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Aozora Bunko, 蛙 (1/2)

蛙 (1/2)

暗い 晩 で 風 が 吹いて い ました 。

より江 は ふと 机 から 頭 を もちあげて 硝子 戸 へ 顔 を くっつけて み ました 。 暗くて 、 ざわざわ 木 が ゆれて いる きり で 、 何だか 淋しい 晩 でした 。 ときどき 西 の 空 で 白い ような 稲光 り が して い ます 。 こんなに 暗い 晩 は 、 きっと お 月 様 が 御 病気 な のだろう と 、 より江 は 兄さん の いる 店 の 間 へ 行って み ました 。 兄さん は 帳場 の 机 で 宿題 の 絵 を 描いて い ました 。 「 まだ 、 お ッかさん 戻ら ない の ?」 「 ああ まだ だ よ 。」 「 自転車 に 乗って いったん でしょう ?」 「 ああ 自転車 に 乗って 行った よ 。 提灯 つけて 行った よ 。」 より江 たち の お 母さん は 村 で たった 一 人 の 産婆 さん でした 。 より江 は つまらな そうに 、 店先 へ 出て 、 店 に 並べて ある 笊 や 鍋 や 、馬穴 など を 、 ひいふうみいよお と 数えて み ました 。 戸外 で は 、 いつか 雨 が 降り出して いて 、 湿った 軒 燈 に 霧 の ような 水しぶき が して い ました 。 兄さん は 土間 へ 降りて 硝子 戸 を 閉め 、 カナキン の カアテン を 引き ました 。 より江 は さっき から 土間 の 隅 に ある 桶 の ところ を 見て い ました 。 「 健 ちゃん ! 蛙 が いる よ 。 」 「 蛙 ? どら 、 どこ に いる ? 」 「 ほら 、 その 桶 の そば に つくばって いる よ 。 」 「 ああ 、 青 蛙 だ ね 。 何で 這入って 来た の か ねえ ―― こら ! 青 蛙 、 なに し に 来た ? 」 より江 は 怖い ので 、 兄さん の 後 に くっついて い ました 。 青 蛙 は きょとんと した 眼玉 を して 、 ひくひく 胸 を ふくらま せて い ます 。 ぼん ぼん ぼん 、 店 の 時計 が 八 時 を 打ち ました 。 より江 は 時計 を みあげて 、 お 母さん は どこ まで 行った の かしら と 怒って しまい ました 。 より江 は 淋しい ので 、 兄さん が 大事に して いる ハモウニカ を 借 して 貰って 、 一 人 で 出鱈目 に 吹いて 遊び ました 。 小学校 六 年生 の 健 ちゃん は ときどき 机 から 顔 を あげて 、 「 よりちゃん 、 ハモウニカ に 唾 を 溜 め ちゃ 厭 だ よ 。 」 と いい ました 。 より江 は ハモウニカ を 灯 に 透かして み ました 。 沢山 窓 が ある ので 、 小さい より江 は 、 すぐ 汽車 の 事 を 考え 出して 、 ハモウニカ を 算盤 の 上 へ 置いて 「 汽車 ごっこ 」 と ひと り で 遊び ました 。 より江 が 板の間 の 方 まで ハモウニカ の 汽車 を 走ら せて いる と 、 戸外 で 、 「 今晩 、 今晩 、 今晩 ! 」 と いう 声 が し ます 。 兄さん の 健 ちゃん は びっくり した 顔 を して 「 誰 か ね 。 」 と 大きい 声 で 返事 を し ました 。 すると 、 表 の 硝子 戸 を 開けて 、 見た こと も ない 一 人 の 男 の ひと が 這入って 来て 、 「 腹 が 痛い のだ が 薬 を 売って くれ ない か ね 。 」 と いい ました 。 健 ちゃん は 、 煤けた 天井 から 薬袋 を 降して 見知らぬ 男 の ひと の ところ へ 持って ゆき ました 。 男 の ひと は 大変 疲れて いる と 見えて 、 土間 へ 這 入って 来る と 、 すぐ 板の間 へ 腰 を かけて 「 ああ 」 と 深い ためいき を し ました 。 「 誰 も い ない の かい ? 」 と その 男 は 健 ちゃん に 訊 き ました 。 健 ちゃん は 泣き そうな 顔 を して 、「 うん 」 と 云 い ました 。 雨 が 強く なった のでしょう 硝子 戸 が びりびり ふるえて い ます 。 その 男 の ひと は 健 ちゃん から 水 を 一杯 もらって 銭 を 置いて 帰り ました 。 帰り しな に 乗 合い 自動車 は もう ない だろう か と きき ました 。 「 九 時 まで あり ます 。 」 と 健 ちゃん が 応える と 、 その 男 の ひと は 硝子 戸 を 丁寧に 閉めて 雨 の 中 へ 出て 行き ました 。 より江 は 、 ざ ァ と 云 う 雨 の 音 を きく と 、 いま の おじさん は 濡れて 可愛そう だ と おもい 、 「 傘 を 借して あげれば いい に ……」 と 兄さん に いい ました 。 兄さん は 壁 に あった 傘 を 取って 、 硝子 戸 を あけ 「 おうい 」 と いま の 男 の ひと を 呼び ました 。 男 の ひと は 二三十 歩 行って い ました が 、 健 ちゃん が 雨 の 中 を 走って 傘 を 持って 来て くれる と 、 びっくり する ほど 健 ちゃん の 肩 を 叩いて 男 の ひと は よろこび ました 。


蛙 (1/2) かえる Frosch (1/2) Frog (1/2) Rana (1/2) Grenouille (1/2) Żaba (1/2) 青蛙 (1/2) 青蛙 (1/2)

暗い 晩 で 風 が 吹いて い ました 。 くらい|ばん||かぜ||ふいて|| The wind was blowing in the dark night.

より江 は ふと 机 から 頭 を もちあげて 硝子 戸 へ 顔 を くっつけて み ました 。 より こう|||つくえ||あたま|||がらす|と||かお|||| From the moment, the river suddenly lifted its head and tried to attach its face to the glass door. Yori tentou levantar a cabeça da mesa e prendeu o rosto na porta de vidro. 暗くて 、 ざわざわ 木 が ゆれて いる きり で 、 何だか 淋しい 晩 でした 。 くらくて|ざ わざ わ|き||||||なんだか|さびしい|ばん| It was dark and the trees were shaking, and it was a somewhat lonely night. ときどき 西 の 空 で 白い ような 稲光 り が して い ます 。 |にし||から||しろい||いなびかり||||| Sometimes there is a lightning in the west sky like white. こんなに 暗い 晩 は 、 きっと お 月 様 が 御 病気 な のだろう と 、 より江 は 兄さん の いる 店 の 間 へ 行って み ました 。 |くらい|ばん||||つき|さま||ご|びょうき||||より こう||にいさん|||てん||あいだ||おこなって|| In einer so dunklen Nacht fragte ich mich, ob der Mond krank war, und ging in den Laden, in dem mein Bruder war. On such a dark evening, I guessed that the moon was sick, so I went to a store with my older brother. 兄さん は 帳場 の 机 で 宿題 の 絵 を 描いて い ました 。 にいさん||ちょうば||つくえ||しゅくだい||え||えがいて|| He was drawing his homework at the desk in the office. 「 まだ 、 お ッかさん 戻ら ない の ?」 ||ッ かさん|もどら|| "Haven't you returned yet? 「 ああ まだ だ よ 。」 "Oh, yet." 「 自転車 に 乗って いったん でしょう ?」 じてんしゃ||のって|| "Did you ride a bicycle? 「 ああ 自転車 に 乗って 行った よ 。 |じてんしゃ||のって|おこなった| "Oh, I went on a bicycle. 提灯 つけて 行った よ 。」 ちょうちん||おこなった| I went with lanterns. より江 たち の お 母さん は 村 で たった 一 人 の 産婆 さん でした 。 より こう||||かあさん||むら|||ひと|じん||さんば|| According to Emi, their mother was the only midwife in the village. より江 は つまらな そうに 、 店先 へ 出て 、 店 に 並べて ある 笊 や 鍋 や 、馬穴 など を 、 ひいふうみいよお と 数えて み ました 。 より こう|||そう に|みせさき||でて|てん||ならべて||ざる||なべ||うま あな|||ひ い ふうみ いよ お||かぞえて|| Ich ging zum Laden und zählte das Bambusgras, die Töpfe, die Pferdelöcher usw., die im Laden aufgereiht waren, als wäre es langweilig. More than that, E went out to the store and counted the colanders, pots, and horse-holes that were lined up in the store. 戸外 で は 、 いつか 雨 が 降り出して いて 、 湿った 軒 燈 に 霧 の ような 水しぶき が して い ました 。 こがい||||あめ||ふりだして||しめった|のき|とも||きり|||みずしぶき|||| Outdoors, it was raining someday, and the damp eaves were sprayed with mist-like spray. 兄さん は 土間 へ 降りて 硝子 戸 を 閉め 、 カナキン の カアテン を 引き ました 。 にいさん||どま||おりて|がらす|と||しめ|||||ひき| My brother went down to the dirt floor, closed the glass door, and pulled Kanakin's Kaaten. より江 は さっき から 土間 の 隅 に ある 桶 の ところ を 見て い ました 。 より こう||||どま||すみ|||おけ||||みて|| Yori has been looking at the tub in the corner of the dirt floor. 「 健 ちゃん ! けん| "Ken-chan! 蛙 が いる よ 。 かえる||| There is a frog. 」 「 蛙 ? かえる どら 、 どこ に いる ? Where are you? 」 「 ほら 、 その 桶 の そば に つくばって いる よ 。 ||おけ||||つくば って|| "Look, it's Tsukuba by the side of the tub. 」 「 ああ 、 青 蛙 だ ね 。 |あお|かえる|| "Oh, it's a blue frog. 何で 這入って 来た の か ねえ ―― こら ! なんで|は はいって|きた|||| Why did you come in? ――Here! 青 蛙 、 なに し に 来た ? あお|かえる||||きた Blauer Frosch, wozu bist du gekommen? Blue frog, what did you come for? 」   より江 は 怖い ので 、 兄さん の 後 に くっついて い ました 。 より こう||こわい||にいさん||あと|||| I was more afraid of E, so I was sticking after my brother. 青 蛙 は きょとんと した 眼玉 を して 、 ひくひく 胸 を ふくらま せて い ます 。 あお|かえる||||がん たま|||ひく ひく|むね||||| The blue frog is wearing a soft eyeball, and it has a fluffy chest. ぼん ぼん ぼん 、 店 の 時計 が 八 時 を 打ち ました 。 |||てん||とけい||やっ|じ||うち| Bon Bon Bon, the clock in the store hit eight o'clock. より江 は 時計 を みあげて 、 お 母さん は どこ まで 行った の かしら と 怒って しまい ました 。 より こう||とけい||||かあさん||||おこなった||||いかって|| Yokoe looked up at the clock, and her mother was angry as to how far she had gone. より江 は 淋しい ので 、 兄さん が 大事に して いる ハモウニカ を 借 して 貰って 、 一 人 で 出鱈目 に 吹いて 遊び ました 。 より こう||さびしい||にいさん||だいじに|||||かり||もらって|ひと|じん||で たら め||ふいて|あそび| I'm lonelier, so I borrowed the Hamounika that my brother cherishes, and I played it by myself. 小学校 六 年生 の 健 ちゃん は ときどき 机 から 顔 を あげて 、 「 よりちゃん 、 ハモウニカ に 唾 を 溜 め ちゃ 厭 だ よ 。 しょうがっこう|むっ|ねんせい||けん||||つくえ||かお|||より ちゃん|||つば||たま|||いと|| Ken-chan, eine Grundschülerin der sechsten Klasse, hob manchmal ihr Gesicht von ihrem Schreibtisch und sagte: "Yori-chan, ich habe Angst, Spucke auf Hamounika zu sammeln. Ken-chan, a sixth-grade elementary school student, sometimes raised his face from the desk and said, "Yorii-chan, I'm afraid to spit on Hamonika. 」   と いい ました 。 より江 は ハモウニカ を 灯 に 透かして み ました 。 より こう||||とう||すかして|| Hijiang tried to illuminate Hamounika with a light. 沢山 窓 が ある ので 、 小さい より江 は 、 すぐ 汽車 の 事 を 考え 出して 、 ハモウニカ を 算盤 の 上 へ 置いて 「 汽車 ごっこ 」 と ひと り で 遊び ました 。 たくさん|まど||||ちいさい|より こう|||きしゃ||こと||かんがえ|だして|||そろばん||うえ||おいて|きしゃ||||||あそび| Because there are so many windows, the small Yoroe quickly came up with the idea of a train, put Hamounika on the abacus and played with "Steam Train". より江 が 板の間 の 方 まで ハモウニカ の 汽車 を 走ら せて いる と 、 戸外 で 、 「 今晩 、 今晩 、 今晩 ! より こう||いたのま||かた||||きしゃ||はしら||||こがい||こんばん|こんばん|こんばん When Eko was driving a Hamounika train even closer to the board, he said, "Outside tonight, tonight, tonight! 」   と いう 声 が し ます 。 ||こえ||| I hear a voice saying. 兄さん の 健 ちゃん は びっくり した 顔 を して 「 誰 か ね 。 にいさん||けん|||||かお|||だれ|| My older brother Ken-chan said, "Someone. 」 と 大きい 声 で 返事 を し ました 。 |おおきい|こえ||へんじ||| すると 、 表 の 硝子 戸 を 開けて 、 見た こと も ない 一 人 の 男 の ひと が 這入って 来て 、 「 腹 が 痛い のだ が 薬 を 売って くれ ない か ね 。 |ひょう||がらす|と||あけて|みた||||ひと|じん||おとこ||||は はいって|きて|はら||いたい|||くすり||うって|||| Then, he opened the front door, and a man I had never seen came in and said, "I wonder if my stomach hurts me. 」   と いい ました 。   健 ちゃん は 、 煤けた 天井 から 薬袋 を 降して 見知らぬ 男 の ひと の ところ へ 持って ゆき ました 。 |||けん|||すすけた|てんじょう||やくたい||おろして|みしらぬ|おとこ||||||もって|| " said . Ken dropped the medicine bag from the sooted ceiling and took it to a strange man. 男 の ひと は 大変 疲れて いる と 見えて 、 土間 へ 這 入って 来る と 、 すぐ 板の間 へ 腰 を かけて 「 ああ 」 と 深い ためいき を し ました 。 おとこ||||たいへん|つかれて|||みえて|どま||は|はいって|くる|||いたのま||こし|||||ふかい|||| The man seemed very tired, and as soon as he crawls into the dirt floor, he sits down between the boards and screams, "Oh," deeply. 「 誰 も い ない の かい ? だれ||||| "Is there no one? 」   と その 男 は 健 ちゃん に 訊 き ました 。 ||おとこ||けん|||じん|| The man asked Ken-chan. 健 ちゃん は 泣き そうな 顔 を して 、「 うん 」 と 云 い ました 。 けん|||なき|そう な|かお|||||うん|| Ken-chan looked like he was crying and said, "Yeah." 雨 が 強く なった のでしょう 硝子 戸 が びりびり ふるえて い ます 。 あめ||つよく|||がらす|と||||| The rain may have become stronger. The glass doors are shaking. その 男 の ひと は 健 ちゃん から 水 を 一杯 もらって 銭 を 置いて 帰り ました 。 |おとこ||||けん|||すい||いっぱい||せん||おいて|かえり| The man got a glass of water from Ken-chan, left some money, and returned. 帰り しな に 乗 合い 自動車 は もう ない だろう か と きき ました 。 かえり|||じょう|あい|じどうしゃ|||||||| I was wondering if I couldn't have a shared car on my way back. 「 九 時 まで あり ます 。 ここの|じ||| "There is 9 o'clock. 」   と 健 ちゃん が 応える と 、 その 男 の ひと は 硝子 戸 を 丁寧に 閉めて 雨 の 中 へ 出て 行き ました 。 |けん|||こたえる|||おとこ||||がらす|と||ていねいに|しめて|あめ||なか||でて|いき| Ken-chan replied, and the man carefully closed the glass door and went out into the rain. より江 は 、 ざ ァ と 云 う 雨 の 音 を きく と 、 いま の おじさん は 濡れて 可愛そう だ と おもい 、 「 傘 を 借して あげれば いい に ……」   と 兄さん に いい ました 。 より こう|||||うん||あめ||おと||||||||ぬれて|かわい そう||||かさ||かり して|||||にいさん||| When Yorie heard the sound of rain called "Za", she said that his uncle was wet and seemed to be cute. "I wish I could borrow an umbrella..." I told my brother. 兄さん は 壁 に あった 傘 を 取って 、 硝子 戸 を あけ 「 おうい 」 と いま の 男 の ひと を 呼び ました 。 にいさん||かべ|||かさ||とって|がらす|と|||||||おとこ||||よび| He took the umbrella on the wall, opened the glass door, and called the man of today, "Ooi." 男 の ひと は 二三十 歩 行って い ました が 、 健 ちゃん が 雨 の 中 を 走って 傘 を 持って 来て くれる と 、 びっくり する ほど 健 ちゃん の 肩 を 叩いて 男 の ひと は よろこび ました 。 おとこ||||にさんじゅう|ふ|おこなって||||けん|||あめ||なか||はしって|かさ||もって|きて||||||けん|||かた||たたいて|おとこ||||| The man was walking twenty-three steps, but when Ken-chan ran in the rain and brought an umbrella, he was surprised and hit his shoulders and the man was happy. ..