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世界から猫が消えたなら (If Cats Disappeared from the World), 世界から猫が消えたなら:世界から時計が消えたなら:3

世界から猫が消えたなら:世界から時計が消えたなら:3

アルバム を めくり ながら 、 僕 は キャベツ に いろいろな 話 を 聞か せた 。

ゆらゆら 、 ゆらゆら 。

母さん の 膝 の 上 に 乗って 揺れて いる この 子 猫 が キャベツ 。 君 だ よ 。 ここ は 君 の 定 位置 だった 。 大好きだった 毛糸 。 いつまでも 遊んで いた ね 。 古ぼけた ブリキ の バケツ 。 気 が 付く と いつも その 中 に すっぽり 入って 母さん の こと を 見て い た ね 。 お気に入り の うすみどり の タオル 。 母さん の お気に入り だった んだ けど 、 すっかり 君 の もの に なって し まった 。 母さん が クリスマス に 君 に プレゼント した 小さな ピアノ の おもちゃ 。 あ 、 この 写真 。 弾いて る 弾いて る 。 少々 乱暴 で は あった けれど 見事な 演奏 だった んだ 。 あと これ だ 。 クリスマス ツリー 。 毎年 母さん が 飾り はじめる と 、 いつも 君 は 大 興奮 。 すぐ 壊しちゃ う から 母さん は 大変 そうだった 。 ほら 、 この 写真 。 飛びつ い ちゃ って る でしょ 。 めちゃくちゃ だ 。 ひどい ね キャベツ 。 でも 母さん は なんだか 嬉し そうだ 。

ひと つ の アルバム が 終わる と また 次の アルバム へ 。

レタス が 死んで 、 母さん が 動か なく なって しまった こと 。

そして 母さん が キャベツ を 拾って きた 日 の こと 。 それ から の 幸せな 日々 の こと 。 そして 、 母さん が 病気 に なって しまった こ と 。 キャベツ は じっと 黙って 僕 の 話 を 聞いて いた 。

時々 、 僕 は 「 覚えて る ?

」 と 尋ねた が キャベツ は どうやら 何も 覚えて い ない ようだった 。

キャベツ は なにも かも 忘れて いた 。

そんな キャベツ が 一 枚 の 写真 に 目 を 留めた 。

浴衣 を 着た 僕 と 、 母さん と 、 そして 父 。

母さん は 車 いす に 座って いて 、 その 膝 の 上 に は 不機嫌 そうな 顔 を した キャベツ 。 そして 僕 と 父 は ちょっと 気恥ずかし そうに 笑って いる 。 その 笑顔 が なんだか 物珍しくて 僕 も 思わず その 写真 に 見入って しまった 。

「 これ は 、 誰 で ご ざる か ?

」 父 の 姿 が 珍しい の か 、 キャベツ が 興味深 そうに 聞いて きた 。 あまり 父 の 話 は し たく ない 。

「 これ は どこ で ご ざる か ?

」 「 これ は 確か 、 温泉 に 行った とき だ な 」 写真 に 印字 さ れた 日付 を 見る と 、 母さん が 亡くなる ちょうど 一 週間 前 だった 。

」 「 最後に 思い出 で も 作り たかった んだ と 思う よ 。 旅行 なんて ろくに して こ なかった 人 だった から 」

キャベツ は 、 その 写真 を 食い入る ように 見つめて いる 。

」 「 う うむ …… 何 か 感じる で ご ざる 」 もしかしたら キャベツ の なか の 、 記憶 の 断片 が よみがえって きて いる の かも しれ ない 。

僕 は キャベツ の 記憶 を もう 少し 手繰り寄せ たく なって 、 この 写真 に ついて 語って 聞か せる こと に した 。

いま から 四 年 前 の こと だ 。

毎日 吐いて 苦しんで 、 眠れ ず に 過ごして いた 。

でも ある 朝 、 起きる と 突然 僕 を 呼び出して 言った 。

「 海 の 見える 温泉 に 行き たい わ 」

僕 は 困惑 して 、 本意 な の か 何度 も 確認 した 。

けれども 、 母さん は どうしても 行き たい と 言って 聞か なか った 。

いま まで そんな わがまま を 一 度 も 言った こと が ない 人 だった から 、 僕 は 驚いた 。

僕 は なんとか 医者 を 説得 して 外出 する 許可 を 得た が 、 ひと つ 厄介な 問題 が あった 。

長い 年月 を かけて 固まり きって しまった 関係 は どう しよう も ない ところ まで 来て いた 。

だから 、 父 と 温泉 に 行く こと は もちろん 、 父 に その 話 を する こと も 躊躇 われた 。 けれど 、 これ が 母さん に とって 最後 の 旅 に なる こと は 分かって いた 。 僕 は 父 を 説得 する こと に した 。

「 そんな 馬鹿げた こと を 」 と 父 は 相変わらず 紋切り型 な 返答 を 繰り返し 、 僕 は そんな 父 に 心底 呆れ ながら も なんとか 説き伏せた 。

いま まで 母さん を 旅行 に 連れて いく こと なんて なかった から 、 僕 は 最高の 旅程 を 作る こと に した 。

電車 に 乗って 三 時間 の 海辺 の 温泉 地 。 遠浅 の 海岸 が 広がり 、 柔らかな 太陽 の 光 に 包ま れて 、 風情 の ある 旅館 が 海辺 に 立ち 並ぶ 美しい 街 だった 。

「 いつか 行って み たい わ 」 と 母さん は いつも 雑誌 で その 温泉 地 を 見る 度 に 言って いた 。

築 百 年 を 超える 日本 家屋 を 改築 し 、 旅館 に 仕立てた 美しい 宿 。

ふたつ しか 部屋 が なく 、 二 階 の 部屋 から は 海 が 一望 できる 。 露天 風呂 の 先 に は 海岸 が 広がり 、 夕日 を 見る こと も できる 宿 だった 。 きっと 母さん が 喜んで くれる だろう と 思い 、 僕 は 奮発 して その 宿 を 予約 した 。

そして 約束 の 日 、 医者 や 看護 師 たち に 見送ら れ 、 僕たち 家族 は 旅 に 出た 。

久々 の 家族 三 人 ( と 猫 ) の 旅だった 。

電車 の 中 。

狭い ボックスシート に 隣り合わせ で 座って いる のに 、 ろくに 話さ ない 僕 と 父 を 母さん は にこにこ しながら 見て いた 。

無言 の 三 時間 が 続き 、 同じ 空間 を 共有 して いる こと が 限界 に 達し 始めた とき 、 車掌 の アナウンス が 温泉 地 に 到着 した こと を 告げた 。

僕 は 母さん の 車 いす を 押し ながら 、 足取り 軽く 宿 に 向かった 。

予約 が 入って おら ず 、 すでに ほか の 客 で 埋まって しまって いる のだ と いう 。

僕 は 怒った 。

これ は 母さん の 最後 の 旅 な のだ 。

それなのに 、 あまりに 理不尽 だ 。 だが 宿 の 女将 は 平謝り する だけ で 、 どうにも なら ない 状態 だった 。 途方 に くれた 。 母さん に 申し訳なかった 。

「 気 に し なくて いい わ よ 」

母さん は 笑い ながら 言った 。

でも 僕 は 自分 が 許せ なかった 。

情けなくて 、 悔しくて 涙 が 出 そうだった 。 ど う したら いい の か 分から ず 、 僕 は ただ 立ち尽くして いた 。

すると 父 が 、 その 大きくて 固い 手 で 僕 の 肩 を 強く たたいた 。

あまり に 唐突な 父 の 行動 に 虚 を 突か れた が 、 僕 は あわてて 後 を 追った 。

父 は 並び 立つ 旅館 に 次 から 次 へ と 飛び込み 、 空き が ない か どう か 聞いて 回った 。

時計 店 の なか で 、 何 時間 も 黙って 座り込み 時計 の 修理 を して いる 父 の 姿 しか 見た こと が なかった 僕 は 、 驚き 圧倒 さ れて しまった 。

僕 の 運動 会 に 来て も 石 の ように 座って 動か ない 人 だった から 、 こんなに 走り回る 姿 を 見る の は 生まれて 初めて だった 。

「 ああ 見えて 父さん は 、 昔 とても 足 が 速かった の よ 」

小さく 骨太な その 体躯 に 似合わ ず 美しい フォーム で 温泉 街 を 走って いく 父 の 後ろ姿 を 追い ながら 、 母 さん が よく 僕 に 言って いた 言葉 が よみがえって くる 。

断ら れ 、 また 断ら れ 、 僕 と 父 は 駆けずり回 っ た 。

ときに は 手分け して 、 ときに は 一緒に 頭 を 下げて 。 母さん に 野宿 を さ せる わけに は いか ない 。 これ は 母さん の 最後 の 旅 な のだ 。 それ は 僕 が 大人 に なって 初めて 父 と 心 を 通わせ 、 同じ 気持ち で 動いた 瞬間 だった 。 僕ら は 海辺 の 旅館 を 探して 探して 、 走り回って 、 ようやく 空いて いる 宿 を 見つけた 。

もう あたり は 暗く な って おり 、 外観 は よく 見え なかった のだ が 、 一目 で ずいぶん と 古びた 宿 である こと が 分かった 。

中 に 入る と 、 やはり 建物 は 古くて 、 歩く と 床 が ぎしぎし と 鳴った 。

「 なかなか いい 宿 じゃ ない 」

母さん は 嬉し そうに 言った 。

でも 僕 は 苦しかった 。

こんな 宿 に 泊まら せる の か と 思う と 、 胸 が つまり そうだ った 。 でも 仕方 が ない 。 父 が 言う ように 、 野宿 を する わけに は いか なかった 。 僕ら は 仕方なく この 宿 に 泊まる ことにした 。

宿 は 古かった が 、 仲居 さん も ご 主人 も とても 親切 だった 。

食事 も 豪華 で は ない が 、 手 が 込んで いて 美味しかった 。

母さん は 何度 も 何度 も 、 いい わ ね 、 美味しい わ ね 、 と 笑った 。 その 笑顔 で 僕 の 申し訳ない 気持ち は 少し だけ 和らいだ 。

その 夜 、 家族 三 人 で 布団 を 並べて 寝た 。

こんな こと は 、 何 十 年 ぶり だろう 。

僕 は 古い 板張り の 天井 を 見上げ ながら 、 小学生 の 頃 に 住んで いた 家 を 思い出して いた 。

僕ら が 住 ん で いた 家 は 部屋 数 が 少なくて 、 いつも 二 階 の 寝室 に 家族 三 人 で 布団 を 並べて 寝て いた 。

二十 年 が 経ち 、 僕ら は また こう やって 天井 を 見上げて いる 。

不思議な 気持ち だった 。

きっと 今夜 が 三 人 で 過ごす 最後 の 夜 に なる 。 そう 思う と 眠れ なかった 。 たぶん 父 も 、 そして 母さん も 眠れ なかった んだ と 思う 。 狭く 暗い 部屋 の 中 を 、 ただ キャベツ の スースー と いう 小さな 寝息 だけ が 、 波 音 に 重なって 反復 して いた 。

ようやく 外 が 明るく なり 始めた 。

おそらく 四 時 か 五 時 か 。

僕 は 布団 から 抜け出し 、 窓際 の いす に 腰かけ た 。 カーテン を 引き 、 窓 の 外 を 見て 、 驚いた 。 古びた 旅館 の 窓 の 外 に は 、 広大な 海 が 広がって いた の だ 。 暗がり の 中 を 走り回って 見つけた 宿 だった から 、 まさか こんな 目の前 に 海 が ある と は 思わ なかった 。

それ から しばらく の あいだ 、 ぼんやり と した 光 に 包ま れる 幻想 的な 海 を 眺めて いる と 、 背後 で 父 と 母さん が 起き だした 。

ふり返って 見る と 、 ふた り と も 目 の 下 に は クマ 。

やっぱり みんな 眠れ なかった のだろう 。

「 写真 、 撮ろう 。

朝 の 海 が 大好きな の 」

浴衣 姿 の 母さん は 、 窓 の 外 に 広がる 海 を 見て 、 僕 に 提案 した 。

車 いす を 押して 海 岸 へ 向かう 。

まだ 外 は 薄暗く 、 肌寒かった 。 もっと 海 の 近く へ 、 と 母さん が 言う のだ が 、 湿って 重たい 砂 に つかまり 、 車 いす は なかなか 前 に 進ま ない 。 すると 海岸 線 の 向こう に 朝日 が 昇り 始め 、 キラキラ と 海面 を 照らし 始める 。 あまりに も 美しい その 景色 に 圧倒 さ れて 、 僕ら 家族 は 立ち止まった 。 そして 、 光り輝く 海 を じっと 見つめた 。

「 早く !

写真 !

」 母さん の 言葉 に 我 に 返り 、 僕 は カメラ を 用意 する 。 父 と 僕 が 交互に 写真 を 撮ろう と して いる と 、 宿 の ご 主人 が 出て きて 「 撮り ましょう か 」 と 言って くれた 。

海 を 背負い 、 車 いす に 座った 母さん を 挟んで 、 父 と 僕 が 横 に しゃがむ 。 ようやく 目 を 覚ました キャベツ は 不機嫌 そうに 、 母さん の 膝 の 上 で 大きな あくび を して い る 。

「 はい 、 チーズ 」

ご 主人 が シャッター を 押す 。

」 かなり 強引な ご 主人 の ダジャレ に 無理やり 僕ら が 笑わ さ れた 瞬間 に 、 シャッター が 切ら れた 。 」 最後 の 旅 の 物語 を 話し 終えた 僕 は 、 キャベツ に 尋ねた 。 キャベツ 」

「 申し訳ない 。

どうしても 思い出せ ないで ご ざる 。

ただ ……」

「 ただ ?

」 「 幸せ だった 、 と いう こと だけ は 覚えて いる で ご ざる 」 「 幸せだった ?

」 「 そうで ご ざる 。 この 写真 に 写って いる 、 この とき が 、 幸せだった と いう こと だけ は 覚えて いる ので ご ざる 」

母さん の こと も 、 父 の こと も 、 古ぼけた 旅館 や この 海 の こと も 、 キャベツ は 何も 覚えて い ない 。

でも 〝 幸 せ だった 〟 と いう こと だけ を 覚えて いた 。

何 か 不思議な 感覚 だった 。

キャベツ の 言葉 に 引っかかる もの が あった 。

そして 改めて 写真 を 見直して 僕 は 気付いた 。

僕 を 生んで から 、 すべて の 時間 を 父 と 僕 の ため に ささげて きた 母さん が 、 最後 の 最後に 自分 の ため に その 時間 を 使う はず が なかった 。

母さん は 最後 まで 父 と 僕 の ため に 、 み ず から の 時間 を 使おう と した のだ 。

母さん 騙さ れた よ 。

いま まで 全然 気付か なかった よ 。

僕 は 写真 を 見つめる 。 写真 の なか の 父 は なんだか 照れくさ そうに 笑って いる 。 僕 も そっくりな 顔 で 照れ 笑い を して いる 。 そして 母さん は 、 これ 以上 ない ほど 幸せ そうに 笑って いた 。

その 母さん の 顔 を 見て いる と 、 胸 が 苦しく なって きた 。

苦しくて 、 悲しくて 、 情けなくて 、 気 が つく と 僕 は キ ャベツ の 前 で 涙 を 流して いた 。

声 も 出さ ず 、 表情 も 変え ず 。 ただ 写真 を 見つめ ながら 静かに 僕 は 泣いて いた 。

心配 そうに キャベツ が そば に 寄って きて 、 膝 の 上 に ちょこんと 乗る 。

その 温もり が 僕 の 体 に 伝わり 、 心 が 穏やかに なって いく 。

猫 と いう の は 大した もの だ 。

いつも 僕 の 気持ち に は 反応 して くれ ない くせ に 、 本当に 辛い とき は こうして そば に いて くれる 。

時間 と 同じ ように 、 猫 の 世界 に は 「 孤独 」 も 存在 し ない のだろう 。

ただ 「 自分 だけ の 時 」 と 「 自分 以外 も いる 時 」

だけ が 存在 する のだ 。

孤独 は 人間 だけ の 持ち物 な の かも しれ ない 。

だ けれども 。

母さん の 笑顔 を 見 ながら 僕 は 思う 。

孤独 が ある から 僕ら に は 〝 ある 感情 〟 が ある 。

」 「 それ は …… なんで ご ざる か ? 」 「 まあ 猫 に は 分から ない かも しれ ない けれど 、 人間 に は ある んだ 。 誰 か が 好き だったり 、 大切 だったり 、 と に かく 一緒に いたい と 思う 気持ち だ よ 」

「 それ は いい もの で ご ざる か ?

」 「 うーん 。 まあ 面倒くさかったり 、 ときに は 邪魔 だったり も する のだ けれど 、 でも いい もの だ よ 。

うん 、 とても い い もの な んだ 」

そう だ 。

僕ら に は 愛 と いう 感情 が ある 。

この 母さん の 表情 を 愛 と 言わ ず に なん と 言う のだろう か 。

時間 、 色 、 温度 、 孤独 、 そして 愛 。

人間 の 世界 に しか 存在 し ない もの たち 。 人間 を 規制 し ながら も 、 人間 を 自由に する そのもの たち 。 そのもの たち こそ が 僕ら を 人間 たら しめて いる 。

そう 思った 瞬間 、 僕 の 耳 に カチコチ と いう 時計 の 音 が 飛びこんで きた 。

やはり 時計 は ない 。

ただ 目 に は 見え ない けれども 、 確かに そこ に 僕 を 支えて いる 何 か が ある こと を 感じた 。

無数の カチコチ と いう 音 が 、 この 世界 に 生きる ありとあらゆる 人間 の 心臓 の 音 の ように 聞こえて くる 。

回る ストップウォッチ の 秒針 。

ボタン が 押さ れる 。

押さ れた の は 目覚まし時計 の ボタン 。

鳴り響く 音 。

時 を 刻む 音 。

その 音 の 気配 に しばらく 僕 は 耳 を 傾ける 。

嫌な 予感 が する 。

「 がっかり した で 、 ご ざる か ?

」 突然 背後 から 声 が 聞こえる 。 驚いて 後ろ を 振り返る と アロハ が 立って いる 。

夜 の 海 を 描いた 不気味な 柄 の 黒い アロハシャツ を 着て 、 ニヤニヤ と 笑って いる 。

「 お 代官 様 は もう すぐ 死ぬ で ご ざる か ?

」 「 笑え ない ジョーク です ね 」 「 いやいや すみません !

なんか 思った より 魔法 の 効き目 が 続か なかった みたい っす ね 。

もう 普通の 猫 に 戻っちゃ った ! がっかり した で ご ざる か ? 」 「 やめて ください 」 「 いや ね 、 でも ちょうど 良かった です よ 」

そういう と アロハ は また ニヤリ と 笑う 。

いつか 見た 、 悪魔 的な 笑い 。

悪意 。

これ も また 人間 しか 持ち え ない 感情 。

「 次に 世界 から 消して もらう もの を 決めた んです 」

アロハ は 笑い ながら 続ける 。

息 が 苦しく なって くる 。

想像 力 。

人間 しか 持ち え ない 能力 。

残酷な イメージ が 僕 の 脳 内 を かけめぐる 。

」 思わず 叫ぶ 。 いや 、 僕 が 叫んだ ので は ない 。

僕 と 同じ 顔 を した 悪魔 が 叫んだ のだ 。

「 って 叫び たい でしょう ?

」 アロハ は 笑う 。 弱々しく 、 膝 を ついて 。

そして 悪魔 は 僕 に 告げた 。

世界から猫が消えたなら:世界から時計が消えたなら:3 せかい から ねこ が きえた なら|せかい から とけい が きえた なら Wenn die Katze aus der Welt verschwindet: wenn die Uhr aus der Welt verschwindet: 3 If the cat disappears from the world: If the clock disappears from the world: 3 Si el gato desapareciera del mundo: si el reloj desapareciera del mundo: 3 세상에서 고양이가 사라졌다면: 세상에서 시계가 사라졌다면: 문고리 Se o gato desaparecesse do mundo: se o relógio desaparecesse do mundo: 3 Om katten försvann från världen: om klockan försvann från världen: 3 如果猫从世界上消失: 如果钟表从世界上消失: 3 如果貓從世界上消失: 如果鐘錶從世界上消失: 3

アルバム を めくり ながら 、 僕 は キャベツ に いろいろな 話 を 聞か せた 。 あるばむ||||ぼく||きゃべつ|||はなし||きか| While flipping through the album, I told the cabbage a lot of stories. Enquanto folheava o álbum, pedi a Cabbage que nos contasse muitas histórias.

ゆらゆら 、 ゆらゆら 。

母さん の 膝 の 上 に 乗って 揺れて いる この 子 猫 が キャベツ 。 かあさん||ひざ||うえ||のって|ゆれて|||こ|ねこ||きゃべつ This kitten swaying on her mother's lap is a cabbage. Ce petit chat tremble en roulant sur les genoux de sa mère. 君 だ よ 。 きみ|| Ти є. ここ は 君 の 定 位置 だった 。 ||きみ||てい|いち| This was your home position. 大好きだった 毛糸 。 だいすきだった|けいと いつまでも 遊んで いた ね 。 |あそんで|| 古ぼけた ブリキ の バケツ 。 ふるぼけた|ぶりき||ばけつ 一個舊錫桶。 気 が 付く と いつも その 中 に すっぽり 入って 母さん の こと を 見て い た ね 。 き||つく||||なか|||はいって|かあさん||||みて||| Whenever I noticed, I was completely inside it and looked at my mother. 在我意識到之前,我總是完全沉浸在其中,看著我的母親。 お気に入り の うすみどり の タオル 。 おきにいり||||たおる 母さん の お気に入り だった んだ けど 、 すっかり 君 の もの に なって し まった 。 かあさん||おきにいり|||||きみ|||||| 母さん が クリスマス に 君 に プレゼント した 小さな ピアノ の おもちゃ 。 かあさん||くりすます||きみ||ぷれぜんと||ちいさな|ぴあの|| 你妈妈送给你的圣诞节小玩具钢琴。 あ 、 この 写真 。 ||しゃしん 弾いて る 弾いて る 。 はじいて||はじいて| 少々 乱暴 で は あった けれど 見事な 演奏 だった んだ 。 しょうしょう|らんぼう|||||みごとな|えんそう|| It was a bit violent but it was a splendid performance. 虽然有些粗糙,但还是一场精彩的表演。 あと これ だ 。 クリスマス ツリー 。 くりすます|つりー 毎年 母さん が 飾り はじめる と 、 いつも 君 は 大 興奮 。 まいとし|かあさん||かざり||||きみ||だい|こうふん すぐ 壊しちゃ う から 母さん は 大変 そうだった 。 |こわしちゃ|||かあさん||たいへん|そう だった My mother seemed to be in trouble as I will destroy it. ほら 、 この 写真 。 ||しゃしん You see, this photo. 飛びつ い ちゃ って る でしょ 。 とびつ||||| I'm jumping. 飛びつ い ちゃ って る でしょ 。 你马上就要跳进去了。 你馬上就要跳進去了。 めちゃくちゃ だ 。 It's messed up. ひどい ね キャベツ 。 ||きゃべつ でも 母さん は なんだか 嬉し そうだ 。 |かあさん|||うれし|そう だ

ひと つ の アルバム が 終わる と また 次の アルバム へ 。 |||あるばむ||おわる|||つぎの|あるばむ|

レタス が 死んで 、 母さん が 動か なく なって しまった こと 。 れたす||しんで|かあさん||うごか|||| Sałata umarła, a moja matka utknęła.

そして 母さん が キャベツ を 拾って きた 日 の こと 。 |かあさん||きゃべつ||ひろって||ひ|| And the day when my mother picked up the cabbage. それ から の 幸せな 日々 の こと 。 |||しあわせな|ひび|| そして 、 母さん が 病気 に なって しまった こ と 。 |かあさん||びょうき||||| And my mother got sick. キャベツ は じっと 黙って 僕 の 話 を 聞いて いた 。 きゃべつ|||だまって|ぼく||はなし||きいて|

時々 、 僕 は 「 覚えて る ? ときどき|ぼく||おぼえて|

」 と 尋ねた が キャベツ は どうやら 何も 覚えて い ない ようだった 。 |たずねた||きゃべつ|||なにも|おぼえて|||

キャベツ は なにも かも 忘れて いた 。 きゃべつ||||わすれて| I have forgotten anything about cabbage.

そんな キャベツ が 一 枚 の 写真 に 目 を 留めた 。 |きゃべつ||ひと|まい||しゃしん||め||とどめた Such a cabbage caught my eye in one photo.

浴衣 を 着た 僕 と 、 母さん と 、 そして 父 。 ゆかた||きた|ぼく||かあさん|||ちち

母さん は 車 いす に 座って いて 、 その 膝 の 上 に は 不機嫌 そうな 顔 を した キャベツ 。 かあさん||くるま|||すわって|||ひざ||うえ|||ふきげん|そう な|かお|||きゃべつ The mother was sitting in a wheelchair, and on her lap was a cabbage with a moody face. そして 僕 と 父 は ちょっと 気恥ずかし そうに 笑って いる 。 |ぼく||ちち|||きはずかし|そう に|わらって| 我和父親都笑了,有點尷尬。 その 笑顔 が なんだか 物珍しくて 僕 も 思わず その 写真 に 見入って しまった 。 |えがお|||ものめずらしくて|ぼく||おもわず||しゃしん||みいって| Uśmiech był tak niezwykły, że nagle spojrzałem na zdjęcie. 那笑容有些奇怪,我忍不住盯著照片。

「 これ は 、 誰 で ご ざる か ? ||だれ|||| "Who is this?

」 父 の 姿 が 珍しい の か 、 キャベツ が 興味深 そうに 聞いて きた 。 ちち||すがた||めずらしい|||きゃべつ||きょうみぶか|そう に|きいて| The cabbage asked me if my father's appearance was unusual. あまり 父 の 話 は し たく ない 。 |ちち||はなし|||| I don't want to talk about my father too much.

「 これ は どこ で ご ざる か ?

」 「 これ は 確か 、 温泉 に 行った とき だ な 」 ||たしか|おんせん||おこなった||| 写真 に 印字 さ れた 日付 を 見る と 、 母さん が 亡くなる ちょうど 一 週間 前 だった 。 しゃしん||いんじ|||ひづけ||みる||かあさん||なくなる||ひと|しゅうかん|ぜん| Looking at the date printed on the photo, it was just a week before my mother died.

」 「 最後に 思い出 で も 作り たかった んだ と 思う よ 。 さいごに|おもいで|||つくり||||おもう| "Finally, I think I wanted to make a memory. 旅行 なんて ろくに して こ なかった 人 だった から 」 りょこう||||||じん|| Because he was the one who didn't travel

キャベツ は 、 その 写真 を 食い入る ように 見つめて いる 。 きゃべつ|||しゃしん||くいいる||みつめて| The cabbage is staring at the photo as if it were digging into it. 白菜目不轉睛地盯著照片。

」 「 う うむ …… 何 か 感じる で ご ざる 」 ||なん||かんじる||| "Umm ... I can't help feeling something." もしかしたら キャベツ の なか の 、 記憶 の 断片 が よみがえって きて いる の かも しれ ない 。 |きゃべつ||||きおく||だんぺん|||||||| Perhaps a piece of memory in the cabbage is being revived.

僕 は キャベツ の 記憶 を もう 少し 手繰り寄せ たく なって 、 この 写真 に ついて 語って 聞か せる こと に した 。 ぼく||きゃべつ||きおく|||すこし|たぐりよせ||||しゃしん|||かたって|きか|||| I wanted to get a little more recollection of the cabbage, so I decided to talk about this photo. 我想找回一些關於高麗菜的記憶,所以我決定告訴他們這張照片。

いま から 四 年 前 の こと だ 。 ||よっ|とし|ぜん||| It was four years ago.

毎日 吐いて 苦しんで 、 眠れ ず に 過ごして いた 。 まいにち|はいて|くるしんで|ねむれ|||すごして| I was suffering from vomiting every day and was spending time without sleeping.

でも ある 朝 、 起きる と 突然 僕 を 呼び出して 言った 。 ||あさ|おきる||とつぜん|ぼく||よびだして|いった But one morning, when I woke up, I suddenly called me and said.

「 海 の 見える 温泉 に 行き たい わ 」 うみ||みえる|おんせん||いき||

僕 は 困惑 して 、 本意 な の か 何度 も 確認 した 。 ぼく||こんわく||ほんい||||なんど||かくにん| I was confused and repeatedly confirmed whether it was my intention.

けれども 、 母さん は どうしても 行き たい と 言って 聞か なか った 。 |かあさん|||いき|||いって|きか|| However, my mother didn't ask me that she really wanted to go.

いま まで そんな わがまま を 一 度 も 言った こと が ない 人 だった から 、 僕 は 驚いた 。 |||||ひと|たび||いった||||じん|||ぼく||おどろいた I was surprised because he had never said such selfishness.

僕 は なんとか 医者 を 説得 して 外出 する 許可 を 得た が 、 ひと つ 厄介な 問題 が あった 。 ぼく|||いしゃ||せっとく||がいしゅつ||きょか||えた||||やっかいな|もんだい|| I managed to persuade the doctor and get permission to go out, but there was one troublesome problem.

長い 年月 を かけて 固まり きって しまった 関係 は どう しよう も ない ところ まで 来て いた 。 ながい|ねんげつ|||かたまり|||かんけい||||||||きて| The relationship that has been solidified over the years has come to a point where it can't be helped. Relacje, które ustabilizowały się przez lata, osiągnęły punkt, w którym nie można było pomóc. 多年來的關係已經僵化,已經到了無能的地步。

だから 、 父 と 温泉 に 行く こと は もちろん 、 父 に その 話 を する こと も 躊躇 われた 。 |ちち||おんせん||いく||||ちち|||はなし|||||ちゅうちょ| So I hesitated not only to go to the hot springs with my dad, but also to tell him the story. 所以,我不僅猶豫著要不要和爸爸一起去泡溫泉,也猶豫著要不要跟他談這件事。 けれど 、 これ が 母さん に とって 最後 の 旅 に なる こと は 分かって いた 。 |||かあさん|||さいご||たび|||||わかって| But I knew this would be my mother's last trip. 僕 は 父 を 説得 する こと に した 。 ぼく||ちち||せっとく|||| I decided to persuade my father.

「 そんな 馬鹿げた こと を 」 と 父 は 相変わらず 紋切り型 な 返答 を 繰り返し 、 僕 は そんな 父 に 心底 呆れ ながら も なんとか 説き伏せた 。 |ばかげた||||ちち||あいかわらず|もんきりがた||へんとう||くりかえし|ぼく|||ちち||しんそこ|あきれ||||ときふせた "That's ridiculous," he said, as usual, with a striated response, and I managed to persuade him, even though he was deeply disappointed. 「這真是一派胡言。」父親不斷重複他的標準回答,雖然我深感失望,但我還是設法說服了他。

いま まで 母さん を 旅行 に 連れて いく こと なんて なかった から 、 僕 は 最高の 旅程 を 作る こと に した 。 ||かあさん||りょこう||つれて||||||ぼく||さいこうの|りょてい||つくる||| I never took my mother to travel until now, so I decided to make the best itinerary.

電車 に 乗って 三 時間 の 海辺 の 温泉 地 。 でんしゃ||のって|みっ|じかん||うみべ||おんせん|ち 遠浅 の 海岸 が 広がり 、 柔らかな 太陽 の 光 に 包ま れて 、 風情 の ある 旅館 が 海辺 に 立ち 並ぶ 美しい 街 だった 。 とおあさ||かいがん||ひろがり|やわらかな|たいよう||ひかり||つつま||ふぜい|||りょかん||うみべ||たち|ならぶ|うつくしい|がい| 這是一個美麗的小鎮,海岸寬闊而淺,沐浴在柔和的陽光下,古色古香的旅館沿著海岸鱗次櫛比。

「 いつか 行って み たい わ 」 と 母さん は いつも 雑誌 で その 温泉 地 を 見る 度 に 言って いた 。 |おこなって|||||かあさん|||ざっし|||おんせん|ち||みる|たび||いって| "I want to go someday," she always said in magazines every time she saw the hot springs.

築 百 年 を 超える 日本 家屋 を 改築 し 、 旅館 に 仕立てた 美しい 宿 。 きず|ひゃく|とし||こえる|にっぽん|かおく||かいちく||りょかん||したてた|うつくしい|やど A beautiful inn that has been remodeled into a Japanese inn over 100 years ago. 由100多年前建造的日式房屋改建而成的美麗旅館。

ふたつ しか 部屋 が なく 、 二 階 の 部屋 から は 海 が 一望 できる 。 ふた つ||へや|||ふた|かい||へや|||うみ||いちぼう| ふたつ しか 部屋 が なく 、 二 階 の 部屋 から は 海 が 一望 できる 。 房间只有两间,二楼的一间可以看到大海全景。 露天 風呂 の 先 に は 海岸 が 広がり 、 夕日 を 見る こと も できる 宿 だった 。 ろてん|ふろ||さき|||かいがん||ひろがり|ゆうひ||みる||||やど| Beyond the outdoor bath, the coast spread and it was an inn that you can see the sunset. きっと 母さん が 喜んで くれる だろう と 思い 、 僕 は 奮発 して その 宿 を 予約 した 。 |かあさん||よろこんで||||おもい|ぼく||ふんぱつ|||やど||よやく| I thought my mother would be happy and I made a reservation and booked the inn. 我確信媽媽會很高興,所以我冒險預訂了酒店。

そして 約束 の 日 、 医者 や 看護 師 たち に 見送ら れ 、 僕たち 家族 は 旅 に 出た 。 |やくそく||ひ|いしゃ||かんご|し|||みおくら||ぼくたち|かぞく||たび||でた そして 約束 の 日 、 医者 や 看護 師 たち に 見送ら れ 、 僕たち 家族 は 旅 に 出た 。

久々 の 家族 三 人 ( と 猫 ) の 旅だった 。 ひさびさ||かぞく|みっ|じん||ねこ||たびだった

電車 の 中 。 でんしゃ||なか

狭い ボックスシート に 隣り合わせ で 座って いる のに 、 ろくに 話さ ない 僕 と 父 を 母さん は にこにこ しながら 見て いた 。 せまい|||となりあわせ||すわって||||はなさ||ぼく||ちち||かあさん|||し ながら|みて| Sitting next to a narrow box seat, my mother was smiling and watching me and my father not talking. 尽管我们坐在小包厢里,但我和妈妈看着我和爸爸,微笑着,几乎没有说话。 儘管我們坐在小包廂裡,我和媽媽看著我和爸爸,微笑著,幾乎沒有說話。

無言 の 三 時間 が 続き 、 同じ 空間 を 共有 して いる こと が 限界 に 達し 始めた とき 、 車掌 の アナウンス が 温泉 地 に 到着 した こと を 告げた 。 むごん||みっ|じかん||つづき|おなじ|くうかん||きょうゆう|||||げんかい||たっし|はじめた||しゃしょう||あなうんす||おんせん|ち||とうちゃく||||つげた 三個小時的沉默持續著,正當我們即將達到共享同一空間的極限時,售票員宣布我們已到達溫泉區。

僕 は 母さん の 車 いす を 押し ながら 、 足取り 軽く 宿 に 向かった 。 ぼく||かあさん||くるま|||おし||あしどり|かるく|やど||むかった Kiedy pchałem wózek mojej mamy, zrobiłem szybki krok w stronę gospody. 我推著媽媽的輪椅,慢慢朝飯店走去。

予約 が 入って おら ず 、 すでに ほか の 客 で 埋まって しまって いる のだ と いう 。 よやく||はいって||||||きゃく||うずまって||||| It is said that the reservation is not entered and it is already filled with other customers. Mówi się, że został już zarezerwowany i jest już zajęty przez innych klientów.

僕 は 怒った 。 ぼく||いかった Byłem zły.

これ は 母さん の 最後 の 旅 な のだ 。 ||かあさん||さいご||たび||

それなのに 、 あまりに 理不尽 だ 。 ||りふじん| Nevertheless, it is too unreasonable. だが 宿 の 女将 は 平謝り する だけ で 、 どうにも なら ない 状態 だった 。 |やど||おかみ||ひらあやまり|||||||じょうたい| However, the lady general of the inn is only in a state of apology, and it was in a state of disappointment. 途方 に くれた 。 とほう|| 我不知所措。 母さん に 申し訳なかった 。 かあさん||もうし わけなかった I did not speak to my mother. Nie powiedziałem tego mojej matce. 我为我的母亲感到难过。

「 気 に し なくて いい わ よ 」 き|||||| "You do not have to worry" „Nie musisz się tym martwić”.

母さん は 笑い ながら 言った 。 かあさん||わらい||いった

でも 僕 は 自分 が 許せ なかった 。 |ぼく||じぶん||ゆるせ|

情けなくて 、 悔しくて 涙 が 出 そうだった 。 なさけなくて|くやしくて|なみだ||だ|そう だった I was pitiful, regretful, and I was about to fall asleep. 我如此的可憐和沮喪,以至於我想哭。 ど う したら いい の か 分から ず 、 僕 は ただ 立ち尽くして いた 。 ||||||わから||ぼく|||たちつくして| 我只是站在那里,不知道该怎么办。 我只是站在那裡,不知道該怎麼辦。

すると 父 が 、 その 大きくて 固い 手 で 僕 の 肩 を 強く たたいた 。 |ちち|||おおきくて|かたい|て||ぼく||かた||つよく|

あまり に 唐突な 父 の 行動 に 虚 を 突か れた が 、 僕 は あわてて 後 を 追った 。 ||とうとつな|ちち||こうどう||きょ||つか|||ぼく|||あと||おった Uderzyło mnie zachowanie mojego ojca, który był tak gwałtowny. 我被父親突然的舉動嚇了一跳,但還是趕緊追了上去。

父 は 並び 立つ 旅館 に 次 から 次 へ と 飛び込み 、 空き が ない か どう か 聞いて 回った 。 ちち||ならび|たつ|りょかん||つぎ||つぎ|||とびこみ|あき||||||きいて|まわった Mój ojciec wskakiwał jeden po drugim do stojących karczm i pytał, czy są jakieś wolne miejsca. 我父亲闯入一家又一家旅馆,询问是否还有空房。

時計 店 の なか で 、 何 時間 も 黙って 座り込み 時計 の 修理 を して いる 父 の 姿 しか 見た こと が なかった 僕 は 、 驚き 圧倒 さ れて しまった 。 とけい|てん||||なん|じかん||だまって|すわりこみ|とけい||しゅうり||||ちち||すがた||みた||||ぼく||おどろき|あっとう||| Among the watch shops, I was stared silent for hours and I only saw the figure of my father sitting in the watch for repair, I was surprised and overwhelmed. Byłem zaskoczony i przytłoczony faktem, że mogłem zobaczyć tylko pojawienie się mojego ojca w sklepie z zegarkami, który siedział bez słowa przez wiele godzin i naprawiał zegarek.

僕 の 運動 会 に 来て も 石 の ように 座って 動か ない 人 だった から 、 こんなに 走り回る 姿 を 見る の は 生まれて 初めて だった 。 ぼく||うんどう|かい||きて||いし|||すわって|うごか||じん||||はしりまわる|すがた||みる|||うまれて|はじめて| Even though I came to the athletic meeting, I was sitting like a stone and not moving, so it was my first time to see a running appearance like this.

「 ああ 見えて 父さん は 、 昔 とても 足 が 速かった の よ 」 |みえて|とうさん||むかし||あし||はやかった|| "You know, my father used to be a very fast man.

小さく 骨太な その 体躯 に 似合わ ず 美しい フォーム で 温泉 街 を 走って いく 父 の 後ろ姿 を 追い ながら 、 母 さん が よく 僕 に 言って いた 言葉 が よみがえって くる 。 ちいさく|ほねぶとな||からだ く||にあわ||うつくしい|ふぉーむ||おんせん|がい||はしって||ちち||うしろすがた||おい||はは||||ぼく||いって||ことば||| The words that my mother used to say to me are resurrected while chasing the back of my father who runs in the hot spring town in a beautiful form that doesn't look like a small and heavy body. 当我跟着父亲跑过温泉小镇时,他那美丽的身姿与他矮小而粗壮的身躯相得益彰,母亲曾经对我说过的话又浮现在我的脑海里。 當我跟著父親跑過溫泉小鎮時,他那優美的身姿與他矮小而粗壯的身軀相得益彰,母親曾經對我說過的話又浮現在我的腦海裡。

断ら れ 、 また 断ら れ 、 僕 と 父 は 駆けずり回 っ た 。 ことわら|||ことわら||ぼく||ちち||かけずりまわ|| I was refused, and again, I and my father ran around. 我和父親四處奔走,一次又一次被拒絕。

ときに は 手分け して 、 ときに は 一緒に 頭 を 下げて 。 ||てわけ||||いっしょに|あたま||さげて Sometimes you have to break it up, sometimes you lower your head. 有時我們分開,有時我們一起低頭。 母さん に 野宿 を さ せる わけに は いか ない 。 かあさん||のじゅく||||||| I can't let my mom go wild. 我不能让妈妈睡在野外。 我不能讓媽媽睡在野外。 これ は 母さん の 最後 の 旅 な のだ 。 それ は 僕 が 大人 に なって 初めて 父 と 心 を 通わせ 、 同じ 気持ち で 動いた 瞬間 だった 。 ||かあさん||さいご||たび|||||ぼく||おとな|||はじめて|ちち||こころ||かよわせ|おなじ|きもち||うごいた|しゅんかん| 僕ら は 海辺 の 旅館 を 探して 探して 、 走り回って 、 ようやく 空いて いる 宿 を 見つけた 。 ぼくら||うみべ||りょかん||さがして|さがして|はしりまわって||あいて||やど||みつけた We looked for a seaside inn, ran around and finally found a vacant inn. 我们四处寻找海边旅馆,最后找到了一间空着的。

もう あたり は 暗く な って おり 、 外観 は よく 見え なかった のだ が 、 一目 で ずいぶん と 古びた 宿 である こと が 分かった 。 |||くらく||||がいかん|||みえ||||いちもく||||ふるびた|やど||||わかった It was dark around here, and I couldn't see the appearance well, but at a glance I found that it was a very old inn. 天已經黑了,外面看不清,但一看就知道這是一家很古老的客棧。

中 に 入る と 、 やはり 建物 は 古くて 、 歩く と 床 が ぎしぎし と 鳴った 。 なか||はいる|||たてもの||ふるくて|あるく||とこ||ぎし ぎし||なった

「 なかなか いい 宿 じゃ ない 」 ||やど|| "It's not a good hotel"

母さん は 嬉し そうに 言った 。 かあさん||うれし|そう に|いった

でも 僕 は 苦しかった 。 |ぼく||くるしかった Mother said pleasantly.

こんな 宿 に 泊まら せる の か と 思う と 、 胸 が つまり そうだ った 。 |やど||とまら|||||おもう||むね|||そう だ| But I was struggling. 一想到能住進這樣的旅館,我的心就揪緊了。 でも 仕方 が ない 。 |しかた|| I was wondering if he would let me stay at such an inn, so my heart felt like that. 父 が 言う ように 、 野宿 を する わけに は いか なかった 。 ちち||いう||のじゅく|||||| But it can not be helped. 僕ら は 仕方なく この 宿 に 泊まる ことにした 。 ぼくら||しかたなく||やど||とまる| As my father says, I could not do the camp.

宿 は 古かった が 、 仲居 さん も ご 主人 も とても 親切 だった 。 やど||ふるかった||なかい||||あるじ|||しんせつ| Karczma była stara, ale Nakai i jej mąż byli bardzo mili. 客棧很舊,但是服務生和主人很友善。

食事 も 豪華 で は ない が 、 手 が 込んで いて 美味しかった 。 しょくじ||ごうか|||||て||こんで||おいしかった The food wasn't gorgeous, but it was elaborate and delicious. Jedzenie nie było wspaniałe, ale było wyszukane i smaczne.

母さん は 何度 も 何度 も 、 いい わ ね 、 美味しい わ ね 、 と 笑った 。 かあさん||なんど||なんど|||||おいしい||||わらった The meal was not luxurious, but it was crowded and it was beautiful. Moja matka ciągle się śmiała, było dobrze, było pyszne. 妈妈笑着说:“真好,真好吃”,一遍又一遍地说。 その 笑顔 で 僕 の 申し訳ない 気持ち は 少し だけ 和らいだ 。 |えがお||ぼく||もうしわけない|きもち||すこし||やわらいだ That smile eased my apologetic feelings a little. 那笑容稍微緩解了我的歉意。

その 夜 、 家族 三 人 で 布団 を 並べて 寝た 。 |よ|かぞく|みっ|じん||ふとん||ならべて|ねた

こんな こと は 、 何 十 年 ぶり だろう 。 |||なん|じゅう|とし|| This is the first time in decades. 类似的事情已经过去几十年了。

僕 は 古い 板張り の 天井 を 見上げ ながら 、 小学生 の 頃 に 住んで いた 家 を 思い出して いた 。 ぼく||ふるい|いたばり||てんじょう||みあげ||しょうがくせい||ころ||すんで||いえ||おもいだして| I guess this is the first time in decades.

僕ら が 住 ん で いた 家 は 部屋 数 が 少なくて 、 いつも 二 階 の 寝室 に 家族 三 人 で 布団 を 並べて 寝て いた 。 ぼくら||じゅう||||いえ||へや|すう||すくなくて||ふた|かい||しんしつ||かぞく|みっ|じん||ふとん||ならべて|ねて|

二十 年 が 経ち 、 僕ら は また こう やって 天井 を 見上げて いる 。 にじゅう|とし||たち|ぼくら|||||てんじょう||みあげて| Twenty years have passed and we are looking up at the ceiling again in this way. 二十年过去了,我们再次抬头仰望天花板。

不思議な 気持ち だった 。 ふしぎな|きもち|

きっと 今夜 が 三 人 で 過ごす 最後 の 夜 に なる 。 |こんや||みっ|じん||すごす|さいご||よ|| そう 思う と 眠れ なかった 。 |おもう||ねむれ| It is definitely the last night tonight is spent by three people. たぶん 父 も 、 そして 母さん も 眠れ なかった んだ と 思う 。 |ちち|||かあさん||ねむれ||||おもう 我想我的父亲和母亲可能也睡不着。 狭く 暗い 部屋 の 中 を 、 ただ キャベツ の スースー と いう 小さな 寝息 だけ が 、 波 音 に 重なって 反復 して いた 。 せまく|くらい|へや||なか|||きゃべつ|||||ちいさな|ねいき|||なみ|おと||かさなって|はんぷく|| 又小又黑的房間裡,唯一能聽到的就是白菜嘩啦啦的微弱聲音,在海浪聲中迴盪。

ようやく 外 が 明るく なり 始めた 。 |がい||あかるく||はじめた

おそらく 四 時 か 五 時 か 。 |よっ|じ||いつ|じ|

僕 は 布団 から 抜け出し 、 窓際 の いす に 腰かけ た 。 ぼく||ふとん||ぬけだし|まどぎわ||||こしかけ| 我从蒲团里钻出来,在窗边的椅子上坐下。 カーテン を 引き 、 窓 の 外 を 見て 、 驚いた 。 かーてん||ひき|まど||がい||みて|おどろいた 古びた 旅館 の 窓 の 外 に は 、 広大な 海 が 広がって いた の だ 。 ふるびた|りょかん||まど||がい|||こうだいな|うみ||ひろがって||| 暗がり の 中 を 走り回って 見つけた 宿 だった から 、 まさか こんな 目の前 に 海 が ある と は 思わ なかった 。 くらがり||なか||はしりまわって|みつけた|やど|||||めのまえ||うみ|||||おもわ| I had found the lodge by running around in the dark, so I had no idea that the ocean was right in front of me. 摸黑跑了一圈才找到客棧,沒想到眼前就是大海。

それ から しばらく の あいだ 、 ぼんやり と した 光 に 包ま れる 幻想 的な 海 を 眺めて いる と 、 背後 で 父 と 母さん が 起き だした 。 ||||||||ひかり||つつま||げんそう|てきな|うみ||ながめて|||はいご||ちち||かあさん||おき| It was a lodging we found running around in the dark, so I did not think there was any sea in front of this. 在那之后的一段时间里,当我凝视着被朦胧的光包围着的梦幻般的海洋时,我的父亲和母亲在我身后醒来了。

ふり返って 見る と 、 ふた り と も 目 の 下 に は クマ 。 ふりかえって|みる||||||め||した|||くま Looking back, there is a bear under your eyes. Patrząc wstecz, znalazłem niedźwiedzia pod oczami z pokrywką.

やっぱり みんな 眠れ なかった のだろう 。 ||ねむれ|| I looked back and looked like a bear at the bottom of my eye.

「 写真 、 撮ろう 。 しゃしん|とろう After all it would have been impossible to sleep.

朝 の 海 が 大好きな の 」 あさ||うみ||だいすきな| "Let's take photos.

浴衣 姿 の 母さん は 、 窓 の 外 に 広がる 海 を 見て 、 僕 に 提案 した 。 ゆかた|すがた||かあさん||まど||がい||ひろがる|うみ||みて|ぼく||ていあん| I love the morning sea. " 穿着浴衣的母亲看着窗外的大海,向我建议了这个。

車 いす を 押して 海 岸 へ 向かう 。 くるま|||おして|うみ|きし||むかう My mother in a yukata rose watched the ocean spreading outside the window and proposed to me.

まだ 外 は 薄暗く 、 肌寒かった 。 |がい||うすぐらく|はださむかった 外面天色還很黑,而且很冷。 もっと 海 の 近く へ 、 と 母さん が 言う のだ が 、 湿って 重たい 砂 に つかまり 、 車 いす は なかなか 前 に 進ま ない 。 |うみ||ちかく|||かあさん||いう|||しめって|おもたい|すな|||くるま||||ぜん||すすま| 媽媽叫我靠近海邊,但我被困在又濕又重的沙子裡,輪椅很難前進。 すると 海岸 線 の 向こう に 朝日 が 昇り 始め 、 キラキラ と 海面 を 照らし 始める 。 |かいがん|せん||むこう||あさひ||のぼり|はじめ|きらきら||かいめん||てらし|はじめる As the mother says more closer to the sea, it gets caught in the damp and heavy sand, the car chair does not move forward. あまりに も 美しい その 景色 に 圧倒 さ れて 、 僕ら 家族 は 立ち止まった 。 ||うつくしい||けしき||あっとう|||ぼくら|かぞく||たちどまった Overwhelmed by the scenery that was so beautiful, our family stopped. そして 、 光り輝く 海 を じっと 見つめた 。 |ひかりかがやく|うみ|||みつめた

「 早く ! はやく

写真 ! しゃしん

」 母さん の 言葉 に 我 に 返り 、 僕 は カメラ を 用意 する 。 かあさん||ことば||われ||かえり|ぼく||かめら||ようい| 「媽媽的話讓我回過神來,我準備好相機了。 父 と 僕 が 交互に 写真 を 撮ろう と して いる と 、 宿 の ご 主人 が 出て きて 「 撮り ましょう か 」 と 言って くれた 。 ちち||ぼく||こうごに|しゃしん||とろう|||||やど|||あるじ||でて||とり||||いって|

海 を 背負い 、 車 いす に 座った 母さん を 挟んで 、 父 と 僕 が 横 に しゃがむ 。 うみ||せおい|くるま|||すわった|かあさん||はさんで|ちち||ぼく||よこ|| 我和爸爸蹲在妈妈身边,妈妈坐在轮椅上,背靠着大海。 我和爸爸蹲在媽媽身邊,媽媽坐在輪椅上,背靠著大海。 ようやく 目 を 覚ました キャベツ は 不機嫌 そうに 、 母さん の 膝 の 上 で 大きな あくび を して い る 。 |め||さました|きゃべつ||ふきげん|そう に|かあさん||ひざ||うえ||おおきな||||| The cabbage has finally awoke and is grumpy yawning on her mother's lap. 当白菜终于醒过来的时候,她心情很不好,趴在妈妈腿上打着哈欠。

「 はい 、 チーズ 」 |ちーず “是的,起司”

ご 主人 が シャッター を 押す 。 |あるじ||しゃったー||おす 主人按下快门。

」 かなり 強引な ご 主人 の ダジャレ に 無理やり 僕ら が 笑わ さ れた 瞬間 に 、 シャッター が 切ら れた 。 |ごういんな||あるじ||||むりやり|ぼくら||わらわ|||しゅんかん||しゃったー||きら| The shutter was released the moment we were forced to laugh at our brute force master, Dajale. 」 最後 の 旅 の 物語 を 話し 終えた 僕 は 、 キャベツ に 尋ねた 。 さいご||たび||ものがたり||はなし|おえた|ぼく||きゃべつ||たずねた The shutter was turned off at the moment when we were laughed forced by a very aggressive husband's punk. ” 讲完上次旅行的故事后,我问白菜。 キャベツ 」 きゃべつ

「 申し訳ない 。 もうしわけない

どうしても 思い出せ ないで ご ざる 。 |おもいだせ|||

ただ ……」 I just can not remember.

「 ただ ?

」 「 幸せ だった 、 と いう こと だけ は 覚えて いる で ご ざる 」 しあわせ|||||||おぼえて|||| 「 幸せだった ? しあわせだった 「你開心嗎?

」 「 そうで ご ざる 。 そう で|| この 写真 に 写って いる 、 この とき が 、 幸せだった と いう こと だけ は 覚えて いる ので ご ざる 」 |しゃしん||うつって|||||しあわせだった||||||おぼえて|||| Pamiętam tylko, że byłem wtedy szczęśliwy, jak pokazano na tym zdjęciu.

母さん の こと も 、 父 の こと も 、 古ぼけた 旅館 や この 海 の こと も 、 キャベツ は 何も 覚えて い ない 。 かあさん||||ちち||||ふるぼけた|りょかん|||うみ||||きゃべつ||なにも|おぼえて|| I remember only that I was happy this time, reflected in this picture "

でも 〝 幸 せ だった 〟 と いう こと だけ を 覚えて いた 。 |こう||||||||おぼえて|

何 か 不思議な 感覚 だった 。 なん||ふしぎな|かんかく|

キャベツ の 言葉 に 引っかかる もの が あった 。 きゃべつ||ことば||ひっかかる||| There was something caught by the cabbage.

そして 改めて 写真 を 見直して 僕 は 気付いた 。 |あらためて|しゃしん||みなおして|ぼく||きづいた And I reviewed the pictures again and noticed.

僕 を 生んで から 、 すべて の 時間 を 父 と 僕 の ため に ささげて きた 母さん が 、 最後 の 最後に 自分 の ため に その 時間 を 使う はず が なかった 。 ぼく||うんで||||じかん||ちち||ぼく||||||かあさん||さいご||さいごに|じぶん|||||じかん||つかう||| A mother who gave all the time for her father and me since I was born, couldn't spend that time for myself at the very end. Moja matka, która poświęciła cały mój czas ojcu i mojemu od urodzenia, nie mogła spędzić tego czasu dla siebie na samym końcu.

母さん は 最後 まで 父 と 僕 の ため に 、 み ず から の 時間 を 使おう と した のだ 。 かあさん||さいご||ちち||ぼく||||||||じかん||つかおう||| Since I was born, my mother who offered all the time for my father and I could not spend that time for myself at the end. 直到最后,我母亲都试图用自己的时间陪伴我和我父亲。

母さん 騙さ れた よ 。 かあさん|だまさ|| My mother was tricked. Matka została oszukana.

いま まで 全然 気付か なかった よ 。 ||ぜんぜん|きづか|| Do tej pory niczego nie zauważyłem.

僕 は 写真 を 見つめる 。 ぼく||しゃしん||みつめる 写真 の なか の 父 は なんだか 照れくさ そうに 笑って いる 。 しゃしん||||ちち|||てれくさ|そう に|わらって| 僕 も そっくりな 顔 で 照れ 笑い を して いる 。 ぼく|||かお||てれ|わらい||| My father in the picture is laughing at me somewhat embarrassedly. そして 母さん は 、 これ 以上 ない ほど 幸せ そうに 笑って いた 。 |かあさん|||いじょう|||しあわせ|そう に|わらって| I am laughing with a look alike. 我母亲微笑着,好像她高兴极了。

その 母さん の 顔 を 見て いる と 、 胸 が 苦しく なって きた 。 |かあさん||かお||みて|||むね||くるしく|| And my mother was laughing with happiness so much as nothing more.

苦しくて 、 悲しくて 、 情けなくて 、 気 が つく と 僕 は キ ャベツ の 前 で 涙 を 流して いた 。 くるしくて|かなしくて|なさけなくて|き||||ぼく|||||ぜん||なみだ||ながして| 痛苦、悲伤、可怜,我发现自己在白菜面前哭泣。

声 も 出さ ず 、 表情 も 変え ず 。 こえ||ださ||ひょうじょう||かえ| ただ 写真 を 見つめ ながら 静かに 僕 は 泣いて いた 。 |しゃしん||みつめ||しずかに|ぼく||ないて|

心配 そうに キャベツ が そば に 寄って きて 、 膝 の 上 に ちょこんと 乗る 。 しんぱい|そう に|きゃべつ||||よって||ひざ||うえ|||のる Anxiously, the cabbage comes close by and rides a little on his lap. 一棵憂心忡忡的高麗菜走到我身邊,在我腿上坐了一會兒。

その 温もり が 僕 の 体 に 伝わり 、 心 が 穏やかに なって いく 。 |ぬくもり||ぼく||からだ||つたわり|こころ||おだやかに|| Ciepło jest przekazywane do mojego ciała, a moje serce staje się spokojne. 它的温暖传遍我的全身,我的心变得平静。

猫 と いう の は 大した もの だ 。 ねこ|||||たいした|| Cats are a big thing.

いつも 僕 の 気持ち に は 反応 して くれ ない くせ に 、 本当に 辛い とき は こうして そば に いて くれる 。 |ぼく||きもち|||はんのう||||||ほんとうに|からい|||||||

時間 と 同じ ように 、 猫 の 世界 に は 「 孤独 」 も 存在 し ない のだろう 。 じかん||おなじ||ねこ||せかい|||こどく||そんざい||| Just like time, there is no "loneliness" in the cat world.

ただ 「 自分 だけ の 時 」 と 「 自分 以外 も いる 時 」 |じぶん|||じ||じぶん|いがい|||じ Just "when you are alone" and "when you have something other than yourself" 这只是“当只有我一个人的时候”和“当除了我之外还有其他人的时候”。

だけ が 存在 する のだ 。 ||そんざい||

孤独 は 人間 だけ の 持ち物 な の かも しれ ない 。 こどく||にんげん|||もちもの||||| Loneliness may be something that only humans have. Samotność może być własnością tylko ludzi.

だ けれども 。

母さん の 笑顔 を 見 ながら 僕 は 思う 。 かあさん||えがお||み||ぼく||おもう

孤独 が ある から 僕ら に は 〝 ある 感情 〟 が ある 。 こどく||||ぼくら||||かんじょう|| We have 感情 some emotions か ら because we have loneliness.

」 「 それ は …… なんで ご ざる か ? 」 「 まあ 猫 に は 分から ない かも しれ ない けれど 、 人間 に は ある んだ 。 |ねこ|||わから||||||にんげん|||| 誰 か が 好き だったり 、 大切 だったり 、 と に かく 一緒に いたい と 思う 気持ち だ よ 」 だれ|||すき||たいせつ|||||いっしょに|い たい||おもう|きもち||

「 それ は いい もの で ご ざる か ?

」 「 うーん 。 まあ 面倒くさかったり 、 ときに は 邪魔 だったり も する のだ けれど 、 でも いい もの だ よ 。 |めんどうくさかったり|||じゃま|||||||||| It can be bothersome and sometimes annoying, but it 's good.

うん 、 とても い い もの な んだ 」

そう だ 。

僕ら に は 愛 と いう 感情 が ある 。 ぼくら|||あい|||かんじょう|| 我们有一种情感,叫做爱。

この 母さん の 表情 を 愛 と 言わ ず に なん と 言う のだろう か 。 |かあさん||ひょうじょう||あい||いわ|||||いう|| What does she say without saying her mother's expression as love?

時間 、 色 、 温度 、 孤独 、 そして 愛 。 じかん|いろ|おんど|こどく||あい Time, color, temperature, loneliness, and love. 时间、颜色、温度、孤独和爱。

人間 の 世界 に しか 存在 し ない もの たち 。 にんげん||せかい|||そんざい|||| Those that exist only in the human world. 人間 を 規制 し ながら も 、 人間 を 自由に する そのもの たち 。 にんげん||きせい||||にんげん||じゆうに||その もの| Those who regulate human beings but liberate them. そのもの たち こそ が 僕ら を 人間 たら しめて いる 。 その もの||||ぼくら||にんげん||| That is what makes us human. 它們使我們成為人類。

そう 思った 瞬間 、 僕 の 耳 に カチコチ と いう 時計 の 音 が 飛びこんで きた 。 |おもった|しゅんかん|ぼく||みみ|||||とけい||おと||とびこんで| W chwili, gdy tak pomyślałem, do ucha dobiegł mi dźwięk tykającego zegara.

やはり 時計 は ない 。 |とけい|| After all there is no clock. W końcu nie ma zegara.

ただ 目 に は 見え ない けれども 、 確かに そこ に 僕 を 支えて いる 何 か が ある こと を 感じた 。 |め|||みえ|||たしかに|||ぼく||ささえて||なん||||||かんじた I couldn't see it, but I felt there was something that was supporting me. Jest po prostu niewidoczny, ale z pewnością czułem, że coś mnie wspierało.

無数の カチコチ と いう 音 が 、 この 世界 に 生きる ありとあらゆる 人間 の 心臓 の 音 の ように 聞こえて くる 。 むすうの||||おと|||せかい||いきる||にんげん||しんぞう||おと|||きこえて| Countless clicks sound like the sounds of every human heart living in this world.

回る ストップウォッチ の 秒針 。 まわる|||びょうしん

ボタン が 押さ れる 。 ぼたん||おさ|

押さ れた の は 目覚まし時計 の ボタン 。 おさ||||めざましどけい||ぼたん The button pressed was the alarm clock button.

鳴り響く 音 。 なりひびく|おと

時 を 刻む 音 。 じ||きざむ|おと

その 音 の 気配 に しばらく 僕 は 耳 を 傾ける 。 |おと||けはい|||ぼく||みみ||かたむける I listen to the sound for a while.

嫌な 予感 が する 。 いやな|よかん||

「 がっかり した で 、 ご ざる か ? "Are you disappointed?

」 突然 背後 から 声 が 聞こえる 。 とつぜん|はいご||こえ||きこえる Suddenly a voice can be heard from behind. 驚いて 後ろ を 振り返る と アロハ が 立って いる 。 おどろいて|うしろ||ふりかえる||あろは||たって|

夜 の 海 を 描いた 不気味な 柄 の 黒い アロハシャツ を 着て 、 ニヤニヤ と 笑って いる 。 よ||うみ||えがいた|ぶきみな|え||くろい|||きて|||わらって| She is laughing grinning in a black aloha shirt with an eerie pattern depicting the sea at night.

「 お 代官 様 は もう すぐ 死ぬ で ご ざる か ? |だいかん|さま||||しぬ|||| "Do you want your representative to die soon? „Czy zastępca oficera wkrótce nie umiera?

」 「 笑え ない ジョーク です ね 」 わらえ||じょーく|| "It's a joke that can't laugh." „To zabawny żart, prawda?” 「 いやいや すみません !

なんか 思った より 魔法 の 効き目 が 続か なかった みたい っす ね 。 |おもった||まほう||ききめ||つづか|||| It seems that the magical effect did not last longer than I thought.

もう 普通の 猫 に 戻っちゃ った ! |ふつうの|ねこ||もどっちゃ| I'm back to a normal cat! がっかり した で ご ざる か ? Are you disappointed? 」 「 やめて ください 」 「 いや ね 、 でも ちょうど 良かった です よ 」 ||||よかった||

そういう と アロハ は また ニヤリ と 笑う 。 ||あろは|||||わらう

いつか 見た 、 悪魔 的な 笑い 。 |みた|あくま|てきな|わらい

悪意 。 あくい

これ も また 人間 しか 持ち え ない 感情 。 |||にんげん||もち|||かんじょう

「 次に 世界 から 消して もらう もの を 決めた んです 」 つぎに|せかい||けして||||きめた| "Next, I decided what to get removed from the world."

アロハ は 笑い ながら 続ける 。 あろは||わらい||つづける

息 が 苦しく なって くる 。 いき||くるしく||

想像 力 。 そうぞう|ちから

人間 しか 持ち え ない 能力 。 にんげん||もち|||のうりょく Ability that only humans can have.

残酷な イメージ が 僕 の 脳 内 を かけめぐる 。 ざんこくな|いめーじ||ぼく||のう|うち|| A cruel image circulates in my brain. Okrutny obraz krąży w moim mózgu.

」 思わず 叫ぶ 。 おもわず|さけぶ Mimowolnie krzyczę. いや 、 僕 が 叫んだ ので は ない 。 |ぼく||さけんだ||| No, I didn't shout. Nie, nie dlatego, że płakałem.

僕 と 同じ 顔 を した 悪魔 が 叫んだ のだ 。 ぼく||おなじ|かお|||あくま||さけんだ| A demon with the same face as me shouted. Diabeł, który miał taką samą twarz jak ja, krzyczał.

「 って 叫び たい でしょう ? |さけび|| „Chcesz krzyczeć?

」 アロハ は 笑う 。 あろは||わらう Aloha się śmieje. Aloha cười. 弱々しく 、 膝 を ついて 。 よわよわしく|ひざ|| Weakly, kneeling. Słaby i klęczeć. 我無力地跪倒在地。

そして 悪魔 は 僕 に 告げた 。 |あくま||ぼく||つげた And the devil told me. I diabeł mi powiedział.