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悪人 (Villain) (1st Book), 第一章 彼女は誰に会いたかったか?2

第一章 彼女は誰に会いたかったか?2

この とき 佳男 の 一 人 娘 、 石橋 佳乃 は 、 福岡 市 博多区 千代 に ある 平成 生命 の 借り上げ アパート 「 フェアリー 博多 」 の 一室 で 、「 常連客 が 連れてきた ミニチュアダックスフント が 可愛かった 」 と 話し続ける 母親 の 声 に 生返事 を 繰り返し ながら 、 マニキュア を 塗り直して いた 。

ここ 「 フェアリー 博多 」 に は 三十 室 ほど の ワンルーム が あり 、 その 全室 に 平成 生命 で 外交 員 を する 女性 たち が 住んで いる 。

いわゆる 会社 が 管理 する 寮 と は 違い 、 食堂 や 寮 規則 など は ない のだ が 、 勤務地区 は 違え ど 同じ 会社 で 働く者 同士 、 ベランダ 越し に 会話 を したり 、 中庭 に ある 小さな 東屋 で は 、 毎晩 、 何 人 か が 缶 ジュース を 片手 に 集まって 、 その 賑かな 笑い声 が 響く 。

会社 から の 補助 は 三万 円 、 入居 者 たち は それ に 三万 円 を プラス して 家賃 を 支払う 。

部屋 に は ユニットバス と 小さな キッチン も ついて おり 、 食費 を 浮かす ため に 、 誰 か の 部屋 に 集まって 共同 で 夕食 を 作る 者 も 多い 。

なかなか 終わら ない 母親 の 犬 の 話 に 、 佳乃 は さすが に うんざり して 、「 お 母さん 、 私 、 これ から 友達 と ごはん 食べ に 行く けん 」 と その 話 を 遮った 。

母親 は 、 電話 が かかって きた とき に まず 訊いた くせ に 、 娘 が まだ 夕食 を 済ませて い ない こと を 今さら 気づいた ようで 、「 あら 、 そう ね ?

ごめん 、 ごめん 」 と 謝る と 、「 ちょっと 待た ん ね 。 お 父さん と 代わる けん 」 と 一方的に 電話 口 を 離れた 。

佳乃 は 面倒くさく 思い ながら ベランダ に 出た 。

二 階 の ベランダ から 中庭 の 東屋 が 見え 、 この 寒い 中 、 数 人 が 談笑 して いる 。

中 に 仲町 鈴 香 か と いう 埼玉 出身 の 女 が おり 、 言葉 に 訛り が ない の が よほど 自慢 な の か 、 誰 より も 大きな 声 で くだらない テレビ ドラマ の 話 を して いる 。

佳乃 が ベランダ から 部屋 へ 戻ろう と する と 、「 もしもし 」 と 父親 の 声 が 聞こえた 。

「 これ から 友達 と ごはん 食べ に 行く けん が 」 佳乃 は 牽制 する ように 言った 。

ただ 、 父親 の ほう も 特に 話 は ない らしく 、 いつも の ように 店 の 景気 が 悪い と 愚痴 を こぼす こと も なく 、「 そう ね 。

気 を つけて 行 か や ん よ 。 …… ところで 仕事 は どう ね ? 」 と 珍しく 機嫌 が いい 。

佳乃 は 、「 仕事 ? 飛び込み で すぐに 契約 取れる って わけ で も ない し 」 と 短く 答え 、「 とにかく 、 もう 行かやん けん 。 じゃあ ね 」 と 電話 を 切った 。

これ が 両親 と の 最後 の 会話 に なる と も 知ら ず に 。

アパート の エントランス で しばらく 待って いる と 、 沙里 と 眞子 が 歩調 を 合わせる ように 階段 を 下りて きた 。

それぞれ 勤務 地区 は 違う のだ が 、 この 「 フェアリー 博多 」 で 佳乃 が もっとも 親しく 付き合って いる 二 人 だった 。

背 が 高く 痩せた 沙里 と 、 ちょっと ずんぐり むっくり した 眞子 が 、 階段 を 並んで 下りて くる と 、 同じ はず の 段差 が 違って 見える 。 この 日 、 三 人 は 昼間 も 天神 の デパート など を 一緒に ぶらついて いた のだ が 、 夕食 に は 少し 早 すぎて いった ん アパート に 戻って きて いた 。 階段 を 下りて きた 沙 里 は 、 昼間 三越 の ティファニー で 買った ばかりの オープンハートピアス を すでに つけている 。

この 二万 ちょっと の ピアス を 買う まで に 、 沙里 は 一 時間 近く も 店内 で 迷った 。

値段 と 相談 し ながら 、 あれこれ と 違う 種類 の 商品 を 手 に 取る 沙里 に 、「 迷っとる とき は 、 定番 を 買う の が 一番 って 」 と 、 さすが に 待ちくたびれて 佳乃 は 口 を 挟んだ 。

階段 を 下りて きた 沙 里 の ピアス を さりげなく 褒め ながら 、 佳乃 は どこ か 違和感 の あった ブーツ を 履き 直した 。

すでに 踵 が 磨り減り 、 ファスナー が 壊れ かけて いる 。

横 に 立つ 二 人 も 同じ ような ブーツ を 履いて いる 。

立ち上がって 、「 ねぇ 、 どこ 行く ? 」 と 佳乃 が 尋ねる と 、「 鉄鍋 餃子 は ? 」 と 、 こういう とき 滅多 に 意見 を 言わない 眞子 が 言った 。

「 あ 、 餃子 食べ たい かも 」 すぐに 沙 里 が 賛成 して 、 同意 を 求める ような 目 を 佳乃 に 向けて くる 。

佳乃 は 握っていた 携帯 を 短大 の 卒業祝い に 父親 に 買って もらった ヴィトン の カバ ・ ピアノ に しまう と 、 やはり ヴィトン の 財布 を 取り出して 、 一万 円 に 満たない 残金 を ため息 混じり に 確認 した 。

「 中洲 まで 出る の 、 面倒 や ない ?

」 と 佳乃 が 答える と 、 その 言い 方 で 何 か 感じ取った の か 、「 なんか 約束 で も ある と ? 」 と 沙 里 が 訊いて くる 。

佳乃 は 曖昧 に 首 を 傾げた 。

「 もし かして 増尾 くん ? 」 沙 里 が 半分 驚き 、 半分 疑る ような 声 を 上げて 顔 を 覗き込んで くる 。

佳乃 は 、「 え 、 なんで ? 」 と 質問 を はぐらかし 、「 でも 、 今日 は ちょっと 会えば よ かっちゃ ん 」 と 早口 に 答えた 。

「 じゃあ 、 餃子 やめ といた ほう が よか よ 」 横 から 眞子 が 口 を 挟んで くる 。

その 言い 方 が やけに 切迫 して いて 、 佳乃 は 思わず 笑った 。

「 フェアリー 博多 」 から 地下鉄 千代県庁口 駅 まで 歩いて 三 分 と かから なかった 。

ただ 、 向かう 途中 に 東 公園 と いう 鬱蒼 と した 公園 沿い の 道 が あり 、 昼間 なら いい が 、 夜間 は なるべく 一 人 で 歩かない ように と 、 町内会 の 掲示板 に も 張り紙 が ある 。

東公園 は 福岡 県庁 に 併設 さ れた 公園 で 、 十三 世紀 の 元寇 の 際 、「 我が身 を もって 国難 に 代わらん 」 と 伊勢 神宮 に 祈願 した こと で 有名な 亀山 上皇 や 、 日蓮 宗 の 開祖 である 日蓮 聖人 の 銅像 が 建って いる 。

広い 敷地 に は えびす 様 を 祭った 十 日 恵比須 神社 や 元寇 史料館 など の 建物 が 点在して は いる もの の 、 日 が 暮れて しまう と 、 公園 全体 が 鬱蒼と した 森 の ように なって しまう 。

駅 へ 向かい ながら 、 佳乃 は 数 日 前 に 届いた 増尾圭吾 から の メール を 沙 里 と 眞子 に 見せ た 。

《 ユニバーサルスタジオ 俺 も 行きてぇ !

でも 年末年始 は 混んでる よ 。 そんじゃ 、 もう 寝る よ 。 お やすみ 》

沙 里 と 眞子 は 順番 に メール を 読み 終える と 、 やはり 順番 に 身悶える ような ため息 を つく 。

「 ねぇ 、 これ って ユニバーサルスタジオ に 一緒に 行こう って 誘われとる っちゃない ?

」 根 が 素直 なのか 、 メール を 読み終えた 眞子 が 羨ましそうに 佳乃 に 言う 。

「 そう か なぁ 」 と 佳乃 が 曖昧に 微笑む と 、「 佳乃 から 誘えば 、 絶対 に 増尾 くん も 断らん よ 」 と 今度 は 沙里 が 口 を 挟んで くる 。

増尾 圭吾 は 、 南西 学院大学 商学部 の 四年生 だった 。

実家 は 湯布院 で 旅館 など を 経営 して いる らしく 、 博多 駅前 に 広い マンション を 借り 、 車 は アウディ の A 6 に 乗って いる 。

佳乃 たち は この 年 、 二〇〇一 年 の 十 月 半ば に 、 増尾 と 天神 の バー で 知り合って いた 。

三 人 で たまたま 入った バー だった のだ が 、 奥 で 騒いで いた 増尾 たち の グループ に 誘わ れ 、 十二 時 近く まで ダーツ を して 遊んだ のだ 。

その 晩 、 増尾 から メルアド を 訊かれた の は 事実 だった 。

だが 、 それ 以来 、 何 度 か 彼 と デート を して いる と いう 佳乃 の 話 は 嘘 だった 。

「 このあと 、 増尾 くん と 会うっちゃろ ?

その とき 誘って みれば ? 」 さっき 「 誰 と 会う の か ? 」 と 訊かれた とき に 、 佳乃 が はぐらかした せい で 、 二 人 は これ から 佳乃 が 増尾 と 会う のだ と 信じて いた 。

佳乃 は 沙 里 の 視線 から 逃れる ように 、「 今日 は ほんとに ちょっと 会う だけ やけん 」 と 繰り返した 。

三 人 の 靴音 が 静まり返った 東公園 の 暗闇 に 吸い込まれて いく 。

駅 に 着く まで 三 人 は ずっと 増尾圭吾 の 話 で 盛り上がって いた 。

薄気味悪い 公園 沿い の 道 で は あった が 、 三 人 の 明るい 声 の せい で 、 いつも より も 街灯 の 数 が 多く 感じ られた 。

地下鉄 の 駅 に 着いて 、 天神 へ 向かう 車内 でも 三人 は 増尾圭吾 の 話 に 終始 した 。

芸能 人 で 言えば 誰 に 似て いる か と か 、 インターネット で 調べた 彼 の 実家 の 旅館 に は 露天 風呂 の ついた 離れ が ある と か 。

天神 の バー で 知り合った とき 、 佳乃 は 三 人 の 中 で 自分 だけ が メルアド を 訊かれた こと を 誇り に 思って いた 。

その 誇り が つい 、「 ねぇ 、 増尾 くん から メール きた ?

」 と いう 沙里 の 質問 に 、「 うん 、 きた よ 。

今週末 会 う 」 と いう 咄嗟 の 嘘 を つかせて しまった 。

その 週末 、 佳乃 は 二人 に 服装 や ヘアスタイル まで チェックされて 、 賑やかに アパート から 見送られた 。

弾み で ついた 小さな 嘘 が 取り返し の つかない もの に なり 、 その 日 、 佳乃 は 西鉄 で 実家 に 帰って 時間 を 潰した のだ 。

しかし 、 天神 の バー で 会って 以来 、 一切 連絡 が ない と いう こと も なかった 。

こちら が 送れば だ が 、 必ず 返信 は 返って くるし 、「 ユニバーサルスタジオ って 行って み たい よ ねぇ 」 と 佳乃 が 送れば 、「 俺 も すげぇ 行き てぇ !

」 と 「! 」 つきで 返って くる 。

ただ 、 そのまま 「 じゃあ 、 一緒に 」 と いう 話 に は なら ない 。

実際 メール は 何度 か 交わして いる が 、 天神 の バー 以来 、 佳乃 は 一 度 も 増尾 圭 吾 と 会って い ない 。

中洲 の 鉄鍋餃子店 に 入って から も 、 増尾 談議 は 続いた 。

テーブル に は 手羽煮や ポテト サラダ 、 そして メイン の 餃子 が 並び 、 三 人 と も 生 ビール を 飲み ながら 、 眞子 は 彼氏 の できた 佳乃 を 素直に 羨まし がり 、 沙里 は 嫉妬 半分 、 浮気 されない ように と 忠告して いた 。

「 ねぇ 、 佳乃 ちゃん 、 まだ 時間 大丈夫 ?

」 眞子 に そう 言わ れ 、 佳乃 が 店 の 壁時計 を 見る と 、 脂ぎった ガラス の 中 で 、 針 は すでに 九 時 を 指して いた 。

「 よか よ 。

今日 は 向こう も その あと に 友達 と 約束 が あって 、 ほんとに ちょっと しか 会えん し 」 と 佳乃 は 答え た 。

すかさず 眞子 が 、「 うわ 、 やっぱり ちょっと でも 会いたい と や ねぇ 」 と ため息 を 漏らす 。

佳乃 は 眞子 の 勘違い を 訂正 する こと も なく 、「 こっち も 明日 、 仕事 ある し ねぇ 」 と 肩 を すぼめた 。

この 夜 、 佳乃 が 実際 に 待ち合わせ を して いた の は 増尾圭吾 で は なかった 。

その 増尾 から なかなか メール が 来ない のに 焦じれて 、 つい 退屈しのぎ に 登録した 出会い系 サイト で 知り合った 男 の 一人 だった の だ 。

佳乃 が 、 沙 里 、 眞子 と 中洲 で 鉄鍋餃子 を 食べながら 増尾圭吾 の 噂話 に 花 を 咲かせて いる ころ 、 十五 キロ ほど 離れた 三瀬 峠 の カーブ で 、 その 男 は 急 ハンドル を 切り 、 砂利 敷き の 路肩 に 車 を 停めた 。

国道 と 呼ぶ に は あまりに も 見放された 峠 の 道 だった 。

踏み越えた 白線 が 車 の ハロゲンライト に 浮かび 、 一瞬 、 白蛇 の ように のた打って 見えた 。

白蛇 は 峠 を 縛り 上げる ように 伸びて いる 。

ぎりぎり と 縛り上げられた 峠 が 身 を 捩り 、 その せい で 山 の 葉々 が 揺れて いる ようだった 。

この 峠 道 を 背後 に 辿れば 、 昏黒 の 闇 の 中 、 ぽっかり と 口 を 開けた 三瀬 トンネル の 出 口 が 遠く に 見える 。

逆に 峠 を 下りて いけば 、 眼下 に は 博多 の 街明かり が 次第に 広がって くる 。

路肩 に 停めた 車 の ハロゲンライト が 、 土埃 と 、 その先 の 藪 を 青白く 照らして いた 。

蛾 一 匹 、 光 の 中 を 横切って いく 。

佐賀 大和 の インターチェンジ から ここ まで 、 勢い の ある 峠 の カーブ が 続いた 。

その せい で ハンドル を 切る たび に 、 ダッシュボード に 置かれた 十 円 玉 が 右 に 左 に 移動した 。

この 十 円 玉 は 、 峠 の 手前 で 立ち寄った ガソリン スタンド で 受け取った おつり だった 。

いつも は 三千 円 分 と か 、 三千五百 円 分 と か 、 料金 分 で しか 給油 し ない の だ が 、 ドア の 向こう に 立った 若い 女 の 店員 が 可愛く 、 つい 見栄 を 張って 、「 ハイオク 、 満タン で 」 と 告げた 。

料金 は 5990 円 だった 。

千 円 札 で 払う と 、 男 の 財布 に は あと 五千 円 札 が 一 枚 だけ に なった 。

スタンド の 女 は 両手 で ぶっとい ノズル を 給油 口 に 突っ込んだ 。

その 様子 を 男 は じっと サイドミラー で 眺め た 。

給油 中 、 女 は 前 へ 回り込んで きて 、 で かい 胸 を 押しつける ように フロント ガラス を 拭いた 。

十二 月 初旬 、 夜風 は 冷たく 、 女 の 頬 は 赤らんで いた 。

殺風景な 田園 を 走る 街道 に 、 そこ だけ 白昼 の ように ぽつんと 明るい スタンド だった 。

「 日曜日 、 友達 と ごはん 食べる 約束 ある けど 、 遅い 時間 なら ……」 「 俺 は 、 遅くて も よか よ 」 「 でも 寮 の 門限 十一 時 ちゃ けど ……」 数 日 前 、 電話 で 聞いた 佳乃 の 声 が 蘇る 。

男 は ダッシュボード の 十 円 玉 を ジーンズ の ポケット に 突っ込んだ 。

指先 に 硬く なった 性器 が 触れる 。

佳乃 の こと を 考えて いた わけで は なかった が 、 峠 の 急な カーブ を 一つ一つ 制覇 して くる うち に 、 いつの間にか こう なって いた 。

男 は 名前 を 清水 祐一 と いった 。

長崎 市 の 郊外 に 住む 二十七 歳 の 土木 作業 員 で 、 先月 二 度 会った きり 、 なかなか 連絡 が 取れ なく なった 石橋 佳乃 に これ から 会い に 行く ところ だった 。

佳乃 と 待ち合わせた 十 時 まで 、 峠 を 下りて いく こと を 計算 に 入れて も 充分に 間 が あった 。

場所 は 前回 彼女 を 車 で 送った 市内 の 東公園 正門 前 。

たしか 車 を 停めた 場所 から も 中 に 建つ 大きな 銅像 が 見えた 。

祐一 は 車 の ドア を 開ける と 、 足 だけ を 運転 席 から 外 へ 出した 。

車高 を 低く 改造して ある ので 、 足 は ちゃんと 地面 に つく 。

ここ で たばこ でも 吸えば 、 ちょっとした 時間 潰し に なる のだ が 、 祐一 に 喫煙 の 習慣 は ない 。

仕事 中 、 現場 で の 休憩 時間 など 、 他の 作業員 たち が みんな たばこ を 吸う ので 、 つい 手持ち 無 沙汰 に なる こと も 多い が 、 たばこ を 吸う より も 、 その あいだ 目 を 閉じて 時間 を 過ごして いる ほう が ずっと 気 が 紛れた 。

車 内 の 暖かい 空気 が 外 へ 流れ出て いく の が 首筋 に 伝わった 。

遠く に トンネル の 出口 が 見えた が 、 それ 以外 に 色 の ついて いる もの は なかった 。

しかし 、 峠 を 包む 闇 に も いろんな 色 が あって 、 山嶺 の 紫色 に 近い 闇 、 雲 に 隠れた 月 の 周囲 の 白い 闇 、 そして すぐ そこ の 藪 を 覆う ドス 黒い 闇 など 、 きちんと 見分ければ 幾 通り も の 色 が ある 。

しばらく 目 を 閉じたり 開けたり し ながら 、 盲目 と 闇 の 違い を 比較 して いる と 、 山麓 から 峠 を 上って くる 車 の ライト が 小さく 見えた 。

カーブ を 曲がる と 消え 、 また 次の カーブ で 現れる 。

小さな ライト の 光 でも 、 そこ に ある 白い ガード レール や オレンジ色 の カーブミラー が 照らし出される 。 その とき 、 トンネル 方面 から 一 台 の 軽 トラック が 近づいて きて 、 祐一 の 目の前 を あっという間 に 走り去った 。

走り去った とたん 、 ふいに 強烈な 家畜 の 臭い が した 。

峠 の 澄んだ 冷たい 夜気 に 、 とつぜん 混じった 獣 の 臭気 は 、 まるで クラゲ の ように 祐一 の 鼻 を 噛んだ 。

祐一 は 臭い から 逃れて ドア を 閉める と 、 シート を 倒して 寝転んだ 。

携帯 を ポケット から 取り出して みた が 、 佳乃 から の メール は 入って い ない 。

代わり に 画像 を 開く と 、 佳乃 の 下着 姿 の 画像 が 出て くる 。

顔 は 写って い ない が 、 肩 口 に 一 つ ある 小さな ニキビ まで くっきり と 写って いる 。

この たった 一 枚 の 画像 の 保存 に 、 佳乃 は 三千 円 を 要求 して きた 。

「 ちょっと 、 やめて よ 」 博多 湾 の 埋め立て 地 に 建つ ラブ ホテル の 一室 で 、 祐一 が 携帯 の カメラ を 向けた とき 、 佳乃 は その 胸 を 白い シャツ で 隠した 。

これ から 着よう と 手 に して いた シャツ だった が 、 慌てた せい で 強く 握った らしく 、「 ちょっと 、 ほら 、 皺 に なった や ん !

」 と 、 露骨に 不機嫌な 顔 を した 。

ラブ ホテル の 内壁 は 、 コンクリート に そのまま 壁紙 を 張った ような 、 息 が つまる 部屋 だった 。

三 時間 4320 円 で 、 安っぽい カーペット が 敷かれた 室内 に は 、 パイプ 製 の セミダブルベッド が 置かれ 、 一応 ベッド マット は ある のだ が 、 なぜ か その 上 に マット より も 一回り 小さい 和布団 が 敷いて あった 。

部屋 に は 開閉 不能 の サッシ 窓 が あり 、 港 の 風景 で は なく 、 都市 高速 の 高架 が 見えた 。

「 ねぇ 、 写真 、 撮らせて くれ ん ね 」 懲りず に 祐一 が ぼそっと 頼む と 、「 馬鹿 じゃ ない 」 と 佳乃 は 失笑 した 。

それ より も シャツ に ついた 皺 の ほう が 気 に なる ようだった 。

「 一 枚 だけ 。

顔 は 写さん から 」 祐一 は ベッド に 正座 して 頼み込んだ 。

一瞬 、 ちらっと 上目遣い に 見た 佳乃 が 、「 写真 ?

…… いくら く れる と ? 」 と 面倒臭 そうに 言う 。

祐一 は 下着 だけ しか 身 に つけて い なかった 。

ベッド の 下 に 脱ぎ捨て られた ジーンズ が 落ちて おり 、 財布 が 入って いる 尻 の ポケット が こんもり と 盛り上がって いる 。

黙り込んで いる と 、「 三千 円 なら いい よ 」 と 佳乃 が 言った 。

もう 胸 は 隠して おらず 、 白い シャツ より も 光沢 の ある ブラジャー が 乳房 に 食い込んで いた 。

親指 で ボタン を 押した 。

カシャリ と 乾いた 音 が 鳴り 、 そこ に 半裸 の 佳乃 の 姿 が 残った 。

佳乃 は すぐに ベッド に 飛び乗って きて 、 画像 を 見せろ と せがんだ 。

そして 自分 の 顔 が 写って い ない こと を 確認 する と 、「 ほんとに 、 そろそろ 行か ん と 、 門限 ある し 」 と ベッド を 降り 、 白い シャツ に 腕 を 通した 。

ホテル の 駐車場 から 遠く に 福岡 タワー が 見えた 。

首 を 伸ばして 眺めよう と する 祐一 を 、「 ちょっと 、 急いで って 」 と 佳乃 が 急 か した 。

「 福岡 タワー の 展望 台 に 上った こと ある ね ? 」 と 祐一 は 訊 いた 。

面倒臭 そうに 、「 子供 の ころ 」 と 答えた 佳乃 が 、 早く 車 に 乗り込む ように 、 と 顎 を しゃ くる 。

祐一 は 、「 あれ 、 灯台 み たい や ね 」 と 言おう と した が 、 佳乃 は すでに 助手席 に 乗り込んで いた 。

第一章 彼女は誰に会いたかったか?2 だい ひと しょう|かのじょ は だれ に あい たかった か Kapitel 1: Wen wollte sie sehen?2 Chapter 1: Who Did She Want to See2 Capítulo 1: ¿A quién quería ver?2 Chapitre 1 : Qui voulait-elle voir?2 제1장 그녀는 누구를 만나고 싶었나? Capítulo 1: Quem é que ela queria ver?2 Bölüm 1: Kimi görmek istiyordu? 第 1 章:她想见谁? 第 1 章:她想见谁?

この とき 佳男 の 一 人 娘 、 石橋 佳乃 は 、 福岡 市 博多区 千代 に ある 平成 生命 の 借り上げ アパート 「 フェアリー 博多 」 の 一室 で 、「 常連客 が 連れてきた ミニチュアダックスフント が 可愛かった 」 と 話し続ける 母親 の 声 に 生返事 を 繰り返し ながら 、 マニキュア を 塗り直して いた 。 ||よしお||ひと|じん|むすめ|いしばし|よしの||ふくおか|し|はかた く|せん だい|||へいせい|せいめい||かりあげ|あぱーと||はかた||いっしつ||じょうれん きゃく||つれて きた|||かわいかった||はなし つづける|ははおや||こえ||せい へんじ||くりかえし||まにきゅあ||ぬり なおして| Yoshios einzige Tochter, Yoshino Ishibashi, lebt in einer Mietwohnung namens "Fairy Hakata" in Chishiro, Hakata-ku, Fukuoka City. "Ein Miniaturdackel, den einer unserer Stammgäste mitbrachte, war einfach süß." Sie war dabei, ihre Maniküre nachzubessern und reagierte immer wieder auf die Stimme ihrer Mutter, die immer wieder zu ihr sprach: "Es tut mir leid, es tut mir leid, es tut mir leid. At this time, a daughter of a son-in-hand, Ayano Ishibashi, said in a room in Heisei Life 's rented apartment "Fairie Hakata" in Chiyo, Hakata-ku, Fukuoka City that "a miniature dachshund brought by a patron was lovely" She was repainting her nail polish while repeating her lively reply to her mother's voice. A única filha de Yoshio, Yoshino Ishibashi, vive num apartamento alugado chamado "Fairy Hakata" em Chishiro, Hakata-ku, cidade de Fukuoka. "Um dachshund miniatura trazido por um dos nossos clientes habituais era adorável." Estava a retocar a manicura, respondendo repetidamente à voz da mãe, que não parava de lhe dizer: "Desculpe, desculpe, desculpe.

ここ 「 フェアリー 博多 」 に は 三十 室 ほど の ワンルーム が あり 、 その 全室 に 平成 生命 で 外交 員 を する 女性 たち が 住んで いる 。 ||はかた|||さんじゅう|しつ|||わんるーむ||||ぜん しつ||へいせい|せいめい||がいこう|いん|||じょせい|||すんで| Hier: "Fee Hakata". Das Gebäude verfügt über etwa 30 Studiozimmer, die alle von Frauen bewohnt werden, die als Diplomatinnen für Heisei Life arbeiten. Here, "Fairy Hakata" has about 30 studios, and all of them are inhabited by women who are diplomatic staff in Heisei Life. Fairy Hakata 拥有约 30 间单间房间,全部住着在平成生命保险公司担任外交官的女性。

いわゆる 会社 が 管理 する 寮 と は 違い 、 食堂 や 寮 規則 など は ない のだ が 、 勤務地区 は 違え ど 同じ 会社 で 働く者 同士 、 ベランダ 越し に 会話 を したり 、 中庭 に ある 小さな 東屋 で は 、 毎晩 、 何 人 か が 缶 ジュース を 片手 に 集まって 、 その 賑かな 笑い声 が 響く 。 |かいしゃ||かんり||りょう|||ちがい|しょくどう||りょう|きそく||||||きんむ ちく||ちがえ||おなじ|かいしゃ||はたらく もの|どうし|べらんだ|こし||かいわ|||なかにわ|||ちいさな|ひがし や|||まいばん|なん|じん|||かん|じゅーす||かたて||あつまって||にぎやかな|わらいごえ||ひびく Unlike so-called company-managed dormitories, there are no dining rooms or dormitory rules, but people who work in the same company in different work areas can talk over the veranda, or in a small eastern house in the courtyard. Every night, some people gathered in one hand with a can of juice, and the lively laughter echoed.

会社 から の 補助 は 三万 円 、 入居 者 たち は それ に 三万 円 を プラス して 家賃 を 支払う 。 かいしゃ|||ほじょ||さんまん|えん|にゅうきょ|もの|||||さんまん|えん||ぷらす||やちん||しはらう The subsidy from the company is 30,000 yen, and the tenants pay the rent by adding 30,000 yen to it. 公司提供3万日元的补贴,租户需额外缴纳3万日元的租金。

部屋 に は ユニットバス と 小さな キッチン も ついて おり 、 食費 を 浮かす ため に 、 誰 か の 部屋 に 集まって 共同 で 夕食 を 作る 者 も 多い 。 へや|||||ちいさな|きっちん||||しょくひ||うかす|||だれ|||へや||あつまって|きょうどう||ゆうしょく||つくる|もの||おおい The rooms are equipped with a unit bath and a small kitchen, and many people gather in someone else's room to cook dinner together in order to save on food costs. 房间里还有一个单位浴室和一个小厨房,为了节省伙食费,很多人聚集在某人的房间里一起做饭。

なかなか 終わら ない 母親 の 犬 の 話 に 、 佳乃 は さすが に うんざり して 、「 お 母さん 、 私 、 これ から 友達 と ごはん 食べ に 行く けん 」 と その 話 を 遮った 。 |おわら||ははおや||いぬ||はなし||よしの|||||||かあさん|わたくし|||ともだち|||たべ||いく||||はなし||さえぎった The story of her mother's dog, which never ends, was disgusting, and she interrupted the story, saying, "Mom, I, I'm going to eat with my friends." 吉野厌倦了母亲没完没了地谈论狗的事情,她打断了谈话,说道:“妈妈,我要和朋友们出去吃饭。”

母親 は 、 電話 が かかって きた とき に まず 訊いた くせ に 、 娘 が まだ 夕食 を 済ませて い ない こと を 今さら 気づいた ようで 、「 あら 、 そう ね ? ははおや||でんわ|||||||じん いた|||むすめ|||ゆうしょく||すませて|||||いまさら|きづいた|||| The mother seemed to realize that her daughter hadn't finished her supper yet, even though she first asked when she received the call, saying, "Oh, yeah? 母亲似乎刚刚意识到女儿还没吃完晚饭,尽管她在电话铃响时先问了她,然后说:“哦,真的吗?”

ごめん 、 ごめん 」 と 謝る と 、「 ちょっと 待た ん ね 。 |||あやまる|||また|| I apologize, "I'm sorry, I'm sorry," and said, "Wait a minute. お 父さん と 代わる けん 」 と 一方的に 電話 口 を 離れた 。 |とうさん||かわる|||いっぽうてきに|でんわ|くち||はなれた He unilaterally left the phone, saying, "Ken to replace my father."

佳乃 は 面倒くさく 思い ながら ベランダ に 出た 。 よしの||めんどうくさく|おもい||べらんだ||でた Yoshino went out to the balcony, thinking that it was troublesome.

二 階 の ベランダ から 中庭 の 東屋 が 見え 、 この 寒い 中 、 数 人 が 談笑 して いる 。 ふた|かい||べらんだ||なかにわ||ひがし や||みえ||さむい|なか|すう|じん||だんしょう|| From the second-floor balcony, one can see the courtyard's east roof, where several people are chatting in this cold weather.

中 に 仲町 鈴 香 か と いう 埼玉 出身 の 女 が おり 、 言葉 に 訛り が ない の が よほど 自慢 な の か 、 誰 より も 大きな 声 で くだらない テレビ ドラマ の 話 を して いる 。 なか||なかまち|すず|かおり||||さいたま|しゅっしん||おんな|||ことば||なまり||||||じまん||||だれ|||おおきな|こえ|||てれび|どらま||はなし||| There is a woman from Saitama called Suzuka Nakamachi, who is so proud that she has no accent in her words, and she talks about a crappy TV drama in a louder voice than anyone else.

佳乃 が ベランダ から 部屋 へ 戻ろう と する と 、「 もしもし 」 と 父親 の 声 が 聞こえた 。 よしの||べらんだ||へや||もどろう||||||ちちおや||こえ||きこえた As Yoshino tried to return to the room from the balcony, he heard his father's voice, "Hello."

「 これ から 友達 と ごはん 食べ に 行く けん が 」 佳乃 は 牽制 する ように 言った 。 ||ともだち|||たべ||いく|||よしの||けんせい|||いった "I'm going to eat with my friends from now on," Yoshino told me to check.

ただ 、 父親 の ほう も 特に 話 は ない らしく 、 いつも の ように 店 の 景気 が 悪い と 愚痴 を こぼす こと も なく 、「 そう ね 。 |ちちおや||||とくに|はなし|||||||てん||けいき||わるい||ぐち||||||| However, the father did not seem to have anything to say, and did not complain about the bad business climate as he usually does.

気 を つけて 行 か や ん よ 。 き|||ぎょう|||| You should be careful. …… ところで 仕事 は どう ね ? |しごと||| ...... How's work going, by the way? 」 と 珍しく 機嫌 が いい 。 |めずらしく|きげん|| I'm in a good mood, which is unusual.

佳乃 は 、「 仕事 ? よしの||しごと 飛び込み で すぐに 契約 取れる って わけ で も ない し 」 と 短く 答え 、「 とにかく 、 もう 行かやん けん 。 とびこみ|||けいやく|とれる||||||||みじかく|こたえ|||ぎょう かや ん| It's not like you can just walk in and get a contract right away." He answered shortly, "Anyway, I'm going to go for a walk. じゃあ ね 」 と 電話 を 切った 。 |||でんわ||きった Well then, "he hung up.

これ が 両親 と の 最後 の 会話 に なる と も 知ら ず に 。 ||りょうしん|||さいご||かいわ|||||しら|| Without knowing that this would be the last conversation with my parents.

アパート の エントランス で しばらく 待って いる と 、 沙里 と 眞子 が 歩調 を 合わせる ように 階段 を 下りて きた 。 あぱーと|||||まって|||いさご さと||まさこ||ほちょう||あわせる||かいだん||おりて| After waiting for a while at the entrance of the apartment, Sari and Mako came down the stairs to keep pace.

それぞれ 勤務 地区 は 違う のだ が 、 この 「 フェアリー 博多 」 で 佳乃 が もっとも 親しく 付き合って いる 二 人 だった 。 |きんむ|ちく||ちがう|||||はかた||よしの|||したしく|つきあって||ふた|じん| Although their work districts are different, Yoshino was the two people who were most closely associated with each other in this "Fairy Hakata".

背 が 高く 痩せた 沙里 と 、 ちょっと ずんぐり むっくり した 眞子 が 、 階段 を 並んで 下りて くる と 、 同じ はず の 段差 が 違って 見える 。 せ||たかく|やせた|いさご さと||||||まさこ||かいだん||ならんで|おりて|||おなじ|||だんさ||ちがって|みえる A tall and thin Sari and a slightly chunky Mako who walk down the stairs, but they look the same, but they look different. この 日 、 三 人 は 昼間 も 天神 の デパート など を 一緒に ぶらついて いた のだ が 、 夕食 に は 少し 早 すぎて いった ん アパート に 戻って きて いた 。 |ひ|みっ|じん||ひるま||てんじん||でぱーと|||いっしょに|||||ゆうしょく|||すこし|はや||||あぱーと||もどって|| On that day, the three of them wandered around with Tenjin's department stores, etc. even in the daytime, but a little too early for dinner, they were returning to the apartment. 階段 を 下りて きた 沙 里 は 、 昼間 三越 の ティファニー で 買った ばかりの オープンハートピアス を すでに つけている 。 かいだん||おりて||いさご|さと||ひるま|みつこし||||かった|||||つけて いる Sari, who came down the stairs, is already wearing the open heart earrings she had just bought at Tiffany, Mitsukoshi in the daytime.

この 二万 ちょっと の ピアス を 買う まで に 、 沙里 は 一 時間 近く も 店内 で 迷った 。 |にまん|||ぴあす||かう|||いさご さと||ひと|じかん|ちかく||てん ない||まよった By the time I bought these 20,000 pierced earrings, Sari got lost in the store for almost an hour.

値段 と 相談 し ながら 、 あれこれ と 違う 種類 の 商品 を 手 に 取る 沙里 に 、「 迷っとる とき は 、 定番 を 買う の が 一番 って 」 と 、 さすが に 待ちくたびれて 佳乃 は 口 を 挟んだ 。 ねだん||そうだん|||||ちがう|しゅるい||しょうひん||て||とる|いさご さと||まよっと る|||じょうばん||かう|||ひと ばん|||||まちくたびれて|よしの||くち||はさんだ While consulting with the price, she picks up a different kind of product and says, “When I'm lost, the best thing to do is to buy a standard item.” As I waited, Yoshino said something about it. It is.

階段 を 下りて きた 沙 里 の ピアス を さりげなく 褒め ながら 、 佳乃 は どこ か 違和感 の あった ブーツ を 履き 直した 。 かいだん||おりて||いさご|さと||ぴあす|||ほめ||よしの||||いわかん|||ぶーつ||はき|なおした While complimenting Sara's pierced earrings down the stairs, Yoshino put on some uncomfortable boots again.

すでに 踵 が 磨り減り 、 ファスナー が 壊れ かけて いる 。 |かかと||みがく り へり|ふぁすなー||こぼれ|| Heels are already worn out and fasteners are about to break.

横 に 立つ 二 人 も 同じ ような ブーツ を 履いて いる 。 よこ||たつ|ふた|じん||おなじ||ぶーつ||はいて| The two standing sideways also wear similar boots.

立ち上がって 、「 ねぇ 、 どこ 行く ? たちあがって|||いく He stood up and asked, "Hey, where are you going? 」 と 佳乃 が 尋ねる と 、「 鉄鍋 餃子 は ? |よしの||たずねる||くろがね なべ|ぎょうざ| When Yoshino asked, "What about iron pot dumplings?" 」 と 、 こういう とき 滅多 に 意見 を 言わない 眞子 が 言った 。 |||めった||いけん||いわ ない|まさこ||いった Mako, who rarely gives an opinion at such times, said.

「 あ 、 餃子 食べ たい かも 」 すぐに 沙 里 が 賛成 して 、 同意 を 求める ような 目 を 佳乃 に 向けて くる 。 |ぎょうざ|たべ||||いさご|さと||さんせい||どうい||もとめる||め||よしの||むけて| "Ah, maybe I want to eat dumplings." Sari immediately agreed, and she turned her eyes to Yoshino asking for her consent.

佳乃 は 握っていた 携帯 を 短大 の 卒業祝い に 父親 に 買って もらった ヴィトン の カバ ・ ピアノ に しまう と 、 やはり ヴィトン の 財布 を 取り出して 、 一万 円 に 満たない 残金 を ため息 混じり に 確認 した 。 よしの||にぎって いた|けいたい||たんだい||そつぎょう いわい||ちちおや||かって||||かば|ぴあの|||||||さいふ||とりだして|いちまん|えん||みたない|ざんきん||ためいき|まじり||かくにん| When Yoshino put the cell phone he was holding into the hippopotamus and piano of Louis Vuitton, which his father bought to celebrate his graduation from a junior college, he took out his wallet and confirmed the balance of less than 10,000 yen with a sigh.

「 中洲 まで 出る の 、 面倒 や ない ? なか す||でる||めんどう|| "Isn't it bothersome to go to Nakasu?

」 と 佳乃 が 答える と 、 その 言い 方 で 何 か 感じ取った の か 、「 なんか 約束 で も ある と ? |よしの||こたえる|||いい|かた||なん||かんじとった||||やくそく|||| " When Kano responded, he seemed to sense something in the way she said it and asked, "Do you have some kind of promise? 」 と 沙 里 が 訊いて くる 。 |いさご|さと||じん いて|

佳乃 は 曖昧 に 首 を 傾げた 。 よしの||あいまい||くび||かしげた Yoshino tilted her head vaguely.

「 もし かして 増尾 くん ? ||ますお| "Maybe Masuo-kun? 」 沙 里 が 半分 驚き 、 半分 疑る ような 声 を 上げて 顔 を 覗き込んで くる 。 いさご|さと||はんぶん|おどろき|はんぶん|うたぐる||こえ||あげて|かお||のぞきこんで| Sari looks into her face with a half-surprised and half-suspicious voice.

佳乃 は 、「 え 、 なんで ? よしの||| 」 と 質問 を はぐらかし 、「 でも 、 今日 は ちょっと 会えば よ かっちゃ ん 」 と 早口 に 答えた 。 |しつもん||||きょう|||あえば|||||はやくち||こたえた " But, it's okay to see him for a little while today. I answered quickly.

「 じゃあ 、 餃子 やめ といた ほう が よか よ 」 横 から 眞子 が 口 を 挟んで くる 。 |ぎょうざ|||||||よこ||まさこ||くち||はさんで| "Then you'd better stop eating dumplings." Mako interrupts from the side.

その 言い 方 が やけに 切迫 して いて 、 佳乃 は 思わず 笑った 。 |いい|かた|||せっぱく|||よしの||おもわず|わらった The wording was so urgent that Yoshino laughed unintentionally.

「 フェアリー 博多 」 から 地下鉄 千代県庁口 駅 まで 歩いて 三 分 と かから なかった 。 |はかた||ちかてつ|ちよ けんちょう くち|えき||あるいて|みっ|ぶん||| It took less than three minutes to walk from "Fairy Hakata" to Chiyo Prefectural Office Exit Station on the subway.

ただ 、 向かう 途中 に 東 公園 と いう 鬱蒼 と した 公園 沿い の 道 が あり 、 昼間 なら いい が 、 夜間 は なるべく 一 人 で 歩かない ように と 、 町内会 の 掲示板 に も 張り紙 が ある 。 |むかう|とちゅう||ひがし|こうえん|||うっそう|||こうえん|ぞい||どう|||ひるま||||やかん|||ひと|じん||あるか ない|||ちょうないかい||けいじばん|||はりがみ|| However, on the way to the park, there is a road alongside a dense park called East Park, which is fine during the daytime, but there is a sign on the bulletin board of the neighborhood association advising people not to walk alone at night.

東公園 は 福岡 県庁 に 併設 さ れた 公園 で 、 十三 世紀 の 元寇 の 際 、「 我が身 を もって 国難 に 代わらん 」 と 伊勢 神宮 に 祈願 した こと で 有名な 亀山 上皇 や 、 日蓮 宗 の 開祖 である 日蓮 聖人 の 銅像 が 建って いる 。 ひがしこうえん||ふくおか|けんちょう||へいせつ|||こうえん||じゅうさん|せいき||もと こう||さい|わがみ|||こくなん||かわら ん||いせ|じんぐう||きがん||||ゆうめいな|かめやま|じょうこう||にちれん|はじめ||かいそ||にちれん|せいじん||どうぞう||たって| Higashikoen is a park attached to the Fukuoka Prefectural Government, and was founded by Emperor Kameyama and the founder of Nichiren Sect, who are famous for praying to Ise Jingu at the time of the Mongol invasion in the 13th century. One day a bronze statue of the saint Ren is erected.

広い 敷地 に は えびす 様 を 祭った 十 日 恵比須 神社 や 元寇 史料館 など の 建物 が 点在して は いる もの の 、 日 が 暮れて しまう と 、 公園 全体 が 鬱蒼と した 森 の ように なって しまう 。 ひろい|しきち||||さま||まつった|じゅう|ひ|えびす|じんじゃ||もと こう|しりょう かん|||たてもの||てんざい して|||||ひ||くれて|||こうえん|ぜんたい||うっそうと||しげる|||| The large site is dotted with buildings such as the Tokaebisu Shrine and the Mongolian Invasion Museum, where Ebisu was enshrined, but when the sun goes down, the entire park becomes like a dense forest. I will end up.

駅 へ 向かい ながら 、 佳乃 は 数 日 前 に 届いた 増尾圭吾 から の メール を 沙 里 と 眞子 に 見せ た 。 えき||むかい||よしの||すう|ひ|ぜん||とどいた|ますお けい われ|||めーる||いさご|さと||まさこ||みせ| While heading to the station, Yoshino showed Sari and Mako an email from Keigo Masuo, which arrived a few days ago.

《 ユニバーサルスタジオ 俺 も 行きてぇ ! |おれ||ぎょう きて ぇ 《Universal Studios I can go too!

でも 年末年始 は 混んでる よ 。 |とし まつ ねんし||こん ん でる| But it's crowded during the New Year holidays. そんじゃ 、 もう 寝る よ 。 ||ねる| Well then, I'm going to sleep. お やすみ 》 good night "

沙 里 と 眞子 は 順番 に メール を 読み 終える と 、 やはり 順番 に 身悶える ような ため息 を つく 。 いさご|さと||まさこ||じゅんばん||めーる||よみ|おえる|||じゅんばん||み もだえる||ためいき|| When Sari and Mako finish reading the emails in order, they still sigh in a writhing manner.

「 ねぇ 、 これ って ユニバーサルスタジオ に 一緒に 行こう って 誘われとる っちゃない ? |||||いっしょに|いこう||さそわ れ とる|っちゃ ない "Hey, isn't this invited to go to Universal Studios together?

」 根 が 素直 なのか 、 メール を 読み終えた 眞子 が 羨ましそうに 佳乃 に 言う 。 ね||すなお|な の か|めーる||よみ おえた|まさこ||うらやま し そうに|よしの||いう Mako, who has finished reading the e-mail, tells Yoshino with envy, whether the roots are straightforward.

「 そう か なぁ 」 と 佳乃 が 曖昧に 微笑む と 、「 佳乃 から 誘えば 、 絶対 に 増尾 くん も 断らん よ 」 と 今度 は 沙里 が 口 を 挟んで くる 。 ||||よしの||あいまいに|ほおえむ||よしの||さそえば|ぜったい||ますお|||ことわら ん|||こんど||いさご さと||くち||はさんで| When Yoshino smiled vaguely, "That's right," she said, "If you invite me from Yoshino, I'll definitely refuse Masuo-kun." This time, Sari puts her mouth in her mouth.

増尾 圭吾 は 、 南西 学院大学 商学部 の 四年生 だった 。 ますお|けい われ||なんせい|がくいん だいがく|しょうがくぶ||よっねんせい| Keigo Masuo was a fourth-year student at Seinan Gakuin University's Faculty of Commerce.

実家 は 湯布院 で 旅館 など を 経営 して いる らしく 、 博多 駅前 に 広い マンション を 借り 、 車 は アウディ の A 6 に 乗って いる 。 じっか||ゆふいん||りょかん|||けいえい||||はかた|えきまえ||ひろい|まんしょん||かり|くるま||||a||のって| My parents' house seems to run an inn in Yufuin, so I rented a large condominium in front of Hakata station, and my car is on an Audi A6.

佳乃 たち は この 年 、 二〇〇一 年 の 十 月 半ば に 、 増尾 と 天神 の バー で 知り合って いた 。 よしの||||とし|ふた|ひと|とし||じゅう|つき|なかば||ますお||てんじん||ばー||しりあって| In October of the same year, January 2001, Masuo and Kano had met at a bar in Tenjin.

三 人 で たまたま 入った バー だった のだ が 、 奥 で 騒いで いた 増尾 たち の グループ に 誘わ れ 、 十二 時 近く まで ダーツ を して 遊んだ のだ 。 みっ|じん|||はいった|ばー||||おく||さわいで||ますお|||ぐるーぷ||さそわ||じゅうに|じ|ちかく|||||あそんだ| The three of us happened to be in a bar, but a group of people including Masuo and his friends who were making noise in the back of the bar invited us in and we played darts until almost twelve o'clock.

その 晩 、 増尾 から メルアド を 訊かれた の は 事実 だった 。 |ばん|ますお||||じん かれた|||じじつ| It was true that Masuo asked me for an e-mail address that night.

だが 、 それ 以来 、 何 度 か 彼 と デート を して いる と いう 佳乃 の 話 は 嘘 だった 。 ||いらい|なん|たび||かれ||でーと||||||よしの||はなし||うそ| However, Kano's story that she had gone on several dates with him since then was a lie.

「 このあと 、 増尾 くん と 会うっちゃろ ? |ますお|||かい うっちゃ ろ "After this, do you want to meet Masuo-kun?

その とき 誘って みれば ? ||さそって| Why don't you invite me at that time? 」 さっき 「 誰 と 会う の か ? |だれ||あう|| " I just asked, "Who are you meeting with? 」 と 訊かれた とき に 、 佳乃 が はぐらかした せい で 、 二 人 は これ から 佳乃 が 増尾 と 会う のだ と 信じて いた 。 |じん かれた|||よしの|||||ふた|じん||||よしの||ますお||あう|||しんじて| " When she was asked if she was going to meet Masuo, Kano was vague and they believed that she was going to meet Masuo from now on.

佳乃 は 沙 里 の 視線 から 逃れる ように 、「 今日 は ほんとに ちょっと 会う だけ やけん 」 と 繰り返した 。 よしの||いさご|さと||しせん||のがれる||きょう||||あう||||くりかえした Yoshino repeatedly said, "Today, I'll just meet you for a moment," so that she could escape from Sari's line of sight.

三 人 の 靴音 が 静まり返った 東公園 の 暗闇 に 吸い込まれて いく 。 みっ|じん||くつ おと||しずまりかえった|ひがしこうえん||くらやみ||すいこまれて| The sound of the shoes of the three people is sucked into the darkness of the eastern park where it has calmed down.

駅 に 着く まで 三 人 は ずっと 増尾圭吾 の 話 で 盛り上がって いた 。 えき||つく||みっ|じん|||ますお けい われ||はなし||もりあがって| Until we arrived at the station, the three of us were excited about the story of Keigo Masuo.

薄気味悪い 公園 沿い の 道 で は あった が 、 三 人 の 明るい 声 の せい で 、 いつも より も 街灯 の 数 が 多く 感じ られた 。 うすきみわるい|こうえん|ぞい||どう|||||みっ|じん||あかるい|こえ|||||||がいとう||すう||おおく|かんじ| It was a road along a creepy park, but the bright voices of the three made me feel that there were more streetlights than usual.

地下鉄 の 駅 に 着いて 、 天神 へ 向かう 車内 でも 三人 は 増尾圭吾 の 話 に 終始 した 。 ちかてつ||えき||ついて|てんじん||むかう|くるま ない||みっり||ますお けい われ||はなし||しゅうし| After arriving at the subway station and heading for Tenjin, the three of them talked about Keigo Masuo from beginning to end.

芸能 人 で 言えば 誰 に 似て いる か と か 、 インターネット で 調べた 彼 の 実家 の 旅館 に は 露天 風呂 の ついた 離れ が ある と か 。 げいのう|じん||いえば|だれ||にて|||||いんたーねっと||しらべた|かれ||じっか||りょかん|||ろてん|ふろ|||はなれ|||| I wonder who he looks like as a celebrity, and the inn at his parents' house, which I searched on the Internet, has an open-air bath.

天神 の バー で 知り合った とき 、 佳乃 は 三 人 の 中 で 自分 だけ が メルアド を 訊かれた こと を 誇り に 思って いた 。 てんじん||ばー||しりあった||よしの||みっ|じん||なか||じぶん|||||じん かれた|||ほこり||おもって| When they met at a bar in Tenjin, Kano was proud that she was the only one among the three who was asked for her e-mail address.

その 誇り が つい 、「 ねぇ 、 増尾 くん から メール きた ? |ほこり||||ますお|||めーる| With that pride, "Hey, did you get an email from Masuo-kun?

」 と いう 沙里 の 質問 に 、「 うん 、 きた よ 。 ||いさご さと||しつもん|||| To Sari's question, "Yeah, I came.

今週末 会 う 」 と いう 咄嗟 の 嘘 を つかせて しまった 。 こんしゅう まつ|かい||||とっさ||うそ||つか せて| I've been telling a lie, "I'll meet at the end of this week."

その 週末 、 佳乃 は 二人 に 服装 や ヘアスタイル まで チェックされて 、 賑やかに アパート から 見送られた 。 |しゅう まつ|よしの||ふた り||ふくそう||||ちぇっく されて|にぎやかに|あぱーと||みおくられた At the end of the week, Yoshino was bustlingly sent off from the apartment after being checked for clothes and hairstyles by the two of them.

弾み で ついた 小さな 嘘 が 取り返し の つかない もの に なり 、 その 日 、 佳乃 は 西鉄 で 実家 に 帰って 時間 を 潰した のだ 。 はずみ|||ちいさな|うそ||とりかえし||つか ない|||||ひ|よしの||にし くろがね||じっか||かえって|じかん||つぶした| The small lie she had told on the spur of the moment turned out to be irrevocable, and that day she took the Nishitetsu train back to her parents' house to kill time.

しかし 、 天神 の バー で 会って 以来 、 一切 連絡 が ない と いう こと も なかった 。 |てんじん||ばー||あって|いらい|いっさい|れんらく||||||| However, since I met him at the bar in Tenjin, I haven't heard from him at all.

こちら が 送れば だ が 、 必ず 返信 は 返って くるし 、「 ユニバーサルスタジオ って 行って み たい よ ねぇ 」 と 佳乃 が 送れば 、「 俺 も すげぇ 行き てぇ ! ||おくれば|||かならず|へんしん||かえって||||おこなって||||||よしの||おくれば|おれ||すげ ぇ|いき|て ぇ If you send it, you will always get a reply, and if Yoshino sends "I want to go to Universal Studios", "I'm going too!

」 と 「! 」 つきで 返って くる 。 |かえって| " The return will be accompanied by a

ただ 、 そのまま 「 じゃあ 、 一緒に 」 と いう 話 に は なら ない 。 |||いっしょに|||はなし|||| However, it cannot be said as it is, "Then, together."

実際 メール は 何度 か 交わして いる が 、 天神 の バー 以来 、 佳乃 は 一 度 も 増尾 圭 吾 と 会って い ない 。 じっさい|めーる||なんど||かわして|||てんじん||ばー|いらい|よしの||ひと|たび||ますお|けい|われ||あって|| In fact, I've exchanged emails several times, but since the bar in Tenjin, Yoshino has never met Keigo Masuo.

中洲 の 鉄鍋餃子店 に 入って から も 、 増尾 談議 は 続いた 。 なか す||くろがね なべ ぎょうざ てん||はいって|||ますお|だんぎ||つづいた Even after I entered the Tetsunabe Gyoza restaurant in Nakasu, the discussion with Masuo continued.

テーブル に は 手羽煮や ポテト サラダ 、 そして メイン の 餃子 が 並び 、 三 人 と も 生 ビール を 飲み ながら 、 眞子 は 彼氏 の できた 佳乃 を 素直に 羨まし がり 、 沙里 は 嫉妬 半分 、 浮気 されない ように と 忠告して いた 。 てーぶる|||てば にや|ぽてと|さらだ||||ぎょうざ||ならび|みっ|じん|||せい|びーる||のみ||まさこ||かれ し|||よしの||すなおに|うらやま し||いさご さと||しっと|はんぶん|うわき|さ れ ない|||ちゅうこく して| The table was filled with stewed chicken wings, potato salad, and the main dish of gyoza dumplings. All three were drinking draft beer while Mako was honestly envious of Kanoh for having a boyfriend, and Sari was half jealous and half advising her not to cheat on him.

「 ねぇ 、 佳乃 ちゃん 、 まだ 時間 大丈夫 ? |よしの|||じかん|だいじょうぶ

」 眞子 に そう 言わ れ 、 佳乃 が 店 の 壁時計 を 見る と 、 脂ぎった ガラス の 中 で 、 針 は すでに 九 時 を 指して いた 。 まさこ|||いわ||よしの||てん||かべ とけい||みる||あぶらぎった|がらす||なか||はり|||ここの|じ||さして| Mako said so, and when Yoshino looked at the wall clock in the store, in the greasy glass, the hands were already pointing at nine o'clock.

「 よか よ 。 "Good, good, good.

今日 は 向こう も その あと に 友達 と 約束 が あって 、 ほんとに ちょっと しか 会えん し 」 と 佳乃 は 答え た 。 きょう||むこう|||||ともだち||やくそく||||||あえ ん|||よしの||こたえ| Today, he has an appointment with a friend after that, so we'll really only see each other for a little while." Kano answered.

すかさず 眞子 が 、「 うわ 、 やっぱり ちょっと でも 会いたい と や ねぇ 」 と ため息 を 漏らす 。 |まさこ||||||あいたい|||||ためいき||もらす Mako immediately sighs, "Wow, I don't want to see you even a little."

佳乃 は 眞子 の 勘違い を 訂正 する こと も なく 、「 こっち も 明日 、 仕事 ある し ねぇ 」 と 肩 を すぼめた 。 よしの||まさこ||かんちがい||ていせい|||||||あした|しごと|||||かた|| Yoshino did not correct Mako's misunderstanding, and shrugged her shoulders, saying, "I have a job tomorrow."

この 夜 、 佳乃 が 実際 に 待ち合わせ を して いた の は 増尾圭吾 で は なかった 。 |よ|よしの||じっさい||まちあわせ||||||ますお けい われ||| On this night, Keigo Masuo was not the person Kano was actually waiting for.

その 増尾 から なかなか メール が 来ない のに 焦じれて 、 つい 退屈しのぎ に 登録した 出会い系 サイト で 知り合った 男 の 一人 だった の だ 。 |ますお|||めーる||こ ない||あせ じれて||たいくつしのぎ||とうろく した|であい けい|さいと||しりあった|おとこ||ひとり||| He was one of the guys I met on a dating site that I registered for boredom because I was so impatient that I couldn't get a mail from Masuo.

佳乃 が 、 沙 里 、 眞子 と 中洲 で 鉄鍋餃子 を 食べながら 増尾圭吾 の 噂話 に 花 を 咲かせて いる ころ 、 十五 キロ ほど 離れた 三瀬 峠 の カーブ で 、 その 男 は 急 ハンドル を 切り 、 砂利 敷き の 路肩 に 車 を 停めた 。 よしの||いさご|さと|まさこ||なか す||くろがね なべ ぎょうざ||たべ ながら|ますお けい われ||うわさ はなし||か||さか せて|||じゅうご|きろ||はなれた|みつせ|とうげ||かーぶ|||おとこ||きゅう|はんどる||きり|じゃり|しき||ろかた||くるま||とめた While Yoshino, Sari, Mako and Nakasu were eating iron pot dumplings and Keigo Masuo's rumors were blooming, the man at the Mise Pass curve, about 15 kilometers away, steered. I cut it and parked the car on the shoulder of the gravel floor.

国道 と 呼ぶ に は あまりに も 見放された 峠 の 道 だった 。 こくどう||よぶ|||||みはなされた|とうげ||どう| It was a mountain pass that was too abandoned to be called a national highway.

踏み越えた 白線 が 車 の ハロゲンライト に 浮かび 、 一瞬 、 白蛇 の ように のた打って 見えた 。 ふみこえた|はくせん||くるま||||うかび|いっしゅん|しろ へび|||のたうって|みえた The white line that I stepped on floated on the halogen light of the car, and for a moment I saw it slamming like a white snake.

白蛇 は 峠 を 縛り 上げる ように 伸びて いる 。 しろ へび||とうげ||しばり|あげる||のびて| The white snake stretches to tie up the pass.

ぎりぎり と 縛り上げられた 峠 が 身 を 捩り 、 その せい で 山 の 葉々 が 揺れて いる ようだった 。 ||しばり あげられた|とうげ||み||ねじり||||やま||は 々||ゆれて|| Die Bergpässe, die so fest verschnürt waren, dass sie sich zu drehen schienen und die Blätter auf den Bergen zum Schwanken brachten. The mountain pass, which was just tied up, twisted itself, which seemed to shake the leaves of the mountain.

この 峠 道 を 背後 に 辿れば 、 昏黒 の 闇 の 中 、 ぽっかり と 口 を 開けた 三瀬 トンネル の 出 口 が 遠く に 見える 。 |とうげ|どう||はいご||てん れば|こんくろ||やみ||なか|||くち||あけた|みつせ|とんねる||だ|くち||とおく||みえる Wenn Sie der Straße hinter sich folgen, können Sie in der Ferne den Ausgang des Mise-Tunnels sehen, der sich in der düsteren Schwärze öffnet. If you follow this pass behind you, you can see the exit of the Mise Tunnel in the distance, which opens in the blackness of dusk.

逆に 峠 を 下りて いけば 、 眼下 に は 博多 の 街明かり が 次第に 広がって くる 。 ぎゃくに|とうげ||おりて||がんか|||はかた||がい あかり||しだいに|ひろがって| Conversely, as you descend the pass, the lights of Hakata gradually spread out below you.

路肩 に 停めた 車 の ハロゲンライト が 、 土埃 と 、 その先 の 藪 を 青白く 照らして いた 。 ろかた||とめた|くるま||||つちぼこり||そのさき||やぶ||あおじろく|てらして| The halogen lights of the car parked on the shoulder of the road illuminated the dust and the bushes beyond it pale.

蛾 一 匹 、 光 の 中 を 横切って いく 。 が|ひと|ひき|ひかり||なか||よこぎって| A moth crosses through the light.

佐賀 大和 の インターチェンジ から ここ まで 、 勢い の ある 峠 の カーブ が 続いた 。 さが|だいわ||いんたー ちぇんじ||||いきおい|||とうげ||かーぶ||つづいた From the Saga Yamato interchange to this point, the curve of the mountain pass with momentum continued.

その せい で ハンドル を 切る たび に 、 ダッシュボード に 置かれた 十 円 玉 が 右 に 左 に 移動した 。 |||はんどる||きる|||||おかれた|じゅう|えん|たま||みぎ||ひだり||いどう した Because of this, every time I turned the steering wheel, the ten-yen coin on the dashboard moved left and right.

この 十 円 玉 は 、 峠 の 手前 で 立ち寄った ガソリン スタンド で 受け取った おつり だった 。 |じゅう|えん|たま||とうげ||てまえ||たちよった|がそりん|すたんど||うけとった|| The ten-yen coin was the change I received at a gas station I stopped at just before the pass.

いつも は 三千 円 分 と か 、 三千五百 円 分 と か 、 料金 分 で しか 給油 し ない の だ が 、 ドア の 向こう に 立った 若い 女 の 店員 が 可愛く 、 つい 見栄 を 張って 、「 ハイオク 、 満タン で 」 と 告げた 。 ||さんせん|えん|ぶん|||さんせんごひゃく|えん|ぶん|||りょうきん|ぶん|||きゅうゆ||||||どあ||むこう||たった|わかい|おんな||てんいん||かわいく||みえ||はって||まんたん|||つげた Normally, I would only fill up with the equivalent of 3,000 yen or 3,500 yen, but the young woman standing on the other side of the door was cute, so I got vain and told her I wanted a full tank of high-octane gas.

料金 は 5990 円 だった 。 りょうきん||えん|

千 円 札 で 払う と 、 男 の 財布 に は あと 五千 円 札 が 一 枚 だけ に なった 。 せん|えん|さつ||はらう||おとこ||さいふ||||ごせん|えん|さつ||ひと|まい||| After paying with 1,000 yen bills, the man had only one more 5,000 yen bill in his wallet.

スタンド の 女 は 両手 で ぶっとい ノズル を 給油 口 に 突っ込んだ 。 すたんど||おんな||りょうて||ぶっと い|のずる||きゅうゆ|くち||つっこんだ

その 様子 を 男 は じっと サイドミラー で 眺め た 。 |ようす||おとこ|||||ながめ|

給油 中 、 女 は 前 へ 回り込んで きて 、 で かい 胸 を 押しつける ように フロント ガラス を 拭いた 。 きゅうゆ|なか|おんな||ぜん||まわりこんで||||むね||おしつける||ふろんと|がらす||ふいた While refueling, the woman came around to the front and wiped the windshield, pressing her large breasts against it.

十二 月 初旬 、 夜風 は 冷たく 、 女 の 頬 は 赤らんで いた 。 じゅうに|つき|しょじゅん|よかぜ||つめたく|おんな||ほお||あからんで| In early December, the night breeze was cold and the woman's cheeks were blushing.

殺風景な 田園 を 走る 街道 に 、 そこ だけ 白昼 の ように ぽつんと 明るい スタンド だった 。 さっぷうけいな|でんえん||はしる|かいどう||||はくちゅう||||あかるい|すたんど| It was a bright stand on the road running through the murky countryside, just like in the daytime.

「 日曜日 、 友達 と ごはん 食べる 約束 ある けど 、 遅い 時間 なら ……」 「 俺 は 、 遅くて も よか よ 」 「 でも 寮 の 門限 十一 時 ちゃ けど ……」 数 日 前 、 電話 で 聞いた 佳乃 の 声 が 蘇る 。 にちようび|ともだち|||たべる|やくそく|||おそい|じかん||おれ||おそくて|||||りょう||もんげん|じゅういち|じ|||すう|ひ|ぜん|でんわ||きいた|よしの||こえ||よみがえる "I have a promise to eat with my friends on Sunday, but if it's late ..." "I can be late." "But the dormitory's curfew is 11 o'clock ..." Yoshino I heard on the phone a few days ago. Voice revives.

男 は ダッシュボード の 十 円 玉 を ジーンズ の ポケット に 突っ込んだ 。 おとこ||||じゅう|えん|たま||じーんず||ぽけっと||つっこんだ The man puts a ten-yen coin from the dashboard into the pocket of his jeans.

指先 に 硬く なった 性器 が 触れる 。 ゆびさき||かたく||せいき||ふれる The hardened genitals touch the fingertips.

佳乃 の こと を 考えて いた わけで は なかった が 、 峠 の 急な カーブ を 一つ一つ 制覇 して くる うち に 、 いつの間にか こう なって いた 。 よしの||||かんがえて||||||とうげ||きゅうな|かーぶ||ひとつひとつ|せいは|||||いつのまにか||| I wasn't thinking about Yoshino, but as I conquered the steep curves of the pass one by one, it happened before I knew it.

男 は 名前 を 清水 祐一 と いった 。 おとこ||なまえ||きよみず|ゆういち||

長崎 市 の 郊外 に 住む 二十七 歳 の 土木 作業 員 で 、 先月 二 度 会った きり 、 なかなか 連絡 が 取れ なく なった 石橋 佳乃 に これ から 会い に 行く ところ だった 。 ながさき|し||こうがい||すむ|にじゅうしち|さい||どぼく|さぎょう|いん||せんげつ|ふた|たび|あった|||れんらく||とれ|||いしばし|よしの||||あい||いく|| I was a 27-year-old civil engineer living in the suburbs of Nagasaki City, and after meeting twice last month, I was about to go to see Yoshino Ishibashi, who couldn't get in touch with me.

佳乃 と 待ち合わせた 十 時 まで 、 峠 を 下りて いく こと を 計算 に 入れて も 充分に 間 が あった 。 よしの||まちあわせた|じゅう|じ||とうげ||おりて||||けいさん||いれて||じゅうぶんに|あいだ|| It was enough time to take into account the fact that we were going down the pass until 10 o'clock when we met Yoshino.

場所 は 前回 彼女 を 車 で 送った 市内 の 東公園 正門 前 。 ばしょ||ぜんかい|かのじょ||くるま||おくった|し ない||ひがしこうえん|せいもん|ぜん The place is in front of the main gate of East Park in the city where I drove her last time.

たしか 車 を 停めた 場所 から も 中 に 建つ 大きな 銅像 が 見えた 。 |くるま||とめた|ばしょ|||なか||たつ|おおきな|どうぞう||みえた I think I could see a large statue inside from where I parked my car.

祐一 は 車 の ドア を 開ける と 、 足 だけ を 運転 席 から 外 へ 出した 。 ゆういち||くるま||どあ||あける||あし|||うんてん|せき||がい||だした When Yuichi opened the car door, he pulled only his foot out of the driver's seat.

車高 を 低く 改造して ある ので 、 足 は ちゃんと 地面 に つく 。 くるま こう||ひくく|かいぞう して|||あし|||じめん|| The vehicle height has been modified to be low so that the feet can touch the ground.

ここ で たばこ でも 吸えば 、 ちょっとした 時間 潰し に なる のだ が 、 祐一 に 喫煙 の 習慣 は ない 。 ||||すえば|ちょっと した|じかん|つぶし|||||ゆういち||きつえん||しゅうかん|| It would be a good way to kill some time if he smoked here, but Yuichi is not in the habit of smoking.

仕事 中 、 現場 で の 休憩 時間 など 、 他の 作業員 たち が みんな たばこ を 吸う ので 、 つい 手持ち 無 沙汰 に なる こと も 多い が 、 たばこ を 吸う より も 、 その あいだ 目 を 閉じて 時間 を 過ごして いる ほう が ずっと 気 が 紛れた 。 しごと|なか|げんば|||きゅうけい|じかん||たの|さぎょう いん||||||すう|||てもち|む|さた|||||おおい||||すう|||||め||とじて|じかん||すごして|||||き||まぎれた Since all the other workers smoke during work, during breaks in the field, etc., it is often the case that they are not on hand, but rather than smoking, spend time with their eyes closed. I was much more distracted by being there.

車 内 の 暖かい 空気 が 外 へ 流れ出て いく の が 首筋 に 伝わった 。 くるま|うち||あたたかい|くうき||がい||ながれでて||||くびすじ||つたわった The warm air inside the car flowed out to the neck.

遠く に トンネル の 出口 が 見えた が 、 それ 以外 に 色 の ついて いる もの は なかった 。 とおく||とんねる||でぐち||みえた|||いがい||いろ|||||| I could see the exit of the tunnel in the distance, but nothing else was colored.

しかし 、 峠 を 包む 闇 に も いろんな 色 が あって 、 山嶺 の 紫色 に 近い 闇 、 雲 に 隠れた 月 の 周囲 の 白い 闇 、 そして すぐ そこ の 藪 を 覆う ドス 黒い 闇 など 、 きちんと 見分ければ 幾 通り も の 色 が ある 。 |とうげ||つつむ|やみ||||いろ|||やま みね||むらさきいろ||ちかい|やみ|くも||かくれた|つき||しゅうい||しろい|やみ|||||やぶ||おおう||くろい|やみ|||みわければ|いく|とおり|||いろ|| However, there are various colors in the darkness that surrounds the pass, the darkness that is close to the purple color of the mountain ridge, the white darkness that surrounds the moon hidden in the clouds, and the darkness that covers the bush right there. There are also street colors.

しばらく 目 を 閉じたり 開けたり し ながら 、 盲目 と 闇 の 違い を 比較 して いる と 、 山麓 から 峠 を 上って くる 車 の ライト が 小さく 見えた 。 |め||とじたり|あけたり|||もうもく||やみ||ちがい||ひかく||||さんろく||とうげ||のぼって||くるま||らいと||ちいさく|みえた

カーブ を 曲がる と 消え 、 また 次の カーブ で 現れる 。 かーぶ||まがる||きえ||つぎの|かーぶ||あらわれる It disappears when you turn a curve and appears again on the next curve.

小さな ライト の 光 でも 、 そこ に ある 白い ガード レール や オレンジ色 の カーブミラー が 照らし出される 。 ちいさな|らいと||ひかり|||||しろい|がーど|れーる||おれんじいろ||||てらしださ れる Even the light of a small light illuminates the white guardrails and orange curved mirrors there. その とき 、 トンネル 方面 から 一 台 の 軽 トラック が 近づいて きて 、 祐一 の 目の前 を あっという間 に 走り去った 。 ||とんねる|ほうめん||ひと|だい||けい|とらっく||ちかづいて||ゆういち||めのまえ||あっというま||はしりさった At that time, a light truck approached from the direction of the tunnel and drove away in front of Yuichi's eyes in a flash.

走り去った とたん 、 ふいに 強烈な 家畜 の 臭い が した 。 はしりさった|||きょうれつな|かちく||くさい|| As soon as I ran away, I suddenly smelled a strong livestock.

峠 の 澄んだ 冷たい 夜気 に 、 とつぜん 混じった 獣 の 臭気 は 、 まるで クラゲ の ように 祐一 の 鼻 を 噛んだ 。 とうげ||すんだ|つめたい|よ き|||まじった|けだもの||しゅうき|||くらげ|||ゆういち||はな||かんだ

祐一 は 臭い から 逃れて ドア を 閉める と 、 シート を 倒して 寝転んだ 。 ゆういち||くさい||のがれて|どあ||しめる||しーと||たおして|ねころんだ Yuichi escaped from the smell and closed the door, then laid down the seat and lay down.

携帯 を ポケット から 取り出して みた が 、 佳乃 から の メール は 入って い ない 。 けいたい||ぽけっと||とりだして|||よしの|||めーる||はいって|| I took my cellphone out of my pocket, but I didn't receive an email from Yoshino.

代わり に 画像 を 開く と 、 佳乃 の 下着 姿 の 画像 が 出て くる 。 かわり||がぞう||あく||よしの||したぎ|すがた||がぞう||でて| If you open the image instead, you'll see an image of Yoshino's underwear.

顔 は 写って い ない が 、 肩 口 に 一 つ ある 小さな ニキビ まで くっきり と 写って いる 。 かお||うつって||||かた|くち||ひと|||ちいさな|||||うつって| The face is not visible, but even a small pimple on the shoulder and mouth is clearly visible.

この たった 一 枚 の 画像 の 保存 に 、 佳乃 は 三千 円 を 要求 して きた 。 ||ひと|まい||がぞう||ほぞん||よしの||さんせん|えん||ようきゅう|| Yoshino has requested 3,000 yen to save this single image.

「 ちょっと 、 やめて よ 」 博多 湾 の 埋め立て 地 に 建つ ラブ ホテル の 一室 で 、 祐一 が 携帯 の カメラ を 向けた とき 、 佳乃 は その 胸 を 白い シャツ で 隠した 。 |||はかた|わん||うめたて|ち||たつ|らぶ|ほてる||いっしつ||ゆういち||けいたい||かめら||むけた||よしの|||むね||しろい|しゃつ||かくした "Hey, stop it." In a room of a love hotel on a reclaimed land in Hakata Bay, when Yuichi pointed his cell phone camera at her, Yoshino hid her breasts with a white shirt.

これ から 着よう と 手 に して いた シャツ だった が 、 慌てた せい で 強く 握った らしく 、「 ちょっと 、 ほら 、 皺 に なった や ん ! ||きよう||て||||しゃつ|||あわてた|||つよく|にぎった||||しわ|||| The shirt I was trying to wear from now on, but it seems that I squeezed it strongly because of the hurry, "Hey, hey, it's wrinkled!

」 と 、 露骨に 不機嫌な 顔 を した 。 |ろこつに|ふきげんな|かお|| ", With a blatantly moody face.

ラブ ホテル の 内壁 は 、 コンクリート に そのまま 壁紙 を 張った ような 、 息 が つまる 部屋 だった 。 らぶ|ほてる||ないへき||こんくりーと|||かべがみ||はった||いき|||へや| The inner wall of the love hotel was a breathtaking room, like a concrete covered with wallpaper.

三 時間 4320 円 で 、 安っぽい カーペット が 敷かれた 室内 に は 、 パイプ 製 の セミダブルベッド が 置かれ 、 一応 ベッド マット は ある のだ が 、 なぜ か その 上 に マット より も 一回り 小さい 和布団 が 敷いて あった 。 みっ|じかん|えん||やすっぽい|||しかれた|しつ ない|||ぱいぷ|せい||||おか れ|いちおう|べっど|まっと||||||||うえ||まっと|||ひとまわり|ちいさい|わ ふとん||しいて| Das Zimmer, das 4320 Yen für drei Stunden kostet und mit billigen Teppichen ausgelegt ist, ist mit einem Halbdoppelbett aus Rohren ausgestattet, und obwohl es eine Bettmatte gibt, liegt aus irgendeinem Grund eine japanische Matratze darauf, die eine Nummer kleiner als die Matte ist. The room with cheap carpet was furnished with a semi-double bed made of pipe, and although there was a bed mat, for some reason, a Japanese-style futon, which was one size smaller than the mat, was placed on top of the bed.

部屋 に は 開閉 不能 の サッシ 窓 が あり 、 港 の 風景 で は なく 、 都市 高速 の 高架 が 見えた 。 へや|||かいへい|ふのう||さっし|まど|||こう||ふうけい||||とし|こうそく||こうか||みえた The room had a sash window that could not be opened and closed, and I could see the elevated city highway, not the view of the harbor.

「 ねぇ 、 写真 、 撮らせて くれ ん ね 」 懲りず に 祐一 が ぼそっと 頼む と 、「 馬鹿 じゃ ない 」 と 佳乃 は 失笑 した 。 |しゃしん|とら せて||||こり ず||ゆういち||ぼ そっと|たのむ||ばか||||よしの||しっしょう| "Hey, can I get a picture of you?" When Yuichi asked her in a whisper, she replied, "I'm not an idiot. Kano laughed.

それ より も シャツ に ついた 皺 の ほう が 気 に なる ようだった 。 |||しゃつ|||しわ||||き||| Er schien sich mehr Sorgen um die Falten auf seinem Hemd zu machen. The wrinkles on the shirt seemed to be more of a concern than that.

「 一 枚 だけ 。 ひと|まい|

顔 は 写さん から 」 祐一 は ベッド に 正座 して 頼み込んだ 。 かお||うつさ ん||ゆういち||べっど||せいざ||たのみこんだ The face isn't photographed. "Yuichi sat down on the bed and asked.

一瞬 、 ちらっと 上目遣い に 見た 佳乃 が 、「 写真 ? いっしゅん||うわめづかい||みた|よしの||しゃしん For a moment, Yoshino glanced at the top and said, "Photo?

…… いくら く れる と ? ...... Wie viel werden Sie voraussichtlich bekommen? ...... How much is it? 」 と 面倒臭 そうに 言う 。 |めんどうくさ|そう に|いう " He says, "I'm not sure I can do this.

祐一 は 下着 だけ しか 身 に つけて い なかった 。 ゆういち||したぎ|||み|||| Yuichi trug nur seine Unterwäsche. Yuichi wore only underwear.

ベッド の 下 に 脱ぎ捨て られた ジーンズ が 落ちて おり 、 財布 が 入って いる 尻 の ポケット が こんもり と 盛り上がって いる 。 べっど||した||ぬぎすて||じーんず||おちて||さいふ||はいって||しり||ぽけっと||||もりあがって| Unter dem Bett ist eine Jeans herausgefallen, und die Gesäßtasche, in der ihre Geldbörse aufbewahrt wird, ist ausgebeult. The jeans that have been taken off are falling under the bed, and the butt pocket that holds the wallet is bulging.

黙り込んで いる と 、「 三千 円 なら いい よ 」 と 佳乃 が 言った 。 だまり こんで|||さんせん|えん|||||よしの||いった When I remained silent, he said, "Three thousand yen is fine. I'm not sure if it's a good idea or not," said Yoshino.

もう 胸 は 隠して おらず 、 白い シャツ より も 光沢 の ある ブラジャー が 乳房 に 食い込んで いた 。 |むね||かくして|おら ず|しろい|しゃつ|||こうたく|||ぶらじゃー||ちぶさ||くいこんで| Sie verbarg ihre Brüste nicht mehr und ihr BH, der glänzender war als ihr weißes Hemd, schnitt in ihre Brüste ein. I didn't hide my chest anymore, and a bra, which was glossier than a white shirt, was digging into my breasts.

親指 で ボタン を 押した 。 おやゆび||ぼたん||おした I pressed the button with my thumb.

カシャリ と 乾いた 音 が 鳴り 、 そこ に 半裸 の 佳乃 の 姿 が 残った 。 ||かわいた|おと||なり|||はん はだか||よしの||すがた||のこった Ein trockenes Geräusch war zu hören, und die halbnackte Gestalt von Kano blieb dort stehen. A dry sound was heard, and the figure of Yoshino, who was half-naked, remained there.

佳乃 は すぐに ベッド に 飛び乗って きて 、 画像 を 見せろ と せがんだ 。 よしの|||べっど||とびのって||がぞう||みせろ|| Yoshino immediately jumped on the bed and demanded to see the images.

そして 自分 の 顔 が 写って い ない こと を 確認 する と 、「 ほんとに 、 そろそろ 行か ん と 、 門限 ある し 」 と ベッド を 降り 、 白い シャツ に 腕 を 通した 。 |じぶん||かお||うつって|||||かくにん|||||いか|||もんげん||||べっど||ふり|しろい|しゃつ||うで||とおした Nachdem er sich vergewissert hatte, dass sein Gesicht nicht mehr zu sehen war, sagte er: "Ich muss jetzt wirklich los, ich habe eine Sperrstunde." Sie stand vom Bett auf und steckte ihre Arme durch ihr weißes Hemd.

ホテル の 駐車場 から 遠く に 福岡 タワー が 見えた 。 ほてる||ちゅうしゃ じょう||とおく||ふくおか|たわー||みえた Fukuoka Tower could be seen in the distance from the hotel parking lot.

首 を 伸ばして 眺めよう と する 祐一 を 、「 ちょっと 、 急いで って 」 と 佳乃 が 急 か した 。 くび||のばして|ながめよう|||ゆういち|||いそいで|||よしの||きゅう|| Yuichi, der versuchte, sie mit gestrecktem Hals anzuschauen, sagte: "Hey, beeil dich". Kano stürzte herein. Yoshino hurried to Yuichi, who stretched his neck and tried to look at it, saying, "Hey, hurry up."

「 福岡 タワー の 展望 台 に 上った こと ある ね ? ふくおか|たわー||てんぼう|だい||のぼった||| "Have you ever climbed the observatory of Fukuoka Tower? 」 と 祐一 は 訊 いた 。 |ゆういち||じん| "Yuichi asked.

面倒臭 そうに 、「 子供 の ころ 」 と 答えた 佳乃 が 、 早く 車 に 乗り込む ように 、 と 顎 を しゃ くる 。 めんどうくさ|そう に|こども||||こたえた|よしの||はやく|くるま||のりこむ|||あご||| "Wie ein Kind." Kano antwortete: "Ich werde dich nicht gehen lassen, ich werde dich nicht gehen lassen", und dann schüttelte sie ihr Kinn, um schnell ins Auto zu steigen. "The child's early years." Kano replied, "I'll be right back." She then shucked her chin and told them to get into the car quickly.

祐一 は 、「 あれ 、 灯台 み たい や ね 」 と 言おう と した が 、 佳乃 は すでに 助手席 に 乗り込んで いた 。 ゆういち|||とうだい||||||いおう||||よしの|||じょしゅ せき||のりこんで|