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三姉妹探偵団 4 怪奇篇, 三 姉妹 探偵 団 4 Chapter 01

三 姉妹 探偵 団 4 Chapter 01

1 危ない プロローグ 私 は 、 ここ で 一体 何 を して いる の かしら ? 私 が 、 今 、 ここ に いる こと は 、 人類 の 歴史 に とって 、 どんな 意味 が ある のだろう ?

── 佐々 本 綾子 は 、 哲学 的 思索 に 耽って いた 。

綾子 が 、 佐々 本家 の 三 人 姉妹 の 長女 である こと は 、 読者 の 方 も たぶん ご 承知 の 通り 。

そして 、 活気 溢れる ( 少し 溢れ 過ぎて 、 氾濫 を 起す こと も ある ) 次女 の 夕 里子 、 財政 感覚 抜群 の 三女 珠美 に 比べれば 、 綾子 が 沈 思 黙 考 に 耽 って 少しも 不思議で ない 性格 だ と いう こと も ご存知 だろう 。

綾子 が 二十 歳 の 女子 大 生 だ と いう 点 も 、 多少 は ……。

しかし 、 十八 歳 の 高校 三 年生 夕 里子 、 十五 歳 の 中学 三 年生 珠美 に して も 、 別に 、 まる きり もの を 考え ない と いう わけで は ない のだ 。

ただ 、 三 姉妹 の 中 で は 、 綾子 が 際立って 落ちついて いる ( よく 言えば ) ので 、 やはり 物思い に 耽 る こと も 、 つい 多く なる のである 。

私 は 一体 ……。

グーッ と 綾子 の お腹 が 鳴った 。

「 私 の お腹 は どうして 鳴る の かしら ?

」 と 、 綾子 は 呟いた ……。 チャリン 、 と 音 が して 、 綾子 の 足 の ところ で 百 円 玉 が 一 つ はねた 。

顔 を 上げる と 、 七 つ か 八 つ ぐらい の 女の子 。

「 お 金 、 落とした わ よ 」 と 、 綾子 は 、 その 百 円 玉 を 拾う と 、「 はい 、 これ 」 「 いい の 」 と 、 女の子 が 首 を 振った 。 「 え ?

」 「 あげて らっしゃい 、 って ママ が 」 「 ママ が ? 」 「 あの お 姉ちゃん 、 お腹 空かして 、 可哀そうだ から 、 これ で 何 か 買って 食べ なさい って 、 あげて らっしゃい って 。 ── じゃあ ね 」 「 バイバイ 」 と 、 つい つられて 手 を 振った もの の ……。 百 円 玉 を 手 に 、 綾子 は ポカン と して いた が 、 やがて 、 やっと 自分 の 「 立場 」 を 自覚 して 、 真 赤 に なり 、 立ち上った 。

「 いやだ わ !

本当に ──」 しかし 、 状況 と して は 誤解 さ れて も 仕方なかった かも しれ ない 。 ── ここ は 繁華街 の 地下 。 外 の 寒 さ を 避けて 、 暮れ の 買物 に どっと くり出した 人 たち で 、 地下 の 通路 は あたかも ラッシュアワー の 電車 の ホーム の ような 混雑 だった 。

そして 、 柱 の 陰 だの 、 ショーウィンドウ の 前 に は 、 やはり 表 は 寒 すぎる ので 、 地下 に 逃げて 来た 浮 浪 者 たち が 、 何 人 も ゴロ 寝 して いる 。

そんな 中 で 、 綾子 は 一 人 、 ポツンと 階段 の 隅 の 方 に 腰 を おろして いた のだ 。

まあ 、 よく 見れば ( よく 見 なく って も よ ! ── と 綾子 は 抗議 したろう が ) 着て いる 物 だって 、 そう ひどく ない し 、 のんびり 屋 ながら 神経質な ので 、 身 ぎれい に は して いる のだ 。

ま 、 その 「 ママ 」 が 、 よっぽど 目 が 悪かった のだ と でも 思う しか ある まい 。

だけど ── 困って しまった 。

あの 女の子 から 、 百 円 もらう 理由 が ない 。

と いって 、 今 から あの 女の子 を 、 この 人 の 波 の 中 から 捜し出す こと は 不可能だった 。

「 夕 里子 たち 、 何 して る の かしら ?

」 と 、 綾子 は 呟いた 。 そう な のだ 。

もと は と 言えば 、 夕 里子 と 珠美 が 、 なかなか 戻って 来 ない の が いけない のである 。

── 人 、 また 人 の 光景 に 、 繊細な 綾子 は 目 が 回り そうに なって 、 つい 座り込んで しまった のだった 。

しかし 、 それ も 無理 は ない 。

クリスマス も 昨日 の こと と なって 、 既に 今年 も 余す ところ 数 日 ──。 学校 は 冬 休み 、 ボーナス は ほとんど 出揃って 、 どの 家 も 、 年 末 年始 の 買物 に どっと くり出す この 日 。

外 は 寒く 、 灰色 の 、 いや 鉛 色 の 空 は 雪 を まき散らし そうな 気配 だった が 、 デパート の 出入 口 に あたる この 地下 街 は 、 今や 春 を 盛り の にぎわい である 。

「 早く 戻って 来 ない か なあ 」 綾子 も 、 この とき に は 、 普遍 的な 真理 ── お腹 が グーッ と 鳴る とき は たいてい お腹 が 空いて いる のだ 、 と いう こと を 、 感覚 的に 悟って いた のだった 。 もっとも 、 そんな 文句 を 言ったら 、 夕 里子 、 珠美 の 二 人 の 妹 ── と いう より 小 姑 に 近かった が ── から 、 「 何も し ないで 座って たくせ に 、 何 言って ん の よ ! 」 と 叱り 飛ばさ れる に 違いない 。 そう 。

── 姉 の 私 が 、 いつも 妹 から 叱ら れる んだ から 。 こんな こと って 、 あって いい の かしら ?

長女 と して 、 綾子 は 多少 の 嘆き と 共に 考えた のだ が ……。

ふと 、 誰 か が すぐ そば に 立って いる の に 気付いた 綾子 は 、 てっきり 妹 たち だ と 思って 、 「 終った の ? 」 と 言い つつ 、 振り向いた 。 だが 、 そこ に 立って いた の は 、 夕 里子 でも 珠美 で も なかった 。

一 人 の 少年 が 立って いた のである 。

不思議な 目 が 、 綾子 を 見つめて いた 。

大きな 目 ── と いって も 、 気 を 取り 直して 見返す と 、 やや 大きい 、 と いう 程度 で しか ない のだ が 、 初め 、 視線 が 出会った とき 、 綾子 は 一瞬 、 その 黒い 瞳 が 目の前 一 杯 に 迫って 来る ように 感じて 、 ハッと した ほど だった 。

「 あ 、 ごめんなさい 」 と 、 綾子 は あわてて 言って 、 それ から さっき の 女の子 の こと を 思い出し 、「 私 、 ただ 連れ を 待って る だけ な の 。 別に ── 行 く あて が ない わけじゃ ない の よ 」 と 、 付け加えた 。 少年 は 、 たぶん 十二 、 三 歳 と いう ところ だろう 、 色白で 、 体つき は ほっそり して いる が 、 顔立ち は ふっくら と よく 整って 、 子役 か 何 か やって いる の かしら と 思う ほど 、 可愛い 。

しかし 、 その 表情 に は どこ か 冷ややかな ところ が あって 、「 可愛い 」 と いう 形容 を 拒んで いる ようだった 。

少年 は 、 襟 に 毛皮 の ついた 、 高級な コート を はおって いた 。

── スタイル や 印象 は 、「 いい と この お 坊っちゃん 」 である 。

「── 何 か ご用 ?

」 少年 が 、 黙って こっち を 見つめて いる ので 、 綾子 は 、 そう 訊 いて みた 。 顔 に 何 か ついて る の かしら ?

「 気 を 付けて 」 と 、 少年 が 言った 。 落ちついて 、 よく 通る 声 だった 。

「 え ?

」 「 オレンジ色 の タクシー に 乗っちゃ いけない よ 」 と 、 少年 は 言った 。 「 何で すって ?

」 「 オレンジ色 の タクシー に 乗ら ないで 」 少年 は くり返す と 、「 じゃ ──」 と 、 背 を 向けて 、 歩き 出した 。 面食らった 綾子 は 、 「 ねえ ── 一体 何の こと ? 」 と 、 声 を かけて いた 。 少年 が 、 振り返って 、 「 また 会おう ね 」 と 言った 。 「── お 姉ちゃん !

」 甲高い 声 に 、 綾子 は ハッと 我 に 返った 。 「 は 、 は いはい !

」 振り向く と 、 夕 里子 が 両 手一杯 の 買物 袋 に 、 顔 を 真 赤 に して 立って いる 。 「 早く 持って 、 これ !

── ぼんやり して ないで ! 」 「 は 、 はい 、 分 った わ よ 。 ── 珠美 は ? 」 「 今 来る でしょ 」 夕 里子 は 、 荷物 を 少し 姉 に 分ける と 、 フーッ と 息 を ついて 、「 ああ 、 くたびれた ! 」 「 全部 、 済んだ の ? 」 「 大体 ね 」 と 、 夕 里子 は 肯 いて 、「 後 は スーパー で 買えば 済む わ 。 ── でも 、 人間 、 お 正月 の 何 日間 か 買物 に 出 ないで すまそう と 思う と 、 こんなに 色 んな もの が いる の ね 」 「 そう ね ……」 綾子 は 、 答え ながら 、 今 、 少年 が 歩いて 行った 方 へ と 目 を やって いた 。 もちろん 、 少年 の 姿 は とっくに 人 の 波間 に 呑 ま れて 消えて いた が ……。

「 珠美 ったら 、 何 やって ん の かしら !

── ああ 、 戻って 来た 」 夕 里子 が 手 を 振る と 、 珠美 が やはり 紙袋 を 両手 に 下げて 駆けて 来る 。 「 お 待た せ !

」 と 、 珠美 は 、 息 こそ 弾ま せて いる が 、 元気 一 杯 。 「 あんた 、 お 菓子 買う だけ で 、 どうして こんなに 時間 が かかった の よ ?

」 と 、 夕 里子 が 訊 く と 、 「 お つりがね 、 足 ん なかった の 」 と 、 珠美 は 言った 。 「 だ から 言って やった んだ けど 、 なかなか 信じて くん なくて さ 。 十 円 取り戻す のに 十 分 ぐらい かかっちゃ った 」 「 あんた は もう ……」 夕 里子 は 苦笑い した 。 「 ね 、 お 姉ちゃん !

お腹 空いた よ ! 死に そうだ ! もう 歩け ない ! 」 「 そう わめか ないで よ 」 と 、 夕 里子 は 顔 を しかめて 、「 私 も ペコペコ 。 だけど 、 この 辺 の 食堂 なんて 、 どこ も 満員 よ 」 「 じゃ 、 どこ か 少し 高い 所 に 入ろう 。 ね 、 綾子 姉ちゃん ? 」 「 うん ……」 と 、 綾子 は 何気なく 肯 いて 、「 あ 、 そうだ 。 パパ から お 金 預 って たん だ 。 クリスマス に 家 に い られ ない から 、 三 人 で 何 か 食べろ って 」 夕 里子 と 珠美 は 顔 を 見合わせた 。 ── 綾子 は 、 二 人 が 一斉に 非難 の 言葉 を 浴びせて 来る に 違いない と 分 って いた ので 、 「 そう と 決 ったら 、 さ 、 早く 行 こ 。 私 も お腹 ペコペコ よ ! 」 と 、 さっさと 歩き 出した 。 珍しく 、 綾子 の 先制 勝ち であった ……。

「── ねえ 、 タクシー 拾おう 」 と 、 表 に 出る と 、 珠美 が 言った 。 「 この 荷物 だ よ ! とても じゃ ない けど ──」 「 分 った 、 分 った 」 夕 里子 が 、 北風 に 首 を すぼめ ながら 、「 こう 寒くちゃ ね 。 でも 、 空車 、 来る か なあ 」 年の瀬 であり 、 しかも 道 行く 人 の ほとんど は 、 大きな 買物 袋 を 下げて いて 、 タクシー を 捜して いる 様子 。 「── あ 、 お 姉ちゃん !

来た ! 」 と 、 珠美 が 叫んだ 。 正に 、 たった今 、 客 を おろした ばかりの 空車 が 、 走って 来た のである 。

「 ついて る !

珠美 、 停めて ! 」 と 、 夕 里子 が 言った 。 綾子 は 、 ちょっと ぼんやり して その タクシー を 眺めて いた 。

タクシー 。

── タクシー が どうかした 、 と か ……。 何 だった かしら ?

そう 。

あの 子 が 言った んだ 。

オレンジ色 の タクシー に は 乗ら ないで 、 と ……。

走って 来る タクシー は 、 オレンジ色 だった 。

「 ちょっと 、 タクシー !

」 珠美 が 手 を 上げて 、 その タクシー が 、 三 人 の 立って いる 方 へ と 寄せて 来る 。 「 待って !

」 と 、 綾子 は 叫んで いた 。 「 だめ よ 、 その 車 ! 」 「 お 姉ちゃん 、 どうした の ? 」 夕 里子 が 目 を 丸く した 。 「 だめ 、 オレンジ色 の タクシー は ──」 「 ほら 、 早く 乗ろう よ 」 と 、 珠美 が 、 ドア が 開く の を 見て 、 振り向いた 。 「 何 して ん の ? 」 「 やめ なさい 、 珠美 、 乗っちゃ だめ 」 と 、 綾子 は 言った 。 「 ええ ?

何で え ? 」 「 ともかく だめな の ! 」 「 だって ──」 もめて いる ところ へ 、 「 ちょっと ごめんなさい 」 と 、 やたら 太った おばさん が 割り込んで 来た と 思う と 、 さっさと 、 その タクシー に 乗り込んで しまった 。 「 あ ──」 夕 里子 と 珠美 が 声 を 出す 間もなく 、 その タクシー は 、 走り出して いた のである 。 「 あの ── T ホテル まで 」 と 、 綾子 は 、 タクシー の 助手 席 に 座る と 、 言った 。 「 ね 、 二 人 と も 、 何でも 好きな もの 食べて いい から ね 」 後ろ に 荷物 に 埋れ そうに なって 座って いる 夕 里子 と 珠美 へ 、 綾子 は 精一杯 愛想 良く 微笑み かけた のだ が ──。 返って 来た の は 、 冷ややかな 恨み の こもった 視線 ばかり だった 。

綾子 と して も 、 妹 たち の 気持 が 分 ら ない で は ない 。

何しろ さっき の オレンジ色 の タクシー に 乗り そこねた おかげ で 、 次の 空車 が 来る まで 、 待つ こと 何と 三十 分 ! しかも 冷たい 木 枯 し の 吹く 中 である 。

でも …… 私 に 怒った って 仕方ない でしょ 。

私 は ただ 、 あの 奇妙な 男の子 の 言った 通り に した だけ なんだ もの 。

綾子 は 、 充分に その辺 の 事情 を 、 夕 里子 たち に 説明 した のである 。

しかし 、 それ を 聞いて 二 人 は 、 「 そう ! じゃ 仕方ない わ ね 」 と は ── 言って くれ なかった 。 ま 、 考えて みりゃ 当り前である 。

これ で 納得 しろ と いう 方 が 無理だ 。 綾子 だって 、 決して 、 本気に して いた と いう わけで は ない 。

ただ ── 気 が 付いた とき に は 、 妹 たち を 押し止めて いた のである 。

「 本当に ねえ ……」 と 、 後ろ の 座席 で 、 珠美 が 聞こえよ がし に 独り言 (? ) を 言って いた 。 「 これ で 風邪 ひいて 肺炎 に なって 、 哀れ 十五 の 身 で 一生 を 終える かも しれ ない わ 。 ── 夕 里子 姉ちゃん 」 「 何 よ 」 「 私 の 生命 保険 、 受取 人 は 夕 里子 姉ちゃん 一 人 に し とく から 」 「 サンキュー 」 「 絶対 に 、 綾子 姉ちゃん に は 渡さ ないで ね ! 」 「 任し とき 」 ── 聞いて いて 、 綾子 は 、 ため息 を ついた 。 私 は いつも 妹 二 人 の 幸せ を 願って いる のに 、 どうして こんなに 恨ま れる の かしら ?

でも ── 仕方ない 。

イエス ・ キリスト も 故郷 じゃ 嫌わ れた って いう し ……。

大分 スケール の 違う こと を 考えて いる と 、 急に 車 の 流れ が 悪く なった 。

「 おや 、 事故 だ な 」 と 、 運転手 が 言った 。 「 どこ どこ ?

」 野次馬 根性 旺盛な 珠美 が 腰 を 浮かす 。 「── トラック と タクシー だ 。

ひどい な 、 ありゃ 」 交差 点 の ど真中 。 十 トン 級 の 大きな トラック が 、 タクシー を 半分 押し潰して 停 って いる 。

見 知った 顔 を 見付けた らしい 、 運転手 が 窓 を 下ろして 、 隣 に 停 って いる タクシー の 方 へ 手 を 振った 。

向 う の 運転手 も 気 が 付いて 、 窓 を 下ろす 。

「 ひどい なあ 」 「 ああ 、 ブレーキ が きか なく なった らしい ぜ 」 「 ブレーキ ? トラック の 方 か ? 」 「 いや 、 タクシー さ 。 そのまま の スピード で 突っ込んで 、 ガシャン 、 だ 」 「 可哀そうに 。 ── 助から なかったろう な 」 「 お 客 も 死 ん じ まった らしい ぜ 。 さっき 、 救急 車 の 奴 が 話して た 」 「 ふ ー ん 。 運 が 悪かった なあ 」 ── 警官 が 、 夕 里子 たち の 乗った タクシー に 、 進め と 合図 を して いた 。 「 おっと 。

じゃ また な 」 「 気 を 付けろ よ 」 タクシー が ゆっくり と 走り出し 、 交差 点 の 真中 で 、 ぶつかった まま に なって いる トラック と タクシー の 傍 を 通る 。 「── 見て !

」 と 、 夕 里子 が 声 を 上げた 。 トラック に 半分 潰さ れて しまって いる の は 、 オレンジ色 の タクシー だった 。

「 お 姉ちゃん 、 あの 人 ──」 と 、 珠美 が 、 言い かけて 、 息 を 呑 む 。 ちょうど 担架 に 乗せ られて 、 タクシー の 客 が 運ば れて 行く ところ で 、 顔 は 布 で 覆わ れて いた が 、 その でっぷり した 体つき 、 コート に は 、 見 憶 え が あった 。

「── さっき 、 私 たち が 乗ろう と した タクシー だ 」 と 、 夕 里子 は 言って 、 珠美 と 顔 を 見合わせた 。 「 綾子 姉ちゃん ……」 「 お 姉ちゃん 、 さすが 長女 だ ね 」 「 だ から 、 私 も さっき から 言って た でしょ 。 年上 の 人間 の 言う こと は 聞く もん だ 、 って ……」 と 、 言った の は 珠美 だった 。 綾子 の 方 は 、 「 ほら 見なさ い 」 と 言って やって も いい のだ が 、 正直な ところ 、 本当に あの タクシー が 「 危なかった 」 のだ と 分 った ショック の 方 が 大きかった のである 。 「── でも 」 と 、 綾子 は 言った 。 「 本当に 、 いつも パパ が 出張 する と 、 ろくな こと が 起ら ない の よ ね ……」 そう 。 ── 三 人 の パパ は 六 年 前 に 奥さん を 亡くして やもめ 暮し 。 娘 三 人 と 一緒に マンション 住い だ が 、 仕事 上 、 出張 が 多い 。

ことに この ところ 海外 出張 が ふえて 、 三 人 姉妹 だけ で マンション に いる こと が 多い のだ が 、 この 年 末 も 、 急な 出張 に なって しまった 。

三 人 で 暮して いて も 、 別に 困る こと は ない 。

三 人 と も 子供 じゃ ない のだ し 、 特に 次女 の 夕 里子 は しっかり者 だ 。

ただ …… この 三 人 姉妹 、 何しろ よく 妙な 事件 に 巻き込ま れる と いう くせ が ある 。

「 変な こと 言わ ないで よ 、 お 姉ちゃん 」 と 、 夕 里子 が 言った 。 しかし 、 その 言葉 も どうやら 空しく なり そうな 気配 であった ……。


三 姉妹 探偵 団 4 Chapter 01 みっ|しまい|たんてい|だん|chapter Three Sisters Detective Agency 4 Chapter 01 Três Irmãs Detectives 4 Capítulo 01.

1  危ない プロローグ   私 は 、 ここ で 一体 何 を して いる の かしら ? あぶない|ぷろろーぐ|わたくし||||いったい|なん||||| 1 Dangerous prologue What am I doing here? 私 が 、 今 、 ここ に いる こと は 、 人類 の 歴史 に とって 、 どんな 意味 が ある のだろう ? わたくし||いま||||||じんるい||れきし||||いみ||| What does it mean for me to be here for the history of mankind?

── 佐々 本 綾子 は 、 哲学 的 思索 に 耽って いた 。 ささ|ほん|あやこ||てつがく|てき|しさく||たんって| ── Ayako Sasamoto was indulged in philosophical thinking.

綾子 が 、 佐々 本家 の 三 人 姉妹 の 長女 である こと は 、 読者 の 方 も たぶん ご 承知 の 通り 。 あやこ||ささ|ほんけ||みっ|じん|しまい||ちょうじょ||||どくしゃ||かた||||しょうち||とおり Readers probably know that Reiko is the first daughter of Sasa Honka's three sisters.

そして 、 活気 溢れる ( 少し 溢れ 過ぎて 、 氾濫 を 起す こと も ある ) 次女 の 夕 里子 、 財政 感覚 抜群 の 三女 珠美 に 比べれば 、 綾子 が 沈 思 黙 考 に 耽 って 少しも 不思議で ない 性格 だ と いう こと も ご存知 だろう 。 |かっき|あふれる|すこし|あふれ|すぎて|はんらん||おこす||||じじょ||ゆう|さとご|ざいせい|かんかく|ばつぐん||さんじょ|たまみ||くらべれば|あやこ||しず|おも|もく|こう||たん||すこしも|ふしぎで||せいかく||||||ごぞんじ| And Ayako indulges in a serendipity of silence thinking, compared with Yuzuko, the second lady who is full of liveliness (which is a little too overflowing and can cause flooding), Sanjo Tomomi outstanding financial sense, it seems a little strange personality You know what to say.

綾子 が 二十 歳 の 女子 大 生 だ と いう 点 も 、 多少 は ……。 あやこ||にじゅう|さい||じょし|だい|せい||||てん||たしょう| The fact that Ayako is a 20-year-old female college student is a little ...

しかし 、 十八 歳 の 高校 三 年生 夕 里子 、 十五 歳 の 中学 三 年生 珠美 に して も 、 別に 、 まる きり もの を 考え ない と いう わけで は ない のだ 。 |じゅうはち|さい||こうこう|みっ|ねんせい|ゆう|さとご|じゅうご|さい||ちゅうがく|みっ|ねんせい|たまみ||||べつに|||||かんがえ||||||| However, even if you are an 18 - year - old high school third - grader evening Riko, a 15 - year - old junior high school third grader Tsumi, it is not that we do not think of a whole round thing.

ただ 、 三 姉妹 の 中 で は 、 綾子 が 際立って 落ちついて いる ( よく 言えば ) ので 、 やはり 物思い に 耽 る こと も 、 つい 多く なる のである 。 |みっ|しまい||なか|||あやこ||きわだって|おちついて|||いえば|||ものおもい||たん|||||おおく|| However, among the three sisters, Ayako is remarkably calm (in a nutshell), so she often indulges in thoughts.

私 は 一体 ……。 わたくし||いったい

グーッ と 綾子 の お腹 が 鳴った 。 ||あやこ||おなか||なった Ayako's belly rang.

「 私 の お腹 は どうして 鳴る の かしら ? わたくし||おなか|||なる|| "Why is my stomach ringing?

」   と 、 綾子 は 呟いた ……。 |あやこ||つぶやいた チャリン 、 と 音 が して 、 綾子 の 足 の ところ で 百 円 玉 が 一 つ はねた 。 ||おと|||あやこ||あし||||ひゃく|えん|たま||ひと|| There was a clinking sound, and a hundred-yen coin bounced off Ayako's feet.

顔 を 上げる と 、 七 つ か 八 つ ぐらい の 女の子 。 かお||あげる||なな|||やっ||||おんなのこ When I raise my face, there are about seven or eight girls.

「 お 金 、 落とした わ よ 」   と 、 綾子 は 、 その 百 円 玉 を 拾う と 、「 はい 、 これ 」 「 いい の 」   と 、 女の子 が 首 を 振った 。 |きむ|おとした||||あやこ|||ひゃく|えん|たま||ひろう|||||||おんなのこ||くび||ふった "I dropped the money," Ayako picked up the 100-yen coin, and said, "Yes, this," "Good," and the girl shook her head. 「 え ?

」 「 あげて らっしゃい 、 って ママ が 」 「 ママ が ? |||まま||まま| "Mommy got me to give you," Mommy? 」 「 あの お 姉ちゃん 、 お腹 空かして 、 可哀そうだ から 、 これ で 何 か 買って 食べ なさい って 、 あげて らっしゃい って 。 ||ねえちゃん|おなか|すかして|かわいそうだ||||なん||かって|たべ||||| "" Your sister is hungry and pitiful, so I'll give you something to buy and eat. " ── じゃあ ね 」 「 バイバイ 」   と 、 つい つられて 手 を 振った もの の ……。 ||||||て||ふった|| Okay, bye. "Bye-bye." I waved my hand at ....... 百 円 玉 を 手 に 、 綾子 は ポカン と して いた が 、 やがて 、 やっと 自分 の 「 立場 」 を 自覚 して 、 真 赤 に なり 、 立ち上った 。 ひゃく|えん|たま||て||あやこ|||||||||じぶん||たちば||じかく||まこと|あか|||たちのぼった With a 100-yen coin in his hand, Ayako used to be a pokan, but eventually she realized her "position" and turned bright red and stood up.

「 いやだ わ ! "No!

本当に ──」   しかし 、 状況 と して は 誤解 さ れて も 仕方なかった かも しれ ない 。 ほんとうに||じょうきょう||||ごかい||||しかたなかった||| ── ここ は 繁華街 の 地下 。 ||はんかがい||ちか 外 の 寒 さ を 避けて 、 暮れ の 買物 に どっと くり出した 人 たち で 、 地下 の 通路 は あたかも ラッシュアワー の 電車 の ホーム の ような 混雑 だった 。 がい||さむ|||さけて|くれ||かいもの|||くりだした|じん|||ちか||つうろ|||||でんしゃ||ほーむ|||こんざつ| Outside the cold, people rushed out into the shopping at night, and the underground passage was as crowded as the rush hour train home.

そして 、 柱 の 陰 だの 、 ショーウィンドウ の 前 に は 、 やはり 表 は 寒 すぎる ので 、 地下 に 逃げて 来た 浮 浪 者 たち が 、 何 人 も ゴロ 寝 して いる 。 |ちゅう||かげ||||ぜん||||ひょう||さむ|||ちか||にげて|きた|うか|ろう|もの|||なん|じん|||ね|| In the shadows of the pillars and in front of the show windows, many vagabonds who had fled to the basement because it was too cold outside were lounging.

そんな 中 で 、 綾子 は 一 人 、 ポツンと 階段 の 隅 の 方 に 腰 を おろして いた のだ 。 |なか||あやこ||ひと|じん|ぽつんと|かいだん||すみ||かた||こし||||

まあ 、 よく 見れば ( よく 見 なく って も よ ! ||みれば||み|||| Well, if you look closely (you don't have to look closely! ── と 綾子 は 抗議 したろう が ) 着て いる 物 だって 、 そう ひどく ない し 、 のんびり 屋 ながら 神経質な ので 、 身 ぎれい に は して いる のだ 。 |あやこ||こうぎ|||きて||ぶつ|||||||や||しんけいしつな||み|||||| -Even though the dumplings protested, they were wearing something that wasn't so bad and they were laid back while being leisurely and nervous, so they were ugly.

ま 、 その 「 ママ 」 が 、 よっぽど 目 が 悪かった のだ と でも 思う しか ある まい 。 ||まま|||め||わるかった||||おもう||| Well, there is nothing for me to think that the "Mama" has a bad eye.

だけど ── 困って しまった 。 |こまって| But ── I was in trouble.

あの 女の子 から 、 百 円 もらう 理由 が ない 。 |おんなのこ||ひゃく|えん||りゆう|| There is no reason to get a hundred yen from that girl.

と いって 、 今 から あの 女の子 を 、 この 人 の 波 の 中 から 捜し出す こと は 不可能だった 。 ||いま|||おんなのこ|||じん||なみ||なか||さがしだす|||ふかのうだった But now it was impossible to find that girl in the waves of this person.

「 夕 里子 たち 、 何 して る の かしら ? ゆう|さとご||なん|||| "Yuurikos, what are you doing?

」   と 、 綾子 は 呟いた 。 |あやこ||つぶやいた ", Ayako whispered. そう な のだ 。 That's right.

もと は と 言えば 、 夕 里子 と 珠美 が 、 なかなか 戻って 来 ない の が いけない のである 。 |||いえば|ゆう|さとご||たまみ|||もどって|らい||||| Speaking of the original, Yuuriko and Tamami are not able to come back easily.

── 人 、 また 人 の 光景 に 、 繊細な 綾子 は 目 が 回り そうに なって 、 つい 座り込んで しまった のだった 。 じん||じん||こうけい||せんさいな|あやこ||め||まわり|そう に|||すわりこんで|| 繊 細 At the sight of the person and the person, the delicate lion was about to turn his eyes and sat down at last.

しかし 、 それ も 無理 は ない 。 |||むり|| But that is understandable.

クリスマス も 昨日 の こと と なって 、 既に 今年 も 余す ところ 数 日 ──。 くりすます||きのう|||||すでに|ことし||あます||すう|ひ Christmas was yesterday, and there are only a few days left of this year. 学校 は 冬 休み 、 ボーナス は ほとんど 出揃って 、 どの 家 も 、 年 末 年始 の 買物 に どっと くり出す この 日 。 がっこう||ふゆ|やすみ|ぼーなす|||でそろって||いえ||とし|すえ|ねんし||かいもの|||くりだす||ひ

外 は 寒く 、 灰色 の 、 いや 鉛 色 の 空 は 雪 を まき散らし そうな 気配 だった が 、 デパート の 出入 口 に あたる この 地下 街 は 、 今や 春 を 盛り の にぎわい である 。 がい||さむく|はいいろ|||なまり|いろ||から||ゆき||まきちらし|そう な|けはい|||でぱーと||しゅつにゅう|くち||||ちか|がい||いまや|はる||さかり||| It was cold outside, and the gray, or rather leaden, sky looked as if it might sprinkle snow, but this underground shopping center, which serves as the entrance to a department store, was now in the throes of spring.

「 早く 戻って 来 ない か なあ 」   綾子 も 、 この とき に は 、 普遍 的な 真理 ── お腹 が グーッ と 鳴る とき は たいてい お腹 が 空いて いる のだ 、 と いう こと を 、 感覚 的に 悟って いた のだった 。 はやく|もどって|らい||||あやこ||||||ふへん|てきな|しんり|おなか||||なる||||おなか||あいて|||||||かんかく|てきに|さとって|| もっとも 、 そんな 文句 を 言ったら 、 夕 里子 、 珠美 の 二 人 の 妹 ── と いう より 小 姑 に 近かった が ── から 、 「 何も し ないで 座って たくせ に 、 何 言って ん の よ ! ||もんく||いったら|ゆう|さとご|たまみ||ふた|じん||いもうと||||しょう|しゅうとめ||ちかかった|||なにも|||すわって|||なん|いって||| However, when I said such a complaint, Yuuriko and Tomi 's two sisters were closer to a small boat than to say, "I said," What are you saying to sit down without doing anything! 」   と 叱り 飛ばさ れる に 違いない 。 |しかり|とばさ|||ちがいない "And must be thrown away. そう 。 Yes.

── 姉 の 私 が 、 いつも 妹 から 叱ら れる んだ から 。 あね||わたくし|||いもうと||しから||| I'm the older sister, and I'm always scolded by my sister. こんな こと って 、 あって いい の かしら ? Is it okay to do something like this?

長女 と して 、 綾子 は 多少 の 嘆き と 共に 考えた のだ が ……。 ちょうじょ|||あやこ||たしょう||なげき||ともに|かんがえた||

ふと 、 誰 か が すぐ そば に 立って いる の に 気付いた 綾子 は 、 てっきり 妹 たち だ と 思って 、 「 終った の ? |だれ||||||たって||||きづいた|あやこ|||いもうと||||おもって|しまった| Suddenly, she realized that somebody was standing by her side, thinking that she was her sisters and sisters, "Did it end? 」   と 言い つつ 、 振り向いた 。 |いい||ふりむいた I turned around while saying. だが 、 そこ に 立って いた の は 、 夕 里子 でも 珠美 で も なかった 。 |||たって||||ゆう|さとご||たまみ||| But it was neither Yuriko nor Tamami that stood there.

一 人 の 少年 が 立って いた のである 。 ひと|じん||しょうねん||たって|| A boy stood.

不思議な 目 が 、 綾子 を 見つめて いた 。 ふしぎな|め||あやこ||みつめて| Strange eyes were staring at Ayako.

大きな 目 ── と いって も 、 気 を 取り 直して 見返す と 、 やや 大きい 、 と いう 程度 で しか ない のだ が 、 初め 、 視線 が 出会った とき 、 綾子 は 一瞬 、 その 黒い 瞳 が 目の前 一 杯 に 迫って 来る ように 感じて 、 ハッと した ほど だった 。 おおきな|め||||き||とり|なおして|みかえす|||おおきい|||ていど||||||はじめ|しせん||であった||あやこ||いっしゅん||くろい|ひとみ||めのまえ|ひと|さかずき||せまって|くる||かんじて|はっと||| Although big eyes ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ It felt like I came close to the cup, I was relieved.

「 あ 、 ごめんなさい 」   と 、 綾子 は あわてて 言って 、 それ から さっき の 女の子 の こと を 思い出し 、「 私 、 ただ 連れ を 待って る だけ な の 。 |||あやこ|||いって|||||おんなのこ||||おもいだし|わたくし||つれ||まって|||| "Oh, I'm sorry," said Reiko hurriedly remembering about the girl from that moment, "I just wait for my companions. 別に ── 行 く あて が ない わけじゃ ない の よ 」   と 、 付け加えた 。 べつに|ぎょう||||||||||つけくわえた Apart from that, I'm not saying I'm not going to go, "added. 少年 は 、 たぶん 十二 、 三 歳 と いう ところ だろう 、 色白で 、 体つき は ほっそり して いる が 、 顔立ち は ふっくら と よく 整って 、 子役 か 何 か やって いる の かしら と 思う ほど 、 可愛い 。 しょうねん|||じゅうに|みっ|さい|||||いろじろで|からだつき||||||かおだち|||||ととのって|こやく||なん|||||||おもう||かわいい The boy is probably twelve or three years old, is fair and has a slender body, but his face is well-furnished, so cute that he thinks he is a child or something.

しかし 、 その 表情 に は どこ か 冷ややかな ところ が あって 、「 可愛い 」 と いう 形容 を 拒んで いる ようだった 。 ||ひょうじょう|||||ひややかな||||かわいい|||けいよう||こばんで|| However, there is a certain coldness to her expression that makes her "adorable." The woman seemed to refuse to be described as a "good person".

少年 は 、 襟 に 毛皮 の ついた 、 高級な コート を はおって いた 。 しょうねん||えり||けがわ|||こうきゅうな|こーと||| The boy was wearing a luxurious coat with a fur collar.

── スタイル や 印象 は 、「 いい と この お 坊っちゃん 」 である 。 すたいる||いんしょう||||||ぼっちゃん| ス タ イ ル The style and impression is “Good boy this boy”.

「── 何 か ご用 ? なん||ごよう Can I help you?

」   少年 が 、 黙って こっち を 見つめて いる ので 、 綾子 は 、 そう 訊 いて みた 。 しょうねん||だまって|||みつめて|||あやこ|||じん|| " The boy was staring at her silently, so Ayako asked him. 顔 に 何 か ついて る の かしら ? かお||なん||||| Is there something on his face?

「 気 を 付けて 」   と 、 少年 が 言った 。 き||つけて||しょうねん||いった "Watch out." The boy said. 落ちついて 、 よく 通る 声 だった 。 おちついて||とおる|こえ| His voice was calm and clear.

「 え ?

」 「 オレンジ色 の タクシー に 乗っちゃ いけない よ 」   と 、 少年 は 言った 。 おれんじいろ||たくしー||のっちゃ||||しょうねん||いった " "Don't take the orange cab." The boy said. 「 何で すって ? なんで|

」 「 オレンジ色 の タクシー に 乗ら ないで 」   少年 は くり返す と 、「 じゃ ──」   と 、 背 を 向けて 、 歩き 出した 。 おれんじいろ||たくしー||のら||しょうねん||くりかえす||||せ||むけて|あるき|だした 面食らった 綾子 は 、 「 ねえ ── 一体 何の こと ? めんくらった|あやこ|||いったい|なんの| "I see-what the hell is that? 」   と 、 声 を かけて いた 。 |こえ||| 少年 が 、 振り返って 、 「 また 会おう ね 」   と 言った 。 しょうねん||ふりかえって||あおう|||いった The boy turns around and says, "I'll see you again." I said. 「── お 姉ちゃん ! |ねえちゃん

」   甲高い 声 に 、 綾子 は ハッと 我 に 返った 。 かんだかい|こえ||あやこ||はっと|われ||かえった " The high-pitched voice snapped Ayako out of her reverie. 「 は 、 は いはい ! Yes, yes, yes!

」   振り向く と 、 夕 里子 が 両 手一杯 の 買物 袋 に 、 顔 を 真 赤 に して 立って いる 。 ふりむく||ゆう|さとご||りょう|ていっぱい||かいもの|ふくろ||かお||まこと|あか|||たって| 「 早く 持って 、 これ ! はやく|もって| "Quick, take this!

── ぼんやり して ないで ! Do not dawdle! 」 「 は 、 はい 、 分 った わ よ 。 ||ぶん||| " I understand. ── 珠美 は ? たまみ| 」 「 今 来る でしょ 」   夕 里子 は 、 荷物 を 少し 姉 に 分ける と 、 フーッ と 息 を ついて 、「 ああ 、 くたびれた ! いま|くる||ゆう|さとご||にもつ||すこし|あね||わける||||いき|||| 」 「 全部 、 済んだ の ? ぜんぶ|すんだ| " Is everything done? 」 「 大体 ね 」   と 、 夕 里子 は 肯 いて 、「 後 は スーパー で 買えば 済む わ 。 だいたい|||ゆう|さとご||こう||あと||すーぱー||かえば|すむ| " "Pretty much." Yuriko answered in the affirmative, "We can just buy the rest at the supermarket. ── でも 、 人間 、 お 正月 の 何 日間 か 買物 に 出 ないで すまそう と 思う と 、 こんなに 色 んな もの が いる の ね 」 「 そう ね ……」   綾子 は 、 答え ながら 、 今 、 少年 が 歩いて 行った 方 へ と 目 を やって いた 。 |にんげん||しょうがつ||なん|にち かん||かいもの||だ||||おもう|||いろ|||||||||あやこ||こたえ||いま|しょうねん||あるいて|おこなった|かた|||め||| But, if you want to be away from shopping for a few days during New Year's, you need so many things. "Yeah, right. ......." Ayako looked in the direction the boy had just walked while answering. もちろん 、 少年 の 姿 は とっくに 人 の 波間 に 呑 ま れて 消えて いた が ……。 |しょうねん||すがた|||じん||なみま||どん|||きえて|| Of course, the boy had long since disappeared among the waves. ......

「 珠美 ったら 、 何 やって ん の かしら ! たまみ||なん|||| "If you're Tamami, what are you doing!

── ああ 、 戻って 来た 」   夕 里子 が 手 を 振る と 、 珠美 が やはり 紙袋 を 両手 に 下げて 駆けて 来る 。 |もどって|きた|ゆう|さとご||て||ふる||たまみ|||かみぶくろ||りょうて||さげて|かけて|くる Yeah, I'm back. When Yuriko waved her hand, Tamami came running with paper bags in both hands. 「 お 待た せ ! |また| "Please wait!

」   と 、 珠美 は 、 息 こそ 弾ま せて いる が 、 元気 一 杯 。 |たまみ||いき||はずま||||げんき|ひと|さかずき " Tamami's breathing is a little bouncy, but she's full of energy. 「 あんた 、 お 菓子 買う だけ で 、 どうして こんなに 時間 が かかった の よ ? ||かし|かう|||||じかん|||| Why did it take you so long just to buy snacks?

」   と 、 夕 里子 が 訊 く と 、 「 お つりがね 、 足 ん なかった の 」   と 、 珠美 は 言った 。 |ゆう|さとご||じん|||||あし|||||たまみ||いった " Yuriko asked, "There wasn't enough bait. Tamami said. 「 だ から 言って やった んだ けど 、 なかなか 信じて くん なくて さ 。 ||いって|||||しんじて||| "I told you that's it, but I do not believe it quite well. 十 円 取り戻す のに 十 分 ぐらい かかっちゃ った 」 「 あんた は もう ……」   夕 里子 は 苦笑い した 。 じゅう|えん|とりもどす||じゅう|ぶん|||||||ゆう|さとご||にがわらい| It took me about ten minutes to get ten yen back." You're already on ......." Yuriko laughed bitterly. 「 ね 、 お 姉ちゃん ! ||ねえちゃん

お腹 空いた よ ! おなか|あいた| 死に そうだ ! しに|そう だ I'm dying! もう 歩け ない ! |あるけ| 」 「 そう わめか ないで よ 」   と 、 夕 里子 は 顔 を しかめて 、「 私 も ペコペコ 。 |||||ゆう|さとご||かお|||わたくし|| だけど 、 この 辺 の 食堂 なんて 、 どこ も 満員 よ 」 「 じゃ 、 どこ か 少し 高い 所 に 入ろう 。 ||ほとり||しょくどう||||まんいん|||||すこし|たかい|しょ||はいろう But all the cafeterias around here are full. Then let's go somewhere a little higher. ね 、 綾子 姉ちゃん ? |あやこ|ねえちゃん 」 「 うん ……」   と 、 綾子 は 何気なく 肯 いて 、「 あ 、 そうだ 。 ||あやこ||なにげなく|こう|||そう だ パパ から お 金 預 って たん だ 。 ぱぱ|||きむ|よ||| I took a deposit from Dad. クリスマス に 家 に い られ ない から 、 三 人 で 何 か 食べろ って 」   夕 里子 と 珠美 は 顔 を 見合わせた 。 くりすます||いえ||||||みっ|じん||なん||たべろ||ゆう|さとご||たまみ||かお||みあわせた ── 綾子 は 、 二 人 が 一斉に 非難 の 言葉 を 浴びせて 来る に 違いない と 分 って いた ので 、 「 そう と 決 ったら 、 さ 、 早く 行 こ 。 あやこ||ふた|じん||いっせいに|ひなん||ことば||あびせて|くる||ちがいない||ぶん||||||けっ|||はやく|ぎょう| Ayako knew that they were going to start accusing her, so she said, "Well, then, let's go, quickly. 私 も お腹 ペコペコ よ ! わたくし||おなか|| I'm starving too! 」   と 、 さっさと 歩き 出した 。 ||あるき|だした " He walked out quickly. 珍しく 、 綾子 の 先制 勝ち であった ……。 めずらしく|あやこ||せんせい|かち| Unusually, Ayako won first. ......

「── ねえ 、 タクシー 拾おう 」   と 、 表 に 出る と 、 珠美 が 言った 。 |たくしー|ひろおう||ひょう||でる||たまみ||いった Hey, let's get a cab. When I went out, Tamami said, "I'm sorry, I'm sorry, I'm sorry. 「 この 荷物 だ よ ! |にもつ|| It's this package! とても じゃ ない けど ──」 「 分 った 、 分 った 」   夕 里子 が 、 北風 に 首 を すぼめ ながら 、「 こう 寒くちゃ ね 。 ||||ぶん||ぶん||ゆう|さとご||きたかぜ||くび|||||さむくちゃ| Not very much, but... "Okay, okay." Yuriko squeezed her neck against the north wind and said, "It's so cold. でも 、 空車 、 来る か なあ 」   年の瀬 であり 、 しかも 道 行く 人 の ほとんど は 、 大きな 買物 袋 を 下げて いて 、 タクシー を 捜して いる 様子 。 |くうしゃ|くる|||としのせ|||どう|いく|じん||||おおきな|かいもの|ふくろ||さげて||たくしー||さがして||ようす But I wonder if an empty car will come. It was the end of the year, and most of the people on the street were carrying large bags of groceries and looking for a cab. 「── あ 、 お 姉ちゃん ! ||ねえちゃん

来た ! きた 」   と 、 珠美 が 叫んだ 。 |たまみ||さけんだ 正に 、 たった今 、 客 を おろした ばかりの 空車 が 、 走って 来た のである 。 まさに|たったいま|きゃく||||くうしゃ||はしって|きた| Indeed, an empty car that just dropped a customer has just run.

「 ついて る ! "Follow me!

珠美 、 停めて ! たまみ|とめて Tamami, stop! 」   と 、 夕 里子 が 言った 。 |ゆう|さとご||いった 綾子 は 、 ちょっと ぼんやり して その タクシー を 眺めて いた 。 あやこ||||||たくしー||ながめて|

タクシー 。 たくしー

── タクシー が どうかした 、 と か ……。 たくしー|||| 何 だった かしら ? なん|| What was it?

そう 。

あの 子 が 言った んだ 。 |こ||いった|

オレンジ色 の タクシー に は 乗ら ないで 、 と ……。 おれんじいろ||たくしー|||のら||

走って 来る タクシー は 、 オレンジ色 だった 。 はしって|くる|たくしー||おれんじいろ| The cab was orange.

「 ちょっと 、 タクシー ! |たくしー

」   珠美 が 手 を 上げて 、 その タクシー が 、 三 人 の 立って いる 方 へ と 寄せて 来る 。 たまみ||て||あげて||たくしー||みっ|じん||たって||かた|||よせて|くる 「 待って ! まって

」   と 、 綾子 は 叫んで いた 。 |あやこ||さけんで| 「 だめ よ 、 その 車 ! |||くるま "No, no, that car! 」 「 お 姉ちゃん 、 どうした の ? |ねえちゃん|| " "Sis, what's wrong? 」   夕 里子 が 目 を 丸く した 。 ゆう|さとご||め||まるく| 「 だめ 、 オレンジ色 の タクシー は ──」 「 ほら 、 早く 乗ろう よ 」   と 、 珠美 が 、 ドア が 開く の を 見て 、 振り向いた 。 |おれんじいろ||たくしー|||はやく|のろう|||たまみ||どあ||あく|||みて|ふりむいた 「 何 して ん の ? なん||| 」 「 やめ なさい 、 珠美 、 乗っちゃ だめ 」   と 、 綾子 は 言った 。 ||たまみ|のっちゃ|||あやこ||いった 「 ええ ?

何で え ? なんで| 」 「 ともかく だめな の ! 」 「 だって ──」   もめて いる ところ へ 、 「 ちょっと ごめんなさい 」   と 、 やたら 太った おばさん が 割り込んで 来た と 思う と 、 さっさと 、 その タクシー に 乗り込んで しまった 。 |||||||||ふとった|||わりこんで|きた||おもう||||たくしー||のりこんで| 「 あ ──」   夕 里子 と 珠美 が 声 を 出す 間もなく 、 その タクシー は 、 走り出して いた のである 。 |ゆう|さとご||たまみ||こえ||だす|まもなく||たくしー||はしりだして|| 「 あの ── T ホテル まで 」   と 、 綾子 は 、 タクシー の 助手 席 に 座る と 、 言った 。 |t|ほてる|||あやこ||たくしー||じょしゅ|せき||すわる||いった 「 ね 、 二 人 と も 、 何でも 好きな もの 食べて いい から ね 」   後ろ に 荷物 に 埋れ そうに なって 座って いる 夕 里子 と 珠美 へ 、 綾子 は 精一杯 愛想 良く 微笑み かけた のだ が ──。 |ふた|じん|||なんでも|すきな||たべて||||うしろ||にもつ||うずまれ|そう に||すわって||ゆう|さとご||たまみ||あやこ||せいいっぱい|あいそ|よく|ほおえみ||| "Hey, you two can eat whatever you want." Ayako smiled as affectionately as she could at Yuriko and Tamami, who were sitting behind her, almost buried in their luggage. 返って 来た の は 、 冷ややかな 恨み の こもった 視線 ばかり だった 。 かえって|きた|||ひややかな|うらみ|||しせん|| All I got back was a cold, resentful stare.

綾子 と して も 、 妹 たち の 気持 が 分 ら ない で は ない 。 あやこ||||いもうと|||きもち||ぶん||||| Even Ayako does not understand the feelings of her sisters.

何しろ さっき の オレンジ色 の タクシー に 乗り そこねた おかげ で 、 次の 空車 が 来る まで 、 待つ こと 何と 三十 分 ! なにしろ|||おれんじいろ||たくしー||のり||||つぎの|くうしゃ||くる||まつ||なんと|さんじゅう|ぶん After all, I had missed the orange cab earlier, so I had to wait for 30 minutes for the next available taxi! しかも 冷たい 木 枯 し の 吹く 中 である 。 |つめたい|き|こ|||ふく|なか| And it was in the midst of a cold wintry wind.

でも …… 私 に 怒った って 仕方ない でしょ 。 |わたくし||いかった||しかたない| But you can't blame her for being angry with me at .......

私 は ただ 、 あの 奇妙な 男の子 の 言った 通り に した だけ なんだ もの 。 わたくし||||きみょうな|おとこのこ||いった|とおり||||| I just did what the strange boy told me to do.

綾子 は 、 充分に その辺 の 事情 を 、 夕 里子 たち に 説明 した のである 。 あやこ||じゅうぶんに|そのへん||じじょう||ゆう|さとご|||せつめい|| Ayako fully explained the situation to Yuriko and the others.

しかし 、 それ を 聞いて 二 人 は 、 「 そう ! |||きいて|ふた|じん|| But when they heard that, they said, "Yes, that's right! じゃ 仕方ない わ ね 」   と は ── 言って くれ なかった 。 |しかたない|||||いって|| Then we have no choice. He never told me that he was going to be there. ま 、 考えて みりゃ 当り前である 。 |かんがえて||あたりまえである Well, it is obvious when you think about it.

これ で 納得 しろ と いう 方 が 無理だ 。 ||なっとく||||かた||むりだ It is impossible to expect me to be convinced by this. 綾子 だって 、 決して 、 本気に して いた と いう わけで は ない 。 あやこ||けっして|ほんきに||||||| Ayako, too, was never serious about it.

ただ ── 気 が 付いた とき に は 、 妹 たち を 押し止めて いた のである 。 |き||ついた||||いもうと|||おしとどめて|| However, when I noticed it, I was holding back my sisters.

「 本当に ねえ ……」   と 、 後ろ の 座席 で 、 珠美 が 聞こえよ がし に 独り言 (? ほんとうに|||うしろ||ざせき||たまみ||きこえよ|||ひとりごと Really, hey ......" And in the back seat, Tamami was talking to herself, as if she wanted to be heard. ) を 言って いた 。 |いって| 「 これ で 風邪 ひいて 肺炎 に なって 、 哀れ 十五 の 身 で 一生 を 終える かも しれ ない わ 。 ||かぜ||はいえん|||あわれ|じゅうご||み||いっしょう||おえる|||| I might catch a cold, get pneumonia, and spend the rest of my life as a miserable fifteen-year-old. ── 夕 里子 姉ちゃん 」 「 何 よ 」 「 私 の 生命 保険 、 受取 人 は 夕 里子 姉ちゃん 一 人 に し とく から 」 「 サンキュー 」 「 絶対 に 、 綾子 姉ちゃん に は 渡さ ないで ね ! ゆう|さとご|ねえちゃん|なん||わたくし||せいめい|ほけん|うけとり|じん||ゆう|さとご|ねえちゃん|ひと|じん|||||さんきゅー|ぜったい||あやこ|ねえちゃん|||わたさ|| 」 「 任し とき 」  ── 聞いて いて 、 綾子 は 、 ため息 を ついた 。 まかし||きいて||あやこ||ためいき|| " "I'll take care of it. When." I'm not sure what to say, but I'm sure you'll be able to find a way. 私 は いつも 妹 二 人 の 幸せ を 願って いる のに 、 どうして こんなに 恨ま れる の かしら ? わたくし|||いもうと|ふた|じん||しあわせ||ねがって|||||うらま||| Why do they resent me so much when I always wish them happiness?

でも ── 仕方ない 。 |しかたない But I can't help it.

イエス ・ キリスト も 故郷 じゃ 嫌わ れた って いう し ……。 いえす|きりすと||こきょう||きらわ|||| It is said that even Jesus Christ was hated in his hometown. ......

大分 スケール の 違う こと を 考えて いる と 、 急に 車 の 流れ が 悪く なった 。 だいぶ|すけーる||ちがう|||かんがえて|||きゅうに|くるま||ながれ||わるく| As I was thinking about something very out of scale, the flow of cars suddenly slowed down.

「 おや 、 事故 だ な 」   と 、 運転手 が 言った 。 |じこ||||うんてんしゅ||いった 「 どこ どこ ?

」   野次馬 根性 旺盛な 珠美 が 腰 を 浮かす 。 やじうま|こんじょう|おうせいな|たまみ||こし||うかす 「── トラック と タクシー だ 。 とらっく||たくしー| “── Truck and taxi.

ひどい な 、 ありゃ 」   交差 点 の ど真中 。 |||こうさ|てん||どまんなか That's terrible. Right in the middle of the intersection. 十 トン 級 の 大きな トラック が 、 タクシー を 半分 押し潰して 停 って いる 。 じゅう|とん|きゅう||おおきな|とらっく||たくしー||はんぶん|おしつぶして|てい|| A big truck of 10 tons is stopped by crushing the taxi halfway.

見 知った 顔 を 見付けた らしい 、 運転手 が 窓 を 下ろして 、 隣 に 停 って いる タクシー の 方 へ 手 を 振った 。 み|しった|かお||みつけた||うんてんしゅ||まど||おろして|となり||てい|||たくしー||かた||て||ふった The driver, apparently recognizing a familiar face, rolled down his window and waved to the cab parked next to him.

向 う の 運転手 も 気 が 付いて 、 窓 を 下ろす 。 むかい|||うんてんしゅ||き||ついて|まど||おろす The driver in the other direction notices and rolls down his window.

「 ひどい なあ 」 「 ああ 、 ブレーキ が きか なく なった らしい ぜ 」 「 ブレーキ ? |||ぶれーき|||||||ぶれーき "You look terrible." "Oh, they're going to go into clinical trial mode." "Brake? トラック の 方 か ? とらっく||かた| Are you the trucker? 」 「 いや 、 タクシー さ 。 |たくしー| " No, it's a cab. そのまま の スピード で 突っ込んで 、 ガシャン 、 だ 」 「 可哀そうに 。 ||すぴーど||つっこんで|||かわいそうに ── 助から なかったろう な 」 「 お 客 も 死 ん じ まった らしい ぜ 。 たすから||||きゃく||し||||| You wouldn't have made it. "I heard the customer died, too. さっき 、 救急 車 の 奴 が 話して た 」 「 ふ ー ん 。 |きゅうきゅう|くるま||やつ||はなして|||-| I just heard the ambulance guy talking about it." Hmmm. 運 が 悪かった なあ 」  ── 警官 が 、 夕 里子 たち の 乗った タクシー に 、 進め と 合図 を して いた 。 うん||わるかった||けいかん||ゆう|さとご|||のった|たくしー||すすめ||あいず||| 「 おっと 。 Oops.

じゃ また な 」 「 気 を 付けろ よ 」   タクシー が ゆっくり と 走り出し 、 交差 点 の 真中 で 、 ぶつかった まま に なって いる トラック と タクシー の 傍 を 通る 。 |||き||つけろ||たくしー||||はしりだし|こうさ|てん||まんなか|||||||とらっく||たくしー||そば||とおる 「── 見て ! みて Look!

」   と 、 夕 里子 が 声 を 上げた 。 |ゆう|さとご||こえ||あげた " Yuriko shouted, "I'm sorry, I'm sorry, I'm sorry. トラック に 半分 潰さ れて しまって いる の は 、 オレンジ色 の タクシー だった 。 とらっく||はんぶん|つぶさ||||||おれんじいろ||たくしー|

「 お 姉ちゃん 、 あの 人 ──」   と 、 珠美 が 、 言い かけて 、 息 を 呑 む 。 |ねえちゃん||じん||たまみ||いい||いき||どん| Sis, that man... Tamami gasps as she says, "I'm sorry, I'm sorry. ちょうど 担架 に 乗せ られて 、 タクシー の 客 が 運ば れて 行く ところ で 、 顔 は 布 で 覆わ れて いた が 、 その でっぷり した 体つき 、 コート に は 、 見 憶 え が あった 。 |たんか||のせ||たくしー||きゃく||はこば||いく|||かお||ぬの||おおわ|||||||からだつき|こーと|||み|おく|||

「── さっき 、 私 たち が 乗ろう と した タクシー だ 」   と 、 夕 里子 は 言って 、 珠美 と 顔 を 見合わせた 。 |わたくし|||のろう|||たくしー|||ゆう|さとご||いって|たまみ||かお||みあわせた "This is the cab we were trying to get into earlier." Yuriko looked at Tamami and said, "I'm sorry, I'm sorry. 「 綾子 姉ちゃん ……」 「 お 姉ちゃん 、 さすが 長女 だ ね 」 「 だ から 、 私 も さっき から 言って た でしょ 。 あやこ|ねえちゃん||ねえちゃん||ちょうじょ|||||わたくし||||いって|| "Ayako unnie ..." "Sister, you are the eldest daughter" 年上 の 人間 の 言う こと は 聞く もん だ 、 って ……」   と 、 言った の は 珠美 だった 。 としうえ||にんげん||いう|||きく|||||いった|||たまみ| We have to listen to our elders. ...... It was Tamami who said. 綾子 の 方 は 、 「 ほら 見なさ い 」   と 言って やって も いい のだ が 、 正直な ところ 、 本当に あの タクシー が 「 危なかった 」 のだ と 分 った ショック の 方 が 大きかった のである 。 あやこ||かた|||みなさ|||いって||||||しょうじきな||ほんとうに||たくしー||あぶなかった|||ぶん||しょっく||かた||おおきかった| Ayako says, "Look, look." I'd be happy to say that the cab was "close," but to be honest, it really wasn't. The shock was greater when he realized that he had been the one who had been in charge of the project. 「── でも 」   と 、 綾子 は 言った 。 ||あやこ||いった 「 本当に 、 いつも パパ が 出張 する と 、 ろくな こと が 起ら ない の よ ね ……」   そう 。 ほんとうに||ぱぱ||しゅっちょう||||||おこら||||| Really, whenever Dad goes on a business trip, nothing good ever happens. ...... Yes . ── 三 人 の パパ は 六 年 前 に 奥さん を 亡くして やもめ 暮し 。 みっ|じん||ぱぱ||むっ|とし|ぜん||おくさん||なくして||くらし The father of three lost his wife six years ago and lives a widower's life. 娘 三 人 と 一緒に マンション 住い だ が 、 仕事 上 、 出張 が 多い 。 むすめ|みっ|じん||いっしょに|まんしょん|すまい|||しごと|うえ|しゅっちょう||おおい I live in an apartment with my three daughters, but I travel a lot for work.

ことに この ところ 海外 出張 が ふえて 、 三 人 姉妹 だけ で マンション に いる こと が 多い のだ が 、 この 年 末 も 、 急な 出張 に なって しまった 。 |||かいがい|しゅっちょう|||みっ|じん|しまい|||まんしょん|||||おおい||||とし|すえ||きゅうな|しゅっちょう||| In recent years, business trips abroad have been increasing, and the three sisters are often alone in the apartment, but at the end of this year, we had to go on a sudden business trip again.

三 人 で 暮して いて も 、 別に 困る こと は ない 。 みっ|じん||くらして|||べつに|こまる||| Living together, the three of us have nothing to worry about.

三 人 と も 子供 じゃ ない のだ し 、 特に 次女 の 夕 里子 は しっかり者 だ 。 みっ|じん|||こども|||||とくに|じじょ||ゆう|さとご||しっかりもの| All three of them are not children, and Yuriko, the second daughter, is especially strong.

ただ …… この 三 人 姉妹 、 何しろ よく 妙な 事件 に 巻き込ま れる と いう くせ が ある 。 ||みっ|じん|しまい|なにしろ||みょうな|じけん||まきこま|||||| Just ... ... These three sisters have a habit of getting caught up in strange incidents.

「 変な こと 言わ ないで よ 、 お 姉ちゃん 」   と 、 夕 里子 が 言った 。 へんな||いわ||||ねえちゃん||ゆう|さとご||いった "Don't talk nonsense, sis." Yuriko said. しかし 、 その 言葉 も どうやら 空しく なり そうな 気配 であった ……。 ||ことば|||むなしく||そう な|けはい| However, it seemed as if those words were going to come up empty. ......