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こころ - 夏目漱石 - Soseki Project, Section 033 - Kokoro - Soseki Project

Section 033 - Kokoro - Soseki Project

十七

私 は まだ その後 に いう べき 事 を もって いた 。 けれども 奥さん から 徒 ら に 議論 を 仕掛ける 男 の ように 取られて は 困る と 思って 遠慮 した 。 奥さん は 飲み干した 紅茶 茶碗 の 底 を 覗いて 黙って いる 私 を 外 ら さ ない ように 、「 もう 一 杯 上げましょう か 」 と 聞いた 。 私 は すぐ 茶碗 を 奥さん の 手 に 渡した 。

「 いく つ ? 一 つ ? 二 ッ つ ? 」 妙な もの で 角 砂糖 を つまみ 上げた 奥さん は 、 私 の 顔 を 見て 、 茶碗 の 中 へ 入れる 砂糖 の 数 を 聞いた 。 奥さん の 態度 は 私 に 媚 び る と いう ほど で は なかった けれども 、 先刻 の 強い 言葉 を 力め て 打ち消そう と する 愛嬌 に 充 ちてい た 。

私 は 黙って 茶 を 飲んだ 。 飲んで しまって も 黙って いた 。

「 あなた 大変 黙り 込 ん じ まった の ね 」 と 奥さん が いった 。

「 何 か いう と また 議論 を 仕掛ける なんて 、 叱り付けられ そうです から 」 と 私 は 答えた 。 「 まさか 」 と 奥さん が 再び いった 。

二 人 は それ を 緒 口 に また 話 を 始めた 。 そうして また 二 人 に 共通な 興味 の ある 先生 を 問題 に した 。

「 奥さん 、 先刻 の 続き を もう 少し いわ せて 下さいません か 。 奥さん に は 空 な 理屈 と 聞こえる かも 知れません が 、 私 は そんな 上の空 で いって る 事 じゃ ない んだ から 」 「 じゃ おっしゃい 」

「 今 奥さん が 急に い なく なった と したら 、 先生 は 現在 の 通り で 生きて いられる でしょう か 」 「 そりゃ 分 ら ない わ 、 あなた 。 そんな 事 、 先生 に 聞いて 見る より 外 に 仕方 が ない じゃ ありません か 。 私 の 所 へ 持って 来る 問題 じゃ ない わ 」

「 奥さん 、 私 は 真面目です よ 。 だから 逃げちゃ いけません 。 正直に 答え なくっちゃ 」

「 正直 よ 。 正直に いって 私 に は 分 ら ない の よ 」


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十七 じゅうしち Seventeen

私 は まだ その後 に いう べき 事 を もって いた 。 わたくし|||そのご||||こと||| I still had something to say after that. けれども 奥さん から 徒 ら に 議論 を 仕掛ける 男 の ように 取られて は 困る と 思って 遠慮 した 。 |おくさん||と|||ぎろん||しかける|おとこ|||とら れて||こまる||おもって|えんりょ| However, I refrained from thinking that it would be a problem if my wife took me like a man who set up discussions with people. 奥さん は 飲み干した 紅茶 茶碗 の 底 を 覗いて 黙って いる 私 を 外 ら さ ない ように 、「 もう 一 杯 上げましょう か 」 と 聞いた 。 おくさん||のみほした|こうちゃ|ちゃわん||そこ||のぞいて|だまって||わたくし||がい||||||ひと|さかずき|あげ ましょう|||きいた 私 は すぐ 茶碗 を 奥さん の 手 に 渡した 。 わたくし|||ちゃわん||おくさん||て||わたした

「 いく つ ? 一 つ ? ひと| 二 ッ つ ? ふた|| 」 妙な もの で 角 砂糖 を つまみ 上げた 奥さん は 、 私 の 顔 を 見て 、 茶碗 の 中 へ 入れる 砂糖 の 数 を 聞いた 。 みょうな|||かど|さとう|||あげた|おくさん||わたくし||かお||みて|ちゃわん||なか||いれる|さとう||すう||きいた 奥さん の 態度 は 私 に 媚 び る と いう ほど で は なかった けれども 、 先刻 の 強い 言葉 を 力め て 打ち消そう と する 愛嬌 に 充 ちてい た 。 おくさん||たいど||わたくし||び||||||||||せんこく||つよい|ことば||りきめ||うちけそう|||あいきょう||まこと||

私 は 黙って 茶 を 飲んだ 。 わたくし||だまって|ちゃ||のんだ 飲んで しまって も 黙って いた 。 のんで|||だまって|

「 あなた 大変 黙り 込 ん じ まった の ね 」 と 奥さん が いった 。 |たいへん|だまり|こみ|||||||おくさん||

「 何 か いう と また 議論 を 仕掛ける なんて 、 叱り付けられ そうです から 」 と 私 は 答えた 。 なん|||||ぎろん||しかける||しかりつけ られ|そう です|||わたくし||こたえた 「 まさか 」 と 奥さん が 再び いった 。 ||おくさん||ふたたび|

二 人 は それ を 緒 口 に また 話 を 始めた 。 ふた|じん||||お|くち|||はなし||はじめた そうして また 二 人 に 共通な 興味 の ある 先生 を 問題 に した 。 ||ふた|じん||きょうつうな|きょうみ|||せんせい||もんだい||

「 奥さん 、 先刻 の 続き を もう 少し いわ せて 下さいません か 。 おくさん|せんこく||つづき|||すこし|||ください ませ ん| 奥さん に は 空 な 理屈 と 聞こえる かも 知れません が 、 私 は そんな 上の空 で いって る 事 じゃ ない んだ から 」 おくさん|||から||りくつ||きこえる||しれ ませ ん||わたくし|||うわのそら||||こと|||| It may sound like an empty reason to your wife, but I'm not in the sky above that. " 「 じゃ おっしゃい 」

「 今 奥さん が 急に い なく なった と したら 、 先生 は 現在 の 通り で 生きて いられる でしょう か 」 いま|おくさん||きゅうに||||||せんせい||げんざい||とおり||いきて|いら れる|| 「 そりゃ 分 ら ない わ 、 あなた 。 |ぶん|||| そんな 事 、 先生 に 聞いて 見る より 外 に 仕方 が ない じゃ ありません か 。 |こと|せんせい||きいて|みる||がい||しかた||||あり ませ ん| 私 の 所 へ 持って 来る 問題 じゃ ない わ 」 わたくし||しょ||もって|くる|もんだい|||

「 奥さん 、 私 は 真面目です よ 。 おくさん|わたくし||まじめです| だから 逃げちゃ いけません 。 |にげちゃ|いけ ませ ん 正直に 答え なくっちゃ 」 しょうじきに|こたえ|

「 正直 よ 。 しょうじき| 正直に いって 私 に は 分 ら ない の よ 」 しょうじきに||わたくし|||ぶん||||