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よだかの星 (宮沢 賢治), よ だ か の 星 (宮沢 賢治 ) 第 二 夜

よ だ か の 星 (宮沢 賢治 ) 第 二 夜

あたり は 、 もう 薄暗く なって いました 。 よ だ か は 巣 から 飛び出しました 。 雲 が 意地悪く 光って 、 低く たれて います 。 よ だ か は まるで 雲 と すれすれに なって 、 音 なく 空 を 飛びまわりました 。 それ から にわかに よ だ か は 口 を 大きく ひらいて 、 羽根 を まっすぐに 張って 、 まるで 矢 の ように 空 を 横切りました 。 小さな 羽 虫 が 幾匹 も 幾匹 も その のど に はいりました 。 からだ が 土 に つく かつかない うちに 、 よ だ か は ひらりと また 空 へ はねあがりました 。 もう 雲 は ねずみ色 に なり 、 向う の 山 に は 山焼け の 火 が まっ赤 です 。 よ だ か が 思い切って 飛ぶ とき は 、 空 が まるで 二 つ に 切れた ように 思われます 。 一 匹 の かぶと虫 が 、 よ だ か の 咽喉 に はいって 、 ひどく もがきました 。 よ だ か は すぐ それ を 呑みこみました が 、 その 時 何だか 背中 が ぞっと した ように 思いました 。 雲 は もう 真っ黒く 、 東 の 方 だけ 山やけ の 火 が 赤く うつって 、 恐ろしい ようです 。 よ だ か は 胸 が つかえた ように 思い ながら 、 また 空 へ 上りました 。 また 一 匹 の かぶと 虫 が 、 よ だ か の のど に 、 はいりました 。 そして まるで よだ か の のど を ひっかいて ばたばた しました 。 よ だ か は それ を 無理に 飲み込んで しまいました が 、 その 時 、 急に 胸 が どきっと して 、 よ だ か は 大声 を あげて 泣き出しました 。 泣き ながら ぐるぐる ぐるぐる 空 を めぐった のです 。

( ああ 、 かぶと 虫 や 、 たくさんの 羽 虫 が 、 毎晩 僕 に 殺される 。 そして その ただ 一 つ の 僕 が 今度 は 鷹 に 殺さ れる 。 それ が こんなに つらい のだ 。 ああ 、 つらい 、 つらい 。 僕 は もう 虫 を 食べ ないで 餓えて 死のう 。 いや その 前 に もう 鷹 が 僕 を 殺す だろう 。 いや 、 その 前 に 、 僕 は 遠く の 遠く の 空 の 向 う に 行って しまおう 。 山 焼け の 火 は 、 だんだん 水 の ように 流れて ひろがり 、 雲 も 赤く 燃えて いる ようです 。

よ だ か は まっすぐに 、 弟 の かわせみ の 所 へ 飛んで 行きました 。 きれいな かわせみ も 、 丁度 起きて 遠く の 山 火事 を 見て いた 所 でした 。 そして よだ か の 降りて 来た の を 見て 言いました 。 「 兄さん 。 こんばんは 。 何 か 急の ご用 です か 。」

「 いい や 、 僕 は 今度 遠い 所 へ 行く から ね 、 その 前 ちょっと お前 に 会い に 来た よ 。」

「 兄さん 。 行っちゃ いけません よ 。 蜂 すずめ も あんな 遠く に いる んです し 、 僕 ひとりぼっち に なって しまう じゃ ありません か 。」 「 それ は ね 。 どうも 仕方ない のだ 。 もう 今日 は 何も 言わ ないで くれ 。 そして お前 も ね 、 どうしても とら なければ なら ない 時 の ほか は いたずらに お 魚 を 取ったり し ない ように して くれ 。 ね 、 さよなら 。」

「 兄さん 。 どうした ん です 。 まあ もう ちょっと お 待ち なさい 。」

「 いや 、 いつまで 居て も おんなじだ 。 蜂 すずめ へ 、 あと で よろしく 言って やって くれ 。 さよなら 。 もう 会わ ない よ 。 さよなら 。」

よ だ か は 泣き ながら 自分 の お家 へ 帰って 参りました 。 短い 夏 の 夜 は もう 明け かかって いました 。 しだ の 葉 は 、 よあけ の 霧 を 吸って 、 青く つめたく ゆれました 。 よ だ か は 高く キシキシキシ と 鳴きました 。 そして 巣 の 中 を きちんと 片付け 、 きれいに から だ 中 の 羽根 や 毛 を そろえて 、 また 巣 から 飛び出しました 。

よ だ か の 星 (宮沢 賢治 ) 第 二 夜 ||||ほし|みやさわ|けんじ|だい|ふた|よ Yodaka no Hoshi (Kenji Miyazawa) Zweite Nacht The Nighthawk Star (Kenji Miyazawa) Second Night Yodaka no Hoshi (Kenji Miyazawa), Noche 2 Yodaka no Hoshi (Kenji Miyazawa), nacht 2 Yodaka no Hoshi (Kenji Miyazawa), Noc 2 Yodaka no Hoshi (Kenji Miyazawa), Noite 2 与高之星(宫泽贤治)第二夜 夜高之星(宮澤賢治)第二夜

あたり は 、 もう 薄暗く なって いました 。 |||うすぐらく||い ました Es wurde bereits dunkel. The area was already dim. よ だ か は 巣 から 飛び出しました 。 ||||す||とびだし ました Yodaka jumped out of the nest. 雲 が 意地悪く 光って 、 低く たれて います 。 くも||いじ わるく|ひかって|ひくく||い ます Die Wolken glitzern und hängen tief. The clouds are shining nasty and low. よ だ か は まるで 雲 と すれすれに なって 、 音 なく 空 を 飛びまわりました 。 |||||くも||||おと||から||とびまわり ました Yodaka flog lautlos durch den Himmel und berührte kaum die Wolken. Yodaka was almost like a cloud and flew around the sky without sound. それ から にわかに よ だ か は 口 を 大きく ひらいて 、 羽根 を まっすぐに 張って 、 まるで 矢 の ように 空 を 横切りました 。 |||||||くち||おおきく||はね|||はって||や|||から||よこぎり ました Dann öffnete es plötzlich sein Maul weit, streckte seine Flügel gerade und flog wie ein Pfeil über den Himmel. Then suddenly he opened his mouth wide, stretched his wings straight, and crossed the sky like an arrow. 小さな 羽 虫 が 幾匹 も 幾匹 も その のど に はいりました 。 ちいさな|はね|ちゅう||いく ひき||いく ひき|||||はいり ました There were many small worms in their throats. からだ が 土 に つく かつかない うちに 、 よ だ か は ひらりと また 空 へ はねあがりました 。 ||つち|||かつ か ない|うち に|||||ひらり と||から||はねあがり ました Noch bevor sein Körper den Boden berührt hatte, flog er wieder in den Himmel. Before the body touched the soil, Yodaka fluttered into the sky again. もう 雲 は ねずみ色 に なり 、 向う の 山 に は 山焼け の 火 が まっ赤 です 。 |くも||ねずみいろ|||むかい う||やま|||やま やけ||ひ||まっ あか| The clouds are now gray and the mountains over there are red with a blazing fire. よ だ か が 思い切って 飛ぶ とき は 、 空 が まるで 二 つ に 切れた ように 思われます 。 ||||おもいきって|とぶ|||から|||ふた|||きれた||おもわれます When you take the plunge and fly, it seems as if the sky was cut in two. 一 匹 の かぶと虫 が 、 よ だ か の 咽喉 に はいって 、 ひどく もがきました 。 ひと|ひき||かぶと ちゅう||||||むせ のど||||もがき ました A beetle worm entered the throat of a squirrel and struggled terribly. よ だ か は すぐ それ を 呑みこみました が 、 その 時 何だか 背中 が ぞっと した ように 思いました 。 |||||||のみこみ ました|||じ|なんだか|せなか|||||おもい ました Yodaka swallowed it right away, but at that time I felt that my back was horrifying. 雲 は もう 真っ黒く 、 東 の 方 だけ 山やけ の 火 が 赤く うつって 、 恐ろしい ようです 。 くも|||まっ くろく|ひがし||かた||やま やけ||ひ||あかく||おそろしい| The clouds are already pitch black, and the fires of the mountains only to the east are red, making it look frightening. よ だ か は 胸 が つかえた ように 思い ながら 、 また 空 へ 上りました 。 ||||むね||||おもい|||から||のぼり ました Yodaka went up to the sky again, thinking that his chest was stuffy. また 一 匹 の かぶと 虫 が 、 よ だ か の のど に 、 はいりました 。 |ひと|ひき|||ちゅう||||||||はいり ました Also, one beetle bug was found in the throat of the body. そして まるで よだ か の のど を ひっかいて ばたばた しました 。 ||||||||ば たば た| And it was as if I scratched my throat and fluttered. よ だ か は それ を 無理に 飲み込んで しまいました が 、 その 時 、 急に 胸 が どきっと して 、 よ だ か は 大声 を あげて 泣き出しました 。 ||||||むりに|のみこんで|しまい ました|||じ|きゅうに|むね||どき っと||||||おおごえ|||なきだし ました Yodaka swallowed it forcibly, but at that moment his chest suddenly throbbed, and he cried out loud. 泣き ながら ぐるぐる ぐるぐる 空 を めぐった のです 。 なき||||から||| I went round and round in the sky, crying.

( ああ 、 かぶと 虫 や 、 たくさんの 羽 虫 が 、 毎晩 僕 に 殺される 。 ||ちゅう|||はね|ちゅう||まいばん|ぼく||ころさ れる (Ah, beetles and many bugs are killed by me every night. そして その ただ 一 つ の 僕 が 今度 は 鷹 に 殺さ れる 。 |||ひと|||ぼく||こんど||たか||ころさ| And this one and only servant is killed by a hawk this time. それ が こんなに つらい のだ 。 That's how hard it is. ああ 、 つらい 、 つらい 。 Oh, it's hard, it's hard. 僕 は もう 虫 を 食べ ないで 餓えて 死のう 。 ぼく|||ちゅう||たべ||うえて|しのう I won't eat bugs anymore and I'll starve to death. いや その 前 に もう 鷹 が 僕 を 殺す だろう 。 ||ぜん|||たか||ぼく||ころす| No, the hawk will kill me before that. いや 、 その 前 に 、 僕 は 遠く の 遠く の 空 の 向 う に 行って しまおう 。 ||ぜん||ぼく||とおく||とおく||から||むかい|||おこなって| No, before that, I'll go to the other side of the far, far away sky. 山 焼け の 火 は 、 だんだん 水 の ように 流れて ひろがり 、 雲 も 赤く 燃えて いる ようです 。 やま|やけ||ひ|||すい|||ながれて||くも||あかく|もえて|| The fire from the burning mountain gradually flows and spreads like water, and the clouds seem to be burning red.

よ だ か は まっすぐに 、 弟 の かわせみ の 所 へ 飛んで 行きました 。 |||||おとうと||||しょ||とんで|いき ました Yodaka flew straight to his younger brother's kingfisher. きれいな かわせみ も 、 丁度 起きて 遠く の 山 火事 を 見て いた 所 でした 。 |||ちょうど|おきて|とおく||やま|かじ||みて||しょ| A beautiful kawami had just woken up to watch the wildfires in the distance. そして よだ か の 降りて 来た の を 見て 言いました 。 ||||おりて|きた|||みて|いい ました And when he saw the nightmare coming down, he said, 「 兄さん 。 にいさん "Brother. こんばんは 。 こんばん は Good evening. 何 か 急の ご用 です か 。」 なん||きゅうの|ごよう|| Is there something urgent you need? "

「 いい や 、 僕 は 今度 遠い 所 へ 行く から ね 、 その 前 ちょっと お前 に 会い に 来た よ 。」 ||ぼく||こんど|とおい|しょ||いく||||ぜん||おまえ||あい||きた| "No, I'm going to a distant place next time, so I came to see you for a while before that."

「 兄さん 。 にいさん Brother. 行っちゃ いけません よ 。 おこなっちゃ|いけ ませ ん| Don't go. 蜂 すずめ も あんな 遠く に いる んです し 、 僕 ひとりぼっち に なって しまう じゃ ありません か 。」 はち||||とおく|||||ぼく||||||あり ませ ん| The bee sparrow is also so far away, and I'm not alone. " 「 それ は ね 。 "That's right. どうも 仕方ない のだ 。 |しかたない| I can't help it. もう 今日 は 何も 言わ ないで くれ 。 |きょう||なにも|いわ|| Please don't say anything again today. そして お前 も ね 、 どうしても とら なければ なら ない 時 の ほか は いたずらに お 魚 を 取ったり し ない ように して くれ 。 |おまえ||||||||じ||||||ぎょ||とったり||||| And you too, don't take fish unnecessarily except when you really have to. ね 、 さよなら 。」 Goodbye. "

「 兄さん 。 にいさん どうした ん です 。 What's wrong? まあ もう ちょっと お 待ち なさい 。」 ||||まち| Well wait a minute. "

「 いや 、 いつまで 居て も おんなじだ 。 ||いて|| "No, it's the same no matter how long you stay. 蜂 すずめ へ 、 あと で よろしく 言って やって くれ 。 はち||||||いって|| To the bee sparrow, say hello to me later. さよなら 。 Good bye. もう 会わ ない よ 。 |あわ|| I won't see you again. さよなら 。」

よ だ か は 泣き ながら 自分 の お家 へ 帰って 参りました 。 ||||なき||じぶん||おいえ||かえって|まいり ました Yodaka went home crying. 短い 夏 の 夜 は もう 明け かかって いました 。 みじかい|なつ||よ|||あけ||い ました The short summer night was already dawning. しだ の 葉 は 、 よあけ の 霧 を 吸って 、 青く つめたく ゆれました 。 ||は||||きり||すって|あおく||ゆれ ました The leaves of the shida shook in the mist of the open air and shook in blue. よ だ か は 高く キシキシキシ と 鳴きました 。 ||||たかく|||なき ました Yodaka screamed high. そして 巣 の 中 を きちんと 片付け 、 きれいに から だ 中 の 羽根 や 毛 を そろえて 、 また 巣 から 飛び出しました 。 |す||なか|||かたづけ||||なか||はね||け||||す||とびだし ました Then, I cleaned up the inside of the nest, aligned the feathers and hair in the body, and jumped out of the nest again.