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三姉妹探偵団 1, 三姉妹探偵団01 chapter 12 (1)

三 姉妹 探偵 団 01 chapter 12 (1)

12 探偵 か 妹 か 、 それ が ……

翌日 、 夕 里子 は 昼 近く まで 眠って しまった 。

ずいぶん 疲れて いた らしい 。

それ に 、 起こす 人間 が 、 誰 も い なかった せい も ある 。 降りて 行く と 、 片瀬 も 、 痛手 を 忘れる ため か 、 会社 へ 出て いる ようだった し 、 敦子 と 珠美 は 、 もちろん 学校 である 。

綾子 は ? ── 玄関 へ 行く と 、 靴 が なかった 。

「 勤め に 出た の かしら ? 神田 初江 が 殺さ れた と いう のに 、 今さら 、 あそこ ヘアルバイト に 出て も 仕方ない 。 それ ぐらい は 分 って いる だろう が 。

昨日 の こと が ある ので 、 夕 里子 と 顔 を 合わせ たく なかった の か 。

夕 里子 は 肩 を すくめて 、 顔 でも 洗う か 、 と 、 洗面 所 へ 行き かけた 。 そこ へ 玄関 の チャイム が 鳴った 。 ── どう しよう ? パジャマ 姿 である 。

ま 、 いい や 。 どうせ 郵便 か 何 か だろう 。

「 は ー い 」

ヒョイ と 玄関 を 開ける と 、 国友 刑事 が 立って いた 。

「 や あ 、 寝て た の ? 夕 里子 は あわてて 奥 へ 飛び込んで 行った 。

「── 前もって 電話 ぐらい して くれれば いい のに 」

国友 の 運転 する 車 に 乗って 、 夕 里子 は 文句 を 言った 。

「 悪かった ね 。 でも 、 可愛かった よ 、 パジャマ 姿 も 」

と 国友 は ニヤニヤ して いる 。

夕 里子 は プイ と そっぽ を 向いた 。 国友 は 構わ ず に 、

「 向 う から ね 、 君 に 会い たい と 言って 来た んだ 。 何の 話 が ある の か 分 ら ない けど ね 」

水口 淳子 の 両親 が 、 夕 里子 に 会い たい 、 と いう のである 。 一 度 訪ねて 行って 、 留守 で会え なかった のだ が 、 それ きり 、 あれこれ と 事件 が 起って 、 一 度 も 行って み なかった のだった 。

水口 淳子 の 家 は 、 ごく あり ふれた 建売 住宅 である 。

玄関 の チャイム を 鳴らす と 、

「 はい 」

と 、 女性 の 声 が して 、 ドア が 開いた 。

五十 前後 の 、 小 太り な 婦人 が 立って いる 。

「 お 電話 を いただいた 国友 です 」

と 、 頭 を 下げ 、「 こちら が 、 佐々 本 夕 里子 さん です 」

「 まあ 、 よく いらっしゃい ました 」

と 、 その 婦人 は 夕 里子 へ 微笑み かけ 、「 淳子 の 母 です 。 さ 、 どうぞ 」

食堂 と つながった リビング は 、 ちょっと した 応接 セット で 一杯に なって しまう 広 さ だった 。

「── ご 主人 は ? 「 今日 は 一 日 、 剣道 の お 友だち の 会合 で 出て おり ます の 」

と 、 水口 夫人 は お茶 を 出し ながら 、「 だ から 、 こうして おい で いただいた のです わ 」

「 は あ 、 すると ……」

「 まだ 主人 は 娘 が あんな 風 に 殺さ れた こと を 認めよう と いたし ませ ん 」

夫人 は 、 ちょっと 寂し げ に 笑って 、「 でも 、 ほら …… あの 棚 に 、 淳子 の 写真 が ございます でしょう ? あれ は 、 主人 が いつの間にか 、 飾った もの な んで ございます よ 。 もちろん 主人 も 、 淳子 が 死んだ こと は よく 分 って いる んです の 。 ただ 、 頑固 者 です から 、 そう は 言わ ない だけ で ……」

夕 里子 は 、 茶碗 を 置いて 、

「 お 写真 、 拝見 して よろしい です か ? と 訊 いた 。

「 ええ 、 どうぞ 」

考えて みれば 、 水口 淳子 の 顔 も 、 よく は 知ら ない のだ 。 新聞 の 写真 も 、 TV に 映る 顔 も 、 およそ どんな 女性 だった の か 、 知る 手がかり に は なら ない 。

写真 は 、 どこ か に 旅行 した とき の もの だろう か 。 スラックス に ジャンパー 姿 で 、 楽し そうに 笑って いる 。

可愛い 笑顔 だった 。 この 娘 を 失って 、 それ を 認め たく ない 、 父親 の 気持 は 、 よく 分 った ……。

「 おとなしい 子 でして ね 。 とても 気 の 優しい 性格 で 」

母親 の 言葉 も 、 決して 欲目 と は 言え ない 、 その 通り の 印象 を 、 夕 里子 は 写真 から 受けた 。 そして ── ふと 、 この 人 は 、 誰 か に 似て る 、 と 思った 。

誰 だろう ? 顔 の 造作 と か 、 そういう 点 で なく 、 受ける 印象 が 、 誰 か を 連想 さ せ だ 。 それ が 誰 な の か 、 いくら 考えて も 分 ら ない 。

「── する と 淳子 さん が その 男 と 付き合う ように なら れた の は 二 年 前 ぐらい ……」

気 が 付く と 、 国友 が メモ を 取って いた 。

「 で 、 相手 の 男性 の こと を 何 か 言って い ませ ん でした か 」

「 それ が …… いくら 訊 いて も 返事 を せ ず ……」

と 、 夫人 は 首 を 振って 、「 お 父さん に 分 る と どんなに 怒ら れる か 、 分 って いた から だ と 思い ます が 」

「 と いう こと は ──」

「 奥さん の ある 男性 と の 恋 だった と 思い ます 」

「 それ は お 母さん の 勘 です か ? 「 母親 なら 分 り ます 」

「 なるほど 」

国友 は 肯 いた 。 「 しかし 、 名前 など は 一切 言わ なかった んです ね 」

「 はい 」

「 何 か こう …… 手掛り に なる ような こと は ? 年齢 と か 、 職業 と か 」

「 それ も ねえ ……。 何しろ 、 その 人 の こと に 関して は 、 とにかく 貝 の ように 口 を つぐんで しまう んです から 」

「 お嬢さん が 、 妊娠 なさって いる こと に は 、 お 気付き でした か ? 「 はい 。 顔色 や 、 不安 そうな 様子 を 見て いれば 分 り ます 。 特に 、 母親 と 娘 は 、 症状 が 似る もの です から ね 」

「 なるほど 。 その こと で お嬢さん に 訊 いて み ました か 」

「 訊 き ました 。 否定 して も 分 って る んだ から 、 と 。 ── 当然 、 放っといて 、 と 怒鳴る と 思い ましたら 、 急に あの 子 は 泣き出し まして ……」

「 認めた わけです ね 」

「 はい 。 自分 でも 、 どうして いい の か 分 ら なかった ようです 。 私 は 、 お 父さん に は 何も 言わ ず に 、 何とか 事 を 済まそう と 思い 、 そう 言い ました 」

「 淳子 さん は 何と ? 「『 はっきり さ せる わ 、 今度 こそ 』 と 申し ました 」

「 いつ の こと です か 、 それ は ? 「 あの 火事 の あった 二 日 前 です 」

「 する と 、 その 話 を つけよう と して 、 犯人 を 追い詰め 、 殺さ れた 、 と いう こと に なり ます ね 」

「 その とき に もっと 詳しく 話 を 聞く か 、 逆に 何も 言わ なければ …… あんな こと に も なら なかった かも しれ ませ ん が 」

と 夫人 は 、 涙 を 拭って 、「 それ が 、 気 に かかり ます 」

「 それ は 関係ない と 思い ます 」

夕 里子 が 言った 。 「 あの 犯行 は 、 かなり 前 から 、 計画 さ れた もの です 。 犯人 は 突然 思い立った ので は あり ませ ん 。 お 母さん が 淳子 さん に 言わ れた こと が 、 事件 を ひき起こした わけで は ない と 思い ます 」

夫人 は 、 ちょっと 黙って 夕 里子 を 見た 。 夕 里子 は 、 目 を 伏せて 、

「 すみません 、 何 か 余計な 口出し を して しまって 」

「 いいえ 。 あなた は 優しい の ね 」 と 夫人 は 、 ゆっくり した 口調 で 言った 。

「 お 父 様 が 行方 不明で 、 心配です ね 。 でも 、 疑い は 晴れた ようで 、 本当に 良かった わ 」

「 ありがとう ございます 」

「 お 話 できる こと と いって は 、 これ ぐらい です の 、 刑事 さん 」

と 、 夫人 は 両手 を 軽く 広げて 、「 これ じゃ 何の お 役 に も 立ち ませ ん わ ね 」

「 いや 、 そんな こと は 、 決して あり ませ ん 」

国友 は 手帳 を しまって 立ち上った 。 「 何 か また 思い出す こと が あり ましたら 、 いつでも ご 連絡 下さい 。 必ず 犯人 は 捕えて みせ ます よ 」

「 よろしく お 願い し ます 」

夫人 は 深々と 頭 を 下げた 。

玄関 を 出る と 、 国友 は 、 少し 先 の 道 に 停めた 車 を 取り に 行った 。

夕 里子 が 立って いる と 、 玄関 から 、 夫人 が 出て 来て 、

「 あ 、 刑事 さん は ? 「 今 、 あっ ち へ ……。 何で しょうか ? 「 今 、 ちょっと 思い出した こと が あって 。 あなた に は お 話し して おく わ 。 大した こと で は ない んだ けど ……」

「 どんな こと です か ? 「 いつか ね 、 淳子 の 服 を 見て いて 気付いた こと が ある の 。 その 男 の 人 と 会って 来た 後 と いう の は 、 大体 様子 で 分 る の ね 。 で 、 服 を 洋服 ダンス へ しまって やる とき に 見る と 、 よく 白い 粉 が 、 袖口 なんか に 、 わずかだ けど 、 付いて いて ね 」

「 白い 粉 ? 「 たぶん 、 白墨 の 粉 じゃ ない か と 思う けど 、 淳子 は 仕事 で そんな 風 な 粉 を つけて 来た こと は ない から 、 きっと 相手 の 男 と 会って いる とき に ついた のだ と 思う わ 。 ── だ から 、 私 、 ふっと 、 相手 の 男 は 学校 の 先生 か 何 か な の かしら 、 って 思った こと が ある の 」

夫人 は そう 言って 、「 じゃ 、 これ だけ だ から 、 刑事 さん に よろしく 伝えて ね 」

と 、 また 中 へ 入って 行って しまう 。

角 から 、 国友 の 車 が 出て 来た 。 玄関 の 前 まで 来る と 、

「 お 待た せ し ました 。 さ 、 乗って 。 ── どうし たんだい ? 「 いいえ 、 別に 」

夕 里子 は 助手 席 に 乗った 。

「 どこ へ 行く ? 帰る なら 送る よ 」

「 あの ── 東京 セクレタリーサービス に 行って くれる ? 「 水口 淳子 の 会社 ? 「 姉 が 行って る か どう か 、 見 たい の 」

「 いい よ 。 それ じゃ 行こう 」

車 が 走り出す 。

夕 里子 は 、 じっと 車 の 前方 を 見つめて いた 。

白墨 の 粉 。 ── 教師 。

あの 夫人 の 言葉 が 、 夕 里子 に 、 水口 淳子 の 写真 に 似て いた 誰 か を 思い出さ せた 。

水口 淳子 と よく 似た 印象 の 娘 。 ── 他なら ぬ 姉 の 綾子 の こと を 。

「 安東 先生 は ? 珠美 は 、 職員 室 の 入口 で 、 中 を 見回し 、 ちょうど 歩いて 来た 事務 の 女の子 に 訊 いた 。

「 え ? 安東 先生 ? いた けど な 、 さっき は 。 ── あ 、 電話 に 出て る わ 。 ほら 」

外 線 から の 電話 は 、 職員 室 の 奥 の 、 ちょっと した コーナー に なった 所 で 受ける ように なって いる 。

そこ に 、 安東 の 、 がっしり した 後ろ姿 が あった 。

「 ありがとう 」

珠美 は 、 安東 の 方 へ 歩き ながら 、〈 がっしり した 後ろ姿 〉 か 、 まるで 今度 の 犯人 だ な 、 と 思った 。 うち の こと も 知って る し 、 奥さん も いて 、 うまく 行って ないし ……。

「 まさか ! と 珠美 は 呟いた 。

そう 、 鍵 の こと が ある 。 安東 先生 に 、 鍵 を 渡した こと なんて ない はずだ 。

「── うん 、 そうだ 。 その 右 だ 。 いいね ? 分 った かい ? ── よし 、 じゃ 二 時 に 。 待って る よ 」

近 付いて行く と 電話 に 向 って 話して いる 言葉 が 聞こえて 来る 。 待ち合わせ か 。 受話器 を 置いて 、 安東 が 振り返る 。

「 先生 、 ちょっと ──」

と 言い かけて 、 珠美 は 、 言葉 を 切った 。

安東 が 、 見た目 に はっきり と 分 る ほど 、 ギョッ と した から である 。 ── しかし 、 それ は ほんの 一瞬 の こと だった 。

「 どうした ? 安東 は 、 いつも の 穏やかな 表情 に 戻って いた 。 珠美 は 、 ちょっと の 間 、 言葉 が 出て 来 なかった 。

「 あの ── 今度 の 時間 の 資料 を 取り に 来い と おっしゃった んで 」

「 ああ 、 そう だった か 。 今 渡す 」

安東 は 机 の 所 まで 戻る と 、 引出し から 、 コピー の 束 を 出して 、「 これ を 配 っと いて くれ 。 来週 まで で いい から 」

「 来週 です か 」

「 そうだ 。 頼む よ 」

安東 は 机 の 上 を 片付け 始めた 。

珠美 は 、 ふと 、 安東 の 上 衣 の えり に 目 を 止めて 、

「 あれ 、 先生 、 その バッジ 、 失 く した んじゃ なかった んです か 」

と 言った 。

「 え ? あ 、 これ か 。 出て 来た んだ よ 」

「 よかった です ね 」

それ は 、 教育 委員 会 から 与え られる 、 一種 の 勲章 みたいな もの である 。 安東 が 、 前 に 、 失 く した と 言って がっかり して いる の を 、 珠美 は 憶 えて いた のである 。

「 今日 は もう 帰る んです か ? 「 午後 から 用 が ある 。 ── どう だ 、 姉さん の 探偵 ごっこ は ? 「 ええ 、 何とか やって る みたいです 」

「 気 を 付けろ と 言 っと け よ 。 じゃ 」

「 さようなら 」

珠美 は 、 安東 が 足早に 出て 行く の を 見送って 、 それ から 、 ゆっくり と 職員 室 を 出て 、 教室 の 方 へ と 歩いて 行った 。

何だか 、 気 に なった 。

いい 先生 だ し 、 立派な 人 だ と 思う のだ が 、 さっき の 、 あの 驚いた 表情 は 、 まるで 別人 の ようだった 。 まるで 違う 人間 を 見た ような 、 そんな 印象 を 受けた のである 。

安東 先生 は …… 火事 の とき 、 真 先 に やって 来た 。 そして 。 ……。

「 そんな こと ! 珠美 は 頭 を 振った 。 ちょっと お 姉ちゃん に 感化 さ れちゃ った の か な 。

廊下 を ドタドタ と トレーニングウェア の 友だち が やって 来る 。

「 オッス 、 珠美 」

「 午後 、 体育 ? 「 うん 」

「 何 やって ん の 、 今 ? 「 バスケット よ 」

「 同じだ 。 シュート の テスト は ? 「 まだ 」

「 やらさ れる よ 」

「 や だ あ 。 珠美 、 入った ? 「 もち 。 五 回 中 三 回 」

「 やる ! じゃ 、 私 も 二 回 は いく か な 」

「 無理 よ 。 パチンコ と 違う んだ から ね 」

「 言った な 、 こら ! と ふざけて ボクシング の 真似 を する 。

「 えい ! 「 下手くそ ! ほら ! チャリン 、 と 音 が して 、「 あ 、 いけない 」

と 、 あわてて 、 キーホルダー を 拾い上げる 。

「 どう する の 、 それ ? 「 担任 に 預ける の よ 。 決 って る じゃ ない 。


三 姉妹 探偵 団 01 chapter 12 (1) みっ|しまい|たんてい|だん|

12  探偵 か 妹 か 、 それ が …… たんてい||いもうと||| 12 Detective or sister, that is ... ...

翌日 、 夕 里子 は 昼 近く まで 眠って しまった 。 よくじつ|ゆう|さとご||ひる|ちかく||ねむって|

ずいぶん 疲れて いた らしい 。 |つかれて||

それ に 、 起こす 人間 が 、 誰 も い なかった せい も ある 。 ||おこす|にんげん||だれ|||||| 降りて 行く と 、 片瀬 も 、 痛手 を 忘れる ため か 、 会社 へ 出て いる ようだった し 、 敦子 と 珠美 は 、 もちろん 学校 である 。 おりて|いく||かたせ||いたで||わすれる|||かいしゃ||でて||||あつこ||たまみ|||がっこう| As I got off, Katase seemed to be out to the company to forget her pain, and Atsuko and Tami are, of course, schools.

綾子 は ? あやこ| ── 玄関 へ 行く と 、 靴 が なかった 。 げんかん||いく||くつ||

「 勤め に 出た の かしら ? つとめ||でた|| "I wonder if I went to work? 神田 初江 が 殺さ れた と いう のに 、 今さら 、 あそこ ヘアルバイト に 出て も 仕方ない 。 しんでん|はつえ||ころさ|||||いまさら||||でて||しかたない Even though Handa Kanda was killed, it can not be helped to go out to a part-time job there. それ ぐらい は 分 って いる だろう が 。 |||ぶん||||

昨日 の こと が ある ので 、 夕 里子 と 顔 を 合わせ たく なかった の か 。 きのう||||||ゆう|さとご||かお||あわせ|||| Because I had something yesterday, did not I want to face face with Yuriko?

夕 里子 は 肩 を すくめて 、 顔 でも 洗う か 、 と 、 洗面 所 へ 行き かけた 。 ゆう|さとご||かた|||かお||あらう|||せんめん|しょ||いき| そこ へ 玄関 の チャイム が 鳴った 。 ||げんかん||ちゃいむ||なった ── どう しよう ? パジャマ 姿 である 。 ぱじゃま|すがた|

ま 、 いい や 。 どうせ 郵便 か 何 か だろう 。 |ゆうびん||なん||

「 は ー い 」 |-|

ヒョイ と 玄関 を 開ける と 、 国友 刑事 が 立って いた 。 ||げんかん||あける||くにとも|けいじ||たって|

「 や あ 、 寝て た の ? ||ねて|| 夕 里子 は あわてて 奥 へ 飛び込んで 行った 。 ゆう|さとご|||おく||とびこんで|おこなった

「── 前もって 電話 ぐらい して くれれば いい のに 」 まえもって|でんわ|||||

国友 の 運転 する 車 に 乗って 、 夕 里子 は 文句 を 言った 。 くにとも||うんてん||くるま||のって|ゆう|さとご||もんく||いった

「 悪かった ね 。 わるかった| でも 、 可愛かった よ 、 パジャマ 姿 も 」 |かわいかった||ぱじゃま|すがた|

と 国友 は ニヤニヤ して いる 。 |くにとも||||

夕 里子 は プイ と そっぽ を 向いた 。 ゆう|さとご||||||むいた 国友 は 構わ ず に 、 くにとも||かまわ||

「 向 う から ね 、 君 に 会い たい と 言って 来た んだ 。 むかい||||きみ||あい|||いって|きた| 何の 話 が ある の か 分 ら ない けど ね 」 なんの|はなし|||||ぶん||||

水口 淳子 の 両親 が 、 夕 里子 に 会い たい 、 と いう のである 。 みずぐち|あつこ||りょうしん||ゆう|さとご||あい|||| 一 度 訪ねて 行って 、 留守 で会え なかった のだ が 、 それ きり 、 あれこれ と 事件 が 起って 、 一 度 も 行って み なかった のだった 。 ひと|たび|たずねて|おこなって|るす|であえ||||||||じけん||おこって|ひと|たび||おこなって|||

水口 淳子 の 家 は 、 ごく あり ふれた 建売 住宅 である 。 みずぐち|あつこ||いえ|||||たてうり|じゅうたく| Junko Mizuguchi 's house is a dwelling house that is quite common.

玄関 の チャイム を 鳴らす と 、 げんかん||ちゃいむ||ならす|

「 はい 」

と 、 女性 の 声 が して 、 ドア が 開いた 。 |じょせい||こえ|||どあ||あいた

五十 前後 の 、 小 太り な 婦人 が 立って いる 。 ごじゅう|ぜんご||しょう|ふとり||ふじん||たって|

「 お 電話 を いただいた 国友 です 」 |でんわ|||くにとも|

と 、 頭 を 下げ 、「 こちら が 、 佐々 本 夕 里子 さん です 」 |あたま||さげ|||ささ|ほん|ゆう|さとご||

「 まあ 、 よく いらっしゃい ました 」

と 、 その 婦人 は 夕 里子 へ 微笑み かけ 、「 淳子 の 母 です 。 ||ふじん||ゆう|さとご||ほおえみ||あつこ||はは| さ 、 どうぞ 」

食堂 と つながった リビング は 、 ちょっと した 応接 セット で 一杯に なって しまう 広 さ だった 。 しょくどう|||りびんぐ||||おうせつ|せっと||いっぱいに|||ひろ||

「── ご 主人 は ? |あるじ| 「 今日 は 一 日 、 剣道 の お 友だち の 会合 で 出て おり ます の 」 きょう||ひと|ひ|けんどう|||ともだち||かいごう||でて|||

と 、 水口 夫人 は お茶 を 出し ながら 、「 だ から 、 こうして おい で いただいた のです わ 」 |みずぐち|ふじん||おちゃ||だし||||||||| , Mrs. Mizukuchi gave me a cup of tea, "So, you got me here,"

「 は あ 、 すると ……」

「 まだ 主人 は 娘 が あんな 風 に 殺さ れた こと を 認めよう と いたし ませ ん 」 |あるじ||むすめ|||かぜ||ころさ||||みとめよう||||

夫人 は 、 ちょっと 寂し げ に 笑って 、「 でも 、 ほら …… あの 棚 に 、 淳子 の 写真 が ございます でしょう ? ふじん|||さびし|||わらって||||たな||あつこ||しゃしん||| あれ は 、 主人 が いつの間にか 、 飾った もの な んで ございます よ 。 ||あるじ||いつのまにか|かざった||||| もちろん 主人 も 、 淳子 が 死んだ こと は よく 分 って いる んです の 。 |あるじ||あつこ||しんだ||||ぶん|||| ただ 、 頑固 者 です から 、 そう は 言わ ない だけ で ……」 |がんこ|もの|||||いわ|||

夕 里子 は 、 茶碗 を 置いて 、 ゆう|さとご||ちゃわん||おいて

「 お 写真 、 拝見 して よろしい です か ? |しゃしん|はいけん|||| と 訊 いた 。 |じん|

「 ええ 、 どうぞ 」

考えて みれば 、 水口 淳子 の 顔 も 、 よく は 知ら ない のだ 。 かんがえて||みずぐち|あつこ||かお||||しら|| 新聞 の 写真 も 、 TV に 映る 顔 も 、 およそ どんな 女性 だった の か 、 知る 手がかり に は なら ない 。 しんぶん||しゃしん||tv||うつる|かお||||じょせい||||しる|てがかり||||

写真 は 、 どこ か に 旅行 した とき の もの だろう か 。 しゃしん|||||りょこう|||||| スラックス に ジャンパー 姿 で 、 楽し そうに 笑って いる 。 すらっくす||じゃんぱー|すがた||たのし|そう に|わらって|

可愛い 笑顔 だった 。 かわいい|えがお| この 娘 を 失って 、 それ を 認め たく ない 、 父親 の 気持 は 、 よく 分 った ……。 |むすめ||うしなって|||みとめ|||ちちおや||きもち|||ぶん|

「 おとなしい 子 でして ね 。 |こ|| とても 気 の 優しい 性格 で 」 |き||やさしい|せいかく|

母親 の 言葉 も 、 決して 欲目 と は 言え ない 、 その 通り の 印象 を 、 夕 里子 は 写真 から 受けた 。 ははおや||ことば||けっして|よくめ|||いえ|||とおり||いんしょう||ゆう|さとご||しゃしん||うけた そして ── ふと 、 この 人 は 、 誰 か に 似て る 、 と 思った 。 |||じん||だれ|||にて|||おもった And then, I thought that this man looks like someone.

誰 だろう ? だれ| 顔 の 造作 と か 、 そういう 点 で なく 、 受ける 印象 が 、 誰 か を 連想 さ せ だ 。 かお||ぞうさく||||てん|||うける|いんしょう||だれ|||れんそう||| それ が 誰 な の か 、 いくら 考えて も 分 ら ない 。 ||だれ|||||かんがえて||ぶん||

「── する と 淳子 さん が その 男 と 付き合う ように なら れた の は 二 年 前 ぐらい ……」 ||あつこ||||おとこ||つきあう||||||ふた|とし|ぜん|

気 が 付く と 、 国友 が メモ を 取って いた 。 き||つく||くにとも||めも||とって|

「 で 、 相手 の 男性 の こと を 何 か 言って い ませ ん でした か 」 |あいて||だんせい||||なん||いって|||||

「 それ が …… いくら 訊 いて も 返事 を せ ず ……」 |||じん|||へんじ|||

と 、 夫人 は 首 を 振って 、「 お 父さん に 分 る と どんなに 怒ら れる か 、 分 って いた から だ と 思い ます が 」 |ふじん||くび||ふって||とうさん||ぶん||||いから|||ぶん||||||おもい||

「 と いう こと は ──」

「 奥さん の ある 男性 と の 恋 だった と 思い ます 」 おくさん|||だんせい|||こい|||おもい|

「 それ は お 母さん の 勘 です か ? |||かあさん||かん|| 「 母親 なら 分 り ます 」 ははおや||ぶん|| "If it is a mother, I will understand."

「 なるほど 」

国友 は 肯 いた 。 くにとも||こう| 「 しかし 、 名前 など は 一切 言わ なかった んです ね 」 |なまえ|||いっさい|いわ|||

「 はい 」

「 何 か こう …… 手掛り に なる ような こと は ? なん|||てがかり||||| "Something like this ... What kind of thing seems to be a clue? 年齢 と か 、 職業 と か 」 ねんれい|||しょくぎょう||

「 それ も ねえ ……。 何しろ 、 その 人 の こと に 関して は 、 とにかく 貝 の ように 口 を つぐんで しまう んです から 」 なにしろ||じん||||かんして|||かい|||くち|||||

「 お嬢さん が 、 妊娠 なさって いる こと に は 、 お 気付き でした か ? おじょうさん||にんしん|||||||きづき|| 「 はい 。 顔色 や 、 不安 そうな 様子 を 見て いれば 分 り ます 。 かおいろ||ふあん|そう な|ようす||みて||ぶん|| 特に 、 母親 と 娘 は 、 症状 が 似る もの です から ね 」 とくに|ははおや||むすめ||しょうじょう||にる||||

「 なるほど 。 その こと で お嬢さん に 訊 いて み ました か 」 |||おじょうさん||じん||||

「 訊 き ました 。 じん|| 否定 して も 分 って る んだ から 、 と 。 ひてい|||ぶん||||| ── 当然 、 放っといて 、 と 怒鳴る と 思い ましたら 、 急に あの 子 は 泣き出し まして ……」 とうぜん|ほっといて||どなる||おもい||きゅうに||こ||なきだし|

「 認めた わけです ね 」 みとめた||

「 はい 。 自分 でも 、 どうして いい の か 分 ら なかった ようです 。 じぶん||||||ぶん||| 私 は 、 お 父さん に は 何も 言わ ず に 、 何とか 事 を 済まそう と 思い 、 そう 言い ました 」 わたくし|||とうさん|||なにも|いわ|||なんとか|こと||すまそう||おもい||いい|

「 淳子 さん は 何と ? あつこ|||なんと "What is Junko-san? 「『 はっきり さ せる わ 、 今度 こそ 』 と 申し ました 」 ||||こんど|||もうし|

「 いつ の こと です か 、 それ は ? 「 あの 火事 の あった 二 日 前 です 」 |かじ|||ふた|ひ|ぜん|

「 する と 、 その 話 を つけよう と して 、 犯人 を 追い詰め 、 殺さ れた 、 と いう こと に なり ます ね 」 |||はなし|||||はんにん||おいつめ|ころさ||||||||

「 その とき に もっと 詳しく 話 を 聞く か 、 逆に 何も 言わ なければ …… あんな こと に も なら なかった かも しれ ませ ん が 」 ||||くわしく|はなし||きく||ぎゃくに|なにも|いわ||||||||||||

と 夫人 は 、 涙 を 拭って 、「 それ が 、 気 に かかり ます 」 |ふじん||なみだ||ぬぐって|||き|||

「 それ は 関係ない と 思い ます 」 ||かんけいない||おもい|

夕 里子 が 言った 。 ゆう|さとご||いった 「 あの 犯行 は 、 かなり 前 から 、 計画 さ れた もの です 。 |はんこう|||ぜん||けいかく|||| 犯人 は 突然 思い立った ので は あり ませ ん 。 はんにん||とつぜん|おもいたった||||| お 母さん が 淳子 さん に 言わ れた こと が 、 事件 を ひき起こした わけで は ない と 思い ます 」 |かあさん||あつこ|||いわ||||じけん||ひきおこした|||||おもい|

夫人 は 、 ちょっと 黙って 夕 里子 を 見た 。 ふじん|||だまって|ゆう|さとご||みた 夕 里子 は 、 目 を 伏せて 、 ゆう|さとご||め||ふせて

「 すみません 、 何 か 余計な 口出し を して しまって 」 |なん||よけいな|くちだし|||

「 いいえ 。 あなた は 優しい の ね 」 と 夫人 は 、 ゆっくり した 口調 で 言った 。 ||やさしい||||ふじん||||くちょう||いった

「 お 父 様 が 行方 不明で 、 心配です ね 。 |ちち|さま||ゆくえ|ふめいで|しんぱいです| でも 、 疑い は 晴れた ようで 、 本当に 良かった わ 」 |うたがい||はれた||ほんとうに|よかった|

「 ありがとう ございます 」

「 お 話 できる こと と いって は 、 これ ぐらい です の 、 刑事 さん 」 |はなし||||||||||けいじ|

と 、 夫人 は 両手 を 軽く 広げて 、「 これ じゃ 何の お 役 に も 立ち ませ ん わ ね 」 |ふじん||りょうて||かるく|ひろげて|||なんの||やく|||たち||||

「 いや 、 そんな こと は 、 決して あり ませ ん 」 ||||けっして|||

国友 は 手帳 を しまって 立ち上った 。 くにとも||てちょう|||たちのぼった 「 何 か また 思い出す こと が あり ましたら 、 いつでも ご 連絡 下さい 。 なん|||おもいだす|||||||れんらく|ください 必ず 犯人 は 捕えて みせ ます よ 」 かならず|はんにん||とらえて|||

「 よろしく お 願い し ます 」 ||ねがい||

夫人 は 深々と 頭 を 下げた 。 ふじん||しんしんと|あたま||さげた

玄関 を 出る と 、 国友 は 、 少し 先 の 道 に 停めた 車 を 取り に 行った 。 げんかん||でる||くにとも||すこし|さき||どう||とめた|くるま||とり||おこなった

夕 里子 が 立って いる と 、 玄関 から 、 夫人 が 出て 来て 、 ゆう|さとご||たって|||げんかん||ふじん||でて|きて

「 あ 、 刑事 さん は ? |けいじ|| 「 今 、 あっ ち へ ……。 いま||| 何で しょうか ? なんで| 「 今 、 ちょっと 思い出した こと が あって 。 いま||おもいだした||| あなた に は お 話し して おく わ 。 ||||はなし||| I will talk to you. 大した こと で は ない んだ けど ……」 たいした||||||

「 どんな こと です か ? 「 いつか ね 、 淳子 の 服 を 見て いて 気付いた こと が ある の 。 ||あつこ||ふく||みて||きづいた|||| その 男 の 人 と 会って 来た 後 と いう の は 、 大体 様子 で 分 る の ね 。 |おとこ||じん||あって|きた|あと|||||だいたい|ようす||ぶん||| After seeing the man, you can see it almost in the picture. で 、 服 を 洋服 ダンス へ しまって やる とき に 見る と 、 よく 白い 粉 が 、 袖口 なんか に 、 わずかだ けど 、 付いて いて ね 」 |ふく||ようふく|だんす||||||みる|||しろい|こな||そでぐち|||||ついて||

「 白い 粉 ? しろい|こな 「 たぶん 、 白墨 の 粉 じゃ ない か と 思う けど 、 淳子 は 仕事 で そんな 風 な 粉 を つけて 来た こと は ない から 、 きっと 相手 の 男 と 会って いる とき に ついた のだ と 思う わ 。 |はくぼく||こな|||||おもう||あつこ||しごと|||かぜ||こな|||きた||||||あいて||おとこ||あって|||||||おもう| ── だ から 、 私 、 ふっと 、 相手 の 男 は 学校 の 先生 か 何 か な の かしら 、 って 思った こと が ある の 」 ||わたくし||あいて||おとこ||がっこう||せんせい||なん||||||おもった||||

夫人 は そう 言って 、「 じゃ 、 これ だけ だ から 、 刑事 さん に よろしく 伝えて ね 」 ふじん|||いって||||||けいじ||||つたえて|

と 、 また 中 へ 入って 行って しまう 。 ||なか||はいって|おこなって|

角 から 、 国友 の 車 が 出て 来た 。 かど||くにとも||くるま||でて|きた From the corner, my friend of Kokomo came out. 玄関 の 前 まで 来る と 、 げんかん||ぜん||くる|

「 お 待た せ し ました 。 |また||| さ 、 乗って 。 |のって ── どうし たんだい ? どう し| 「 いいえ 、 別に 」 |べつに

夕 里子 は 助手 席 に 乗った 。 ゆう|さとご||じょしゅ|せき||のった

「 どこ へ 行く ? ||いく 帰る なら 送る よ 」 かえる||おくる|

「 あの ── 東京 セクレタリーサービス に 行って くれる ? |とうきょう|||おこなって| 「 水口 淳子 の 会社 ? みずぐち|あつこ||かいしゃ 「 姉 が 行って る か どう か 、 見 たい の 」 あね||おこなって|||||み||

「 いい よ 。 それ じゃ 行こう 」 ||いこう

車 が 走り出す 。 くるま||はしりだす

夕 里子 は 、 じっと 車 の 前方 を 見つめて いた 。 ゆう|さとご|||くるま||ぜんぽう||みつめて| Riko Yuri stared at the front of the car.

白墨 の 粉 。 はくぼく||こな ── 教師 。 きょうし

あの 夫人 の 言葉 が 、 夕 里子 に 、 水口 淳子 の 写真 に 似て いた 誰 か を 思い出さ せた 。 |ふじん||ことば||ゆう|さとご||みずぐち|あつこ||しゃしん||にて||だれ|||おもいださ|

水口 淳子 と よく 似た 印象 の 娘 。 みずぐち|あつこ|||にた|いんしょう||むすめ ── 他なら ぬ 姉 の 綾子 の こと を 。 ほかなら||あね||あやこ|||

「 安東 先生 は ? あんどう|せんせい| 珠美 は 、 職員 室 の 入口 で 、 中 を 見回し 、 ちょうど 歩いて 来た 事務 の 女の子 に 訊 いた 。 たまみ||しょくいん|しつ||いりぐち||なか||みまわし||あるいて|きた|じむ||おんなのこ||じん|

「 え ? 安東 先生 ? あんどう|せんせい いた けど な 、 さっき は 。 ── あ 、 電話 に 出て る わ 。 |でんわ||でて|| ほら 」

外 線 から の 電話 は 、 職員 室 の 奥 の 、 ちょっと した コーナー に なった 所 で 受ける ように なって いる 。 がい|せん|||でんわ||しょくいん|しつ||おく||||こーなー|||しょ||うける|||

そこ に 、 安東 の 、 がっしり した 後ろ姿 が あった 。 ||あんどう||||うしろすがた||

「 ありがとう 」

珠美 は 、 安東 の 方 へ 歩き ながら 、〈 がっしり した 後ろ姿 〉 か 、 まるで 今度 の 犯人 だ な 、 と 思った 。 たまみ||あんどう||かた||あるき||||うしろすがた|||こんど||はんにん||||おもった うち の こと も 知って る し 、 奥さん も いて 、 うまく 行って ないし ……。 ||||しって|||おくさん||||おこなって|

「 まさか ! と 珠美 は 呟いた 。 |たまみ||つぶやいた

そう 、 鍵 の こと が ある 。 |かぎ|||| 安東 先生 に 、 鍵 を 渡した こと なんて ない はずだ 。 あんどう|せんせい||かぎ||わたした||||

「── うん 、 そうだ 。 |そう だ その 右 だ 。 |みぎ| いいね ? 分 った かい ? ぶん|| ── よし 、 じゃ 二 時 に 。 ||ふた|じ| 待って る よ 」 まって||

近 付いて行く と 電話 に 向 って 話して いる 言葉 が 聞こえて 来る 。 ちか|ついていく||でんわ||むかい||はなして||ことば||きこえて|くる 待ち合わせ か 。 まちあわせ| 受話器 を 置いて 、 安東 が 振り返る 。 じゅわき||おいて|あんどう||ふりかえる

「 先生 、 ちょっと ──」 せんせい|

と 言い かけて 、 珠美 は 、 言葉 を 切った 。 |いい||たまみ||ことば||きった

安東 が 、 見た目 に はっきり と 分 る ほど 、 ギョッ と した から である 。 あんどう||みため||||ぶん||||||| ── しかし 、 それ は ほんの 一瞬 の こと だった 。 ||||いっしゅん|||

「 どうした ? 安東 は 、 いつも の 穏やかな 表情 に 戻って いた 。 あんどう||||おだやかな|ひょうじょう||もどって| 珠美 は 、 ちょっと の 間 、 言葉 が 出て 来 なかった 。 たまみ||||あいだ|ことば||でて|らい|

「 あの ── 今度 の 時間 の 資料 を 取り に 来い と おっしゃった んで 」 |こんど||じかん||しりょう||とり||こい||| "That ─ ─ I told you to come to pick up the data for this time"

「 ああ 、 そう だった か 。 今 渡す 」 いま|わたす

安東 は 机 の 所 まで 戻る と 、 引出し から 、 コピー の 束 を 出して 、「 これ を 配 っと いて くれ 。 あんどう||つくえ||しょ||もどる||ひきだし||こぴー||たば||だして|||はい||| 来週 まで で いい から 」 らいしゅう||||

「 来週 です か 」 らいしゅう||

「 そうだ 。 そう だ 頼む よ 」 たのむ|

安東 は 机 の 上 を 片付け 始めた 。 あんどう||つくえ||うえ||かたづけ|はじめた

珠美 は 、 ふと 、 安東 の 上 衣 の えり に 目 を 止めて 、 たまみ|||あんどう||うえ|ころも||||め||とどめて

「 あれ 、 先生 、 その バッジ 、 失 く した んじゃ なかった んです か 」 |せんせい||ばっじ|うしな|||||| "Did not you lose that teacher, that badge?"

と 言った 。 |いった

「 え ? あ 、 これ か 。 出て 来た んだ よ 」 でて|きた|| It came out. "

「 よかった です ね 」

それ は 、 教育 委員 会 から 与え られる 、 一種 の 勲章 みたいな もの である 。 ||きょういく|いいん|かい||あたえ||いっしゅ||くんしょう||| 安東 が 、 前 に 、 失 く した と 言って がっかり して いる の を 、 珠美 は 憶 えて いた のである 。 あんどう||ぜん||うしな||||いって||||||たまみ||おく|||

「 今日 は もう 帰る んです か ? きょう|||かえる|| 「 午後 から 用 が ある 。 ごご||よう|| ── どう だ 、 姉さん の 探偵 ごっこ は ? ||ねえさん||たんてい|| 「 ええ 、 何とか やって る みたいです 」 |なんとか|||

「 気 を 付けろ と 言 っと け よ 。 き||つけろ||げん||| じゃ 」

「 さようなら 」

珠美 は 、 安東 が 足早に 出て 行く の を 見送って 、 それ から 、 ゆっくり と 職員 室 を 出て 、 教室 の 方 へ と 歩いて 行った 。 たまみ||あんどう||あしばやに|でて|いく|||みおくって|||||しょくいん|しつ||でて|きょうしつ||かた|||あるいて|おこなった

何だか 、 気 に なった 。 なんだか|き||

いい 先生 だ し 、 立派な 人 だ と 思う のだ が 、 さっき の 、 あの 驚いた 表情 は 、 まるで 別人 の ようだった 。 |せんせい|||りっぱな|じん|||おもう||||||おどろいた|ひょうじょう|||べつじん|| まるで 違う 人間 を 見た ような 、 そんな 印象 を 受けた のである 。 |ちがう|にんげん||みた|||いんしょう||うけた|

安東 先生 は …… 火事 の とき 、 真 先 に やって 来た 。 あんどう|せんせい||かじ|||まこと|さき|||きた そして 。 ……。

「 そんな こと ! 珠美 は 頭 を 振った 。 たまみ||あたま||ふった ちょっと お 姉ちゃん に 感化 さ れちゃ った の か な 。 ||ねえちゃん||かんか||||||

廊下 を ドタドタ と トレーニングウェア の 友だち が やって 来る 。 ろうか||||||ともだち|||くる

「 オッス 、 珠美 」 |たまみ

「 午後 、 体育 ? ごご|たいいく 「 うん 」

「 何 やって ん の 、 今 ? なん||||いま 「 バスケット よ 」 ばすけっと|

「 同じだ 。 おなじだ シュート の テスト は ? しゅーと||てすと| 「 まだ 」

「 やらさ れる よ 」

「 や だ あ 。 珠美 、 入った ? たまみ|はいった 「 もち 。 五 回 中 三 回 」 いつ|かい|なか|みっ|かい

「 やる ! じゃ 、 私 も 二 回 は いく か な 」 |わたくし||ふた|かい||||

「 無理 よ 。 むり| パチンコ と 違う んだ から ね 」 ぱちんこ||ちがう|||

「 言った な 、 こら ! いった|| と ふざけて ボクシング の 真似 を する 。 ||ぼくしんぐ||まね||

「 えい ! 「 下手くそ ! へたくそ ほら ! チャリン 、 と 音 が して 、「 あ 、 いけない 」 ||おと||||

と 、 あわてて 、 キーホルダー を 拾い上げる 。 ||||ひろいあげる

「 どう する の 、 それ ? 「 担任 に 預ける の よ 。 たんにん||あずける|| 決 って る じゃ ない 。 けっ||||