×

We use cookies to help make LingQ better. By visiting the site, you agree to our cookie policy.


image

悪人 (Villain) (1st Book), 第二章 彼は誰に会いたかったか?【5】

第 二 章 彼 は 誰 に 会い たかった か?【5】

刑事 たち は 了解 した と も し ない と も 答え ず に 帰った 。

自分 を 疑って いる ように は 見え なかった が 、 自分 の 将来 を 考えて くれて いる ように も 思え なかった 。

刑事 に 告げた こと は 、 まったく の 真実 だった 。

ただ 、 真実 を 真実 と して 告げる の が 、 こんなに 難しい と は 思わ なかった 。 これ ならば 嘘 を つく ほう が よほど 簡単だ と 林 は 思った 。

とにかく 塾 へ 向かう んだ 。

とにかく 真面目 に 働いて 、 もしも 万が一 の とき は 、 もう 二度と 過ち を 繰り返さ ない と 謝罪 する んだ 。 それ に これ だけ は 誓って 言える 。 塾 に 通って くる 小学生 の 女の子 たち に 性 的な 興味 を 持った こと は ない 。

言葉 は 出て くる のだ が 、 座り込んだ 場所 から 立ち上がる こと が でき なかった 。

正確な 人数 は 教えて くれ なかった が 、 刑事 たち は すでに 彼女 と 関係 の あった 何 人 か の 男 たち に 面会 した と 言った 。

暇つぶし に 登録 した サイト で 知り合った 女 に とつぜん 死な れて 、 途方 に 暮れて いる 男 たち だ 。

自分 も そう だ が 、 彼女 を 殺そう と 思って 会った ヤツ など 誰 も い なかった はずだ 。 なのに 彼女 は 殺さ れた 。

娼婦 が 一 人 、 悪い 客 に 当たって 殺さ れた のだ と 思えば 、 少し は そこ に 紋切り型 の 物語 性 も 生まれる のだろう か 。

でも 殺さ れた の は 娼婦 で は ない 。 隠して は いた が 、 地道に 生命 保険 の 勧誘 を する 一 人 の 若い 女 だ 。 娼婦 の ふり を した 、 娼婦 で は ない 女 な のだ 。

ラブ ホテル の 狭い 客室 で 、「 から だ 、 柔らかい ね 」 と 林 が 褒める と 、 佳乃 は 下着 姿 の まま 、 自慢げに 前 屈して 見せた 。

「 新 体操 部 やった けん 、 前 は もっと 柔らかかった っちゃ けど 」

白い 肌 に 背骨 が 浮き出て いた 。

こちら に 向け られた 笑顔 は 、 二 カ月 後 に 殺さ れる こと など 知る 由 も なかった 。

同日 の 午前 中 、 福岡 から 百 キロ ほど 離れた 長崎 市 郊 外 で 、 清水 祐一 の 祖母 、 房枝 は 、 週 に 一 度 漁港 へ やって くる 行商 トラック で 買って きた ばかり の 野菜 を 、 痛む 膝 を 押さえ ながら 冷蔵 庫 に 詰めて いた 。

茄子 が 安かった ので 漬物 に でも しよう と 十 本 も 買って きた が 、 考えて みれば 茄子 の 漬物 を 祐一 が あまり 好きで は ない こと を 、 今に なって 思い出し 、 後悔 して いた 。

千 円 くらい で 済む だろう と 思って いた ところ 、 総額 で 1630 円 に なった 。

30 円 は まけて くれた が 、 それ でも 来週 まで 郵便 局 に 下ろし に いか なくて いい と 思って いた 財布 の 中身 が 心細く なって いる 。

この 日 も 、 房枝 は バス で 市 内 の 病院 に 入院 して いる 夫 、 勝治 を 見舞い に 行く 予定 だった 。

行けば 邪 慳 に する くせ に 、 行か ない と 文句 を 言う ので 、 必ず 行か なければ なら ず 、 保険 で 入院 費 は 無料 と は いえ 、 毎日 の バス 代 まで は 節約 しようがない 。

近所 の 停留所 から 長崎 駅前 まで 片道 310 円 。

駅前 で 乗り換えて 病院 前 まで が 180 円 。 毎日 往復 980 円 の 出費 に なる 。

一 週間 の 野菜 代 を 千 円 で 抑え たい 房枝 に は 、 毎日 980 円 と いう バス 代 は 、 上げ 膳 据 膳 の 温泉 旅館 で 贅沢 を して いる ような 後ろめた さ が ある 。

野菜 を 冷蔵 庫 に しまった あと 、 房枝 は プラスチック 容器 から 梅干し を 一 つ つまんで 口 に 入れた 。

「 おばちゃん ! おる ね ? 聞き覚え の ある 男 の 声 が 玄関 から 聞こえた の は その とき だった 。

梅干し を しゃぶり ながら 廊下 へ 出る と 、 駐在 所 の 巡査 と 見知らぬ 男 が 立って いる 。

「 あら 、 今ごろ 、 朝 メシ ね ? 人なつこい 笑顔 で 小 太り の 巡査 が 中 へ 入って くる 。

房枝 が 口 から 梅干し の 種 を 取り出して いる と 、「 さっき 聞いた けど 、 また じいちゃん が 入院 した って ? 」 と 巡査 が 言う 。

房枝 は 種 を 手のひら に 隠し ながら 、 巡査 の 横 に 立つ 背広 姿 の 男 に 目 を 向けた 。

日 に 灼 けた 肌 は 硬 そうで 、 だ ら り と 垂らした 手 の 指 が やけに 短い 。

「 こちら 、 県警 の 早田 さん 。

ちょっと 祐一 に 訊 きた か こと の ある って 」

「 祐一 に です か ? そう 訊 き 返す と 、 口 の 中 に ふわ っと 梅 の 香り が 広がった 。

日ごろ 交番 で 茶 飲み 話 を する とき は 、 気 に した こと も ない のだ が 、 巡査 の 腰 に ある 拳銃 が 房枝 の 目 に 飛び込んで くる 。

「 この前 の 日曜日 の 夜 、 祐一 は ど っか に 出かけ とった と ね ? 上がり 框 に 座り込んだ 巡査 は 、 無理に からだ を 捻って 訊 いて きた 。

横 に 立つ 刑事 が 慌てて その 肩 を 押さえ 、「 質問 は 私 が する けん 」 と 厳しい 顔 で 戒める 。

房枝 は 上がり 框 に 座り込んだ 巡査 に 、 まるで 寄り添う ように 正座 した 。

「 いや ぁ 、 なんか ね 、 福岡 の 三瀬 峠 で 殺さ れた 女の子 が 祐一 の 友達 らしかった い 」

戒め られた に も かかわら ず 、 巡査 は 房枝 に 話し 続けた 。

「 は ぁ ? 祐一 の 友達 が 殺さ れた って ? 正座 した まま 、 房枝 は 後ろ へ 反り返った 。

その 瞬間 、 膝 が 痛んで 、「 あた たた 」 と 声 を 上げる 。

慌てた 巡査 が 房枝 の 腕 を 取り 、「 ほら 、 また 立て ん ごと なる よ 」 と 引き起こして くれる 。

「 祐一 の 友達 って いう たら 、 中学 の とき の やろ か ? と 房枝 は 訊 いた 。

高校 が 工業 高校 だった ので 、 だ と したら 中学 の ころ だ と 思い 、 と すれば 、 この 辺 の 娘 さん が 殺さ れた こと に なる 。

「 いや 、 中学 じゃ なくて 、 最近 の 友達 やろ 」

「 最近 の ? 房枝 は 巡査 の 言葉 に 、 素っ頓狂 な 声 を 上げた 。

我が 孫 ながら 、 祐一 に は 心配に なる ほど 女 の 影 が なかった 。 女 の 影 どころ か 、 親しく して いる 男 の 友達 も 一 人 か 、 二 人 と 数 が 知れて いる 。

口 の 軽い 巡査 に うんざり した ように 、 背広 姿 の 刑事 が 、「 質問 は 私 が する って 言い よる やろう が 」 と 顔 を しかめた 。

「 ちょっと お 訊 き し ます けど 、 この 前 の 日曜日 です ね ……」

威圧 的な 声 で 刑事 に 訊 かれ 、 房枝 は 聞き 終わる の も 待た ず に 、「 日曜日 は 、 家 に おった と 思う と です けど ね 」 と 答えた 。

「 は ぁ 、 やっぱり おった と ね 」 と 、 巡査 が ほっと した ように また 口 を 挟んで くる 。

「 いや 、 ここ に 来る 前 に 駐在 所 で 岡崎 の ばあちゃん と 会う た と さ 。

祐一 が 出かける と したら 、 いつも 車 やろ ? 岡崎 の ばあちゃん ち は 駐車 場 の 横 やけん 、 車 が 出て 行く 音 なり 、 帰って くる 音 なり 、 全部 聞こえる って 、 前 から よう 言い よろう が 。 ばっ てん 、 岡崎 の ばあちゃん に 訊 いたら 、 日曜日 、 祐一 の 車 は ずっと あった って 言う けんさ 」

捲し立てる 巡査 に 、 房枝 も 刑事 も 口 を 挟め なかった 。

厳しかった 刑事 の 目 に 、 少し 優しい 色 が 滲 む の を 房枝 は 見た 。

「 あんた は 黙 っと けって 言う て も 、 きかん と や ねぇ 」

刑事 が お 喋り な 巡査 を 注意 する 。

ただ 、 さっき まで と は 違い 、 その 声 に どこ か 親し み が 感じ られる 。

「 私 も じいちゃん も 早う 寝て しまう けん 、 よう 分から ん と です けど 、 日曜日 、 祐一 は 部屋 に おった ような 気 が し ます けど ね 」 と 房枝 は 言った 。

「 岡崎 の ばあちゃん が そう 言う て 、 一緒に 住 ん ど る ばあちゃん も そう 言う なら 間違い なか やろ 」

巡査 が 房枝 で は なく 、 刑事 に 伝える ように 繰り返す 。

「 いや 、 実は です ね ……」

巡査 の 言葉 を 引き継ぐ ように 、 やっと 刑事 が 話し 始めた 。

房枝 は 手のひら に ある 梅干し の 種 が 気 に なって 仕方なかった 。

「 福岡 の 三瀬 峠 で 見つかった 女性 の 携帯 の 履歴 に お宅 の お 孫 さん の 番号 が あった と です よ 」

「 祐一 の ? 「 お 孫 さん の だけ じゃ なくて 、 その 女性 は 交友 関係 が 広くて です ね 」

「 その 女の子 は 、 この 辺 の 子 です か ? 「 いやいや 、 長崎 じゃ なくて 福岡 の 博多 の 人 でして ね 」

「 博多 ? 祐一 は 博多 に 友達 の おった と ばい ねぇ 。 ぜんぜん 知ら ん やった 」

丁寧に 説明 する と 、 いちいち 言葉 が 返って くる と 思った の か 、 そこ から 刑事 は 一気に 事情 を 説明 した 。

すでに 祐一 が その 晩 、 家 に いた こと に なって いた ので 、 どちら か と いう と 、 ふい の 訪問 を 謝罪 する ような 話し 方 だった 。

亡くなった 女性 は 石橋 佳乃 と いう 二十一 歳 の 女性 で 、 博多 で 保険 の 外交 員 を やって いる らしい 。

地元 の 友人 、 同僚 、 遊び 仲間 と かなり 顔 の 広い 女の子 で 、 事件 前 の 一 週間 だけ を 見て も 、 五十 人 近い 相手 と メール や 電話 の やりとり を して いる 。 その 中 に 祐一 も 入って いる らしい 。

「 最後に お 孫 さん が メール を 出した の は 事件 の 四 日 前 、 逆に その 女性 が 祐一 くん に 最後 の メール を 送った の が その 翌日 です ね 。

ただ 、 その あと に も 十 人 近く も 彼女 と 連絡 を 取り合って る 相手 が おる んです よ 」

房枝 は 刑事 の 話 を 訊 き ながら 、 殺さ れた と いう 若い 娘 の 姿 を 想像 した 。

交友 関係 が 広い と 聞いた だけ で 、 祐一 と は 縁遠い ような 気 が して なら ない 。 恐ろしい 事件 が 起こった の は 事実 な のだろう が 、 どうしても 祐一 と それ が 結びつか ない 。

刑事 の 説明 が 一 通り 終わった とき 、 房枝 は ぼんやり と 憲夫 の 言葉 を 思い出して いた 。

事件 の あった 翌日 、 祐一 は 二日酔い で 現場 へ 向かう 途中 、 とつぜん 吐いた と 言った 。

房枝 の 中 で 何 か が 繋がった 。 あの 朝 、 祐一 は この 女性 が 殺さ れた こと を テレビ か 何 か で 、 すでに 知っていた のだ 。 知人 を 失った 悲しみ が 、 吐き気 と して 現れた のだ 。

これ が 、 二十 年 近く 祐一 を 育てて きた 房枝 の 直感 だった 。

あまり 時間 が ない らしく 、 刑事 は 事情 を 説明 し 終える と 、「 ま ぁ 、 とにかく 、 おばあ ちゃん は 心配 せ ん でも よ かけ ん ね 」 と 優しく 声 を かけて きた 。

心配 など して い なかった が 、 房枝 は 、「 そう です か 」 と 神妙に 頷いた 。

「 祐一 くん が 仕事 から 戻って くる の は 何時ごろ やろ か ? 刑事 に 訊 かれ 、「 いつも は 六 時 半 ぐらい です けど 」 と 房枝 は 答えた 。

「 それ じゃ 、 もし また 何 か あったら 連絡 し ます けん 。 今日 の ところ は この 辺 で 」

刑事 に そう 言わ れ 、 房枝 は とりあえず 立ち上がる と 、「 ご 苦労 さん でした 」 と 頭 を 下げた 。

口 で は また 連絡 する と 言う が 、 刑事 に その 気 は な さ そうだった 。

刑事 を 見送り 、 また 上がり 框 に 座り込んだ 近所 の 巡査 が 、「 いや ぁ 、 びっくり した やろ ? 」 と おどけた 顔 を して 見せる 。

「 俺 も 、 最初に 祐一 が 参考人 って 聞いた とき に は 腰 抜かす か と 思う たよ 。

ただ 、 ちょうど その 電話 を 受けた とき に 、 岡崎 の ばあさん が 駐在 所 に おった けん 、 車 の 事 を 訊 いて みたら 、『 日曜日 、 祐一 は 車 出し とら ん 』 って 言う やろ 。 それ で すぐ 安心 した っさ 。 いや 、 実は ね 、 ここ だけ の 話 、 もう 犯人 は 分 か っと る らしい もん ね 。 ただ 、 ま ぁ 、 一応 、 確認 くらい は せ ん と いかんの やろ 」

「 あら 、 もう 犯人 は 分 か っと る と ? 房枝 は 大げさに ほっと して 見せ 、「 祐一 が 博多 の 女の子 と 仲良し なんて 、 ぜんぜん ピンと こ ん もん ねぇ 」 と 付け加えた 。

「 ま ぁ 、 祐一 も 年頃 の 男 やけん 、 仕方ない さ 。 その 女の子 は どうも 出会い 系 サイト で いろんな 人 と 知り合う とった よう や もん ね 」

「 出会い 系 っちゃ 何 ね ? 「 ま ぁ 、 簡単に 言う たら 、 文通 相手 の ような もん さ 」

「 へ ぇ 、 祐一 が 博多 の 娘 さん と 文通 し とった と は 知ら ん かった 」

房枝 は 手のひら に 梅干し の 種 が ある こと を 思い出し 、 やっと 外 へ 投げ捨てた 。

第 二 章 彼 は 誰 に 会い たかった か?【5】 だい|ふた|しょう|かれ||だれ||あい|| Kapitel 2 Wen wollte er treffen? [5 Chapter 2 Who Did He Want to See? [5 Capítulo 2 ¿A quién quería conocer? [5 제2장 그는 누구를 만나고 싶었나? [5]【5】그는 누구를 만나고 싶었나? 第 2 章 他想见谁?[5

刑事 たち は 了解 した と も し ない と も 答え ず に 帰った 。 けいじ|||りょうかい||||||||こたえ|||かえった The detectives returned without answering with or without acknowledging.

自分 を 疑って いる ように は 見え なかった が 、 自分 の 将来 を 考えて くれて いる ように も 思え なかった 。 じぶん||うたがって||||みえ|||じぶん||しょうらい||かんがえて|||||おもえ| It didn't seem like I was doubting myself, but I did not think I was thinking about my future.

刑事 に 告げた こと は 、 まったく の 真実 だった 。 けいじ||つげた|||||しんじつ| What I told the detective was quite true.

ただ 、 真実 を 真実 と して 告げる の が 、 こんなに 難しい と は 思わ なかった 。 |しんじつ||しんじつ|||つげる||||むずかしい|||おもわ| However, I did not think it so difficult to tell the truth as the truth. これ ならば 嘘 を つく ほう が よほど 簡単だ と 林 は 思った 。 ||うそ||||||かんたんだ||りん||おもった Hayashi thought that it would be much easier to tell a lie if this was done.

とにかく 塾 へ 向かう んだ 。 |じゅく||むかう| Anyway, I'm going to the beach.

とにかく 真面目 に 働いて 、 もしも 万が一 の とき は 、 もう 二度と 過ち を 繰り返さ ない と 謝罪 する んだ 。 |まじめ||はたらいて||まんがいち|||||にどと|あやまち||くりかえさ|||しゃざい|| Anyway, I'm working seriously, and I apologize if I'm not sure I won't repeat my mistakes again. それ に これ だけ は 誓って 言える 。 |||||ちかって|いえる And I swear I can only say this. 塾 に 通って くる 小学生 の 女の子 たち に 性 的な 興味 を 持った こと は ない 。 じゅく||かよって||しょうがくせい||おんなのこ|||せい|てきな|きょうみ||もった||| I have never been sexually interested in primary school girls who come to school.

言葉 は 出て くる のだ が 、 座り込んだ 場所 から 立ち上がる こと が でき なかった 。 ことば||でて||||すわりこんだ|ばしょ||たちあがる|||| The words came out, but I couldn't get up from the place I sat down.

正確な 人数 は 教えて くれ なかった が 、 刑事 たち は すでに 彼女 と 関係 の あった 何 人 か の 男 たち に 面会 した と 言った 。 せいかくな|にんずう||おしえて||||けいじ||||かのじょ||かんけい|||なん|じん|||おとこ|||めんかい|||いった The exact number was not shown but the detectives said they had already met some men who had a relationship with her.

暇つぶし に 登録 した サイト で 知り合った 女 に とつぜん 死な れて 、 途方 に 暮れて いる 男 たち だ 。 ひまつぶし||とうろく||さいと||しりあった|おんな|||しな||とほう||くれて||おとこ||

自分 も そう だ が 、 彼女 を 殺そう と 思って 会った ヤツ など 誰 も い なかった はずだ 。 じぶん|||||かのじょ||ころそう||おもって|あった|やつ||だれ|||| As I did, no one was supposed to kill her. なのに 彼女 は 殺さ れた 。 |かのじょ||ころさ| But she was killed.

娼婦 が 一 人 、 悪い 客 に 当たって 殺さ れた のだ と 思えば 、 少し は そこ に 紋切り型 の 物語 性 も 生まれる のだろう か 。 しょうふ||ひと|じん|わるい|きゃく||あたって|ころさ||||おもえば|すこし||||もんきりがた||ものがたり|せい||うまれる|| If you think that a prostitute was killed by one of your bad customers, will a little bit of a crucifixive narrative also be born there?

でも 殺さ れた の は 娼婦 で は ない 。 |ころさ||||しょうふ||| But it is not a prostitute that was killed. 隠して は いた が 、 地道に 生命 保険 の 勧誘 を する 一 人 の 若い 女 だ 。 かくして||||じみちに|せいめい|ほけん||かんゆう|||ひと|じん||わかい|おんな| Although hidden, it is a young woman who solicits life insurance on a steady basis. 娼婦 の ふり を した 、 娼婦 で は ない 女 な のだ 。 しょうふ|||||しょうふ||||おんな|| It is a woman who is not a prostitute, who pretends to be a prostitute.

ラブ ホテル の 狭い 客室 で 、「 から だ 、 柔らかい ね 」 と 林 が 褒める と 、 佳乃 は 下着 姿 の まま 、 自慢げに 前 屈して 見せた 。 らぶ|ほてる||せまい|きゃくしつ||||やわらかい|||りん||ほめる||よしの||したぎ|すがた|||じまんげに|ぜん|くっして|みせた In a small room at a love hotel, when he gave up, saying, “Body, soft,” Ayano kept showing his underwear and bowed forward.

「 新 体操 部 やった けん 、 前 は もっと 柔らかかった っちゃ けど 」 しん|たいそう|ぶ|||ぜん|||やわらかかった|| "The new gymnastics club I did, but it was softer than before."

白い 肌 に 背骨 が 浮き出て いた 。 しろい|はだ||せぼね||うきでて| The spine was raised on the white skin.

こちら に 向け られた 笑顔 は 、 二 カ月 後 に 殺さ れる こと など 知る 由 も なかった 。 ||むけ||えがお||ふた|かげつ|あと||ころさ||||しる|よし||

同日 の 午前 中 、 福岡 から 百 キロ ほど 離れた 長崎 市 郊 外 で 、 清水 祐一 の 祖母 、 房枝 は 、 週 に 一 度 漁港 へ やって くる 行商 トラック で 買って きた ばかり の 野菜 を 、 痛む 膝 を 押さえ ながら 冷蔵 庫 に 詰めて いた 。 どうじつ||ごぜん|なか|ふくおか||ひゃく|きろ||はなれた|ながさき|し|こう|がい||きよみず|ゆういち||そぼ|ふさえ||しゅう||ひと|たび|ぎょこう||||ぎょうしょう|とらっく||かって||||やさい||いたむ|ひざ||おさえ||れいぞう|こ||つめて|

茄子 が 安かった ので 漬物 に でも しよう と 十 本 も 買って きた が 、 考えて みれば 茄子 の 漬物 を 祐一 が あまり 好きで は ない こと を 、 今に なって 思い出し 、 後悔 して いた 。 なす||やすかった||つけもの|||||じゅう|ほん||かって|||かんがえて||なす||つけもの||ゆういち|||すきで|||||いまに||おもいだし|こうかい||

千 円 くらい で 済む だろう と 思って いた ところ 、 総額 で 1630 円 に なった 。 せん|えん|||すむ|||おもって|||そうがく||えん||

30 円 は まけて くれた が 、 それ でも 来週 まで 郵便 局 に 下ろし に いか なくて いい と 思って いた 財布 の 中身 が 心細く なって いる 。 えん|||||||らいしゅう||ゆうびん|きょく||おろし||||||おもって||さいふ||なかみ||こころぼそく||

この 日 も 、 房枝 は バス で 市 内 の 病院 に 入院 して いる 夫 、 勝治 を 見舞い に 行く 予定 だった 。 |ひ||ふさえ||ばす||し|うち||びょういん||にゅういん|||おっと|かつじ||みまい||いく|よてい|

行けば 邪 慳 に する くせ に 、 行か ない と 文句 を 言う ので 、 必ず 行か なければ なら ず 、 保険 で 入院 費 は 無料 と は いえ 、 毎日 の バス 代 まで は 節約 しようがない 。 いけば|じゃ|けん|||||いか|||もんく||いう||かならず|いか||||ほけん||にゅういん|ひ||むりょう||||まいにち||ばす|だい|||せつやく|

近所 の 停留所 から 長崎 駅前 まで 片道 310 円 。 きんじょ||ていりゅうじょ||ながさき|えきまえ||かたみち|えん

駅前 で 乗り換えて 病院 前 まで が 180 円 。 えきまえ||のりかえて|びょういん|ぜん|||えん 毎日 往復 980 円 の 出費 に なる 。 まいにち|おうふく|えん||しゅっぴ||

一 週間 の 野菜 代 を 千 円 で 抑え たい 房枝 に は 、 毎日 980 円 と いう バス 代 は 、 上げ 膳 据 膳 の 温泉 旅館 で 贅沢 を して いる ような 後ろめた さ が ある 。 ひと|しゅうかん||やさい|だい||せん|えん||おさえ||ふさえ|||まいにち|えん|||ばす|だい||あげ|ぜん|すえ|ぜん||おんせん|りょかん||ぜいたく|||||うしろめた|||

野菜 を 冷蔵 庫 に しまった あと 、 房枝 は プラスチック 容器 から 梅干し を 一 つ つまんで 口 に 入れた 。 やさい||れいぞう|こ||||ふさえ||ぷらすちっく|ようき||うめぼし||ひと|||くち||いれた

「 おばちゃん ! おる ね ? 聞き覚え の ある 男 の 声 が 玄関 から 聞こえた の は その とき だった 。 ききおぼえ|||おとこ||こえ||げんかん||きこえた|||||

梅干し を しゃぶり ながら 廊下 へ 出る と 、 駐在 所 の 巡査 と 見知らぬ 男 が 立って いる 。 うめぼし||||ろうか||でる||ちゅうざい|しょ||じゅんさ||みしらぬ|おとこ||たって|

「 あら 、 今ごろ 、 朝 メシ ね ? |いまごろ|あさ|めし| 人なつこい 笑顔 で 小 太り の 巡査 が 中 へ 入って くる 。 ひとなつこい|えがお||しょう|ふとり||じゅんさ||なか||はいって|

房枝 が 口 から 梅干し の 種 を 取り出して いる と 、「 さっき 聞いた けど 、 また じいちゃん が 入院 した って ? ふさえ||くち||うめぼし||しゅ||とりだして||||きいた|||||にゅういん|| 」 と 巡査 が 言う 。 |じゅんさ||いう

房枝 は 種 を 手のひら に 隠し ながら 、 巡査 の 横 に 立つ 背広 姿 の 男 に 目 を 向けた 。 ふさえ||しゅ||てのひら||かくし||じゅんさ||よこ||たつ|せびろ|すがた||おとこ||め||むけた

日 に 灼 けた 肌 は 硬 そうで 、 だ ら り と 垂らした 手 の 指 が やけに 短い 。 ひ||しゃく||はだ||かた|そう で|||||たらした|て||ゆび|||みじかい

「 こちら 、 県警 の 早田 さん 。 |けんけい||はやた|

ちょっと 祐一 に 訊 きた か こと の ある って 」 |ゆういち||じん||||||

「 祐一 に です か ? ゆういち||| そう 訊 き 返す と 、 口 の 中 に ふわ っと 梅 の 香り が 広がった 。 |じん||かえす||くち||なか||||うめ||かおり||ひろがった

日ごろ 交番 で 茶 飲み 話 を する とき は 、 気 に した こと も ない のだ が 、 巡査 の 腰 に ある 拳銃 が 房枝 の 目 に 飛び込んで くる 。 ひごろ|こうばん||ちゃ|のみ|はなし|||||き||||||||じゅんさ||こし|||けんじゅう||ふさえ||め||とびこんで|

「 この前 の 日曜日 の 夜 、 祐一 は ど っか に 出かけ とった と ね ? この まえ||にちようび||よ|ゆういち|||||でかけ||| 上がり 框 に 座り込んだ 巡査 は 、 無理に からだ を 捻って 訊 いて きた 。 あがり|かまち||すわりこんだ|じゅんさ||むりに|||ねじって|じん||

横 に 立つ 刑事 が 慌てて その 肩 を 押さえ 、「 質問 は 私 が する けん 」 と 厳しい 顔 で 戒める 。 よこ||たつ|けいじ||あわてて||かた||おさえ|しつもん||わたくし|||||きびしい|かお||いましめる

房枝 は 上がり 框 に 座り込んだ 巡査 に 、 まるで 寄り添う ように 正座 した 。 ふさえ||あがり|かまち||すわりこんだ|じゅんさ|||よりそう||せいざ|

「 いや ぁ 、 なんか ね 、 福岡 の 三瀬 峠 で 殺さ れた 女の子 が 祐一 の 友達 らしかった い 」 ||||ふくおか||みつせ|とうげ||ころさ||おんなのこ||ゆういち||ともだち||

戒め られた に も かかわら ず 、 巡査 は 房枝 に 話し 続けた 。 いましめ||||||じゅんさ||ふさえ||はなし|つづけた

「 は ぁ ? 祐一 の 友達 が 殺さ れた って ? ゆういち||ともだち||ころさ|| 正座 した まま 、 房枝 は 後ろ へ 反り返った 。 せいざ|||ふさえ||うしろ||そりかえった

その 瞬間 、 膝 が 痛んで 、「 あた たた 」 と 声 を 上げる 。 |しゅんかん|ひざ||いたんで||||こえ||あげる

慌てた 巡査 が 房枝 の 腕 を 取り 、「 ほら 、 また 立て ん ごと なる よ 」 と 引き起こして くれる 。 あわてた|じゅんさ||ふさえ||うで||とり|||たて||||||ひきおこして|

「 祐一 の 友達 って いう たら 、 中学 の とき の やろ か ? ゆういち||ともだち||||ちゅうがく||||| と 房枝 は 訊 いた 。 |ふさえ||じん|

高校 が 工業 高校 だった ので 、 だ と したら 中学 の ころ だ と 思い 、 と すれば 、 この 辺 の 娘 さん が 殺さ れた こと に なる 。 こうこう||こうぎょう|こうこう||||||ちゅうがく|||||おもい||||ほとり||むすめ|||ころさ||||

「 いや 、 中学 じゃ なくて 、 最近 の 友達 やろ 」 |ちゅうがく|||さいきん||ともだち|

「 最近 の ? さいきん| 房枝 は 巡査 の 言葉 に 、 素っ頓狂 な 声 を 上げた 。 ふさえ||じゅんさ||ことば||すっとんきょう||こえ||あげた

我が 孫 ながら 、 祐一 に は 心配に なる ほど 女 の 影 が なかった 。 わが|まご||ゆういち|||しんぱいに|||おんな||かげ|| 女 の 影 どころ か 、 親しく して いる 男 の 友達 も 一 人 か 、 二 人 と 数 が 知れて いる 。 おんな||かげ|||したしく|||おとこ||ともだち||ひと|じん||ふた|じん||すう||しれて|

口 の 軽い 巡査 に うんざり した ように 、 背広 姿 の 刑事 が 、「 質問 は 私 が する って 言い よる やろう が 」 と 顔 を しかめた 。 くち||かるい|じゅんさ|||||せびろ|すがた||けいじ||しつもん||わたくし||||いい|||||かお||

「 ちょっと お 訊 き し ます けど 、 この 前 の 日曜日 です ね ……」 ||じん||||||ぜん||にちようび||

威圧 的な 声 で 刑事 に 訊 かれ 、 房枝 は 聞き 終わる の も 待た ず に 、「 日曜日 は 、 家 に おった と 思う と です けど ね 」 と 答えた 。 いあつ|てきな|こえ||けいじ||じん||ふさえ||きき|おわる|||また|||にちようび||いえ||||おもう||||||こたえた

「 は ぁ 、 やっぱり おった と ね 」 と 、 巡査 が ほっと した ように また 口 を 挟んで くる 。 |||||||じゅんさ||||||くち||はさんで|

「 いや 、 ここ に 来る 前 に 駐在 所 で 岡崎 の ばあちゃん と 会う た と さ 。 |||くる|ぜん||ちゅうざい|しょ||おかざき||||あう|||

祐一 が 出かける と したら 、 いつも 車 やろ ? ゆういち||でかける||||くるま| 岡崎 の ばあちゃん ち は 駐車 場 の 横 やけん 、 車 が 出て 行く 音 なり 、 帰って くる 音 なり 、 全部 聞こえる って 、 前 から よう 言い よろう が 。 おかざき|||||ちゅうしゃ|じょう||よこ||くるま||でて|いく|おと||かえって||おと||ぜんぶ|きこえる||ぜん|||いい|| ばっ てん 、 岡崎 の ばあちゃん に 訊 いたら 、 日曜日 、 祐一 の 車 は ずっと あった って 言う けんさ 」 ||おかざき||||じん||にちようび|ゆういち||くるま|||||いう|

捲し立てる 巡査 に 、 房枝 も 刑事 も 口 を 挟め なかった 。 まくしたてる|じゅんさ||ふさえ||けいじ||くち||はさめ|

厳しかった 刑事 の 目 に 、 少し 優しい 色 が 滲 む の を 房枝 は 見た 。 きびしかった|けいじ||め||すこし|やさしい|いろ||しん||||ふさえ||みた

「 あんた は 黙 っと けって 言う て も 、 きかん と や ねぇ 」 ||もく|||いう||||||

刑事 が お 喋り な 巡査 を 注意 する 。 けいじ|||しゃべり||じゅんさ||ちゅうい|

ただ 、 さっき まで と は 違い 、 その 声 に どこ か 親し み が 感じ られる 。 |||||ちがい||こえ||||したし|||かんじ|

「 私 も じいちゃん も 早う 寝て しまう けん 、 よう 分から ん と です けど 、 日曜日 、 祐一 は 部屋 に おった ような 気 が し ます けど ね 」 と 房枝 は 言った 。 わたくし||||はやう|ねて||||わから|||||にちようび|ゆういち||へや||||き|||||||ふさえ||いった

「 岡崎 の ばあちゃん が そう 言う て 、 一緒に 住 ん ど る ばあちゃん も そう 言う なら 間違い なか やろ 」 おかざき|||||いう||いっしょに|じゅう|||||||いう||まちがい||

巡査 が 房枝 で は なく 、 刑事 に 伝える ように 繰り返す 。 じゅんさ||ふさえ||||けいじ||つたえる||くりかえす

「 いや 、 実は です ね ……」 |じつは||

巡査 の 言葉 を 引き継ぐ ように 、 やっと 刑事 が 話し 始めた 。 じゅんさ||ことば||ひきつぐ|||けいじ||はなし|はじめた

房枝 は 手のひら に ある 梅干し の 種 が 気 に なって 仕方なかった 。 ふさえ||てのひら|||うめぼし||しゅ||き|||しかたなかった

「 福岡 の 三瀬 峠 で 見つかった 女性 の 携帯 の 履歴 に お宅 の お 孫 さん の 番号 が あった と です よ 」 ふくおか||みつせ|とうげ||みつかった|じょせい||けいたい||りれき||おたく|||まご|||ばんごう|||||

「 祐一 の ? ゆういち| 「 お 孫 さん の だけ じゃ なくて 、 その 女性 は 交友 関係 が 広くて です ね 」 |まご|||||||じょせい||こうゆう|かんけい||ひろくて||

「 その 女の子 は 、 この 辺 の 子 です か ? |おんなのこ|||ほとり||こ|| 「 いやいや 、 長崎 じゃ なくて 福岡 の 博多 の 人 でして ね 」 |ながさき|||ふくおか||はかた||じん||

「 博多 ? はかた 祐一 は 博多 に 友達 の おった と ばい ねぇ 。 ゆういち||はかた||ともだち||||| ぜんぜん 知ら ん やった 」 |しら||

丁寧に 説明 する と 、 いちいち 言葉 が 返って くる と 思った の か 、 そこ から 刑事 は 一気に 事情 を 説明 した 。 ていねいに|せつめい||||ことば||かえって|||おもった|||||けいじ||いっきに|じじょう||せつめい|

すでに 祐一 が その 晩 、 家 に いた こと に なって いた ので 、 どちら か と いう と 、 ふい の 訪問 を 謝罪 する ような 話し 方 だった 。 |ゆういち|||ばん|いえ|||||||||||||||ほうもん||しゃざい|||はなし|かた|

亡くなった 女性 は 石橋 佳乃 と いう 二十一 歳 の 女性 で 、 博多 で 保険 の 外交 員 を やって いる らしい 。 なくなった|じょせい||いしばし|よしの|||にじゅういち|さい||じょせい||はかた||ほけん||がいこう|いん||||

地元 の 友人 、 同僚 、 遊び 仲間 と かなり 顔 の 広い 女の子 で 、 事件 前 の 一 週間 だけ を 見て も 、 五十 人 近い 相手 と メール や 電話 の やりとり を して いる 。 じもと||ゆうじん|どうりょう|あそび|なかま|||かお||ひろい|おんなのこ||じけん|ぜん||ひと|しゅうかん|||みて||ごじゅう|じん|ちかい|あいて||めーる||でんわ||||| その 中 に 祐一 も 入って いる らしい 。 |なか||ゆういち||はいって||

「 最後に お 孫 さん が メール を 出した の は 事件 の 四 日 前 、 逆に その 女性 が 祐一 くん に 最後 の メール を 送った の が その 翌日 です ね 。 さいごに||まご|||めーる||だした|||じけん||よっ|ひ|ぜん|ぎゃくに||じょせい||ゆういち|||さいご||めーる||おくった||||よくじつ||

ただ 、 その あと に も 十 人 近く も 彼女 と 連絡 を 取り合って る 相手 が おる んです よ 」 |||||じゅう|じん|ちかく||かのじょ||れんらく||とりあって||あいて||||

房枝 は 刑事 の 話 を 訊 き ながら 、 殺さ れた と いう 若い 娘 の 姿 を 想像 した 。 ふさえ||けいじ||はなし||じん|||ころさ||||わかい|むすめ||すがた||そうぞう|

交友 関係 が 広い と 聞いた だけ で 、 祐一 と は 縁遠い ような 気 が して なら ない 。 こうゆう|かんけい||ひろい||きいた|||ゆういち|||えんどおい||き|||| 恐ろしい 事件 が 起こった の は 事実 な のだろう が 、 どうしても 祐一 と それ が 結びつか ない 。 おそろしい|じけん||おこった|||じじつ|||||ゆういち||||むすびつか|

刑事 の 説明 が 一 通り 終わった とき 、 房枝 は ぼんやり と 憲夫 の 言葉 を 思い出して いた 。 けいじ||せつめい||ひと|とおり|おわった||ふさえ||||のりお||ことば||おもいだして|

事件 の あった 翌日 、 祐一 は 二日酔い で 現場 へ 向かう 途中 、 とつぜん 吐いた と 言った 。 じけん|||よくじつ|ゆういち||ふつかよい||げんば||むかう|とちゅう||はいた||いった

房枝 の 中 で 何 か が 繋がった 。 ふさえ||なか||なん|||つながった あの 朝 、 祐一 は この 女性 が 殺さ れた こと を テレビ か 何 か で 、 すでに 知っていた のだ 。 |あさ|ゆういち|||じょせい||ころさ||||てれび||なん||||しっていた| 知人 を 失った 悲しみ が 、 吐き気 と して 現れた のだ 。 ちじん||うしなった|かなしみ||はきけ|||あらわれた|

これ が 、 二十 年 近く 祐一 を 育てて きた 房枝 の 直感 だった 。 ||にじゅう|とし|ちかく|ゆういち||そだてて||ふさえ||ちょっかん|

あまり 時間 が ない らしく 、 刑事 は 事情 を 説明 し 終える と 、「 ま ぁ 、 とにかく 、 おばあ ちゃん は 心配 せ ん でも よ かけ ん ね 」 と 優しく 声 を かけて きた 。 |じかん||||けいじ||じじょう||せつめい||おえる||||||||しんぱい|||||||||やさしく|こえ|||

心配 など して い なかった が 、 房枝 は 、「 そう です か 」 と 神妙に 頷いた 。 しんぱい||||||ふさえ||||||しんみょうに|うなずいた

「 祐一 くん が 仕事 から 戻って くる の は 何時ごろ やろ か ? ゆういち|||しごと||もどって||||いつごろ|| 刑事 に 訊 かれ 、「 いつも は 六 時 半 ぐらい です けど 」 と 房枝 は 答えた 。 けいじ||じん||||むっ|じ|はん|||||ふさえ||こたえた

「 それ じゃ 、 もし また 何 か あったら 連絡 し ます けん 。 ||||なん|||れんらく||| 今日 の ところ は この 辺 で 」 きょう|||||ほとり|

刑事 に そう 言わ れ 、 房枝 は とりあえず 立ち上がる と 、「 ご 苦労 さん でした 」 と 頭 を 下げた 。 けいじ|||いわ||ふさえ|||たちあがる|||くろう||||あたま||さげた

口 で は また 連絡 する と 言う が 、 刑事 に その 気 は な さ そうだった 。 くち||||れんらく|||いう||けいじ|||き||||そう だった

刑事 を 見送り 、 また 上がり 框 に 座り込んだ 近所 の 巡査 が 、「 いや ぁ 、 びっくり した やろ ? けいじ||みおくり||あがり|かまち||すわりこんだ|きんじょ||じゅんさ|||||| 」 と おどけた 顔 を して 見せる 。 ||かお|||みせる

「 俺 も 、 最初に 祐一 が 参考人 って 聞いた とき に は 腰 抜かす か と 思う たよ 。 おれ||さいしょに|ゆういち||さんこうにん||きいた||||こし|ぬかす|||おもう|

ただ 、 ちょうど その 電話 を 受けた とき に 、 岡崎 の ばあさん が 駐在 所 に おった けん 、 車 の 事 を 訊 いて みたら 、『 日曜日 、 祐一 は 車 出し とら ん 』 って 言う やろ 。 |||でんわ||うけた|||おかざき||||ちゅうざい|しょ||||くるま||こと||じん|||にちようび|ゆういち||くるま|だし||||いう| それ で すぐ 安心 した っさ 。 |||あんしん|| いや 、 実は ね 、 ここ だけ の 話 、 もう 犯人 は 分 か っと る らしい もん ね 。 |じつは|||||はなし||はんにん||ぶん|||||| ただ 、 ま ぁ 、 一応 、 確認 くらい は せ ん と いかんの やろ 」 |||いちおう|かくにん|||||||

「 あら 、 もう 犯人 は 分 か っと る と ? ||はんにん||ぶん|||| 房枝 は 大げさに ほっと して 見せ 、「 祐一 が 博多 の 女の子 と 仲良し なんて 、 ぜんぜん ピンと こ ん もん ねぇ 」 と 付け加えた 。 ふさえ||おおげさに|||みせ|ゆういち||はかた||おんなのこ||なかよし|||ぴんと||||||つけくわえた

「 ま ぁ 、 祐一 も 年頃 の 男 やけん 、 仕方ない さ 。 ||ゆういち||としごろ||おとこ||しかたない| その 女の子 は どうも 出会い 系 サイト で いろんな 人 と 知り合う とった よう や もん ね 」 |おんなのこ|||であい|けい|さいと|||じん||しりあう|||||

「 出会い 系 っちゃ 何 ね ? であい|けい||なん| 「 ま ぁ 、 簡単に 言う たら 、 文通 相手 の ような もん さ 」 ||かんたんに|いう||ぶんつう|あいて||||

「 へ ぇ 、 祐一 が 博多 の 娘 さん と 文通 し とった と は 知ら ん かった 」 ||ゆういち||はかた||むすめ|||ぶんつう|||||しら||

房枝 は 手のひら に 梅干し の 種 が ある こと を 思い出し 、 やっと 外 へ 投げ捨てた 。 ふさえ||てのひら||うめぼし||しゅ|||||おもいだし||がい||なげすてた