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この世界の片隅に, 昭和 8年 12月 22日 (1)

昭和 8年 12月 22日 (1)

昭和 8 年 12 月 22 日

体 の 半分 ほど も ある 大きな 風呂敷 包み を 背負い 、 すず が 海 沿い の 道 を 歩 い て いる 。

右手 に 広がる 干潟 の 手前 で 、 蟹 でも 見つけた のだろう か 、 二 羽 の サギ が 泥 を ついばんで いる 。

鏡 の ような 泥 の 海 は やがて 澄んだ 青い 海 へ と 変わる 。

凪いだ 海 を 滑る ように 進んで きた 小舟 が 、 ゆっくり 岸 へ と 近づいて くる 。

「 お ぉ ー い 。 どこ まで 行く んな ー ? 」 艪 を 漕ぎ ながら 年老いた 船頭 が すず に 声 を かけて きた 。 中島 本町 まで 行く の だ と 目的 地 を 告げる と 、 だったら 中洲 の 先 まで 乗せて くれる と いう ので 、 すず は ありがたく その 申し出 を 受ける こと に した 。

舟 に 乗る と 、 すず は ひざ を 折って 座り 、 指 を ついて 船頭 に 頭 を 下げた 。

行儀 の 良 さ に 船頭 の 口元 が ゆるむ 。

船頭 は すず に なん の 用事 な の か 訊ねた 。

「 中島 本町 の 『 ふたば 』 まで 海苔 を 届ける のです 。 本来 は 兄 の 役目 でした が 風邪 の ため わたくし が 代理 を ……」 そこ まで 言って 、 すず は 足 を もぞもぞ と 動かし はじめた 。

とうとう 我慢 が でき なく なった の か 、 左 足 を 上げ 、 すね を さする 。

「 そりゃ あ 感心 じゃ が …… は ぁ 、 やめ え やめ え 。 砂利 舟 の 戻り じゃけん 、 散らば っと ろう が ……」 立てた ひざ から パラパラ と 砂利 が 落ち た 。

すず は ホッと した ように 足 を くずす 。

「 ほ い で 海苔 を 届けたら 、 兄 と 妹 に お み や げ を 買う て 帰る のです 」 「 ほうほう 」 本川 に 入る と 舟 の 速度 も 増して きた 。

冷たい 風 が すず の 白い 頰 を 撫でる 。

手 を うしろ に つき 、 顔 を 上げた すず の 視線 の 先 を サギ が 飛び去って いく 。

おみやげ 、 何 が ええ じゃ ろ ……。

すず は ふところ から がま口 を とり出す と 、 中 の 小銭 を 手のひら に 落とした 。 十 銭 白 銅貨 が 二 枚 。 それ を 眺め ながら 、 考え る 。

チョコレート 、 あん ぱん 、 キャラメル …… いや 、 おもちゃ の ほう が ええ じゃ ろ か 。

すみ ちゃん 、 ヨーヨー ほしがって たし ……。

「 もう 着く で ー 」 船頭 の 声 に 、 すず は ハッと 顔 を 上げ た 。 前方 に 中 洲 に 広がる 街並み が 見える 。

船頭 は 艪 を 巧みに 操り 、 雁木 へ と 舟 を 寄せて いく 。

舟 から 雁木 に 移り 、 すず は 「 ありがとう ございます 」 と 船頭 に お辞儀 した 。

「 おう 、 気 ぃ つけ え な 」 船頭 は 竿 で 雁木 を 押す と 、 ゆっくり と 岸 を 離れて いった 。

中島 本町 は 本川 と 元 安川 に はさま れた 中 洲 の 北側 に 位置 する 、 広島 でも 有数 の 繁華街 である 。

西 の 本川 橋 と 東 の 元 安 橋 を 結ぶ 中 島本 通り は 左右 に 多く の 店 が 建ち 並び 、 大きな 商店 街 に なって いる 。

雁木 の 石段 を 上った すず は 、 大通り の 向こう から 流れて くる にぎやかな 音楽 に 誘わ れる か の ように 、 足 を 踏み出した 。

商店 街 は 人 で あふれて いた 。

あまり の 混雑 ぶり に 、 すず は 目 を パチクリ さ せる 。

その 中 に 真っ赤な 衣装 を つけた ひときわ 目 を 引く おじさん が いた 。

顔 を 覆う 白い ヒゲ で 、 サンタクロース の 扮装 を して いる の だ と わかった 。

右手 で 歳末 大 売出 し と 書 かれた 看板 を かかげ 、 左手 に 持った ベル を さかんに 鳴らして いる 。

クリスマス が どういう もの な の か 、 すず は まだ よく わかって は い なかった が 、 商店 街 の 雰囲気 から 何やら 楽しげな もの な の だろう と いう 気 は した 。

しかし 、 それ より も す ず の 心 を 躍ら せた の は 、 菓子 屋 の 店先 に 並んだ チョコレート や キャラメル 、 キャンディー の きれいな 箱 だ 。

眺めて いる だけ で 幸せな 気持ち に なり 、 笑み と ともに 口元 の ほくろ が 上がる 。

チョコレート 十 銭 、 キャラメル 大箱 十 銭 、 小 箱 五 銭 ……。

菓子 屋 の 隣 は おもちゃ 屋 で 、 店先 で は すず と 同い年 くらい の 子 が ヨーヨー で 遊 んで いる 。

クリスマス 用 に ディスプレイ さ れた ショーウインドウ で は 大きな クリスマス ツリー が 赤 や 青 の 電飾 を 輝か せて いる 。 ヨーヨー は 十 銭 ……。

自分 ひと り で 買い物 など した こと が ない すず に とって 、 みんな に おみやげ を 買って 帰る と いう の は 、 ワクワク する と 同時に お つかい と 同じ くらい むずかしい こと でも あっ た 。

どう しよう …… と 歩き ながら 頭 を 悩ま せて いる うち に 、 すず は 自分 が どこ に いる の か わから なく なって しまった 。

目的 の 料理 屋 、『 ふたば 』 は 商店 街 の 中ほど に ある はずな のだ が 、 いつの間に か 東 の 端 まで 来て しまって いた のだ 。

あわて て 引き返した が 、 なぜ か それ らしき 店 は 見当たら ない 。 途方 に 暮れた すず は 、 追い越して いこう と した 黒 ずくめ の 大 男 の マント の すそ を 思わず つかんで しまった 。

フード を 目深に かぶった 男 が 振り返った 。

「 あの ー 、 すいません 。 『 ふたば 』 と いう 料理 屋 さん は どこ です か ? 「 さあ …… 知ら ん ねえ ……」 ひどく しゃが れた 声 で 男 は 言う と 、「 これ で 探して みたら ええ 」 と 小さな 望遠 鏡 を すず に 差し出した 。

毛 むくじゃ ら の 手 から すず が 望遠 鏡 を とる と 、「 高い とこ なら 見つかる じゃ ろ 」 と 男 は ひょいと すず を 肩 に 担ぎ 上げた 。

「 ありゃ ! すみません 」 さっそく すず は 望遠 鏡 を 左 目 に 当てて みた 。

右 に 左 に 動かす が 、 ぼやけて うまく 見え ない 。 筒 を 回し ながら ピント を 調節 する と 、 瓦屋根 の 連なり の 向こう に ようやく 何 か が 見えて きた 。

屋根 の 上 に 帽子 の ような 丸い ドーム …… あれ は 産業 奨励 館 だ 。

「 わ ぁ ──、 よう 見える ねぇ !!」 まるで 目の前 に ある みたいだ 。

興奮 した すず は 今度 は 右 の ほう に 望遠 鏡 を 振った 。

遠く に 大きな 建物 の ぼんやり と した 輪郭 を 発見 し 、 ふたたび ピント を 合わせる 。

不意に 丸い 視界 の 中 に 現れた の は なんと 広島 城 だった !

瞳 を 輝か せ 前 のめり に なった すず は バランス を くずし 、 男 の 肩 から 転げ 落ちた 。

「 あっ ……!!」 幸運な こと に 、 すず が 落ちた の は 男 が 背負って いた 籠 の 中 だった 。

「 あっ 」 ふたたび 声 を 上げた の は 、 籠 の 中 に ひざ を 抱えた 男の子 が 座って いた から だ 。

学生 帽 を かぶり 、 半 ズボン から 伸びた 足 に は タイツ を はいて いる 。

自分 より は 三 、 四 つ 上 、 尋常 小学校 の 五 、 六 年 くらい だろう 。

ぶしつけに ジロジロ と 眺める すず に 少年 は 言った 。

「 あいつ は 人さらい 。 わし ら は さらわ れた 人 たち じゃ 」

「 え !?」 と すず は 驚いた 。

が 、 すぐに 自分 の 仕事 を 思い出し 、 顔 を しかめる 。

「 弱った ねぇ 。 夕方 に は 鶏 の エサ やり に 帰ら ん と いけ ん のに 」

「 わし も じゃ 。 父さん と 汽車 で 帰ら ん と いけ ん のに 」

「 わし も わし も 」 と 人さらい が しゃが れ 声 で 言った 。

「 夜 が くる 前 に 帰ら ん と えらい こと に なる 」

「 えらい こと ? どんな ? すず は 籠 から 身 を 乗り出し 、 人さらい の 大きな 背中 に 向かって 訊 ねた 。

「 うるさい ! 」 と 人さらい が 振り返った 。 はら り と フード が 落ち 、 ヒヒ の ような 毛 むくじゃ ら の 顔 が すず の 目 に 飛びこんで きた 。

ぎょ ろ り と 見開か れた 目 の 玉 の 真ん中 に 小さ な 瞳 が あやしく 光り 、 大きな 口 に は と がった 歯 が ジグザグ と 並んで いる 。

「 いら ん こと きく なあ ! 」 一喝 さ れ 、 すず は すごすご と 籠 の 隅 へ と 引っこむ 。

「 おいおい 、 むやみに 怒ら す なや 。 おやつ に 食わ れる で 」 「 どう なる ん か ねえ ……」 人さらい は ず ん ず ん 歩き 、 中 洲 と 市街 を つなぐ 相生 橋 を 渡ろう と して いる 。

さっき の 人さらい の 様子 から する と 、 それ が 何 か は わから ない が 、 夜 まで に 帰ら ない と とても 困った こと に なる のだろう 。

人さらい の 困った こと は 、 うち ら に とって は 都合 の いい こと で は なかろう か 。

すず は うまい 考え を 思いついた 。

さっそく 首 に 結わえて いた 風呂敷 を とき 、 海苔 缶 の フタ を 開ける 。 大事な 商品 だ が 背 に 腹 は かえ られ ない 。 一 枚 くらい 許して もらおう 。

海苔 の 束 から 一 枚 抜く と 、 半纏 の ポケット を 探る 。

しかし 、 中 に は 何も 入って い なかった 。 すず は 少年 に 訊 ねた 。

「 小 刀 持 っと りん さる ? 「 あ 、 うん 」 と 少年 は 外套 の ポケット から 小 刀 を とり出し 、 すず に 渡した 。

すず は 器用に 小 刀 を 使い 、 海苔 に 切りこみ を 入れて いく 。

何 を して いる の か と 少年 は すず の 手 の 動き を じっと 見つめて いる 。

「 できた ! 」 すず は 少年 に 微笑んだ 。 口元 の ほくろ が 揺れる 。

すず は 切りこみ を 入れた 海苔 を 望遠 鏡 の レンズ の 部分 に フタ を する ように 貼り つけ 、 それ で 人さらい の 頭 を コンコン と 叩く 。

「 お っ さん 、 お っ さん 」

「 あた あた あた 」

「 こりゃ 、 な んじゃ ろか ? の ぞ 覗いて 見て ぇ 」

「 ふ ~ ん 。 どれ どれ 」 と 人さらい は 望遠 鏡 を 覗く 。

真っ黒な 中 に 月 と 星 が 見えた 。

すず が 海苔 を 月 と 星 の 形 に 切りとった のだ 。

「……」

グラッ と 籠 が 揺れた と 思ったら 、 すず は 橋 の 上 へ と 投げ出さ れた 。

立ち上がり 、 振り返る と 人さらい が 地べた に 倒れ 、 「 ぐ ぉ ー 、 ぐ ぉ ー 」 と 大きな いびき を かいて い る 。

「 なん じゃあ 、 夜 んなる と 寝て しまう いう こと か 」

おそるおそる 人さらい が 眠って いる の を 確認 し 、 少年 も 籠 から 出た 。 バンザイ す る ように 地べた に 伸びた 大きな 手 に は 獣 の ような 鋭い 爪 が 生えて いる 。

人さらい の その 手 に 、 少年 は キャラメル の 箱 を 握ら せた 。

「 こいつ も 晩 ごはん が の うなって 気の毒 じゃ 」 少年 は そう 言って 、 すず を 振り返った 。

「 あん が と な 、 浦野 すず 」 別れ を 告げる と 、 少年 は 橋 の 向こう へ と 駆け 去った 。

「 ありゃ 、 いつの間に うち の 名前 を ……」 首 を 捻る すず の ももひき の すそ に は 〝 浦野 すず 〟 と 名前 が 書か れて いた 。

すず が 初めて の お つかい で 遭遇 した 不思議 な 体験 を 包装 紙 の 裏 に クレヨン で 描いて いる と 、 妹 の すみ が 寄って きた 。

「 なん ね 、 それ ? 」 「 ばけ もん ……」

「 え ? と すみ は 身 を 乗り出して 、 覗きこむ 。 黒い マント を 羽織った 毛 むくじゃ ら の ばけもの の 肩 の 上 に 望遠 鏡 を 手 に した すず が 乗って いる 。

次に すず が 描いた の は 籠 の 中 に 落ちた すず と 驚いて いる 少年 だ 。

すず は 漫画 の ように 次 から 次 へ と あの 出来事 を 描いて いく 。

「 夜 に なったら 、 どう えらい こと に なる ん じゃ ろ ? ばけもの の セリフ を 読んだ すみ が すず に 訊 ねる 。

「 まあ 、 見とり ん さい 」 と すず は 続き を 描く 。 望遠 鏡 へ の 海苔 の 仕かけ 、 そして バタン と 倒れた ばけもの 。

「 夜 に なる と 寝て しまう と いう こと じゃ った ん じゃ 」 完成 した 絵 物語 を もらう と 、 すみ は 寝 転がって 最初 から 読み はじめた 。

「『 あん が と な 、 うら の すず 』」

少年 の 最後 の セリフ を 読み 、 すみ は 畳 の 上 で 足 を バタバタ さ せ ながら 大笑い す る 。

その 声 を 聞きつけた 兄 の 要一 が 、「 こりゃ ー っ ! うるさい っ !!」 と 隣 の 部屋 から 怒鳴りつけた 。

すみ は 身 を 縮め 、 それ で も 「 くく くっ …… くく っ 」 と まだ 笑って いる 。

すず は 机 代わり に して いた 母 の 裁縫 用 の 裁ち 台 に 向き直り 、 その 上 に あった キャラメル の 空き箱 を 手 に とった 。


昭和 8年 12月 22日 (1) しょうわ|とし|つき|ひ

昭和 8 年 12 月 22 日 しょうわ|とし|つき|ひ December 22, 1974

体 の 半分 ほど も ある 大きな 風呂敷 包み を 背負い 、 すず が 海 沿い の 道 を 歩 い て いる 。 からだ||はんぶん||||おおきな|ふろしき|つつみ||せおい|||うみ|ぞい||どう||ふ||| The tin is walking along the road along the sea, carrying a large furoshiki package about half the size of the body.

右手 に 広がる 干潟 の 手前 で 、 蟹 でも 見つけた のだろう か 、 二 羽 の サギ が 泥 を ついばんで いる 。 みぎて||ひろがる|ひがた||てまえ||かに||みつけた|||ふた|はね||さぎ||どろ||| Two herons are pecking mud, probably because they found a crab in front of the tidal flat that spreads to the right.

鏡 の ような 泥 の 海 は やがて 澄んだ 青い 海 へ と 変わる 。 きよう|||どろ||うみ|||すんだ|あおい|うみ|||かわる The mirror-like mud sea will soon turn into a clear blue sea.

凪いだ 海 を 滑る ように 進んで きた 小舟 が 、 ゆっくり 岸 へ と 近づいて くる 。 ないだ|うみ||すべる|よう に|すすんで||こぶね|||きし|||ちかづいて|

「 お ぉ ー い 。 ||-| どこ まで 行く んな ー ? ||いく||- How far are you going? 」   艪 を 漕ぎ ながら 年老いた 船頭 が すず に 声 を かけて きた 。 ろ||こぎ||としおいた|せんどう||||こえ||| 中島 本町 まで 行く の だ と 目的 地 を 告げる と 、 だったら 中洲 の 先 まで 乗せて くれる と いう ので 、 すず は ありがたく その 申し出 を 受ける こと に した 。 なかしま|ほんまち||いく||||もくてき|ち||つげる|||なか す||さき||のせて|||||||||もうしで||うける|||

舟 に 乗る と 、 すず は ひざ を 折って 座り 、 指 を ついて 船頭 に 頭 を 下げた 。 ふね||のる||||||おって|すわり|ゆび|||せんどう||あたま||さげた Upon boarding the boat, Tin sat down with his knees folded and lowered his head to the boatman with his fingers.

行儀 の 良 さ に 船頭 の 口元 が ゆるむ 。 ぎょうぎ||よ|||せんどう||くちもと|| The mouth of the captain loosens due to good manners.

船頭 は すず に なん の 用事 な の か 訊ねた 。 せんどう||||||ようじ||||じん ねた

「 中島 本町 の 『 ふたば 』 まで 海苔 を 届ける のです 。 なかしま|ほんまち||||のり||とどける| 本来 は 兄 の 役目 でした が 風邪 の ため わたくし が 代理 を ……」   そこ まで 言って 、 すず は 足 を もぞもぞ と 動かし はじめた 。 ほんらい||あに||やくめ|||かぜ|||||だいり||||いって|||あし||||うごかし| Originally it was my brother's role, but because of a cold, I acted as a substitute ... "That said, Tin began to move his legs.

とうとう 我慢 が でき なく なった の か 、 左 足 を 上げ 、 すね を さする 。 |がまん|||||||ひだり|あし||あげ|||

「 そりゃ あ 感心 じゃ が …… は ぁ 、 やめ え やめ え 。 ||かんしん|||||||| "Well, I'm impressed ... Hmm, stop, stop. 砂利 舟 の 戻り じゃけん 、 散らば っと ろう が ……」   立てた ひざ から パラパラ と 砂利 が 落ち た 。 じゃり|ふね||もどり||ちらば||||たてた|||ぱらぱら||じゃり||おち| The return of the gravel boat, scattered, but ... "The gravel fell from my knees.

すず は ホッと した ように 足 を くずす 。 ||ほっと||よう に|あし|| The tin breaks its legs as if it were relieved.

「 ほ い で 海苔 を 届けたら 、 兄 と 妹 に お み や げ を 買う て 帰る のです 」 「 ほうほう 」   本川 に 入る と 舟 の 速度 も 増して きた 。 |||のり||とどけたら|あに||いもうと|||||||かう||かえる|||もとかわ||はいる||ふね||そくど||まして| "When I deliver the seaweed, I buy souvenirs for my brother and sister and go home." "Hoho" When I entered the main river, the speed of the boat increased.

冷たい 風 が すず の 白い 頰 を 撫でる 。 つめたい|かぜ||||しろい|||なでる

手 を うしろ に つき 、 顔 を 上げた すず の 視線 の 先 を サギ が 飛び去って いく 。 て|||||かお||あげた|||しせん||さき||さぎ||とびさって| The heron flies away from the tip of the line of sight of the tin with his face raised behind his hand.

おみやげ 、 何 が ええ じゃ ろ ……。 |なん|||| Souvenirs, what's wrong ...

すず は ふところ から がま口 を とり出す と 、 中 の 小銭 を 手のひら に 落とした 。 ||||がまぐち||とりだす||なか||こぜに||てのひら||おとした 十 銭 白 銅貨 が 二 枚 。 じゅう|せん|しろ|どうか||ふた|まい Two ten-yen white bronze coins. それ を 眺め ながら 、 考え る 。 ||ながめ||かんがえ|

チョコレート 、 あん ぱん 、 キャラメル …… いや 、 おもちゃ の ほう が ええ じゃ ろ か 。 ちょこれーと|||きゃらめる|||||||||

すみ ちゃん 、 ヨーヨー ほしがって たし ……。 Sumi-chan, I wanted a yo-yo ...

「 もう 着く で ー 」   船頭 の 声 に 、 すず は ハッと 顔 を 上げ た 。 |つく||-|せんどう||こえ||||はっと|かお||あげ| 前方 に 中 洲 に 広がる 街並み が 見える 。 ぜんぽう||なか|す||ひろがる|まちなみ||みえる You can see the cityscape spreading out in Nakasu in front of you.

船頭 は 艪 を 巧みに 操り 、 雁木 へ と 舟 を 寄せて いく 。 せんどう||ろ||たくみに|あやつり|がんぎ|||ふね||よせて|

舟 から 雁木 に 移り 、 すず は 「 ありがとう ございます 」 と 船頭 に お辞儀 した 。 ふね||がんぎ||うつり||||||せんどう||おじぎ|

「 おう 、 気 ぃ つけ え な 」   船頭 は 竿 で 雁木 を 押す と 、 ゆっくり と 岸 を 離れて いった 。 |き|||||せんどう||さお||がんぎ||おす||||きし||はなれて|

中島 本町 は 本川 と 元 安川 に はさま れた 中 洲 の 北側 に 位置 する 、 広島 でも 有数 の 繁華街 である 。 なかしま|ほんまち||もとかわ||もと|やすかわ||||なか|す||きたがわ||いち||ひろしま||ゆうすう||はんかがい| Nakajima Honmachi is located on the north side of Nakajima, which is sandwiched between the Motoyasu River and the Motoyasu River, and is one of the most popular downtown areas in Hiroshima.

西 の 本川 橋 と 東 の 元 安 橋 を 結ぶ 中 島本 通り は 左右 に 多く の 店 が 建ち 並び 、 大きな 商店 街 に なって いる 。 にし||もとかわ|きょう||ひがし||もと|やす|きょう||むすぶ|なか|しままと|とおり||さゆう||おおく||てん||たち|ならび|おおきな|しょうてん|がい|||

雁木 の 石段 を 上った すず は 、 大通り の 向こう から 流れて くる にぎやかな 音楽 に 誘わ れる か の ように 、 足 を 踏み出した 。 がんぎ||いしだん||のぼった|||おおどおり||むこう||ながれて|||おんがく||さそわ||||よう に|あし||ふみだした

商店 街 は 人 で あふれて いた 。 しょうてん|がい||じん|||

あまり の 混雑 ぶり に 、 すず は 目 を パチクリ さ せる 。 ||こんざつ|||||め||||

その 中 に 真っ赤な 衣装 を つけた ひときわ 目 を 引く おじさん が いた 。 |なか||まっかな|いしょう||||め||ひく|||

顔 を 覆う 白い ヒゲ で 、 サンタクロース の 扮装 を して いる の だ と わかった 。 かお||おおう|しろい|ひげ||||ふんそう|||||||

右手 で 歳末 大 売出 し と 書 かれた 看板 を かかげ 、 左手 に 持った ベル を さかんに 鳴らして いる 。 みぎて||さいまつ|だい|うりだし|||しょ||かんばん|||ひだりて||もった|べる|||ならして|

クリスマス が どういう もの な の か 、 すず は まだ よく わかって は い なかった が 、 商店 街 の 雰囲気 から 何やら 楽しげな もの な の だろう と いう 気 は した 。 くりすます||||||||||||||||しょうてん|がい||ふんいき||なにやら|たのしげな|||||||き||

しかし 、 それ より も す ず の 心 を 躍ら せた の は 、 菓子 屋 の 店先 に 並んだ チョコレート や キャラメル 、 キャンディー の きれいな 箱 だ 。 |||||||こころ||おどら||||かし|や||みせさき||ならんだ|ちょこれーと||きゃらめる||||はこ|

眺めて いる だけ で 幸せな 気持ち に なり 、 笑み と ともに 口元 の ほくろ が 上がる 。 ながめて||||しあわせな|きもち|||えみ|||くちもと||||あがる

チョコレート 十 銭 、 キャラメル 大箱 十 銭 、 小 箱 五 銭 ……。 ちょこれーと|じゅう|せん|きゃらめる|おおはこ|じゅう|せん|しょう|はこ|いつ|せん

菓子 屋 の 隣 は おもちゃ 屋 で 、 店先 で は すず と 同い年 くらい の 子 が ヨーヨー で 遊 んで いる 。 かし|や||となり|||や||みせさき|||||おないどし|||こ||||あそ||

クリスマス 用 に ディスプレイ さ れた ショーウインドウ で は 大きな クリスマス ツリー が 赤 や 青 の 電飾 を 輝か せて いる 。 くりすます|よう||でぃすぷれい||||||おおきな|くりすます|つりー||あか||あお||でんしょく||かがやか|| ヨーヨー は 十 銭 ……。 ||じゅう|せん

自分 ひと り で 買い物 など した こと が ない すず に とって 、 みんな に おみやげ を 買って 帰る と いう の は 、 ワクワク する と 同時に お つかい と 同じ くらい むずかしい こと でも あっ た 。 じぶん||||かいもの|||||||||||||かって|かえる|||||わくわく|||どうじに||||おなじ||||||

どう しよう …… と 歩き ながら 頭 を 悩ま せて いる うち に 、 すず は 自分 が どこ に いる の か わから なく なって しまった 。 |||あるき||あたま||なやま|||||||じぶん||||||||||

目的 の 料理 屋 、『 ふたば 』 は 商店 街 の 中ほど に ある はずな のだ が 、 いつの間に か 東 の 端 まで 来て しまって いた のだ 。 もくてき||りょうり|や|||しょうてん|がい||なかほど||||||いつのまに||ひがし||はし||きて|||

あわて て 引き返した が 、 なぜ か それ らしき 店 は 見当たら ない 。 ||ひきかえした||||||てん||みあたら| 途方 に 暮れた すず は 、 追い越して いこう と した 黒 ずくめ の 大 男 の マント の すそ を 思わず つかんで しまった 。 とほう||くれた|||おいこして||||くろ|||だい|おとこ||まんと||||おもわず||

フード を 目深に かぶった 男 が 振り返った 。 ふーど||まぶかに||おとこ||ふりかえった

「 あの ー 、 すいません 。 |-| 『 ふたば 』 と いう 料理 屋 さん は どこ です か ? |||りょうり|や||||| 「 さあ …… 知ら ん ねえ ……」   ひどく しゃが れた 声 で 男 は 言う と 、「 これ で 探して みたら ええ 」 と 小さな 望遠 鏡 を すず に 差し出した 。 |しら||||しゃ が||こえ||おとこ||いう||||さがして||||ちいさな|ぼうえん|きよう||||さしだした

毛 むくじゃ ら の 手 から すず が 望遠 鏡 を とる と 、「 高い とこ なら 見つかる じゃ ろ 」 と 男 は ひょいと すず を 肩 に 担ぎ 上げた 。 け||||て||||ぼうえん|きよう||||たかい|||みつかる||||おとこ|||||かた||かつぎ|あげた

「 ありゃ ! すみません 」   さっそく すず は 望遠 鏡 を 左 目 に 当てて みた 。 ||||ぼうえん|きよう||ひだり|め||あてて|

右 に 左 に 動かす が 、 ぼやけて うまく 見え ない 。 みぎ||ひだり||うごかす||||みえ| 筒 を 回し ながら ピント を 調節 する と 、 瓦屋根 の 連なり の 向こう に ようやく 何 か が 見えて きた 。 つつ||まわし||ぴんと||ちょうせつ|||かわらやね||つらなり||むこう|||なん|||みえて|

屋根 の 上 に 帽子 の ような 丸い ドーム …… あれ は 産業 奨励 館 だ 。 やね||うえ||ぼうし|||まるい|どーむ|||さんぎょう|しょうれい|かん|

「 わ ぁ ──、 よう 見える ねぇ !!」   まるで 目の前 に ある みたいだ 。 |||みえる|||めのまえ|||

興奮 した すず は 今度 は 右 の ほう に 望遠 鏡 を 振った 。 こうふん||||こんど||みぎ||||ぼうえん|きよう||ふった

遠く に 大きな 建物 の ぼんやり と した 輪郭 を 発見 し 、 ふたたび ピント を 合わせる 。 とおく||おおきな|たてもの|||||りんかく||はっけん|||ぴんと||あわせる

不意に 丸い 視界 の 中 に 現れた の は なんと 広島 城 だった ! ふいに|まるい|しかい||なか||あらわれた||||ひろしま|しろ|

瞳 を 輝か せ 前 のめり に なった すず は バランス を くずし 、 男 の 肩 から 転げ 落ちた 。 ひとみ||かがやか||ぜん||||||ばらんす|||おとこ||かた||ころげ|おちた

「 あっ ……!!」   幸運な こと に 、 すず が 落ちた の は 男 が 背負って いた 籠 の 中 だった 。 |こううんな|||||おちた|||おとこ||せおって||かご||なか|

「 あっ 」   ふたたび 声 を 上げた の は 、 籠 の 中 に ひざ を 抱えた 男の子 が 座って いた から だ 。 ||こえ||あげた|||かご||なか||||かかえた|おとこのこ||すわって|||

学生 帽 を かぶり 、 半 ズボン から 伸びた 足 に は タイツ を はいて いる 。 がくせい|ぼう|||はん|ずぼん||のびた|あし||||||

自分 より は 三 、 四 つ 上 、 尋常 小学校 の 五 、 六 年 くらい だろう 。 じぶん|||みっ|よっ||うえ|じんじょう|しょうがっこう||いつ|むっ|とし||

ぶしつけに ジロジロ と 眺める すず に 少年 は 言った 。 |じろじろ||ながめる|||しょうねん||いった

「 あいつ は 人さらい 。 ||ひとさらい わし ら は さらわ れた 人 たち じゃ 」 |||||じん||

「 え !?」 と すず は 驚いた 。 ||||おどろいた

が 、 すぐに 自分 の 仕事 を 思い出し 、 顔 を しかめる 。 ||じぶん||しごと||おもいだし|かお||

「 弱った ねぇ 。 よわった| 夕方 に は 鶏 の エサ やり に 帰ら ん と いけ ん のに 」 ゆうがた|||にわとり||えさ|||かえら|||||

「 わし も じゃ 。 父さん と 汽車 で 帰ら ん と いけ ん のに 」 とうさん||きしゃ||かえら|||||

「 わし も わし も 」 と 人さらい が しゃが れ 声 で 言った 。 |||||ひとさらい||しゃ が||こえ||いった

「 夜 が くる 前 に 帰ら ん と えらい こと に なる 」 よ|||ぜん||かえら||||||

「 えらい こと ? どんな ? すず は 籠 から 身 を 乗り出し 、 人さらい の 大きな 背中 に 向かって 訊 ねた 。 ||かご||み||のりだし|ひとさらい||おおきな|せなか||むかって|じん|

「 うるさい ! 」 と 人さらい が 振り返った 。 |ひとさらい||ふりかえった はら り と フード が 落ち 、 ヒヒ の ような 毛 むくじゃ ら の 顔 が すず の 目 に 飛びこんで きた 。 |||ふーど||おち||||け||||かお||||め||とびこんで|

ぎょ ろ り と 見開か れた 目 の 玉 の 真ん中 に 小さ な 瞳 が あやしく 光り 、 大きな 口 に は と がった 歯 が ジグザグ と 並んで いる 。 ||||みひらか||め||たま||まんなか||ちいさ||ひとみ|||ひかり|おおきな|くち|||||は||じぐざぐ||ならんで|

「 いら ん こと きく なあ ! 」   一喝 さ れ 、 すず は すごすご と 籠 の 隅 へ と 引っこむ 。 いっかつ|||||||かご||すみ|||ひっこむ

「 おいおい 、 むやみに 怒ら す なや 。 ||いから|| おやつ に 食わ れる で 」 「 どう なる ん か ねえ ……」   人さらい は ず ん ず ん 歩き 、 中 洲 と 市街 を つなぐ 相生 橋 を 渡ろう と して いる 。 ||くわ||||||||ひとさらい||||||あるき|なか|す||しがい|||あいおい|きょう||わたろう|||

さっき の 人さらい の 様子 から する と 、 それ が 何 か は わから ない が 、 夜 まで に 帰ら ない と とても 困った こと に なる のだろう 。 ||ひとさらい||ようす||||||なん||||||よ|||かえら||||こまった||||

人さらい の 困った こと は 、 うち ら に とって は 都合 の いい こと で は なかろう か 。 ひとさらい||こまった||||||||つごう|||||||

すず は うまい 考え を 思いついた 。 |||かんがえ||おもいついた

さっそく 首 に 結わえて いた 風呂敷 を とき 、 海苔 缶 の フタ を 開ける 。 |くび||ゆわえて||ふろしき|||のり|かん||ふた||あける 大事な 商品 だ が 背 に 腹 は かえ られ ない 。 だいじな|しょうひん|||せ||はら|||| 一 枚 くらい 許して もらおう 。 ひと|まい||ゆるして|

海苔 の 束 から 一 枚 抜く と 、 半纏 の ポケット を 探る 。 のり||たば||ひと|まい|ぬく||はんてん||ぽけっと||さぐる

しかし 、 中 に は 何も 入って い なかった 。 |なか|||なにも|はいって|| すず は 少年 に 訊 ねた 。 ||しょうねん||じん|

「 小 刀 持 っと りん さる ? しょう|かたな|じ||| 「 あ 、 うん 」 と 少年 は 外套 の ポケット から 小 刀 を とり出し 、 すず に 渡した 。 |||しょうねん||がいとう||ぽけっと||しょう|かたな||とりだし|||わたした

すず は 器用に 小 刀 を 使い 、 海苔 に 切りこみ を 入れて いく 。 ||きよう に|しょう|かたな||つかい|のり||きりこみ||いれて|

何 を して いる の か と 少年 は すず の 手 の 動き を じっと 見つめて いる 。 なん|||||||しょうねん||||て||うごき|||みつめて|

「 できた ! 」   すず は 少年 に 微笑んだ 。 ||しょうねん||ほおえんだ 口元 の ほくろ が 揺れる 。 くちもと||||ゆれる

すず は 切りこみ を 入れた 海苔 を 望遠 鏡 の レンズ の 部分 に フタ を する ように 貼り つけ 、 それ で 人さらい の 頭 を コンコン と 叩く 。 ||きりこみ||いれた|のり||ぼうえん|きよう||れんず||ぶぶん||ふた|||よう に|はり||||ひとさらい||あたま||||たたく

「 お っ さん 、 お っ さん 」

「 あた あた あた 」

「 こりゃ 、 な んじゃ ろか ? の ぞ 覗いて 見て ぇ 」 ||のぞいて|みて|

「 ふ ~ ん 。 どれ どれ 」 と 人さらい は 望遠 鏡 を 覗く 。 |||ひとさらい||ぼうえん|きよう||のぞく

真っ黒な 中 に 月 と 星 が 見えた 。 まっくろな|なか||つき||ほし||みえた

すず が 海苔 を 月 と 星 の 形 に 切りとった のだ 。 ||のり||つき||ほし||かた||きりとった|

「……」

グラッ と 籠 が 揺れた と 思ったら 、 すず は 橋 の 上 へ と 投げ出さ れた 。 ||かご||ゆれた||おもったら|||きょう||うえ|||なげださ|

立ち上がり 、 振り返る と 人さらい が 地べた に 倒れ 、 「 ぐ ぉ ー 、 ぐ ぉ ー 」 と 大きな いびき を かいて い る 。 たちあがり|ふりかえる||ひとさらい||じべた||たおれ|||-|||-||おおきな|||||

「 なん じゃあ 、 夜 んなる と 寝て しまう いう こと か 」 ||よ|||ねて||||

おそるおそる 人さらい が 眠って いる の を 確認 し 、 少年 も 籠 から 出た 。 |ひとさらい||ねむって||||かくにん||しょうねん||かご||でた バンザイ す る ように 地べた に 伸びた 大きな 手 に は 獣 の ような 鋭い 爪 が 生えて いる 。 |||よう に|じべた||のびた|おおきな|て|||けだもの|||するどい|つめ||はえて|

人さらい の その 手 に 、 少年 は キャラメル の 箱 を 握ら せた 。 ひとさらい|||て||しょうねん||きゃらめる||はこ||にぎら|

「 こいつ も 晩 ごはん が の うなって 気の毒 じゃ 」   少年 は そう 言って 、 すず を 振り返った 。 ||ばん|||||きのどく||しょうねん|||いって|||ふりかえった

「 あん が と な 、 浦野 すず 」   別れ を 告げる と 、 少年 は 橋 の 向こう へ と 駆け 去った 。 ||||うらの||わかれ||つげる||しょうねん||きょう||むこう|||かけ|さった

「 ありゃ 、 いつの間に うち の 名前 を ……」   首 を 捻る すず の ももひき の すそ に は 〝 浦野 すず 〟 と 名前 が 書か れて いた 。 |いつのまに|||なまえ||くび||ねじる||||||||うらの|||なまえ||かか||

すず が 初めて の お つかい で 遭遇 した 不思議 な 体験 を 包装 紙 の 裏 に クレヨン で 描いて いる と 、 妹 の すみ が 寄って きた 。 ||はじめて|||||そうぐう||ふしぎ||たいけん||ほうそう|かみ||うら||くれよん||えがいて|||いもうと||||よって|

「 なん ね 、 それ ? 」 「 ばけ もん ……」

「 え ? と すみ は 身 を 乗り出して 、 覗きこむ 。 |||み||のりだして|のぞきこむ 黒い マント を 羽織った 毛 むくじゃ ら の ばけもの の 肩 の 上 に 望遠 鏡 を 手 に した すず が 乗って いる 。 くろい|まんと||はおった|け||||||かた||うえ||ぼうえん|きよう||て|||||のって|

次に すず が 描いた の は 籠 の 中 に 落ちた すず と 驚いて いる 少年 だ 。 つぎに|||えがいた|||かご||なか||おちた|||おどろいて||しょうねん|

すず は 漫画 の ように 次 から 次 へ と あの 出来事 を 描いて いく 。 ||まんが||よう に|つぎ||つぎ||||できごと||えがいて|

「 夜 に なったら 、 どう えらい こと に なる ん じゃ ろ ? よ|||||||||| ばけもの の セリフ を 読んだ すみ が すず に 訊 ねる 。 ||せりふ||よんだ|||||じん|

「 まあ 、 見とり ん さい 」 と すず は 続き を 描く 。 |みとり||||||つづき||えがく 望遠 鏡 へ の 海苔 の 仕かけ 、 そして バタン と 倒れた ばけもの 。 ぼうえん|きよう|||のり||しかけ||||たおれた|

「 夜 に なる と 寝て しまう と いう こと じゃ った ん じゃ 」   完成 した 絵 物語 を もらう と 、 すみ は 寝 転がって 最初 から 読み はじめた 。 よ||||ねて|||||||||かんせい||え|ものがたり||||||ね|ころがって|さいしょ||よみ|

「『 あん が と な 、 うら の すず 』」

少年 の 最後 の セリフ を 読み 、 すみ は 畳 の 上 で 足 を バタバタ さ せ ながら 大笑い す る 。 しょうねん||さいご||せりふ||よみ|||たたみ||うえ||あし||||||おおわらい||

その 声 を 聞きつけた 兄 の 要一 が 、「 こりゃ ー っ ! |こえ||ききつけた|あに||よういち|||-| うるさい っ !!」 と 隣 の 部屋 から 怒鳴りつけた 。 |||となり||へや||どなりつけた

すみ は 身 を 縮め 、 それ で も 「 くく くっ …… くく っ 」 と まだ 笑って いる 。 ||み||ちぢめ||||||||||わらって|

すず は 机 代わり に して いた 母 の 裁縫 用 の 裁ち 台 に 向き直り 、 その 上 に あった キャラメル の 空き箱 を 手 に とった 。 ||つくえ|かわり||||はは||さいほう|よう||たち|だい||むきなおり||うえ|||きゃらめる||あきばこ||て||