×

We use cookies to help make LingQ better. By visiting the site, you agree to our cookie policy.


image

悪人 (Villain) (1st Book), 第二章 彼は誰に会いたかったか?【3】

第 二 章 彼 は 誰 に 会い たかった か?【3】

なんだか んだ と ぼやき ながら も 床 を 出て 服 を 着替えた 勝治 を 、 祐一 が 車 で 病院 へ 連れて いった 。

たかが 五十 メートル 先 の 駐車 場 ぐらい まで 、 歩け ない はず も ない のだ が 、 勝治 は 、「 玄関 先 まで 、 車 持ってこい 」 と 命じて 、 祐一 は 面倒臭 そうな 顔 を し ながら も 素直に 車 を とり に いった 。

祐一 が 後部 座席 に バッグ を 投げ入れた あと 、 シート を 戻した 助手 席 に 、 勝治 は 不機嫌 そうに 乗り込んだ 。

運転 席 へ 回り込む 祐一 に 、「 婦長 さん が おら ん やったら 、 今村 さん って いう 看護 婦 さん が 担当 やけん 」 と 房枝 は 声 を かけた 。

古い 民家 の 建ち 並ぶ 暗い 路地 に 、 祐一 の 白い 車 は 不似合いだった 。

ステレオ だ か ラジオ だ か 分から ない が 、 車 内 に ともる 細かい 光 が 、 まるで 季節 外れ の 蛍 の 群れ の ように 見える 。

房枝 が 助手 席 の ドア を 閉める と 、 車 は すぐに 発車 した 。

遠く に 聞こえて いた 波 音 が 、 一瞬 、 車 の エンジン 音 に 掻き消さ れる 。

路地 を 抜けて いく 車 を 見送り 、 房枝 は すぐに 台所 へ 戻って 後片付け を した 。

片付け が 済む と 、 あちこち の 電気 を 消して 回り 、 草履 を つっかけて 公民 館 へ 出かけた 。

風 は 冷たかった が 、 海 は 凪 で いた 。

港 内 に 繋が れた 漁船 を 月 が 照らし 、 頭上 で ときおり 電線 が 風 に なぶら れて 音 を 立てた 。

ぽつ ん ぽつんと 街灯 の 立つ 岸壁 に 、 やはり 公民 館 へ 向かって いる 岡崎 の ばあさん の 姿 が 見え 、 房枝 は 足 を 速めた 。

月 明かり の 小さな 漁港 の 岸壁 を 、 のんびり と 歩いて いく 老婆 の 後ろ姿 は 、 どこ か 不気味に も 、 滑稽に も 見える 。

「 ばあちゃん も 、 今 から ね 」

横 に 並んで 声 を かける と 、 ショッピングカート を 杖 代わり に 歩いて いた ばあさん が 足 を 止め 、「 ああ 、 房枝 さん ね 」 と 顔 を 上げる 。

「 この前 、 もろう た 漢方 薬 、 飲んで みた ね ? 」 と 房枝 は 訊 いた 。

ゆっくり と 歩き 出した 岡崎 の ばあさん が 、「 やっぱり 、 ちょっと 調子 よ かもん ねぇ 」 と 答える 。

「 そう やろ ? 私 も 半信半疑 で 飲んで みた と やけど 、 どうも 飲んだ 翌朝 は からだ の 調子 が いい と さ ねえ 」

一 カ月 ほど 前 から 町 の 小さな 公民 館 で 、 製薬 会社 の 主催 する 健康 セミナー が 開か れて いた 。

本社 は 東京 に ある と いう 。

興味 が あった わけで も ない が 、 婦人 会長 たち に 誘わ れて 、 房枝 も 毎回 参加 して いた 。

岸壁 を 歩いて いる と 、 海 を 渡って きた 寒風 に からだ の 節々 が 痛く なる 。

漁港 独特 の 潮 の に おい が 寒風 と 混じり合い 、 感覚 の なくなり かけた 鼻 を くすぐる 。

房枝 は ショッピングカート を 押す 岡崎 の ばあさん に 、 少し でも 寒風 が 当たら ない ように と 、 わざと 海 側 を 歩いた 。

「 そうそう 、 今度 、 また 祐一 に 米 を お 願い で きんか ねぇ …… あん たん と この 買い物 の 、 ついで でよ か とば って ん 」

公民 館 が 見えた 辺り で 、 岡崎 の ばあさん が 言った 。

「 あら 、 早う 言えば いい と に 、 ちょうど この 前 、 頼んだ ばっかり やった と に 」

房枝 は 岡崎 の ばあさん の 背 を 押す ように 公民 館 へ の 路地 に 入った 。

「 そこ の 大丸 ストア に 配達 して もらって も よか と けど 、 十 キロ で 四千 円 以上 も する くせ に 、 配達 料 が 三百 円 かかる と さ 」

「 大丸 ストア なんか で 買う もん が ある もん ね 。 十 キロ で 四千 円 て ? 向こう の 安売り ストア まで 車 で 行って もらえば 、 それ こそ 半額 で 買える と に 」

房枝 は 石段 に 足 を かけた 岡崎 の ばあさん の 手 を とった 。

ばあさん が 房枝 の 手首 を ぐっと 握って 石段 を 上がる 。

「 そりゃ 、 知 っと る さ 。 ばっ てん うち に は 房枝 さんち の ように 、 車 で 米 を 買い に 行って くれる 者 が おら ん もん 」

「 水臭 かこ と 言う ねぇ 。 それ くらい いつでも 頼んで くれれば よか と に 。 どうせ うち でも 祐一 に 頼んで 買い出し して もらう と や もん 。 その ついで に 、 なんて こと ない と やけん 」

短い 石段 の 突き当たり に 、 まるで 神社 の ような 門構え の 公民 館 が あった 。

そこ に 屋内 の 蛍光 灯 に 照らさ れて 、 こちら を 見下ろして いる 影 が ある 。

「 まだ 米 は 残 っと る と やろ ? と 房枝 は 訊 いた 。

最後 の 石段 を 上がった 岡崎 の ばあさん が 、「 まだ 四 、 五 日 は 大丈夫 」 と 心細 げ に 呟く 。

「 明日 に でも 祐一 に 行か せる けん 」

そう 言った 房枝 の 言葉 に 重なる ように 、 公民 館 の ほう から 、「 岡崎 の おばあ ちゃん たち やろ ? よう 来た ねぇ 」

と 声 が した 。

こちら を 眺めて いた 影 は 、 健康 セミナー で 講師 を 務めて いる 堤 下 と いう 医学 博士 で 、 声 と 共に 小 太り な 男 が 駆け 下りて くる 。

「 この前 の 漢方 薬 、 試して みた ね ? 堤 下 の 言葉 に 、 岡崎 の ばあさん が 無理に 背中 を 伸ばして 、 嬉し そうな 笑顔 を 向ける 。

堤 下 に 背中 を 押さ れて 公民 館 へ 入る と 、 すでに 近所 の 人 たち が 集まって おり 、 それぞれ が 好き勝手に 座布団 を 並べて 談笑 して いた 。

房枝 は 岡崎 の ばあさん の 分 と 二 枚 の 座布団 を 運ぶ と 、 婦人 会 の 会長 を やって いる 早苗 の 隣 に 腰 を 下ろし 、 早速 、 先日 もらった 漢方 薬 の おかげ で 寝る とき に 足 が 冷え ない など と 感想 を 言い合って いる 早苗 と 岡崎 の ばあさん の 話 に 耳 を 傾けた 。

すぐに 堤 下 が 紙 コップ に 熱い お茶 を 入れて もってきて くれる 。

房枝 は 、「 あら 、 すいません ねぇ 、 男 の 人 を 使う て から 」 と 恐縮 し ながら も 、 盆 に 載せ られた 紙 コップ を 受け取った 。

「 ばあちゃん 、 嘘 じゃ なかった やろ ?

あれ 飲んだら 、 風呂 から 出て も 、 ぽかぽか した まん ま やった ろ ? 堤 下 が 岡崎 の ばあさん の 肩 を 撫で ながら 、 横 に 座り込む 。

「 ほんとに ぽかぽか し とった よ 。 貰う た とき は 騙さ れ とる ような 気 が し とった けど 」

岡崎 の ばあさん が 大きな 声 で そう 言う と 、 広間 の あちこち から 、「 いや 、 ほんと ねぇ 」 など と 笑い声 が 上がった 。

「 わざわざ 、 ばあちゃん たち を 騙す ため に 、 この 短い 足 で えっ ちら お っち ら 、 こんな ところ まで 来る もん ね 」

堤 下 が 座った まま 、 その 短い 足 を 伸ばして バタバタ と 動かし 、 その 仕草 に ドッと 笑い が 起こる 。

一 カ月 ほど 前 から 始まった 公民 館 で の 健康 セミナー で 、 毎回 、 六十 歳 を 過ぎて から の 健康 管理 の 話 を して くれる の が 、 この 中年 の 医学 博士 、 堤 下 だった 。

最初 は 婦人 会 会長 に 誘わ れて 、 嫌々 顔 を 出した 房枝 だった のだ が 、 こう やって 自分 の 短所 を ネタ に して 、 冗談 混じり に 説明 を する 堤 下 の 話 が 面白く 、 今夜 など は 昼 過ぎ から 楽しみに して いた ほど だった 。

「 さ ぁ 、 そろそろ 始め ましょう か ね 」

立ち上がった 堤 下 が 、 広間 に ちらばって いる 町 内 の 老人 たち に 声 を かける 。

中 に は 晩酌 で 焼酎 でも 飲んで きた の か 、 顔 を 赤らめて いる じいさん も いる 。

「 今日 は 血 の 廻り の 話 を し ます から ね 」

よく 通る 堤 下 の 声 が 広間 に 響く 。

小さな 壇上 に 上がる 堤 下 を 追う みんな の 顔 が 、 まるで 高座 に 上がる 落語 家 でも 待つ か の ように 、 もう ほころび 始めて いる 。

壇上 の 横 に は 、 最近 で は ペーロン 大会 で しか 使わ れ なく なった 大漁 旗 が かけて ある 。

夜間 の 病院 に は 独特 の 空気 が 流れて いる 。

重く 、 寂しい だけ で は ない 。 もちろん 、 陽気で 、 楽しい わけで も ない 。

その 夜 、 金子 美保 は 待合室 の ベンチ に 腰 を 下ろす と 、 病室 から 持ってきた 雑誌 を 広げた 。

まだ 八 時 前 だ と いう のに 外来 受付 の 明かり が 消さ れて しまった 待 合 ホール は 、 薄暗い 蛍光 灯 の 中 、 古びた ベンチ が 並んで いる 。

昼間 、 ここ で 百 人 を 超す 人々 が 順番 待ち を して いた と は 思え ない ほど 狭い 。

人々 の 姿 が 消え 、 夜間 の 待 合 ホール に 残さ れて いる の は 、 古びた ベンチ と 、 カラフルな ペンキ で 床 に 示さ れた 各 病棟 へ の 矢印 だけ だ 。

ピンク 色 の 矢印 は 産婦人科 へ 。

黄色い 矢印 は 小児 科 へ 。 そら 色 の 矢印 は 脳 外科 へ 。

薄暗い 蛍光 灯 の 下 、 カラフルな 矢印 だけ が 華やいで 見える 。

カラフルな 矢印 だけ が 場違いに 見える 。

ときどき 入院 患者 たち が ホール を 足早に 横切って 、 たばこ を 吸い に 外 へ 出て いく 。

九 時 に なれば 、 ここ 正面 玄関 は 施錠 さ れ 、 喫煙 所 へ 出 られ なく なる から だ 。 点滴 の ポール を 押し ながら 出て いく 者 、 尿 パック を 片手 に 出て いく 者 、 松葉杖 で 、 車 椅子 で 、 それぞれ が 今日 最後 の 一服 を 求めて 外 へ 出て いく 。 同じ 病室 な の か 、 初老 の 男 と 青年 が 野球 の 話 を し ながら 歩いて いく 。 車 椅子 の 女性 が 携帯 で 夫 と 話 を し ながら 出て いく 。

それぞれ が それぞれ の 病気 や 怪我 を 連れて 、 寒風 の 吹く 屋外 の 喫煙 所 へ 向かう 。

待 合 ホール の 奥 へ 目 を 転じる と 、 昼間 は つけ っぱなし に さ れて いる 大型 テレビ の 前 に ベビーカー を 置いて 、 今夜 も また 、 髪 を 赤く 染めた 老婆 が ぽつんと 座って いる 。

何 を する わけで も ない のだ が 、 ときどき 思い出した ように 、 ベビーカー を 揺すったり 、 中 の 男児 に 、「 なん ね ? どうした と ね ? 」 と やさしく 話しかける 。

ベビーカー に は 小児 麻痺 の 男の子 が 乗って いる 。

ベビーカー に 乗せる に は 、 少し 大き すぎる 男の子 で 、 歪んだ 手足 が フリル の ついた ベビーカー から 突き出して いる 。

老婆 は 毎晩 、 この 時間 に なる と ここ へ くる 。

ここ へ 来て 、 返事 を し ない 男の子 に 話しかけ 、 痛 が って 捩る から だ を 摩って あげる 。

病室 に は 若い 母親 ばかり な のだろう と 美保 は 思う 。

どんな 事情 な の か 知ら ない が 、 若い 母親 に 囲ま れた 病室 で は 居心地 が 悪く 、 髪 を 赤く 染めた 老婆 は 、 この 男の子 を 連れて 、 毎晩 ここ に やってくる のだろう と 。

喫煙 所 へ 出て いく 入院 患者 たち や 、 ベビーカー の 男の子 を あやす 老婆 の 声 を 聞き ながら 、 美保 は 雑誌 の ページ を 捲った 。

病棟 の レクリエーション 室 に あった 二 カ月 も 前 の 女性 誌 だった が 、 歌舞伎 役者 と 女優 の 結婚 を 報じる グラビアページ から 、 一 ページ ずつ 丁寧に 読んで いった 。

担当 の 看護 師 が 慌ただしく エレベーター から 降りて きた の は 、 三 分 の 一 ほど ページ を 捲った ころ で 、「 あら 、 金子 さん 」 と 声 を かけ られ 、 美保 は 小さく 会釈 した 。

近寄って きた 看護 師 が 雑誌 を 覗き込み 、「 病室 じゃ 、 雑誌 も ゆっくり と 読め ん もん ねぇ 」 と 顔 を 歪める 。

「 いや 、 そんな こと ない と よ 。 ただ 、 一 日 中 、 病室 に おったら 、 やっぱり 気 が 滅入って きて ……」

「 今朝 、 諸井 先生 から 話 あった ろ ? 「 はい 。

明日 の 検査 結果 が よければ 、 木曜日 に は 退院 できる って 」

「 よかった ねぇ 。 入院 して きた とき に 比べれば 、 別人 や もん ねぇ 」

三 日 ほど 高熱 が 続いた の は 、 二 週間 ほど 前 の こと だった 。

熱 は あった が 、 やっと オープン さ せた 店 を 休む わけに も いか ず 、 無理 を 承知 で 働き 続けた 。 とつぜん めまい が して 倒れた とき 、 運 良く 常連 客 が 一 人 いて 、 すぐに 救急 車 を 呼んで くれた 。

検査 の 結果 、 過労 と 診断 さ れた 。

肺炎 に なり かけて いた と も 言わ れた 。 小さな 小 料理 屋 と は いえ 、 無理 が たたった らしかった 。

やっと 開店 さ せて 、 たった の 二 カ月 で 休業 。

我ながら 、 ついて い ない と 美保 は 思う 。

立ち去った 看護 師 が 、 今度 は 待 合 ホール の 隅 で 、 例の 老婆 と 話 を して いた 。

「 マモル くん は いい ねぇ 、 いつも おばあ ちゃん と 一緒で 」

ベビーカー の 男の子 に 看護 師 が やさしく 語りかける 声 が 、 静かな 夜 の 待 合 ホール に 響く 。

まるで 彼女 の 言葉 に 答える ように 、 すぐ そこ に ある 自動 販売 機 の モーター が ウーン と 唸る 。

病室 に 戻ろう と 、 美保 は 雑誌 を 閉じて ベンチ を 立った 。

自動 ドア が 開き 、 寒風 が 吹き込んで きた の は その とき で 、 たばこ を 吸い 終えた 人 が 帰って きた のだろう と 、 何気なく 目 を 向けた 。

そろりそろり と 歩く 老人 の からだ を 支えて 、 背 が 高く 、 髪 を 金色 に 染めた 青年 が 入って くる 。

着 古 した ピンク 色 の トレーナー が 、 妙に その 金髪 に 似合って いる 。

金髪 の 青年 は 、 ほとんど 足元 に 目 を 向けて いた 。

老人 の 歩行 を 少し でも 楽に する ため な の か 、 腋 の 下 に 差し込ま れた 青年 の 腕 に 、 かなり の 力 が 入って いる の が 見てとれる 。

美保 は なんとなく 二 人 を 眺め ながら も 、 先 に 歩き 出して エレベーター の 前 に 立った 。

上 階 行き の ボタン を 押す と 、 すぐに 扉 が 開く 。

入口 から ゆっくり と 歩いて くる 二 人 を 待つ つもりだった 。

中 に 入って 開 ボタン を 押して いる と 、 大きな 柱 の 陰 から 二 人 が 姿 を 現した 。

その 瞬間 だった 。

美保 は 慌てて ボタン から 手 を 離し 、 突き指 して も かまわ ない ような 力 で 横 の 閉 ボタン を 押した 。

ドア は す っと 音 も なく 閉まった 。

閉まる 直前 、 視線 を 上げ かけた 金髪 の 青年 の 顔 が 見えた 。

間違い なかった 。

老人 の からだ を 支えて いた 青年 は 、 清水 祐一 に 違いなかった 。

美保 は 上昇 し 始めた エレベーター の 中 で 、 思わず あとずさり 、 壁 に 背中 を ぶつけた 。

もう 二 年 も 前 の 話 に なる が 、 当時 美保 が 勤めて いた ファッションヘルス に 、 祐一 は 毎晩 の ように やってきて 美保 を 指名 して いた のだ 。

長崎 市 内 最大 の 繁華街 に ある 、 まだ オープン した ばかりの 店 だった 。

一 階 に は ゲーム センター が あり 、 通り の 向こう に 川 が 流れて いた 。 川 沿い の 通り に は 看護 師 や 女子 高 生 の 扮装 を した キャバクラ の 女の子 たち が 立ち 、 客引き して いる ような 界隈 だった 。

決して 奇妙な 行為 を 強要 する ような 客 で は なかった が 、 最終 的に は 彼 から 逃れる ため に 美保 は その 店 を 辞めた ような もの だった 。

一言 で 言えば 、 恐ろしく なった と しか 言い よう が ない 。 何 が 恐ろしかった か と いえば 、 そんな 店 で の 出会い な のに 、 祐一 が あまりに も 普通 すぎて 、 それ が 徐々に 恐ろしく なって きた のだ 。

五 階 に 到着 した エレベーター を 降りる と 、 美保 は 辺り を 窺 う ように して 病室 へ 戻った 。

すでに 見舞 客 の 姿 も なく 、 左右 に 三 つ ずつ 並べ られた ベッド に は 、 美保 の 場所 だけ を 残して カーテン が 引いて ある 。

美保 は 自分 の ベッド へ 向かう と 、 すぐに カーテン を 閉めた 。

隣 の ベッド から すでに 眠って いる らしい 吉井 の おばあ ちゃん の 寝息 が 聞こえる 。

美保 は カーテン で 囲ま れた ベッド に 腰掛け 、「 別に 怖がる こと は ない 。

そう 、 別に 怖がる こと は ない 」 と 自分 に 言い聞かせた 。

清水 祐一 が 初めて 店 に 来た の は 、 たしか 日曜日 だった 。

週 末 は 朝 の 九 時 から 営業 して いる 店 で 、 この 時間 帯 であれば 、 いくら でも 言い訳 の 利く 妻 帯 者 の 客 が 多かった 。

その 朝 、 店 に 待機 して いた の は 、 美保 と もう 一 人 、 大阪 出身 で すでに 三十 代 半ば に なる 女性 だけ だった と 思う 。

いつも の ように 待合室 で 客 に 相手 を 選ば せた あと 、 マネージャー が 美保 を 呼び に きた 。

まだ 出勤 した ばかりだった 美保 は 、 慌てて オレンジ色 の ネグリジェ に 着替えて 個室 へ 向かった 。

五 室 ほど 並んだ 個室 の 一 番 奥 の ドア を 開ける と 、 二 畳 ほど の 室 内 に 背 の 高い 男 が 突っ立って いる 。

美保 は 笑み を 浮かべて 自己 紹介 し 、 居心地 悪 そうな 若者 の 背中 を 押して 、 小さな ベッド に 座ら せた 。

この 時間 に 来る 客 は 、 たいがい 言い訳 から 始める の が 常だった 。

一 番 多かった の は 、「 昨日 、 徹夜 で 仕事 して いて 、 一睡 も せ ず に ここ に きた 」 と いう もの で 、 美保 に して みれば どうでも いい こと な のだ が 、 男 と して は 早起き を して まで こんな 店 に 来て いる 自分 が 、 どこ か で 情けなかった のだ と 思う 。

ベッド に 座る と 、 祐一 は 狭い 室 内 を きょろきょろ と 見回して いた 。

こういう 店 に 来る の は 初めて です と 、 告白 して いる ような もの だった 。

店 の マニュアル 通り 、 シャワー 室 へ 誘う と 、「 風呂 なら もう 入って きた けど ……」 と 心細 そうな 顔 を する 。

汚れた から だ を 触ら せよう と する 客 に も 見え ず 、 実際 、 祐一 の 髪 から は シャンプー の 匂い も した 。

「 でも 、 そう 決 まっ とる と よ 。 ごめん ね 」

美保 は 祐一 の 手 を 引いて 狭い 廊下 を シャワー 室 へ 向かった 。

シャワー 室 と いって も 小さな ユニットバス の こと で 、 二 人 入れば 自然 と から だ も 触れる 。

祐一 に 服 を 脱ぐ ように 言い 、 美保 は シャワー の 温度 を 指先 で 整えた 。

振り返る と 、 パンツ 一 枚 で 股 間 を 押さえた 祐一 が 、 どこ を 見て いい の か 分から ない ように 、 狭い 室 内 を きょろきょろ と 見て いる 。

「 パンツ 穿 いた まま 、 シャワー 浴びる と ? 美保 が 微笑 みかける と 、 祐一 は 一瞬 だけ 躊躇 った あと 、 さっと パンツ を 下ろした 。

パンツ の ゴム に 引っかかった ペニス が 撓 り 、 下 腹 に 当たって 音 を 立てた 。

そのころ 、 美保 に は 年配 の 客 が 続いて いた 。

相手 を 選べる ような 職業 で は ない が 、 正直 、 勃 せる だけ で 汗だく に なる ような 客 が 続く と 、 吹 っ 切って いる つもり でも 、 自分 の 人生 に 嫌気 が さして くる 。

美保 は 祐一 の 手 を 引いて 、 ぬるい シャワー の 下 に 立た せた 。

お 湯 が 肩 から 胸 へ 流れ 落ち 、 痛 そうな ほど 勃起 した 祐一 の ペニス を 濡らす 。

「 今日 、 仕事 休み ? スポンジ に 泡 を 立て 、 祐一 の 背中 を 洗って あげ ながら 、 美保 は 尋ねた 。

からだ を こわばら せて いる 祐一 を 、 少し でも ほぐして やろう と 思った 。

「 もし かして 、 まだ 学生 さん ? 背中 の 泡 を 流し ながら 尋ねる と 、「 いや 、 もう 働 い とる よ 」 と 祐一 が やっと 返事 を する 。

「 運動 し よった と やろ ? 筋肉 隆々 たい 」

特に 興味 は なかった が 、 美保 は 場 繋ぎ に 祐一 の からだ を 褒めた 。

祐一 は ほとんど 口 を 開か ず に 、 じっと 自分 の からだ を 撫でる 美保 の 手 だけ を 見つめて いた 。

やけに 真剣な まなざし で 。

美保 が 泡立った 性器 に 触れよう と する と 、 さっと 腰 を 引いて 逃げる 。

少し でも 触れる と 、 我慢 でき ず に 射精 して しまい そうな ほど 、 祐一 の ペニス は 脈打って いた 。

「 恥ずかし がら んで よ か と よ 。 ここ は そういう こと を する 店 やけん 」

半ば 呆れて 美保 が 微笑む と 、 祐一 は 美保 の 手 から シャワー ヘッド を 奪い 、 まだ 残って いる から だ の 泡 を 自分 で 流した 。

乾いた バス タオル で から だ を 拭いて やり 、 先 に 祐一 を 部屋 へ 帰ら せた 。

ユニットバス を 使った あと は 、 必ず タオル で 水滴 を 拭き取る 規則 に なって いる 。

掃除 を 済ませ 、 個室 へ 戻る と 、 腰 に バス タオル を 巻いた 祐一 が 、 自分 の 服 を 抱えた まま 突っ立って いた 。

「 この 町 の 人 ? 」 と 美保 は 訊 いた 。

それ まで 客 に プライベートな こと を 尋ねた こと は なかった が 、 自然 と 口 が 動いた 。

祐一 は 一瞬 躊躇 って 、 美保 が 聞いた こと の ない 郊外 の 町 の 名前 を 挙げた 。

「 私 、 半年 前 に この 町 に 来た ばかり やけん 、 よう 知ら ん と よ 」

美保 の 言葉 に 、 祐一 の 表情 が 少し だけ 曇った 。

美保 は 祐一 の 背中 を 押して ベッド に 寝か せた 。

バス タオル を 取る と 、 遠吠え でも し そうな ペニス が そこ に あった 。

正直な ところ 、 一 度 きり の 客 だ と 思って いた 。

シャワー 室 から 個室 へ 移って 、 たった の 三 分 で 果てて しまった し 、 残り の 時間 で もう 一 回 やって あげる こと も できる と 、 美保 が 勧めた に も かかわら ず 、 祐一 は さっさと 服 を 着て 、 部屋 を 出て 行って しまった のだ 。

いくら こういう 店 へ 来る の が 初めて と は いえ 、 決して 楽しんで いる ように は 見え なかった し 、 自分 が 放った もの を ティッシュ で 拭って もらう の も 待ちきれ ない ようで 、 最後 まで 居心地 が 悪 そうだった 。

な のに 、 祐一 は その 二 日 後 に また 店 に 現れ 、 ファイル も 見 ず に 美保 を 指名 した のだ 。

マネージャー に 呼ば れて 個室 に 入る と 、 今度 は 少し 場慣れ した の か 、 祐一 は ベッド に 腰かけて 待って いた 。

初回 と は 違い 、 平日 の 夜 で 店 は かなり 混 んで いた 。

「 あら 、 また 来て くれた と 」

美保 が 愛想 笑い を 浮かべる と 、 祐一 は 小さく 頷き 、 なにやら 手 に 持って いる 紙袋 を 差し出して くる 。

「 何 、 これ ? 美保 は 何 か ヘン な 道具 でも 入って いる ので は ない か と 、 多少 注意 し ながら 受け取った 。

受け取った 瞬間 、 思わず 悲鳴 を 上げ そうに なった 。

予想 に 反して 、 紙袋 が 生温 かかった のだ 。

思わず 投げ出そう と した 瞬間 、「 ぶた まん 。

ここ の 、 旨 かけ ん 」 と 祐一 が ぼ そっと 呟く 。

「 ぶた まん ? 美保 は 投げ出そう と した 紙袋 を 、 辛うじて 持ちこたえた 。

「 私 に ? 美保 が 尋ねる と 、 祐一 が 小さく 頷く 。

それ まで に も プレゼント を 持ってきて くれた 客 が い なかった と は 言わ ない が 、 食べ物 を それ も クッキー や チョコレート で は なく 、 まだ 熱い もの を もらった の は 初めて だった 。

きょとんと した 美保 に 、「 あんまり 好か ん ? ぶた まん 」 と 祐一 が 尋ねる 。

「 いや 、 好き よ 」 と 美保 は 慌てて 答えた 。

祐一 は 美保 の 手 から 紙袋 を 取る と 、 自分 の 膝 の 上 で 開けた 。

一瞬 、 たれ を 入れる 小 皿 を 探す ような 仕草 を 見せた が 、 二 畳 ほど の ファッションヘルス の 個室 に 、 そんな もの が ある はず が ない 。

紙袋 が 破ら れた とたん 、 窓 も ない 個室 に 、 ぶた まん の 匂い が こもった 。

薄い 壁 の 向こう から 、 男 の 下品な 笑い声 が 聞こえた 。

祐一 は それ から も 三 日 に あげ ず 店 へ 通って きた 。

シフト で 美保 が 休んで いる と 、 別の 子 を 指名 する わけで も なく 、 肩 を 落として 帰って いく のだ と マネージャー は 言って いた 。

正直 、 自分 の どこ が 良くて 、 祐一 が 通って くる の か 、 美保 に は 分から なかった 。

初めて 来た とき も 、 通り一遍の サービス を した だけ で 、 特別 、 祐一 を 喜ば して あげた わけで も ない 。 いや 、 もっと 言えば 、 シャワー を 浴びた あと 、 もの の 三 分 で 果てて しまった 祐一 は 、 逃げる ように 部屋 を 出て 行った のだ 。

それ が 二 日 後 、 ケロッ と して 来店 し 、 おみやげ に 「 ぶた まん 」 まで 持参 して くる 。

狭い ファッションヘルス の 個室 の ベッド で 、 二 人 は まだ 熱い ぶた まん を 食べた 。

会話 が 弾んだ わけで も ない 。

美保 が 何 か 質問 して も 、 祐一 は ぼ そっと 一言 答える だけ で 、 祐一 の ほう から 何 か 尋ねて くる こと も ない 。

「 仕事 帰り ? 「 そう 」

「 仕事場 は この 近所 ? 「 仕事場 は いろいろ 。 工事 現場 やけん 」

祐一 は 必ず いったん 家 へ 帰って 風呂 に 入り 、 きちんと 着替えて から 店 に 来た 。

「 ここ 、 シャワー あるけ ん 、 そのまま 来て も よか と に 」

美保 の 言葉 に 、 祐一 は 何も 答え ない 。

その 日 、 ぶた まん を 食べて から シャワー 室 へ 連れて いった 。

初めて の とき より は おどおど して い なかった が 、 やはり 泡 の ついた 手 で 性器 に 触れよう と する と 、 さっと 腰 を 引っ込めた 。


第 二 章 彼 は 誰 に 会い たかった か?【3】 だい|ふた|しょう|かれ||だれ||あい|| Kapitel 2 Wen wollte er treffen? [3 Chapter 2 Who Did He Want to See? [3 Capítulo 2 ¿A quién quería conocer? [3 Chapitre 2 Qui voulait-il rencontrer ? [3 제2장 그는 누구를 만나고 싶었나? [3]【3】그는 누구를 만나고 싶었나? 第 2 章 他想见谁?[3

なんだか んだ と ぼやき ながら も 床 を 出て 服 を 着替えた 勝治 を 、 祐一 が 車 で 病院 へ 連れて いった 。 ||||||とこ||でて|ふく||きがえた|かつじ||ゆういち||くるま||びょういん||つれて| Keiichi took him to the hospital by car, and he went out of the floor and changed his clothes.

たかが 五十 メートル 先 の 駐車 場 ぐらい まで 、 歩け ない はず も ない のだ が 、 勝治 は 、「 玄関 先 まで 、 車 持ってこい 」 と 命じて 、 祐一 は 面倒臭 そうな 顔 を し ながら も 素直に 車 を とり に いった 。 |ごじゅう|めーとる|さき||ちゅうしゃ|じょう|||あるけ|||||||かつじ||げんかん|さき||くるま|もってこい||めいじて|ゆういち||めんどうくさ|そう な|かお|||||すなおに|くるま|||| It is not impossible to walk to the parking lot, which is only fifty meters away, but Katsuji ordered Yuichi to bring the car to the front door.

祐一 が 後部 座席 に バッグ を 投げ入れた あと 、 シート を 戻した 助手 席 に 、 勝治 は 不機嫌 そうに 乗り込んだ 。 ゆういち||こうぶ|ざせき||ばっぐ||なげいれた||しーと||もどした|じょしゅ|せき||かつじ||ふきげん|そう に|のりこんだ

運転 席 へ 回り込む 祐一 に 、「 婦長 さん が おら ん やったら 、 今村 さん って いう 看護 婦 さん が 担当 やけん 」 と 房枝 は 声 を かけた 。 うんてん|せき||まわりこむ|ゆういち||ふちょう||||||いまむら||||かんご|ふ|||たんとう|||ふさえ||こえ|| Fusae said to Yuichi, who was walking to the driver's seat, "If there is no head nurse, then a nurse named Ms. Imamura will be in charge.

古い 民家 の 建ち 並ぶ 暗い 路地 に 、 祐一 の 白い 車 は 不似合いだった 。 ふるい|みんか||たち|ならぶ|くらい|ろじ||ゆういち||しろい|くるま||ふにあいだった Yuichi's white car didn't suit the dark alley lined with old private houses.

ステレオ だ か ラジオ だ か 分から ない が 、 車 内 に ともる 細かい 光 が 、 まるで 季節 外れ の 蛍 の 群れ の ように 見える 。 すてれお|||らじお|||わから|||くるま|うち|||こまかい|ひかり|||きせつ|はずれ||ほたる||むれ|||みえる I don't know if it's the stereo or the radio, but the fine light inside the car looks like a swarm of out-of-season fireflies.

房枝 が 助手 席 の ドア を 閉める と 、 車 は すぐに 発車 した 。 ふさえ||じょしゅ|せき||どあ||しめる||くるま|||はっしゃ| As soon as Fusae closed the passenger door, the car took off.

遠く に 聞こえて いた 波 音 が 、 一瞬 、 車 の エンジン 音 に 掻き消さ れる 。 とおく||きこえて||なみ|おと||いっしゅん|くるま||えんじん|おと||かきけさ| The distant sound of waves was momentarily drowned out by the sound of a car's engine.

路地 を 抜けて いく 車 を 見送り 、 房枝 は すぐに 台所 へ 戻って 後片付け を した 。 ろじ||ぬけて||くるま||みおくり|ふさえ|||だいどころ||もどって|あとかたづけ|| Fusae saw off the car passing through the alleyway and immediately went back to the kitchen to clean up.

片付け が 済む と 、 あちこち の 電気 を 消して 回り 、 草履 を つっかけて 公民 館 へ 出かけた 。 かたづけ||すむ||||でんき||けして|まわり|ぞうり|||こうみん|かん||でかけた After I finished cleaning up, I turned off the lights here and there, put on my zori and headed out to the community center.

風 は 冷たかった が 、 海 は 凪 で いた 。 かぜ||つめたかった||うみ||なぎ|| The wind was cold, but the sea was calm.

港 内 に 繋が れた 漁船 を 月 が 照らし 、 頭上 で ときおり 電線 が 風 に なぶら れて 音 を 立てた 。 こう|うち||つなが||ぎょせん||つき||てらし|ずじょう|||でんせん||かぜ||||おと||たてた The moon shone on the fishing boats moored in the harbor, and overhead wires occasionally rustled in the wind.

ぽつ ん ぽつんと 街灯 の 立つ 岸壁 に 、 やはり 公民 館 へ 向かって いる 岡崎 の ばあさん の 姿 が 見え 、 房枝 は 足 を 速めた 。 |||がいとう||たつ|がんぺき|||こうみん|かん||むかって||おかざき||||すがた||みえ|ふさえ||あし||はやめた Fusae quickly caught sight of Okazaki's grandmother on her way to the community center on the quay with streetlights on it.

月 明かり の 小さな 漁港 の 岸壁 を 、 のんびり と 歩いて いく 老婆 の 後ろ姿 は 、 どこ か 不気味に も 、 滑稽に も 見える 。 つき|あかり||ちいさな|ぎょこう||がんぺき||||あるいて||ろうば||うしろすがた||||ぶきみに||こっけいに||みえる The back view of the old woman walking leisurely along the quay of a small fishing port in the moonlight is somewhat eerie and comical.

「 ばあちゃん も 、 今 から ね 」 ||いま|| "Grandma, too, from now on."

横 に 並んで 声 を かける と 、 ショッピングカート を 杖 代わり に 歩いて いた ばあさん が 足 を 止め 、「 ああ 、 房枝 さん ね 」 と 顔 を 上げる 。 よこ||ならんで|こえ||||||つえ|かわり||あるいて||||あし||とどめ||ふさえ||||かお||あげる When I stood next to him and called out to him, an old woman who was walking with a shopping cart as a cane stopped and said, "Ah, Mr. Fusae," and looked up.

「 この前 、 もろう た 漢方 薬 、 飲んで みた ね ? この まえ|||かんぽう|くすり|のんで|| "Last time ago, did you try to drink some fragile herbal medicine? 」 と 房枝 は 訊 いた 。 |ふさえ||じん| asked Fusae.

ゆっくり と 歩き 出した 岡崎 の ばあさん が 、「 やっぱり 、 ちょっと 調子 よ かもん ねぇ 」 と 答える 。 ||あるき|だした|おかざき||||||ちょうし|||||こたえる Okazaki's grandmother, who slowly walked away, answered, "As expected, I'm not feeling well."

「 そう やろ ? "Is that so? 私 も 半信半疑 で 飲んで みた と やけど 、 どうも 飲んだ 翌朝 は からだ の 調子 が いい と さ ねえ 」 わたくし||はんしんはんぎ||のんで|||||のんだ|よくあさ||||ちょうし||||| I was skeptical and tried drinking it, but the next morning after I drank it, my body felt fine.”

一 カ月 ほど 前 から 町 の 小さな 公民 館 で 、 製薬 会社 の 主催 する 健康 セミナー が 開か れて いた 。 ひと|かげつ||ぜん||まち||ちいさな|こうみん|かん||せいやく|かいしゃ||しゅさい||けんこう|せみなー||あか|| About a month ago, a health seminar sponsored by a pharmaceutical company had been held at a small community center in town.

本社 は 東京 に ある と いう 。 ほんしゃ||とうきょう|||| The head office is said to be in Tokyo.

興味 が あった わけで も ない が 、 婦人 会長 たち に 誘わ れて 、 房枝 も 毎回 参加 して いた 。 きょうみ|||||||ふじん|かいちょう|||さそわ||ふさえ||まいかい|さんか|| Although she had no interest in it, Fusae was invited by the women's presidents to participate in each meeting.

岸壁 を 歩いて いる と 、 海 を 渡って きた 寒風 に からだ の 節々 が 痛く なる 。 がんぺき||あるいて|||うみ||わたって||かんぷう||||ふしぶし||いたく| As I walked along the quay, my joints ached from the cold wind that came across the sea.

漁港 独特 の 潮 の に おい が 寒風 と 混じり合い 、 感覚 の なくなり かけた 鼻 を くすぐる 。 ぎょこう|どくとく||しお|||||かんぷう||まじりあい|かんかく||||はな|| The peculiar smell of the tide of the fishing port mixes with the cold wind and tickles my numb nose.

房枝 は ショッピングカート を 押す 岡崎 の ばあさん に 、 少し でも 寒風 が 当たら ない ように と 、 わざと 海 側 を 歩いた 。 ふさえ||||おす|おかざき||||すこし||かんぷう||あたら|||||うみ|がわ||あるいた Fusae deliberately walked by the sea so that the old woman in Okazaki, who was pushing a shopping cart, would not be exposed to the cold wind.

「 そうそう 、 今度 、 また 祐一 に 米 を お 願い で きんか ねぇ …… あん たん と この 買い物 の 、 ついで でよ か とば って ん 」 そう そう|こんど||ゆういち||べい|||ねがい||||||||かいもの||||||| "Yeah, can I ask Yuuichi for some rice again next time... I'll go with Antan and this shopping."

公民 館 が 見えた 辺り で 、 岡崎 の ばあさん が 言った 。 こうみん|かん||みえた|あたり||おかざき||||いった Okazaki's grandmother said, from where I could see the community center.

「 あら 、 早う 言えば いい と に 、 ちょうど この 前 、 頼んだ ばっかり やった と に 」 |はやう|いえば||||||ぜん|たのんだ|||| "Oh, I wish I had said it sooner, just the other day I just asked you to do it."

房枝 は 岡崎 の ばあさん の 背 を 押す ように 公民 館 へ の 路地 に 入った 。 ふさえ||おかざき||||せ||おす||こうみん|かん|||ろじ||はいった Fusae entered the alley leading to the community center as if pushing the back of Okazaki's grandmother.

「 そこ の 大丸 ストア に 配達 して もらって も よか と けど 、 十 キロ で 四千 円 以上 も する くせ に 、 配達 料 が 三百 円 かかる と さ 」 ||だいまる|すとあ||はいたつ|||||||じゅう|きろ||しせん|えん|いじょう|||||はいたつ|りょう||さんびゃく|えん||| "I could have it delivered to the Daimaru store over there, but 10 kilograms cost more than 4,000 yen, and the delivery fee is 300 yen."

「 大丸 ストア なんか で 買う もん が ある もん ね 。 だいまる|すとあ|||かう||||| "There are things you can buy at the Daimaru store. 十 キロ で 四千 円 て ? じゅう|きろ||しせん|えん| 4,000 yen for 10 kilometers? 向こう の 安売り ストア まで 車 で 行って もらえば 、 それ こそ 半額 で 買える と に 」 むこう||やすうり|すとあ||くるま||おこなって||||はんがく||かえる|| If you drive to the bargain store over there, you'll be able to buy it at half the price."

房枝 は 石段 に 足 を かけた 岡崎 の ばあさん の 手 を とった 。 ふさえ||いしだん||あし|||おかざき||||て|| Fusae took the hand of Okazaki's grandmother who had put her foot on the stone steps.

ばあさん が 房枝 の 手首 を ぐっと 握って 石段 を 上がる 。 ||ふさえ||てくび|||にぎって|いしだん||あがる The old woman grabbed Fusae's wrist and climbed up the stone steps.

「 そりゃ 、 知 っと る さ 。 |ち||| "Well, I know. ばっ てん うち に は 房枝 さんち の ように 、 車 で 米 を 買い に 行って くれる 者 が おら ん もん 」 |||||ふさえ||||くるま||べい||かい||おこなって||もの|||| In Batten, there are people like Fusae-san who drive to buy rice.”

「 水臭 かこ と 言う ねぇ 。 みずくさ|||いう| "Don't call it the smell of water. それ くらい いつでも 頼んで くれれば よか と に 。 |||たのんで|||| I wish you could always ask me for something like that. どうせ うち でも 祐一 に 頼んで 買い出し して もらう と や もん 。 |||ゆういち||たのんで|かいだし||||| Anyway, I'm going to ask Yuuichi to buy it for me. その ついで に 、 なんて こと ない と やけん 」 In addition to that, there is no such thing as something."

短い 石段 の 突き当たり に 、 まるで 神社 の ような 門構え の 公民 館 が あった 。 みじかい|いしだん||つきあたり|||じんじゃ|||もんがまえ||こうみん|かん|| At the end of a short stone stairway, there was a public hall with a gate that looked like a shrine.

そこ に 屋内 の 蛍光 灯 に 照らさ れて 、 こちら を 見下ろして いる 影 が ある 。 ||おくない||けいこう|とう||てらさ||||みおろして||かげ|| There, illuminated by the indoor fluorescent lights, there is a shadow looking down at me.

「 まだ 米 は 残 っと る と やろ ? |べい||ざん|||| "Is there still rice left? と 房枝 は 訊 いた 。 |ふさえ||じん| asked Fusae.

最後 の 石段 を 上がった 岡崎 の ばあさん が 、「 まだ 四 、 五 日 は 大丈夫 」 と 心細 げ に 呟く 。 さいご||いしだん||あがった|おかざき|||||よっ|いつ|ひ||だいじょうぶ||こころぼそ|||つぶやく Okazaki's grandmother, who climbed the final stone steps, whispered, "I'll be fine for four or five days."

「 明日 に でも 祐一 に 行か せる けん 」 あした|||ゆういち||いか|| “I will let Yuuichi go tomorrow.”

そう 言った 房枝 の 言葉 に 重なる ように 、 公民 館 の ほう から 、「 岡崎 の おばあ ちゃん たち やろ ? |いった|ふさえ||ことば||かさなる||こうみん|かん||||おかざき||||| As if to echo Fusae's words, the community center asked, ``Are you Okazaki's grandmothers? よう 来た ねぇ 」 |きた| You've come."

と 声 が した 。 |こえ|| said a voice.

こちら を 眺めて いた 影 は 、 健康 セミナー で 講師 を 務めて いる 堤 下 と いう 医学 博士 で 、 声 と 共に 小 太り な 男 が 駆け 下りて くる 。 ||ながめて||かげ||けんこう|せみなー||こうし||つとめて||つつみ|した|||いがく|はかせ||こえ||ともに|しょう|ふとり||おとこ||かけ|おりて| The shadow that was watching me was Tsutsumishita, a doctor of medicine who was a lecturer at a health seminar.

「 この前 の 漢方 薬 、 試して みた ね ? この まえ||かんぽう|くすり|ためして|| "Did you try the herbal medicine last time? 堤 下 の 言葉 に 、 岡崎 の ばあさん が 無理に 背中 を 伸ばして 、 嬉し そうな 笑顔 を 向ける 。 つつみ|した||ことば||おかざき||||むりに|せなか||のばして|うれし|そう な|えがお||むける At Tsutsumishita's words, Okazaki's grandmother forcibly straightened her back and gave me a happy smile.

堤 下 に 背中 を 押さ れて 公民 館 へ 入る と 、 すでに 近所 の 人 たち が 集まって おり 、 それぞれ が 好き勝手に 座布団 を 並べて 談笑 して いた 。 つつみ|した||せなか||おさ||こうみん|かん||はいる|||きんじょ||じん|||あつまって||||すきかってに|ざぶとん||ならべて|だんしょう|| When I entered the community center with my back pushed by the embankment, the neighbors had already gathered, each arranging cushions as they pleased and chatting.

房枝 は 岡崎 の ばあさん の 分 と 二 枚 の 座布団 を 運ぶ と 、 婦人 会 の 会長 を やって いる 早苗 の 隣 に 腰 を 下ろし 、 早速 、 先日 もらった 漢方 薬 の おかげ で 寝る とき に 足 が 冷え ない など と 感想 を 言い合って いる 早苗 と 岡崎 の ばあさん の 話 に 耳 を 傾けた 。 ふさえ||おかざき||||ぶん||ふた|まい||ざぶとん||はこぶ||ふじん|かい||かいちょう||||さなえ||となり||こし||おろし|さっそく|せんじつ||かんぽう|くすり||||ねる|||あし||ひえ||||かんそう||いいあって||さなえ||おかざき||||はなし||みみ||かたむけた Fusae carried two cushions for Okazaki's grandmother and sat down next to Sanae, who was the president of the women's association. I listened to Sanae and Okazaki's grandmother, who were exchanging their impressions.

すぐに 堤 下 が 紙 コップ に 熱い お茶 を 入れて もってきて くれる 。 |つつみ|した||かみ|こっぷ||あつい|おちゃ||いれて|| Tsutsumi quickly brought me a paper cup of hot tea.

房枝 は 、「 あら 、 すいません ねぇ 、 男 の 人 を 使う て から 」 と 恐縮 し ながら も 、 盆 に 載せ られた 紙 コップ を 受け取った 。 ふさえ|||||おとこ||じん||つかう||||きょうしゅく||||ぼん||のせ||かみ|こっぷ||うけとった Fusae said, "Oh, I'm sorry I had to use a man," but took the paper cup on the tray.

「 ばあちゃん 、 嘘 じゃ なかった やろ ? |うそ||| "Grandma, you weren't lying, were you?

あれ 飲んだら 、 風呂 から 出て も 、 ぽかぽか した まん ま やった ろ ? |のんだら|ふろ||でて||||||| After drinking that, even after getting out of the bath, you were still warm, right? 堤 下 が 岡崎 の ばあさん の 肩 を 撫で ながら 、 横 に 座り込む 。 つつみ|した||おかざき||||かた||なで||よこ||すわりこむ Tsutsumishita stroked Okazaki's grandmother's shoulder as she sat down beside her.

「 ほんとに ぽかぽか し とった よ 。 "I was really warmed up. 貰う た とき は 騙さ れ とる ような 気 が し とった けど 」 もらう||||だまさ||||き|||| When I got it, I felt like I was being deceived."

岡崎 の ばあさん が 大きな 声 で そう 言う と 、 広間 の あちこち から 、「 いや 、 ほんと ねぇ 」 など と 笑い声 が 上がった 。 おかざき||||おおきな|こえ|||いう||ひろま|||||||||わらいごえ||あがった When Okazaki's grandmother said that in a loud voice, laughter erupted from all over the hall.

「 わざわざ 、 ばあちゃん たち を 騙す ため に 、 この 短い 足 で えっ ちら お っち ら 、 こんな ところ まで 来る もん ね 」 ||||だます||||みじかい|あし||||||||||くる|| "You've come all the way here on your short legs just to deceive grandma and the others."

堤 下 が 座った まま 、 その 短い 足 を 伸ばして バタバタ と 動かし 、 その 仕草 に ドッと 笑い が 起こる 。 つつみ|した||すわった|||みじかい|あし||のばして|||うごかし||しぐさ||どっと|わらい||おこる While Tsutsumishita was sitting down, he stretched out his short legs and fluttered around, causing a burst of laughter at his gesture.

一 カ月 ほど 前 から 始まった 公民 館 で の 健康 セミナー で 、 毎回 、 六十 歳 を 過ぎて から の 健康 管理 の 話 を して くれる の が 、 この 中年 の 医学 博士 、 堤 下 だった 。 ひと|かげつ||ぜん||はじまった|こうみん|かん|||けんこう|せみなー||まいかい|ろくじゅう|さい||すぎて|||けんこう|かんり||はなし|||||||ちゅうねん||いがく|はかせ|つつみ|した| At the health seminars held at the public hall that started about a month ago, it was Tsutsumishita, a middle-aged doctor of medicine, who always talked about health management after the age of 60.

最初 は 婦人 会 会長 に 誘わ れて 、 嫌々 顔 を 出した 房枝 だった のだ が 、 こう やって 自分 の 短所 を ネタ に して 、 冗談 混じり に 説明 を する 堤 下 の 話 が 面白く 、 今夜 など は 昼 過ぎ から 楽しみに して いた ほど だった 。 さいしょ||ふじん|かい|かいちょう||さそわ||いやいや|かお||だした|ふさえ||||||じぶん||たんしょ||ねた|||じょうだん|まじり||せつめい|||つつみ|した||はなし||おもしろく|こんや|||ひる|すぎ||たのしみに|||| At first, Fusae appeared reluctantly when invited by the president of the women's association, but Tsutsumishita's story of jokingly explaining his shortcomings as a joke was interesting. I had been looking forward to it since the afternoon.

「 さ ぁ 、 そろそろ 始め ましょう か ね 」 |||はじめ||| "Now then, let's get started."

立ち上がった 堤 下 が 、 広間 に ちらばって いる 町 内 の 老人 たち に 声 を かける 。 たちあがった|つつみ|した||ひろま||||まち|うち||ろうじん|||こえ|| Tsutsumishita stood up and called out to the old people in the town scattered around the hall.

中 に は 晩酌 で 焼酎 でも 飲んで きた の か 、 顔 を 赤らめて いる じいさん も いる 。 なか|||ばんしゃく||しょうちゅう||のんで||||かお||あからめて|||| Some of the old men were blushing, as if they had drank shochu with their evening drink.

「 今日 は 血 の 廻り の 話 を し ます から ね 」 きょう||ち||まわり||はなし||||| "Today, we're going to talk about blood."

よく 通る 堤 下 の 声 が 広間 に 響く 。 |とおる|つつみ|した||こえ||ひろま||ひびく The voice of Tsutsumishita, who often passes by, echoes in the hall.

小さな 壇上 に 上がる 堤 下 を 追う みんな の 顔 が 、 まるで 高座 に 上がる 落語 家 でも 待つ か の ように 、 もう ほころび 始めて いる 。 ちいさな|だんじょう||あがる|つつみ|した||おう|||かお|||こうざ||あがる|らくご|いえ||まつ||||||はじめて| The faces of everyone chasing Tsutsumishita, who climbs onto the small platform, have already begun to smile, as if they were waiting for a rakugo storyteller to rise to the stage.

壇上 の 横 に は 、 最近 で は ペーロン 大会 で しか 使わ れ なく なった 大漁 旗 が かけて ある 。 だんじょう||よこ|||さいきん||||たいかい|||つかわ||||たいりょう|き||| On the side of the stage is a big catch flag, which is only used at the Peron tournament these days.

夜間 の 病院 に は 独特 の 空気 が 流れて いる 。 やかん||びょういん|||どくとく||くうき||ながれて| A unique atmosphere flows through the hospital at night.

重く 、 寂しい だけ で は ない 。 おもく|さびしい|||| It's not just heavy and lonely. もちろん 、 陽気で 、 楽しい わけで も ない 。 |ようきで|たのしい||| Of course, it's neither cheerful nor fun.

その 夜 、 金子 美保 は 待合室 の ベンチ に 腰 を 下ろす と 、 病室 から 持ってきた 雑誌 を 広げた 。 |よ|かねこ|みほ||まちあいしつ||べんち||こし||おろす||びょうしつ||もってきた|ざっし||ひろげた That night, Miho Kaneko sat down on a bench in the waiting room and unfolded a magazine she had brought from her hospital room.

まだ 八 時 前 だ と いう のに 外来 受付 の 明かり が 消さ れて しまった 待 合 ホール は 、 薄暗い 蛍光 灯 の 中 、 古びた ベンチ が 並んで いる 。 |やっ|じ|ぜん|||||がいらい|うけつけ||あかり||けさ|||ま|ごう|ほーる||うすぐらい|けいこう|とう||なか|ふるびた|べんち||ならんで| Even though it was just before eight o'clock, the lights in the outpatient reception had been turned off, and in the waiting hall, old benches were lined up in dim fluorescent lighting.

昼間 、 ここ で 百 人 を 超す 人々 が 順番 待ち を して いた と は 思え ない ほど 狭い 。 ひるま|||ひゃく|じん||こす|ひとびと||じゅんばん|まち||||||おもえ|||せまい It's hard to believe that over 100 people were waiting for their turn here in the daytime.

人々 の 姿 が 消え 、 夜間 の 待 合 ホール に 残さ れて いる の は 、 古びた ベンチ と 、 カラフルな ペンキ で 床 に 示さ れた 各 病棟 へ の 矢印 だけ だ 。 ひとびと||すがた||きえ|やかん||ま|ごう|ほーる||のこさ|||||ふるびた|べんち||からふるな|ぺんき||とこ||しめさ||かく|びょうとう|||やじるし|| The people are gone, and all that's left of the waiting hall at night are old benches and colorful painted arrows on the floor to the wards.

ピンク 色 の 矢印 は 産婦人科 へ 。 ぴんく|いろ||やじるし||さんふじんか| The pink arrow points to Obstetrics and Gynecology.

黄色い 矢印 は 小児 科 へ 。 きいろい|やじるし||しょうに|か| The yellow arrow goes to Pediatrics. そら 色 の 矢印 は 脳 外科 へ 。 |いろ||やじるし||のう|げか| The sky-colored arrow points to neurosurgery.

薄暗い 蛍光 灯 の 下 、 カラフルな 矢印 だけ が 華やいで 見える 。 うすぐらい|けいこう|とう||した|からふるな|やじるし|||はなやいで|みえる Under the dim fluorescent lights, only colorful arrows are visible.

カラフルな 矢印 だけ が 場違いに 見える 。 からふるな|やじるし|||ばちがいに|みえる Only colorful arrows look out of place.

ときどき 入院 患者 たち が ホール を 足早に 横切って 、 たばこ を 吸い に 外 へ 出て いく 。 |にゅういん|かんじゃ|||ほーる||あしばやに|よこぎって|||すい||がい||でて| Occasionally, inpatients scurry across the hall and go out to smoke.

九 時 に なれば 、 ここ 正面 玄関 は 施錠 さ れ 、 喫煙 所 へ 出 られ なく なる から だ 。 ここの|じ||||しょうめん|げんかん||せじょう|||きつえん|しょ||だ||||| Because at nine o'clock, the main entrance here will be locked, and you won't be able to go out to the smoking area. 点滴 の ポール を 押し ながら 出て いく 者 、 尿 パック を 片手 に 出て いく 者 、 松葉杖 で 、 車 椅子 で 、 それぞれ が 今日 最後 の 一服 を 求めて 外 へ 出て いく 。 てんてき||ぽーる||おし||でて||もの|にょう|ぱっく||かたて||でて||もの|まつばづえ||くるま|いす||||きょう|さいご||いっぷく||もとめて|がい||でて| Some go out while pushing the IV pole, some go out with a urine pack in one hand, some on crutches, some in wheelchairs, each going out for their last puff today. 同じ 病室 な の か 、 初老 の 男 と 青年 が 野球 の 話 を し ながら 歩いて いく 。 おなじ|びょうしつ||||しょろう||おとこ||せいねん||やきゅう||はなし||||あるいて| An elderly man and a young man, perhaps in the same hospital room, walk by while talking about baseball. 車 椅子 の 女性 が 携帯 で 夫 と 話 を し ながら 出て いく 。 くるま|いす||じょせい||けいたい||おっと||はなし||||でて| A woman in a wheelchair walks out while talking to her husband on her cell phone.

それぞれ が それぞれ の 病気 や 怪我 を 連れて 、 寒風 の 吹く 屋外 の 喫煙 所 へ 向かう 。 ||||びょうき||けが||つれて|かんぷう||ふく|おくがい||きつえん|しょ||むかう Each of them takes their illness or injury with them to the outdoor smoking area where the cold wind blows.

待 合 ホール の 奥 へ 目 を 転じる と 、 昼間 は つけ っぱなし に さ れて いる 大型 テレビ の 前 に ベビーカー を 置いて 、 今夜 も また 、 髪 を 赤く 染めた 老婆 が ぽつんと 座って いる 。 ま|ごう|ほーる||おく||め||てんじる||ひるま||||||||おおがた|てれび||ぜん||||おいて|こんや|||かみ||あかく|そめた|ろうば|||すわって| If you turn your eyes to the back of the waiting hall, you'll find an old woman with her hair dyed red sitting alone in her stroller in front of the large-screen TV that's left on during the day.

何 を する わけで も ない のだ が 、 ときどき 思い出した ように 、 ベビーカー を 揺すったり 、 中 の 男児 に 、「 なん ね ? なん|||||||||おもいだした||||ゆすったり|なか||だんじ||| I don't really do anything, but sometimes I remember shaking the stroller and asking the boy inside, "What? どうした と ね ? What's wrong? 」 と やさしく 話しかける 。 ||はなしかける '' he said softly.

ベビーカー に は 小児 麻痺 の 男の子 が 乗って いる 。 |||しょうに|まひ||おとこのこ||のって| A baby boy with polio is in the stroller.

ベビーカー に 乗せる に は 、 少し 大き すぎる 男の子 で 、 歪んだ 手足 が フリル の ついた ベビーカー から 突き出して いる 。 ||のせる|||すこし|おおき||おとこのこ||ゆがんだ|てあし|||||||つきだして| A little too big for a stroller, with twisted limbs sticking out of the frilly stroller.

老婆 は 毎晩 、 この 時間 に なる と ここ へ くる 。 ろうば||まいばん||じかん|||||| The old woman comes here every night at this hour.

ここ へ 来て 、 返事 を し ない 男の子 に 話しかけ 、 痛 が って 捩る から だ を 摩って あげる 。 ||きて|へんじ||||おとこのこ||はなしかけ|つう|||ねじる||||さすって| Come here, talk to the boy who doesn't answer, and rub his painful and twisted body.

病室 に は 若い 母親 ばかり な のだろう と 美保 は 思う 。 びょうしつ|||わかい|ははおや|||||みほ||おもう Miho thinks that the hospital room must be full of young mothers.

どんな 事情 な の か 知ら ない が 、 若い 母親 に 囲ま れた 病室 で は 居心地 が 悪く 、 髪 を 赤く 染めた 老婆 は 、 この 男の子 を 連れて 、 毎晩 ここ に やってくる のだろう と 。 |じじょう||||しら|||わかい|ははおや||かこま||びょうしつ|||いごこち||わるく|かみ||あかく|そめた|ろうば|||おとこのこ||つれて|まいばん||||| I don't know what the circumstances were, but he felt uncomfortable in a hospital room surrounded by young mothers, and thought that an old woman with red hair would come here every night with the boy.

喫煙 所 へ 出て いく 入院 患者 たち や 、 ベビーカー の 男の子 を あやす 老婆 の 声 を 聞き ながら 、 美保 は 雑誌 の ページ を 捲った 。 きつえん|しょ||でて||にゅういん|かんじゃ|||||おとこのこ|||ろうば||こえ||きき||みほ||ざっし||ぺーじ||まくった Miho turned the pages of the magazine while listening to the voices of inpatients leaving for the smoking area and the voices of an old woman cradling a boy in a stroller.

病棟 の レクリエーション 室 に あった 二 カ月 も 前 の 女性 誌 だった が 、 歌舞伎 役者 と 女優 の 結婚 を 報じる グラビアページ から 、 一 ページ ずつ 丁寧に 読んで いった 。 びょうとう||れくりえーしょん|しつ|||ふた|かげつ||ぜん||じょせい|し|||かぶき|やくしゃ||じょゆう||けっこん||ほうじる|||ひと|ぺーじ||ていねいに|よんで| A two-month-old women's magazine in the recreation room of the hospital ward, I carefully read page by page from the gravure page reporting the marriage of a Kabuki actor and an actress.

担当 の 看護 師 が 慌ただしく エレベーター から 降りて きた の は 、 三 分 の 一 ほど ページ を 捲った ころ で 、「 あら 、 金子 さん 」 と 声 を かけ られ 、 美保 は 小さく 会釈 した 。 たんとう||かんご|し||あわただしく|えれべーたー||おりて||||みっ|ぶん||ひと||ぺーじ||まくった||||かねこ|||こえ||||みほ||ちいさく|えしゃく| About a third of the page was turned when the nurse in charge came down from the elevator in a hurry.

近寄って きた 看護 師 が 雑誌 を 覗き込み 、「 病室 じゃ 、 雑誌 も ゆっくり と 読め ん もん ねぇ 」 と 顔 を 歪める 。 ちかよって||かんご|し||ざっし||のぞきこみ|びょうしつ||ざっし||||よめ|||||かお||ゆがめる A nurse approached me, peering into a magazine, and grimacing, "You can't read magazines slowly in a hospital room, can you?"

「 いや 、 そんな こと ない と よ 。 "No, it's not like that. ただ 、 一 日 中 、 病室 に おったら 、 やっぱり 気 が 滅入って きて ……」 |ひと|ひ|なか|びょうしつ||||き||めいって| However, after spending the whole day in the hospital room, I started to feel depressed..."

「 今朝 、 諸井 先生 から 話 あった ろ ? けさ|もろい|せんせい||はなし|| "Did Moroi-sensei talk to you this morning? 「 はい 。 " yes .

明日 の 検査 結果 が よければ 、 木曜日 に は 退院 できる って 」 あした||けんさ|けっか|||もくようび|||たいいん|| If tomorrow's test results are good, I'll be able to leave the hospital on Thursday."

「 よかった ねぇ 。 "Good for you. 入院 して きた とき に 比べれば 、 別人 や もん ねぇ 」 にゅういん|||||くらべれば|べつじん||| Compared to when I was hospitalized, I'm a different person."

三 日 ほど 高熱 が 続いた の は 、 二 週間 ほど 前 の こと だった 。 みっ|ひ||こうねつ||つづいた|||ふた|しゅうかん||ぜん||| It was about two weeks ago that I had a high fever for about three days.

熱 は あった が 、 やっと オープン さ せた 店 を 休む わけに も いか ず 、 無理 を 承知 で 働き 続けた 。 ねつ|||||おーぷん|||てん||やすむ|||||むり||しょうち||はたらき|つづけた I had a fever, but I couldn't afford to take a break from the shop I had finally opened, so I continued to work despite the unreasonableness. とつぜん めまい が して 倒れた とき 、 運 良く 常連 客 が 一 人 いて 、 すぐに 救急 車 を 呼んで くれた 。 ||||たおれた||うん|よく|じょうれん|きゃく||ひと|じん|||きゅうきゅう|くるま||よんで| When I suddenly felt dizzy and fell down, luckily there was a regular customer who immediately called an ambulance.

検査 の 結果 、 過労 と 診断 さ れた 。 けんさ||けっか|かろう||しんだん|| As a result of the examination, he was diagnosed with overwork.

肺炎 に なり かけて いた と も 言わ れた 。 はいえん|||||||いわ| It was also said that he was on the verge of developing pneumonia. 小さな 小 料理 屋 と は いえ 、 無理 が たたった らしかった 。 ちいさな|しょう|りょうり|や||||むり||| Even though it was a small restaurant, it seemed to be unreasonable.

やっと 開店 さ せて 、 たった の 二 カ月 で 休業 。 |かいてん|||||ふた|かげつ||きゅうぎょう We finally opened the store and closed after only two months.

我ながら 、 ついて い ない と 美保 は 思う 。 われながら|||||みほ||おもう Miho thinks that she is not keeping up with him.

立ち去った 看護 師 が 、 今度 は 待 合 ホール の 隅 で 、 例の 老婆 と 話 を して いた 。 たちさった|かんご|し||こんど||ま|ごう|ほーる||すみ||れいの|ろうば||はなし||| The nurse who had left was now talking to the old woman in the corner of the waiting hall.

「 マモル くん は いい ねぇ 、 いつも おばあ ちゃん と 一緒で 」 |||||||||いっしょで "Mamoru-kun is nice, he's always with his grandma."

ベビーカー の 男の子 に 看護 師 が やさしく 語りかける 声 が 、 静かな 夜 の 待 合 ホール に 響く 。 ||おとこのこ||かんご|し|||かたりかける|こえ||しずかな|よ||ま|ごう|ほーる||ひびく The voice of a nurse gently talking to a boy in a stroller echoes in the quiet waiting hall at night.

まるで 彼女 の 言葉 に 答える ように 、 すぐ そこ に ある 自動 販売 機 の モーター が ウーン と 唸る 。 |かのじょ||ことば||こたえる||||||じどう|はんばい|き||もーたー||うーん||うなる As if answering her words, the motor of the vending machine right there roared.

病室 に 戻ろう と 、 美保 は 雑誌 を 閉じて ベンチ を 立った 。 びょうしつ||もどろう||みほ||ざっし||とじて|べんち||たった Miho closed the magazine and stood up from the bench to return to the hospital room.

自動 ドア が 開き 、 寒風 が 吹き込んで きた の は その とき で 、 たばこ を 吸い 終えた 人 が 帰って きた のだろう と 、 何気なく 目 を 向けた 。 じどう|どあ||あき|かんぷう||ふきこんで|||||||||すい|おえた|じん||かえって||||なにげなく|め||むけた That's when the automatic door opened and a cold breeze blew in, and I casually turned my eyes, thinking that someone had just finished smoking.

そろりそろり と 歩く 老人 の からだ を 支えて 、 背 が 高く 、 髪 を 金色 に 染めた 青年 が 入って くる 。 ||あるく|ろうじん||||ささえて|せ||たかく|かみ||きんいろ||そめた|せいねん||はいって| A tall young man with gold-dyed hair enters, supporting the body of the slowly walking old man.

着 古 した ピンク 色 の トレーナー が 、 妙に その 金髪 に 似合って いる 。 ちゃく|ふる||ぴんく|いろ||とれーなー||みょうに||きんぱつ||にあって| The worn-out pink sweatshirt strangely suits the blond hair.

金髪 の 青年 は 、 ほとんど 足元 に 目 を 向けて いた 。 きんぱつ||せいねん|||あしもと||め||むけて| The fair-haired young man was mostly looking at his feet.

老人 の 歩行 を 少し でも 楽に する ため な の か 、 腋 の 下 に 差し込ま れた 青年 の 腕 に 、 かなり の 力 が 入って いる の が 見てとれる 。 ろうじん||ほこう||すこし||らくに||||||わき||した||さしこま||せいねん||うで||||ちから||はいって||||みてとれる You can see that the young man's arm is inserted under his armpit, probably to make walking easier for the old man.

美保 は なんとなく 二 人 を 眺め ながら も 、 先 に 歩き 出して エレベーター の 前 に 立った 。 みほ|||ふた|じん||ながめ|||さき||あるき|だして|えれべーたー||ぜん||たった Miho, looking at the two of them for some reason, walked ahead and stood in front of the elevator.

上 階 行き の ボタン を 押す と 、 すぐに 扉 が 開く 。 うえ|かい|いき||ぼたん||おす|||とびら||あく Press the button to go upstairs and the door will open immediately.

入口 から ゆっくり と 歩いて くる 二 人 を 待つ つもりだった 。 いりぐち||||あるいて||ふた|じん||まつ| I intended to wait for the two of them as they walked slowly through the entrance.

中 に 入って 開 ボタン を 押して いる と 、 大きな 柱 の 陰 から 二 人 が 姿 を 現した 。 なか||はいって|ひらき|ぼたん||おして|||おおきな|ちゅう||かげ||ふた|じん||すがた||あらわした When I went inside and pressed the open button, two people appeared from behind a large pillar.

その 瞬間 だった 。 |しゅんかん| It was that moment.

美保 は 慌てて ボタン から 手 を 離し 、 突き指 して も かまわ ない ような 力 で 横 の 閉 ボタン を 押した 。 みほ||あわてて|ぼたん||て||はなし|つきゆび||||||ちから||よこ||しま|ぼたん||おした Miho hurriedly let go of the button and pushed the close button on the side with such force that she could point her finger at it.

ドア は す っと 音 も なく 閉まった 。 どあ||||おと|||しまった The door closed without a sound.

閉まる 直前 、 視線 を 上げ かけた 金髪 の 青年 の 顔 が 見えた 。 しまる|ちょくぜん|しせん||あげ||きんぱつ||せいねん||かお||みえた Just before it closed, I saw the face of a young man with blond hair who was about to raise his gaze.

間違い なかった 。 まちがい| I was right.

老人 の からだ を 支えて いた 青年 は 、 清水 祐一 に 違いなかった 。 ろうじん||||ささえて||せいねん||きよみず|ゆういち||ちがいなかった The young man supporting the old man must be Yuichi Shimizu.

美保 は 上昇 し 始めた エレベーター の 中 で 、 思わず あとずさり 、 壁 に 背中 を ぶつけた 。 みほ||じょうしょう||はじめた|えれべーたー||なか||おもわず||かべ||せなか|| As the elevator began to rise, Miho instinctively backed away and hit her back against the wall.

もう 二 年 も 前 の 話 に なる が 、 当時 美保 が 勤めて いた ファッションヘルス に 、 祐一 は 毎晩 の ように やってきて 美保 を 指名 して いた のだ 。 |ふた|とし||ぜん||はなし||||とうじ|みほ||つとめて||||ゆういち||まいばん||||みほ||しめい||| It was already two years ago, but at the time Miho was working at Fashion Health, Yuichi would come almost every night and nominate Miho.

長崎 市 内 最大 の 繁華街 に ある 、 まだ オープン した ばかりの 店 だった 。 ながさき|し|うち|さいだい||はんかがい||||おーぷん|||てん| It was a store that had just opened in Nagasaki City's largest shopping district.

一 階 に は ゲーム センター が あり 、 通り の 向こう に 川 が 流れて いた 。 ひと|かい|||げーむ|せんたー|||とおり||むこう||かわ||ながれて| There was a game center on the first floor, and a river was flowing across the street. 川 沿い の 通り に は 看護 師 や 女子 高 生 の 扮装 を した キャバクラ の 女の子 たち が 立ち 、 客引き して いる ような 界隈 だった 。 かわ|ぞい||とおり|||かんご|し||じょし|たか|せい||ふんそう|||||おんなのこ|||たち|きゃくひき||||かいわい|

決して 奇妙な 行為 を 強要 する ような 客 で は なかった が 、 最終 的に は 彼 から 逃れる ため に 美保 は その 店 を 辞めた ような もの だった 。 けっして|きみょうな|こうい||きょうよう|||きゃく|||||さいしゅう|てきに||かれ||のがれる|||みほ|||てん||やめた||| Although he was not the kind of customer who would force her to do anything strange, Miho eventually quit the store to get away from him.

一言 で 言えば 、 恐ろしく なった と しか 言い よう が ない 。 いちげん||いえば|おそろしく||||いい||| In a word, I can only say that I was horrified. 何 が 恐ろしかった か と いえば 、 そんな 店 で の 出会い な のに 、 祐一 が あまりに も 普通 すぎて 、 それ が 徐々に 恐ろしく なって きた のだ 。 なん||おそろしかった|||||てん|||であい|||ゆういち||||ふつう||||じょじょに|おそろしく||| What was scary was that Yuichi was so ordinary that I gradually became afraid of him.

五 階 に 到着 した エレベーター を 降りる と 、 美保 は 辺り を 窺 う ように して 病室 へ 戻った 。 いつ|かい||とうちゃく||えれべーたー||おりる||みほ||あたり||き||||びょうしつ||もどった After getting off the elevator on the fifth floor, Miho returned to her room to look around.

すでに 見舞 客 の 姿 も なく 、 左右 に 三 つ ずつ 並べ られた ベッド に は 、 美保 の 場所 だけ を 残して カーテン が 引いて ある 。 |みまい|きゃく||すがた|||さゆう||みっ|||ならべ||べっど|||みほ||ばしょ|||のこして|かーてん||ひいて|

美保 は 自分 の ベッド へ 向かう と 、 すぐに カーテン を 閉めた 。 みほ||じぶん||べっど||むかう|||かーてん||しめた

隣 の ベッド から すでに 眠って いる らしい 吉井 の おばあ ちゃん の 寝息 が 聞こえる 。 となり||べっど|||ねむって|||よしい|||||ねいき||きこえる From the next bed, I could hear Grandma Yoshii's sleeping breath, as if she was already asleep.

美保 は カーテン で 囲ま れた ベッド に 腰掛け 、「 別に 怖がる こと は ない 。 みほ||かーてん||かこま||べっど||こしかけ|べつに|こわがる||| Miho sat on a bed surrounded by curtains and said, "There is nothing to be afraid of.

そう 、 別に 怖がる こと は ない 」 と 自分 に 言い聞かせた 。 |べつに|こわがる|||||じぶん||いいきかせた Yes, there's nothing to be afraid of," I told myself.

清水 祐一 が 初めて 店 に 来た の は 、 たしか 日曜日 だった 。 きよみず|ゆういち||はじめて|てん||きた||||にちようび| The first time Yuichi Shimizu came to the store was on a Sunday, I believe.

週 末 は 朝 の 九 時 から 営業 して いる 店 で 、 この 時間 帯 であれば 、 いくら でも 言い訳 の 利く 妻 帯 者 の 客 が 多かった 。 しゅう|すえ||あさ||ここの|じ||えいぎょう|||てん|||じかん|おび||||いいわけ||きく|つま|おび|もの||きゃく||おおかった On weekends, the store was open from 9:00 in the morning, and many of the customers were married couples who could make any number of excuses to come in at this time.

その 朝 、 店 に 待機 して いた の は 、 美保 と もう 一 人 、 大阪 出身 で すでに 三十 代 半ば に なる 女性 だけ だった と 思う 。 |あさ|てん||たいき|||||みほ|||ひと|じん|おおさか|しゅっしん|||さんじゅう|だい|なかば|||じょせい||||おもう

いつも の ように 待合室 で 客 に 相手 を 選ば せた あと 、 マネージャー が 美保 を 呼び に きた 。 |||まちあいしつ||きゃく||あいて||えらば|||まねーじゃー||みほ||よび||

まだ 出勤 した ばかりだった 美保 は 、 慌てて オレンジ色 の ネグリジェ に 着替えて 個室 へ 向かった 。 |しゅっきん|||みほ||あわてて|おれんじいろ||||きがえて|こしつ||むかった

五 室 ほど 並んだ 個室 の 一 番 奥 の ドア を 開ける と 、 二 畳 ほど の 室 内 に 背 の 高い 男 が 突っ立って いる 。 いつ|しつ||ならんだ|こしつ||ひと|ばん|おく||どあ||あける||ふた|たたみ|||しつ|うち||せ||たかい|おとこ||つったって|

美保 は 笑み を 浮かべて 自己 紹介 し 、 居心地 悪 そうな 若者 の 背中 を 押して 、 小さな ベッド に 座ら せた 。 みほ||えみ||うかべて|じこ|しょうかい||いごこち|あく|そう な|わかもの||せなか||おして|ちいさな|べっど||すわら|

この 時間 に 来る 客 は 、 たいがい 言い訳 から 始める の が 常だった 。 |じかん||くる|きゃく|||いいわけ||はじめる|||とわだった

一 番 多かった の は 、「 昨日 、 徹夜 で 仕事 して いて 、 一睡 も せ ず に ここ に きた 」 と いう もの で 、 美保 に して みれば どうでも いい こと な のだ が 、 男 と して は 早起き を して まで こんな 店 に 来て いる 自分 が 、 どこ か で 情けなかった のだ と 思う 。 ひと|ばん|おおかった|||きのう|てつや||しごと|||いっすい||||||||||||みほ||||||||||おとこ||||はやおき|||||てん||きて||じぶん|||||なさけなかった|||おもう

ベッド に 座る と 、 祐一 は 狭い 室 内 を きょろきょろ と 見回して いた 。 べっど||すわる||ゆういち||せまい|しつ|うち||||みまわして|

こういう 店 に 来る の は 初めて です と 、 告白 して いる ような もの だった 。 |てん||くる|||はじめて|||こくはく|||||

店 の マニュアル 通り 、 シャワー 室 へ 誘う と 、「 風呂 なら もう 入って きた けど ……」 と 心細 そうな 顔 を する 。 てん||まにゅある|とおり|しゃわー|しつ||さそう||ふろ|||はいって||||こころぼそ|そう な|かお||

汚れた から だ を 触ら せよう と する 客 に も 見え ず 、 実際 、 祐一 の 髪 から は シャンプー の 匂い も した 。 けがれた||||さわら||||きゃく|||みえ||じっさい|ゆういち||かみ|||しゃんぷー||におい||

「 でも 、 そう 決 まっ とる と よ 。 ||けっ|||| ごめん ね 」

美保 は 祐一 の 手 を 引いて 狭い 廊下 を シャワー 室 へ 向かった 。 みほ||ゆういち||て||ひいて|せまい|ろうか||しゃわー|しつ||むかった

シャワー 室 と いって も 小さな ユニットバス の こと で 、 二 人 入れば 自然 と から だ も 触れる 。 しゃわー|しつ||||ちいさな|||||ふた|じん|はいれば|しぜん|||||ふれる

祐一 に 服 を 脱ぐ ように 言い 、 美保 は シャワー の 温度 を 指先 で 整えた 。 ゆういち||ふく||ぬぐ||いい|みほ||しゃわー||おんど||ゆびさき||ととのえた

振り返る と 、 パンツ 一 枚 で 股 間 を 押さえた 祐一 が 、 どこ を 見て いい の か 分から ない ように 、 狭い 室 内 を きょろきょろ と 見て いる 。 ふりかえる||ぱんつ|ひと|まい||また|あいだ||おさえた|ゆういち||||みて||||わから|||せまい|しつ|うち||||みて|

「 パンツ 穿 いた まま 、 シャワー 浴びる と ? ぱんつ|うが|||しゃわー|あびる| 美保 が 微笑 みかける と 、 祐一 は 一瞬 だけ 躊躇 った あと 、 さっと パンツ を 下ろした 。 みほ||びしょう|||ゆういち||いっしゅん||ちゅうちょ||||ぱんつ||おろした

パンツ の ゴム に 引っかかった ペニス が 撓 り 、 下 腹 に 当たって 音 を 立てた 。 ぱんつ||ごむ||ひっかかった|||とう||した|はら||あたって|おと||たてた

そのころ 、 美保 に は 年配 の 客 が 続いて いた 。 |みほ|||ねんぱい||きゃく||つづいて|

相手 を 選べる ような 職業 で は ない が 、 正直 、 勃 せる だけ で 汗だく に なる ような 客 が 続く と 、 吹 っ 切って いる つもり でも 、 自分 の 人生 に 嫌気 が さして くる 。 あいて||えらべる||しょくぎょう|||||しょうじき|ぼつ||||あせだく||||きゃく||つづく||ふ||きって||||じぶん||じんせい||いやき|||

美保 は 祐一 の 手 を 引いて 、 ぬるい シャワー の 下 に 立た せた 。 みほ||ゆういち||て||ひいて||しゃわー||した||たた|

お 湯 が 肩 から 胸 へ 流れ 落ち 、 痛 そうな ほど 勃起 した 祐一 の ペニス を 濡らす 。 |ゆ||かた||むね||ながれ|おち|つう|そう な||ぼっき||ゆういち||||ぬらす

「 今日 、 仕事 休み ? きょう|しごと|やすみ スポンジ に 泡 を 立て 、 祐一 の 背中 を 洗って あげ ながら 、 美保 は 尋ねた 。 ||あわ||たて|ゆういち||せなか||あらって|||みほ||たずねた

からだ を こわばら せて いる 祐一 を 、 少し でも ほぐして やろう と 思った 。 |||||ゆういち||すこし|||||おもった

「 もし かして 、 まだ 学生 さん ? |||がくせい| 背中 の 泡 を 流し ながら 尋ねる と 、「 いや 、 もう 働 い とる よ 」 と 祐一 が やっと 返事 を する 。 せなか||あわ||ながし||たずねる||||はたら|||||ゆういち|||へんじ||

「 運動 し よった と やろ ? うんどう|||| 筋肉 隆々 たい 」 きんにく|りゅうりゅう|

特に 興味 は なかった が 、 美保 は 場 繋ぎ に 祐一 の からだ を 褒めた 。 とくに|きょうみ||||みほ||じょう|つなぎ||ゆういち||||ほめた

祐一 は ほとんど 口 を 開か ず に 、 じっと 自分 の からだ を 撫でる 美保 の 手 だけ を 見つめて いた 。 ゆういち|||くち||あか||||じぶん||||なでる|みほ||て|||みつめて|

やけに 真剣な まなざし で 。 |しんけんな||

美保 が 泡立った 性器 に 触れよう と する と 、 さっと 腰 を 引いて 逃げる 。 みほ||あわだった|せいき||ふれよう|||||こし||ひいて|にげる

少し でも 触れる と 、 我慢 でき ず に 射精 して しまい そうな ほど 、 祐一 の ペニス は 脈打って いた 。 すこし||ふれる||がまん||||しゃせい|||そう な||ゆういち||||みゃくうって|

「 恥ずかし がら んで よ か と よ 。 はずかし|||||| ここ は そういう こと を する 店 やけん 」 ||||||てん|

半ば 呆れて 美保 が 微笑む と 、 祐一 は 美保 の 手 から シャワー ヘッド を 奪い 、 まだ 残って いる から だ の 泡 を 自分 で 流した 。 なかば|あきれて|みほ||ほおえむ||ゆういち||みほ||て||しゃわー|へっど||うばい||のこって|||||あわ||じぶん||ながした

乾いた バス タオル で から だ を 拭いて やり 、 先 に 祐一 を 部屋 へ 帰ら せた 。 かわいた|ばす|たおる|||||ふいて||さき||ゆういち||へや||かえら|

ユニットバス を 使った あと は 、 必ず タオル で 水滴 を 拭き取る 規則 に なって いる 。 ||つかった|||かならず|たおる||すいてき||ふきとる|きそく|||

掃除 を 済ませ 、 個室 へ 戻る と 、 腰 に バス タオル を 巻いた 祐一 が 、 自分 の 服 を 抱えた まま 突っ立って いた 。 そうじ||すませ|こしつ||もどる||こし||ばす|たおる||まいた|ゆういち||じぶん||ふく||かかえた||つったって|

「 この 町 の 人 ? |まち||じん 」 と 美保 は 訊 いた 。 |みほ||じん|

それ まで 客 に プライベートな こと を 尋ねた こと は なかった が 、 自然 と 口 が 動いた 。 ||きゃく||ぷらいべーとな|||たずねた|||||しぜん||くち||うごいた

祐一 は 一瞬 躊躇 って 、 美保 が 聞いた こと の ない 郊外 の 町 の 名前 を 挙げた 。 ゆういち||いっしゅん|ちゅうちょ||みほ||きいた||||こうがい||まち||なまえ||あげた

「 私 、 半年 前 に この 町 に 来た ばかり やけん 、 よう 知ら ん と よ 」 わたくし|はんとし|ぜん|||まち||きた||||しら|||

美保 の 言葉 に 、 祐一 の 表情 が 少し だけ 曇った 。 みほ||ことば||ゆういち||ひょうじょう||すこし||くもった

美保 は 祐一 の 背中 を 押して ベッド に 寝か せた 。 みほ||ゆういち||せなか||おして|べっど||ねか|

バス タオル を 取る と 、 遠吠え でも し そうな ペニス が そこ に あった 。 ばす|たおる||とる||とおぼえ|||そう な|||||

正直な ところ 、 一 度 きり の 客 だ と 思って いた 。 しょうじきな||ひと|たび|||きゃく|||おもって|

シャワー 室 から 個室 へ 移って 、 たった の 三 分 で 果てて しまった し 、 残り の 時間 で もう 一 回 やって あげる こと も できる と 、 美保 が 勧めた に も かかわら ず 、 祐一 は さっさと 服 を 着て 、 部屋 を 出て 行って しまった のだ 。 しゃわー|しつ||こしつ||うつって|||みっ|ぶん||はてて|||のこり||じかん|||ひと|かい|||||||みほ||すすめた|||||ゆういち|||ふく||きて|へや||でて|おこなって||

いくら こういう 店 へ 来る の が 初めて と は いえ 、 決して 楽しんで いる ように は 見え なかった し 、 自分 が 放った もの を ティッシュ で 拭って もらう の も 待ちきれ ない ようで 、 最後 まで 居心地 が 悪 そうだった 。 ||てん||くる|||はじめて||||けっして|たのしんで||||みえ|||じぶん||はなった|||てぃっしゅ||ぬぐって||||まちきれ|||さいご||いごこち||あく|そう だった

な のに 、 祐一 は その 二 日 後 に また 店 に 現れ 、 ファイル も 見 ず に 美保 を 指名 した のだ 。 ||ゆういち|||ふた|ひ|あと|||てん||あらわれ|ふぁいる||み|||みほ||しめい||

マネージャー に 呼ば れて 個室 に 入る と 、 今度 は 少し 場慣れ した の か 、 祐一 は ベッド に 腰かけて 待って いた 。 まねーじゃー||よば||こしつ||はいる||こんど||すこし|ばなれ||||ゆういち||べっど||こしかけて|まって|

初回 と は 違い 、 平日 の 夜 で 店 は かなり 混 んで いた 。 しょかい|||ちがい|へいじつ||よ||てん|||こん||

「 あら 、 また 来て くれた と 」 ||きて||

美保 が 愛想 笑い を 浮かべる と 、 祐一 は 小さく 頷き 、 なにやら 手 に 持って いる 紙袋 を 差し出して くる 。 みほ||あいそ|わらい||うかべる||ゆういち||ちいさく|うなずき||て||もって||かみぶくろ||さしだして|

「 何 、 これ ? なん| 美保 は 何 か ヘン な 道具 でも 入って いる ので は ない か と 、 多少 注意 し ながら 受け取った 。 みほ||なん||||どうぐ||はいって|||||||たしょう|ちゅうい|||うけとった

受け取った 瞬間 、 思わず 悲鳴 を 上げ そうに なった 。 うけとった|しゅんかん|おもわず|ひめい||あげ|そう に|

予想 に 反して 、 紙袋 が 生温 かかった のだ 。 よそう||はんして|かみぶくろ||なまぬる||

思わず 投げ出そう と した 瞬間 、「 ぶた まん 。 おもわず|なげだそう|||しゅんかん||

ここ の 、 旨 かけ ん 」 と 祐一 が ぼ そっと 呟く 。 ||むね||||ゆういち||||つぶやく

「 ぶた まん ? 美保 は 投げ出そう と した 紙袋 を 、 辛うじて 持ちこたえた 。 みほ||なげだそう|||かみぶくろ||かろうじて|もちこたえた

「 私 に ? わたくし| 美保 が 尋ねる と 、 祐一 が 小さく 頷く 。 みほ||たずねる||ゆういち||ちいさく|うなずく

それ まで に も プレゼント を 持ってきて くれた 客 が い なかった と は 言わ ない が 、 食べ物 を それ も クッキー や チョコレート で は なく 、 まだ 熱い もの を もらった の は 初めて だった 。 ||||ぷれぜんと||もってきて||きゃく||||||いわ|||たべもの||||くっきー||ちょこれーと|||||あつい||||||はじめて|

きょとんと した 美保 に 、「 あんまり 好か ん ? ||みほ|||すか| ぶた まん 」 と 祐一 が 尋ねる 。 |||ゆういち||たずねる

「 いや 、 好き よ 」 と 美保 は 慌てて 答えた 。 |すき|||みほ||あわてて|こたえた

祐一 は 美保 の 手 から 紙袋 を 取る と 、 自分 の 膝 の 上 で 開けた 。 ゆういち||みほ||て||かみぶくろ||とる||じぶん||ひざ||うえ||あけた

一瞬 、 たれ を 入れる 小 皿 を 探す ような 仕草 を 見せた が 、 二 畳 ほど の ファッションヘルス の 個室 に 、 そんな もの が ある はず が ない 。 いっしゅん|||いれる|しょう|さら||さがす||しぐさ||みせた||ふた|たたみ|||||こしつ||||||||

紙袋 が 破ら れた とたん 、 窓 も ない 個室 に 、 ぶた まん の 匂い が こもった 。 かみぶくろ||やぶら|||まど|||こしつ|||||におい||

薄い 壁 の 向こう から 、 男 の 下品な 笑い声 が 聞こえた 。 うすい|かべ||むこう||おとこ||げひんな|わらいごえ||きこえた

祐一 は それ から も 三 日 に あげ ず 店 へ 通って きた 。 ゆういち|||||みっ|ひ||||てん||かよって|

シフト で 美保 が 休んで いる と 、 別の 子 を 指名 する わけで も なく 、 肩 を 落として 帰って いく のだ と マネージャー は 言って いた 。 しふと||みほ||やすんで|||べつの|こ||しめい|||||かた||おとして|かえって||||まねーじゃー||いって|

正直 、 自分 の どこ が 良くて 、 祐一 が 通って くる の か 、 美保 に は 分から なかった 。 しょうじき|じぶん||||よくて|ゆういち||かよって||||みほ|||わから|

初めて 来た とき も 、 通り一遍の サービス を した だけ で 、 特別 、 祐一 を 喜ば して あげた わけで も ない 。 はじめて|きた|||とおりいっぺんの|さーびす|||||とくべつ|ゆういち||よろこば||||| いや 、 もっと 言えば 、 シャワー を 浴びた あと 、 もの の 三 分 で 果てて しまった 祐一 は 、 逃げる ように 部屋 を 出て 行った のだ 。 ||いえば|しゃわー||あびた||||みっ|ぶん||はてて||ゆういち||にげる||へや||でて|おこなった|

それ が 二 日 後 、 ケロッ と して 来店 し 、 おみやげ に 「 ぶた まん 」 まで 持参 して くる 。 ||ふた|ひ|あと||||らいてん|||||||じさん||

狭い ファッションヘルス の 個室 の ベッド で 、 二 人 は まだ 熱い ぶた まん を 食べた 。 せまい|||こしつ||べっど||ふた|じん|||あつい||||たべた

会話 が 弾んだ わけで も ない 。 かいわ||はずんだ|||

美保 が 何 か 質問 して も 、 祐一 は ぼ そっと 一言 答える だけ で 、 祐一 の ほう から 何 か 尋ねて くる こと も ない 。 みほ||なん||しつもん|||ゆういち||||いちげん|こたえる|||ゆういち||||なん||たずねて||||

「 仕事 帰り ? しごと|かえり 「 そう 」

「 仕事場 は この 近所 ? しごとば|||きんじょ 「 仕事場 は いろいろ 。 しごとば|| 工事 現場 やけん 」 こうじ|げんば|

祐一 は 必ず いったん 家 へ 帰って 風呂 に 入り 、 きちんと 着替えて から 店 に 来た 。 ゆういち||かならず||いえ||かえって|ふろ||はいり||きがえて||てん||きた

「 ここ 、 シャワー あるけ ん 、 そのまま 来て も よか と に 」 |しゃわー||||きて||||

美保 の 言葉 に 、 祐一 は 何も 答え ない 。 みほ||ことば||ゆういち||なにも|こたえ|

その 日 、 ぶた まん を 食べて から シャワー 室 へ 連れて いった 。 |ひ||||たべて||しゃわー|しつ||つれて|

初めて の とき より は おどおど して い なかった が 、 やはり 泡 の ついた 手 で 性器 に 触れよう と する と 、 さっと 腰 を 引っ込めた 。 はじめて|||||||||||あわ|||て||せいき||ふれよう|||||こし||ひっこめた