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悪人 (Villain) (1st Book), 第三章 彼女は誰に出会ったか?1

第 三 章 彼女 は 誰 に 出会った か? 1

彼女 は 誰 に 出会った か ?

佐賀 市 郊外 、 国道 34 号 線 沿い に ある 紳士 服 量販 店 「 若葉 」 の ガラス 越し に 、 馬 込 光代 は 雨 の 中 を 走り抜けて いく 車 を 眺めて いた 。

佐賀 バイパス と 呼ば れる この 街道 は 、 決して 交通 量 の 少ない 道 で は ない が 、 周囲 の 景色 が 単調な せい か 、 まるで 数 分 前 に 見た 光景 を 、 繰り返し 眺めて いる ような 気分 に さ せ られる 。

光代 は ここ 「 若葉 」 の 販売 員 で 、 二 階 スーツ コーナー を 担当 して いる 。

一 年 ほど 前 まで 、 一 階 カジュアルコーナー を 担当 して いた のだ が 、「 カジュアル は 、 若い お 客 さん が 多い けん 、 やっぱり 接客 する の も 、 お 客 さん に 年 が 近い ほう が センス が 合う もん ねぇ 」 と 店長 に 愛想 よく 言わ れ 、 早速 、 翌週 から 二 階 の スーツ コーナー に 回さ れた 。

年齢 だけ の 理由 なら 、 さすが に 光代 も 反論 した が 、「 センス 」 が 問題 なら 仕方ない 。

佐賀 市 郊外 の 紳士 服 量販 店 、 その カジュアルコーナー の センス など 合わ ない と 言わ れた ほう が 正直 助かる 。

一応 、 店 に は 若者 向け に 「 流行 も の 風 」 の ジーンズ や シャツ も 置いて ある 。

ただ 、「 流行 もの 」 と 「 流行 も の 風 」 で は やっぱり 何 か が 違う 。 たとえば 、 以前 、 博多 の ブランド ショップ で 、 うち に 置いて ある シャツ と よく 似た 柄 を 見つけた 。 同じ 馬 の 図柄 な のだ が 、 なんだか 、 うち の 馬 たち の ほう が ビミョー に 大きい 。

たぶん 、 ほんの 数 ミリ 、 うち の 馬 たち が 大きい せい で 、 なんだか とって も センス の 悪い シャツ に なって いた 。

その 馬 シャツ を 近所 の 中学生 なんか が 、 喜んで 買って いく 。

黄色い ヘルメット を 律 儀 に かぶり 、 サドル の 低い 自転車 に 乗って 、 嬉し そうに 抱えて 帰る 。

店長 に 配置 を 替え られた とき と は 矛盾 する が 、 国道 を 走り去って いく そんな 中学生 の 背中 を 見送って いる と 、「 そうそう 。 ちょっと 馬 が 大きい くらい 何 よ ! 胸 張って その シャツ 着 なさい ! 」 と つい 声 を かけ たく なって しまう 。

そんな とき 、 光代 は ふと 思う 。

自分 は この 町 が そんなに 嫌いじゃ ない んだ 、 と 。

「 馬 込 さん ! 休憩 入ったら ? ふいに 声 を かけ られ 振り返る と 、 売り場 主任 、 水谷 和子 の ぽっ ちゃ りした 顔 が 、 スーツ ラック の 上 に ぽこ ん と 出て いた 。

窓際 から 眺める と 、 まるで 無数の スーツ が 波 に なって 押し寄せて くる ように 見える 。

平日 、 それ も 雨 の 午前 中 に 客 が 来る こと は まず ない 。

たまに 慌てて 礼服 を 買い に 駆け込んで くる 客 は いる が 、 今日 は この 界隈 で 不幸 は なかった らしい 。

「 今日 も お 弁当 ? スーツ ラック の 迷路 を 出て きた 水谷 に 訊 かれ 、 光代 は 、「 最近 、 お 弁当 作る の だけ が 楽しくて 」 と 笑った 。

店 が あまりに も 暇な ので 、 平日 は 昼 前 から 順番 に 昼食 時間 を とる 。

だだっ広い 店 内 に 販売 員 は 三 人 。 平日 、 販売 員 より 客 が 多く なる こと は 滅多に ない 。

「 いや ねぇ 、 冬 の 雨 は 。 いつまで 降る と やろ か ? 近づいて きた 水谷 が 、 光代 の 横 で 顔 を ガラス 窓 に 近づける 。

鼻息 が かかり 、 そこ だけ が 微 か に 曇る 。 店 内 に 暖房 は 入って いる が 、 客 が い ない ので いつも 底冷え して いる 。

「 今日 も 自転車 で 来た と やろ ? 水谷 に 訊 かれ 、 光代 は 眼下 で 雨 に 濡れて いる 広大な 駐車 場 に 目 を 向けた 。

隣接 する ファーストフード 店 と 共有 で 何 台 か 車 も 停 まって いる が 、 それ も すべて ファーストフード 店 寄り に ある ため 、 こちら 側 の フェンス 脇 に 置か れた 自分 の 自転車 だけ が 、 まるで たった の 一 台 だけ で 、 冬 の 雨 に 耐えて いる ように 見える 。

「 帰る まで に 雨 が 止ま ん か ったら 、 車 で 送って やる よ 」

そう 言った 水谷 が 、 光代 の 肩 を 叩いて レジ の ほう へ 歩いて いく 。

水谷 は 今年 四十二 歳 に なる 。

一 つ 年 上 の 夫 は 市 内 に ある 家電 販売 店 の 店長 で 、 仕事 帰り に 必ず 車 で 妻 を 迎え に 来る 。 大人 し そうな 男性 で 、 もう 二十 年 も 連れ添って いる 妻 を 「 和 ちゃん 」 など と 呼ぶ 姿 は 可愛い 。 二 人 の 間 に は 大学 三 年 の 一 人 息子 が いる 。 この 一 人 息子 の こと を 、 水谷 は 「 ひきこもり だ 。 ひきこもり だ 」 と いつも 心配 して いる 。 話 を 聞けば 、 そう 大げさな こと で も なく 、 ただ 単に 外 で 遊ぶ より 、 部屋 で パソコン を 弄って いる ほう が 楽しい だけ の ようだ が 、 二十 歳 に なる 息子 に 彼女 が い ない こと を 、 彼女 は 「 ひきこもり 」 と いう 「 流行 もの 」 の 言葉 を 使って 、 自分 や 世間 を 納得 さ せて いる らしい 。

水谷 の 息子 を 庇う わけで は ない が 、 この 町 で 外 に 出た ところ で たかが 知れて いる 。

三 日 も 続けて 外出 すれば 、 必ず 昨日 会った 誰 か と 再会 する 。 実際 、 録画 さ れた 映像 を 、 繰り返し 流して いる ような 町 な のだ 。 そんな 町 より 、 パソコン で 広い 世界 に 繋がって いた ほう が 、 よほど 刺激 的に 違いない 。

この 日 、 早 目 の 昼食 を 終えて から 、 夕方 の 休憩 まで 三 組 の 客 が あった 。

うち 二 組 は 年配 の 夫婦 で 、 新しい シャツ など まったく 興味 の な さ そうな 夫 の 胸 に 、 色 や 柄 より も 値段 を 比較 し ながら 、 妻 が シャツ を 押し当てて いた 。

休憩 の 直前 に 三十 代 前半 と 見受け られる 男 客 が 来た 。

何 か 尋ね られる まで 、 こちら から は なるべく 声 を かけ ない ように 指示 さ れて いる ので 、 ラック の スーツ を 眺めて 歩く 男 の 様子 を 、 光代 は 少し 離れた ところ から 見て いた 。

離れた ところ から でも 、 男 の 薬指 に はめ られた 結婚 指輪 が 目 に つく 。

「 この 町 に 、 年頃 の いい 男 が い ない わけじゃ ない と よ 」 と 、 双子 の 妹 、 珠代 は 言う 。

「 いい 男 は いる けど 、 もう 全部 奥さん が おる と や もん ねぇ 」 と 。

実際 、 市 内 で 働く 友人 たち も 、 ほとんど が 口 を 揃えて 同じ こと を 言う 。

ただ 、 ほとんど の 友人 たち は すでに 結婚 して いる ため 、 言い 方 は 独身 の 妹 と は 少し 違って 、「 紹介 して やり たい と けど 、○○ さん 、 もう 結婚 し とる もん ねぇ ……、 残念 」 と なる 。

別に 紹介 して くれ と 頼んだ 覚え は ない のだ が 、 さすが に 来年 三十 歳 に なる 独身 女 が 、 この 佐賀 で 生きて いく の は 、 そうとう ガッツ が いる 。

高校 時代 に 仲 の 良かった 三 人 と も 、 すでに 結婚 し 、 それぞれ に 子供 が いる 。

中 に は 今年 から 小学校 に 入った 男の子 さえ 。

「 あの 、 すいません 」

スーツ を 選んで いた 男 客 に 、 とつぜん 声 を かけ られた 。

手 に 濃い ベージュ の 背広 を 持って いる 。

近寄って 、「 試着 なさい ます か ? 」 と 笑顔 を 見せる と 、「 ここ の スーツ も 、 あそこ に 貼って ある 二 着 で 38900 円 の やつ です か ? 」 と 、 天井 から 吊るさ れた ポスター を 指さす 。

「 はい 。 ここ の は 全部 そう です よ 」

光代 は 笑顔 で 試着 室 へ 案内 した 。

背 の 高い 男 だった 。

試着 後 、 カーテン を 開ける と 、 何 か 運動 でも やって いた の か 、 最近 流行 の 細め の スラックス に 太もも の 筋肉 が 目立った 。

「 ちょっと きつい で す かね ? 男 が 鏡 越し に 尋ねて くる 。

「 最近 の デザイン は だいたい こんな 感じ です けど ね 」

スラックス の 裾 を 計る とき 、 男 客 の 前 で しゃがみ込んだ 。

赤ん坊 でも いる の か 、 ふと 乳 臭い 匂い が した 。

目の前 に は 男 の 大きな 足 が あった 。

靴下 を 履いて いる が 、 大きく 固 そうな 爪 の 形 が 浮き出て いる 。

こう やって もう 何 人 の 男 たち の 前 に しゃがみ込んだ だろう か 、 と 光代 は 思う 。

スーツ の 裾 上げ と いう 作業 だ が 、 正直 、 働き 始めた ばかりの ころ は 、 この 姿勢 が 男 に 屈服 する ようで 嫌だった 。

しゃがみ込む と 、 そこ に は 男 たち の 脚 だけ が あった 。

汚れた 靴下 、 新品 の 靴下 。 太い 足首 、 細い 足首 。 長い 膝 下 、 短い 膝 下 。

男 たち の 脚 は 、 とても 凶暴に も 見えた し 、 頑丈 そうです ごく 頼り がい が ある ように も 見えた 。

二十二 、 三 の ころ だった か 、 一 時期 、 こう やって 裾 上 げ を する 男 たち の 中 に 、 未来 の 夫 が いる の かも しれ ない と いう 妙な 幻想 を 抱いた こと が あった 。

今 と なって は 笑い話 だ が 、 当時 は 本気で 期待 して おり 、 裾 を 調整 し ながら ふと 見上げれば 、 そこ に は 未来 の 夫 の 顔 が あり 、 足元 に しゃがんで いる 自分 を やさしく 見つめて いる …… なんて 空想 を 、 どんな 客 に 対して も 抱いて いた 。

今 、 考えて みれば 、 それ が ちょうど 自分 の 第 一 次 結婚 モード 期 だった のだ と 思う 。

いくら 裾 上 げし ながら 見上げた ところ で 、 そこ に 未来 の 夫 の 顔 など なかった が 。

夜 に なって も 、 冬 の 雨 は まだ 降り 続いて いた 。

レジ を 閉め 、 だだっ広い 売り場 の 電気 を 消して 回って から 更衣室 へ 入る と 、 すでに 私服 に 着替えた 水谷 が 、「 この 雨 じゃ 、 自転車 、 無理 やろ ? 車 で 送って く よ 」 と 声 を かけて くる 。

光代 は 更衣室 の 鏡 に 映る 自分 の 疲れた 顔 を 眺め ながら 、「 そうして もろう か なぁ 」 と 答え 、 でも 車 で 送って もらったら 、 明日 の 朝 ここ まで バス で 来 なきゃ なら ない なぁ 、 と 心 の 中 で 悩んだ 。

通用口 から 外 へ 出る と 、 雨 は 広大な 駐車 場 を 叩く ように 降って いた 。

店舗 の 裏 、 フェンス の 向こう に 広がる 休 閑中 の 畑 から 、 湿った 土 の 匂い が 漂って くる 。

バイパス を 水しぶき を 巻き上げて 何 台 も の 車 が 走り抜けて いる 。

強い ライト で 照らさ れた 「 若葉 」 の 巨大な 看板 が 、 濡れた 地面 に 反射 して 幻想 的に 揺れて いる 。

クラクション を 鳴らさ れて 、 光代 は そちら へ 目 を 向けた 。

すでに 助手 席 に 水谷 を 乗せた 旦那 の 軽 自動車 が のろのろ と こちら へ 走って くる 。

光代 は 傘 も 差さ ず に 軒下 から 飛び出して 、「 すいません 」 と 言い ながら 、 後部 座席 に 乗り込んだ 。

ほんの 数 秒 の 間 だった が 、 首筋 を 濡らした 雨 が 痛い ほど 冷たかった 。

「 お 疲れ さ ん 」

度 の 強い 眼鏡 を かけた 水谷 の 旦那 に 声 を かけ られ 、 光代 は 、「 すいません 、 いつも 」 と 謝った 。

水路 の 張り巡らさ れた 田んぼ の 一角 に 、 光代 が 暮らす アパート は 建って いる 。

まだ 建って 間 も ない もの だ が 、「 どうせ いつか は 取り壊す んだ から 、 安く 上げ とき ましょう 」 と 言わんばかり の 外見 で 、 冬 の 雨 に 濡れた 姿 は 普段 に も 増して 寒々 しい 。

いつも の ように 水谷 夫妻 は アパート の 前 まで 送って くれた 。

後部 座席 から 外 へ 出る と 、 ぬかるんだ 泥 に ず ぼ っと スニーカー が 沈む 。

雨 の 中 、 光代 は 水谷 夫妻 の 車 を 見送って 、 泥水 を 跳ね ながら アパート の 階段 に 駆け込んだ 。

たかだか 二 階 な のだ が 、 周囲 に 田んぼ しか ない せい で 、 階段 を 上がる と 展望 台 に でも 立った ように 景色 が 広がる 。 濡れた 土 の 匂い が また 冷たい 風 に 乗って 鼻 を くすぐる 。

201 号 室 の ドア を 開ける と 、 中 から 明かり が 漏れて きた 。

「 あれ 、 あんた 今日 、 商工 会 の 飲み 会って 言い よった ろ ? 泥 と 雨 に 濡れた スニーカー を 脱ぎ ながら 、 光代 は 奥 に 声 を かけた 。

ストーブ の 石油 の 匂い と 一緒に 、「 自由 参加 やった けん 、 行か ん かった 」 と 妹 、 珠代 の 声 が 返って くる 。

居間 に して いる 六 畳 間 で 、 やはり 雨 に 濡れた らしい 珠代 が タオル で 髪 を 拭いて いた 。

ストーブ は つけ られた ばかりな の か 、 部屋 は 寒く 、 石油 の 匂い だけ が 強い 。

「 昔 は 、 男 の 人 たち に お 酌 する の が 嫌で 嫌でしょう が なかった けど 、 最近 は 若い 子 たち に 私 が お 酌 さ れる と や もん ねぇ 。 居心地 悪う して ……」

飲み 会 に 参加 し なかった 理由 な の か 、 珠代 が ストーブ の 前 で 愚痴 を こぼす 。

「 なんか 買って きた ? と 光代 は その 背中 に 訊 いた 。

「 いや 、 何も 。 だって 雨 やった し 」

濡れた タオル を 珠代 が 投げて 寄越す 。

「 冷蔵 庫 に なんか 入 っと った っけ ? 光代 は 濡れた タオル で 首筋 を 拭き ながら 、 狭い 台所 の 冷蔵 庫 を 開けた 。

「 また 水谷 さん に 送って もらった と ? 「 そう 。 自転車 置いて きた けん 、 明日 、 バス で 行か ん ば 」

キャベツ が 半 玉 、 バラ 豚肉 が 少し ある 。

これ ら を 炒めて 、 あと は うどん で も 作ろう と 決めて 扉 を 閉めた 。

「 あんた 、 スカート 、 皺 に なる よ 」

光代 は 濡れた まま 畳 に 座り込んで いる 珠代 に 注意 した 。

「 しかし 、 来年 三十 に なる 双子 の 姉妹 が 、 こう やって 美味し そう に うどん なんか 啜 っと って 、 いい わけ ? とろ ろ 昆布 を 麺 に 絡め ながら そう 呟いた 珠代 に 、 光代 は 七 味 を ふり かけ ながら 、「 ちょっと 茹で 過ぎた かも しれ ん よ 」 と 注意 した 。

「 もし これ が もっと 昔 、 たとえば 昭和 と かや ったら 、 絶対 に 近所 から ヘン な 目 で 見 られる よ 」

「 なんで ? 「 だって この 年 の 女 が 二 人 で 、 それ も 双子 の 姉妹 で 、 こんな アパート に 暮らし と ったら 世間 は 黙 っと らん やろ ? 長い 髪 を ゴム で 纏めて 、 珠代 が 音 を 立てて うどん を 啜 る 。

「 おまけに こんな 漫才 師 みたいな 名前 よ 。 近所 の 小学生 なんか 、 絶対 に 私 たち の こと 『 双子 の 魔女 』 と かって 噂 する に 決 まっ とる 」

本気で 言って いる の か い ない の か 、 珠代 は 愚痴 を こぼし ながら も うどん は 啜 る 。

「 双子 の 魔女 ねぇ 」

光代 は 半ば 笑い ながら も 空恐ろしく なった が 、 それ でも うどん は 啜 った 。

家賃 四万二千 円 の 2 DK 。

2 DK と 言えば 聞こえ は いい が 、 六 畳 間 が 二 つ 、 襖 で 仕切ら れて いる だけ の 間取り の アパート で 、 光代 たち 姉妹 の ほか は 、 すべて 小さな 子供 の いる 若 夫婦 ばかり だ 。

二 人 は 地元 の 高校 を 卒業 して 、 鳥栖 市 に ある 食品 工場 に 就職 した 。

双子 の 姉妹 が 同じ 工場 に 就職 する こと も ない のだ が 、 いく つ か 受けた うち で お互いに 受かった の が そこ しか なかった 。

仕事 は 二 人 と も ライン 作業 だった 。

働いた 三 年 ほど で 担当 場所 は いろいろ 変わった が 、 目の前 を 何 十 万 と いう カップ 麺 が 流れた こと に なる 。

先 に 嫌気 が 差して 辞めた の は 妹 の 珠代 で 、 近所 に ある ゴルフ 場 の キャディ に なった 。

だが 、 すぐに 腰 を 痛めて 退職 し 、 その後 は 商工 会議 所 の 事務 員 に 収まって いる 。 珠代 が キャディ を 辞めた ころ 、 光代 も 食品 工場 を 解雇 さ れた 。 人員 削減 、 規模 縮小 で 真っ先 に 切ら れた の が 、 光代 たち 高卒 の 女 たち だった 。

工場 の 職業 斡旋 で 紳士 服 店 の 販売 員 を 紹介 さ れた 。

接客 業 は 苦手だった が 、 本人 の 得手 不得手 など 主張 できる 立場 で は なかった 。

光代 が 34 号 線 沿い の 紳士 服 店 に 転職 した ころ 、 二 人 で この アパート を 借りた 。

「 実家 に いる から 親 に 甘えて 結婚 でき ない んだ 」 と 言う 珠代 に 半ば 強引に 引きずり込ま れた 格好だった 。

元々 、 姉妹 仲 は 良かった ので 、 アパート で の 暮らし は うまく いった 。

両親 も 口うるさい 双子 の 姉妹 が 出て 行って 、 これ で やっと 二 人 の 弟 である 長男 に 嫁 を 迎える 準備 が 出来た と 喜んだ 。 実際 、 その 三 年 後 に 弟 は 高校 の 同級 生 と 結婚 した 。 光代 たち より 三 歳 も 若く 、 まだ 二十二 歳 だった 。 結婚 式 に は 、 すでに 赤ん坊 を 抱いて いる 弟 の 友人 たち が 何 人 も 参列 して いた 。 それ が 珍しく も ない 郊外 の メモリアルホール だった 。

「 ねぇ 、 今日 、 商工 会 の 子 に 何 訊 かれた と 思う ? うどん を 食べ 終え 、 台所 で 食器 を 洗って いる と 、 テレビ の 前 に 寝転んで いる 珠代 に 声 を かけ られた 。

「 馬 込 さん 、 今度 の クリスマス どう する んです かって 。 十九 の 子 に そう 訊 かれて 、 二十九 の 私 に なんて 答えろ って 言う と よ ねぇ ? ダイエット を 紹介 する テレビ の 前 で 、 珠代 が 足 を 上げて いる 。

「 だって 、 あんた 、 その 週 は 公休 取って ど っか 旅行 する って 言い よった ろ ? 「 だって ぇ 、 クリスマスシーズン に 女 同士 で 『 し まなみ 海道 バス ツアー 』 なんて あまりに も 寂しく ない ? …… あ 、 そうだ 。 光代 も 行く ? 「 いや よ 。 毎日 一緒に おって 、 休み まで あんた と 旅行 なんて 考えた だけ で 疲れる 」

光代 は スポンジ に 洗浄 剤 を 少し 足した 。

台所 に 近所 の スーパー で もらった カレンダー が 貼って あった 。

粗大 ゴミ の 日 と 自分 の 休み 以外 、 なんの 予定 も 書き込ま れて い ない 。

クリスマス か ぁ 。

光代 は スポンジ を 泡立て ながら 呟いた 。

ここ 数 年 、 光代 は クリスマス を 実家 で 過ごして いる 。 結婚 して すぐに 生まれた 弟 の 息子 が 、 幸いに も クリスマスイブ が 誕生日 で 、 それ を 名目 に プレゼント を 持って 帰る のだ 。

いつの間にか 、 握り すぎた スポンジ の 泡 が ゴム 手袋 を 伝って いた 。

それ でも しばらく 眺めて いる と 、 泡 は ゴム 手袋 から 素肌 の 肘 に 移り 、 ゆっくり と 大きく なって から 、 ぼ と っと 汚れ 物 の 積ま れた シンク に 落ちた 。 泡 で 濡れた 肘 が 痒 かった 。 肘 の 痒 み が 、 全身 に 伝わる ようだった 。

第 三 章 彼女 は 誰 に 出会った か? だい|みっ|しょう|かのじょ||だれ||であった| Chapter 3: Who Did She Meet1 Capítulo 3: ¿A quién conoció?1 제 3장 그녀는 누구를 만났을까? 第 3 章:她遇到了谁? 1

彼女 は 誰 に 出会った か ? かのじょ||だれ||であった| Who did she meet?

佐賀 市 郊外 、 国道 34 号 線 沿い に ある 紳士 服 量販 店 「 若葉 」 の ガラス 越し に 、 馬 込 光代 は 雨 の 中 を 走り抜けて いく 車 を 眺めて いた 。 さが|し|こうがい|こくどう|ごう|せん|ぞい|||しんし|ふく|りょうはん|てん|わかば||がらす|こし||うま|こみ|てるよ||あめ||なか||はしりぬけて||くるま||ながめて| Beyond the glass of the menswear mass shop "Wakaba" on the outskirts of Saga City, along Route 34, I was watching the car running through the rain.

佐賀 バイパス と 呼ば れる この 街道 は 、 決して 交通 量 の 少ない 道 で は ない が 、 周囲 の 景色 が 単調な せい か 、 まるで 数 分 前 に 見た 光景 を 、 繰り返し 眺めて いる ような 気分 に さ せ られる 。 さが|ばいぱす||よば|||かいどう||けっして|こうつう|りょう||すくない|どう|||||しゅうい||けしき||たんちょうな||||すう|ぶん|ぜん||みた|こうけい||くりかえし|ながめて|||きぶん|||| This road, called the Saga Bypass, is by no means a low-traffic road, but the monotonous surroundings make you feel as if you are repeatedly looking at what you saw a few minutes ago. ..

光代 は ここ 「 若葉 」 の 販売 員 で 、 二 階 スーツ コーナー を 担当 して いる 。 てるよ|||わかば||はんばい|いん||ふた|かい|すーつ|こーなー||たんとう|| Mitsuyo is a salesperson of "Wakaba" here and is in charge of the suit corner on the second floor.

一 年 ほど 前 まで 、 一 階 カジュアルコーナー を 担当 して いた のだ が 、「 カジュアル は 、 若い お 客 さん が 多い けん 、 やっぱり 接客 する の も 、 お 客 さん に 年 が 近い ほう が センス が 合う もん ねぇ 」 と 店長 に 愛想 よく 言わ れ 、 早速 、 翌週 から 二 階 の スーツ コーナー に 回さ れた 。 ひと|とし||ぜん||ひと|かい|||たんとう|||||かじゅある||わかい||きゃく|||おおい|||せっきゃく|||||きゃく|||とし||ちかい|||せんす||あう||||てんちょう||あいそ||いわ||さっそく|よくしゅう||ふた|かい||すーつ|こーなー||まわさ| About one year ago, I was in charge of the casual corner on the first floor, but "casual is a lot of young guests, it is a matter of course that customers are closer to their customers, Hey, the store manager said sweetly, and immediately he was turned to the suit corner on the second floor from the following week.

年齢 だけ の 理由 なら 、 さすが に 光代 も 反論 した が 、「 センス 」 が 問題 なら 仕方ない 。 ねんれい|||りゆう||||てるよ||はんろん|||せんす||もんだい||しかたない

佐賀 市 郊外 の 紳士 服 量販 店 、 その カジュアルコーナー の センス など 合わ ない と 言わ れた ほう が 正直 助かる 。 さが|し|こうがい||しんし|ふく|りょうはん|てん||||せんす||あわ|||いわ||||しょうじき|たすかる

一応 、 店 に は 若者 向け に 「 流行 も の 風 」 の ジーンズ や シャツ も 置いて ある 。 いちおう|てん|||わかもの|むけ||りゅうこう|||かぜ||じーんず||しゃつ||おいて|

ただ 、「 流行 もの 」 と 「 流行 も の 風 」 で は やっぱり 何 か が 違う 。 |りゅうこう|||りゅうこう|||かぜ||||なん|||ちがう たとえば 、 以前 、 博多 の ブランド ショップ で 、 うち に 置いて ある シャツ と よく 似た 柄 を 見つけた 。 |いぜん|はかた||ぶらんど|しょっぷ||||おいて||しゃつ|||にた|え||みつけた 同じ 馬 の 図柄 な のだ が 、 なんだか 、 うち の 馬 たち の ほう が ビミョー に 大きい 。 おなじ|うま||ずがら|||||||うま|||||||おおきい

たぶん 、 ほんの 数 ミリ 、 うち の 馬 たち が 大きい せい で 、 なんだか とって も センス の 悪い シャツ に なって いた 。 ||すう|みり|||うま|||おおきい||||||せんす||わるい|しゃつ||| Perhaps, just a few millimeters, my horses were big, and somehow it was a bad sense shirt.

その 馬 シャツ を 近所 の 中学生 なんか が 、 喜んで 買って いく 。 |うま|しゃつ||きんじょ||ちゅうがくせい|||よろこんで|かって|

黄色い ヘルメット を 律 儀 に かぶり 、 サドル の 低い 自転車 に 乗って 、 嬉し そうに 抱えて 帰る 。 きいろい|へるめっと||りつ|ぎ|||||ひくい|じてんしゃ||のって|うれし|そう に|かかえて|かえる

店長 に 配置 を 替え られた とき と は 矛盾 する が 、 国道 を 走り去って いく そんな 中学生 の 背中 を 見送って いる と 、「 そうそう 。 てんちょう||はいち||かえ|||||むじゅん|||こくどう||はしりさって|||ちゅうがくせい||せなか||みおくって|||そう そう It is contradictory to when the manager changed the arrangement to the manager, but when I was watching the back of such middle school student running away from the national highway, "Oh yeah. ちょっと 馬 が 大きい くらい 何 よ ! |うま||おおきい||なん| 胸 張って その シャツ 着 なさい ! むね|はって||しゃつ|ちゃく| 」 と つい 声 を かけ たく なって しまう 。 ||こえ|||||

そんな とき 、 光代 は ふと 思う 。 ||てるよ|||おもう

自分 は この 町 が そんなに 嫌いじゃ ない んだ 、 と 。 じぶん|||まち|||きらいじゃ|||

「 馬 込 さん ! うま|こみ| 休憩 入ったら ? きゅうけい|はいったら ふいに 声 を かけ られ 振り返る と 、 売り場 主任 、 水谷 和子 の ぽっ ちゃ りした 顔 が 、 スーツ ラック の 上 に ぽこ ん と 出て いた 。 |こえ||||ふりかえる||うりば|しゅにん|みずたに|かずこ|||||かお||すーつ|らっく||うえ|||||でて|

窓際 から 眺める と 、 まるで 無数の スーツ が 波 に なって 押し寄せて くる ように 見える 。 まどぎわ||ながめる|||むすうの|すーつ||なみ|||おしよせて|||みえる

平日 、 それ も 雨 の 午前 中 に 客 が 来る こと は まず ない 。 へいじつ|||あめ||ごぜん|なか||きゃく||くる||||

たまに 慌てて 礼服 を 買い に 駆け込んで くる 客 は いる が 、 今日 は この 界隈 で 不幸 は なかった らしい 。 |あわてて|れいふく||かい||かけこんで||きゃく||||きょう|||かいわい||ふこう|||

「 今日 も お 弁当 ? きょう|||べんとう スーツ ラック の 迷路 を 出て きた 水谷 に 訊 かれ 、 光代 は 、「 最近 、 お 弁当 作る の だけ が 楽しくて 」 と 笑った 。 すーつ|らっく||めいろ||でて||みずたに||じん||てるよ||さいきん||べんとう|つくる||||たのしくて||わらった

店 が あまりに も 暇な ので 、 平日 は 昼 前 から 順番 に 昼食 時間 を とる 。 てん||||ひまな||へいじつ||ひる|ぜん||じゅんばん||ちゅうしょく|じかん||

だだっ広い 店 内 に 販売 員 は 三 人 。 だだっぴろい|てん|うち||はんばい|いん||みっ|じん 平日 、 販売 員 より 客 が 多く なる こと は 滅多に ない 。 へいじつ|はんばい|いん||きゃく||おおく||||めったに|

「 いや ねぇ 、 冬 の 雨 は 。 ||ふゆ||あめ| いつまで 降る と やろ か ? |ふる||| 近づいて きた 水谷 が 、 光代 の 横 で 顔 を ガラス 窓 に 近づける 。 ちかづいて||みずたに||てるよ||よこ||かお||がらす|まど||ちかづける

鼻息 が かかり 、 そこ だけ が 微 か に 曇る 。 はないき||||||び|||くもる 店 内 に 暖房 は 入って いる が 、 客 が い ない ので いつも 底冷え して いる 。 てん|うち||だんぼう||はいって|||きゃく||||||そこびえ||

「 今日 も 自転車 で 来た と やろ ? きょう||じてんしゃ||きた|| 水谷 に 訊 かれ 、 光代 は 眼下 で 雨 に 濡れて いる 広大な 駐車 場 に 目 を 向けた 。 みずたに||じん||てるよ||がんか||あめ||ぬれて||こうだいな|ちゅうしゃ|じょう||め||むけた

隣接 する ファーストフード 店 と 共有 で 何 台 か 車 も 停 まって いる が 、 それ も すべて ファーストフード 店 寄り に ある ため 、 こちら 側 の フェンス 脇 に 置か れた 自分 の 自転車 だけ が 、 まるで たった の 一 台 だけ で 、 冬 の 雨 に 耐えて いる ように 見える 。 りんせつ|||てん||きょうゆう||なん|だい||くるま||てい||||||||てん|より|||||がわ||ふぇんす|わき||おか||じぶん||じてんしゃ||||||ひと|だい|||ふゆ||あめ||たえて|||みえる Several cars are stopped in common with the adjacent fast food shop, but because they are all close to the fast food store, only one bicycle placed at the side of this side fence is just one It seems just to bear the rain in winter.

「 帰る まで に 雨 が 止ま ん か ったら 、 車 で 送って やる よ 」 かえる|||あめ||やま||||くるま||おくって||

そう 言った 水谷 が 、 光代 の 肩 を 叩いて レジ の ほう へ 歩いて いく 。 |いった|みずたに||てるよ||かた||たたいて|れじ||||あるいて|

水谷 は 今年 四十二 歳 に なる 。 みずたに||ことし|しじゅうに|さい||

一 つ 年 上 の 夫 は 市 内 に ある 家電 販売 店 の 店長 で 、 仕事 帰り に 必ず 車 で 妻 を 迎え に 来る 。 ひと||とし|うえ||おっと||し|うち|||かでん|はんばい|てん||てんちょう||しごと|かえり||かならず|くるま||つま||むかえ||くる 大人 し そうな 男性 で 、 もう 二十 年 も 連れ添って いる 妻 を 「 和 ちゃん 」 など と 呼ぶ 姿 は 可愛い 。 おとな||そう な|だんせい|||にじゅう|とし||つれそって||つま||わ||||よぶ|すがた||かわいい 二 人 の 間 に は 大学 三 年 の 一 人 息子 が いる 。 ふた|じん||あいだ|||だいがく|みっ|とし||ひと|じん|むすこ|| この 一 人 息子 の こと を 、 水谷 は 「 ひきこもり だ 。 |ひと|じん|むすこ||||みずたに||| ひきこもり だ 」 と いつも 心配 して いる 。 ||||しんぱい|| 話 を 聞けば 、 そう 大げさな こと で も なく 、 ただ 単に 外 で 遊ぶ より 、 部屋 で パソコン を 弄って いる ほう が 楽しい だけ の ようだ が 、 二十 歳 に なる 息子 に 彼女 が い ない こと を 、 彼女 は 「 ひきこもり 」 と いう 「 流行 もの 」 の 言葉 を 使って 、 自分 や 世間 を 納得 さ せて いる らしい 。 はなし||きけば||おおげさな||||||たんに|がい||あそぶ||へや||ぱそこん||いじって||||たのしい|||||にじゅう|さい|||むすこ||かのじょ||||||かのじょ|||||りゅうこう|||ことば||つかって|じぶん||せけん||なっとく||||

水谷 の 息子 を 庇う わけで は ない が 、 この 町 で 外 に 出た ところ で たかが 知れて いる 。 みずたに||むすこ||かばう||||||まち||がい||でた||||しれて|

三 日 も 続けて 外出 すれば 、 必ず 昨日 会った 誰 か と 再会 する 。 みっ|ひ||つづけて|がいしゅつ||かならず|きのう|あった|だれ|||さいかい| 実際 、 録画 さ れた 映像 を 、 繰り返し 流して いる ような 町 な のだ 。 じっさい|ろくが|||えいぞう||くりかえし|ながして|||まち|| そんな 町 より 、 パソコン で 広い 世界 に 繋がって いた ほう が 、 よほど 刺激 的に 違いない 。 |まち||ぱそこん||ひろい|せかい||つながって|||||しげき|てきに|ちがいない

この 日 、 早 目 の 昼食 を 終えて から 、 夕方 の 休憩 まで 三 組 の 客 が あった 。 |ひ|はや|め||ちゅうしょく||おえて||ゆうがた||きゅうけい||みっ|くみ||きゃく||

うち 二 組 は 年配 の 夫婦 で 、 新しい シャツ など まったく 興味 の な さ そうな 夫 の 胸 に 、 色 や 柄 より も 値段 を 比較 し ながら 、 妻 が シャツ を 押し当てて いた 。 |ふた|くみ||ねんぱい||ふうふ||あたらしい|しゃつ|||きょうみ||||そう な|おっと||むね||いろ||え|||ねだん||ひかく|||つま||しゃつ||おしあてて|

休憩 の 直前 に 三十 代 前半 と 見受け られる 男 客 が 来た 。 きゅうけい||ちょくぜん||さんじゅう|だい|ぜんはん||みうけ||おとこ|きゃく||きた

何 か 尋ね られる まで 、 こちら から は なるべく 声 を かけ ない ように 指示 さ れて いる ので 、 ラック の スーツ を 眺めて 歩く 男 の 様子 を 、 光代 は 少し 離れた ところ から 見て いた 。 なん||たずね|||||||こえ|||||しじ|||||らっく||すーつ||ながめて|あるく|おとこ||ようす||てるよ||すこし|はなれた|||みて| Since I was instructed not to call out as much as possible from here until I was asked something, I was watching Mitsubishi from a distance away, looking at the man looking at the suit of the rack.

離れた ところ から でも 、 男 の 薬指 に はめ られた 結婚 指輪 が 目 に つく 。 はなれた||||おとこ||くすりゆび||||けっこん|ゆびわ||め|| Even from a distance, I see wedding rings worn by the ring finger of a man.

「 この 町 に 、 年頃 の いい 男 が い ない わけじゃ ない と よ 」 と 、 双子 の 妹 、 珠代 は 言う 。 |まち||としごろ|||おとこ|||||||||ふたご||いもうと|たまよ||いう

「 いい 男 は いる けど 、 もう 全部 奥さん が おる と や もん ねぇ 」 と 。 |おとこ|||||ぜんぶ|おくさん|||||||

実際 、 市 内 で 働く 友人 たち も 、 ほとんど が 口 を 揃えて 同じ こと を 言う 。 じっさい|し|うち||はたらく|ゆうじん|||||くち||そろえて|おなじ|||いう

ただ 、 ほとんど の 友人 たち は すでに 結婚 して いる ため 、 言い 方 は 独身 の 妹 と は 少し 違って 、「 紹介 して やり たい と けど 、○○ さん 、 もう 結婚 し とる もん ねぇ ……、 残念 」 と なる 。 |||ゆうじん||||けっこん||||いい|かた||どくしん||いもうと|||すこし|ちがって|しょうかい||||||||けっこん|||||ざんねん||

別に 紹介 して くれ と 頼んだ 覚え は ない のだ が 、 さすが に 来年 三十 歳 に なる 独身 女 が 、 この 佐賀 で 生きて いく の は 、 そうとう ガッツ が いる 。 べつに|しょうかい||||たのんだ|おぼえ|||||||らいねん|さんじゅう|さい|||どくしん|おんな|||さが||いきて|||||がっつ||

高校 時代 に 仲 の 良かった 三 人 と も 、 すでに 結婚 し 、 それぞれ に 子供 が いる 。 こうこう|じだい||なか||よかった|みっ|じん||||けっこん||||こども||

中 に は 今年 から 小学校 に 入った 男の子 さえ 。 なか|||ことし||しょうがっこう||はいった|おとこのこ|

「 あの 、 すいません 」

スーツ を 選んで いた 男 客 に 、 とつぜん 声 を かけ られた 。 すーつ||えらんで||おとこ|きゃく|||こえ|||

手 に 濃い ベージュ の 背広 を 持って いる 。 て||こい|||せびろ||もって|

近寄って 、「 試着 なさい ます か ? ちかよって|しちゃく||| 」 と 笑顔 を 見せる と 、「 ここ の スーツ も 、 あそこ に 貼って ある 二 着 で 38900 円 の やつ です か ? |えがお||みせる||||すーつ||||はって||ふた|ちゃく||えん|||| 」 と 、 天井 から 吊るさ れた ポスター を 指さす 。 |てんじょう||つるさ||ぽすたー||ゆびさす

「 はい 。 ここ の は 全部 そう です よ 」 |||ぜんぶ|||

光代 は 笑顔 で 試着 室 へ 案内 した 。 てるよ||えがお||しちゃく|しつ||あんない|

背 の 高い 男 だった 。 せ||たかい|おとこ|

試着 後 、 カーテン を 開ける と 、 何 か 運動 でも やって いた の か 、 最近 流行 の 細め の スラックス に 太もも の 筋肉 が 目立った 。 しちゃく|あと|かーてん||あける||なん||うんどう||||||さいきん|りゅうこう||ほそめ||すらっくす||ふともも||きんにく||めだった

「 ちょっと きつい で す かね ? 男 が 鏡 越し に 尋ねて くる 。 おとこ||きよう|こし||たずねて|

「 最近 の デザイン は だいたい こんな 感じ です けど ね 」 さいきん||でざいん||||かんじ|||

スラックス の 裾 を 計る とき 、 男 客 の 前 で しゃがみ込んだ 。 すらっくす||すそ||はかる||おとこ|きゃく||ぜん||しゃがみこんだ

赤ん坊 でも いる の か 、 ふと 乳 臭い 匂い が した 。 あかんぼう||||||ちち|くさい|におい|| I smelled like a milk smell, even if it is a baby.

目の前 に は 男 の 大きな 足 が あった 。 めのまえ|||おとこ||おおきな|あし||

靴下 を 履いて いる が 、 大きく 固 そうな 爪 の 形 が 浮き出て いる 。 くつした||はいて|||おおきく|かた|そう な|つめ||かた||うきでて| I am wearing socks, but the shapes of claws that seem to be big solid are emerging.

こう やって もう 何 人 の 男 たち の 前 に しゃがみ込んだ だろう か 、 と 光代 は 思う 。 |||なん|じん||おとこ|||ぜん||しゃがみこんだ||||てるよ||おもう

スーツ の 裾 上げ と いう 作業 だ が 、 正直 、 働き 始めた ばかりの ころ は 、 この 姿勢 が 男 に 屈服 する ようで 嫌だった 。 すーつ||すそ|あげ|||さぎょう|||しょうじき|はたらき|はじめた|||||しせい||おとこ||くっぷく|||いやだった

しゃがみ込む と 、 そこ に は 男 たち の 脚 だけ が あった 。 しゃがみこむ|||||おとこ|||あし|||

汚れた 靴下 、 新品 の 靴下 。 けがれた|くつした|しんぴん||くつした 太い 足首 、 細い 足首 。 ふとい|あしくび|ほそい|あしくび 長い 膝 下 、 短い 膝 下 。 ながい|ひざ|した|みじかい|ひざ|した

男 たち の 脚 は 、 とても 凶暴に も 見えた し 、 頑丈 そうです ごく 頼り がい が ある ように も 見えた 。 おとこ|||あし|||きょうぼうに||みえた||がんじょう|そう です||たより||||||みえた

二十二 、 三 の ころ だった か 、 一 時期 、 こう やって 裾 上 げ を する 男 たち の 中 に 、 未来 の 夫 が いる の かも しれ ない と いう 妙な 幻想 を 抱いた こと が あった 。 にじゅうに|みっ|||||ひと|じき|||すそ|うえ||||おとこ|||なか||みらい||おっと|||||||||みょうな|げんそう||いだいた||| There was a strange illusion that it might have been the future husband among men who hesed at the time like this, when it was twenty-two or three.

今 と なって は 笑い話 だ が 、 当時 は 本気で 期待 して おり 、 裾 を 調整 し ながら ふと 見上げれば 、 そこ に は 未来 の 夫 の 顔 が あり 、 足元 に しゃがんで いる 自分 を やさしく 見つめて いる …… なんて 空想 を 、 どんな 客 に 対して も 抱いて いた 。 いま||||わらいばなし|||とうじ||ほんきで|きたい|||すそ||ちょうせい||||みあげれば||||みらい||おっと||かお|||あしもと||||じぶん|||みつめて|||くうそう|||きゃく||たいして||いだいて|

今 、 考えて みれば 、 それ が ちょうど 自分 の 第 一 次 結婚 モード 期 だった のだ と 思う 。 いま|かんがえて|||||じぶん||だい|ひと|つぎ|けっこん|もーど|き||||おもう

いくら 裾 上 げし ながら 見上げた ところ で 、 そこ に 未来 の 夫 の 顔 など なかった が 。 |すそ|うえ|||みあげた|||||みらい||おっと||かお|||

夜 に なって も 、 冬 の 雨 は まだ 降り 続いて いた 。 よ||||ふゆ||あめ|||ふり|つづいて|

レジ を 閉め 、 だだっ広い 売り場 の 電気 を 消して 回って から 更衣室 へ 入る と 、 すでに 私服 に 着替えた 水谷 が 、「 この 雨 じゃ 、 自転車 、 無理 やろ ? れじ||しめ|だだっぴろい|うりば||でんき||けして|まわって||こういしつ||はいる|||しふく||きがえた|みずたに|||あめ||じてんしゃ|むり| 車 で 送って く よ 」 と 声 を かけて くる 。 くるま||おくって||||こえ|||

光代 は 更衣室 の 鏡 に 映る 自分 の 疲れた 顔 を 眺め ながら 、「 そうして もろう か なぁ 」 と 答え 、 でも 車 で 送って もらったら 、 明日 の 朝 ここ まで バス で 来 なきゃ なら ない なぁ 、 と 心 の 中 で 悩んだ 。 てるよ||こういしつ||きよう||うつる|じぶん||つかれた|かお||ながめ|||||||こたえ||くるま||おくって||あした||あさ|||ばす||らい||||||こころ||なか||なやんだ

通用口 から 外 へ 出る と 、 雨 は 広大な 駐車 場 を 叩く ように 降って いた 。 つうようぐち||がい||でる||あめ||こうだいな|ちゅうしゃ|じょう||たたく||ふって|

店舗 の 裏 、 フェンス の 向こう に 広がる 休 閑中 の 畑 から 、 湿った 土 の 匂い が 漂って くる 。 てんぽ||うら|ふぇんす||むこう||ひろがる|きゅう|ひまなか||はたけ||しめった|つち||におい||ただよって|

バイパス を 水しぶき を 巻き上げて 何 台 も の 車 が 走り抜けて いる 。 ばいぱす||みずしぶき||まきあげて|なん|だい|||くるま||はしりぬけて|

強い ライト で 照らさ れた 「 若葉 」 の 巨大な 看板 が 、 濡れた 地面 に 反射 して 幻想 的に 揺れて いる 。 つよい|らいと||てらさ||わかば||きょだいな|かんばん||ぬれた|じめん||はんしゃ||げんそう|てきに|ゆれて|

クラクション を 鳴らさ れて 、 光代 は そちら へ 目 を 向けた 。 ||ならさ||てるよ||||め||むけた

すでに 助手 席 に 水谷 を 乗せた 旦那 の 軽 自動車 が のろのろ と こちら へ 走って くる 。 |じょしゅ|せき||みずたに||のせた|だんな||けい|じどうしゃ||||||はしって|

光代 は 傘 も 差さ ず に 軒下 から 飛び出して 、「 すいません 」 と 言い ながら 、 後部 座席 に 乗り込んだ 。 てるよ||かさ||ささ|||のきした||とびだして|||いい||こうぶ|ざせき||のりこんだ

ほんの 数 秒 の 間 だった が 、 首筋 を 濡らした 雨 が 痛い ほど 冷たかった 。 |すう|びょう||あいだ|||くびすじ||ぬらした|あめ||いたい||つめたかった

「 お 疲れ さ ん 」 |つかれ||

度 の 強い 眼鏡 を かけた 水谷 の 旦那 に 声 を かけ られ 、 光代 は 、「 すいません 、 いつも 」 と 謝った 。 たび||つよい|めがね|||みずたに||だんな||こえ||||てるよ|||||あやまった

水路 の 張り巡らさ れた 田んぼ の 一角 に 、 光代 が 暮らす アパート は 建って いる 。 すいろ||はりめぐらさ||たんぼ||いっかく||てるよ||くらす|あぱーと||たって|

まだ 建って 間 も ない もの だ が 、「 どうせ いつか は 取り壊す んだ から 、 安く 上げ とき ましょう 」 と 言わんばかり の 外見 で 、 冬 の 雨 に 濡れた 姿 は 普段 に も 増して 寒々 しい 。 |たって|あいだ|||||||||とりこわす|||やすく|あげ||||いわんばかり||がいけん||ふゆ||あめ||ぬれた|すがた||ふだん|||まして|さむざむ| It is still a long time to build it, but it looks like it's time to raise it cheaply because someday it will be demolished somewhere, and the appearance that got wet in the rain in winter is more cold than usual.

いつも の ように 水谷 夫妻 は アパート の 前 まで 送って くれた 。 |||みずたに|ふさい||あぱーと||ぜん||おくって|

後部 座席 から 外 へ 出る と 、 ぬかるんだ 泥 に ず ぼ っと スニーカー が 沈む 。 こうぶ|ざせき||がい||でる|||どろ|||||すにーかー||しずむ

雨 の 中 、 光代 は 水谷 夫妻 の 車 を 見送って 、 泥水 を 跳ね ながら アパート の 階段 に 駆け込んだ 。 あめ||なか|てるよ||みずたに|ふさい||くるま||みおくって|でいすい||はね||あぱーと||かいだん||かけこんだ

たかだか 二 階 な のだ が 、 周囲 に 田んぼ しか ない せい で 、 階段 を 上がる と 展望 台 に でも 立った ように 景色 が 広がる 。 |ふた|かい||||しゅうい||たんぼ|||||かいだん||あがる||てんぼう|だい|||たった||けしき||ひろがる 濡れた 土 の 匂い が また 冷たい 風 に 乗って 鼻 を くすぐる 。 ぬれた|つち||におい|||つめたい|かぜ||のって|はな||

201 号 室 の ドア を 開ける と 、 中 から 明かり が 漏れて きた 。 ごう|しつ||どあ||あける||なか||あかり||もれて|

「 あれ 、 あんた 今日 、 商工 会 の 飲み 会って 言い よった ろ ? ||きょう|しょうこう|かい||のみ|あって|いい|| 泥 と 雨 に 濡れた スニーカー を 脱ぎ ながら 、 光代 は 奥 に 声 を かけた 。 どろ||あめ||ぬれた|すにーかー||ぬぎ||てるよ||おく||こえ||

ストーブ の 石油 の 匂い と 一緒に 、「 自由 参加 やった けん 、 行か ん かった 」 と 妹 、 珠代 の 声 が 返って くる 。 すとーぶ||せきゆ||におい||いっしょに|じゆう|さんか|||いか||||いもうと|たまよ||こえ||かえって|

居間 に して いる 六 畳 間 で 、 やはり 雨 に 濡れた らしい 珠代 が タオル で 髪 を 拭いて いた 。 いま||||むっ|たたみ|あいだ|||あめ||ぬれた||たまよ||たおる||かみ||ふいて|

ストーブ は つけ られた ばかりな の か 、 部屋 は 寒く 、 石油 の 匂い だけ が 強い 。 すとーぶ|||||||へや||さむく|せきゆ||におい|||つよい

「 昔 は 、 男 の 人 たち に お 酌 する の が 嫌で 嫌でしょう が なかった けど 、 最近 は 若い 子 たち に 私 が お 酌 さ れる と や もん ねぇ 。 むかし||おとこ||じん||||しゃく||||いやで|いやでしょう||||さいきん||わかい|こ|||わたくし|||しゃく|||||| 居心地 悪う して ……」 いごこち|わるう|

飲み 会 に 参加 し なかった 理由 な の か 、 珠代 が ストーブ の 前 で 愚痴 を こぼす 。 のみ|かい||さんか|||りゆう||||たまよ||すとーぶ||ぜん||ぐち||

「 なんか 買って きた ? |かって| と 光代 は その 背中 に 訊 いた 。 |てるよ|||せなか||じん|

「 いや 、 何も 。 |なにも だって 雨 やった し 」 |あめ||

濡れた タオル を 珠代 が 投げて 寄越す 。 ぬれた|たおる||たまよ||なげて|よこす

「 冷蔵 庫 に なんか 入 っと った っけ ? れいぞう|こ|||はい||| 光代 は 濡れた タオル で 首筋 を 拭き ながら 、 狭い 台所 の 冷蔵 庫 を 開けた 。 てるよ||ぬれた|たおる||くびすじ||ふき||せまい|だいどころ||れいぞう|こ||あけた

「 また 水谷 さん に 送って もらった と ? |みずたに|||おくって|| 「 そう 。 自転車 置いて きた けん 、 明日 、 バス で 行か ん ば 」 じてんしゃ|おいて|||あした|ばす||いか||

キャベツ が 半 玉 、 バラ 豚肉 が 少し ある 。 きゃべつ||はん|たま|ばら|ぶたにく||すこし|

これ ら を 炒めて 、 あと は うどん で も 作ろう と 決めて 扉 を 閉めた 。 |||いためて||||||つくろう||きめて|とびら||しめた

「 あんた 、 スカート 、 皺 に なる よ 」 |すかーと|しわ|||

光代 は 濡れた まま 畳 に 座り込んで いる 珠代 に 注意 した 。 てるよ||ぬれた||たたみ||すわりこんで||たまよ||ちゅうい|

「 しかし 、 来年 三十 に なる 双子 の 姉妹 が 、 こう やって 美味し そう に うどん なんか 啜 っと って 、 いい わけ ? |らいねん|さんじゅう|||ふたご||しまい||||おいし|||||せつ|||| とろ ろ 昆布 を 麺 に 絡め ながら そう 呟いた 珠代 に 、 光代 は 七 味 を ふり かけ ながら 、「 ちょっと 茹で 過ぎた かも しれ ん よ 」 と 注意 した 。 ||こんぶ||めん||からめ|||つぶやいた|たまよ||てるよ||なな|あじ||||||ゆで|すぎた||||||ちゅうい|

「 もし これ が もっと 昔 、 たとえば 昭和 と かや ったら 、 絶対 に 近所 から ヘン な 目 で 見 られる よ 」 ||||むかし||しょうわ||||ぜったい||きんじょ||||め||み||

「 なんで ? 「 だって この 年 の 女 が 二 人 で 、 それ も 双子 の 姉妹 で 、 こんな アパート に 暮らし と ったら 世間 は 黙 っと らん やろ ? ||とし||おんな||ふた|じん||||ふたご||しまい|||あぱーと||くらし|||せけん||もく||| 長い 髪 を ゴム で 纏めて 、 珠代 が 音 を 立てて うどん を 啜 る 。 ながい|かみ||ごむ||まとめて|たまよ||おと||たてて|||せつ|

「 おまけに こんな 漫才 師 みたいな 名前 よ 。 ||まんざい|し||なまえ| 近所 の 小学生 なんか 、 絶対 に 私 たち の こと 『 双子 の 魔女 』 と かって 噂 する に 決 まっ とる 」 きんじょ||しょうがくせい||ぜったい||わたくし||||ふたご||まじょ|||うわさ|||けっ||

本気で 言って いる の か い ない の か 、 珠代 は 愚痴 を こぼし ながら も うどん は 啜 る 。 ほんきで|いって||||||||たまよ||ぐち|||||||せつ|

「 双子 の 魔女 ねぇ 」 ふたご||まじょ|

光代 は 半ば 笑い ながら も 空恐ろしく なった が 、 それ でも うどん は 啜 った 。 てるよ||なかば|わらい|||そらおそろしく|||||||せつ|

家賃 四万二千 円 の 2 DK 。 やちん|しまんにせん|えん||dk

2 DK と 言えば 聞こえ は いい が 、 六 畳 間 が 二 つ 、 襖 で 仕切ら れて いる だけ の 間取り の アパート で 、 光代 たち 姉妹 の ほか は 、 すべて 小さな 子供 の いる 若 夫婦 ばかり だ 。 dk||いえば|きこえ||||むっ|たたみ|あいだ||ふた||ふすま||しきら|||||まどり||あぱーと||てるよ||しまい|||||ちいさな|こども|||わか|ふうふ||

二 人 は 地元 の 高校 を 卒業 して 、 鳥栖 市 に ある 食品 工場 に 就職 した 。 ふた|じん||じもと||こうこう||そつぎょう||とす|し|||しょくひん|こうじょう||しゅうしょく|

双子 の 姉妹 が 同じ 工場 に 就職 する こと も ない のだ が 、 いく つ か 受けた うち で お互いに 受かった の が そこ しか なかった 。 ふたご||しまい||おなじ|こうじょう||しゅうしょく||||||||||うけた|||おたがいに|うかった|||||

仕事 は 二 人 と も ライン 作業 だった 。 しごと||ふた|じん|||らいん|さぎょう|

働いた 三 年 ほど で 担当 場所 は いろいろ 変わった が 、 目の前 を 何 十 万 と いう カップ 麺 が 流れた こと に なる 。 はたらいた|みっ|とし|||たんとう|ばしょ|||かわった||めのまえ||なん|じゅう|よろず|||かっぷ|めん||ながれた|||

先 に 嫌気 が 差して 辞めた の は 妹 の 珠代 で 、 近所 に ある ゴルフ 場 の キャディ に なった 。 さき||いやき||さして|やめた|||いもうと||たまよ||きんじょ|||ごるふ|じょう||||

だが 、 すぐに 腰 を 痛めて 退職 し 、 その後 は 商工 会議 所 の 事務 員 に 収まって いる 。 ||こし||いためて|たいしょく||そのご||しょうこう|かいぎ|しょ||じむ|いん||おさまって| 珠代 が キャディ を 辞めた ころ 、 光代 も 食品 工場 を 解雇 さ れた 。 たまよ||||やめた||てるよ||しょくひん|こうじょう||かいこ|| 人員 削減 、 規模 縮小 で 真っ先 に 切ら れた の が 、 光代 たち 高卒 の 女 たち だった 。 じんいん|さくげん|きぼ|しゅくしょう||まっさき||きら||||てるよ||こうそつ||おんな||

工場 の 職業 斡旋 で 紳士 服 店 の 販売 員 を 紹介 さ れた 。 こうじょう||しょくぎょう|あっせん||しんし|ふく|てん||はんばい|いん||しょうかい||

接客 業 は 苦手だった が 、 本人 の 得手 不得手 など 主張 できる 立場 で は なかった 。 せっきゃく|ぎょう||にがてだった||ほんにん||えて|ふえて||しゅちょう||たちば|||

光代 が 34 号 線 沿い の 紳士 服 店 に 転職 した ころ 、 二 人 で この アパート を 借りた 。 てるよ||ごう|せん|ぞい||しんし|ふく|てん||てんしょく|||ふた|じん|||あぱーと||かりた

「 実家 に いる から 親 に 甘えて 結婚 でき ない んだ 」 と 言う 珠代 に 半ば 強引に 引きずり込ま れた 格好だった 。 じっか||||おや||あまえて|けっこん|||||いう|たまよ||なかば|ごういんに|ひきずりこま||かっこうだった

元々 、 姉妹 仲 は 良かった ので 、 アパート で の 暮らし は うまく いった 。 もともと|しまい|なか||よかった||あぱーと|||くらし|||

両親 も 口うるさい 双子 の 姉妹 が 出て 行って 、 これ で やっと 二 人 の 弟 である 長男 に 嫁 を 迎える 準備 が 出来た と 喜んだ 。 りょうしん||くちうるさい|ふたご||しまい||でて|おこなって||||ふた|じん||おとうと||ちょうなん||よめ||むかえる|じゅんび||できた||よろこんだ 実際 、 その 三 年 後 に 弟 は 高校 の 同級 生 と 結婚 した 。 じっさい||みっ|とし|あと||おとうと||こうこう||どうきゅう|せい||けっこん| 光代 たち より 三 歳 も 若く 、 まだ 二十二 歳 だった 。 てるよ|||みっ|さい||わかく||にじゅうに|さい| 結婚 式 に は 、 すでに 赤ん坊 を 抱いて いる 弟 の 友人 たち が 何 人 も 参列 して いた 。 けっこん|しき||||あかんぼう||いだいて||おとうと||ゆうじん|||なん|じん||さんれつ|| それ が 珍しく も ない 郊外 の メモリアルホール だった 。 ||めずらしく|||こうがい|||

「 ねぇ 、 今日 、 商工 会 の 子 に 何 訊 かれた と 思う ? |きょう|しょうこう|かい||こ||なん|じん|||おもう うどん を 食べ 終え 、 台所 で 食器 を 洗って いる と 、 テレビ の 前 に 寝転んで いる 珠代 に 声 を かけ られた 。 ||たべ|おえ|だいどころ||しょっき||あらって|||てれび||ぜん||ねころんで||たまよ||こえ|||

「 馬 込 さん 、 今度 の クリスマス どう する んです かって 。 うま|こみ||こんど||くりすます|||| 十九 の 子 に そう 訊 かれて 、 二十九 の 私 に なんて 答えろ って 言う と よ ねぇ ? じゅうきゅう||こ|||じん||にじゅうきゅう||わたくし|||こたえろ||いう||| ダイエット を 紹介 する テレビ の 前 で 、 珠代 が 足 を 上げて いる 。 だいえっと||しょうかい||てれび||ぜん||たまよ||あし||あげて|

「 だって 、 あんた 、 その 週 は 公休 取って ど っか 旅行 する って 言い よった ろ ? |||しゅう||こうきゅう|とって|||りょこう|||いい|| 「 だって ぇ 、 クリスマスシーズン に 女 同士 で 『 し まなみ 海道 バス ツアー 』 なんて あまりに も 寂しく ない ? ||||おんな|どうし||||かいどう|ばす|つあー||||さびしく| …… あ 、 そうだ 。 |そう だ 光代 も 行く ? てるよ||いく 「 いや よ 。 毎日 一緒に おって 、 休み まで あんた と 旅行 なんて 考えた だけ で 疲れる 」 まいにち|いっしょに||やすみ||||りょこう||かんがえた|||つかれる

光代 は スポンジ に 洗浄 剤 を 少し 足した 。 てるよ||||せんじょう|ざい||すこし|たした

台所 に 近所 の スーパー で もらった カレンダー が 貼って あった 。 だいどころ||きんじょ||すーぱー|||かれんだー||はって|

粗大 ゴミ の 日 と 自分 の 休み 以外 、 なんの 予定 も 書き込ま れて い ない 。 そだい|ごみ||ひ||じぶん||やすみ|いがい||よてい||かきこま|||

クリスマス か ぁ 。 くりすます||

光代 は スポンジ を 泡立て ながら 呟いた 。 てるよ||||あわだて||つぶやいた

ここ 数 年 、 光代 は クリスマス を 実家 で 過ごして いる 。 |すう|とし|てるよ||くりすます||じっか||すごして| 結婚 して すぐに 生まれた 弟 の 息子 が 、 幸いに も クリスマスイブ が 誕生日 で 、 それ を 名目 に プレゼント を 持って 帰る のだ 。 けっこん|||うまれた|おとうと||むすこ||さいわいに||||たんじょうび||||めいもく||ぷれぜんと||もって|かえる|

いつの間にか 、 握り すぎた スポンジ の 泡 が ゴム 手袋 を 伝って いた 。 いつのまにか|にぎり||||あわ||ごむ|てぶくろ||つたって|

それ でも しばらく 眺めて いる と 、 泡 は ゴム 手袋 から 素肌 の 肘 に 移り 、 ゆっくり と 大きく なって から 、 ぼ と っと 汚れ 物 の 積ま れた シンク に 落ちた 。 |||ながめて|||あわ||ごむ|てぶくろ||すはだ||ひじ||うつり|||おおきく||||||けがれ|ぶつ||つま||||おちた 泡 で 濡れた 肘 が 痒 かった 。 あわ||ぬれた|ひじ||よう| 肘 の 痒 み が 、 全身 に 伝わる ようだった 。 ひじ||よう|||ぜんしん||つたわる|