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百物語 - Yōkai​ Stories, 幽霊の黒髪

幽霊 の 黒 髪

幽霊 の 黒 髪

むかし むかし 、 越後 の 国 ( え ちご の くに → 新潟 県 ) の 関山 ( せき やま ) と いう 村 に 魚 野川 ( う おの がわ ) と いう 川 が あって 、 この 川 に は いつも 仮 ご しら え の 橋 が かかって い ました 。 なぜ 仮 ご しら え か と いう と 、 この 川 は 流れ が 早い ので 、 ちょっと 大雨 が 降った だけ でも 橋 が 流さ れて しまう から です 。 それ で いつも 、 仮 ご しら え の 橋 が かかって いる のでした 。 でも 仮 ご しら え の 橋 で は 足元 が 悪く 、 冬 の 寒い 日 など は 橋 が 凍って しまう ため 、 足 を 滑らせて 川 に 落ちた 人 が 毎年 何 人 も 命 を 落として いた のです 。

この 関山 村 の はずれ に 、 六十 才 を 越える 源 教 ( げんきょう ) と いう お 坊さん が い ました 。 源 教 は 寒 行 ( かんぎょう → 寒 さ を しのんで する 修行 ) と して 、 毎晩 、 念仏 を 唱えて 鐘 を チンチン と 打ち鳴らして は 村 を まわり ます 。 そして その 帰り道 は 必ず 魚 野川 の 橋 の たもと に 立って 念仏 を 唱え 、 川 で お ばれた 人 たち の 成仏 を 願う のです 。

ある 夜 、 源 教 が 橋 の たもと で 念仏 を 唱えて いる と 、 急に 雲 が 出て きて 月 の 明かり を 隠して しまい ました 。 ( はて 、 何やら あやしい 気配 が する ぞ ) そう 思い ながら も 念仏 を 続けて いる と 、 川 の 中 から 青い 炎 が めらめら と 燃え上がって きた のです 。 ( なんと ! おぼれ 死んだ 者 の 魂 であろう か ? ) 源 教 は 念仏 に 合わせて 、 鐘 を 鳴らし 続け ました 。 そして ふと 橋 を 見る と 、 いつの間にか 橋 の 上 に 女 の 人 が 立って いた のです 。 女 の 人 は 三十 才 くらい で 、 青ざめた 顔 に 長い 黒 髪 で 、 腰 から 下 は ボーッ と かすんで 見え ませ ん 。 ( これ は 、 この 橋 で 命 を 落とした 人 の 幽霊 に 違いない ) 女 の 幽霊 は 、 すーっと 源 教 の 前 に 近寄る と 、 細い 声 を ふるわせて 言い ました 。 「 わたくし は 、 隣村 の キク と 申す 者 で ございます 。 夫 に も 子 に も 先立た れ 、 ただ 一 人 、 後 に 残さ れて しまい ました 。 女 の 一 人身 で は 暮らし も 立た ず 、 知り合い を 頼って いく 途中 、 この 橋 から 落ちて おぼれて しまった のです 。 人知れず 死んだ わたし に は 、 誰 から も ひと すくい の 水 も た むけて は もらえ ず 、 世に 捨て られた 悲し さ に 毎日 泣きくずれて おり ました 。 しかし 今夜 は 四十九 日 目 (→ 死んで から 四十九 日 目 に 、 閻魔 大王 が 地獄 行き か 天国 行き か を 決める と 言わ れて い ます ) で 、 ちょうど あなた さま の ありがたい お 念仏 も あり 、 『 ああ 、 これ で やっと 成仏 できる 』 と 、 思い ました が 、 何と わたし の この 黒 髪 が 成仏 の 邪魔 を して 、 まだ 人 の 世 を さまよって おり ます 」 幽霊 は そう 言う と 顔 に そで を 押し当てて 、 さめざめ と 泣き出し ました 。 「 さ ようであった か 。 で は わたし が 、 その 黒 髪 を そって しんぜ よう 。 明日 の 夜 、 わたし の 住む 関山 ( せき やま ) いおり (→ そまつで 小さな 家 ) へ き なさる が よい 」 その 言葉 を 聞く と 女 の 幽霊 は 小さく 頷き 、 そして スー と 消え ました 。

次の 日 。 源 教 は 友だち の 紺屋 七兵衛 ( こんや しち べ え ) を 呼び ました 。 そして 、 昨日 の 幽霊 の 話し を して 言い ました 。 「 のう 、 七兵衛 どの 。 お キク さん は 、 今夜 必ず 来る だろう 。 あの 様 な 幽霊 は 、 決して 約束 を たがえ ぬ から な 。 そして これ を 機会 に 、 あの 橋 が 危険である 事 を 皆 に 知らせ たい 。 だが 証拠 が の うて は 、 幽霊 など と 言って も 誰 も 信じて は くれ ぬ 。 そこ で 七兵衛 どの に 、 頼み が ある のじゃ 。 七兵衛 どの は 、 村 でも 評判 の 正直 者 。 どうか 幽霊 が 約束 通り 現れた 事 の 証人 に 、 なって は くれ まい か 」 「 はい 、 承知 し ました 。 わたし は どこ か に 隠れて 、 その 幽霊 を 見届ける 事 に いたし ましょう 」 「 うむ 、 頼む ぞ 」

その 夜 、 源 教 は 新しい むしろ を 仏壇 の 前 に しいて 、 幽霊 が 座る 場所 を 作り ました 。 そして 七兵衛 を 、 仏壇 の 下 の 戸だな に 隠し ました 。 「 うむ 、 遅い なあ 」 もう 真 夜中 です が 、 幽霊 の 現れる 様子 は あり ませ ん 。 源 教 は 、 いつの間にか 、 いねむり を はじめ ました が 、 突然 、 ぞくぞく っと 寒気 を 感じて 目 を 覚まし ました 。 ( おお っ ! ) 目 を 開ける と 、 いつの間にか お キク の 幽霊 が 来て いて 、 仏壇 に 向かって 頭 を たれ 、 むしろ の 上 に きちんと 正座 を して い ます 。 源 教 は 気持ち を 落ち着か せる と 、 お キク の 幽霊 に 声 を 掛け ました 。 「 お キク どの 。 よく 、 おい で くだされた 」 「・・・・・・」 お キク は 黙って 、 頷く だけ です 。 「 では 、 はじめる ぞ 」 源 教 は 立ちあがって 手 を ゆすぐ と 、 小さな たらい に 水 を くんで き ました 。 そして かみそり を 持つ と 、 お キク の そば へ 近寄り ます 。 肩 ご し に たれた お キク の 長い 黒 髪 は 、 びっしょり と 、 むしろ を ぬらして い ました 。 手 に とる と 、 しずく が たれ ます 。 ( この ぬれた 黒 髪 が 、 成仏 の 邪魔 を して おる のじゃ な 。 だが 、 それ も 今夜 で 終わり じゃ ) 源 教 は 、 お キク の 髪 を そり ながら 、 ふと 、 こんな 事 を 思い ました 。 ( この 髪 の 毛 を 少し とって おけば 、 幽霊 が 来た 証拠 に なる ので は ) しかし 源 教 が 髪 の 毛 を そる と 、 不思議な 事 に そり 落とす あと から あと から 髪 の 毛 は お キク の ふところ の 中 へ 入って いく のです 。 まるで 見え ない 糸 でも ついて いて 、 引っ張って いる ようです 。 ( このまま で は 、 証拠 が 残ら ぬ ) 源 教 は 自分 の 指 に 髪 の 毛 を しっかり からめて から 、 そり はじめ ました 。 それ でも そり 落とした 髪 の 毛 は 指 の 間 を すり抜ける と 、 お キク の ふところ へ と 入って いき ます 。 ただ の 一 本 も 、 源 教 の 手 に は 残り ませ ん 。 やがて 頭 を そり 終える と 、 お キク は 源 教 の 方 を 向いて 、 やせ細った 白い 手 を 静かに 合わせて おがみ ました 。 「・・・ ありがとう ございました 。 これ で 成仏 でき ます 」 お キク は 小さく つぶやく と 、 おがんだ 姿 の まま スー と 消えて しまい ました 。

お キク が 消えた 後 、 七兵衛 が 戸だな から 出て き ました 。 そして 源 教 の 前 へ 、 にぎった 左手 を 差し出し ました 。 「 源 教 さま 、 これ を 」 見て みる と 七兵衛 の 手 の 中 に は 、 幽霊 の ぬれた 髪 の 毛 が 、 ほんの 少し だけ 残って い ます 。 「 おお っ 、 残って おった か 。 わずか でも 証拠 が あれば 、 皆 に 橋 が 危険である 事 を 伝え られる 」 源 教 が 幽霊 の 髪 の 毛 を 受け取る と 、 七兵衛 が 言い ました 。 「 源 教 さま 、 わたし は これ まで 、 幽霊 など は 迷信 と 思って い ました 。 しかし 今夜 幽霊 に 出会い 、 死んで から の 世界 が ある 事 を 知り ました 。 これ から の 人生 は 、 神仏 に 捧げ たい と 思い ます 」 「 うむ 。 それ なら わたし も 、 出来る 限り の 事 を さ せて もらおう 」

その後 、 七兵衛 は 出家 ( しゅっけ → 家 を 出て 仏門 に 入る 事 ) する と 、 お 坊さん に なり ました 。 そして 源 教 は 関山 に 塚 ( つか ) を 建てる と 、 幽霊 の 髪 の 毛 を 納めて 橋 の 危険 を みんな に 知らせ ました 。 その 塚 は 毛塚 ( け づか ) と 呼ば れ 、 いま でも 残さ れて いる そうです 。

おしまい

幽霊 の 黒 髪 ゆうれい||くろ|かみ Geisterhaftes schwarzes Haar Ghost Black Hair Cheveux noirs fantômes Capelli neri come fantasmi 유령의 검은 머리 Spookachtig zwart haar Cabelo preto fantasmagórico Призрачные черные волосы 幽灵黑发 幽靈黑髮

幽霊 の 黒 髪 ゆうれい||くろ|かみ Ghost black hair

むかし むかし 、 越後 の 国 ( え ちご の くに → 新潟 県 ) の 関山 ( せき やま ) と いう 村 に 魚 野川 ( う おの がわ ) と いう 川 が あって 、 この 川 に は いつも 仮 ご しら え の 橋 が かかって い ました 。 ||えちご||くに|||||にいがた|けん||せきやま|||||むら||ぎょ|のがわ||||||かわ||||かわ||||かり|||||きょう|||| Once upon a time, there was a river called Uonogawa in a village called Sekiyama in the country of Echigo (Echigo no Kuni → Niigata Prefecture), and this river is always tentative. The bridge was over. Il était une fois, dans un village appelé Sekiyama à Echigo-no-kuni (préfecture de Niigata), une rivière appelée Uonogawa (rivière Uono) qui était toujours traversée par un pont temporaire. なぜ 仮 ご しら え か と いう と 、 この 川 は 流れ が 早い ので 、 ちょっと 大雨 が 降った だけ でも 橋 が 流さ れて しまう から です 。 |かり|||||||||かわ||ながれ||はやい|||おおあめ||ふった|||きょう||ながさ|||| The reason for this is that the river has a fast flow, so even a slight heavy rain will cause the bridge to be washed away. それ で いつも 、 仮 ご しら え の 橋 が かかって いる のでした 。 |||かり|||||きょう|||| That's why there was always a temporary bridge over it. でも 仮 ご しら え の 橋 で は 足元 が 悪く 、 冬 の 寒い 日 など は 橋 が 凍って しまう ため 、 足 を 滑らせて 川 に 落ちた 人 が 毎年 何 人 も 命 を 落として いた のです 。 |かり|||||きょう|||あしもと||わるく|ふゆ||さむい|ひ|||きょう||こおって|||あし||すべらせて|かわ||おちた|じん||まいとし|なん|じん||いのち||おとして|| However, the temporary bridge had a bad footing, and the bridge froze on cold winter days, so many people who slipped and fell into the river died every year.

この 関山 村 の はずれ に 、 六十 才 を 越える 源 教 ( げんきょう ) と いう お 坊さん が い ました 。 |せきやま|むら||||ろくじゅう|さい||こえる|げん|きょう|||||ぼうさん||| At the outskirts of this Sekiyama village, there was a Buddhist priest named Genkyo, who was over 60 years old. 源 教 は 寒 行 ( かんぎょう → 寒 さ を しのんで する 修行 ) と して 、 毎晩 、 念仏 を 唱えて 鐘 を チンチン と 打ち鳴らして は 村 を まわり ます 。 げん|きょう||さむ|ぎょう||さむ|||||しゅぎょう|||まいばん|ねんぶつ||となえて|かね||||うちならして||むら||| Genkyo is a cold practice (Kangyo → training to avoid the cold), and every night, he chanting Nembutsu and ringing the bells around the village. そして その 帰り道 は 必ず 魚 野川 の 橋 の たもと に 立って 念仏 を 唱え 、 川 で お ばれた 人 たち の 成仏 を 願う のです 。 ||かえりみち||かならず|ぎょ|のがわ||きょう||||たって|ねんぶつ||となえ|かわ||||じん|||じょうぶつ||ねがう| And on the way back, I always stand at the foot of the bridge on the Uono River, chanting the Nembutsu, and wishing for the Buddhahood of the people who were caught in the river.

ある 夜 、 源 教 が 橋 の たもと で 念仏 を 唱えて いる と 、 急に 雲 が 出て きて 月 の 明かり を 隠して しまい ました 。 |よ|げん|きょう||きょう||||ねんぶつ||となえて|||きゅうに|くも||でて||つき||あかり||かくして|| One night, when Genkyo was chanting Nembutsu at the foot of the bridge, a cloud suddenly appeared, hiding the light of the moon. ( はて 、 何やら あやしい 気配 が する ぞ )   そう 思い ながら も 念仏 を 続けて いる と 、 川 の 中 から 青い 炎 が めらめら と 燃え上がって きた のです 。 |なにやら||けはい|||||おもい|||ねんぶつ||つづけて|||かわ||なか||あおい|えん||||もえあがって|| (Well, I'm afraid I'm afraid.) While thinking so, as I continued to practice Nembutsu, a blue flame lit up from the inside of the river. ( なんと ! ( Oh my ! おぼれ 死んだ 者 の 魂 であろう か ? |しんだ|もの||たましい|| Could it be the soul of the drowned? )   源 教 は 念仏 に 合わせて 、 鐘 を 鳴らし 続け ました 。 げん|きょう||ねんぶつ||あわせて|かね||ならし|つづけ| Gensho continued to ring the bell to the accompaniment of the Buddhist chanting. そして ふと 橋 を 見る と 、 いつの間にか 橋 の 上 に 女 の 人 が 立って いた のです 。 ||きょう||みる||いつのまにか|きょう||うえ||おんな||じん||たって|| I looked up and saw a woman standing on the bridge before I knew it. 女 の 人 は 三十 才 くらい で 、 青ざめた 顔 に 長い 黒 髪 で 、 腰 から 下 は ボーッ と かすんで 見え ませ ん 。 おんな||じん||さんじゅう|さい|||あおざめた|かお||ながい|くろ|かみ||こし||した||ぼーっ|||みえ|| The woman is about 30 years old, has a pale face and long black hair, and the area below her waist is vague and can't be seen. ( これ は 、 この 橋 で 命 を 落とした 人 の 幽霊 に 違いない )   女 の 幽霊 は 、 すーっと 源 教 の 前 に 近寄る と 、 細い 声 を ふるわせて 言い ました 。 |||きょう||いのち||おとした|じん||ゆうれい||ちがいない|おんな||ゆうれい|||げん|きょう||ぜん||ちかよる||ほそい|こえ|||いい| (This must be the ghost of the person who died on this bridge.) The ghost of the woman said with a faint voice that she was approaching in front of Genkyo. 「 わたくし は 、 隣村 の キク と 申す 者 で ございます 。 ||りんそん||きく||もうす|もの|| "I am the one who claims to be Kiku from the neighboring village. 夫 に も 子 に も 先立た れ 、 ただ 一 人 、 後 に 残さ れて しまい ました 。 おっと|||こ|||さきだた|||ひと|じん|あと||のこさ||| Before the husband and the child, only one person was left behind. 女 の 一 人身 で は 暮らし も 立た ず 、 知り合い を 頼って いく 途中 、 この 橋 から 落ちて おぼれて しまった のです 。 おんな||ひと|じんしん|||くらし||たた||しりあい||たよって||とちゅう||きょう||おちて||| A woman couldn't live on her own, and on the way to relying on her acquaintance, she fell from this bridge and drowned. 人知れず 死んだ わたし に は 、 誰 から も ひと すくい の 水 も た むけて は もらえ ず 、 世に 捨て られた 悲し さ に 毎日 泣きくずれて おり ました 。 ひとしれず|しんだ||||だれ||||||すい|||||||よに|すて||かなし|||まいにち|なきくずれて|| I died unknowingly, and no one gave me a scoop of water, and I was crying every day because of the sadness of being abandoned by the world. しかし 今夜 は 四十九 日 目 (→ 死んで から 四十九 日 目 に 、 閻魔 大王 が 地獄 行き か 天国 行き か を 決める と 言わ れて い ます ) で 、 ちょうど あなた さま の ありがたい お 念仏 も あり 、 『 ああ 、 これ で やっと 成仏 できる 』 と 、 思い ました が 、 何と わたし の この 黒 髪 が 成仏 の 邪魔 を して 、 まだ 人 の 世 を さまよって おり ます 」   幽霊 は そう 言う と 顔 に そで を 押し当てて 、 さめざめ と 泣き出し ました 。 |こんや||しじゅうきゅう|ひ|め|しんで||しじゅうきゅう|ひ|め||えんま|だいおう||じごく|いき||てんごく|いき|||きめる||いわ|||||||||||ねんぶつ|||||||じょうぶつ|||おもい|||なんと||||くろ|かみ||じょうぶつ||じゃま||||じん||よ|||||ゆうれい|||いう||かお||||おしあてて|||なきだし| But tonight is the 49th day (→ It is said that the Great Enma decides whether to go to hell or heaven on the 49th day after he died), and there is also a thank-you Buddhahood for you. I thought, "Oh, I can finally make a Buddhahood with this," but how my black hair interfered with the Buddhahood and is still wandering around the world. "The ghost said so on his face. I pressed it and started crying with awakening. 「 さ ようであった か 。 "Was it good? で は わたし が 、 その 黒 髪 を そって しんぜ よう 。 |||||くろ|かみ|||| Then I will shave that black hair. 明日 の 夜 、 わたし の 住む 関山 ( せき やま ) いおり (→ そまつで 小さな 家 ) へ き なさる が よい 」   その 言葉 を 聞く と 女 の 幽霊 は 小さく 頷き 、 そして スー と 消え ました 。 あした||よ|||すむ|せきやま|||||ちいさな|いえ|||||||ことば||きく||おんな||ゆうれい||ちいさく|うなずき||||きえ| Tomorrow night, I should go to Sekiyama Iori (→ Somatsu de Koya), where I live. ”When I heard that word, the ghost of the woman nodded a little and disappeared with Sue.

次の 日 。 つぎの|ひ Next day 源 教 は 友だち の 紺屋 七兵衛 ( こんや しち べ え ) を 呼び ました 。 げん|きょう||ともだち||こうや|しちべえ||||||よび| Genkyo called his friend Konya Shichibei. そして 、 昨日 の 幽霊 の 話し を して 言い ました 。 |きのう||ゆうれい||はなし|||いい| And he said yesterday when he talked about ghosts. 「 のう 、 七兵衛 どの 。 |しちべえ| I'm not sure what you mean by that, but I'm sure you're right. お キク さん は 、 今夜 必ず 来る だろう 。 |きく|||こんや|かならず|くる| Kiku-san will definitely come tonight. あの 様 な 幽霊 は 、 決して 約束 を たがえ ぬ から な 。 |さま||ゆうれい||けっして|やくそく||||| A ghost like that never keeps his promise. そして これ を 機会 に 、 あの 橋 が 危険である 事 を 皆 に 知らせ たい 。 |||きかい|||きょう||きけんである|こと||みな||しらせ| And I would like to take this opportunity to let everyone know that the bridge is dangerous. だが 証拠 が の うて は 、 幽霊 など と 言って も 誰 も 信じて は くれ ぬ 。 |しょうこ|||||ゆうれい|||いって||だれ||しんじて||| But if there is evidence, no one can believe it, even if it's a ghost. そこ で 七兵衛 どの に 、 頼み が ある のじゃ 。 ||しちべえ|||たのみ||| Shichibei, where do you have a request? 七兵衛 どの は 、 村 でも 評判 の 正直 者 。 しちべえ|||むら||ひょうばん||しょうじき|もの Shichibei Anyone is an honest person who has a good reputation in the village. どうか 幽霊 が 約束 通り 現れた 事 の 証人 に 、 なって は くれ まい か 」 「 はい 、 承知 し ました 。 |ゆうれい||やくそく|とおり|あらわれた|こと||しょうにん||||||||しょうち|| "Will you please be my witness that the ghost has appeared as promised? わたし は どこ か に 隠れて 、 その 幽霊 を 見届ける 事 に いたし ましょう 」 「 うむ 、 頼む ぞ 」 |||||かくれて||ゆうれい||みとどける|こと|||||たのむ| I'll hide somewhere and see the ghost. "" Um, I'll ask. "

その 夜 、 源 教 は 新しい むしろ を 仏壇 の 前 に しいて 、 幽霊 が 座る 場所 を 作り ました 。 |よ|げん|きょう||あたらしい|||ぶつだん||ぜん|||ゆうれい||すわる|ばしょ||つくり| That night, Genkyo put a new rather in front of the altar, creating a place for ghosts to sit. そして 七兵衛 を 、 仏壇 の 下 の 戸だな に 隠し ました 。 |しちべえ||ぶつだん||した||とだな||かくし| He hid Nanabei in a closet under the altar. 「 うむ 、 遅い なあ 」   もう 真 夜中 です が 、 幽霊 の 現れる 様子 は あり ませ ん 。 |おそい|||まこと|よなか|||ゆうれい||あらわれる|ようす|||| It's the middle of the night and there is no sign of the ghost. 源 教 は 、 いつの間にか 、 いねむり を はじめ ました が 、 突然 、 ぞくぞく っと 寒気 を 感じて 目 を 覚まし ました 。 げん|きょう||いつのまにか||||||とつぜん|||かんき||かんじて|め||さまし| Gensho began to sleep, but suddenly he felt a chill and woke up. ( おお っ ! )   目 を 開ける と 、 いつの間にか お キク の 幽霊 が 来て いて 、 仏壇 に 向かって 頭 を たれ 、 むしろ の 上 に きちんと 正座 を して い ます 。 め||あける||いつのまにか||きく||ゆうれい||きて||ぶつだん||むかって|あたま|||||うえ|||せいざ|||| ) When I opened my eyes, the ghost of the chrysanthemum came before I knew it, and I was leaning my head toward the Buddhist altar, but rather sitting properly on top of it. 源 教 は 気持ち を 落ち着か せる と 、 お キク の 幽霊 に 声 を 掛け ました 。 げん|きょう||きもち||おちつか||||きく||ゆうれい||こえ||かけ| When Genkyo calmed down, he called out to Kiku's ghost. 「 お キク どの 。 |きく| "Oh, Kiku. よく 、 おい で くだされた 」 「・・・・・・」   お キク は 黙って 、 頷く だけ です 。 |||||きく||だまって|うなずく|| Thank you for coming." "..." Okiku just nodded silently. 「 では 、 はじめる ぞ 」   源 教 は 立ちあがって 手 を ゆすぐ と 、 小さな たらい に 水 を くんで き ました 。 |||げん|きょう||たちあがって|て||||ちいさな|||すい|||| "Then, let's get started." Minamoto no Kyo stood up, washed his hands, and filled a small basin with water. そして かみそり を 持つ と 、 お キク の そば へ 近寄り ます 。 |||もつ|||きく||||ちかより| Then, holding a razor, he approaches Kiku's side. 肩 ご し に たれた お キク の 長い 黒 髪 は 、 びっしょり と 、 むしろ を ぬらして い ました 。 かた||||||きく||ながい|くろ|かみ|||||||| Kiku's long black hair, leaning over his shoulders, was drenched, rather wet. 手 に とる と 、 しずく が たれ ます 。 て||||||| When you pick it up, it will drip. ( この ぬれた 黒 髪 が 、 成仏 の 邪魔 を して おる のじゃ な 。 ||くろ|かみ||じょうぶつ||じゃま||||| (This wet black hair is in the way of the Buddhahood. だが 、 それ も 今夜 で 終わり じゃ )   源 教 は 、 お キク の 髪 を そり ながら 、 ふと 、 こんな 事 を 思い ました 。 |||こんや||おわり||げん|きょう|||きく||かみ||||||こと||おもい| But that's over tonight.) Genkyo, while shaving his hair, suddenly thought of something like this. ( この 髪 の 毛 を 少し とって おけば 、 幽霊 が 来た 証拠 に なる ので は )   しかし 源 教 が 髪 の 毛 を そる と 、 不思議な 事 に そり 落とす あと から あと から 髪 の 毛 は お キク の ふところ の 中 へ 入って いく のです 。 |かみ||け||すこし|||ゆうれい||きた|しょうこ||||||げん|きょう||かみ||け||||ふしぎな|こと|||おとす|||||かみ||け|||きく||||なか||はいって|| (If you take a little of this hair, it will be a proof that a ghost has come.) However, when the source shave the hair, it mysteriously shave it, and then the hair is squeezed. It goes into the sledge. まるで 見え ない 糸 でも ついて いて 、 引っ張って いる ようです 。 |みえ||いと||||ひっぱって|| It's as if you're pulling on an invisible thread. ( このまま で は 、 証拠 が 残ら ぬ )   源 教 は 自分 の 指 に 髪 の 毛 を しっかり からめて から 、 そり はじめ ました 。 |||しょうこ||のこら||げん|きょう||じぶん||ゆび||かみ||け||||||| (If nothing is done, there is no evidence left.) Genkyo started sledding after tying his hair tightly to his fingers. それ でも そり 落とした 髪 の 毛 は 指 の 間 を すり抜ける と 、 お キク の ふところ へ と 入って いき ます 。 |||おとした|かみ||け||ゆび||あいだ||すりぬける|||きく|||||はいって|| Even so, the hair that has been sled off will slip through between the fingers and enter the foot of the chrysanthemum. ただ の 一 本 も 、 源 教 の 手 に は 残り ませ ん 。 ||ひと|ほん||げん|きょう||て|||のこり|| There is nothing left in the hands of the source teacher, even one. やがて 頭 を そり 終える と 、 お キク は 源 教 の 方 を 向いて 、 やせ細った 白い 手 を 静かに 合わせて おがみ ました 。 |あたま|||おえる|||きく||げん|きょう||かた||むいて|やせほそった|しろい|て||しずかに|あわせて|| Eventually, when he finished sledding his head, Kiku turned to the Genkyo and quietly put his thin white hands together and worshiped. 「・・・ ありがとう ございました 。 Thank you very much. これ で 成仏 でき ます 」   お キク は 小さく つぶやく と 、 おがんだ 姿 の まま スー と 消えて しまい ました 。 ||じょうぶつ||||きく||ちいさく||||すがた|||||きえて|| Now you can make a Buddhahood. ”When I muttered a little, Kiku disappeared as if he was in a cancerous state.

お キク が 消えた 後 、 七兵衛 が 戸だな から 出て き ました 。 |きく||きえた|あと|しちべえ||とだな||でて|| After Kiku disappeared, Shichibei came out of the door. そして 源 教 の 前 へ 、 にぎった 左手 を 差し出し ました 。 |げん|きょう||ぜん|||ひだりて||さしだし| Then, in front of Genkyo, he extended his left hand. 「 源 教 さま 、 これ を 」   見て みる と 七兵衛 の 手 の 中 に は 、 幽霊 の ぬれた 髪 の 毛 が 、 ほんの 少し だけ 残って い ます 。 げん|きょう||||みて|||しちべえ||て||なか|||ゆうれい|||かみ||け|||すこし||のこって|| Looking at "Genkyo-sama, this", there is only a small amount of ghost's wet hair left in Shichibei's hands. 「 おお っ 、 残って おった か 。 ||のこって|| "Oh, did you have any left? わずか でも 証拠 が あれば 、 皆 に 橋 が 危険である 事 を 伝え られる 」   源 教 が 幽霊 の 髪 の 毛 を 受け取る と 、 七兵衛 が 言い ました 。 ||しょうこ|||みな||きょう||きけんである|こと||つたえ||げん|きょう||ゆうれい||かみ||け||うけとる||しちべえ||いい| With even the slightest evidence, we can tell everyone that the bridge is dangerous. ”Nanabei said that Genkyo received the ghost's hair. 「 源 教 さま 、 わたし は これ まで 、 幽霊 など は 迷信 と 思って い ました 。 げん|きょう||||||ゆうれい|||めいしん||おもって|| "Genkyo-sama, I used to think ghosts were superstitions. しかし 今夜 幽霊 に 出会い 、 死んで から の 世界 が ある 事 を 知り ました 。 |こんや|ゆうれい||であい|しんで|||せかい|||こと||しり| However, I met a ghost tonight and learned that there is a world since I died. これ から の 人生 は 、 神仏 に 捧げ たい と 思い ます 」 「 うむ 。 |||じんせい||しんぶつ||ささげ|||おもい|| I want to dedicate my life to the gods and buddhas.” それ なら わたし も 、 出来る 限り の 事 を さ せて もらおう 」 ||||できる|かぎり||こと|||| Then I will do as much as I can. "

その後 、 七兵衛 は 出家 ( しゅっけ → 家 を 出て 仏門 に 入る 事 ) する と 、 お 坊さん に なり ました 。 そのご|しちべえ||しゅっけ||いえ||でて|ぶつもん||はいる|こと||||ぼうさん||| Later, Shichibei left home to become a Buddhist monk. そして 源 教 は 関山 に 塚 ( つか ) を 建てる と 、 幽霊 の 髪 の 毛 を 納めて 橋 の 危険 を みんな に 知らせ ました 。 |げん|きょう||せきやま||つか|||たてる||ゆうれい||かみ||け||おさめて|きょう||きけん||||しらせ| Then, when Genkyo built a mound in Sekiyama, he put in the hair of a ghost and informed everyone about the danger of the bridge. その 塚 は 毛塚 ( け づか ) と 呼ば れ 、 いま でも 残さ れて いる そうです 。 |つか||けずか||||よば||||のこさ|||そう です The mound is called Kezuka, and it seems that it is still left.

おしまい