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Aozora Bunko Readings (4-5mins), 14. 秋 の 歌 - 寺田 寅彦

14. 秋 の 歌 - 寺田 寅彦

秋 の 歌 - 寺田 寅彦

チャイコフスキー の 「 秋 の 歌 」 と いう 小曲 が ある 。 私 は ジンバリスト の 演奏 した この 曲 の レコード を 持って いる 。 そして 、 折にふれて 、 これ を 取り出して 、 独り 静かに この 曲 の 呼び出す 幻想 の 世界 に わけ入る 。 ・・

北欧 の 、 果て も なき 平野 の 奥 に 、 白樺 の 森 が ある 。 歎く よう に 垂れた 木々 の 梢 は 、 もう 黄金色 に 色づいて いる 。 傾く 夕日 の 空 から 、 淋しい 風 が 吹き 渡る と 、 落葉 が 、 美しい 美しい 涙 の ように ふり注ぐ 。 ・・

私 は 、 森 の 中 を 縫う 、 荒れ果てた 小径 を 、 あて も なく 彷徨い 歩く 。 私 と 並んで 、 マリアナ ・ ミハイロウナ が 歩いて いる 。 ・・

二 人 は 黙って 歩いて いる 。 しかし 、 二 人 の 胸 の 中 に 行き交う 想い は 、 ヴァイオリン の 音 に なって 、 高く 低く 聞こえて いる 。 その 音 は 、 あらゆる 人 の 世 の 言葉 に も 増して 、 遣る瀬ない 悲し み を 現わした もの である 。 私 が G の 絃 で 話せば 、 マリアナ は E の 絃 で 答える 。 絃 の 音 が 、 断 えて は 続き 続いて は 消える 時 に 、 二 人 は 立 止まる 。 そして 、 じっと 眼 を 見交わす 。 二 人 の 眼 に は 、 露 の 玉 が 光って いる 。 ・・

二 人 は また 歩き 出す 。 絃 の 音 は 、 前 より も 高く ふるえて 、 やがて 咽ぶ ように 落ち 入る 。 ・・

ヴァイオリン の 音 の 、 起伏 する の を 受けて 、 山彦 の 答える ように 、 かすかな 、 セロ の ような 音 が 響いて 来る 。 それ が 消えて 行く の を 、 追い縋り でも する ように 、 また ヴァイオリン の 高音 が 響いて 来る 。 ・・

この かすかな 伴奏 の 音 が 、 別れた 後 の 、 未来 に 残る 二 人 の 想い の 反響 である 。 これ が 限りなく 果敢 なく 、 淋しい 。 ・・

「 あかあか と つれない 秋 の 日 」 が 、 野 の 果 に 沈んで 行く 。 二 人 は 、 森 の はずれ に 立って 、 云い 合わせた ように 、 遠い 寺 の 塔 に 輝く 最後 の 閃光 を 見詰める 。 ・・

一 度 乾いて いた 涙 が 、 また 止め 度 も なく 流れる 。 しかし 、 それ は もう 悲しみ の 涙 で は なくて 、 永久 に 魂 に 喰 い 入る 、 淋しい 淋しい あきらめ の 涙 である 。 ・・

夜 が 迫って 来る 。 マリアナ の 姿 は もう 見え ない 。 私 は 、 ただ 一 人 淋しく 、 森 の はずれ の 切株 に 腰 を かけて 、 かすかな 空 の 微 光 の 中 に 消えて 行く 絃 の 音 の 名残 を 追 うて いる 。 ・・

気 が つく と 、 曲 は 終って いる 。 そして 、 膝 に のせた 手 の さき から 、 燃え 尽した 巻 煙草 の 灰 が ほとり と 落ちて 、 緑 の カーペット に 砕ける 。 ・・

( 大正 十一 年 九 月 『 渋 柿 』)

14. 秋 の 歌 - 寺田 寅彦 あき||うた|てらた|とらひこ 14. Herbstlied - Torahiko Terada 14. autumn song - Torahiko Terada 14. chanson d'automne - Torahiko Terada 14. 가을의 노래 - 寺田 寅彦 14. canção de outono - Torahiko Terada 14. Осенняя песня - Торахико Терада

秋 の 歌 - 寺田 寅彦 あき||うた|てらた|とらひこ Autumn Song-Torahiko Terada

チャイコフスキー の 「 秋 の 歌 」 と いう 小曲 が ある 。 ||あき||うた|||しょう きょく|| There is a small song called "Autumn Song" by Tchaikovsky. 私 は ジンバリスト の 演奏 した この 曲 の レコード を 持って いる 。 わたくし||||えんそう|||きょく||れこーど||もって| I have a record of this song performed by Zimbalist. そして 、 折にふれて 、 これ を 取り出して 、 独り 静かに この 曲 の 呼び出す 幻想 の 世界 に わけ入る 。 |おりにふれて|||とりだして|ひとり|しずかに||きょく||よびだす|げんそう||せかい||わけいる ・・

北欧 の 、 果て も なき 平野 の 奥 に 、 白樺 の 森 が ある 。 ほくおう||はて|||へいや||おく||しらかば||しげる|| In the depths of the endless plains of Scandinavia, there is a birch forest. 在北歐一望無際的平原深處,有一片白樺林。 歎く よう に 垂れた 木々 の 梢 は 、 もう 黄金色 に 色づいて いる 。 たん く|||しだれた|きぎ||こずえ|||こがねいろ||いろづいて| The treetops of the hanging trees are already golden. 低垂的樹梢已經變成了金黃色。 傾く 夕日 の 空 から 、 淋しい 風 が 吹き 渡る と 、 落葉 が 、 美しい 美しい 涙 の ように ふり注ぐ 。 かたむく|ゆうひ||から||さびしい|かぜ||ふき|わたる||らくよう||うつくしい|うつくしい|なみだ|||ふりそそぐ As the lonesome wind blows across the setting sky, the fallen leaves are sprinkled like beautiful, beautiful tears. 夕陽斜斜的天空吹來一陣寂寞的風,落葉像美麗的淚珠一樣落下。 ・・

私 は 、 森 の 中 を 縫う 、 荒れ果てた 小径 を 、 あて も なく 彷徨い 歩く 。 わたくし||しげる||なか||ぬう|あれはてた|しょうけい|||||さまよい|あるく I sew through the woods, wander through the desolate path, without a hitch. 我漫無目的地漫步在穿過樹林的荒涼小徑上。 私 と 並んで 、 マリアナ ・ ミハイロウナ が 歩いて いる 。 わたくし||ならんで||||あるいて| 在我旁邊,Mariana Mihailouna 正在走路。 ・・

二 人 は 黙って 歩いて いる 。 ふた|じん||だまって|あるいて| The two are walking silently. しかし 、 二 人 の 胸 の 中 に 行き交う 想い は 、 ヴァイオリン の 音 に なって 、 高く 低く 聞こえて いる 。 |ふた|じん||むね||なか||ゆきかう|おもい||ヴぁいおりん||おと|||たかく|ひくく|きこえて| その 音 は 、 あらゆる 人 の 世 の 言葉 に も 増して 、 遣る瀬ない 悲し み を 現わした もの である 。 |おと|||じん||よ||ことば|||まして|つか る せ ない|かなし|||あらわした|| The sound is a manifestation of the sadness of the helpless, which is more than any human language can express. 它的聲音表達了比任何人類語言都更絕望的悲傷。 私 が G の 絃 で 話せば 、 マリアナ は E の 絃 で 答える 。 わたくし||g||げん||はなせば|||e||げん||こたえる 如果我用 G 弦說話,Mariana 會用 E 弦回應。 絃 の 音 が 、 断 えて は 続き 続いて は 消える 時 に 、 二 人 は 立 止まる 。 げん||おと||だん|||つづき|つづいて||きえる|じ||ふた|じん||た|とまる 琴聲停止,兩人停下,繼續,然後消失。 そして 、 じっと 眼 を 見交わす 。 ||がん||みかわす Then, they look at each other intently. 然後,他們交換了凝視的目光。 二 人 の 眼 に は 、 露 の 玉 が 光って いる 。 ふた|じん||がん|||ろ||たま||ひかって| 露珠在他們眼中閃閃發光。 ・・

二 人 は また 歩き 出す 。 ふた|じん|||あるき|だす 兩人重新開始行走。 絃 の 音 は 、 前 より も 高く ふるえて 、 やがて 咽ぶ ように 落ち 入る 。 げん||おと||ぜん|||たかく|||むせぶ||おち|はいる 琴弦的聲音顫得比剛才高了一些,最終像嗚咽一樣沉了下去。 ・・

ヴァイオリン の 音 の 、 起伏 する の を 受けて 、 山彦 の 答える ように 、 かすかな 、 セロ の ような 音 が 響いて 来る 。 ヴぁいおりん||おと||きふく||||うけて|やまびこ||こたえる||||||おと||ひびいて|くる In response to the ups and downs of the violin sound, as Yamabiko answers, a faint, sero-like sound echoes. 伴隨著小提琴聲的高低起伏,隱隱約約的大提琴般的聲音響起,彷彿山彥子在作答。 それ が 消えて 行く の を 、 追い縋り でも する ように 、 また ヴァイオリン の 高音 が 響いて 来る 。 ||きえて|いく|||おいすがり|||||ヴぁいおりん||こうおん||ひびいて|くる As if clinging to it as it fades away, the high notes of the violin echo again. 隨著它的消失,小提琴的高音再次響起,彷彿緊緊抓住它一樣。 ・・

この かすかな 伴奏 の 音 が 、 別れた 後 の 、 未来 に 残る 二 人 の 想い の 反響 である 。 ||ばんそう||おと||わかれた|あと||みらい||のこる|ふた|じん||おもい||はんきょう| The faint sound of the accompaniment is an echo of their future feelings after their separation. 這淡淡的伴奏聲,是兩人分手後留在未來的感情的迴聲。 これ が 限りなく 果敢 なく 、 淋しい 。 ||かぎりなく|かかん||さびしい 這是無限的大膽和孤獨。 ・・

「 あかあか と つれない 秋 の 日 」 が 、 野 の 果 に 沈んで 行く 。 |||あき||ひ||の||か||しずんで|いく The "blushing, dull autumn day" sinks into the field. “明暗秋日”沉入野果。 二 人 は 、 森 の はずれ に 立って 、 云い 合わせた ように 、 遠い 寺 の 塔 に 輝く 最後 の 閃光 を 見詰める 。 ふた|じん||しげる||||たって|うん い|あわせた||とおい|てら||とう||かがやく|さいご||せんこう||みつめる They stand on the edge of the forest, staring at the last flash of light in the distant temple tower, as if in mutual agreement. 兩人站在森林邊緣,望著遠處神殿塔樓上最後一抹亮光,彷彿在交談。 ・・

一 度 乾いて いた 涙 が 、 また 止め 度 も なく 流れる 。 ひと|たび|かわいて||なみだ|||とどめ|たび|||ながれる Tears, once dry, flowed again without stopping. 曾經乾涸的淚水,再次流淌不止。 しかし 、 それ は もう 悲しみ の 涙 で は なくて 、 永久 に 魂 に 喰 い 入る 、 淋しい 淋しい あきらめ の 涙 である 。 ||||かなしみ||なみだ||||えいきゅう||たましい||しょく||はいる|さびしい|さびしい|||なみだ| But they are no longer tears of sorrow, but tears of loneliness and resignation that will forever eat away at your soul. 但這些不再是悲傷的淚水,而是永遠吞噬靈魂的寂寞、孤獨的認命淚水。 ・・

夜 が 迫って 来る 。 よ||せまって|くる Night is approaching. 夜幕降臨。 マリアナ の 姿 は もう 見え ない 。 ||すがた|||みえ| 我再也見不到瑪麗安娜了。 私 は 、 ただ 一 人 淋しく 、 森 の はずれ の 切株 に 腰 を かけて 、 かすかな 空 の 微 光 の 中 に 消えて 行く 絃 の 音 の 名残 を 追 うて いる 。 わたくし|||ひと|じん|さびしく|しげる||||きりかぶ||こし||||から||び|ひかり||なか||きえて|いく|げん||おと||なごり||つい|| I sit alone on a stump on the edge of the forest, chasing the remnants of the fading sound of the strings in the faint glimmer of the sky. 我是孤獨的,坐在森林邊緣的一根樹樁上,追尋著在天光微弱中漸漸遠去的弦樂痕跡。 ・・

気 が つく と 、 曲 は 終って いる 。 き||||きょく||しまって| The next thing I know, the song is over. 不知不覺,這首歌就結束了。 そして 、 膝 に のせた 手 の さき から 、 燃え 尽した 巻 煙草 の 灰 が ほとり と 落ちて 、 緑 の カーペット に 砕ける 。 |ひざ|||て||||もえ|つくした|かん|たばこ||はい||||おちて|みどり||||くだける And from the end of his hand on his knee, the ashes of his burnt-out cigarettes fall in a trickle and shatter on the green carpet. 然後,從我放在膝上的手尖,燃盡的香煙的灰燼掉到岸邊,碎裂在綠色的地毯上。 ・・

( 大正 十一 年 九 月 『 渋 柿 』) たいしょう|じゅういち|とし|ここの|つき|しぶ|かき