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三姉妹探偵団 1, 三姉妹探偵団01 chapter 11 (1)

三 姉妹 探偵 団 01 chapter 11 (1)

11 疑わしき は 愛す べ から ず

犯人 は 追いつめ られて いる 。

夕 里子 は 、 神田 初江 の 死体 が 運び出さ れる の を 見 ながら 、 思った 。 一 つ の 犯行 を 隠す ため に 、 次 から 次 へ と 新たな 犯行 を 重ねて いる のだ 。

「 これ で はっきり した 」

と 、 国友 が 言った 。 「 犯人 は 君 の お 父さん じゃ ない 。 神田 初江 の 言葉 を 恐れた から こそ 、 犯人 は 彼女 を 殺した んだ 。 それ に 、 綾子 さん が ここ へ 来る の を 知って 、 先回り して 殺した の に 違いない 」

「 パパ じゃ ない こと ぐらい 前 から 分 って る ! と 、 夕 里子 が ふくれた 。

「 いや 。 そりゃ そう だ けど 、 客観 的に も 、 って こと だ よ 」

「 段々 絞ら れて 来る 、 って いう 気 が する わ 」

「 そう だ な 。 綾子 さん が 電話 を 受けて いる の を 聞いた 人間 、 と いう こと は 、 あの とき 、 片瀬 家 に いた 人間 と いう こと に なる 」

「 うち の 近所 の 人 ? ── 信じ られ ない わ ! 夕 里子 も 同じ こと を 考えて いた のだ が 、 他の 人間 の 口 から 聞か さ れる と 、 あまりに 突飛な 意見 に 思える のだった 。

もう 夕方 に なって いた 。 片瀬 家 に 戻って 、 事件 の こと を 聞き 、 駆けつけて 来た のである 。

アパート の 周囲 に 報道 陣 や TV カメラ が ごった返し 、 野次馬 も 何 十 人 か 集まって いた 。

記者 が 集まって いる 一角 は 、 綾子 と 珠美 が 取り囲ま れて いる のである 。

「 でも 、 よかった 、 二 人 と も 無事で 」

と 、 夕 里子 は 言った 。

「 その 、 後 から 入って 来た の が 気 に なる ね 」

と 国友 は 考え込み ながら 、「 犯人 が 戻って 来た んだ と する と 、 何の ため か ? 「 何 か 、 手がかり に なる 物 を 残して いた んじゃ ない かしら 」

「 それ を 二 人 が 見て て くれる と ありがたい んだ が ね 」

やっと 記者 たち に 解放 さ れた 綾子 と 珠美 が やって 来た 。

「 ああ 疲れた 。 でも 気分 悪く ない わ ね 、 注目 さ れる の 、 って 」

呑気 な こと を 言って いる の は 、 もちろん 珠美 である 。 綾子 の 方 は 今頃 に なって 青く なって いる 。

「 詳しい 調書 を 取る んです って 。 もう しゃべり 疲れた わ 。 それ に お腹 空いちゃ った 」

国友 が 笑い 出した 。

「 いや 、 いい 度胸 だ ねえ 。 よし 、 ちょっと 待って いた まえ 」

国友 が 、 地元 署 の 刑事 の 方 へ 話 を し に 行って 、 すぐに 戻って 来る 。 「── 了解 を 取って 来た よ 。 四 人 で 夕飯 を 食べよう 」

「 わ あ 、 おごって くれる んです か ? 珠美 は 嬉し そうに 手 を 打って 、「 これ で 今夜 の 食事 代 、 浮いた わ ! 夕 里子 は 恥ずかし さ に 赤く なって 、 珠美 を にらみつけた 。

ごちそう に なる と は いえ 、 刑事 の 給料 は 知れて いる 、 と いう わけで 、 四 人 は 近く の チェーン ・ レストラン へ 入った 。 ここ なら 値段 の 方 も 大した こと は ない 。

「── これ まで に 分 った こと を 整理 して みる と いい かも しれ ない わ ね 」

食事 が 一 段落 した ところ で 、 夕 里子 が 言った 。

「 名 探偵 の お出まし 」

と 珠美 が ケーキ に かぶり つく 。

「 からかわ ないで よ 。 ── いい 、 ともかく 、 パパ は 植松 課長 の 命令 で 、 長田 洋子 と いう 女性 と 、 どこ か へ 出かけた 。 その 行 先 は 不明 。 そして 、 なぜ 帰って 来 ない の かも 不明 。 水口 淳子 を 殺した の は 、 彼女 の 愛人 で 、 その 男 は 、 神田 初江 の 話 に よる と 、 がっしり した 感じ で 、 奥さん が いる 。 そして 、 その 男 は 、 うち の 鍵 を 持って いる か 、 合 鍵 を 造る 機会 を 持って いた 。 しかし 、 あの 晩 、 パパ が うち に い ない こと まで は 知ら なかった 」

「 と いう こと は 、 ともかく 犯人 は 割合い に 近く に いる わけ ね 」

珠美 が 言った 。

「── この ケーキ 、 バター クリーム だ わ 」

「 その 点 は 、 まず 間違い ない と 思う わ 。 今日 の 事件 に して も 、 神田 初江 が 姉さん へ 電話 して 来た の を 、 犯人 は きっと 片瀬 家 で 聞いて いた んだ と 思う の 。 つまり 、 あの 葬儀 に 来て いた 誰 か だ と いう 可能 性 が 強い わけ ね 」

「 じゃ 、 私 たち 、 殺人 犯 と 顔つき 合わせて た わけ ? や あだ ! 珠美 は ケーキ を 平らげて 息 を ついた 。

「 お 姉さん 、 大丈夫 ? と 、 夕 里子 が 言った 。 綾子 は 、 ぼんやり と 考え込んで いる 様子 だった が 、

「 え ? ああ …… 大丈夫 よ 。 何でもない わ 」

と 、 食べ かけ の ハンバーグ に ナイフ を 入れた 。

「 一 つ ひっかかって いる の は 、 片瀬 紀子 さん の 殺さ れた 件 な んだ けど 」

と 、 夕 里子 は 言った 。

「 何 か 関係 ある と 思って る わけ ? 「 確信 は ない んだ けど ね 。 でも 、 考えて みて 。 水口 淳子 を 殺した 犯人 が 近く に いて 、 他 に 敦子 の お 母さん を 殺した 犯人 が いる なんて ……。 ちょっと 妙な 気 が し ない ? 「 そう か 」

と 珠美 が 肯 いた 。 「 あの 辺 、 その 手 の 人 が 集まって る んじゃ ない ? 「 変な こと 言わ ないで よ 」

「 もし 同一 犯人 と した 場合 、 犯人 は 片瀬 紀子 を も 誘惑 して いた こと に なる ね 」

と 国友 が 言った 。

「 あの 電話 の 声 から する と 、 変質 者 めいて た けど ……」

「 近く の 人間 の 声 なら 、 お 姉ちゃん 、 分 る んじゃ ない の ? 「 あんな 話し 方 さ れたら 分 ら ない わ よ 。 だから 、 犯人 が 一 人 と すれば 、 きっと 奥さん と 巧 く 行って ない んじゃ ない かしら 。 そして 水口 淳子 と 浮気 して いた 。 一方 で 、 どこ か 変質 的な 裏 の 顔 を 持って いて 、 ああして 、 近所 の 主婦 へ 誘い を かけて 楽しんで いた ……」

「 あの 手 の 電話 は 多い んだ よ 。 しかし 、 普通 は 電話 だけ で 終る わけだ 。 それ に ひっかかって しまった の は 、 たぶん 片瀬 さん の 所 も 、 夫婦 間 に 問題 は あった んだろう な 」

「 男女 の 仲 は 分 んな いもん よ 」

と 、 珠美 が 言った 。

「 気 に なる の は 、 片瀬 紀子 さん の バッグ が 失 く なって た こと だ な 。 物 盗 り に 見せる ため か 、 それとも 何 か 欲しい 物 が あった の か ……」

綾子 が 急に 、

「 喪章 ! と 叫んだ 。

「 な 、 何 よ 、 お 姉さん ! びっくり した 」

「 コショー が 欲しい の ? じゃ 取って あげる 」

と 珠美 が 手 を 伸ばす 。

「 違う わ よ ! あの 神田 さん が 押入れ の 中 で 手 に つかんで いた の よ 」

「 何 を ? 「 喪章 よ 、 黒い 腕章 」

「 確か かい ? 国友 は 腰 を 浮かして いた 。

「 はい 、 ぼんやり 見て ました けど 、 何となく 妙な 物 を つかんで る な 、 と 思った の を 憶 えて い ます 」

「 よし 、 まだ 残って いる か どう か 、 調べて みよう 」

国友 は 電話 へ 走った 。

「 なかった わ ね 、 私 の 見た とき は 」

と 、 夕 里子 は 言った 。

「 犯人 が 戻って 来た の は 、 その せい か 」

「 喪章 が なくなって いる の に 気付いた って こと ? 「 そう 。 たぶん 、 神田 初江 は 犯人 と もみ合って いる 内 に 、 夢中で 喪章 を つかんで いた の ね 」

「 ますます 確定 的 ね 」

と 、 珠美 は 言った 。 「 喪章 を つけて いた と なれば 、 あの 葬式 に 来て いた こと は 間違い ない わ 。 それ も みんな が みんな 、 つけて いた わけじゃ ないし 」

夕 里子 は 、 ゆっくり 肯 いた 。

〈 OL 殺人 ── 犯人 は 別に ! 第 二 の 犠牲 者 か 〉

新聞 の 見出し に 、 夕 里子 は 微笑んだ 。

「 よかった わ ね 、 夕 里子 」

と 、 敦子 が 覗き込み ながら 、 肩 を 抱いた 。

「 喜んで も い られ ない わ 。 また 人 が 殺さ れて 、 それ に パパ が どう して る の かも 分 ら ないし ……」

夕 里子 は 新聞 を たたんで 、「 ねえ 、 敦子 」

「 ん ? 「 私 たち 、 三 人 と も ここ に いつまでも 厄介に なって いる わけに いか ない し 、 どこ か で アパート でも 借りよう か と 思う んだ けど 」

「 いや ね 、 何 言う の よ ! いつまで だって いて いい んだ から ! 敦子 は 、 夕 里子 と 並んで ソファ に 座る と 、 手 を 握りしめて 、「 あなた に 出て 行か れたら 、 寂しく って 死んじゃ う わ 」

「 ありがとう 。 でも ね …… パパ が もし 死んで る と したら 、 やっぱり 三 人 姉妹 で 何とか 生きて か なきゃ いけない と 思う んだ 。 ── じゃ 、 悪い けど 、 それ まで は ここ に 置いて もらう わ 」

「 構わ ない わ よ 、 もちろん ! 敦子 が 微笑み ながら 言った 。

「 敦子 ちゃん 」

居間 の ドア が 開いて 、 黒 服 の 婦人 が 顔 を 出した 。

「 あ 、 叔母さん 」

「 じゃ 、 私 、 失礼 する わ ね 」

「 どうも 色々 すみ ませ ん でした 」

「 お 父さん と 二 人 で 寂しい だろう けど 、 元気 出して ね 。 時々 来る から 」

「 はい 」

「 あ 、 そうだ 。 それ から 、 佐々 本 さん 、 って ここ に いらっしゃる ? 夕 里子 が 立ち上って 、

「 私 です けど ……」

「 あ 、 そう 。 これ ね 、 今日 、 お 葬式 の 最中 に 小包 が 来た の 。 何 か この 住所 の 家 、 焼けて なく なっちゃ った みたいだ と か で 、 ご 近所 で 訊 いたら 、 ここ に いる と いわ れて 、 って 話 だった わ 」

「 すみ ませ ん でした 、 どうも ……」

夕 里子 は 、 小さな 箱 を 受け取った 。 何 だろう ? 小包 用 の 紙 に 包ま れて 、 紐 を かけて ある 。

「── お 姉ちゃん 」

珠美 が 顔 を 出した 。

「 どうした の ? 「 綾子 姉ちゃん が い ない の よ 」

「 どこ に 行った の ? 「 知って りゃ 訊 か ない よ 」

それ も そう だ 。

「 分 った わ 」

大学生 な んだ から 、 別に 心配 する こと は ない と 思う が 、 ただ 、 こんな 時期 である 。 外 を 歩き回ったり する の は 危険だ と 当人 だって 分 って いる だろう に 。

「 ちょっと 表 を 捜して みよう ……」

夕 里子 は 、 小包 を ソファ の 上 に 置いて 、 居間 を 出た 。

すっかり 外 は 暗く なって いる 。 まだ 近所 の 人 は 何 人 か 残って 、 後片付け を して いる ようだった 。

「 どこ に 行った の か な ……」

道 へ 出て 、 夕 里子 は 左右 を 見た 。 そして 、 ふっと 何 か 思い付いた 様子 で 、 暗い 道 を 歩き 始めた 。

綾子 は 、 安東 の 腕 に 抱きしめ られて 、 息苦しい ような 陶酔 に 浸って いた 。 本当に 、 もう このまま 死んで も いい 、 と さえ 思った 。

「 先生 ……」

暗い 道 の 外れ 、 木々 の 陰 で 、 こうして 人目 を 忍び ながら 会って いる と いう 、 いささか の スリル が 、 いっそう 綾子 の 胸 の 火 に 油 を 注いで いる のだった 。

「 君 は 可愛い 子 だ ……」

安東 は 、 そっと 綾子 の 顔 を 両手 で 挟む と 、 持ち上げて 唇 に キス した 。 綾子 は かすかに 身震い して 、 安東 の 背 に 手 を 回した 。

「 いやな こと ばかり だ なあ 、 この世 は 」

安東 が 、 沈んだ 声 で 言った 。

「 先生 、 どうして そんな こと 言う んです か ? 「 そう じゃ ない か 。 人殺し だの 、 何 だの って いやに なら ない かい ? それでいて 、 心 を 慰めて くれる もの は 一 つ も ない 」

「 私 でも だめ ? 安東 は 、 綾子 を 抱きしめて 、

「 君 が ずっと そば に いて くれたら ……」

と 囁く ように 言った 。

「 私 だって …… 先生 の そば に い たい 」

綾子 が 安東 の 胸 に 顔 を 埋め ながら 言った 。

「 本当に …… そう 思って る の かい ? 「 ええ ! 安東 が 、 ほとんど 荒々しい ほど の 力 で 、 綾子 を 抱きしめた 。 今 まで に 経験 した こと の ない 、 目 の くらむ ような 興奮 が 、 綾子 を 巻き込んだ 。

「 綾子 …… 君 は 僕 と …… ホテル に 行く 気 は あるか い ? いくら 綾子 でも 、 ホテル へ 行って 、 ジャンケン を しよう と か 、 テニス を しよう と いう わけで ない の は 承知 して いる 。 しかし 、 今 なら 、 安東 と 二 人 、 たとえ 南極 へ だって 行く 気 に なって いた 。 ホテル ぐらい が 何 だろう 。 間 に 海 も 山 も ない のだ 。

「 はい ! と 、 綾子 は 答えた 。

「 本当 か ? 「 先生 と なら 、 構い ませ ん 」

安東 は もう 一 度 、 力強い キス の 雨 を 降ら せた 。 まるで 抵抗 力 ゼロ の 綾子 に とって は 、 立って いる の も 容易で ない ほど の 、 目 の まわる ような 体験 であった 。

「 じゃ 、 明日 、 僕 は 学校 は 午前 中 だけ な んだ 。 午後 、 会い たい 」

「 はい 」

「 構わ ない の か ? 「 構い ませ ん 」

綾子 が 、 何事 に よら ず 、 こんなに はっきり 返事 を する の は 、 珍しい こと だった 。

「 よし 。 ── じゃ 、 もう 帰ら ない と 、 君 の 妹 たち が 心配 する ぞ 」

「 ええ 。 じゃ 明日 ……」

「 学校 へ 電話 して くれ ない か 。


三 姉妹 探偵 団 01 chapter 11 (1) みっ|しまい|たんてい|だん| Three Sisters Detective Agency 01 chapter 11 (1)

11  疑わしき は 愛す べ から ず うたがわしき||あいす|||

犯人 は 追いつめ られて いる 。 はんにん||おいつめ||

夕 里子 は 、 神田 初江 の 死体 が 運び出さ れる の を 見 ながら 、 思った 。 ゆう|さとご||しんでん|はつえ||したい||はこびださ||||み||おもった 一 つ の 犯行 を 隠す ため に 、 次 から 次 へ と 新たな 犯行 を 重ねて いる のだ 。 ひと|||はんこう||かくす|||つぎ||つぎ|||あらたな|はんこう||かさねて||

「 これ で はっきり した 」

と 、 国友 が 言った 。 |くにとも||いった 「 犯人 は 君 の お 父さん じゃ ない 。 はんにん||きみ|||とうさん|| 神田 初江 の 言葉 を 恐れた から こそ 、 犯人 は 彼女 を 殺した んだ 。 しんでん|はつえ||ことば||おそれた|||はんにん||かのじょ||ころした| それ に 、 綾子 さん が ここ へ 来る の を 知って 、 先回り して 殺した の に 違いない 」 ||あやこ|||||くる|||しって|さきまわり||ころした|||ちがいない

「 パパ じゃ ない こと ぐらい 前 から 分 って る ! ぱぱ|||||ぜん||ぶん|| と 、 夕 里子 が ふくれた 。 |ゆう|さとご||

「 いや 。 そりゃ そう だ けど 、 客観 的に も 、 って こと だ よ 」 ||||きゃっかん|てきに|||||

「 段々 絞ら れて 来る 、 って いう 気 が する わ 」 だんだん|しぼら||くる|||き|||

「 そう だ な 。 綾子 さん が 電話 を 受けて いる の を 聞いた 人間 、 と いう こと は 、 あの とき 、 片瀬 家 に いた 人間 と いう こと に なる 」 あやこ|||でんわ||うけて||||きいた|にんげん|||||||かたせ|いえ|||にんげん|||||

「 うち の 近所 の 人 ? ||きんじょ||じん ── 信じ られ ない わ ! しんじ||| 夕 里子 も 同じ こと を 考えて いた のだ が 、 他の 人間 の 口 から 聞か さ れる と 、 あまりに 突飛な 意見 に 思える のだった 。 ゆう|さとご||おなじ|||かんがえて||||たの|にんげん||くち||きか|||||とっぴな|いけん||おもえる|

もう 夕方 に なって いた 。 |ゆうがた||| 片瀬 家 に 戻って 、 事件 の こと を 聞き 、 駆けつけて 来た のである 。 かたせ|いえ||もどって|じけん||||きき|かけつけて|きた|

アパート の 周囲 に 報道 陣 や TV カメラ が ごった返し 、 野次馬 も 何 十 人 か 集まって いた 。 あぱーと||しゅうい||ほうどう|じん||tv|かめら||ごったがえし|やじうま||なん|じゅう|じん||あつまって|

記者 が 集まって いる 一角 は 、 綾子 と 珠美 が 取り囲ま れて いる のである 。 きしゃ||あつまって||いっかく||あやこ||たまみ||とりかこま|||

「 でも 、 よかった 、 二 人 と も 無事で 」 ||ふた|じん|||ぶじで

と 、 夕 里子 は 言った 。 |ゆう|さとご||いった

「 その 、 後 から 入って 来た の が 気 に なる ね 」 |あと||はいって|きた|||き|||

と 国友 は 考え込み ながら 、「 犯人 が 戻って 来た んだ と する と 、 何の ため か ? |くにとも||かんがえこみ||はんにん||もどって|きた|||||なんの|| 「 何 か 、 手がかり に なる 物 を 残して いた んじゃ ない かしら 」 なん||てがかり|||ぶつ||のこして||||

「 それ を 二 人 が 見て て くれる と ありがたい んだ が ね 」 ||ふた|じん||みて|||||||

やっと 記者 たち に 解放 さ れた 綾子 と 珠美 が やって 来た 。 |きしゃ|||かいほう|||あやこ||たまみ|||きた

「 ああ 疲れた 。 |つかれた でも 気分 悪く ない わ ね 、 注目 さ れる の 、 って 」 |きぶん|わるく||||ちゅうもく||||

呑気 な こと を 言って いる の は 、 もちろん 珠美 である 。 のんき||||いって|||||たまみ| 綾子 の 方 は 今頃 に なって 青く なって いる 。 あやこ||かた||いまごろ|||あおく||

「 詳しい 調書 を 取る んです って 。 くわしい|ちょうしょ||とる|| もう しゃべり 疲れた わ 。 ||つかれた| それ に お腹 空いちゃ った 」 ||おなか|あいちゃ|

国友 が 笑い 出した 。 くにとも||わらい|だした

「 いや 、 いい 度胸 だ ねえ 。 ||どきょう|| よし 、 ちょっと 待って いた まえ 」 ||まって||

国友 が 、 地元 署 の 刑事 の 方 へ 話 を し に 行って 、 すぐに 戻って 来る 。 くにとも||じもと|しょ||けいじ||かた||はなし||||おこなって||もどって|くる 「── 了解 を 取って 来た よ 。 りょうかい||とって|きた| 四 人 で 夕飯 を 食べよう 」 よっ|じん||ゆうはん||たべよう

「 わ あ 、 おごって くれる んです か ? 珠美 は 嬉し そうに 手 を 打って 、「 これ で 今夜 の 食事 代 、 浮いた わ ! たまみ||うれし|そう に|て||うって|||こんや||しょくじ|だい|ういた| 夕 里子 は 恥ずかし さ に 赤く なって 、 珠美 を にらみつけた 。 ゆう|さとご||はずかし|||あかく||たまみ||

ごちそう に なる と は いえ 、 刑事 の 給料 は 知れて いる 、 と いう わけで 、 四 人 は 近く の チェーン ・ レストラン へ 入った 。 ||||||けいじ||きゅうりょう||しれて|||||よっ|じん||ちかく||ちぇーん|れすとらん||はいった ここ なら 値段 の 方 も 大した こと は ない 。 ||ねだん||かた||たいした|||

「── これ まで に 分 った こと を 整理 して みる と いい かも しれ ない わ ね 」 |||ぶん||||せいり|||||||||

食事 が 一 段落 した ところ で 、 夕 里子 が 言った 。 しょくじ||ひと|だんらく||||ゆう|さとご||いった

「 名 探偵 の お出まし 」 な|たんてい||おでまし

と 珠美 が ケーキ に かぶり つく 。 |たまみ||けーき|||

「 からかわ ないで よ 。 ── いい 、 ともかく 、 パパ は 植松 課長 の 命令 で 、 長田 洋子 と いう 女性 と 、 どこ か へ 出かけた 。 ||ぱぱ||うえまつ|かちょう||めいれい||ちょうだ|ひろこ|||じょせい|||||でかけた その 行 先 は 不明 。 |ぎょう|さき||ふめい そして 、 なぜ 帰って 来 ない の かも 不明 。 ||かえって|らい||||ふめい 水口 淳子 を 殺した の は 、 彼女 の 愛人 で 、 その 男 は 、 神田 初江 の 話 に よる と 、 がっしり した 感じ で 、 奥さん が いる 。 みずぐち|あつこ||ころした|||かのじょ||あいじん|||おとこ||しんでん|はつえ||はなし||||||かんじ||おくさん|| そして 、 その 男 は 、 うち の 鍵 を 持って いる か 、 合 鍵 を 造る 機会 を 持って いた 。 ||おとこ||||かぎ||もって|||ごう|かぎ||つくる|きかい||もって| しかし 、 あの 晩 、 パパ が うち に い ない こと まで は 知ら なかった 」 ||ばん|ぱぱ|||||||||しら|

「 と いう こと は 、 ともかく 犯人 は 割合い に 近く に いる わけ ね 」 |||||はんにん||わりあい||ちかく|||| "In any case, the culprit is close to being proportioned anyway"

珠美 が 言った 。 たまみ||いった

「── この ケーキ 、 バター クリーム だ わ 」 |けーき|ばたー|くりーむ||

「 その 点 は 、 まず 間違い ない と 思う わ 。 |てん|||まちがい|||おもう| 今日 の 事件 に して も 、 神田 初江 が 姉さん へ 電話 して 来た の を 、 犯人 は きっと 片瀬 家 で 聞いて いた んだ と 思う の 。 きょう||じけん||||しんでん|はつえ||ねえさん||でんわ||きた|||はんにん|||かたせ|いえ||きいて||||おもう| つまり 、 あの 葬儀 に 来て いた 誰 か だ と いう 可能 性 が 強い わけ ね 」 ||そうぎ||きて||だれ|||||かのう|せい||つよい||

「 じゃ 、 私 たち 、 殺人 犯 と 顔つき 合わせて た わけ ? |わたくし||さつじん|はん||かおつき|あわせて|| や あだ ! 珠美 は ケーキ を 平らげて 息 を ついた 。 たまみ||けーき||たいらげて|いき||

「 お 姉さん 、 大丈夫 ? |ねえさん|だいじょうぶ と 、 夕 里子 が 言った 。 |ゆう|さとご||いった 綾子 は 、 ぼんやり と 考え込んで いる 様子 だった が 、 あやこ||||かんがえこんで||ようす||

「 え ? ああ …… 大丈夫 よ 。 |だいじょうぶ| 何でもない わ 」 なんでもない|

と 、 食べ かけ の ハンバーグ に ナイフ を 入れた 。 |たべ|||||ないふ||いれた

「 一 つ ひっかかって いる の は 、 片瀬 紀子 さん の 殺さ れた 件 な んだ けど 」 ひと||||||かたせ|としこ|||ころさ||けん|||

と 、 夕 里子 は 言った 。 |ゆう|さとご||いった

「 何 か 関係 ある と 思って る わけ ? なん||かんけい|||おもって|| 「 確信 は ない んだ けど ね 。 かくしん||||| でも 、 考えて みて 。 |かんがえて| 水口 淳子 を 殺した 犯人 が 近く に いて 、 他 に 敦子 の お 母さん を 殺した 犯人 が いる なんて ……。 みずぐち|あつこ||ころした|はんにん||ちかく|||た||あつこ|||かあさん||ころした|はんにん||| ちょっと 妙な 気 が し ない ? |みょうな|き||| 「 そう か 」

と 珠美 が 肯 いた 。 |たまみ||こう| 「 あの 辺 、 その 手 の 人 が 集まって る んじゃ ない ? |ほとり||て||じん||あつまって||| 「 変な こと 言わ ないで よ 」 へんな||いわ||

「 もし 同一 犯人 と した 場合 、 犯人 は 片瀬 紀子 を も 誘惑 して いた こと に なる ね 」 |どういつ|はんにん|||ばあい|はんにん||かたせ|としこ|||ゆうわく||||||

と 国友 が 言った 。 |くにとも||いった

「 あの 電話 の 声 から する と 、 変質 者 めいて た けど ……」 |でんわ||こえ||||へんしつ|もの|||

「 近く の 人間 の 声 なら 、 お 姉ちゃん 、 分 る んじゃ ない の ? ちかく||にんげん||こえ|||ねえちゃん|ぶん|||| 「 あんな 話し 方 さ れたら 分 ら ない わ よ 。 |はなし|かた|||ぶん|||| だから 、 犯人 が 一 人 と すれば 、 きっと 奥さん と 巧 く 行って ない んじゃ ない かしら 。 |はんにん||ひと|じん||||おくさん||こう||おこなって|||| そして 水口 淳子 と 浮気 して いた 。 |みずぐち|あつこ||うわき|| 一方 で 、 どこ か 変質 的な 裏 の 顔 を 持って いて 、 ああして 、 近所 の 主婦 へ 誘い を かけて 楽しんで いた ……」 いっぽう||||へんしつ|てきな|うら||かお||もって|||きんじょ||しゅふ||さそい|||たのしんで|

「 あの 手 の 電話 は 多い んだ よ 。 |て||でんわ||おおい|| しかし 、 普通 は 電話 だけ で 終る わけだ 。 |ふつう||でんわ|||おわる| それ に ひっかかって しまった の は 、 たぶん 片瀬 さん の 所 も 、 夫婦 間 に 問題 は あった んだろう な 」 |||||||かたせ|||しょ||ふうふ|あいだ||もんだい||||

「 男女 の 仲 は 分 んな いもん よ 」 だんじょ||なか||ぶん|||

と 、 珠美 が 言った 。 |たまみ||いった

「 気 に なる の は 、 片瀬 紀子 さん の バッグ が 失 く なって た こと だ な 。 き|||||かたせ|としこ|||ばっぐ||うしな|||||| 物 盗 り に 見せる ため か 、 それとも 何 か 欲しい 物 が あった の か ……」 ぶつ|ぬす|||みせる||||なん||ほしい|ぶつ||||

綾子 が 急に 、 あやこ||きゅうに

「 喪章 ! もしょう と 叫んだ 。 |さけんだ

「 な 、 何 よ 、 お 姉さん ! |なん|||ねえさん びっくり した 」

「 コショー が 欲しい の ? ||ほしい| じゃ 取って あげる 」 |とって|

と 珠美 が 手 を 伸ばす 。 |たまみ||て||のばす

「 違う わ よ ! ちがう|| あの 神田 さん が 押入れ の 中 で 手 に つかんで いた の よ 」 |しんでん|||おしいれ||なか||て|||||

「 何 を ? なん| 「 喪章 よ 、 黒い 腕章 」 もしょう||くろい|わんしょう

「 確か かい ? たしか| 国友 は 腰 を 浮かして いた 。 くにとも||こし||うかして|

「 はい 、 ぼんやり 見て ました けど 、 何となく 妙な 物 を つかんで る な 、 と 思った の を 憶 えて い ます 」 ||みて|||なんとなく|みょうな|ぶつ||||||おもった|||おく|||

「 よし 、 まだ 残って いる か どう か 、 調べて みよう 」 ||のこって|||||しらべて|

国友 は 電話 へ 走った 。 くにとも||でんわ||はしった

「 なかった わ ね 、 私 の 見た とき は 」 |||わたくし||みた||

と 、 夕 里子 は 言った 。 |ゆう|さとご||いった

「 犯人 が 戻って 来た の は 、 その せい か 」 はんにん||もどって|きた|||||

「 喪章 が なくなって いる の に 気付いた って こと ? もしょう||||||きづいた|| 「 そう 。 たぶん 、 神田 初江 は 犯人 と もみ合って いる 内 に 、 夢中で 喪章 を つかんで いた の ね 」 |しんでん|はつえ||はんにん||もみあって||うち||むちゅうで|もしょう|||||

「 ますます 確定 的 ね 」 |かくてい|てき|

と 、 珠美 は 言った 。 |たまみ||いった 「 喪章 を つけて いた と なれば 、 あの 葬式 に 来て いた こと は 間違い ない わ 。 もしょう|||||||そうしき||きて||||まちがい|| それ も みんな が みんな 、 つけて いた わけじゃ ないし 」

夕 里子 は 、 ゆっくり 肯 いた 。 ゆう|さとご|||こう|

〈 OL 殺人 ── 犯人 は 別に ! ol|さつじん|はんにん||べつに 第 二 の 犠牲 者 か 〉 だい|ふた||ぎせい|もの|

新聞 の 見出し に 、 夕 里子 は 微笑んだ 。 しんぶん||みだし||ゆう|さとご||ほおえんだ

「 よかった わ ね 、 夕 里子 」 |||ゆう|さとご

と 、 敦子 が 覗き込み ながら 、 肩 を 抱いた 。 |あつこ||のぞきこみ||かた||いだいた

「 喜んで も い られ ない わ 。 よろこんで||||| また 人 が 殺さ れて 、 それ に パパ が どう して る の かも 分 ら ないし ……」 |じん||ころさ||||ぱぱ|||||||ぶん||

夕 里子 は 新聞 を たたんで 、「 ねえ 、 敦子 」 ゆう|さとご||しんぶん||||あつこ

「 ん ? 「 私 たち 、 三 人 と も ここ に いつまでも 厄介に なって いる わけに いか ない し 、 どこ か で アパート でも 借りよう か と 思う んだ けど 」 わたくし||みっ|じん||||||やっかいに||||||||||あぱーと||かりよう|||おもう||

「 いや ね 、 何 言う の よ ! ||なん|いう|| いつまで だって いて いい んだ から ! 敦子 は 、 夕 里子 と 並んで ソファ に 座る と 、 手 を 握りしめて 、「 あなた に 出て 行か れたら 、 寂しく って 死んじゃ う わ 」 あつこ||ゆう|さとご||ならんで|||すわる||て||にぎりしめて|||でて|いか||さびしく||しんじゃ||

「 ありがとう 。 でも ね …… パパ が もし 死んで る と したら 、 やっぱり 三 人 姉妹 で 何とか 生きて か なきゃ いけない と 思う んだ 。 ||ぱぱ|||しんで|||||みっ|じん|しまい||なんとか|いきて|||||おもう| ── じゃ 、 悪い けど 、 それ まで は ここ に 置いて もらう わ 」 |わるい|||||||おいて||

「 構わ ない わ よ 、 もちろん ! かまわ|||| 敦子 が 微笑み ながら 言った 。 あつこ||ほおえみ||いった

「 敦子 ちゃん 」 あつこ|

居間 の ドア が 開いて 、 黒 服 の 婦人 が 顔 を 出した 。 いま||どあ||あいて|くろ|ふく||ふじん||かお||だした

「 あ 、 叔母さん 」 |おばさん

「 じゃ 、 私 、 失礼 する わ ね 」 |わたくし|しつれい|||

「 どうも 色々 すみ ませ ん でした 」 |いろいろ||||

「 お 父さん と 二 人 で 寂しい だろう けど 、 元気 出して ね 。 |とうさん||ふた|じん||さびしい|||げんき|だして| 時々 来る から 」 ときどき|くる|

「 はい 」

「 あ 、 そうだ 。 |そう だ それ から 、 佐々 本 さん 、 って ここ に いらっしゃる ? ||ささ|ほん||||| 夕 里子 が 立ち上って 、 ゆう|さとご||たちのぼって

「 私 です けど ……」 わたくし||

「 あ 、 そう 。 これ ね 、 今日 、 お 葬式 の 最中 に 小包 が 来た の 。 ||きょう||そうしき||さい なか||こづつみ||きた| 何 か この 住所 の 家 、 焼けて なく なっちゃ った みたいだ と か で 、 ご 近所 で 訊 いたら 、 ここ に いる と いわ れて 、 って 話 だった わ 」 なん|||じゅうしょ||いえ|やけて|||||||||きんじょ||じん|||||||||はなし||

「 すみ ませ ん でした 、 どうも ……」

夕 里子 は 、 小さな 箱 を 受け取った 。 ゆう|さとご||ちいさな|はこ||うけとった 何 だろう ? なん| 小包 用 の 紙 に 包ま れて 、 紐 を かけて ある 。 こづつみ|よう||かみ||つつま||ひも|||

「── お 姉ちゃん 」 |ねえちゃん

珠美 が 顔 を 出した 。 たまみ||かお||だした

「 どうした の ? 「 綾子 姉ちゃん が い ない の よ 」 あやこ|ねえちゃん|||||

「 どこ に 行った の ? ||おこなった| 「 知って りゃ 訊 か ない よ 」 しって||じん|||

それ も そう だ 。

「 分 った わ 」 ぶん||

大学生 な んだ から 、 別に 心配 する こと は ない と 思う が 、 ただ 、 こんな 時期 である 。 だいがくせい||||べつに|しんぱい||||||おもう||||じき| 外 を 歩き回ったり する の は 危険だ と 当人 だって 分 って いる だろう に 。 がい||あるきまわったり||||きけんだ||とうにん||ぶん||||

「 ちょっと 表 を 捜して みよう ……」 |ひょう||さがして|

夕 里子 は 、 小包 を ソファ の 上 に 置いて 、 居間 を 出た 。 ゆう|さとご||こづつみ||||うえ||おいて|いま||でた

すっかり 外 は 暗く なって いる 。 |がい||くらく|| まだ 近所 の 人 は 何 人 か 残って 、 後片付け を して いる ようだった 。 |きんじょ||じん||なん|じん||のこって|あとかたづけ||||

「 どこ に 行った の か な ……」 ||おこなった|||

道 へ 出て 、 夕 里子 は 左右 を 見た 。 どう||でて|ゆう|さとご||さゆう||みた そして 、 ふっと 何 か 思い付いた 様子 で 、 暗い 道 を 歩き 始めた 。 ||なん||おもいついた|ようす||くらい|どう||あるき|はじめた

綾子 は 、 安東 の 腕 に 抱きしめ られて 、 息苦しい ような 陶酔 に 浸って いた 。 あやこ||あんどう||うで||だきしめ||いきぐるしい||とうすい||ひたって| 本当に 、 もう このまま 死んで も いい 、 と さえ 思った 。 ほんとうに|||しんで|||||おもった

「 先生 ……」 せんせい

暗い 道 の 外れ 、 木々 の 陰 で 、 こうして 人目 を 忍び ながら 会って いる と いう 、 いささか の スリル が 、 いっそう 綾子 の 胸 の 火 に 油 を 注いで いる のだった 。 くらい|どう||はずれ|きぎ||かげ|||ひとめ||しのび||あって||||||すりる|||あやこ||むね||ひ||あぶら||そそいで||

「 君 は 可愛い 子 だ ……」 きみ||かわいい|こ|

安東 は 、 そっと 綾子 の 顔 を 両手 で 挟む と 、 持ち上げて 唇 に キス した 。 あんどう|||あやこ||かお||りょうて||はさむ||もちあげて|くちびる||きす| 綾子 は かすかに 身震い して 、 安東 の 背 に 手 を 回した 。 あやこ|||みぶるい||あんどう||せ||て||まわした

「 いやな こと ばかり だ なあ 、 この世 は 」 |||||このよ| "It is only a disgusting thing, this world is"

安東 が 、 沈んだ 声 で 言った 。 あんどう||しずんだ|こえ||いった

「 先生 、 どうして そんな こと 言う んです か ? せんせい||||いう|| 「 そう じゃ ない か 。 人殺し だの 、 何 だの って いやに なら ない かい ? ひとごろし||なん|||||| それでいて 、 心 を 慰めて くれる もの は 一 つ も ない 」 |こころ||なぐさめて||||ひと|||

「 私 でも だめ ? わたくし|| 安東 は 、 綾子 を 抱きしめて 、 あんどう||あやこ||だきしめて

「 君 が ずっと そば に いて くれたら ……」 きみ||||||

と 囁く ように 言った 。 |ささやく||いった

「 私 だって …… 先生 の そば に い たい 」 わたくし||せんせい|||||

綾子 が 安東 の 胸 に 顔 を 埋め ながら 言った 。 あやこ||あんどう||むね||かお||うずめ||いった

「 本当に …… そう 思って る の かい ? ほんとうに||おもって||| 「 ええ ! 安東 が 、 ほとんど 荒々しい ほど の 力 で 、 綾子 を 抱きしめた 。 あんどう|||あらあらしい|||ちから||あやこ||だきしめた 今 まで に 経験 した こと の ない 、 目 の くらむ ような 興奮 が 、 綾子 を 巻き込んだ 。 いま|||けいけん|||||め||||こうふん||あやこ||まきこんだ

「 綾子 …… 君 は 僕 と …… ホテル に 行く 気 は あるか い ? あやこ|きみ||ぼく||ほてる||いく|き||| いくら 綾子 でも 、 ホテル へ 行って 、 ジャンケン を しよう と か 、 テニス を しよう と いう わけで ない の は 承知 して いる 。 |あやこ||ほてる||おこなって||||||てにす|||||||||しょうち|| No matter how much Ayako he is, he knows he will go to the hotel and try to play Jenken or not play tennis. しかし 、 今 なら 、 安東 と 二 人 、 たとえ 南極 へ だって 行く 気 に なって いた 。 |いま||あんどう||ふた|じん||なんきょく|||いく|き||| ホテル ぐらい が 何 だろう 。 ほてる|||なん| I wonder what the hotel is like. 間 に 海 も 山 も ない のだ 。 あいだ||うみ||やま||| There is no sea or mountain in between.

「 はい ! と 、 綾子 は 答えた 。 |あやこ||こたえた

「 本当 か ? ほんとう| 「 先生 と なら 、 構い ませ ん 」 せんせい|||かまい||

安東 は もう 一 度 、 力強い キス の 雨 を 降ら せた 。 あんどう|||ひと|たび|ちからづよい|きす||あめ||ふら| まるで 抵抗 力 ゼロ の 綾子 に とって は 、 立って いる の も 容易で ない ほど の 、 目 の まわる ような 体験 であった 。 |ていこう|ちから|||あやこ||||たって||||よういで||||め||||たいけん|

「 じゃ 、 明日 、 僕 は 学校 は 午前 中 だけ な んだ 。 |あした|ぼく||がっこう||ごぜん|なか||| 午後 、 会い たい 」 ごご|あい|

「 はい 」

「 構わ ない の か ? かまわ||| 「 構い ませ ん 」 かまい||

綾子 が 、 何事 に よら ず 、 こんなに はっきり 返事 を する の は 、 珍しい こと だった 。 あやこ||なにごと||||||へんじ|||||めずらしい||

「 よし 。 ── じゃ 、 もう 帰ら ない と 、 君 の 妹 たち が 心配 する ぞ 」 ||かえら|||きみ||いもうと|||しんぱい|| ─ ─ Well, if you do not leave already, your sisters will worry about you "

「 ええ 。 じゃ 明日 ……」 |あした

「 学校 へ 電話 して くれ ない か 。 がっこう||でんわ||||