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悪人 (Villain) (1st Book), 第一章 彼女は誰に会いたかったか?3

第一章 彼女は誰に会いたかったか?3

「 今度 の 正月 休み に ユニバーサルスタジオ に 増尾 くん と 行く と したら 、 とうぜん 二泊 くらい する よ ね ?

すでに 冷えた 餃子 を 一つ 、 佳乃 は 鉄鍋 から つまみ ながら 言った 。

清水 祐一 と は 十 時 に 待ち合わせ して いた が 、 すでに 店 の 時計 が その 十 時 を 指して いる 。

「 佳乃 ちゃん 、 大阪って 行った こと ある と ? 生 ビール を 二杯 も 飲んで 、 顔 を 真っ赤に して いる 眞子 に 訊かれ 、「 私 、 なか と やん ね 」 と 佳乃 は 首 を 振った 。

「 私 も ない と よ 。 従兄弟 が 住んどる けど 」

日ごろ 無口な 眞子 は 、 酔う と よく 喋る ように なる 。 普段 から 舌足らずな 感じ な のだ が 、 酔う と それ が 甘えた ような 声 に なり 、 男の子 たち と の 合 コン など で は ちょっと 目障りな 存在 だった 。

「 私 、 海外 も ない し ……」

座布団 の 上 で 脚 を 崩した 眞子 が 、 テーブル に 肘 を ついて そう 言う ので 、「 私 も 海外 まだ ない ん よ 」 と 佳乃 も 答えた 。

「 沙 里 ちゃん は ハワイ に 行った こと ある ん や もん ねぇ 」

トイレ に 立って いる 沙 里 の 、 空いた 座布団 に 視線 を 落とし ながら 、 特に 羨ましそうな 感じ も なく 眞子 が 呟く 。

眞子 の こういう 無欲な ところ に 、 佳乃 は ときどき 歯噛み し たく なる こと が ある 。

どうせ 私 は 、 と いう 枕詞 が 、 自分 の 話 を する 眞子 の 言葉 に は 必ず ついて いる ように 感じて しまう のだ 。

たしかに 佳乃 と 眞子 、 それ と 今 トイレ に 立って いる 沙 里 は 、 アパート でも 仲 の 良い 三 人 組 で 通って いる 。

しょっちゅう で は ない が 、 夕食 を 誰 か の 部屋 で 集まって 食べる こと も あれば 、 中庭 の 東屋 を 占領 し 、 日 が 沈む まで その 笑い声 を 響かせる こと も ある 。

互いに あまり 営業 成績 が 良く ない こと も 三 人 の 絆 を 深めて いる 。

入社 した ばかりの ころ は 、 気 の 強い 佳乃 と 沙 里 の 二 人 が 毎月 の 成績 を 争う こと も あった のだ が 、 互いに 親戚縁者 の 契約 を 取りつけて しまう と 、 あっという間 に やる 気 は 失せ 、 もともと 営業 能力 の ない 眞子 も 含めて 、 最近 で は 営業 所 で の 朝礼 に 出た あと 、 意味 の ない 飛び込み 営業 を 放棄 して 、 映画 を 観 に 行ったり する こと も 多い 。 どちら か と いえば 、 のんびり 屋 の 眞子 が クッション に なり 、 佳乃 と 沙 里 を 結びつけて いた 。

「 ねぇ 、 もし 増尾 くん と ユニバーサルスタジオ に 行く こと に なったら 、 眞子 ちゃん も 一緒に 行か ん ? と 佳乃 は 言った 。

トイレ から 沙 里 は まだ 戻って い なかった 。

「 私 も ? テーブル に 頬づえ を ついた 眞子 は 少し 驚いて その 顎 を 手のひら から 離した 。

「 増尾 くん に も 誰 か 友達 誘って もらって 、 四 人 で 行こう よ 。 ああいう ところって 人数 多い ほう が 楽しい や ん ? この とき 佳乃 と 増尾 の 間 で 、 ユニバーサルスタジオ に 行く 約束 など なかった のだ が 、 空想 の 計画 に 他人 を 巻き込む こと で 、 それ が 徐々に 現実 へ 変わって いく ような 甘い 興奮 を 佳乃 は 味わって いた の かも しれ ない 。

それ に たとえ ここ で 眞子 を 騙して も 、 実際 に その 時期 が くれば 、「 増尾 くん が 、 急に 用事 が できて 行けんくなったらしいったい 。 でも チケット もったいない けん 、 二 人 で 行こう よ 」 と 言える 。

もちろん 増尾 と 二 人 で 行く の が 一 番 いい のだ が 、 たとえ その 相手 が 眞子 に なって も 、 佳乃 は 今度 の 正月 休み に ユニバーサルスタジオ へ 行って み たかった 。

「 でも 、 沙 里 ちゃん は 誘わん でも いいん や ろか ? 眞子 が 心細そう に 佳乃 の 目 を 覗き込んで くる 。

「 それちゃ けど 、 増尾 くん 、 沙 里 ちゃん の こと が ちょっと 苦手 みたいな ん よ 」

佳乃 は わざと 声 を 潜めた 。

「 嘘 ? バー で は 仲 良さそう やった のに 」「 沙 里 ちゃん に は 内緒 よ 。 可哀想 やけん 」

深刻 ぶった 佳乃 の 言葉 に 、 眞子 は 真剣に 頷いた 。 もちろん 増尾 が 沙 里 の こと を 嫌って いる など 真っ赤な 嘘 だった 。

ただ 、 ときどき 佳乃 は なんでも すぐ 真に受ける 眞子 に 、 他愛 も ない 嘘 を つき 、 その 反応 を 楽しむ こと が あった のだ 。

安達 眞子 は 熊本 県 人吉 市 の 出身 だった 。 中古 車 販売 の 営業 マン である 父親 と 、 その 営業 所 で バイト を して いた 母親 の 間 に 生まれた 一 人 娘 で 、 夫婦 仲 の 良い 家庭 に 育った 女の子 らしく 、 仕事 は あくまでも 腰掛け で 、 短大 を 卒業 したら 早く 結婚 したい と 考えて いた 。 子供 の ころ から 友達 を 自ら 選ぶ と いう ので は なく 、 いつも 誰 か に 選ばれる の を 待って いる ような 性格 で 、 そのくせ 高校 卒業 後 は 福岡 の 短大 に 進む と 決める と 、 そこ に 知り合い が いよう が いまい が 突き進んで しまい 、 結果 、 女子高 から エスカレーター式 の 短大 で ひとりぼっち に なった 。

よほど 人吉 に 帰ろう か と 思った が 、 肝心の 仕事 が なかった 。 仕方なく 平成 生命 に 就職 し 、 借り上げ アパート に 引っ越して 、 やっと できた 友達 が 佳乃 と 沙 里 だった 。

高校 時代 の 友達 に 比べる と 、 いくぶん 二 人 と も 派手だった が 、 それ でも 眞子 は 、 これ で 結婚 相手 が 見つかる まで 、 寂しがらず に 済む と ホッと した 。

「 そう いえば 、 この 前 、 中庭 で 仲町鈴香 ちゃん に 呼び止められた ん よ 」 小鉢 に へばりついて いた ポテト サラダ の キュウリ を 箸 で 器用に 取り ながら 、 眞子 が ふと 思い出した ように 言う 。 「 いつ ? 佳乃 は 中庭 の 東 屋 で 、 自慢げに 東京 言葉 で 喋る 鈴香 を 思い出し 、 少し 顔 を 歪めて 訊き返した 。 「 三 日 くらい 前 。 それ で ね 、『 沙 里 ちゃん から 、 増尾 くん と 佳乃 ちゃん が 付き合い 始めたって 話 を 訊 いたんだ けど 、 それ 本当 ? 』って 。 ほら 、 仲町 鈴香ちゃん の 友達 が 、 増尾くん と 同じ 大学 やろ ? 口調 の 割に 、 それほど 興味 も ない らしく 、 眞子 は ポテト サラダ の キュウリ を ポリポリ と 齧る 。

「 それ で 眞子 ちゃん 、 なんて 答えた と ? 」 佳乃 は 落ち着いた ふりで 訊 き 返した 。

「『 たぶん 、 そう 』って 答えた けど ……」 佳乃 の 口調 が 厳しかった せい か 、 眞子 が 怯えた 様子 で キュウリ を 噛んで いた 顎 の 動き を 止める 。 ちょうど その とき 、 一 階 の トイレ から 沙 里 が 戻って きた 。

「 え ? 何 ? なんの 話 ? 」 ブーツ を 脱ぎ ながら 、 沙里 が 声 を かけて くる 。 この 店 の ように 座敷 の ある 店 で トイレ に 行く 場合 、 客 用 の 下駄 や 草履 が 用意 されて いる こと が 多い が 、 沙里 は 必ず 自分 の 靴 で トイレ へ 向かう 。 潔癖性 で 他人 と 履物 を 共有 する のに 不快感 が ある と 自分 で は 言う のだ が 、 その 発言 を 佳乃 は ずっと 疑って いた 。

佳乃 は また ポテトサラダ に 箸 を 伸ばした 眞子 を 眺め ながら 、「 仲町鈴香 の こと 、 あの 子 、 増尾くん の こと が 好きらしいっちゃん ね 。 それ で 私 に ライバル 心持っとるん よ 」 と 言った 。 咄嗟に 出た 嘘 だった が 、 これ が 思わぬ 牽制 に なり そうだった 。 万が一 、 増尾 と 同じ 学校 に 通う 友人 から 、 鈴香 が 何 か 知り得た と して も 、 この 嘘 が 鈴香 の 真実 を 嫉妬 から の 負け惜しみ に 変えて くれる 。

ブーツ を 脱いで 、 座敷 へ 上がって きた 沙 里 は 、「 本当 ? 」 と 、 すぐに 佳乃 の 作り話 に 食いついて きた 。 そして 沙 里 の こういう ところ が 佳乃 に は どうして も 潔癖性 と は 思え ない 。 アパート の 部屋 で 佳乃 が パン を 食べて いれば 、

「 一口 ちょうだい 」 と すぐに 手 を 出して くるし 、 ハンカチ を 何 日 も 続けて 使う こと も ある 。 高校 の とき ずっと 付き合って いた 彼氏 が いた と 沙 里 は 言う が 、 実は それ も 嘘 で 、 本当 は まだ 処女 で は ない だろう か と 、 佳乃 は 一 度 こっそり と 眞子 に 言った こと が ある 。 実際 、 この とき 沙 里 は 二十一 歳 で 、 まだ 一 度 も 男 と 夜 を 過ごした こと が なかった 。 佳乃 や 眞子 に は 、「 短大 の とき は 誰 と も 付き合って なかった けど 、 高校 の ころ 、 バスケット 部 の 男の子 と 三 年間 付き合って いた 」

と いう 作り話 を して いて 、 たしかに 沙 里 が 語る 男の子 は 学校 に 存在 した のだ が 、 彼 は 沙 里 で は なく 、 別の 女の子 と 三 年間 付き合って おり 、 言わば 三 年間 の 片思い を 、 過去 の 自分 を 知る 者 の いない 福岡 に 来た こと を 幸いに 捏造 し 、 たった 一 枚 だけ 持って いた 体育祭 で の ツーショット 写真 を 佳乃 と 眞子 に 見せて いた のだ 。

その 写真 を 見た 眞子 は 、「 うわぁ 、 カッコいい 」 と 素直 に 感嘆 の 声 を 漏らした 。

そして この 一言 が 、 沙 里 に 嘘 と 現実 と の 境 を 失わ せた 。 眞子 から 「 カッコいい 、 脚 長い 、 目 が きれい 、 歯 が 白い 」

と 褒められる たび に 、 沙里 は まるで 自分 が 褒められて いる ような 錯覚 に 陥った 。 実際 に は 彼 の そういう ところ が 好きで 思い 続けて いた のだ が 、 まるで そういう 男 に 自分 が 三 年間 思い続けられて いた ような 気 に なれた のだ 。 「 フェアリー 博多 」 に も 営業 所 に も 、 高校 の ころ の 沙 里 を 知っている 者 は い なかった 。

本人 さえ 黙って いれば 、 昔 の 自分 など どのように でも 書き換えられた 。 沙 里 は この 福岡 で 、 理想 的な 自分 を 作り上げる こと に 喜び を 見出して いた 。

しかし 、 馬鹿 が つく ほど 素直な 眞子 は 騙せて も 、 横 に は いつも 疑り 深い 目 を した 佳乃 が いる 。

実際 、 初めて 体育 祭 の 写真 を 見せた とき 、 素直に 歓声 を 上げる 眞子 の 横 で 、 佳乃 は

「 ねぇ 、 ちょっと 電話 して みよう よ 」 と 言った のだ 。

もちろん 、 もう 別れて る から と 慌てて 沙 里 は 拒んだ のだ が 、「 でも さ 、 向こう は まだ 沙 里 ちゃん の こと 好き や ん ね ? 沙 里 ちゃん が 福岡 に 引っ越す んで 、 泣く泣く 別れた と や ん ね ? 電話 したら 喜ぶっちゃ ない ? と 食い下がり 、 戸惑う 沙 里 を 前 に ほくそ笑んで いる ようだった 。 その せい も あって 、 沙 里 は 佳乃 と 二 人きり に なる と 、 たまに 息 が つまる こと が ある 。 眞子 と 二 人 の とき は 自分 が 主人公 で いら れる のだ が 、 佳乃 と 二 人 だ と 、 まるで 偽物 の ブランド 品 を 自分 が 身 に つけて いる ような 、 そんな やましい 気 に させられる のだ 。 ただ 、 たとえば 街 で 男の子 たち に 声 を かけられて も 、 引っ込み思案 の 眞子 で は 一緒に 楽しめない が 、 佳乃 と 一緒だ と 、 美味しい もの を 奢らせ 、 カラオケ を 楽しませて もらった あと 、「 門限 が ある 」 と 嘘 を ついて 、 さっさと 手 を 振って 姿 を 消す 大胆さ が 手 に 入れられた 。 最後に 一人前 だけ 注文 した 餃子 を 、 佳乃 たち は あっという間 に 平らげた 。 すでに 四 人 前 を 完食 して いた ので 、 一 人 平均 十三 個 を 食べた こと に なる 。 テーブル の 下 に 脚 を 伸ばした 佳乃 は 、「 ちょっと 食べ 過ぎ 。 せっかく 一 キロ 痩せとった と よ 」 と 大げさ に おなか を さすった 。

同じ ように 姿勢 を 崩した 沙 里 と 眞子 も 、 さすが に 満腹 に なった らしく 、 フー と 大きく 息 を 吐く 。 佳乃 が 伝票 を 取って 、 料金 を 三 等分 して いる と 、「 ほんとに 大丈夫 ? もう 十 時 半 に なる よ 」 と 、 眞子 が 壁 の 時計 を 見上げた 。

佳乃 は 一瞬 、 何 が 大丈夫な の か 分から ず 、「 何 が ? 」 と 答えて しまった 。 「 何 がって 、 ほら 、 増尾 くん ……」 と 眞子 が 首 を 傾げる 。 そこ で やっと 佳乃 は 思い出した 。 これ から 自分 が 増尾 と 会う こと に なって いる と 、 二 人 は 勘違い した まま な のだ 。

「 あ 、 うん 。 そろそろ 」 と 佳乃 は 慌てて みせた 。 まるで 増尾 と 本当に これ から 会う か の ように 。 実は 、 十 時 に なった ころ 、 佳乃 は 「 少し 遅れる 」 と 祐一 に メール を 打とう か と も 思った のだ が 、 その とき ちょうど 仲町 鈴香 の 悪口 に 夢中 に なり 、 そのまま 連絡 を 入れて いない 。 祐一 が 会いたい と しつこく 言う ので 、 仕方なく した 約束 だった 。 「 この前 の 金 を 払いたい から 」 と 祐一 は 言った 。 もし それ だけ であれば 、 五 分 も 会えば 事 は 足りる 。 伝票 に 書かれた 金額 を きちんと 三 等分 する と 、 佳乃 は 二人 に その 金額 を 告げた 。 餃子 が 一人前 470 円 、 ポテトサラダ が 520 円 で 、 手羽先 、 いわし 明太 など に 生ビール を 加えて 、 合計 7100 円 だった 。

一 人 、2366 円 。 その 数字 を 読み上げる と 、 沙 里 と 眞子 が 財布 から 一 円 も 過不足 なく 自分 の 分 を テーブル に 出す 。 それ を 待つ 間 、 佳乃 は バッグ から 携帯 を 取り出し 、 何 か メール が 入って いない か 確かめた 。 数件 、 着信 は あった が 、 待ち合わせして いる 祐一 から の もの は なく 、 もちろん 増尾 から の メール も 届いて いない 。 約束 の 十時 を 五分 過ぎて 、 清水 祐一 は 佳乃 に メール を 送るべき か 迷って いた 。 すでに 東公園 前 の 通り に 駐車 した 車 の エンジン は 止め 、 並木道 に ある 一 時間 200 円 の パーキングエリア に 並んで いる 他 の 車 同様 、 まるで もう 何 日 も ここ に 置かれて いる ように 見える 。 すぐ そこ に JR 吉塚 駅 が ある に も かかわらず 、 午後 十時 を 過ぎた 公園沿い の 通り を 行き交う 車 は 少なく 、 ときどき カーブ を 曲がって くる タクシー の ライト が 、 パーキングエリア に 並ぶ 車列 を 照らした 。

ライト に 照らされる どの 車 の 運転席 に も 人影 は なかった 。 ちょうど 公園 正門 前 に 停められた 一 台 の 運転 席 に だけ 、 祐一 の 現場 灼や けした 顔 が 浮かぶ 。 間違い なく 佳乃 は 「 東公園 の 正門 前 で 」 と 言った 。 友達 と 食事 を する 約束 が ある が 、 十 時 に は 着ける から と 。

祐一 は 公園 を 車 で 一回り して みよう か と 思った が 、 一 周 する と 公園 裏 の 細道 など を 抜ける のに 三 分 以上 は かかって しまう 。 その 隙 に 佳乃 が 駅 の ほう から 現れて 、 来て いない と 勘違い する かも しれ ない 。 祐一 は 回しかけた キー から 手 を 離した 。 エンジン を 止めて すでに 五 分 以上 が 経つ のに 、 三瀬 峠 を 越えて きた 車体 の 熱 が 、 まだ シート の 下 から 尻 に 伝わって いた 。

ハロゲンライト の 青白い 光 の 中 だけ に あった 峠 の 道 。 その 光 の 中 に 突っ込む ように アクセル を 踏み 、 後輪 を 滑らせて カーブ を 曲がる 。 前方 を 照らす 青白い 光塊 は 、 追って も 追って も 先 へ 逃げた 。

夜 の 峠 道 を 走る たび 、 祐一 は いつか 自分 の 車 が あの 光塊 を 捕らえられる ので は ない か と 空想 する 。 光塊 を 捕らえた 車 は 、 一瞬にして そこ を 突き抜け 、 突き抜けた 先 に は 、 これ まで に 見た こと も ない 光景 が 広がって いる 。 ただ 、 その 光景 を 祐一 は まったく 想像 でき ない 。 昔 、 映画 で 観た 地中海 と いう ヨーロッパ の 蒼い 海 や 、 やはり 映画 で 観た 銀河 など 、 いろんな 光景 を 当てはめて みる のだ が 、 どうしても これ に 違いない と いう もの が ない 。

映画 や テレビ で 観た もの に 頼ら ず 、 自分 で 想像 して みる こと も ある のだ が 、 そう する と とたんに 目 の 前 が 真っ白 に なり 、 車 の ライト が 作る 光塊 など 通り抜けられる わけ が ない と 思えて しまう 。 祐一 は 目 を 閉じて 、 たった今 、 走り抜けて きた 峠 の 道 、 そして 光 に 溢れて いた 天神 の 街 を 、 まぶた の 裏 に 思い起こした 。 待ち合わせ 時刻 から 十五 分 が 過ぎて いた 。 今 、 佳乃 が 来た と して も 、 そう 長く は 話せ ない が 、 何 を 話したい の か と 自問 して みて も 、 そこ に 言葉 が 浮かば ない 。 公園 沿い の 歩道 に 人通り は まったく なかった 。

車道 を 走る 車 も ない 。 三十 分 あれば 、 この 車 内 で 佳乃 に しゃぶって もらう こと は できる 。 もちろん 最初 は 嫌がる だろう が 、 まず 無理やり に でも キス を して 、 それ から 佳乃 の 乳房 を 揉んで ……。 峠 を 下りて すぐ の 自動 販売 機 で 烏龍茶 の ペットボトル を 一気 飲み した せい か 、 祐一 は 急に 尿意 を 感じた 。

通り の どちら 側 から も 歩いて くる 人影 は ない 。 すぐ そこ に 公園 の 公衆 便所 が ある の は 知っていた が 、 前回 、 佳乃 を ここ まで 車 で 送った あと 、 目 に ついた その 公衆 便所 で 小便 を して いる と 、 いつの間にか 背後 に 若い 男 が 立って おり 、 隣 の 便器 は 空いて いる のに こちら の 小便 が 終わる まで 、 じっと そこ を 動か なかった 。

そのくせ 何 か 声 を かけて くる でも ない ので 、 祐一 は 小便 も そこそこ に ジッパー を 上げ 、 逃げる ように 公衆 便所 を 飛び出した 。 車 へ 戻る 道すがら 、 何度 も 振り返って みた が 、 男 が 出て くる 気配 も なく 、 いよいよ 気味 が 悪く なった 。 携帯 を 開く と 、 また 五 分 が 過ぎて いた 。

まさか 佳乃 が すっぽかす と は 思え なかった が 、 不安 に なり 、 車 を 降りて 外 へ 出た 。 ずっと 車 内 に いた ので 気づか なかった が 、 峠 の 冷気 が 街 まで 下りて きた ような 夜 だった 。

腰 を 伸ばして 深呼吸 する と 冷たい 空気 が 喉 に つかえた 。 遠く 天神 方面 の 空 が 紫色 に 染まって いた 。 ふと 、 佳乃 は 今夜 自分 と 朝 まで いる つもりな んじゃ ない か 、 と 祐一 は 思った 。

長崎 から わざわざ 会い に きた 自分 と 、 この 前 の ラブ ホテル に 行く つもりな んじゃ ない だろう か 、 と 。 そう 考えれば 、 この 二十 分 の 遅刻 に も 合点 が いく 。

しかし 、 今夜 博多 の ラブ ホテル に 泊まる わけに は いか ない 。 明日 は また 朝 の 七 時 から 仕事 が ある のだ 。 祐一 は ガード レール を 跨ぐ と 、 通り に 誰 も いない の を 確認 して から 、 公園 の 生け垣 に 立ち 小便 を した 。 泡立った 小便 が 布 を かける ように 生け垣 を 濡らし 、 だらしなく 自分 の 足元 に 広がって くる 。

「 ねぇ 、 そこ の 『 であい 橋 』 で 、 前 に 声 かけて きた 男 の 人 たち が おったろう ? 佳乃 、 覚え とう ? 」 背後 から 沙 里 に 声 を かけられて 、「 いつごろ ? 」 と 佳乃 は 振り返った 。 中洲 の 鉄鍋 餃子店 を 出た 三 人 は 、 川面 に ネオン を 映した 那珂川 沿い に 、 地下鉄 の 駅 へ 急いで いた 。

「 今年 の 夏 ごろ 」 佳乃 の 横 に 並んだ 沙 里 が 、 明るい 川面 に かかる 「 福博 であい 橋 」 に 目 を 向ける 。

「 そんな こと あったっけ ? 「 ほら 、 大阪 から 出張 で 来 とった 二 人 組 」

沙 里 に そこ まで 言われて 、「 ああ 」 と 佳乃 は 頷いた 。 たしかに 今年 の 夏 ごろ 、 天神 で 食事 を した 帰り に 橋 を 渡って いる と 、「 カラオケ 行かへん ? 」 と 気 安く 声 を かけて きた 若い 男 たち が いた 。

二 人 と も 細身 の スーツ を 着こなして いて 、 なかなか 見かけ は よかった のだ が 、 眞子 が 悪酔い して いた せい も あり 、 その とき は あっさり と 断った のだ 。

「 ほら 、 あの とき 無理やり 名刺 渡されたろう ? その 名刺 が 昨日 見つかったっちゃ けど 、 あの 人 たち 、 大阪 の テレビ 局 の 人 たち やった と よ 」 沙 里 に そう 言わ れ 、 佳乃 は 、 「 嘘 ? そう やった と ? と 少し だけ 興味 を 持って 訊き返した 。

「 で ね 、 私 、 もし 転職 する なら 、 マスコミ 関係 が よくって 、 ちょっと 連絡 取って みよう か と 思って 」 「 道 で ナンパ して きた 人 に ? 佳乃 は 沙 里 の 考え を 鼻 で 笑った 。 沙 里 が 卒業 した 短大 ごとき で 、 マスコミ 、 それ も テレビ 局 など に 就職 できる わけ が ない 。 橋 を 渡って いる と 、「 そう いえば 、 この 前 の ソラリア の 横 の 公園 で 声 かけて きた 人って 、 どう なった ん ? と 、 沙 里 が 話 を 変えた 。

「 ソラリア ? 」 と 佳乃 が 訊 き 返す と 、「 ほら 、 長崎 から 遊び に 来 とった 人 で 、 なん やった か 、 カッコいい 車 に 乗っとる 」 と 言う 。 佳乃 が これ から 会う 祐一 の こと だった 。

佳乃 は 、「 ああ 」 と 、 話 を 打ち切る ように 答え 、 眞子 の ほう を ちらっと 見遣った 。

実際 は 出会い 系 サイト で 知り合って いた のだ が 、 沙 里 に は 天神 の 公園 で 声 を かけられた こと に して いた のだ 。 サイト で 知り合い 、 二 週間 ほど メール の やりとり を した あと 、 初めて 祐一 と 会った の が 、 ソラリア の 玄関 前 だった 。 当初 、 祐一 は 長崎 在住 と いう こと も あって 、 ソラリア と いう その ファッションビル を 知ら なかった 。

「 天神 、 来た こと ない と ? 」 と 佳乃 が 訊 く と 、「 車 で 何 度 か 行った こと は ある けど 、 街 ば 歩いた こと は なか 」 と 答える 。

一瞬 、 会う の が 面倒な 気 も した が 、 その 前日 に 送って もらった 写 メール が 予想 に 反して ちょっと いい 男 だった ので 、 ソラリア の 詳しい 位置 を 説明 して やる こと に した 。

当日 、 約束 の 時間 に ソラリア に 着く と 、 それ らしき 背 の 高い 男 が 玄関 脇 の ショーウインドー に 凭れて 立って いた 。 正直 、 写 メール で 送られて きた 写真 より も 、 ハンサムだった 。 佳乃 は 、 会う 前 に メール や 電話 で 交わした 言葉 の 数々 を 思い出し 、 こんな こと なら もっと 正直に 応対 して おけば よかった と 後悔 した 。 少し ドキドキ し ながら 男 の 前 に 立つ と 、 とつぜん 近づいて きた 佳乃 に 、 男 の ほう も ドギマギ した 様子 で 、 何やら ボソボソ と 言う 。

「 え ? 何 ? 」 と 佳乃 が 訊き返せば 、 また ボソボソ と 何 か 呟く 。 きっと 緊張 して いる のだろう と 思った 佳乃 は 、「 え ? 何 ? 」 と わざと 彼 の 腕 に 触れ 、 その 顔 を 笑顔 で 見上げた 。

「 俺 、 レストラン と か 、 よう 分から ん よ 」 男 が 小さな 声 で 言う 。

「 そんな ん 、 どこ でも いい よ 」 佳乃 が 笑顔 で 答える と 、 やっと 男 の 顔 が かすかに 弛 ゆるんだ 。 ただ 、 初対面 の 緊張 の せい だ と 思って いた 男 の 口調 は 、 時間 が 経って も そのまま だった 。 ボソボソ 、 ボソボソ と 、 佳乃 の 質問 に 答え は する のだ が 、 決して 一 度 で は 聞き取れ ない 。 初対面 の 緊張 で は なく 、 それ が 男 の 普段 の 話し 方 らしかった 。

「 一緒に おる と 、 なんか イライラ するった い 」 佳乃 は 地下鉄 へ の 階段 を 下り ながら 、 両脇 に いる 沙 里 と 眞子 に 、 まるで 唾 を 吐く ように 言った 。 「 でも 、 カッコいい ん やろ 」 それ でも 羨ましそうな 声 を 上げる 眞子 に 、「 見かけ は い いっちゃけど 、 話 は 面白く ない し 、 それ に 私 に は 、 ほら 、 増尾くん が おる や ん 」 と 答えた 。

「 そう よ ねぇ 。 …… でも 、 なんで 佳乃 ちゃん ばっかり 、 そういう 男 の 人 、 寄って くるっちゃ ろう 」

眞子 の 言葉 に 、 しばらく 黙って いた 沙 里 が 、「 でも 、 増尾 くん と 出会った ばっかりで 、 よく 他の 人 と も 会う 気 に なる よ ね 」 と 嫌み 混じり に 口 を 挟んで くる 。

第一章 彼女は誰に会いたかったか?3 だい ひと しょう|かのじょ は だれ に あい たかった か Kapitel 1: Wen wollte sie sehen?3 Chapter 1: Who Did She Want to See3 Capítulo 1: ¿A quién quería ver?3 Chapitre 1 : Qui voulait-elle voir?3 1장 그녀는 누구를 만나고 싶었나 3 Capítulo 1: Quem é que ela queria ver?3 Bölüm 1: Kimi görmek istiyordu? 第1章 她想见谁? 3 第 1 章:她想见谁?

「 今度 の 正月 休み に ユニバーサルスタジオ に 増尾 くん と 行く と したら 、 とうぜん 二泊 くらい する よ ね ? こんど||しょうがつ|やすみ||||ますお|||いく||||ふた はく|||| If I were to go to Universal Studios with Masuo during the next New Year's vacation, we would definitely stay two nights, right?

すでに 冷えた 餃子 を 一つ 、 佳乃 は 鉄鍋 から つまみ ながら 言った 。 |ひえた|ぎょうざ||ひと つ|よしの||くろがね なべ||||いった She picked one already cold dumpling from the iron pot and said, "I'm going to eat it.

清水 祐一 と は 十 時 に 待ち合わせ して いた が 、 すでに 店 の 時計 が その 十 時 を 指して いる 。 きよみず|ゆういち|||じゅう|じ||まちあわせ|||||てん||とけい|||じゅう|じ||さして| I was supposed to meet Yuichi Shimizu at 10:00 p.m., but the clock in the store was already pointing to 10:00 p.m.

「 佳乃 ちゃん 、 大阪って 行った こと ある と ? よしの||おおさか って|おこなった||| Kano, waren Sie schon einmal in Osaka? "Kano, have you ever been to Osaka? 生 ビール を 二杯 も 飲んで 、 顔 を 真っ赤に して いる 眞子 に 訊かれ 、「 私 、 なか と やん ね 」 と 佳乃 は 首 を 振った 。 せい|びーる||ふた はい||のんで|かお||まっかに|||まさこ||じん かれ|わたくし|||や ん|||よしの||くび||ふった Mako, who was blushing bright red after drinking two draft beers, asked me, "I'm not really a fan, am I? Kano shook her head.

「 私 も ない と よ 。 わたくし|||| I don't have any either. 従兄弟 が 住んどる けど 」 いとこ||す ん ど る| I have a cousin who lives there.

日ごろ 無口な 眞子 は 、 酔う と よく 喋る ように なる 。 ひごろ|むくちな|まさこ||よう|||しゃべる|| Mako, who is normally a quiet person, becomes very talkative when she is drunk. 普段 から 舌足らずな 感じ な のだ が 、 酔う と それ が 甘えた ような 声 に なり 、 男の子 たち と の 合 コン など で は ちょっと 目障りな 存在 だった 。 ふだん||したたらずな|かんじ||||よう||||あまえた||こえ|||おとこのこ||||ごう||||||めざわりな|そんざい| Normalerweise lispelte sie, aber wenn sie betrunken war, versagte ihre Stimme, und auf Partys mit Jungs war sie ein ziemlicher Schandfleck. She usually had a lisp, but when she got drunk, her voice became sweet, and she was a bit of an eyesore at parties with boys.

「 私 、 海外 も ない し ……」 わたくし|かいがい||| "Ich bin nicht einmal im Ausland. ......" I'm not even overseas. ......

座布団 の 上 で 脚 を 崩した 眞子 が 、 テーブル に 肘 を ついて そう 言う ので 、「 私 も 海外 まだ ない ん よ 」 と 佳乃 も 答えた 。 ざぶとん||うえ||あし||くずした|まさこ||てーぶる||ひじ||||いう||わたくし||かいがい||||||よしの||こたえた Mako, die ihre Beine auf die Kissen gestützt hatte, stützte die Ellbogen auf den Tisch und sagte: "Ich war auch noch nicht im Ausland. Auch Kano antwortete. Mako, who had collapsed her legs on the cushions, put her elbows on the table and said, "I don't have an overseas presence either. Kano also answered.

「 沙 里 ちゃん は ハワイ に 行った こと ある ん や もん ねぇ 」 いさご|さと|||はわい||おこなった|||||| "You've been to Hawaii before, haven't you, Sari?"

トイレ に 立って いる 沙 里 の 、 空いた 座布団 に 視線 を 落とし ながら 、 特に 羨ましそうな 感じ も なく 眞子 が 呟く 。 といれ||たって||いさご|さと||あいた|ざぶとん||しせん||おとし||とくに|うらやま し そうな|かんじ|||まさこ||つぶやく Mako mutters to Sari, who is standing on the toilet, while dropping her gaze on the empty seat cushion, without any sense of envy.

眞子 の こういう 無欲な ところ に 、 佳乃 は ときどき 歯噛み し たく なる こと が ある 。 まさこ|||むよくな|||よしの|||は かみ|||||| Diese Selbstlosigkeit von Mako bringt Kano manchmal dazu, auf die Zähne zu beißen. Mako's selflessness sometimes makes Kano want to bite her teeth.

どうせ 私 は 、 と いう 枕詞 が 、 自分 の 話 を する 眞子 の 言葉 に は 必ず ついて いる ように 感じて しまう のだ 。 |わたくし||||まくらことば||じぶん||はなし|||まさこ||ことば|||かならず||||かんじて|| Ich habe immer das Gefühl, dass Mako das Kissenwort "Ich bin" in den Mund nimmt, wenn sie über sich selbst spricht. Anyway, I feel that the makurakotoba is always attached to Mako's words when she talks about herself.

たしかに 佳乃 と 眞子 、 それ と 今 トイレ に 立って いる 沙 里 は 、 アパート でも 仲 の 良い 三 人 組 で 通って いる 。 |よしの||まさこ|||いま|といれ||たって||いさご|さと||あぱーと||なか||よい|みっ|じん|くみ||かよって| Es stimmt, dass Kano, Mako und Sari, die jetzt auf der Toilette steht, als enges Trio in die Wohnung gehen. Indeed, Yoshino, Mako, and Sari, who is now standing on the toilet, are a close trio in their apartment.

しょっちゅう で は ない が 、 夕食 を 誰 か の 部屋 で 集まって 食べる こと も あれば 、 中庭 の 東屋 を 占領 し 、 日 が 沈む まで その 笑い声 を 響かせる こと も ある 。 |||||ゆうしょく||だれ|||へや||あつまって|たべる||||なかにわ||ひがし や||せんりょう||ひ||しずむ|||わらいごえ||ひびかせる||| Not infrequently, they gather for dinner in someone's room, or occupy the pavilion in the courtyard, where their laughter echoes until the sun goes down.

互いに あまり 営業 成績 が 良く ない こと も 三 人 の 絆 を 深めて いる 。 たがいに||えいぎょう|せいせき||よく||||みっ|じん||きずな||ふかめて| Auch die Tatsache, dass sie nicht gut zusammenarbeiten, stärkt das Band zwischen den dreien. The fact that they have not performed well in business together has also strengthened the bond between the three of them.

入社 した ばかりの ころ は 、 気 の 強い 佳乃 と 沙 里 の 二 人 が 毎月 の 成績 を 争う こと も あった のだ が 、 互いに 親戚縁者 の 契約 を 取りつけて しまう と 、 あっという間 に やる 気 は 失せ 、 もともと 営業 能力 の ない 眞子 も 含めて 、 最近 で は 営業 所 で の 朝礼 に 出た あと 、 意味 の ない 飛び込み 営業 を 放棄 して 、 映画 を 観 に 行ったり する こと も 多い 。 にゅうしゃ|||||き||つよい|よしの||いさご|さと||ふた|じん||まいつき||せいせき||あらそう||||||たがいに|しんせき えんじゃ||けいやく||とりつけて|||あっというま|||き||しっせ||えいぎょう|のうりょく|||まさこ||ふくめて|さいきん|||えいぎょう|しょ|||ちょうれい||でた||いみ|||とびこみ|えいぎょう||ほうき||えいが||かん||おこなったり||||おおい When they first joined the company, the strong-minded Yoshino and Sari sometimes competed with each other for the monthly results, but once they had secured contracts with each other's relatives, they quickly lost their motivation, After attending the sales office's morning meeting, they often abandon their meaningless sales dives and go to the movies. どちら か と いえば 、 のんびり 屋 の 眞子 が クッション に なり 、 佳乃 と 沙 里 を 結びつけて いた 。 |||||や||まさこ||くっしょん|||よしの||いさご|さと||むすびつけて| If anything, Mako, a leisurely shop, became a cushion, connecting Yoshino and Sari.

「 ねぇ 、 もし 増尾 くん と ユニバーサルスタジオ に 行く こと に なったら 、 眞子 ちゃん も 一緒に 行か ん ? ||ますお|||||いく||||まさこ|||いっしょに|いか| "Hey, if you and Masuo Kun decide to go to Universal Studios, why don't you come with us, Mako? と 佳乃 は 言った 。 |よしの||いった I'm not sure if it's a good idea or not," said Kano.

トイレ から 沙 里 は まだ 戻って い なかった 。 といれ||いさご|さと|||もどって|| Sari had not yet returned from the bathroom.

「 私 も ? わたくし| テーブル に 頬づえ を ついた 眞子 は 少し 驚いて その 顎 を 手のひら から 離した 。 てーぶる||ほおづえ|||まさこ||すこし|おどろいて||あご||てのひら||はなした Mako, with her cheeks on the table, was a little startled and removed her chin from her palm.

「 増尾 くん に も 誰 か 友達 誘って もらって 、 四 人 で 行こう よ 。 ますお||||だれ||ともだち|さそって||よっ|じん||いこう| I'd like to ask Masuo-kun to invite his friend and let's go together. ああいう ところって 人数 多い ほう が 楽しい や ん ? |ところ って|にんずう|おおい|||たのしい|| It's more fun when there are more people in a place like that, right? この とき 佳乃 と 増尾 の 間 で 、 ユニバーサルスタジオ に 行く 約束 など なかった のだ が 、 空想 の 計画 に 他人 を 巻き込む こと で 、 それ が 徐々に 現実 へ 変わって いく ような 甘い 興奮 を 佳乃 は 味わって いた の かも しれ ない 。 ||よしの||ますお||あいだ||||いく|やくそく|||||くうそう||けいかく||たにん||まきこむ|||||じょじょに|げんじつ||かわって|||あまい|こうふん||よしの||あじわって||||| Although there was no promise between Kano and Masuo to go to Universal Studios at this time, Kano may have been experiencing the sweet excitement of gradually transforming her fantasy into reality by involving others in her plans.

それ に たとえ ここ で 眞子 を 騙して も 、 実際 に その 時期 が くれば 、「 増尾 くん が 、 急に 用事 が できて 行けんくなったらしいったい 。 |||||まさこ||だまして||じっさい|||じき|||ますお|||きゅうに|ようじ|||いけ ん く なった らし いったい Moreover, even if Mako was deceived here, if the time actually came, "Masuo-kun would suddenly become unable to do business." でも チケット もったいない けん 、 二 人 で 行こう よ 」 と 言える 。 |ちけっと|||ふた|じん||いこう|||いえる But the tickets are too good to waste, so let's go together. The first is the "one".

もちろん 増尾 と 二 人 で 行く の が 一 番 いい のだ が 、 たとえ その 相手 が 眞子 に なって も 、 佳乃 は 今度 の 正月 休み に ユニバーサルスタジオ へ 行って み たかった 。 |ますお||ふた|じん||いく|||ひと|ばん||||||あいて||まさこ||||よしの||こんど||しょうがつ|やすみ||||おこなって|| Of course, it would be best if she and Masuo went together, but even if it was Mako, Kano wanted to go to Universal Studios for her next New Year's vacation.

「 でも 、 沙 里 ちゃん は 誘わん でも いいん や ろか ? |いさご|さと|||さそわ ん|||| But is it okay if I don't ask you out, Sari? 眞子 が 心細そう に 佳乃 の 目 を 覗き込んで くる 。 まさこ||こころぼそ そう||よしの||め||のぞきこんで| Mako looked into Kano's eyes with concern.

「 それちゃ けど 、 増尾 くん 、 沙 里 ちゃん の こと が ちょっと 苦手 みたいな ん よ 」 ||ますお||いさご|さと||||||にがて||| Masuo said, "That's true, but Masuo-kun seems to be a little bit unhappy with Sari-chan."

佳乃 は わざと 声 を 潜めた 。 よしの|||こえ||ひそめた Kano deliberately kept her voice down.

「 嘘 ? うそ Lies? バー で は 仲 良さそう やった のに 」「 沙 里 ちゃん に は 内緒 よ 。 ばー|||なか|よ さ そう|||いさご|さと||||ないしょ| You seemed so friendly at the bar." Don't tell Sari-chan. 可哀想 やけん 」 かわいそう| Poor thing."

深刻 ぶった 佳乃 の 言葉 に 、 眞子 は 真剣に 頷いた 。 しんこく||よしの||ことば||まさこ||しんけんに|うなずいた Mako nodded seriously at Kano's serious words. もちろん 増尾 が 沙 里 の こと を 嫌って いる など 真っ赤な 嘘 だった 。 |ますお||いさご|さと||||きらって|||まっかな|うそ| Of course, it was a outright lie that Masuo disliked Sari.

ただ 、 ときどき 佳乃 は なんでも すぐ 真に受ける 眞子 に 、 他愛 も ない 嘘 を つき 、 その 反応 を 楽しむ こと が あった のだ 。 ||よしの||||しんに うける|まさこ||た あい|||うそ||||はんのう||たのしむ|||| However, from time to time, Yoshino lied to Mako, who truly received everything, and enjoyed the reaction.

安達 眞子 は 熊本 県 人吉 市 の 出身 だった 。 あだち|まさこ||くまもと|けん|ひとよし|し||しゅっしん| Mako Adachi was from Hitoyoshi City, Kumamoto Prefecture. 中古 車 販売 の 営業 マン である 父親 と 、 その 営業 所 で バイト を して いた 母親 の 間 に 生まれた 一 人 娘 で 、 夫婦 仲 の 良い 家庭 に 育った 女の子 らしく 、 仕事 は あくまでも 腰掛け で 、 短大 を 卒業 したら 早く 結婚 したい と 考えて いた 。 ちゅうこ|くるま|はんばい||えいぎょう|まん||ちちおや|||えいぎょう|しょ||ばいと||||ははおや||あいだ||うまれた|ひと|じん|むすめ||ふうふ|なか||よい|かてい||そだった|おんなのこ||しごと|||こしかけ||たんだい||そつぎょう||はやく|けっこん|し たい||かんがえて| A daughter who was born to a father who is a salesman of used car sales and a mother who was working part-time at the sales office. I wanted to get married as soon as I graduated. 子供 の ころ から 友達 を 自ら 選ぶ と いう ので は なく 、 いつも 誰 か に 選ばれる の を 待って いる ような 性格 で 、 そのくせ 高校 卒業 後 は 福岡 の 短大 に 進む と 決める と 、 そこ に 知り合い が いよう が いまい が 突き進んで しまい 、 結果 、 女子高 から エスカレーター式 の 短大 で ひとりぼっち に なった 。 こども||||ともだち||おのずから|えらぶ|||||||だれ|||えらば れる|||まって|||せいかく|||こうこう|そつぎょう|あと||ふくおか||たんだい||すすむ||きめる||||しりあい||||いま い||つきすすんで||けっか|じょし こう||えすかれーたー しき||たんだい|||| He doesn't choose his friends since he was a kid, he always waits for someone to choose him, and he decides to go to a junior college in Fukuoka after graduating from high school. As a result, I became lonely from a high school girl to an escalator-style junior college.

よほど 人吉 に 帰ろう か と 思った が 、 肝心の 仕事 が なかった 。 |ひとよし||かえろう|||おもった||かんじんの|しごと|| I thought about going back to Hitoyoshi, but there was no work to do. 仕方なく 平成 生命 に 就職 し 、 借り上げ アパート に 引っ越して 、 やっと できた 友達 が 佳乃 と 沙 里 だった 。 しかたなく|へいせい|せいめい||しゅうしょく||かりあげ|あぱーと||ひっこして|||ともだち||よしの||いさご|さと| I had no choice but to get a job at Heisei Life, moved into a rented apartment, and finally made friends with Yoshino and Sari.

高校 時代 の 友達 に 比べる と 、 いくぶん 二 人 と も 派手だった が 、 それ でも 眞子 は 、 これ で 結婚 相手 が 見つかる まで 、 寂しがらず に 済む と ホッと した 。 こうこう|じだい||ともだち||くらべる|||ふた|じん|||はでだった||||まさこ||||けっこん|あいて||みつかる||さびし がら ず||すむ||ほっと| Compared to my high school friends, they were a little more flashy, but Mako was relieved that she wouldn't be lonely until she found a marriage partner.

「 そう いえば 、 この 前 、 中庭 で 仲町鈴香 ちゃん に 呼び止められた ん よ 」 小鉢 に へばりついて いた ポテト サラダ の キュウリ を 箸 で 器用に 取り ながら 、 眞子 が ふと 思い出した ように 言う 。 |||ぜん|なかにわ||なかまち すず かおり|||よびとめ られた|||しょう はち||||ぽてと|さらだ||きゅうり||はし||きように|とり||まさこ|||おもいだした||いう "By the way, the other day, I was stopped by Suzuka Nakamachi in the courtyard." Mako suddenly remembered while dexterously picking up the potato salad cucumber that was clinging to the small bowl with chopsticks. 「 いつ ? When? 佳乃 は 中庭 の 東 屋 で 、 自慢げに 東京 言葉 で 喋る 鈴香 を 思い出し 、 少し 顔 を 歪めて 訊き返した 。 よしの||なかにわ||ひがし|や||じまんげに|とうきょう|ことば||しゃべる|すず かおり||おもいだし|すこし|かお||ゆがめて|じん き かえした Kano recalls Suzuka proudly speaking in Tokyo dialect in the courtyard pavilion, and asks back with a slightly distorted face. 「 三 日 くらい 前 。 みっ|ひ||ぜん About three days ago. それ で ね 、『 沙 里 ちゃん から 、 増尾 くん と 佳乃 ちゃん が 付き合い 始めたって 話 を 訊 いたんだ けど 、 それ 本当 ? |||いさご|さと|||ますお|||よしの|||つきあい|はじめた って|はなし||じん||||ほんとう So, I heard from Sari that Masuo-kun and Kano have started dating. 』って 。 ほら 、 仲町 鈴香ちゃん の 友達 が 、 増尾くん と 同じ 大学 やろ ? |なかまち|すず かおり ちゃん||ともだち||ますお くん||おなじ|だいがく| You see, Suzuka Nakamachi's friend goes to the same university as Masuo, right? 口調 の 割に 、 それほど 興味 も ない らしく 、 眞子 は ポテト サラダ の キュウリ を ポリポリ と 齧る 。 くちょう||わりに||きょうみ||||まさこ||ぽてと|さらだ||きゅうり||||かじる Despite her tone of voice, Mako seems to have little interest in the salad, and takes a bite of the cucumber in her potato salad.

「 それ で 眞子 ちゃん 、 なんて 答えた と ? ||まさこ|||こたえた| "And what did you say to her, Mako? 」 佳乃 は 落ち着いた ふりで 訊 き 返した 。 よしの||おちついた||じん||かえした " Yoshino asked back with an air of calmness.

「『 たぶん 、 そう 』って 答えた けど ……」 佳乃 の 口調 が 厳しかった せい か 、 眞子 が 怯えた 様子 で キュウリ を 噛んで いた 顎 の 動き を 止める 。 |||こたえた||よしの||くちょう||きびしかった|||まさこ||おびえた|ようす||きゅうり||かんで||あご||うごき||とどめる "Maybe I answered,'Yes,' but ..." Maybe because Yoshino's tone was harsh, Mako seemed frightened and stopped the movement of her jaw that was biting the cucumber. ちょうど その とき 、 一 階 の トイレ から 沙 里 が 戻って きた 。 |||ひと|かい||といれ||いさご|さと||もどって| Just then, Sari returned from the bathroom on the first floor.

「 え ? 何 ? なん なんの 話 ? |はなし 」 ブーツ を 脱ぎ ながら 、 沙里 が 声 を かけて くる 。 ぶーつ||ぬぎ||いさご さと||こえ||| " Sari calls out to me as I take off my boots. この 店 の ように 座敷 の ある 店 で トイレ に 行く 場合 、 客 用 の 下駄 や 草履 が 用意 されて いる こと が 多い が 、 沙里 は 必ず 自分 の 靴 で トイレ へ 向かう 。 |てん|||ざしき|||てん||といれ||いく|ばあい|きゃく|よう||げた||ぞうり||ようい|さ れて||||おおい||いさご さと||かならず|じぶん||くつ||といれ||むかう When going to the restroom in a restaurant with a tatami room like this one, geta (Japanese clogs) or sandals are usually provided for customers, but Sari always goes to the restroom in her own shoes. 潔癖性 で 他人 と 履物 を 共有 する のに 不快感 が ある と 自分 で は 言う のだ が 、 その 発言 を 佳乃 は ずっと 疑って いた 。 けっぺき せい||たにん||はきもの||きょうゆう|||ふ かいかん||||じぶん|||いう||||はつげん||よしの|||うたがって| She says she is a germophobe and feels uncomfortable sharing footwear with others, but Kano had always doubted her statement.

佳乃 は また ポテトサラダ に 箸 を 伸ばした 眞子 を 眺め ながら 、「 仲町鈴香 の こと 、 あの 子 、 増尾くん の こと が 好きらしいっちゃん ね 。 よしの|||||はし||のばした|まさこ||ながめ||なかまち すず かおり||||こ|ますお くん||||こう きらし いっちゃん| Kano looked at Mako, who was again eating potato salad with chopsticks, and said, "She seems to like Suzuka Nakamachi and Masuo, doesn't she? それ で 私 に ライバル 心持っとるん よ 」 と 言った 。 ||わたくし||らいばる|こころ じっと る ん|||いった That's why you have a rivalry with me." I said. 咄嗟に 出た 嘘 だった が 、 これ が 思わぬ 牽制 に なり そうだった 。 とっさに|でた|うそ|||||おもわぬ|けんせい|||そう だった It was a lie that came out in a hurry, but this seemed to be an unexpected check. 万が一 、 増尾 と 同じ 学校 に 通う 友人 から 、 鈴香 が 何 か 知り得た と して も 、 この 嘘 が 鈴香 の 真実 を 嫉妬 から の 負け惜しみ に 変えて くれる 。 まんがいち|ますお||おなじ|がっこう||かよう|ゆうじん||すず かおり||なん||しり えた|||||うそ||すず かおり||しんじつ||しっと|||まけおしみ||かえて| Even if a friend who attends the same school as Masuo knows what Suzuka is, this lie turns Suzuka's truth into a jealousy.

ブーツ を 脱いで 、 座敷 へ 上がって きた 沙 里 は 、「 本当 ? ぶーつ||ぬいで|ざしき||あがって||いさご|さと||ほんとう Sari, who took off her boots and came up to the tatami room, said, "Really? 」 と 、 すぐに 佳乃 の 作り話 に 食いついて きた 。 ||よしの||つくりばなし||くいついて| " He was immediately hooked on to Kano's story. そして 沙 里 の こういう ところ が 佳乃 に は どうして も 潔癖性 と は 思え ない 。 |いさご|さと|||||よしの|||||けっぺき せい|||おもえ| And this is the kind of thing about Sari that Kano can't believe she is a fastidious person. アパート の 部屋 で 佳乃 が パン を 食べて いれば 、 あぱーと||へや||よしの||ぱん||たべて| If Yoshino is eating bread in her apartment,

「 一口 ちょうだい 」 と すぐに 手 を 出して くるし 、 ハンカチ を 何 日 も 続けて 使う こと も ある 。 ひとくち||||て||だして||はんかち||なん|ひ||つづけて|つかう||| "Take a bite." They will immediately reach for a handkerchief and sometimes use it for several days at a time. 高校 の とき ずっと 付き合って いた 彼氏 が いた と 沙 里 は 言う が 、 実は それ も 嘘 で 、 本当 は まだ 処女 で は ない だろう か と 、 佳乃 は 一 度 こっそり と 眞子 に 言った こと が ある 。 こうこう||||つきあって||かれ し||||いさご|さと||いう||じつは|||うそ||ほんとう|||しょじょ|||||||よしの||ひと|たび|||まさこ||いった||| Sari says she had a boyfriend in high school, but Kano once secretly told Mako that this was a lie and that she was probably still a virgin. 実際 、 この とき 沙 里 は 二十一 歳 で 、 まだ 一 度 も 男 と 夜 を 過ごした こと が なかった 。 じっさい|||いさご|さと||にじゅういち|さい|||ひと|たび||おとこ||よ||すごした||| In fact, Sari was 21 years old at the time and had never spent the night with a man. 佳乃 や 眞子 に は 、「 短大 の とき は 誰 と も 付き合って なかった けど 、 高校 の ころ 、 バスケット 部 の 男の子 と 三 年間 付き合って いた 」 よしの||まさこ|||たんだい||||だれ|||つきあって|||こうこう|||ばすけっと|ぶ||おとこのこ||みっ|ねんかん|つきあって| To Kano and Mako, "I didn't date anyone in junior college, but in high school I dated a boy on the basketball team for three years."

と いう 作り話 を して いて 、 たしかに 沙 里 が 語る 男の子 は 学校 に 存在 した のだ が 、 彼 は 沙 里 で は なく 、 別の 女の子 と 三 年間 付き合って おり 、 言わば 三 年間 の 片思い を 、 過去 の 自分 を 知る 者 の いない 福岡 に 来た こと を 幸いに 捏造 し 、 たった 一 枚 だけ 持って いた 体育祭 で の ツーショット 写真 を 佳乃 と 眞子 に 見せて いた のだ 。 ||つくりばなし|||||いさご|さと||かたる|おとこのこ||がっこう||そんざい||||かれ||いさご|さと||||べつの|おんなのこ||みっ|ねんかん|つきあって||いわば|みっ|ねんかん||かたおもい||かこ||じぶん||しる|もの|||ふくおか||きた|||さいわいに|ねつぞう|||ひと|まい||もって||たいいく さい||||しゃしん||よしの||まさこ||みせて|| He had been going out with another girl for three years, not with Sari, and had fabricated his three-year unrequited love, so to speak, by taking advantage of the fact that he was in Fukuoka where no one knew his past, and had only one two-shot photo of himself from the gymnastics festival with him, which he showed to Yoshino and Mako. He showed Kano and Mako the only photo he had of the two of them at the gymnastics festival.

その 写真 を 見た 眞子 は 、「 うわぁ 、 カッコいい 」 と 素直 に 感嘆 の 声 を 漏らした 。 |しゃしん||みた|まさこ||うわ ぁ|かっこいい||すなお||かんたん||こえ||もらした When Mako saw the picture, she said, "Wow, that's cool. He was honestly amazed at the quality of the work.

そして この 一言 が 、 沙 里 に 嘘 と 現実 と の 境 を 失わ せた 。 ||いちげん||いさご|さと||うそ||げんじつ|||さかい||うしなわ| This one word made Sari lose the boundary between lies and reality. 眞子 から 「 カッコいい 、 脚 長い 、 目 が きれい 、 歯 が 白い 」 まさこ||かっこいい|あし|ながい|め|||は||しろい Mako says, "Cool, long legs, beautiful eyes, white teeth."

と 褒められる たび に 、 沙里 は まるで 自分 が 褒められて いる ような 錯覚 に 陥った 。 |ほめ られる|||いさご さと|||じぶん||ほめ られて|||さっかく||おちいった Every time she was praised, Sari fell into the illusion that she was being praised. 実際 に は 彼 の そういう ところ が 好きで 思い 続けて いた のだ が 、 まるで そういう 男 に 自分 が 三 年間 思い続けられて いた ような 気 に なれた のだ 。 じっさい|||かれ|||||すきで|おもい|つづけて||||||おとこ||じぶん||みっ|ねんかん|おもい つづけられて|||き||| In fact, he liked that kind of thing and kept thinking about it, but it made me feel as if he had been thinking about it for three years. 「 フェアリー 博多 」 に も 営業 所 に も 、 高校 の ころ の 沙 里 を 知っている 者 は い なかった 。 |はかた|||えいぎょう|しょ|||こうこう||||いさご|さと||しっている|もの||| "Fairy Hakata" There was no one at the company or at the sales office who knew Sari in high school.

本人 さえ 黙って いれば 、 昔 の 自分 など どのように でも 書き換えられた 。 ほんにん||だまって||むかし||じぶん||||かきかえ られた If only he had kept his mouth shut, he could have rewritten his past in any way he wanted. 沙 里 は この 福岡 で 、 理想 的な 自分 を 作り上げる こと に 喜び を 見出して いた 。 いさご|さと|||ふくおか||りそう|てきな|じぶん||つくりあげる|||よろこび||みいだして| Sari found joy in creating her ideal self in Fukuoka.

しかし 、 馬鹿 が つく ほど 素直な 眞子 は 騙せて も 、 横 に は いつも 疑り 深い 目 を した 佳乃 が いる 。 |ばか||||すなおな|まさこ||だませて||よこ||||うたぐり|ふかい|め|||よしの|| However, even though Mako, who is so straightforward as to be foolish, is deceived, there is always Yoshino with suspicious eyes next to her.

実際 、 初めて 体育 祭 の 写真 を 見せた とき 、 素直に 歓声 を 上げる 眞子 の 横 で 、 佳乃 は じっさい|はじめて|たいいく|さい||しゃしん||みせた||すなおに|かんせい||あげる|まさこ||よこ||よしの| In fact, when I showed the picture of the athletic festival for the first time, Yoshino was next to Mako who cheered obediently.

「 ねぇ 、 ちょっと 電話 して みよう よ 」 と 言った のだ 。 ||でんわ|||||いった| "Hey, let's make some calls." I said, "I'm not going to do it.

もちろん 、 もう 別れて る から と 慌てて 沙 里 は 拒んだ のだ が 、「 でも さ 、 向こう は まだ 沙 里 ちゃん の こと 好き や ん ね ? ||わかれて||||あわてて|いさご|さと||こばんだ|||||むこう|||いさご|さと||||すき||| Of course, Sari hurriedly refused because they had already broken up, but I told her, "But, you know, he still likes you, right, Sari? 沙 里 ちゃん が 福岡 に 引っ越す んで 、 泣く泣く 別れた と や ん ね ? いさご|さと|||ふくおか||ひっこす||なくなく|わかれた|||| Sari-chan is moving to Fukuoka, so she crying and crying, right? 電話 したら 喜ぶっちゃ ない ? でんわ||よろこぶ っちゃ| Wouldn't you be happy if you called? と 食い下がり 、 戸惑う 沙 里 を 前 に ほくそ笑んで いる ようだった 。 |くいさがり|とまどう|いさご|さと||ぜん||ほくそえんで|| It seemed that he was laughing in front of Sari, who was confused. その せい も あって 、 沙 里 は 佳乃 と 二 人きり に なる と 、 たまに 息 が つまる こと が ある 。 ||||いさご|さと||よしの||ふた|ひときり|||||いき||||| Because of that, when Sari is alone with Yoshino, she sometimes gets suffocated. 眞子 と 二 人 の とき は 自分 が 主人公 で いら れる のだ が 、 佳乃 と 二 人 だ と 、 まるで 偽物 の ブランド 品 を 自分 が 身 に つけて いる ような 、 そんな やましい 気 に させられる のだ 。 まさこ||ふた|じん||||じぶん||しゅじんこう||||||よしの||ふた|じん||||にせもの||ぶらんど|しな||じぶん||み|||||||き||さ せられる| When I am with Mako, I can be the main character, but when I am with Yoshino, I feel as if I am wearing a fake brand-name product, which makes me feel guilty. ただ 、 たとえば 街 で 男の子 たち に 声 を かけられて も 、 引っ込み思案 の 眞子 で は 一緒に 楽しめない が 、 佳乃 と 一緒だ と 、 美味しい もの を 奢らせ 、 カラオケ を 楽しませて もらった あと 、「 門限 が ある 」 と 嘘 を ついて 、 さっさと 手 を 振って 姿 を 消す 大胆さ が 手 に 入れられた 。 ||がい||おとこのこ|||こえ||かけ られて||ひっこみじあん||まさこ|||いっしょに|たのしめ ない||よしの||いっしょだ||おいしい|||しゃ ら せ|からおけ||たのしま せて|||もんげん||||うそ||||て||ふって|すがた||けす|だいたん さ||て||いれ られた However, for example, even if the boys call out to me in the city, I can't enjoy it with Mako, who is a retreat, but with Yoshino, after having a delicious meal and enjoying karaoke, " There is a curfew, "he lied, and he quickly waved his hand and gained the boldness to disappear. 最後に 一人前 だけ 注文 した 餃子 を 、 佳乃 たち は あっという間 に 平らげた 。 さいごに|いちにんまえ||ちゅうもん||ぎょうざ||よしの|||あっというま||たいらげた At the end, Yoshino and his friends quickly flattened the dumplings that they ordered for one person only. すでに 四 人 前 を 完食 して いた ので 、 一 人 平均 十三 個 を 食べた こと に なる 。 |よっ|じん|ぜん||かんしょく||||ひと|じん|へいきん|じゅうさん|こ||たべた||| Since we had already eaten four servings, we would have eaten an average of thirteen per person. テーブル の 下 に 脚 を 伸ばした 佳乃 は 、「 ちょっと 食べ 過ぎ 。 てーぶる||した||あし||のばした|よしの|||たべ|すぎ Yoshino, who stretched her legs under the table, said, "I ate a little too much. せっかく 一 キロ 痩せとった と よ 」 と 大げさ に おなか を さすった 。 |ひと|きろ|やせ とった||||おおげさ|||| Er sagte, er habe ein Kilo Gewicht verloren. Er rieb sich übertrieben den Bauch. I've lost a kilogram, "he exaggeratedly rubbed his stomach.

同じ ように 姿勢 を 崩した 沙 里 と 眞子 も 、 さすが に 満腹 に なった らしく 、 フー と 大きく 息 を 吐く 。 おなじ||しせい||くずした|いさご|さと||まさこ||||まんぷく||||||おおきく|いき||はく In the same way, Sari and Mako, who lost their posture, seemed to be full, and exhaled with Fu. 佳乃 が 伝票 を 取って 、 料金 を 三 等分 して いる と 、「 ほんとに 大丈夫 ? よしの||でんぴょう||とって|りょうきん||みっ|とうぶん|||||だいじょうぶ When Yoshino took the slip and divided the charge into three equal parts, he said, "Is it really okay? もう 十 時 半 に なる よ 」 と 、 眞子 が 壁 の 時計 を 見上げた 。 |じゅう|じ|はん|||||まさこ||かべ||とけい||みあげた It's about 10:30, "said Mako, looking up at the clock on the wall.

佳乃 は 一瞬 、 何 が 大丈夫な の か 分から ず 、「 何 が ? よしの||いっしゅん|なん||だいじょうぶな|||わから||なん| For a moment, Yoshino didn't know what was okay, and said, "What? 」 と 答えて しまった 。 |こたえて| " I answered, "I'm sorry, I'm sorry. 「 何 がって 、 ほら 、 増尾 くん ……」 と 眞子 が 首 を 傾げる 。 なん|||ますお|||まさこ||くび||かしげる "What's going on, see, Masuo-kun ..." Mako tilts her head. そこ で やっと 佳乃 は 思い出した 。 |||よしの||おもいだした Finally, Kano remembered. これ から 自分 が 増尾 と 会う こと に なって いる と 、 二 人 は 勘違い した まま な のだ 。 ||じぶん||ますお||あう||||||ふた|じん||かんちがい|||| The two remain misunderstood that they are going to meet Masuo from now on.

「 あ 、 うん 。 そろそろ 」 と 佳乃 は 慌てて みせた 。 ||よしの||あわてて| It's about time, "said Yoshino in a hurry. まるで 増尾 と 本当に これ から 会う か の ように 。 |ますお||ほんとうに|||あう||| It's as if I'm really going to meet Masuo. 実は 、 十 時 に なった ころ 、 佳乃 は 「 少し 遅れる 」 と 祐一 に メール を 打とう か と も 思った のだ が 、 その とき ちょうど 仲町 鈴香 の 悪口 に 夢中 に なり 、 そのまま 連絡 を 入れて いない 。 じつは|じゅう|じ||||よしの||すこし|おくれる||ゆういち||めーる||だとう||||おもった||||||なかまち|すず かおり||あく くち||むちゅう||||れんらく||いれて| Um zehn Uhr sagte Kano: "Ich werde mich ein wenig verspäten". Ich habe darüber nachgedacht, Yuichi eine SMS zu schreiben, aber zu diesem Zeitpunkt habe ich mich von Suzuka Nakamachis schlechtem Benehmen mitreißen lassen und ihn nicht kontaktiert. Actually, at about 10 o'clock, Yoshino thought that he would send an e-mail to Yuichi saying, "I'll be a little late." Not in . 祐一 が 会いたい と しつこく 言う ので 、 仕方なく した 約束 だった 。 ゆういち||あい たい|||いう||しかたなく||やくそく| Yuichi bestand darauf, mich zu sehen, also hatte ich keine andere Wahl, als den Termin wahrzunehmen. Yuichi persistently said that he wanted to meet, so it was a promise I had no choice but to meet. 「 この前 の 金 を 払いたい から 」 と 祐一 は 言った 。 この まえ||きむ||はらい たい|||ゆういち||いった "Weil ich das Geld vom letzten Mal zurückzahlen will." sagte Yuichi. "I want to pay the last money," Yuichi said. もし それ だけ であれば 、 五 分 も 会えば 事 は 足りる 。 ||||いつ|ぶん||あえば|こと||たりる If that's all, it's enough to meet for five minutes. 伝票 に 書かれた 金額 を きちんと 三 等分 する と 、 佳乃 は 二人 に その 金額 を 告げた 。 でんぴょう||かかれた|きんがく|||みっ|とうぶん|||よしの||ふた り|||きんがく||つげた When the amount written on the slip was properly divided into three equal parts, Yoshino told them the amount. 餃子 が 一人前 470 円 、 ポテトサラダ が 520 円 で 、 手羽先 、 いわし 明太 など に 生ビール を 加えて 、 合計 7100 円 だった 。 ぎょうざ||いちにんまえ|えん|||えん||てば さき||あき ふと|||せい びーる||くわえて|ごうけい|えん| Gyoza (dumplings) were 470 yen per person, potato salad was 520 yen, and chicken wings, sardines with cod roe, etc., plus a draft beer, totaled 7100 yen.

一 人 、2366 円 。 ひと|じん|えん One person, 2,366 yen. その 数字 を 読み上げる と 、 沙 里 と 眞子 が 財布 から 一 円 も 過不足 なく 自分 の 分 を テーブル に 出す 。 |すうじ||よみあげる||いさご|さと||まさこ||さいふ||ひと|えん||かふそく||じぶん||ぶん||てーぶる||だす When the numbers were read out, Sari and Mako took their portions from their wallets to the table without a single yen over or under. それ を 待つ 間 、 佳乃 は バッグ から 携帯 を 取り出し 、 何 か メール が 入って いない か 確かめた 。 ||まつ|あいだ|よしの||ばっぐ||けいたい||とりだし|なん||めーる||はいって|||たしかめた While waiting, Kano took her cell phone out of her bag and checked to see if there were any texts on it. 数件 、 着信 は あった が 、 待ち合わせして いる 祐一 から の もの は なく 、 もちろん 増尾 から の メール も 届いて いない 。 すう けん|ちゃくしん||||まちあわせ して||ゆういち|||||||ますお|||めーる||とどいて| I received several incoming calls, but none of them were from Yuichi, who was waiting for me, and of course I did not receive an email from Masuo. 約束 の 十時 を 五分 過ぎて 、 清水 祐一 は 佳乃 に メール を 送るべき か 迷って いた 。 やくそく||じゅう じ||いつ ふん|すぎて|きよみず|ゆういち||よしの||めーる||おくる べき||まよって| Five minutes after the promised ten o'clock, Yuichi Shimizu was wondering if he should send an email to Yoshino. すでに 東公園 前 の 通り に 駐車 した 車 の エンジン は 止め 、 並木道 に ある 一 時間 200 円 の パーキングエリア に 並んで いる 他 の 車 同様 、 まるで もう 何 日 も ここ に 置かれて いる ように 見える 。 |ひがしこうえん|ぜん||とおり||ちゅうしゃ||くるま||えんじん||とどめ|なみき どう|||ひと|じかん|えん||||ならんで||た||くるま|どうよう|||なん|ひ||||おか れて|||みえる The engine of a car parked on the street in front of East Park has already been turned off, and it looks as if it has been sitting there for days, just like the other cars that line the 200 yen per hour parking area on the tree-lined street. すぐ そこ に JR 吉塚 駅 が ある に も かかわらず 、 午後 十時 を 過ぎた 公園沿い の 通り を 行き交う 車 は 少なく 、 ときどき カーブ を 曲がって くる タクシー の ライト が 、 パーキングエリア に 並ぶ 車列 を 照らした 。 |||jr|よしづか|えき|||||かかわら ず|ごご|じゅう じ||すぎた|こうえん ぞい||とおり||ゆきかう|くるま||すくなく||かーぶ||まがって||たくしー||らいと||||ならぶ|くるま れつ||てらした Despite the fact that JR Yoshizuka Station is right there, few cars cross the streets along the park after 10 pm, and the lights of taxis that sometimes turn around the curve illuminate the convoys lined up in the parking area.

ライト に 照らされる どの 車 の 運転席 に も 人影 は なかった 。 らいと||てらさ れる||くるま||うんてん せき|||ひとかげ|| There were no figures in the driver's seat of any car illuminated by the lights. ちょうど 公園 正門 前 に 停められた 一 台 の 運転 席 に だけ 、 祐一 の 現場 灼や けした 顔 が 浮かぶ 。 |こうえん|せいもん|ぜん||とめ られた|ひと|だい||うんてん|せき|||ゆういち||げんば|しゃく や||かお||うかぶ Only in the driver's seat, which was parked in front of the main gate of the park, Yuichi's on-site scorched face appears. 間違い なく 佳乃 は 「 東公園 の 正門 前 で 」 と 言った 。 まちがい||よしの||ひがしこうえん||せいもん|ぜん|||いった Without a doubt, Yoshino said, "In front of the main gate of East Park." 友達 と 食事 を する 約束 が ある が 、 十 時 に は 着ける から と 。 ともだち||しょくじ|||やくそく||||じゅう|じ|||つける|| I have a promise to eat with my friends, but I will arrive at 10 o'clock.

祐一 は 公園 を 車 で 一回り して みよう か と 思った が 、 一 周 する と 公園 裏 の 細道 など を 抜ける のに 三 分 以上 は かかって しまう 。 ゆういち||こうえん||くるま||ひとまわり|||||おもった||ひと|しゅう|||こうえん|うら||ほそみち|||ぬける||みっ|ぶん|いじょう||| Yuichi thought about driving around the park, but it would take more than three minutes to go through the narrow paths behind the park. その 隙 に 佳乃 が 駅 の ほう から 現れて 、 来て いない と 勘違い する かも しれ ない 。 |すき||よしの||えき||||あらわれて|きて|||かんちがい|||| In the meantime, Yoshino may appear from the station and think that she is not coming. 祐一 は 回しかけた キー から 手 を 離した 。 ゆういち||まわし かけた|きー||て||はなした Yuichi let go of the key he was turning. エンジン を 止めて すでに 五 分 以上 が 経つ のに 、 三瀬 峠 を 越えて きた 車体 の 熱 が 、 まだ シート の 下 から 尻 に 伝わって いた 。 えんじん||とどめて||いつ|ぶん|いじょう||たつ||みつせ|とうげ||こえて||しゃたい||ねつ|||しーと||した||しり||つたわって| It had been more than five minutes since the engine was turned off, but the heat from the vehicle's body, which had crossed the Mise Pass, still radiated from under the seat to my buttocks.

ハロゲンライト の 青白い 光 の 中 だけ に あった 峠 の 道 。 ||あおじろい|ひかり||なか||||とうげ||どう The road of the pass that was only in the pale light of the halogen light. その 光 の 中 に 突っ込む ように アクセル を 踏み 、 後輪 を 滑らせて カーブ を 曲がる 。 |ひかり||なか||つっこむ||あくせる||ふみ|こうりん||すべらせて|かーぶ||まがる Step on the accelerator so that it plunges into the light, slide the rear wheels, and turn the curve. 前方 を 照らす 青白い 光塊 は 、 追って も 追って も 先 へ 逃げた 。 ぜんぽう||てらす|あおじろい|ひかり かたまり||おって||おって||さき||にげた The pale lump of light illuminating the front ran away, chasing and chasing.

夜 の 峠 道 を 走る たび 、 祐一 は いつか 自分 の 車 が あの 光塊 を 捕らえられる ので は ない か と 空想 する 。 よ||とうげ|どう||はしる||ゆういち|||じぶん||くるま|||ひかり かたまり||とらえ られる||||||くうそう| Every time Yuichi drove along a mountain pass at night, he wondered if his car would someday be able to catch that mass of light. 光塊 を 捕らえた 車 は 、 一瞬にして そこ を 突き抜け 、 突き抜けた 先 に は 、 これ まで に 見た こと も ない 光景 が 広がって いる 。 ひかり かたまり||とらえた|くるま||いっしゅんにして|||つきぬけ|つきぬけた|さき||||||みた||||こうけい||ひろがって| Ein Auto, das eine Lichtmasse erfasst, fährt sofort durch sie hindurch, und hinter der Lichtmasse befindet sich eine Lichtlandschaft, die man nie zuvor gesehen hat. The car that catches the light mass passes through it in an instant, and beyond the light mass lies a light scene that has never been seen before. ただ 、 その 光景 を 祐一 は まったく 想像 でき ない 。 ||こうけい||ゆういち|||そうぞう|| Yuichi kann sich diese Szene jedoch überhaupt nicht vorstellen. However, Yuichi can't imagine the scene at all. 昔 、 映画 で 観た 地中海 と いう ヨーロッパ の 蒼い 海 や 、 やはり 映画 で 観た 銀河 など 、 いろんな 光景 を 当てはめて みる のだ が 、 どうしても これ に 違いない と いう もの が ない 。 むかし|えいが||みた|ちちゅうかい|||よーろっぱ||あお い|うみ|||えいが||みた|ぎんが|||こうけい||あてはめて|||||||ちがいない||||| Ich versuche, verschiedene Sehenswürdigkeiten zu vergleichen, wie das blaue Mittelmeer in Europa, das ich vor langer Zeit in einem Film gesehen habe, und die Galaxien, die ich ebenfalls in Filmen gesehen habe, aber ich kann nichts finden, von dem ich sicher bin, dass es dasselbe ist. In the olden days, I tried to apply various scenes such as the blue sea of Europe called the Mediterranean Sea that I saw in the movie and the galaxy that I saw in the movie, but there is no doubt that this must be the case.

映画 や テレビ で 観た もの に 頼ら ず 、 自分 で 想像 して みる こと も ある のだ が 、 そう する と とたんに 目 の 前 が 真っ白 に なり 、 車 の ライト が 作る 光塊 など 通り抜けられる わけ が ない と 思えて しまう 。 えいが||てれび||みた|||たよら||じぶん||そうぞう|||||||||||とたん に|め||ぜん||まっしろ|||くるま||らいと||つくる|ひかり かたまり||とおりぬけ られる|||||おもえて| Manchmal versuche ich, mir die Dinge selbst vorzustellen, anstatt mich auf das zu verlassen, was ich in Filmen oder im Fernsehen gesehen habe, aber dann werden meine Augen leer und ich denke, dass ich unmöglich durch die Lichtflecken der Autoscheinwerfer hindurchkommen kann. Instead of relying on what I saw in a movie or on TV, I sometimes imagine it myself, but as soon as I do that, my eyes turn white and I can pass through the lumps of light created by the lights of my car. I think it doesn't exist. 祐一 は 目 を 閉じて 、 たった今 、 走り抜けて きた 峠 の 道 、 そして 光 に 溢れて いた 天神 の 街 を 、 まぶた の 裏 に 思い起こした 。 ゆういち||め||とじて|たったいま|はしりぬけて||とうげ||どう||ひかり||あふれて||てんじん||がい||||うら||おもいおこした Yuichi schloss die Augen und erinnerte sich hinter seinen Lidern an den Weg über den Bergpass, den er gerade passiert hatte, und an die Stadt Tenjin, die von Licht überströmt war. Yuichi closed his eyes and recalled behind his eyelids the road through the mountain pass that he had just passed through, and the city of Tenjin that was filled with light. 待ち合わせ 時刻 から 十五 分 が 過ぎて いた 。 まちあわせ|じこく||じゅうご|ぶん||すぎて| Seit der Verabredung waren fünfzehn Minuten vergangen. Fifteen minutes had passed since the meeting time. 今 、 佳乃 が 来た と して も 、 そう 長く は 話せ ない が 、 何 を 話したい の か と 自問 して みて も 、 そこ に 言葉 が 浮かば ない 。 いま|よしの||きた|||||ながく||はなせ|||なん||はなし たい||||じもん||||||ことば||うかば| Selbst wenn Yoshino jetzt käme, könnte ich nicht lange reden, aber selbst wenn ich mich fragte, worüber ich reden wollte, fielen mir keine Worte ein. Even if Yoshino comes now, I can't talk for a long time, but when I ask myself what I want to talk about, I can't think of any words there. 公園 沿い の 歩道 に 人通り は まったく なかった 。 こうえん|ぞい||ほどう||ひとどおり||| Die Fußwege entlang des Parks waren völlig menschenleer. There was no traffic on the sidewalk along the park.

車道 を 走る 車 も ない 。 しゃどう||はしる|くるま|| There are no cars on the road. 三十 分 あれば 、 この 車 内 で 佳乃 に しゃぶって もらう こと は できる 。 さんじゅう|ぶん|||くるま|うち||よしの|||||| Wenn du 30 Minuten Zeit hast, kannst du dir von Yoshino in diesem Auto einen blasen lassen. If you have thirty minutes, you can have Yoshino suck in this car. もちろん 最初 は 嫌がる だろう が 、 まず 無理やり に でも キス を して 、 それ から 佳乃 の 乳房 を 揉んで ……。 |さいしょ||いやがる||||むりやり|||きす|||||よしの||ちぶさ||もんで Of course you wouldn't like it at first, but first forcibly kiss, then rub Yoshino's breasts ... 峠 を 下りて すぐ の 自動 販売 機 で 烏龍茶 の ペットボトル を 一気 飲み した せい か 、 祐一 は 急に 尿意 を 感じた 。 とうげ||おりて|||じどう|はんばい|き||からす りゅう ちゃ||ぺっとぼとる||いっき|のみ||||ゆういち||きゅうに|にょう い||かんじた Yuichi verspürte plötzlich Harndrang, wahrscheinlich weil er kurz nach dem Abstieg vom Pass eine Flasche Oolong-Tee aus einem Automaten getrunken hatte. Yuichi suddenly felt urinary, probably because he drank a PET bottle of oolong tea at a vending machine immediately after going down the pass.

通り の どちら 側 から も 歩いて くる 人影 は ない 。 とおり|||がわ|||あるいて||ひとかげ|| No one is walking from either side of the street. すぐ そこ に 公園 の 公衆 便所 が ある の は 知っていた が 、 前回 、 佳乃 を ここ まで 車 で 送った あと 、 目 に ついた その 公衆 便所 で 小便 を して いる と 、 いつの間にか 背後 に 若い 男 が 立って おり 、 隣 の 便器 は 空いて いる のに こちら の 小便 が 終わる まで 、 じっと そこ を 動か なかった 。 |||こうえん||こうしゅう|べんじょ|||||しっていた||ぜんかい|よしの||||くるま||おくった||め||||こうしゅう|べんじょ||しょうべん|||||いつのまにか|はいご||わかい|おとこ||たって||となり||べんき||あいて|||||しょうべん||おわる|||||うごか| Ich wusste, dass es im Park in der Nähe eine öffentliche Toilette gab, aber als ich das letzte Mal mit Kano hierher fuhr, urinierte ich in einer öffentlichen Toilette, die ich sah, und ehe ich mich versah, stand ein junger Mann hinter mir, und obwohl die nächste Toilette leer war, bewegte er sich nicht, bis ich dort fertig urinierte. I knew that there was a public toilet in the park right there, but when I was pissing at the public toilet that I saw after I drove Yoshino to this point last time, a young man was behind me. I was standing, and although the toilet next to me was empty, I didn't move it until the end of this urine.

そのくせ 何 か 声 を かけて くる でも ない ので 、 祐一 は 小便 も そこそこ に ジッパー を 上げ 、 逃げる ように 公衆 便所 を 飛び出した 。 |なん||こえ|||||||ゆういち||しょうべん||||じっぱー||あげ|にげる||こうしゅう|べんじょ||とびだした Als ich das erste Mal auf eine öffentliche Toilette ging, war ich so aufgeregt, dass ich nicht wusste, was ich mit mir anfangen sollte. He was so busy urinating that he zipped up his zipper and ran out of the public restroom as if he were running away. 車 へ 戻る 道すがら 、 何度 も 振り返って みた が 、 男 が 出て くる 気配 も なく 、 いよいよ 気味 が 悪く なった 。 くるま||もどる|みちすがら|なんど||ふりかえって|||おとこ||でて||けはい||||きみ||わるく| On the way back to the car, I looked back many times, but there was no sign of a man coming out, and it finally got sick. 携帯 を 開く と 、 また 五 分 が 過ぎて いた 。 けいたい||あく|||いつ|ぶん||すぎて| When I opened my cell phone, five minutes had passed.

まさか 佳乃 が すっぽかす と は 思え なかった が 、 不安 に なり 、 車 を 降りて 外 へ 出た 。 |よしの|||||おもえ|||ふあん|||くるま||おりて|がい||でた Ich konnte nicht glauben, dass Yoshino mich versetzen würde, aber ich stieg aus dem Auto aus und ging nach draußen. I didn't think that Yoshino would stand me up, but I got out of the car and went outside. ずっと 車 内 に いた ので 気づか なかった が 、 峠 の 冷気 が 街 まで 下りて きた ような 夜 だった 。 |くるま|うち||||きづか|||とうげ||れいき||がい||おりて|||よ| Ich saß die ganze Zeit im Auto und habe es nicht bemerkt, aber es fühlte sich an, als ob die kalte Luft vom Bergpass auf die nächtliche Stadt herabgestiegen wäre. I was in the car the whole time, so I didn't notice it, but it was as if the cold air from the mountain pass had descended on the city.

腰 を 伸ばして 深呼吸 する と 冷たい 空気 が 喉 に つかえた 。 こし||のばして|しんこきゅう|||つめたい|くうき||のど|| When I stretched out and took a deep breath, cold air stuck in my throat. 遠く 天神 方面 の 空 が 紫色 に 染まって いた 。 とおく|てんじん|ほうめん||から||むらさきいろ||そまって| In der Ferne war der Himmel in Richtung Tenjin violett gefärbt. In the distance, the sky in the direction of Tenjin was dyed purple. ふと 、 佳乃 は 今夜 自分 と 朝 まで いる つもりな んじゃ ない か 、 と 祐一 は 思った 。 |よしの||こんや|じぶん||あさ||||||||ゆういち||おもった Suddenly, Yuichi thought that Yoshino was going to stay with her until morning tonight.

長崎 から わざわざ 会い に きた 自分 と 、 この 前 の ラブ ホテル に 行く つもりな んじゃ ない だろう か 、 と 。 ながさき|||あい|||じぶん|||ぜん||らぶ|ほてる||いく|||||| Ich fragte mich, ob sie vorhatte, mit mir, der ich den ganzen Weg von Nagasaki gekommen war, um sie zu treffen, ins Love Hotel zu gehen. I wondered if I was going to go to the last love hotel with myself who came all the way from Nagasaki. そう 考えれば 、 この 二十 分 の 遅刻 に も 合点 が いく 。 |かんがえれば||にじゅう|ぶん||ちこく|||がてん|| With that in mind, the point will come even if we are late for 20 minutes.

しかし 、 今夜 博多 の ラブ ホテル に 泊まる わけに は いか ない 。 |こんや|はかた||らぶ|ほてる||とまる|||| Aber ich kann heute Nacht nicht in einem Liebeshotel in Hakata übernachten. However, I can't afford to stay at a love hotel in Hakata tonight. 明日 は また 朝 の 七 時 から 仕事 が ある のだ 。 あした|||あさ||なな|じ||しごと||| Tomorrow I will have work again from 7 o'clock in the morning. 祐一 は ガード レール を 跨ぐ と 、 通り に 誰 も いない の を 確認 して から 、 公園 の 生け垣 に 立ち 小便 を した 。 ゆういち||がーど|れーる||またぐ||とおり||だれ|||||かくにん|||こうえん||いけがき||たち|しょうべん|| When Yuichi straddled the guardrail, he confirmed that there was no one on the street, and then stood in the hedge of the park and pissed. 泡立った 小便 が 布 を かける ように 生け垣 を 濡らし 、 だらしなく 自分 の 足元 に 広がって くる 。 あわだった|しょうべん||ぬの||||いけがき||ぬらし||じぶん||あしもと||ひろがって| The bubbling urine wets the hedges like a cloth and spreads sloppyly at your feet.

「 ねぇ 、 そこ の 『 であい 橋 』 で 、 前 に 声 かけて きた 男 の 人 たち が おったろう ? ||||きょう||ぜん||こえ|||おとこ||じん||| "Hey, hast du die Typen gesehen, die dich an der Deai-Brücke gerufen haben? "Hey, there were some guys who had called out to me at" Deai Bridge "there? 佳乃 、 覚え とう ? よしの|おぼえ| Yoshino, do you remember? 」 背後 から 沙 里 に 声 を かけられて 、「 いつごろ ? はいご||いさご|さと||こえ||かけ られて| Sari called me from behind and said, "When? 」 と 佳乃 は 振り返った 。 |よしの||ふりかえった Yoshino looked back. 中洲 の 鉄鍋 餃子店 を 出た 三 人 は 、 川面 に ネオン を 映した 那珂川 沿い に 、 地下鉄 の 駅 へ 急いで いた 。 なか す||くろがね なべ|ぎょうざ てん||でた|みっ|じん||かわも||ねおん||うつした|なかがわ|ぞい||ちかてつ||えき||いそいで| The three who left the Tetsunabe Gyoza shop in Nakasu were in a hurry to the subway station along the Nakagawa river, which reflected neon lights on the surface of the river.

「 今年 の 夏 ごろ 」 佳乃 の 横 に 並んだ 沙 里 が 、 明るい 川面 に かかる 「 福博 であい 橋 」 に 目 を 向ける 。 ことし||なつ||よしの||よこ||ならんだ|いさご|さと||あかるい|かわも|||ふく はく||きょう||め||むける "Guesses this summer Sari, standing next to Kano, is standing on the "Fukuhaku Deai Bridge" over the bright river. We look to the

「 そんな こと あったっけ ? ||あった っけ "Did that happen? 「 ほら 、 大阪 から 出張 で 来 とった 二 人 組 」 |おおさか||しゅっちょう||らい||ふた|じん|くみ "Sieh mal, zwei Jungs aus Osaka auf Geschäftsreise." "See, the duo who came from Osaka on a business trip."

沙 里 に そこ まで 言われて 、「 ああ 」 と 佳乃 は 頷いた 。 いさご|さと||||いわ れて|||よしの||うなずいた When Sari told me that much, Yoshino nodded, "Oh." たしかに 今年 の 夏 ごろ 、 天神 で 食事 を した 帰り に 橋 を 渡って いる と 、「 カラオケ 行かへん ? |ことし||なつ||てんじん||しょくじ|||かえり||きょう||わたって|||からおけ|ぎょう かへん It is true that when I was crossing the bridge on my way back from a dinner in Tenjin this summer, I was asked "Do you want to go to karaoke? 」 と 気 安く 声 を かけて きた 若い 男 たち が いた 。 |き|やすく|こえ||||わかい|おとこ||| There were young men who casually called out to me.

二 人 と も 細身 の スーツ を 着こなして いて 、 なかなか 見かけ は よかった のだ が 、 眞子 が 悪酔い して いた せい も あり 、 その とき は あっさり と 断った のだ 。 ふた|じん|||ほそみ||すーつ||きこなして|||みかけ|||||まさこ||わるよい|||||||||||たった| Beide trugen schlanke Anzüge und sahen recht gut aus, aber Mako war stark alkoholisiert, so dass sie sie damals einfach abwies.

「 ほら 、 あの とき 無理やり 名刺 渡されたろう ? |||むりやり|めいし|わたされたろう "You know, that time he forced me to give him my card? その 名刺 が 昨日 見つかったっちゃ けど 、 あの 人 たち 、 大阪 の テレビ 局 の 人 たち やった と よ 」 沙 里 に そう 言わ れ 、 佳乃 は 、 「 嘘 ? |めいし||きのう|みつかった っちゃ|||じん||おおさか||てれび|きょく||じん|||||いさご|さと|||いわ||よしの||うそ The business cards were found yesterday, but those people were from a TV station in Osaka. When Sari said that, Kano said, "Really? そう やった と ? You did? と 少し だけ 興味 を 持って 訊き返した 。 |すこし||きょうみ||もって|じん き かえした I asked back with a little interest.

「 で ね 、 私 、 もし 転職 する なら 、 マスコミ 関係 が よくって 、 ちょっと 連絡 取って みよう か と 思って 」 「 道 で ナンパ して きた 人 に ? ||わたくし||てんしょく|||ますこみ|かんけい||よく って||れんらく|とって||||おもって|どう|||||じん| "Well, if I change jobs, I have a good media relationship and I'm thinking of contacting him for a moment." "To those who have picked up on the road? 佳乃 は 沙 里 の 考え を 鼻 で 笑った 。 よしの||いさご|さと||かんがえ||はな||わらった Yoshino laughed at Sari's thoughts with her nose. 沙 里 が 卒業 した 短大 ごとき で 、 マスコミ 、 それ も テレビ 局 など に 就職 できる わけ が ない 。 いさご|さと||そつぎょう||たんだい|||ますこみ|||てれび|きょく|||しゅうしょく|||| At the junior college where Sari graduated, there is no way she can get a job in the media or even a TV station. 橋 を 渡って いる と 、「 そう いえば 、 この 前 の ソラリア の 横 の 公園 で 声 かけて きた 人って 、 どう なった ん ? きょう||わたって||||||ぜん||||よこ||こうえん||こえ|||じん って||| When I crossed the bridge, I said, "By the way, what happened to the person who called out in the park next to Solaria last time? と 、 沙 里 が 話 を 変えた 。 |いさご|さと||はなし||かえた Sari changed the story.

「 ソラリア ? 」 と 佳乃 が 訊 き 返す と 、「 ほら 、 長崎 から 遊び に 来 とった 人 で 、 なん やった か 、 カッコいい 車 に 乗っとる 」 と 言う 。 |よしの||じん||かえす|||ながさき||あそび||らい||じん|||||かっこいい|くるま||のっとる||いう " Kano asked, "You know, there was this guy who came from Nagasaki for a visit, and he was driving a really cool car. I say. 佳乃 が これ から 会う 祐一 の こと だった 。 よしの||||あう|ゆういち||| It was about Yuichi, whom Kano was going to meet from now on.

佳乃 は 、「 ああ 」 と 、 話 を 打ち切る ように 答え 、 眞子 の ほう を ちらっと 見遣った 。 よしの||||はなし||うちきる||こたえ|まさこ|||||み つかった Kano said, "Yeah." He answered, as if to break off the conversation, and glanced at Mako.

実際 は 出会い 系 サイト で 知り合って いた のだ が 、 沙 里 に は 天神 の 公園 で 声 を かけられた こと に して いた のだ 。 じっさい||であい|けい|さいと||しりあって||||いさご|さと|||てんじん||こうえん||こえ||かけ られた||||| Actually, I knew him on a dating site, but Sari was told that he was called out at a park in Tenjin. サイト で 知り合い 、 二 週間 ほど メール の やりとり を した あと 、 初めて 祐一 と 会った の が 、 ソラリア の 玄関 前 だった 。 さいと||しりあい|ふた|しゅうかん||めーる||||||はじめて|ゆういち||あった|||||げんかん|ぜん| I met Yuichi on a website, and after exchanging e-mails for about two weeks, I met him for the first time in front of the entrance of Solaria. 当初 、 祐一 は 長崎 在住 と いう こと も あって 、 ソラリア と いう その ファッションビル を 知ら なかった 。 とうしょ|ゆういち||ながさき|ざいじゅう||||||||||||しら| At first, Yuichi had never heard of Solaria, the fashion building, because he lived in Nagasaki.

「 天神 、 来た こと ない と ? てんじん|きた||| "You've never been to Tenjin? 」 と 佳乃 が 訊 く と 、「 車 で 何 度 か 行った こと は ある けど 、 街 ば 歩いた こと は なか 」 と 答える 。 |よしの||じん|||くるま||なん|たび||おこなった|||||がい||あるいた|||||こたえる When asked by Yoshino, he replied, "I've been by car several times, but I've never walked in the city."

一瞬 、 会う の が 面倒な 気 も した が 、 その 前日 に 送って もらった 写 メール が 予想 に 反して ちょっと いい 男 だった ので 、 ソラリア の 詳しい 位置 を 説明 して やる こと に した 。 いっしゅん|あう|||めんどうな|き|||||ぜんじつ||おくって||うつ|めーる||よそう||はんして|||おとこ|||||くわしい|いち||せつめい||||| For a moment, I felt it would be troublesome to meet him, but the photo he sent me the day before was unexpectedly a nice guy, so I decided to explain the detailed location of Solaria to him.

当日 、 約束 の 時間 に ソラリア に 着く と 、 それ らしき 背 の 高い 男 が 玄関 脇 の ショーウインドー に 凭れて 立って いた 。 とうじつ|やくそく||じかん||||つく||||せ||たかい|おとこ||げんかん|わき||||もたれて|たって| On that day, when I arrived at Solaria at the promised time, a tall man, who seemed to be there, stood leaning against the show window beside the front door. 正直 、 写 メール で 送られて きた 写真 より も 、 ハンサムだった 。 しょうじき|うつ|めーる||おくら れて||しゃしん|||はんさむだった To be honest, he was more handsome than the photo sent by Sha-mail. 佳乃 は 、 会う 前 に メール や 電話 で 交わした 言葉 の 数々 を 思い出し 、 こんな こと なら もっと 正直に 応対 して おけば よかった と 後悔 した 。 よしの||あう|ぜん||めーる||でんわ||かわした|ことば||かずかず||おもいだし|||||しょうじきに|おうたい|||||こうかい| Yoshino remembered the many words he had exchanged by email and phone before meeting, and regretted that he should have responded more honestly in such cases. 少し ドキドキ し ながら 男 の 前 に 立つ と 、 とつぜん 近づいて きた 佳乃 に 、 男 の ほう も ドギマギ した 様子 で 、 何やら ボソボソ と 言う 。 すこし|どきどき|||おとこ||ぜん||たつ|||ちかづいて||よしの||おとこ||||||ようす||なにやら|ぼそぼそ||いう She stands in front of the man with a little nervousness, and he looks a little nervous when she comes closer to him, blurting out something.

「 え ? 何 ? なん 」 と 佳乃 が 訊き返せば 、 また ボソボソ と 何 か 呟く 。 |よしの||じん き かえせば||ぼそぼそ||なん||つぶやく " When Kano asks back, he mumbles something again. きっと 緊張 して いる のだろう と 思った 佳乃 は 、「 え ? |きんちょう|||||おもった|よしの|| Yoshino, who thought he was probably nervous, said, "What? 何 ? なん 」 と わざと 彼 の 腕 に 触れ 、 その 顔 を 笑顔 で 見上げた 。 ||かれ||うで||ふれ||かお||えがお||みあげた ' Sie berührte ihn absichtlich am Arm und sah lächelnd zu ihm auf. I deliberately touched his arm and looked up at his face with a smile.

「 俺 、 レストラン と か 、 よう 分から ん よ 」 男 が 小さな 声 で 言う 。 おれ|れすとらん||||わから|||おとこ||ちいさな|こえ||いう Ich habe keine Ahnung von Restaurants. Ein Mann sagt mit leiser Stimme: "Ich bin mir nicht sicher, ob ich hier sein möchte. "I don't know about restaurants," the man says in a small voice.

「 そんな ん 、 どこ でも いい よ 」 佳乃 が 笑顔 で 答える と 、 やっと 男 の 顔 が かすかに 弛 ゆるんだ 。 ||||||よしの||えがお||こたえる|||おとこ||かお|||ち| "Oh, nein, es ist mir egal, wo." Als Kano mit einem Lächeln antwortet, entspannt sich das Gesicht des Mannes endlich etwas. "Oh, no, I don't care where." When Kano responds with a smile, the man's face finally relaxes slightly. ただ 、 初対面 の 緊張 の せい だ と 思って いた 男 の 口調 は 、 時間 が 経って も そのまま だった 。 |しょたいめん||きんちょう|||||おもって||おとこ||くちょう||じかん||たって||| Der Tonfall des Mannes, den ich bei unserem ersten Treffen auf Nervosität zurückgeführt hatte, blieb jedoch im Laufe der Zeit unverändert. However, the man's tone of voice, which I had attributed to the nervousness of our first meeting, remained unchanged over time. ボソボソ 、 ボソボソ と 、 佳乃 の 質問 に 答え は する のだ が 、 決して 一 度 で は 聞き取れ ない 。 ぼそぼそ|ぼそぼそ||よしの||しつもん||こたえ|||||けっして|ひと|たび|||ききとれ| Sie antwortet auf Kanos Fragen undeutlich und verschwommen, aber sie ist nie ganz zu verstehen. She answered Kano's questions in a whispering, blurring voice, but I could never catch it all at once. 初対面 の 緊張 で は なく 、 それ が 男 の 普段 の 話し 方 らしかった 。 しょたいめん||きんちょう||||||おとこ||ふだん||はなし|かた| Es waren nicht die Nerven beim ersten Treffen, es war einfach die Art, wie der Mann normalerweise spricht. It wasn't nerves from meeting him for the first time, but it was his normal way of speaking.

「 一緒に おる と 、 なんか イライラ するった い 」 佳乃 は 地下鉄 へ の 階段 を 下り ながら 、 両脇 に いる 沙 里 と 眞子 に 、 まるで 唾 を 吐く ように 言った 。 いっしょに||||いらいら|する った||よしの||ちかてつ|||かいだん||くだり||りょうわき|||いさご|さと||まさこ|||つば||はく||いった "Wenn ich mit dir zusammen bin, werde ich irgendwie ärgerlich." Als Kano die Treppe zur U-Bahn hinunterstieg, spuckte sie Sari und Mako zu beiden Seiten an, als ob sie sie anspucken wollte. "When I'm with you, I get kind of nervous." As she descended the stairs to the subway, she spat at Sari and Mako on either side of her as if to spit at them. 「 でも 、 カッコいい ん やろ 」 それ でも 羨ましそうな 声 を 上げる 眞子 に 、「 見かけ は い いっちゃけど 、 話 は 面白く ない し 、 それ に 私 に は 、 ほら 、 増尾くん が おる や ん 」 と 答えた 。 |かっこいい|||||うらやま し そうな|こえ||あげる|まさこ||みかけ|||いっちゃ けど|はなし||おもしろく|||||わたくし||||ますお くん||||||こたえた "Aber er ist doch cool, oder?" Mako, die immer noch neidisch dreinschaut, sagt: "Er sieht gut aus, aber es ist uninteressant, mit ihm zu reden, und außerdem habe ich, du weißt schon, Masuo-kun". Er antwortete. "But he's cool, right?" Mako, however, was envious and said, "You look nice, but your story is not interesting, and besides, I have Masuo-kun, you know. I answered, "I am not a member of the group.

「 そう よ ねぇ 。 I know, right? …… でも 、 なんで 佳乃 ちゃん ばっかり 、 そういう 男 の 人 、 寄って くるっちゃ ろう 」 ||よしの||||おとこ||じん|よって|| ...... Aber warum kommen all diese Leute zu dir, Kano? ...... But why do all those guys come to you, Kano?

眞子 の 言葉 に 、 しばらく 黙って いた 沙 里 が 、「 でも 、 増尾 くん と 出会った ばっかりで 、 よく 他の 人 と も 会う 気 に なる よ ね 」 と 嫌み 混じり に 口 を 挟んで くる 。 まさこ||ことば|||だまって||いさご|さと|||ますお|||であった|||たの|じん|||あう|き||||||いや み|まじり||くち||はさんで| Auf Makos Worte hin sagte Sari, die eine Weile geschwiegen hatte: "Aber wie kann man andere Leute treffen, wenn man nur Masuo-kun getroffen hat? Die Frau unterbrach ihn angewidert. Sari, who had been silent for a while, interrupted Mako's words with disgust, saying, "But how can you meet other people after just meeting Masuo?