、 国 友 さん に 嫌わ れる よ 」

「 何 よ !

夕 里子 が むき に なって 珠美 を にらむ 。

「 よし なさい よ 」

と 、 綾子 は 言った 。

国 友 と いう の は 、 夕 里子 の 恋人 で 、 M 署 の 若き 刑事 である 。

当然 独身 。

男 まさり と 定評 の ある (?

) 夕 里子 が 、 国 友 の 前 で は ぐっと 女らしく なる ── と いう の は 当人 のみ の 意見 で 、 はた目 に は 、 ちっとも 変ら ない と いう 評判 だった 。

「 ねえ 、 それ は ともかく さ 」

と 、 珠美 が 言った 。

「 年 末 年始 は どう する の ? 「 どう って ?

食事 が 終って 、 デザート が 来る の を 待って いる ところ である 。

夕 里子 は 、

「 何も 計画 して ない んだ もの 。

今 から どこ か 行こう った って 、 無理 よ 」

「 そう か あ ……。

つま ん ない な 」

と 、 珠美 は ふくれ っ つ ら で 、「 クラス の 子 、 みんな スキー と か スケート 、 温泉 と か 、 行く んだ よ 」

「 お 風呂 なら 、 うち で 入れる じゃ ない の 」

と 、 綾子 が 夢 の ない こと を 言い 出した 。

「 たまに は 三 人 で 旅行 し ない ?

ねえ 」

珠美 の 意見 も 、 もっともで は ある 。

何しろ 珠美 だって もう 来年 は 高校 生 だ 。

別に 迷子 に なる 心配 を する 年齢 で は ない 。

ただ 、 問題 は 長女 の 綾子 が 、 いとも 出 不精 と いう 点 に ある 。

「 あんた たち 、 行って くれば 。

私 、 うち で 寝て る 」

── と 、 こういう 具合 。

「 全く もう !

それ でも 二十 歳 ? 「 一応 ね 。

あんた も 逆の 意味 で 十五 に は 思え ない わ よ 」

と 、 綾子 が 珍しく やり 返した 。

「 ええ と ……。

じゃ 、 コーヒー ね 」

夕 里子 は 、 ウェイター を 呼んで 注文 する と 、「 ともかく 、 パパ に 言わ れて る でしょ 。

パパ が 留守 の 間 は 、 三 人 一緒に 行動 する ように 、 って 」

「 じゃ 、 夕 里子 姉ちゃん 、 ハネムーン に も みんな で 行く つもり ?

「 あんた 、 極端な の 、 言う こと が 」

夕 里子 と 珠美 が やり 合って いる と 、 五十 がらみ の 紳士 が 、 三 人 の テーブル の そば を 通ろう と して 、 ふと 足 を 止め 、

「 おお 、 何 だ 、 佐々 本 君 じゃ ない か 」

と 言った 。

「 は ──?

声 を かけ られた 綾子 は 、 ポカン と して 、「 あの ── 私 、 佐々 本 綾子 で ございます が 」

その 紳士 、 笑い 出して 、

「 いや 、 君 は 、 大学 で 取って いる ゼミ の 教授 の 顔 も 憶 え とら ん の か ?

「 あ 、 先生 ── す 、 すみません !

綾子 は 、 あわてて 立ち上った ので 、 椅子 を 引っくり返して 、 また 、「 キャッ !

と 、 悲鳴 を 上げる 始末 。

夕 里子 は ため息 を ついた 。

「 妹 の 夕 里子 です 」

と 、 自己 紹介 して 、「 これ が 一 番 下 の 珠美 です 。

姉 を どうか 落第 さ せ ないで 下さい 」

と 挨拶 した 。

「 なるほど 。

君 ら が 有名な 佐々 本 の 三 人 姉妹 か 。 私 は 教授 の 沼 淵 だ 」

あ 、 そう だった 。

綾子 も やっと 名前 が 分 って 、 ホッと した 。

「 あの ──」

と 、 夕 里子 が 言った 。

「 私 たち の こと 、 どういう 風 に 有名な んです か ? 「 いや 、 まあ 風 の 便り に ね ……」

と 、 沼 淵 は とぼけた 。

「 じゃ 、 大学 、 無 試験 で 入れて 下さい 」

と 、 珠美 が 言い 出して 、 夕 里子 に つつか れた 。

「── そうだ 」

と 、 沼 淵 は 何 か 思い 付いた 様子 で 、「 佐々 本 君 、 この 年 末 年始 は 予定 が ある の か ?

「 はい 」

と 、 綾子 は 答えた 。

「 そう か 。

残念だ な 」

「 ずっと うち に いる 予定 です 」

綾子 は 、 別に ふざけて いる わけで は ない のである 。

「 そう か 」

沼 淵 は 笑い を こらえ ながら 、「 いや 、 実は 、 いい 家庭 教師 は い ない か と 頼ま れて いて な 」

「 家庭 教師 です か ?

「 そう な んだ 。

君 、 ヒマ なら 、 やって みちゃ どう だ ? 姉さん が 家庭 教師 ね 。

── 夕 里子 は 、 この 先生 、 お 姉さん の こと 、 全然 分 って ない ね 、 と 思った 。 一 日 で 断ら れて 来る こと 、 必至である 。

「 でも ── それ は 学生 課 の 方 の 仕事 じゃ あり ませ ん か ?

と 、 綾子 が 珍しく まともな こと を 言った 。

「 休み に 入って から 、 話 が 来た の さ 」

と 、 沼 淵 が 言った 。

「 それ も 、 個人 的に 、 私 の 所 へ 来た んだ 」

「 先生 の ご存知 の 方 な んです か ?

「 大分 昔 の 教え子 な んだ よ 。

そこ の 子 が 十三 歳 な んだ そうだ 」

「 十三 です か 」

「 男の子 で 、 決して 頭 の 悪い 子 じゃ ない らしい が 、 少し 病気 がちで 、 学校 も 一 年 遅れて いる 。

その分 を 、 何とか 取り戻し たい 、 と いう こと な んだ 。 ── どう だ ね ? 「 私 に つとまる でしょう か 」

「 大丈夫 さ 。

相手 は 十三 だ ぞ 。 ── ただ 、 この 暮れ から 、 と いう こと な ので 、 なかなか 、 見付ける の は 容易じゃ ない 、 と 言って おいた よ 」

「 は あ 。

でも ── もし 、 私 が やる と したら ──」

「 やって くれる か ?

と 、 沼 淵 が 訊 いた 。

「 いや 、 もし 引き受けて くれる と ありがたい 。 石垣 も 喜ぶ だろう 」

「 石垣 さん と おっしゃる んです か 」

「 うん 。

父親 も 母親 も 私 の 教え子 で ね 。 二 人 と も 、 なかなか ユニークな 学生 だった 」

ユニークな 点 じゃ 、 綾子 も 負け ない 。

「── 本当に やって くれる か ?

沼 淵 に 訊 かれて 、 綾子 は 夕 里子 の 方 を 向いて 、

「 どう する ?

妹 に 訊 いて りゃ 世話 は ない 。

「 一 日 いくら いただける んです か ?

と 、 夕 里子 が 訊 いた 。

「 うん 。

一 日 に 一万 円 出す と 言う んだ 」

珠美 の 目 が 輝いた 。

「 お 姉ちゃん !

絶対 に 引き受け な よ ! 「 あんた は 黙って て 」

と 、 夕 里子 が つつく 。

「 実は 、 場所 が 不便な んだ よ 」

と 、 沼 淵 が 言った 。

「 子供 の 健康 の こと を 考えて 山 の 中 に 住んで いる 」

「 エベレスト か どこ か です か ?

「 珠美 。

── じゃ 、 泊り 込み です ね 」

「 うん 。

ただし 、 そこ は ホテル な んだ 。 夏 の 間 の 山荘 と いう か な 。 だから 、 いくら でも 部屋 は ある 」

「 経営 して いる んです か 」

「 そう らしい 。

── ま 、 私 も ここ しばらく 会って い ない から 、 詳しい こと は 知ら ん が 、 電話 の 話 で は 、 冬 の 間 は 閉めて いる ので 、 ヒマ だ そうだ 。 一 人 で来る の が 心細ければ 、 友だち と でも いい 、 と いう こと だった よ 」

「 姉妹 じゃ どう でしょう ?

「 珠美 !

図 々 し いわ よ 」

「 いや 、 構わ ん と も 」

と 、 沼 淵 は 首 を 振って 、「 向 う は 、 にぎやかな 方 が ありがたい と 言って いた よ 。

── どう だ ね 、 君 ら 三 人 で 行ったら ? 私 の 方 から 連絡 して おく 。 きれいな 山荘 で 、 温泉 も 出る らしい ぞ 」

珠美 が 、 身 を 乗り出す ように して 、

「 みんな タダ です か ?

「 あんた は 図 々 しい の !

「 もちろん さ 。

向 う は 、 何でも 親 の 遺産 で 悠々と 暮して いる らしい 。 そんな こと に 気 を つかう 必要 は ない よ 」

── 夕 里子 は 、 少し 迷って いた 。

いや 、 もちろん 、 家庭 教師 と して 頼ま れた の は 綾子 だ が 、 一 人 で そんな 所 へ 行か せる わけに は いか ない 。

しかし 、 三 人 と も で 、 みんな タダ で いい 、 と いう の は ……。

少し 話 が うま すぎる ような 気 が した のである 。

珠美 の 方 は 、 もう すっかり 行く 気 だ 。

そして 当の 綾子 は ── この 人 は 、 夕 里子 が 決めたら その 通り に する 。

「── じゃ 、 引き受けて くれる な ?

沼 淵 も 、 三 人 の 様子 を 見て いて 、 マネージャー 的 存在 が 夕 里子 である こと を 察した らしく 、 直接 夕 里子 に 訊 いた 。

夕 里子 は 、 少し 考えて から 、

「── 結構です 」

と 、 答えた 。

「 じゃ 、 いつ から お邪魔 すれば ? 「 早ければ 早い ほど いい らしい 。

君 ら の うち へ 電話 さ せる よ 」

「 分 り ました 」

夕 里子 は そう 言って から 、「 それ と 、 もう 一 つ ──」

「 何 だ ね ?

「 もしかしたら 、 あと 一 人 、 ふえる かも しれ ませ ん けど ……」

珠美 が 夕 里子 を つついて 、

「 国 友 さん でしょ !

お 姉ちゃん の 方 が 、 よっぽど 図 々 しい ! と 言った 。

そういう 勘 に かけて は 、 珠美 も 超 能力 に 近い もの を 持って いる のである ……。

さて ── 佐々 本家 の 三 姉妹 が 、 のんびり と 食後 の デザート 、 コーヒー を 楽しみ ながら 、 突然 舞い込んだ 「 うまい 話 」 に 、 それぞれ 思い を はせて いる ころ ……。

その ホテル の 、 レストラン の 照明 を 、 恨めし げ に 見上げて いた 男 が 、 ふと 呟いて いた 。

「 やれやれ ……。

あんな 高い レストラン で 、 ぬくぬく と 晩 飯 を 食って る 奴 も いる のに 、 どうして こっち は 空っ風 に 吹か れて なきゃ なら ない んだ ? 独り言 の つもりだった のに 、 聞か れ たく ない 人間 の 耳 に は 、 よく 入る もの で 、

「 そう グチ を 言う な 。

ここ で 死体 に なって る よりゃ いい だ ろ 」

その 声 に 振り返った 国 友 は 、

「 あ !

三崎 さん 」

と 、 あわてて 言った 。

「 何 だ 、 いつ 来た んです ? 一言 声 を かけて くれりゃ いい のに 」

国 友 の ボス に 当る 三崎 刑事 は 、 この 寒空 でも 、 いつ に 変ら ぬ 、 とぼけた 顔つき である 。

「 お前 が 何だか 物思い に 耽 って る から 、 邪魔 しちゃ 悪い と 思って な 」

と 、 真面目 くさった 顔 で 、「 例 の 可愛い 高校 生 の 娘 の こと でも 考えて る の か ?

「 冷やかさ ないで 下さい よ 。

ただ で さえ 寒くて しょうがない のに 」

と 、 国 友 は コート の 襟 を 立てて 、 マフラー を 引 張り上げた 。

「 へえ 、 国 友 君 は 、 そんなに 大きな 娘 が いる の か ?

と 、 やって 来た 検死 官 、 三崎 の 言葉 を 小 耳 に 挟んだ らしい 。

「 見かけ に よら ず トシ な んだ な 」

「 よして 下さい 。

娘 じゃ ない 、 恋人 です よ 」

国 友 は 少々 ふくれて 、「 それ より 、 どう です 、 被害 者 の 方 は ?

風 が 吹こう が 槍 が 降ろう が 、 殺人 事件 と なれば 、 刑事 と して は 出て 来 ない わけに は いか ない 。

昨日 が クリスマス だった から って 、 何の 関係 も ない のである 。

ここ は 、 高速 道路 の 下 。

昼 なお 薄暗い 、 寂しい 空間 である 。 ただ 、 昼間 は 子供 の 遊び場 に して ある らしく 、 周囲 に 金網 が めぐら して あって 、 ブランコ や シーソー 、 砂場 、 と いった 、 えらく クラシックな 遊具 が 並んで いた 。

しかし 、 昼間 だって 、 ほんの 短 時間 を 除けば 陽 が 当る と は 思え ない この 場所 で 、 この 真 冬 に 果して 遊ぶ 子 が いる の かしら 、 と 国 友 は 首 を かしげた のだった ……。

「 死んで る よ 」

と 、 検死 官 は 言った 。

「 そりゃ 分 って ます けど 」

「 まだ 若い のに な 。

気の毒だ 」

と 、 検死 官 は 首 を 振った 。

「 死因 は ?

「 絞殺 だ な 。

首 の 周囲 に 、 くっきり と 跡 が ある 。 しかし 、 現場 は ここ じゃ ない ぞ 」

「 それ は 分 っと る よ 」

と 、 三崎 が 肯 く 。

「 死後 、 大分 たって いる か ? 「 そう だ な 、 たぶん 半日 は ──」

「 半日 ?

と 、 国 友 は 思わず 訊 き 返した 。

「 十二 時間 、 と いう こと です か ? 「 そう 。

少なくとも それ 以上 だ 。 運んで 帰って 調べれば 、 もっと 詳しい こと が 分 る だろう が ね 」

「 今 が ── 午後 の 九 時 か 」

と 、 三崎 が 腕 時計 を 見る 。

「 して みる と 、 殺した 直後 に ここ へ 置か れた の なら 、 昼間 の 間 、 ずっと 放って あった こと に なる 」

国 友 と 三崎 は 、 風 で かすかに 揺れて いる ブランコ の そば に 歩み寄った 。

── キッ 、 キッ 、 と 、 金具 が きしむ 。

ブランコ の 一 つ に 、 その 娘 は 座って いた 。

── もちろん 、 死んで 、 と いう こと だ が 。

板 を 渡した だけ の ブランコ なら 、 落ちて しまって いる だろう 。

小さな 椅子 を 鎖 で 下げた ような 形 の ブランコ な ので 、 こうして 、 一見 した ところ 、 ただ 居眠り して いる ように 見える のである 。

「 しかし 、 三崎 さん ──」

と 、 国 友 は 言った 。

「 こう やって 暗い 所 で 見て いる と 、 よく 分 ら ない けど 、 もし ずっと 昼間 、 ここ に 放って あった の なら 、 やはり 誰 か 気 が 付き ます よ 」

「 うん 、 それ は そう だ な 」

「 つまり 、 どこ か で 殺さ れて 、 暗く なって から 、 ここ へ 運ば れた んでしょう 。

でも 今 の 時期 は 、 夕方 、 暗く なる の が 早い です から ね 」

「 目撃 者 が いる と 助かる が な 」

三崎 は 、 周囲 を 見 回した 。

片側 は 普通の 道路 、 反対 側 は アパート が 並んで いる 。

窓 が こっち へ 開いて いる が 、 たぶん 昼間 も 高架 の 高速 道路 の せい で 、 ほとんど 光 が 当る まい 。 今 は 当然 、 カーテン が 引か れて いた 。

「── あの 辺 を 聞き 込み に 回る こと に なり そうだ な 」

と 、 三崎 が 言った 。

風 が 、 更に 強まって 、 国 友 は 、 思わず 声 を 上げ そうに なる 。

── 畜生 ! 何て 寒い んだ 。

殺さ れた 娘 の 顔 を 、 国 友 は こわごわ 覗き 込んだ 。

首 を 絞め られた に して は 、 そう 苦悶 の 跡 が 残って い ない ので 、 少し ホッ と する 。

まだ 若い ── せいぜい 二十 歳 そこそこ で は ない か 。

服装 も 悪く ない 。

セーター の 上 に 、 かなり 暖か そうな ハーフコート 。 スカート は チェック の 模様 。

「 なかなか 美人 だ ぞ 」

と 、 三崎 が 言った 。

「 男 です か ね 」

「 かもし れ ん な 。

靴下 を はいて ない 」

三崎 に 言わ れて 、 目 を 下 へ やる と 、 なるほど 、 靴 は ちゃんと はいて いる が 、 靴下 なし である 。

「 殺して から 服 を 着せた の かも しれ ん な 。

靴下 を はか せる の を 忘れた 、 と いう こと も あり 得る 」

「 そう です ね 」

と 、 国 友 は 肯 いた 。

「 何 か 所持 品 は ?

「 何も あり ませ ん 」

と 、 国 友 が 首 を 振って 、「 たぶん 犯人 が 捨てた か 隠した か 、 でしょう 」

「── 三崎 さん 、 こんな もの が 」

と 、 警官 が 何やら ビニール 袋 に 入れて 持って 来る 。

「 何 だ ?

明り の 方 へ かざして 見る と 、 十字架 である 。

鎖 が ついて いて 、 首 から 下げて いた もの らしい 。 その 鎖 が 切れて いた 。

「 オモチャ に しちゃ 妙です ね 」

と 、 国 友 が それ を じっと 見て 、「 何 か 関係 が ある の か な ?

「 さあ ね 」

と 、 三崎 は 肩 を すくめた 。

「 他 に は 何も ない ようだ 。 ── おい 、 本庁 から は まだ か 」

殺人 事件 と なる と 、 M 署 だけ の 担当 で は なく 、 警視 庁 の 捜査 一 課 も 乗り出して 来る 。

「 今 、 連絡 が あり ました 」

と 、 パトカー の 警官 が 声 を かけて 来た 。

「 事故 の 渋滞 に 巻き 込ま れて 、 いくら サイレン を 鳴らして も 進め ない んだ そうです 」

「 やれやれ 」

と 、 三崎 は ため息 を ついた 。

「 三十 分 ほど で 着く だろう と ──」

「 分 った 」

と 、 三崎 は 手 を 上げて 見せた 。

国 友 は 、 その 娘 の 顔 に 、 明り を 当てた 。

確かに 、 なかなか の 美人 だ 。 イメージ から する と 、 どこ か の 女子 大 生 と いう ところ 。

化粧 っ 気 が ほとんど ない ので 、 学生 っぽく 見える のだろう 。

手 も 白くて ふっくら と して 、 どうも あまり 労働 に は 縁 の ない 様子 である 。

「── 寒い 所 に いたんじゃ ない か な 」

と 、 検死 官 が 、 いつの間に やら 、 そば へ 来て いる 。

「 どうして です ?

「 指 の 先 さ 。

── 少し 赤く なって る だ ろ 。 しもやけ だ よ 」

「 しもやけ ……」

なるほど 、 言わ れて よく 見る と 、 そう らしい 。

都会 に いる と 、 今どき あまり しもやけ が できる こと は ない が ……。

「 柔らかい 手 です ね 」

と 、 国 友 は 、 死体 の 手 を 、 そっと 持ち 上げた 。

もちろん 、 冷たく 、 こわばって いる が 、 生きて いる とき は 、 本当に 柔らかい 手 だったろう 。

寒風 が 吹けば 、 つい 両手 で 包み 込んで 守って やり たく なる ような 。

国 友 は 、 袖 を 少し 押し上げて 、 手首 の 方 まで 見る と 、 ギョッ と した 。

「 これ は ──」

「 何 だ ?

と 、 検死 官 が 覗く 。

手首 に 、 こす れた ような 、 痛々しい 傷 が ある のだ 。

「 縛ら れて いた らしい な 」

と 、 検死 官 が 言った 。

「 これ は 縄 の 跡 だ 」

「 ひどい こと を する !

国 友 は カッ と して 思わず 言った 。

「 よく 調べて みよう 。

他 に も 跡 が ない か どう か 、 な 」

検死 官 は そう 言う と 、 少し 離れて 、 金網 の 破れ 目 を 見て いる 三崎 の 方 へ と 歩いて 行った 。

国 友 は 、 ブランコ に 座った 死体 の 前 に しゃがみ 込んだ 。

左手 の 手首 に も 、 同じ 跡 を 見付けた 。

この 娘 は 、 理由 は 分 ら ない が 手首 を 縛ら れ 、 どこ か に 監禁 さ れて いた の かも しれ ない 。

誘拐 と いう こと も 考え られる 。

もちろん 、 届 は 出て い ない が 、 親 が 、 警察 へ 届け ないで 解決 しよう と する こと も ある のだ から 、 それ は あり 得 ない こと で は ない 。

しかし ── いずれ に して も 、 何とも むごい 傷跡 である 。

「 ひどい 奴 だ ……」

国 友 は 、 寒 さ も 忘れて 、 激しい 怒り で 胸 を 熱く して いた 。

「 必ず 犯人 を 捕まえて やる から な 」

そう 言って 、 国 友 は 、 がっくり と 前 に 垂れた 娘 の 顔 に 、 下 から 明り を 当てた 。

する と ── 娘 が 、 パチッ と 目 を 開き 、 ニッコリ 笑った 。


三 姉妹 探偵 団 4 Chapter 02 みっ|しまい|たんてい|だん|chapter

2  家庭 教師 かてい|きょうし

「── でも 、 妙な 話 だ ね 」 |みょうな|はなし||

と 、 夕 里子 が 言った 。 |ゆう|さとご||いった

「 その 男の子 、 超 能力 を 持って んじゃ ない の ? |おとこのこ|ちょう|のうりょく||もって||| 「 未来 を 予知 する 能力 ね 。 みらい||よち||のうりょく|

あったら 便利だろう な 」 |べんりだろう|

と 、 珠美 が ちょっと 考えて 、「 そう ! |たまみ|||かんがえて|

私 なら 、 まず 、 宝くじ の 当り 番号 を 教えて もらっちゃ う ! わたくし|||たからくじ||あたり|ばんごう||おしえて|| 「 あんた らしい わ 」

と 、 夕 里子 が 呆れて 、「 でも 、 ともかく その 子 の おかげ で 助かった んだ から 」 |ゆう|さとご||あきれて||||こ||||たすかった||

「 そう ね ……」

三 人 は 無事 を 祝って ── かつ 、 代り に 亡くなった あの 太った おばさん と 、 運転手 の 冥福 を 祈って (? みっ|じん||ぶじ||いわって||かわり||なくなった||ふとった|||うんてんしゅ||めいふく||いのって

)── ホテル で 食事 を して いた 。 ほてる||しょくじ|||

「 だけど 、 そんな こと って ある の かしら ?

と 、 綾子 は 言った 。 |あやこ||いった

「 偶然 かも しれ ない わ 」 ぐうぜん||||

「 でも 、 それ に しちゃ でき すぎ て る よ !

珠美 は 、 断固と して 、「 絶対 に 超 能力 よ ! たまみ||だんこと||ぜったい||ちょう|のうりょく|

と 、 主張 した 。 |しゅちょう|

「 どっち で も いい けど 、 ともかく 食べ なさい 。 ||||||たべ|

高い の よ 、 残さ ないで 」 たかい|||のこさ| It's too expensive. Don't leave it.

「 は あい 。 I love it.

── 夕 里子 姉ちゃん 、 すっかり 世帯 じ みて 来た ね 」 ゆう|さとご|ねえちゃん||せたい|||きた| Yuriko, you've become a household name, haven't you?

と 、 珠美 が からかう 。 |たまみ||

「 あんまり 世帯 じ みる と 、 国 友 さん に 嫌わ れる よ 」 |せたい||||くに|とも|||きらわ|| If you look too closely, Kunitomo-san won't like you."

「 何 よ ! なん| What is it?

夕 里子 が むき に なって 珠美 を にらむ 。 ゆう|さとご|||||たまみ|| Yuriko has her panties in a bunch and glares at Tamami.

「 よし なさい よ 」 "Okay, sir."

と 、 綾子 は 言った 。 |あやこ||いった

国 友 と いう の は 、 夕 里子 の 恋人 で 、 M 署 の 若き 刑事 である 。 くに|とも|||||ゆう|さとご||こいびと||m|しょ||わかき|けいじ|

当然 独身 。 とうぜん|どくしん Naturally single.

男 まさり と 定評 の ある (? おとこ|||ていひょう|| The famous "manly" (or is it?)

) 夕 里子 が 、 国 友 の 前 で は ぐっと 女らしく なる ── と いう の は 当人 のみ の 意見 で 、 はた目 に は 、 ちっとも 変ら ない と いう 評判 だった 。 ゆう|さとご||くに|とも||ぜん||||おんならしく||||||とうにん|||いけん||はため||||かわら||||ひょうばん| Yuriko's reputation was that she did not change at all when she was in front of Kunitomo.

「 ねえ 、 それ は ともかく さ 」 "Hey, you know what?

と 、 珠美 が 言った 。 |たまみ||いった

「 年 末 年始 は どう する の ? とし|すえ|ねんし|||| What do you do at the end of the year and the beginning of the new year? 「 どう って ? What do you mean?

食事 が 終って 、 デザート が 来る の を 待って いる ところ である 。 しょくじ||しまって|でざーと||くる|||まって|||

夕 里子 は 、 ゆう|さとご|

「 何も 計画 して ない んだ もの 。 なにも|けいかく|||| I don't have anything planned.

今 から どこ か 行こう った って 、 無理 よ 」 いま||||いこう|||むり| It's impossible to go anywhere now.

「 そう か あ ……。 I see. .......

つま ん ない な 」

と 、 珠美 は ふくれ っ つ ら で 、「 クラス の 子 、 みんな スキー と か スケート 、 温泉 と か 、 行く んだ よ 」 |たまみ|||||||くらす||こ||すきー|||すけーと|おんせん|||いく|| Tamami looked bloated and said, "All the kids in my class go skiing, skating, to the hot springs, and so on.

「 お 風呂 なら 、 うち で 入れる じゃ ない の 」 |ふろ||||いれる||| "We can bathe at home."

と 、 綾子 が 夢 の ない こと を 言い 出した 。 |あやこ||ゆめ|||||いい|だした Ayako started to talk about something she had never dreamed of.

「 たまに は 三 人 で 旅行 し ない ? ||みっ|じん||りょこう|| "Why don't the three of us take a trip together once in a while?

ねえ 」

珠美 の 意見 も 、 もっともで は ある 。 たまみ||いけん|||| Tamami's opinion is also plausible.

何しろ 珠美 だって もう 来年 は 高校 生 だ 。 なにしろ|たまみ|||らいねん||こうこう|せい| After all, Tamami will be a high school student next year.

別に 迷子 に なる 心配 を する 年齢 で は ない 。 べつに|まいご|||しんぱい|||ねんれい||| He is not old enough to worry about getting lost.

ただ 、 問題 は 長女 の 綾子 が 、 いとも 出 不精 と いう 点 に ある 。 |もんだい||ちょうじょ||あやこ|||だ|ぶしょう|||てん|| The problem, however, is that Ayako, the eldest daughter, has been very reluctant to go out.

「 あんた たち 、 行って くれば 。 ||おこなって| You guys should go.

私 、 うち で 寝て る 」 わたくし|||ねて| I'm sleeping at home."

── と 、 こういう 具合 。 ||ぐあい And here's the picture.

「 全く もう ! まったく| Oh, my God!

それ でも 二十 歳 ? ||にじゅう|さい But you're 20? 「 一応 ね 。 いちおう| I'm not sure.

あんた も 逆の 意味 で 十五 に は 思え ない わ よ 」 ||ぎゃくの|いみ||じゅうご|||おもえ||| I don't think you're fifteen either, just the opposite."

と 、 綾子 が 珍しく やり 返した 。 |あやこ||めずらしく||かえした Ayako responded in an unusual manner.

「 ええ と ……。

じゃ 、 コーヒー ね 」 |こーひー| Okay, coffee.

夕 里子 は 、 ウェイター を 呼んで 注文 する と 、「 ともかく 、 パパ に 言わ れて る でしょ 。 ゆう|さとご||||よんで|ちゅうもん||||ぱぱ||いわ||| Yuriko called the waiter to order.

パパ が 留守 の 間 は 、 三 人 一緒に 行動 する ように 、 って 」 ぱぱ||るす||あいだ||みっ|じん|いっしょに|こうどう||| He said the three of us should do things together while Dad is away."

「 じゃ 、 夕 里子 姉ちゃん 、 ハネムーン に も みんな で 行く つもり ? |ゆう|さとご|ねえちゃん|はねむーん|||||いく| I'm sure you'll be able to find a way to get a good deal on a new house.

「 あんた 、 極端な の 、 言う こと が 」 |きょくたんな||いう|| "You're extreme, you know that?"

夕 里子 と 珠美 が やり 合って いる と 、 五十 がらみ の 紳士 が 、 三 人 の テーブル の そば を 通ろう と して 、 ふと 足 を 止め 、 ゆう|さとご||たまみ|||あって|||ごじゅう|||しんし||みっ|じん||てーぶる||||とおろう||||あし||とどめ

「 おお 、 何 だ 、 佐々 本 君 じゃ ない か 」 |なん||ささ|ほん|きみ||| "Oh, what, it's Sasamoto-kun, isn't it?"

と 言った 。 |いった

「 は ──?

声 を かけ られた 綾子 は 、 ポカン と して 、「 あの ── 私 、 佐々 本 綾子 で ございます が 」 こえ||||あやこ||||||わたくし|ささ|ほん|あやこ||| When she was approached, Ayako looked blankly and said, "Um, my name is Ayako Sasamoto.

その 紳士 、 笑い 出して 、 |しんし|わらい|だして That gentleman started laughing,

「 いや 、 君 は 、 大学 で 取って いる ゼミ の 教授 の 顔 も 憶 え とら ん の か ? |きみ||だいがく||とって||ぜみ||きょうじゅ||かお||おく|||||

「 あ 、 先生 ── す 、 すみません ! |せんせい||

綾子 は 、 あわてて 立ち上った ので 、 椅子 を 引っくり返して 、 また 、「 キャッ ! あやこ|||たちのぼった||いす||ひっくりかえして||

と 、 悲鳴 を 上げる 始末 。 |ひめい||あげる|しまつ

夕 里子 は ため息 を ついた 。 ゆう|さとご||ためいき|| Yuriko sighed.

「 妹 の 夕 里子 です 」 いもうと||ゆう|さとご|

と 、 自己 紹介 して 、「 これ が 一 番 下 の 珠美 です 。 |じこ|しょうかい||||ひと|ばん|した||たまみ|

姉 を どうか 落第 さ せ ないで 下さい 」 あね|||らくだい||||ください Please don't let my sister fail."

と 挨拶 した 。 |あいさつ| I greeted him with a "hello".

「 なるほど 。 I see.

君 ら が 有名な 佐々 本 の 三 人 姉妹 か 。 きみ|||ゆうめいな|ささ|ほん||みっ|じん|しまい| 私 は 教授 の 沼 淵 だ 」 わたくし||きょうじゅ||ぬま|ふち| I am Professor Swamp Abyss."

あ 、 そう だった 。 Oh, that's right.

綾子 も やっと 名前 が 分 って 、 ホッと した 。 あやこ|||なまえ||ぶん||ほっと| Ayako was relieved to finally know her name.

「 あの ──」

と 、 夕 里子 が 言った 。 |ゆう|さとご||いった

「 私 たち の こと 、 どういう 風 に 有名な んです か ? わたくし|||||かぜ||ゆうめいな|| What are we famous for? 「 いや 、 まあ 風 の 便り に ね ……」 ||かぜ||たより|| "No, well with the letter of the wind ... ...."

と 、 沼 淵 は とぼけた 。 |ぬま|ふち|| Numafuchi blurted out, "I'm not sure I've ever seen anything like this before.

「 じゃ 、 大学 、 無 試験 で 入れて 下さい 」 |だいがく|む|しけん||いれて|ください "Then, please enter the university without an exam."

と 、 珠美 が 言い 出して 、 夕 里子 に つつか れた 。 |たまみ||いい|だして|ゆう|さとご||| Tamami started to say, "I'm not sure I can do this," and Yuriko poked her.

「── そうだ 」 そう だ

と 、 沼 淵 は 何 か 思い 付いた 様子 で 、「 佐々 本 君 、 この 年 末 年始 は 予定 が ある の か ? |ぬま|ふち||なん||おもい|ついた|ようす||ささ|ほん|きみ||とし|すえ|ねんし||よてい|||| Numafuchi seemed to have an idea, and asked, "Sasamoto, do you have any plans for the end of the year and the beginning of the new year?

「 はい 」

と 、 綾子 は 答えた 。 |あやこ||こたえた

「 そう か 。

残念だ な 」 ざんねんだ|

「 ずっと うち に いる 予定 です 」 ||||よてい| "I'm going to stay here forever."

綾子 は 、 別に ふざけて いる わけで は ない のである 。 あやこ||べつに|||||| Ayako was not kidding around.

「 そう か 」

沼 淵 は 笑い を こらえ ながら 、「 いや 、 実は 、 いい 家庭 教師 は い ない か と 頼ま れて いて な 」 ぬま|ふち||わらい|||||じつは||かてい|きょうし||||||たのま||| Numbu caught a laugh while saying, "No, in fact, you are being asked to have a good tutor."

「 家庭 教師 です か ? かてい|きょうし||

「 そう な んだ 。 I see.

君 、 ヒマ なら 、 やって みちゃ どう だ ? きみ|ひま||||| If you're not busy, why don't you give it a try? 姉さん が 家庭 教師 ね 。 ねえさん||かてい|きょうし| My sister is a governess.

── 夕 里子 は 、 この 先生 、 お 姉さん の こと 、 全然 分 って ない ね 、 と 思った 。 ゆう|さとご|||せんせい||ねえさん|||ぜんぜん|ぶん|||||おもった Yuriko thought that this teacher didn't understand her sister at all. 一 日 で 断ら れて 来る こと 、 必至である 。 ひと|ひ||ことわら||くる||ひっしである It is inevitable that they will come to us in one day.

「 でも ── それ は 学生 課 の 方 の 仕事 じゃ あり ませ ん か ? |||がくせい|か||かた||しごと||||| But isn't that the job of the student affairs office?

と 、 綾子 が 珍しく まともな こと を 言った 。 |あやこ||めずらしく||||いった Ayako said something unusually serious.

「 休み に 入って から 、 話 が 来た の さ 」 やすみ||はいって||はなし||きた|| "They came to me after the vacations."

と 、 沼 淵 が 言った 。 |ぬま|ふち||いった

「 それ も 、 個人 的に 、 私 の 所 へ 来た んだ 」 ||こじん|てきに|わたくし||しょ||きた| "It also came to me personally."

「 先生 の ご存知 の 方 な んです か ? せんせい||ごぞんじ||かた||| "Do you know this person?

「 大分 昔 の 教え子 な んだ よ 。 だいぶ|むかし||おしえご||| He was a student of mine a long time ago.

そこ の 子 が 十三 歳 な んだ そうだ 」 ||こ||じゅうさん|さい|||そう だ

「 十三 です か 」 じゅうさん||

「 男の子 で 、 決して 頭 の 悪い 子 じゃ ない らしい が 、 少し 病気 がちで 、 学校 も 一 年 遅れて いる 。 おとこのこ||けっして|あたま||わるい|こ|||||すこし|びょうき||がっこう||ひと|とし|おくれて| He's a boy, not a bad kid by any means, but he's a little sickly and a year behind in school.

その分 を 、 何とか 取り戻し たい 、 と いう こと な んだ 。 そのぶん||なんとか|とりもどし|||||| It is that I want to regain that part somehow. ── どう だ ね ? What do you think? 「 私 に つとまる でしょう か 」 わたくし|||| "Will it work for me?"

「 大丈夫 さ 。 だいじょうぶ|

相手 は 十三 だ ぞ 。 あいて||じゅうさん|| The other party is 13. ── ただ 、 この 暮れ から 、 と いう こと な ので 、 なかなか 、 見付ける の は 容易じゃ ない 、 と 言って おいた よ 」 ||くれ||||||||みつける|||よういじゃ|||いって|| I told him that it would be difficult to find them, since it would be at the end of the year.

「 は あ 。

でも ── もし 、 私 が やる と したら ──」 ||わたくし|||| But if I were to do it..."

「 やって くれる か ? "Can you do it?

と 、 沼 淵 が 訊 いた 。 |ぬま|ふち||じん| Numafuchi asked.

「 いや 、 もし 引き受けて くれる と ありがたい 。 ||ひきうけて||| No, I'd be grateful if you'd take me on. 石垣 も 喜ぶ だろう 」 いしがき||よろこぶ| Ishigaki will be pleased as well "

「 石垣 さん と おっしゃる んです か 」 いしがき|||||

「 うん 。

父親 も 母親 も 私 の 教え子 で ね 。 ちちおや||ははおや||わたくし||おしえご|| My father and mother were both my students. 二 人 と も 、 なかなか ユニークな 学生 だった 」 ふた|じん||||ゆにーくな|がくせい| They were both quite unique students."

ユニークな 点 じゃ 、 綾子 も 負け ない 。 ゆにーくな|てん||あやこ||まけ| Ayako is no slouch when it comes to uniqueness.

「── 本当に やって くれる か ? ほんとうに||| "Are you sure you can do it?

沼 淵 に 訊 かれて 、 綾子 は 夕 里子 の 方 を 向いて 、 ぬま|ふち||じん||あやこ||ゆう|さとご||かた||むいて Asked by Numabuchi, Ayako turned to Yuriko,

「 どう する ? What are you going to do?

妹 に 訊 いて りゃ 世話 は ない 。 いもうと||じん|||せわ|| I don't care if you ask my sister.

「 一 日 いくら いただける んです か ? ひと|ひ|||| "How much do you give me a day?

と 、 夕 里子 が 訊 いた 。 |ゆう|さとご||じん|

「 うん 。

一 日 に 一万 円 出す と 言う んだ 」 ひと|ひ||いちまん|えん|だす||いう|

珠美 の 目 が 輝いた 。 たまみ||め||かがやいた The eye of Meyrite shined.

「 お 姉ちゃん ! |ねえちゃん

絶対 に 引き受け な よ ! ぜったい||ひきうけ|| Do not accept it! 「 あんた は 黙って て 」 ||だまって| "You shut your mouth."

と 、 夕 里子 が つつく 。 |ゆう|さとご||

「 実は 、 場所 が 不便な んだ よ 」 じつは|ばしょ||ふべんな|| "Actually, it's not a great location."

と 、 沼 淵 が 言った 。 |ぬま|ふち||いった

「 子供 の 健康 の こと を 考えて 山 の 中 に 住んで いる 」 こども||けんこう||||かんがえて|やま||なか||すんで|

「 エベレスト か どこ か です か ? えべれすと||||| "Everest or somewhere?

「 珠美 。 たまみ

── じゃ 、 泊り 込み です ね 」 |とまり|こみ||

「 うん 。

ただし 、 そこ は ホテル な んだ 。 |||ほてる|| However, it is a hotel. 夏 の 間 の 山荘 と いう か な 。 なつ||あいだ||さんそう|||| だから 、 いくら でも 部屋 は ある 」 |||へや|| So there's plenty of room."

「 経営 して いる んです か 」 けいえい|||| "Do you run a business?"

「 そう らしい 。 "Apparently so.

── ま 、 私 も ここ しばらく 会って い ない から 、 詳しい こと は 知ら ん が 、 電話 の 話 で は 、 冬 の 間 は 閉めて いる ので 、 ヒマ だ そうだ 。 |わたくし||||あって||||くわしい|||しら|||でんわ||はなし|||ふゆ||あいだ||しめて|||ひま||そう だ I haven't seen him for a while, so I don't know much about him, but he told me on the phone that he's closed for the winter, so he's not busy. 一 人 で来る の が 心細ければ 、 友だち と でも いい 、 と いう こと だった よ 」 ひと|じん|できる|||こころぼそければ|ともだち|||||||| He said that if I didn't feel comfortable coming alone, I could come with a friend.

「 姉妹 じゃ どう でしょう ? しまい|||

「 珠美 ! たまみ

図 々 し いわ よ 」 ず|||| It's brazen."

「 いや 、 構わ ん と も 」 |かまわ||| "No, no, I don't mind."

と 、 沼 淵 は 首 を 振って 、「 向 う は 、 にぎやかな 方 が ありがたい と 言って いた よ 。 |ぬま|ふち||くび||ふって|むかい||||かた||||いって|| Numafuchi shook his head and said, "The other side said that they appreciate the bustle.

── どう だ ね 、 君 ら 三 人 で 行ったら ? |||きみ||みっ|じん||おこなったら I don't know. Why don't you three go together? 私 の 方 から 連絡 して おく 。 わたくし||かた||れんらく|| I will contact you. きれいな 山荘 で 、 温泉 も 出る らしい ぞ 」 |さんそう||おんせん||でる|| It's a beautiful mountain lodge with a hot spring.

珠美 が 、 身 を 乗り出す ように して 、 たまみ||み||のりだす|| Tamami leaned forward,

「 みんな タダ です か ? |ただ|| "Is it free for everyone?

「 あんた は 図 々 しい の ! ||ず||| You are brazen!

「 もちろん さ 。 Of course.

向 う は 、 何でも 親 の 遺産 で 悠々と 暮して いる らしい 。 むかい|||なんでも|おや||いさん||ゆうゆうと|くらして|| It seems that they are living comfortably on their parents' inheritance. そんな こと に 気 を つかう 必要 は ない よ 」 |||き|||ひつよう|||

── 夕 里子 は 、 少し 迷って いた 。 ゆう|さとご||すこし|まよって|

いや 、 もちろん 、 家庭 教師 と して 頼ま れた の は 綾子 だ が 、 一 人 で そんな 所 へ 行か せる わけに は いか ない 。 ||かてい|きょうし|||たのま||||あやこ|||ひと|じん|||しょ||いか||||| Of course, Ayako was asked to be the governess, but I couldn't let her go to such a place alone.

しかし 、 三 人 と も で 、 みんな タダ で いい 、 と いう の は ……。 |みっ|じん|||||ただ|||||| However, all three of us are free of charge. ......

少し 話 が うま すぎる ような 気 が した のである 。 すこし|はなし|||||き||| It seemed a little too good to be true.

珠美 の 方 は 、 もう すっかり 行く 気 だ 。 たまみ||かた||||いく|き| Tamami is already ready to go.

そして 当の 綾子 は ── この 人 は 、 夕 里子 が 決めたら その 通り に する 。 |とうの|あやこ|||じん||ゆう|さとご||きめたら||とおり|| And Ayako, on the other hand, would do exactly as Yuriko decided.

「── じゃ 、 引き受けて くれる な ? |ひきうけて|| "Well then, will you take care of it?

沼 淵 も 、 三 人 の 様子 を 見て いて 、 マネージャー 的 存在 が 夕 里子 である こと を 察した らしく 、 直接 夕 里子 に 訊 いた 。 ぬま|ふち||みっ|じん||ようす||みて||まねーじゃー|てき|そんざい||ゆう|さとご||||さっした||ちょくせつ|ゆう|さとご||じん| Numafuchi also seemed to have sensed Yuriko's presence as a manager by watching the three of them, and asked her directly.

夕 里子 は 、 少し 考えて から 、 ゆう|さとご||すこし|かんがえて|

「── 結構です 」 けっこうです

と 、 答えた 。 |こたえた

「 じゃ 、 いつ から お邪魔 すれば ? |||おじゃま| When should I start? 「 早ければ 早い ほど いい らしい 。 はやければ|はやい||| "The earlier the earlier, the better.

君 ら の うち へ 電話 さ せる よ 」 きみ|||||でんわ|||

「 分 り ました 」 ぶん||

夕 里子 は そう 言って から 、「 それ と 、 もう 一 つ ──」 ゆう|さとご|||いって|||||ひと|

「 何 だ ね ? なん||

「 もしかしたら 、 あと 一 人 、 ふえる かも しれ ませ ん けど ……」 ||ひと|じん|||||| Maybe one more person will join us. ......

珠美 が 夕 里子 を つついて 、 たまみ||ゆう|さとご|| Tamami poked Yuriko,

「 国 友 さん でしょ ! くに|とも||

お 姉ちゃん の 方 が 、 よっぽど 図 々 しい ! |ねえちゃん||かた|||ず|| Your sister is much more brazen than me! と 言った 。 |いった

そういう 勘 に かけて は 、 珠美 も 超 能力 に 近い もの を 持って いる のである ……。 |かん||||たまみ||ちょう|のうりょく||ちかい|||もって|| When it comes to that kind of intuition, Tamami has something close to a superpower. ......

さて ── 佐々 本家 の 三 姉妹 が 、 のんびり と 食後 の デザート 、 コーヒー を 楽しみ ながら 、 突然 舞い込んだ 「 うまい 話 」 に 、 それぞれ 思い を はせて いる ころ ……。 |ささ|ほんけ||みっ|しまい||||しょくご||でざーと|こーひー||たのしみ||とつぜん|まいこんだ||はなし|||おもい|||| Well now ─ ─ The three sisters of Sasami Honke's thoughts are putting their thoughts on "suicide" suddenly whilst enjoying the dessert and coffee after the meal slowly ....

その ホテル の 、 レストラン の 照明 を 、 恨めし げ に 見上げて いた 男 が 、 ふと 呟いて いた 。 |ほてる||れすとらん||しょうめい||うらめし|||みあげて||おとこ|||つぶやいて|

「 やれやれ ……。

あんな 高い レストラン で 、 ぬくぬく と 晩 飯 を 食って る 奴 も いる のに 、 どうして こっち は 空っ風 に 吹か れて なきゃ なら ない んだ ? |たかい|れすとらん||||ばん|めし||くって||やつ|||||||からっかぜ||ふか||||| Why do we have to sit out in the open air when some of them are eating their dinner in the comfort of that expensive restaurant? 独り言 の つもりだった のに 、 聞か れ たく ない 人間 の 耳 に は 、 よく 入る もの で 、 ひとりごと||||きか||||にんげん||みみ||||はいる|| I thought I was talking to myself, but people who don't want to be heard often hear me,

「 そう グチ を 言う な 。 |||いう|

ここ で 死体 に なって る よりゃ いい だ ろ 」 ||したい||||||| It's better than being dead in here."

その 声 に 振り返った 国 友 は 、 |こえ||ふりかえった|くに|とも| Kunitomo turned around at the sound of that voice,

「 あ !

三崎 さん 」 みさき|

と 、 あわてて 言った 。 ||いった Said in a hurry.

「 何 だ 、 いつ 来た んです ? なん|||きた| "What, when did you come? 一言 声 を かけて くれりゃ いい のに 」 いちげん|こえ||||| A word of advice would have been nice."

国 友 の ボス に 当る 三崎 刑事 は 、 この 寒空 でも 、 いつ に 変ら ぬ 、 とぼけた 顔つき である 。 くに|とも||ぼす||あたる|みさき|けいじ|||さむぞら||||かわら|||かおつき| The boss of the Kunitomo group, Detective Misaki, still has the same nonchalant expression on his face, even in this cold weather.

「 お前 が 何だか 物思い に 耽 って る から 、 邪魔 しちゃ 悪い と 思って な 」 おまえ||なんだか|ものおもい||たん||||じゃま||わるい||おもって| "You were being a bit pensive, and I didn't want to intrude."

と 、 真面目 くさった 顔 で 、「 例 の 可愛い 高校 生 の 娘 の こと でも 考えて る の か ? |まじめ||かお||れい||かわいい|こうこう|せい||むすめ||||かんがえて||| And, with a serious face, "Are you thinking about the daughter of an example cute high school student?

「 冷やかさ ないで 下さい よ 。 ひややか さ||ください| Don't be so cold.

ただ で さえ 寒くて しょうがない のに 」 |||さむくて|| Even for free, I'm so cold."

と 、 国 友 は コート の 襟 を 立てて 、 マフラー を 引 張り上げた 。 |くに|とも||こーと||えり||たてて|まふらー||ひ|はりあげた Kunitomo turned up the collar of his coat and pulled up his scarf.

「 へえ 、 国 友 君 は 、 そんなに 大きな 娘 が いる の か ? |くに|とも|きみ|||おおきな|むすめ|||| "Oh, you have such a big daughter, Kunitomo?

と 、 やって 来た 検死 官 、 三崎 の 言葉 を 小 耳 に 挟んだ らしい 。 ||きた|けんし|かん|みさき||ことば||しょう|みみ||はさんだ|

「 見かけ に よら ず トシ な んだ な 」 みかけ||||とし||| "You're as old as you look."

「 よして 下さい 。 |ください Please don't do that.

娘 じゃ ない 、 恋人 です よ 」 むすめ|||こいびと|| She's not my daughter, she's my lover.

国 友 は 少々 ふくれて 、「 それ より 、 どう です 、 被害 者 の 方 は ? くに|とも||しょうしょう||||||ひがい|もの||かた| Kunitomo became a little flustered and asked, "But more importantly, how are the victims doing?

風 が 吹こう が 槍 が 降ろう が 、 殺人 事件 と なれば 、 刑事 と して は 出て 来 ない わけに は いか ない 。 かぜ||ふこう||やり||ふろう||さつじん|じけん|||けいじ||||でて|らい||||| Whether the wind blows or the spears descend, but if it becomes a murder case, it can not be impossible to appear as a detective.

昨日 が クリスマス だった から って 、 何の 関係 も ない のである 。 きのう||くりすます||||なんの|かんけい||| The fact that it was Christmas yesterday had nothing to do with it.

ここ は 、 高速 道路 の 下 。 ||こうそく|どうろ||した This is under the highway.

昼 なお 薄暗い 、 寂しい 空間 である 。 ひる||うすぐらい|さびしい|くうかん| ただ 、 昼間 は 子供 の 遊び場 に して ある らしく 、 周囲 に 金網 が めぐら して あって 、 ブランコ や シーソー 、 砂場 、 と いった 、 えらく クラシックな 遊具 が 並んで いた 。 |ひるま||こども||あそびば|||||しゅうい||かなあみ|||||ぶらんこ|||すなば||||くらしっくな|ゆうぐ||ならんで| However, during the daytime, it seemed to be a playground for children, with wire mesh around the perimeter and a line of very classic playground equipment, including swings, seesaws, and a sandbox.

しかし 、 昼間 だって 、 ほんの 短 時間 を 除けば 陽 が 当る と は 思え ない この 場所 で 、 この 真 冬 に 果して 遊ぶ 子 が いる の かしら 、 と 国 友 は 首 を かしげた のだった ……。 |ひるま|||みじか|じかん||のぞけば|よう||あたる|||おもえ|||ばしょ|||まこと|ふゆ||はたして|あそぶ|こ||||||くに|とも||くび||| However, even in the daytime, the kokoro wrote his head, if there is a child playing in this winter at this place where it is unlikely that the sun will hit except for a short time ....

「 死んで る よ 」 しんで|| "You're dead."

と 、 検死 官 は 言った 。 |けんし|かん||いった

「 そりゃ 分 って ます けど 」 |ぶん||| "Of course I know that."

「 まだ 若い のに な 。 |わかい||

気の毒だ 」 きのどくだ

と 、 検死 官 は 首 を 振った 。 |けんし|かん||くび||ふった The coroner shook his head.

「 死因 は ? しいん|

「 絞殺 だ な 。 こうさつ||

首 の 周囲 に 、 くっきり と 跡 が ある 。 くび||しゅうい||||あと|| しかし 、 現場 は ここ じゃ ない ぞ 」 |げんば||||| But this is not where it's happening.

「 それ は 分 っと る よ 」 ||ぶん||| I know that.

と 、 三崎 が 肯 く 。 |みさき||こう|

「 死後 、 大分 たって いる か ? しご|だいぶ||| "Has it been long since his death? 「 そう だ な 、 たぶん 半日 は ──」 ||||はんにち| Yeah, maybe half a day.

「 半日 ? はんにち

と 、 国 友 は 思わず 訊 き 返した 。 |くに|とも||おもわず|じん||かえした

「 十二 時間 、 と いう こと です か ? じゅうに|じかん||||| 「 そう 。

少なくとも それ 以上 だ 。 すくなくとも||いじょう| At least more than that. 運んで 帰って 調べれば 、 もっと 詳しい こと が 分 る だろう が ね 」 はこんで|かえって|しらべれば||くわしい|||ぶん|||| I'm sure we'll know more once we get it home and check it out."

「 今 が ── 午後 の 九 時 か 」 いま||ごご||ここの|じ|

と 、 三崎 が 腕 時計 を 見る 。 |みさき||うで|とけい||みる Misaki looks at his wristwatch.

「 して みる と 、 殺した 直後 に ここ へ 置か れた の なら 、 昼間 の 間 、 ずっと 放って あった こと に なる 」 |||ころした|ちょくご||||おか||||ひるま||あいだ||はなって|||| Let's look at it this way: "If they put him here right after they killed him, then they must have left him here all day long.

国 友 と 三崎 は 、 風 で かすかに 揺れて いる ブランコ の そば に 歩み寄った 。 くに|とも||みさき||かぜ|||ゆれて||ぶらんこ||||あゆみよった

── キッ 、 キッ 、 と 、 金具 が きしむ 。 |||かなぐ||

ブランコ の 一 つ に 、 その 娘 は 座って いた 。 ぶらんこ||ひと||||むすめ||すわって| The girl was sitting on one of the swings.

── もちろん 、 死んで 、 と いう こと だ が 。 |しんで||||| Of course, I mean dead.

板 を 渡した だけ の ブランコ なら 、 落ちて しまって いる だろう 。 いた||わたした|||ぶらんこ||おちて||| If the swing had been just a plank, it would have fallen off.

小さな 椅子 を 鎖 で 下げた ような 形 の ブランコ な ので 、 こうして 、 一見 した ところ 、 ただ 居眠り して いる ように 見える のである 。 ちいさな|いす||くさり||さげた||かた||ぶらんこ||||いっけん||||いねむり||||みえる|

「 しかし 、 三崎 さん ──」 |みさき|

と 、 国 友 は 言った 。 |くに|とも||いった Kunitomo said.

「 こう やって 暗い 所 で 見て いる と 、 よく 分 ら ない けど 、 もし ずっと 昼間 、 ここ に 放って あった の なら 、 やはり 誰 か 気 が 付き ます よ 」 ||くらい|しょ||みて||||ぶん||||||ひるま|||はなって|||||だれ||き||つき|| "Although I do not know well when I look at it in a dark place, if I have been left here for the daytime, I will notice anyone as I expected."

「 うん 、 それ は そう だ な 」 "Yeah, that's true."

「 つまり 、 どこ か で 殺さ れて 、 暗く なって から 、 ここ へ 運ば れた んでしょう 。 ||||ころさ||くらく|||||はこば|| In other words, he was killed somewhere and brought here after dark.

でも 今 の 時期 は 、 夕方 、 暗く なる の が 早い です から ね 」 |いま||じき||ゆうがた|くらく||||はやい|||

「 目撃 者 が いる と 助かる が な 」 もくげき|もの||||たすかる||

三崎 は 、 周囲 を 見 回した 。 みさき||しゅうい||み|まわした

片側 は 普通の 道路 、 反対 側 は アパート が 並んで いる 。 かたがわ||ふつうの|どうろ|はんたい|がわ||あぱーと||ならんで|

窓 が こっち へ 開いて いる が 、 たぶん 昼間 も 高架 の 高速 道路 の せい で 、 ほとんど 光 が 当る まい 。 まど||||あいて||||ひるま||こうか||こうそく|どうろ|||||ひかり||あたる| The window is open this way, but there is little light, probably because of the elevated highway, even during the day. 今 は 当然 、 カーテン が 引か れて いた 。 いま||とうぜん|かーてん||ひか||

「── あの 辺 を 聞き 込み に 回る こと に なり そうだ な 」 |ほとり||きき|こみ||まわる||||そう だ| "I guess we'll have to start canvassing that area."

と 、 三崎 が 言った 。 |みさき||いった

風 が 、 更に 強まって 、 国 友 は 、 思わず 声 を 上げ そうに なる 。 かぜ||さらに|つよまって|くに|とも||おもわず|こえ||あげ|そう に|

── 畜生 ! ちくしょう 何て 寒い んだ 。 なんて|さむい|

殺さ れた 娘 の 顔 を 、 国 友 は こわごわ 覗き 込んだ 。 ころさ||むすめ||かお||くに|とも|||のぞき|こんだ

首 を 絞め られた に して は 、 そう 苦悶 の 跡 が 残って い ない ので 、 少し ホッ と する 。 くび||しめ||||||くもん||あと||のこって||||すこし|ほっ|| I am relieved to see that the strangulation did not leave a trace of anguish.

まだ 若い ── せいぜい 二十 歳 そこそこ で は ない か 。 |わかい||にじゅう|さい||||| He is still young, maybe twenty or so at the most.

服装 も 悪く ない 。 ふくそう||わるく| The clothes are not bad either.

セーター の 上 に 、 かなり 暖か そうな ハーフコート 。 せーたー||うえ|||あたたか|そう な| スカート は チェック の 模様 。 すかーと||ちぇっく||もよう The skirt has a check pattern.

「 なかなか 美人 だ ぞ 」 |びじん|| She's quite beautiful.

と 、 三崎 が 言った 。 |みさき||いった

「 男 です か ね 」 おとこ||| "Is it a man?"

「 かもし れ ん な 。 Maybe.

靴下 を はいて ない 」 くつした||| No socks."

三崎 に 言わ れて 、 目 を 下 へ やる と 、 なるほど 、 靴 は ちゃんと はいて いる が 、 靴下 なし である 。 みさき||いわ||め||した|||||くつ||||||くつした||

「 殺して から 服 を 着せた の かも しれ ん な 。 ころして||ふく||きせた||||| "Maybe he killed her and then dressed her.

靴下 を はか せる の を 忘れた 、 と いう こと も あり 得る 」 くつした||||||わすれた||||||える It could be that they forgot to put their socks on.

「 そう です ね 」

と 、 国 友 は 肯 いた 。 |くに|とも||こう|

「 何 か 所持 品 は ? なん||しょじ|しな|

「 何も あり ませ ん 」 なにも||| "There is nothing."

と 、 国 友 が 首 を 振って 、「 たぶん 犯人 が 捨てた か 隠した か 、 でしょう 」 |くに|とも||くび||ふって||はんにん||すてた||かくした|| Kunitomo shook his head and said, "Maybe the murderer threw it away or hid it.

「── 三崎 さん 、 こんな もの が 」 みさき|||| Mr. Misaki, something like this...

と 、 警官 が 何やら ビニール 袋 に 入れて 持って 来る 。 |けいかん||なにやら|びにーる|ふくろ||いれて|もって|くる A policeman comes with something in a plastic bag.

「 何 だ ? なん|

明り の 方 へ かざして 見る と 、 十字架 である 。 あかり||かた|||みる||じゅうじか| Holding it up to the light, we see it is a cross.

鎖 が ついて いて 、 首 から 下げて いた もの らしい 。 くさり||||くび||さげて||| It had a chain attached to it and was apparently worn around the neck. その 鎖 が 切れて いた 。 |くさり||きれて| The chain was broken.

「 オモチャ に しちゃ 妙です ね 」 おもちゃ|||みょうです|

と 、 国 友 が それ を じっと 見て 、「 何 か 関係 が ある の か な ? |くに|とも|||||みて|なん||かんけい||||| My friend stared at it and said, "Is there a connection?

「 さあ ね 」 "Come on."

と 、 三崎 は 肩 を すくめた 。 |みさき||かた||

「 他 に は 何も ない ようだ 。 た|||なにも|| There doesn't seem to be anything else. ── おい 、 本庁 から は まだ か 」 |ほんちょう|||| Hey, are you still from the main office? "

殺人 事件 と なる と 、 M 署 だけ の 担当 で は なく 、 警視 庁 の 捜査 一 課 も 乗り出して 来る 。 さつじん|じけん||||m|しょ|||たんとう||||けいし|ちょう||そうさ|ひと|か||のりだして|くる When it comes to the murder case, it is not only the responsibility of the M police station, but also the investigation department of the Metropolitan Police Department.

「 今 、 連絡 が あり ました 」 いま|れんらく||| "We just got the call."

と 、 パトカー の 警官 が 声 を かけて 来た 。 |ぱとかー||けいかん||こえ|||きた A police officer in a patrol car called out to us.

「 事故 の 渋滞 に 巻き 込ま れて 、 いくら サイレン を 鳴らして も 進め ない んだ そうです 」 じこ||じゅうたい||まき|こま|||さいれん||ならして||すすめ|||そう です "They're stuck in traffic from the accident, and no matter how many sirens they sound, they can't get going."

「 やれやれ 」

と 、 三崎 は ため息 を ついた 。 |みさき||ためいき|| Misaki sighed.

「 三十 分 ほど で 着く だろう と ──」 さんじゅう|ぶん|||つく|| "We should be there in about 30 minutes."

「 分 った 」 ぶん|

と 、 三崎 は 手 を 上げて 見せた 。 |みさき||て||あげて|みせた

国 友 は 、 その 娘 の 顔 に 、 明り を 当てた 。 くに|とも|||むすめ||かお||あかり||あてた The friend shone a light on the girl's face.

確かに 、 なかなか の 美人 だ 。 たしかに|||びじん| Indeed, she is quite beautiful. イメージ から する と 、 どこ か の 女子 大 生 と いう ところ 。 いめーじ|||||||じょし|だい|せい||| The image I have of her is that of some college girl.

化粧 っ 気 が ほとんど ない ので 、 学生 っぽく 見える のだろう 。 けしょう||き|||||がくせい||みえる| She has almost no makeup, which probably makes her look like a student.

手 も 白くて ふっくら と して 、 どうも あまり 労働 に は 縁 の ない 様子 である 。 て||しろくて||||||ろうどう|||えん|||ようす| Her hands are white and plump, and she does not appear to be much of a laborer.

「── 寒い 所 に いたんじゃ ない か な 」 さむい|しょ||||| Maybe you've been out in the cold.

と 、 検死 官 が 、 いつの間に やら 、 そば へ 来て いる 。 |けんし|かん||いつのまに||||きて| The coroner was standing by.

「 どうして です ?

「 指 の 先 さ 。 ゆび||さき| It's the tip of my finger.

── 少し 赤く なって る だ ろ 。 すこし|あかく|||| You're a little red. しもやけ だ よ 」 It's frostbite."

「 しもやけ ……」

なるほど 、 言わ れて よく 見る と 、 そう らしい 。 |いわ|||みる||| I see, and looking at it more closely, it seems to be so.

都会 に いる と 、 今どき あまり しもやけ が できる こと は ない が ……。 とかい||||いまどき|||||||| In the city, you don't get many chilblains nowadays. ......

「 柔らかい 手 です ね 」 やわらかい|て|| "You have soft hands."

と 、 国 友 は 、 死体 の 手 を 、 そっと 持ち 上げた 。 |くに|とも||したい||て|||もち|あげた Kunitomo gently lifted up the corpse's hand.

もちろん 、 冷たく 、 こわばって いる が 、 生きて いる とき は 、 本当に 柔らかい 手 だったろう 。 |つめたく||||いきて||||ほんとうに|やわらかい|て| They are cold and stiff, of course, but when they were alive, they must have been really soft.

寒風 が 吹けば 、 つい 両手 で 包み 込んで 守って やり たく なる ような 。 かんぷう||ふけば||りょうて||つつみ|こんで|まもって||||

国 友 は 、 袖 を 少し 押し上げて 、 手首 の 方 まで 見る と 、 ギョッ と した 。 くに|とも||そで||すこし|おしあげて|てくび||かた||みる|||| The national friend pushed up the sleeve a little, and when I looked up to the wrist, I felt guilty.

「 これ は ──」

「 何 だ ? なん|

と 、 検死 官 が 覗く 。 |けんし|かん||のぞく

手首 に 、 こす れた ような 、 痛々しい 傷 が ある のだ 。 てくび|||||いたいたしい|きず||| There was a painful scar on his wrist, as if he had rubbed it.

「 縛ら れて いた らしい な 」 しばら|||| "I heard you were tied up."

と 、 検死 官 が 言った 。 |けんし|かん||いった

「 これ は 縄 の 跡 だ 」 ||なわ||あと|

「 ひどい こと を する ! "You do terrible things!

国 友 は カッ と して 思わず 言った 。 くに|とも|||||おもわず|いった Kunitomo was so angry that he couldn't help but say, "I'm sorry, I'm sorry, I'm sorry.

「 よく 調べて みよう 。 |しらべて| Let's look into it.

他 に も 跡 が ない か どう か 、 な 」 た|||あと||||||

検死 官 は そう 言う と 、 少し 離れて 、 金網 の 破れ 目 を 見て いる 三崎 の 方 へ と 歩いて 行った 。 けんし|かん|||いう||すこし|はなれて|かなあみ||やぶれ|め||みて||みさき||かた|||あるいて|おこなった

国 友 は 、 ブランコ に 座った 死体 の 前 に しゃがみ 込んだ 。 くに|とも||ぶらんこ||すわった|したい||ぜん|||こんだ Kunitomo crouched down in front of the corpse on the swing.

左手 の 手首 に も 、 同じ 跡 を 見付けた 。 ひだりて||てくび|||おなじ|あと||みつけた I found the same mark on my left wrist.

この 娘 は 、 理由 は 分 ら ない が 手首 を 縛ら れ 、 どこ か に 監禁 さ れて いた の かも しれ ない 。 |むすめ||りゆう||ぶん||||てくび||しばら|||||かんきん|||||||

誘拐 と いう こと も 考え られる 。 ゆうかい|||||かんがえ| Kidnapping is another possibility.

もちろん 、 届 は 出て い ない が 、 親 が 、 警察 へ 届け ないで 解決 しよう と する こと も ある のだ から 、 それ は あり 得 ない こと で は ない 。 |とどけ||でて||||おや||けいさつ||とどけ||かいけつ||||||||||||とく||||| Of course, this is not impossible, since parents sometimes try to solve a problem without reporting it to the police, even though it has not been reported.

しかし ── いずれ に して も 、 何とも むごい 傷跡 である 。 |||||なんとも||きずあと| But anyway, it is a very ugly scar.

「 ひどい 奴 だ ……」 |やつ|

国 友 は 、 寒 さ も 忘れて 、 激しい 怒り で 胸 を 熱く して いた 。 くに|とも||さむ|||わすれて|はげしい|いかり||むね||あつく||

「 必ず 犯人 を 捕まえて やる から な 」 かならず|はんにん||つかまえて|||

そう 言って 、 国 友 は 、 がっくり と 前 に 垂れた 娘 の 顔 に 、 下 から 明り を 当てた 。 |いって|くに|とも||||ぜん||しだれた|むすめ||かお||した||あかり||あてた Saying this, Kunitomo shined the light from below on his daughter's face, which was drooping forward.

する と ── 娘 が 、 パチッ と 目 を 開き 、 ニッコリ 笑った 。 ||むすめ||||め||あき|にっこり|わらった Then my daughter opened her eyes and smiled at me.