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世界から猫が消えたなら (If Cats Disappeared from the World), 世界から猫が消えたなら:世界 から 時計 が 消えた なら:2

世界から猫が消えたなら:世界 から 時計 が 消えた なら:2

外 は 快晴 で 、 絶好 の 散歩 日和 だった 。

前 を 行く キャベツ の 足取り も 軽い 。

いつも 母さん は 、 キャベツ と 一緒に 出かけて いた 。

そう 思う と 、 自分 が 知ら ない 母さん の こと が 分かる よ う な 気 が して 、 とにかく 今日 は 気長 に 一 日 キャベツ に 付き合う こと に した 。

そして よく 考える と 、 キャベツ が なぜ 時代劇 風 の しゃべり 方 な の か が 分かって きた 。

母さん だ 。

子 猫 だった キャベツ が うち に 来た ばかり の 頃 だった 。

母さん は 突然 テレビ の 時代 劇 に ハマ り だした ( うち の 母 も 世 の 母親 と 同じく 、 突然 謎 めいた マイブーム が 巻き起こり 、 いつの間にか 終息 して いる と いう 習性 を もって いた )。

水戸 黄門 、 暴れん坊 将軍 、 遠山 の 金 さん 。

「 日本 の 男 は こう じゃ なくちゃ ね 」

など と よく 分から ない 日本 男児 論 を 語り ながら 、 母さん は 僕 を その マイ ブーム に 巻き込もう と した 。

「 申し訳ない けれど 母さん 、 僕 は テレビ の 時代 劇 より 映画 が 観 たい よ 」

僕 は 丁重 に お 断り した 。

時代 劇 仲間 が い ない 母さん は 、 朝 から 晩 まで キャベツ を 膝 に 乗せ ながら 時代 劇 を 観て 過ごした 。

おそらく 、 キャベツ は そこ で 「 人間 の 言葉 」 を 覚えた のだろう 。

果たして キャベツ の 言葉 は 、 母さん の 言葉 と 時代 劇 の 言葉 が 奇妙に ミックス さ れた 不思議な 日本 語 に なって しまった 。

ああ 可哀そうに 。 でも なんだか 可愛い から 直さ ないで おこう 。 テトテト と 歩く キャベツ の 後ろ姿 を 見 ながら 、 僕 は そんな こと を 思って いた 。

キャベツ の 行く 道 に は 点々 と 雑草 が 生えて いる 。

電柱 の 下 に は タンポポ が 小さく 咲いて いた 。 そう か 、 も う すぐ 春 な のだ 。 キャベツ は タンポポ に 近づいて 、 くん くん と 匂い を 嗅ぐ 。

「 タンポポ だ ね 」

僕 が 言う と キャベツ は 不思議 そうな 顔 を した 。

「 これ は タンポポ と いう で ご ざる か 」

「 知ら ない の ?

」 「 さよう 」 「 春 に なる と 咲く 花 だ よ 」

「 そうで ご ざる か ……」

それ から キャベツ は 道ばた の 花 に 次 から 次 へ と 近付き 「 これ は なんという で ご ざる か ?

」 と しつこく 聞いて きた 。

からす の えんどう 、 なずな 、 ハルジオン 、 マーガレット 、 ほとけのざ 。

道ばた の 雑草 たち は 、 北風 の なか 、 かすかな 太陽 の 暖か さ を 頼り に つつましく その 花 を 咲か せて いた 。

僕 は 記憶 を たどり ながら 、 花 の 名前 を キャベツ に 教える 。 不思議な もの で すっかり 忘れて いた 幼い 頃 の 記憶 が 、 次 から 次 へ と 呼び戻さ れて いく 。

そう いえば 幼い 頃 の 僕 も 、 母親 と 散歩 する たび に 「 あれ は なんて いう の ?

これ は なんて いう の ? 」 と しつこく 聞いた と いう 。 きっと 今 の キャベツ みたいな 感じ だった のだろう 。 こんな こと に 母さん は 毎日 付き合って いた のだ と 気付く 。

「 ちょっと 花 を 見つけて は 座り込んで 、 また 見つけて は 座り込んで 。

なかなか 散歩 が 終わら なくて 大変だ った の よ 」

大人 に なった 僕 に 、 母さん は よく その 話 を 聞か せた 。

「 でも とっても 幸せな 時間 だった 」

懐かし そうに 遠く を 見て 、 笑い ながら 母さん は 言った 。

たっぷり と 時間 を かけて 、 僕 と キャベツ は 丘 の 上 の 公園 に たどりついた 。

高台 に ある 公園 。

眼下 に は 、 坂 に 沿って 並んで 建つ 家々 と 、 その先 に 群青色 の 海 が 見える 。 こぢんまり と した その 公園 に は 、 ブランコ に すべり台 、 そして シーソー 。 小さな 子ども たち と 母親 たち が 、 砂場 で 遊んで いる 。

キャベツ は 公園 を ぐるっと 一 周 して 、 子ども たち と たしなみ 程度 に 戯れ 、 ベンチ に 座って 将棋 を 指して いた 老人 たち に 向かって 「 ど いて 欲しい で ご ざる 」 と 言う 。

突然 現れた 〝 しゃべる 猫 〟 を 見て パニック に な る ので は ない か と ヒヤヒヤ した が 、 老人 たち は 困り 顔 で 笑い 合って いる 。 どうやら 僕 以外 の 人間 に は 、 キャベツ の 言葉 は 聞こえ ない ようだ 。

「 だめだ よ 、 キャベツ 。

ここ は いま 、 この 人 たち が 使って いる んだ 」 と 僕 は 言う 。

それ でも キャベツ は 「 この 場所 が いい ので ご ざる 」 と 諦め ない 。

そして ついに 我慢 でき なく なった の か 、 将棋盤 の 上 に 飛び乗り 、 が ちゃ が ち と 駒 を 蹴散らして しまった 。 老人 たち は さすが に 呆れ顔 で 、 でも 毎度 の こと だ と いう ように 苦笑い を し ながら 、 ベンチ を 譲って くれた 。

僕 が 老人 たち に 頭 を 下げて いる の を 横目 で 見 ながら 、 キャベツ は 青い ペンキ が はがれ かかった その 木 製 の ベンチ の 上 に どっかり と 座りこみ 、 手足 を なめ はじめる 。

しばらく は 動き そうに ない ので 、 僕 は キャベツ の 隣 に 座って 、 ただ ぼうっと 遠く に 広がる 海 を 見つめて い た 。

無限に 続く ような 平和な 世界 。 僕 は いつも の 癖 で 公園 の 時計 塔 を 見 やる 。 やはり 時計 は 見当たら ない 。 この 平和 が 、 時間 と いう 決まり 事 が なくなった こと に より もたらさ れて いる の か 、 普段 から ここ に ある もの な の か は 僕 に は 判断 でき なかった 。 ただ 時計 が なくなった 世界 を 自分 の なか で 受け入れ られる よう に なる と 、 なんだか とても 穏やかで 解放 さ れた 気持ち に なって きた 。

「 しかし まことに 人間 は 不思議な 生き物 で ご ざる な 」

毛づくろい が 終わった の か 、 キャベツ が 僕 の 方 を 向いて 語り だす 。

「 そう か ?

」 「 どうして 、 花 なんか に 名前 を 付ける ので ご ざる か ? 」 「 それ は 、 いろいろ と 種類 が ある から だ よ 。 区別 を つけ なくちゃ なら ないだ ろ 」

「 種類 が ある から って 、 なんで 全部 に 名前 を 付け なくて は なら ない ので ご ざる か ?

花 は 全部 〝 花 〟 で よい ので は ない か ? 」 確かに 。 人 は なぜ 花 に 名前 を 付ける のだろう 。 花 だけ で は ない 。 物 に も 色 に も 形 に も 、 そして 人 に も 。 どうして 名前 が 必要な のだろう か 。

時間 と いう もの も そう だ 。

太陽 が 昇り 、 そして 沈む 。 そういった 自然 現象 に 対して 人間 が 勝手に 年月 日 や 時分 秒 と いう 「 名前 」 を 与えて いる だけ な のだ 。

キャベツ の 世界 に は 時間 が ない 。

当然 時計 も ない 。 定刻 や 遅刻 も ない 。 一 年生 、 二 年生 、 三 年生 も ない し 、 夏 休み も 冬 休み も 春 休み も ない 。 ただ そこ に 、 自然 現象 を 中心 と した 状況 の 変化 と 、 お腹 が 空いた 、 眠く なった 、 と いう ような 体 の 反応 が ある だけ だ 。

時計 が なくなった 世界 で 、 ゆっくり と 考えて みる 。

すると 、 いろいろな 人間 の ルール が 自分 の なか で 瓦解 して いく 。 時間 と 同じ ように 、 色 や 温度 と いう 尺度 も 存在 し ない こと に 気付く 。 いずれ も 人間 の 体感 に 「 名前 」 を つけた だけ な のだ 。

「 人間 以外 の すべて の 世界 」 から 見る のならば 、 時分 秒 も 存在 せ ず 、 青 も 赤 も 黄 も 、 体温 も 気温 も 存在 し ない 。

でも 黄 や 赤 が ない のだ と したら 、 キャベツ は そもそも 、 タンポポ を 可愛い と も バラ を 美しい と も 思 わ ない のだろう か 。

「 しかし キャベツ さ 、 君 の こんな 散歩 に 毎日 付き合って いた 母さん は 偉い な 」

「 どういう こと で ご ざる か ?

」 「 君 の 気まぐれな 時間 に 付き合う の は なかなか 大変 だろう から さ 。 母さん は 本当に 君 の こと を 可愛がって いた んだ と 思う よ 」

「 母さん ?

」 「 ああ 、 僕 の 母さん だ 。 君 の 母さん で も ある な 」

「 母さん と は …… いったい 誰 の こと で ご ざる か ?

」 言葉 を 失った 。 キャベツ が 母さん の こと を 忘れて いる 。

そんな こと は あり 得 なかった 。

いや 、 あって は なら ない こと だった 。

あの 日 、 キャベツ を 拾って きた 母さん の 顔 が よみがえる 。

悲しい ような 、 切ない ような 。 でも 希望 に 満ち た 顔 を して いた 母さん 。 いつも キャベツ と 一緒に テレビ を 見て いた 母さん 。 膝 の 上 で 眠る まで キャベツ を 撫でて いた 母さん 。 しまい に は 自分 も 一緒に 眠って しまい 、 ソファ で キャベツ と ふた り で 丸く なって いた 母 さ ん 。 その 穏やかな 顔 。 胸 が 苦しく なる 。

「 母さん を 、 本当に 覚えて ない の か ?

」 「 それ は 誰 で ご ざる か ? 」 この 人 は 何 を 言って いる のだろう か ? と 言わんばかり の 表情 で 、 キャベツ は きょとんと して いる 。 やはり 覚えて い ない のだ 。 悲しい 、 と いう より は 苦しかった 。 キャベツ の 、 その 無邪気 さ が 、 この 残酷な 状況 を 際 立た せる 。

『 ハチ公 物語 』 の ように 動物 が 飼い主 の こと を いつまでも 忘れ ない と いう 物語 を 、 どこ か 心 の 奥底 で 信じ ていた 。

けれども 、 あれ は 動物 に 対する 人間 の 幻想 だった のだろう か 。 キャベツ は やがて 、 僕 の こと も 忘 れて しまう のだろう か 。 キャベツ の 世界 から 、 僕 が 消えて しまう 日 が くる のだろう か 。

僕 が 何気なく 過ごして きた 時間 が 、 とてつもなく 大切な もの に 思えて くる 。

僕 は あと 何回 キャベツ と 一緒 に 朝 を 迎える こと が できる のだろう か 。 残り の 人生 、 大好きな あの 曲 を 、 あと 何 回 聴く こと が できる のだろうか 。 あと 何 回 コーヒー が 飲める の か 。 ごはん は 何 回 、 おはよう 何 回 、 くしゃみ 何 回 、 笑う の は あと 何 回 だ ?

そんな こと 考え も し なかった 。

母さん と 会う とき だって そう だった 。 それ が 分かって いたら 、 その 一 回 一 回 を どれ だけ 大切に 考えた こと だろう 。 母さん は 、 僕 が そんな あたりまえの こと に も 気付か ない うち に この 世界 から 消えて しまった 。

僕 が 生きて きた この 三十 年間 、 果たして 本当に 大切な こと を やってきた の か 。

本当に 会い たい 人 に 会 い 、 大切な 人 に 大切な 言葉 を 伝えて きた の か 。

僕 は 母さん に かける 一 本 の 電話 より も 、 目の前 の 着信 履歴 に かけ 直す こと で 目いっぱい に なって い た 。

本当に 大切な こと を 後回し に して 、 目の前 に ある さほど 重要 ではない こと を 優先 して 日々 生きて き た のだ 。

目の前 の こと に 追わ れれば 追わ れる ほど 、 本当に 大切な こと を する 時間 は 失わ れて いく 。

そして 恐ろしい こと に 、 その 大切な 時間 が 失わ れて いる こと に まったく 気付か ない のだ 。 ちょっと 時間 の 流れ から 離れ て 立ち止まって みれば 、 どちら の 電話 の 方 が 自分 の 人生 に とって 重要な の か は すぐ 分かる こと だった の に 。

僕 は キャベツ を 見 やる 。

いつの間にか 、 キャベツ は ベンチ の 上 で 丸まって 寝て いた 。

真っ白な 美しい 四 肢 を 、 白 と 黒 と グレー の アンサンブル が 見事な 体 の なか に 折りたたむ ように して 丸く なって いる 。

僕 は その 体 に 触れる 。 トクトク と 心臓 が 拍動 して いる 。 眠って いる その 姿 から は 想像 できない ような 力強い 拍動 だ 。

哺乳 類 は 、 どの 動物 も 一生 の 間 に 心臓 が 二十億 回 拍動 する と いう 。

象 は 五十 年 生きる 。

馬 は 二十 年 。 猫 は 十 年 。 ネズミ は 二 年 。 でも みんな 平等に 心臓 は 二十億 回 打って 死ぬ 。 人間 は 七十 年 。 果たして 僕 の 心臓 は 二十億 回 分 拍動 した のだろう か 。

いま まで 僕 の 人生 は 過去 から 現在 を 経て 、 無限の 未来 へ と 進んで いた 。

でも 僕 の 未来 が 有限 だと 判明 した とき から 、 未来 が 僕 へ と 向かって くる ような 気 が して いた 。 もう すでに 定め られた 未来 を 僕 が 歩いて いく 。 そういう 感覚 だ 。

皮肉な もの だ 。

余命 わずか だ と 宣告 さ れ 、 時間 が ない 世界 に 放り込ま れた 僕 は 、 はじめて 自分 の 意思 で 未来 を 見つめよう と して いる 。

頭 の 右 は じが また ジリジリ と 痛み 始める 。

息 が 苦しく なる 。

僕 は まだ 死に たく ない 。

まだ 生きて い たい 。

そして 明日 また 僕 は 、 この 世界 から 何 か を 消す のだ 。

自分 の 命 の ため に 、 自分 の 未来 から 何 か を 奪って 。

キャベツ は その あと も 延々と 眠り 続けた 。

公園 から 子ども たち が い なく なり 、 太陽 が 西 に 傾き 始めた 頃 、 キャベツ は ようやく 目 を 覚ました 。

ベンチ の 上 で 、 これ 以上 伸び ない から やめた ほう が いい ので は ない か と 心配 する ぐらい の 伸び を し 、 大きな あくび を ずいぶん 時間 を かけて 消化 して 、 キャベツ は 僕 の 方 を ゆっくり と 見た 。

「 お 代官 様 、 行く で ご ざる ぞ 」

寝起き の キャベツ は ちょっと 偉 そうな 口調 で ひと言 告げる と 、 ベンチ を す た っと 降りて テトテト と 坂 を 下って いく 。

キャベツ が 向かった の は 、 駅 に 向かう 道 に ある 商店 街 だった 。

商店 街 に 入って すぐ の ところ に ある 蕎麦 屋 の 前 で 、 に ゃあ ( おい ! ) と 鳴く 。 すると 、 かつおぶし を 手 に 主人 が 出て きた 。 キャベツ は かつおぶし を せしめる と 、 また に ゃあ ( よし ! ) と 鳴いて 歩き 始める 。 これ で は どちら が 飼いならさ れて いる の か 分から な い 。

キャベツ は 商店 街 の 人気者 らしく 、 行く先 々 で 声 を かけ られる 。

まるで 僕 が お 付き の 家来 の ようだ 。 本当 は お 代官 様 な のに 。 でも ひと つ だけ 良かった の は 、 この キャベツ 人気 の おかげ で 、 野菜 も 魚 も 惣菜 も すべて サービス 価格 で 買えた こと だ 。 まさか の 猫 割 。

「 こんど から 買い物 だけ は キャベツ と 行く こと に する よ 」

たくさんの 買い物 袋 を 両手 に 持ち ながら 僕 は キャベツ に 言った 。

「 それ は いい で ご ざる が 、 拙者 が 好きな ごはん を きちんと 作って くだされ よ 」

「 いつも 出して る じゃ ない 。

猫まんま 」

すると 先 を テトテト 歩いて いた キャベツ が ぴた っと 止まる 。

「 どうした ?

」 どうやら 怒り で 震えて いる ようだ 。 「 その こと で ご ざる が …… ずっと 言わ せて もらい たい こと が あった ので ご ざる 」

「 何 ?

なんでも 言って よ 」

「 猫 まん まって 、 あれ は なんで ご ざる か !?」

「 え ?

」 「 あれ は 人間 の 食べ 残し に 無理やり 名前 を 付けた だけ で ご ざる 」 怒り で 感情 が 高ぶった の か 、 キャベツ は フギャー と 吠え ながら そば に あった 電柱 に 激しく 爪 を がり がり させ る 。

そんなに 猫 まん ま が 嫌だった の か 、 と またしても 人間 の 身勝手な 決まり 事 に ついて 深く 考え させ られた 頃 、 僕ら の 住む 小さな アパート が 坂 の 先 に 見えて きた 。

部屋 に 入った 僕 と キャベツ は ( 猫 まん まで は なく ) 一緒に 焼き魚 を 食べ 、 また 静かで のんびり と した 時 の 流れ に 戻って きた 。

「 なあ キャベツ 」

「 どうした で ご ざる か ?

」 「 本当に 母さん の こと 、 覚えて ない の か ? 」 「 覚えて ないで ご ざる 」 「 そう か …… やっぱり 悲しい な 」

「 どうして 悲しい ので ご ざる か ?

」 僕 は キャベツ に 「 どうして 悲しい か 」 を 説明 でき なかった 。 キャベツ が 忘れて いる こと を 責める こと も でき な かった 。 でも 、 キャベツ と 母さん の あいだ に 確かに 存在 した 「 時間 」 を 伝え たかった 。

僕 は 立ち上がり 、 クローゼット の 奥 から 段ボール 箱 を 取り出した 。

埃 を かぶった 段ボール 箱 の 中 に は 、 エンジ 色 の アルバム が あった 。 僕 は その アルバム を キャベツ に 見せる こと に した 。

世界から猫が消えたなら:世界 から 時計 が 消えた なら:2 せかい から ねこ が きえた なら|せかい||とけい||きえた| Wenn die Katze aus der Welt verschwunden wäre: Wenn die Uhr aus der Welt verschwunden wäre: 2 If the cat disappeared from the world: If the clock disappeared from the world: 2 Si el gato desapareciera del mundo: si el reloj desapareciera del mundo: 2 세상에서 고양이가 사라졌다면: 세상에서 시계가 사라졌다면: 샤넬 Se o gato desaparecesse do mundo: se o relógio desaparecesse do mundo: 2 Om katten försvann från världen: om klockan försvann från världen: 2 如果猫从世界上消失:如果钟从世界上消失:2 如果猫从世界上消失:如果钟从世界上消失:2

外 は 快晴 で 、 絶好 の 散歩 日和 だった 。 がい||かいせい||ぜっこう||さんぽ|ひより| It was fine outside and it was a great day-to-day walk.

前 を 行く キャベツ の 足取り も 軽い 。 ぜん||いく|きゃべつ||あしどり||かるい The foot of the cabbage that goes ahead is also light. 走在我前面的白菜迈着轻快的脚步。 走在我前面的高麗菜邁著輕快的腳步。

いつも 母さん は 、 キャベツ と 一緒に 出かけて いた 。 |かあさん||きゃべつ||いっしょに|でかけて| My mother always went out with the cabbage.

そう 思う と 、 自分 が 知ら ない 母さん の こと が 分かる よ う な 気 が して 、 とにかく 今日 は 気長 に 一 日 キャベツ に 付き合う こと に した 。 |おもう||じぶん||しら||かあさん||||わかる||||き||||きょう||きなが||ひと|ひ|きゃべつ||つきあう||| When I thought so, I felt like I could understand my mother I do not know, anyway I decided to go out cabbage day by day. 当我想到这里时,我觉得我正在了解一些我不知道的关于妈妈的事情,所以我决定今天和白菜一起出去玩一整天。 當我想到這裡時,我覺得我正在了解一些我不知道的關於媽媽的事情,所以我決定今天和白菜一起出去玩一整天。

そして よく 考える と 、 キャベツ が なぜ 時代劇 風 の しゃべり 方 な の か が 分かって きた 。 ||かんがえる||きゃべつ|||じだい げき|かぜ|||かた|||||わかって| Potem, po dokładnym przemyśleniu, zrozumiałem, dlaczego kapusta jest dramatem współczesnym. 当我仔细思考时,我开始明白为什么白菜会用历史剧的风格说话。

母さん だ 。 かあさん|

子 猫 だった キャベツ が うち に 来た ばかり の 頃 だった 。 こ|ねこ||きゃべつ||||きた|||ころ| Cabbage which was a kitten just arrived at my place. Był to czas, kiedy kapusta, kotek, przybyła do naszego domu.

母さん は 突然 テレビ の 時代 劇 に ハマ り だした ( うち の 母 も 世 の 母親 と 同じく 、 突然 謎 めいた マイブーム が 巻き起こり 、 いつの間にか 終息 して いる と いう 習性 を もって いた )。 かあさん||とつぜん|てれび||じだい|げき||はま|||||はは||よ||ははおや||おなじく|とつぜん|なぞ||まい ぶーむ||まきおこり|いつのまにか|しゅうそく|||||しゅうせい||| Mother suddenly got into the era of television's era (my mother also had a habit of having suddenly cryptic my-boom wrapped up and unexpectedly ended, like the mother of the world). Moja matka nagle zakochała się w dramacie telewizyjnym (moja matka, podobnie jak moja matka na świecie, miała zwyczaj nagle tajemniczego boomu, który zakończył się, zanim się zorientowałem). 我的母亲突然对电视上的古装剧上瘾了(我的母亲和世界上所有的母亲一样,有一个习惯,就是突然产生自己神秘的热潮,然后在我意识到之前将它们熄灭)。 我的母親突然對電視上的古裝劇上癮了(我的母親和世界上所有的母親一樣,有一個習慣,就是突然產生自己神秘的熱潮,然後在我意識到之前將它們熄滅)。

水戸 黄門 、 暴れん坊 将軍 、 遠山 の 金 さん 。 みと|こうもん|あばれんぼう|しょうぐん|とうやま||きむ| Mito Komon, The Unfettered Shogun, Toyama no Kin-san. 水户小门、巴连坊将军和富山金先生。 水戶小門、巴連坊將軍、富山健先生。

「 日本 の 男 は こう じゃ なくちゃ ね 」 にっぽん||おとこ||||| "The Japanese man is like this." “日本男人就应该这样。”

など と よく 分から ない 日本 男児 論 を 語り ながら 、 母さん は 僕 を その マイ ブーム に 巻き込もう と した 。 |||わから||にっぽん|だんじ|ろん||かたり||かあさん||ぼく|||まい|ぶーむ||まきこもう|| While talking about the Japanese boy theory which I do not understand well, etc., Mother tried to get me involved in the my boom.

「 申し訳ない けれど 母さん 、 僕 は テレビ の 時代 劇 より 映画 が 観 たい よ 」 もうしわけない||かあさん|ぼく||てれび||じだい|げき||えいが||かん|| "I'm sorry but my mother, I want to watch a movie rather than a television drama."

僕 は 丁重 に お 断り した 。 ぼく||ていちょう|||ことわり| I refused politely.

時代 劇 仲間 が い ない 母さん は 、 朝 から 晩 まで キャベツ を 膝 に 乗せ ながら 時代 劇 を 観て 過ごした 。 じだい|げき|なかま||||かあさん||あさ||ばん||きゃべつ||ひざ||のせ||じだい|げき||みて|すごした A mother who had no drama group and friends spent the morning and the evening watching the drama while putting the cabbage on her knees.

おそらく 、 キャベツ は そこ で 「 人間 の 言葉 」 を 覚えた のだろう 。 |きゃべつ||||にんげん||ことば||おぼえた| Być może kapusta prawdopodobnie pamiętała tam „ludzki język”.

果たして キャベツ の 言葉 は 、 母さん の 言葉 と 時代 劇 の 言葉 が 奇妙に ミックス さ れた 不思議な 日本 語 に なって しまった 。 はたして|きゃべつ||ことば||かあさん||ことば||じだい|げき||ことば||きみょうに|みっくす|||ふしぎな|にっぽん|ご||| The word of cabbage came to be mysterious Japanese where the words of mother and the words of period drama were mixed strangely. W rzeczywistości słowa kapusty stały się tajemniczym japońskim językiem, w którym słowa matki i słowa dramatu historycznego są dziwnie mieszane.

ああ 可哀そうに 。 |かわいそうに でも なんだか 可愛い から 直さ ないで おこう 。 ||かわいい||なおさ|| But let's not fix it because it is cute. 但它很可愛,所以我不會修復它。 テトテト と 歩く キャベツ の 後ろ姿 を 見 ながら 、 僕 は そんな こと を 思って いた 。 ||あるく|きゃべつ||うしろすがた||み||ぼく|||||おもって| Looking at the back of the cabbage walking with Tetoteto, I was thinking about that.

キャベツ の 行く 道 に は 点々 と 雑草 が 生えて いる 。 きゃべつ||いく|どう|||てんてん||ざっそう||はえて| Weeds grow from point to point on the way the cabbage goes.

電柱 の 下 に は タンポポ が 小さく 咲いて いた 。 でんちゅう||した|||たんぽぽ||ちいさく|さいて| そう か 、 も う すぐ 春 な のだ 。 |||||はる|| Well, it's spring soon. キャベツ は タンポポ に 近づいて 、 くん くん と 匂い を 嗅ぐ 。 きゃべつ||たんぽぽ||ちかづいて||||におい||かぐ

「 タンポポ だ ね 」 たんぽぽ||

僕 が 言う と キャベツ は 不思議 そうな 顔 を した 。 ぼく||いう||きゃべつ||ふしぎ|そう な|かお|| Cabbage has a strange face when I say it.

「 これ は タンポポ と いう で ご ざる か 」 ||たんぽぽ|||||| "Do you call this a dandelion?"

「 知ら ない の ? しら||

」 「 さよう 」 「 春 に なる と 咲く 花 だ よ 」 はる||||さく|か||

「 そうで ご ざる か ……」 そう で|||

それ から キャベツ は 道ばた の 花 に 次 から 次 へ と 近付き 「 これ は なんという で ご ざる か ? ||きゃべつ||みちばた||か||つぎ||つぎ|||ちかづき|||||||

」 と しつこく 聞いて きた 。 ||きいて|

からす の えんどう 、 なずな 、 ハルジオン 、 マーガレット 、 ほとけのざ 。 Crow peas, shepherd's purse, halzion, margaret, henbit deadnettle. 鴉豆、薺、哈爾吉恩、瑪格麗特、鸕鶿野座。

道ばた の 雑草 たち は 、 北風 の なか 、 かすかな 太陽 の 暖か さ を 頼り に つつましく その 花 を 咲か せて いた 。 みちばた||ざっそう|||きたかぜ||||たいよう||あたたか|||たより||||か||さか|| The weeds on the street were making their flowers bloom in the northern wind, relying on the warmth of the sun. 路边的杂草在北风中卑微地绽放,依靠着阳光淡淡的温暖。 路邊的雜草在北風中卑微地綻放,靠著陽光淡淡的溫暖。

僕 は 記憶 を たどり ながら 、 花 の 名前 を キャベツ に 教える 。 ぼく||きおく||||か||なまえ||きゃべつ||おしえる I will teach the name of the flower to cabbage while following my memory. 恢復記憶後,我教了白菜這種花的名字。 不思議な もの で すっかり 忘れて いた 幼い 頃 の 記憶 が 、 次 から 次 へ と 呼び戻さ れて いく 。 ふしぎな||||わすれて||おさない|ころ||きおく||つぎ||つぎ|||よびもどさ|| Wspomnienia z mojego dzieciństwa, o których zapomniałem, były przywoływane jeden po drugim.

そう いえば 幼い 頃 の 僕 も 、 母親 と 散歩 する たび に 「 あれ は なんて いう の ? ||おさない|ころ||ぼく||ははおや||さんぽ|||||||| Speaking of which, when I was a young boy, every time I took a walk with my mother, "What is that?

これ は なんて いう の ? What does this say? 」 と しつこく 聞いた と いう 。 ||きいた|| It is said that he heard it. きっと 今 の キャベツ みたいな 感じ だった のだろう 。 |いま||きゃべつ||かんじ|| こんな こと に 母さん は 毎日 付き合って いた のだ と 気付く 。 |||かあさん||まいにち|つきあって||||きづく I realize that my mother was staying with him every day.

「 ちょっと 花 を 見つけて は 座り込んで 、 また 見つけて は 座り込んで 。 |か||みつけて||すわりこんで||みつけて||すわりこんで "Find a little flower, sit down, find again, sit down. “我找到一朵花坐下,然后我又找到另一朵花坐下。 「我找到一朵花坐下,然後我又找到另一朵花坐下。

なかなか 散歩 が 終わら なくて 大変だ った の よ 」 |さんぽ||おわら||たいへんだ||| The walk didn't finish well and it was difficult. Trudno było ukończyć spacer ”.

大人 に なった 僕 に 、 母さん は よく その 話 を 聞か せた 。 おとな|||ぼく||かあさん||||はなし||きか| To myself becoming an adult, my mother often told the story.

「 でも とっても 幸せな 時間 だった 」 ||しあわせな|じかん|

懐かし そうに 遠く を 見て 、 笑い ながら 母さん は 言った 。 なつかし|そう に|とおく||みて|わらい||かあさん||いった Looking at the distance so dearly and laughing, Mother said.

たっぷり と 時間 を かけて 、 僕 と キャベツ は 丘 の 上 の 公園 に たどりついた 。 ||じかん|||ぼく||きゃべつ||おか||うえ||こうえん||

高台 に ある 公園 。 たかだい|||こうえん

眼下 に は 、 坂 に 沿って 並んで 建つ 家々 と 、 その先 に 群青色 の 海 が 見える 。 がんか|||さか||そって|ならんで|たつ|いえいえ||そのさき||ぐんじょういろ||うみ||みえる Under the eyes, houses lined up along the slopes, and at the other end are the ultra-blue sea. 在我的下方,我可以看到沿著斜坡排列的房屋和遠處群青色的大海。 こぢんまり と した その 公園 に は 、 ブランコ に すべり台 、 そして シーソー 。 ||||こうえん|||ぶらんこ||すべりだい|| 小公园里有秋千、滑梯和跷跷板。 小公園裡有鞦韆、溜滑梯、蹺蹺板。 小さな 子ども たち と 母親 たち が 、 砂場 で 遊んで いる 。 ちいさな|こども|||ははおや|||すなば||あそんで| Little children and mothers are playing in the sandbox.

キャベツ は 公園 を ぐるっと 一 周 して 、 子ども たち と たしなみ 程度 に 戯れ 、 ベンチ に 座って 将棋 を 指して いた 老人 たち に 向かって 「 ど いて 欲しい で ご ざる 」 と 言う 。 きゃべつ||こうえん|||ひと|しゅう||こども||||ていど||たわむれ|べんち||すわって|しょうぎ||さして||ろうじん|||むかって|||ほしい|||||いう The cabbage goes around the park, plays with the children, and says to the old people sitting on the bench and pointing to the shogi "I want you to go out". 白菜在公园里走来走去,礼貌地和孩子们玩耍,然后转向坐在长凳上下棋的老人说:“我希望你们留下来。” 白菜在公園裡轉了一圈,禮貌地和孩子們玩耍,然後轉向坐在長凳上下棋的老人說:“我希望你們留下來。”

突然 現れた 〝 しゃべる 猫 〟 を 見て パニック に な る ので は ない か と ヒヤヒヤ した が 、 老人 たち は 困り 顔 で 笑い 合って いる 。 とつぜん|あらわれた||ねこ||みて|ぱにっく|||||||||ひやひや|||ろうじん|||こまり|かお||わらい|あって| I was scared to see panic when I saw a cat that appeared suddenly, but the old men laughed with troubled faces. 生怕他们看到突然出现的“会说话的猫”会惊慌,老人们却一脸苦恼地互相笑着。 怕他們看到突然出現的「會說話的貓」會驚慌,老人們卻一臉苦惱地互相笑著。 どうやら 僕 以外 の 人間 に は 、 キャベツ の 言葉 は 聞こえ ない ようだ 。 |ぼく|いがい||にんげん|||きゃべつ||ことば||きこえ|| Apparently human beings other than me can not hear the word of cabbage.

「 だめだ よ 、 キャベツ 。 ||きゃべつ

ここ は いま 、 この 人 たち が 使って いる んだ 」 と 僕 は 言う 。 ||||じん|||つかって||||ぼく||いう Jest teraz używany przez tych ludzi - mówię.

それ でも キャベツ は 「 この 場所 が いい ので ご ざる 」 と 諦め ない 。 ||きゃべつ|||ばしょ|||||||あきらめ| But I don't give up cabbage saying "I'm fine because this place is good". 不過,白菜並沒有放棄,說:“這個地方不錯,我就把它留在那裡吧。”

そして ついに 我慢 でき なく なった の か 、 将棋盤 の 上 に 飛び乗り 、 が ちゃ が ち と 駒 を 蹴散らして しまった 。 ||がまん||||||しょうぎ ばん||うえ||とびのり||||||こま||けちらして| And finally it became impossible to get over, jumped onto the Shogi board, and the girls scattered the pieces. 然后,他终于忍无可忍,跳到了将棋盘上,将棋子撞得满地都是。 然後,他終於忍無可忍,跳到將棋盤上,「咚」的一聲把棋子踢飛了。 老人 たち は さすが に 呆れ顔 で 、 でも 毎度 の こと だ と いう ように 苦笑い を し ながら 、 ベンチ を 譲って くれた 。 ろうじん|||||あきれがお|||まいど|||||||にがわらい||||べんち||ゆずって| The elderly were truly amazed, but they gave up the bench while smiling as if to say every time. 老人们看上去很震惊,但像往常一样,他们苦笑着给我提供了他们的长凳。 老人們看起來很震驚,但像往常一樣,他們苦笑著給我提供了他們的長凳。

僕 が 老人 たち に 頭 を 下げて いる の を 横目 で 見 ながら 、 キャベツ は 青い ペンキ が はがれ かかった その 木 製 の ベンチ の 上 に どっかり と 座りこみ 、 手足 を なめ はじめる 。 ぼく||ろうじん|||あたま||さげて||||よこめ||み||きゃべつ||あおい|ぺんき|||||き|せい||べんち||うえ||||すわりこみ|てあし||な め| While watching me falling his head down to the old people, cabbage sits firmly on the wooden bench where the blue paint got peeled off, and starts to lick the limbs. Patrząc w bok, gdy spuszczałem głowy nad starców, kapusta usiadła na drewnianej ławce, na której złuszczała się niebieska farba i zaczęła lizać jej kończyny. 當我向老人鞠躬時,捲心菜一屁股坐在藍色油漆剝落的木凳上,開始舔我的手腳。

しばらく は 動き そうに ない ので 、 僕 は キャベツ の 隣 に 座って 、 ただ ぼうっと 遠く に 広がる 海 を 見つめて い た 。 ||うごき|そう に|||ぼく||きゃべつ||となり||すわって|||とおく||ひろがる|うみ||みつめて||

無限に 続く ような 平和な 世界 。 むげんに|つづく||へいわな|せかい A peaceful world that lasts endlessly. 僕 は いつも の 癖 で 公園 の 時計 塔 を 見 やる 。 ぼく||||くせ||こうえん||とけい|とう||み| やはり 時計 は 見当たら ない 。 |とけい||みあたら| 正如所料,时钟无处可寻。 この 平和 が 、 時間 と いう 決まり 事 が なくなった こと に より もたらさ れて いる の か 、 普段 から ここ に ある もの な の か は 僕 に は 判断 でき なかった 。 |へいわ||じかん|||きまり|こと|||||||||||ふだん||||||||||ぼく|||はんだん|| I couldn't judge whether this peace was brought about by the disappearance of the rule of time, or whether it was here on a regular basis. ただ 時計 が なくなった 世界 を 自分 の なか で 受け入れ られる よう に なる と 、 なんだか とても 穏やかで 解放 さ れた 気持ち に なって きた 。 |とけい|||せかい||じぶん||||うけいれ||||||||おだやかで|かいほう|||きもち||| However, when I could accept the world without my watch in myself, I felt kind of very calm and liberated. 然而,一旦我能够接受一个没有时钟的世界,我开始感到非常平静和解放。

「 しかし まことに 人間 は 不思議な 生き物 で ご ざる な 」 ||にんげん||ふしぎな|いきもの|||| „Ale naprawdę ludzie muszą być tajemniczymi stworzeniami”.

毛づくろい が 終わった の か 、 キャベツ が 僕 の 方 を 向いて 語り だす 。 けづくろい||おわった|||きゃべつ||ぼく||かた||むいて|かたり| 捲心菜彷彿已經完成了自我梳理,轉向我開始說話。

「 そう か ?

」 「 どうして 、 花 なんか に 名前 を 付ける ので ご ざる か ? |か|||なまえ||つける|||| 」 「 それ は 、 いろいろ と 種類 が ある から だ よ 。 ||||しゅるい||||| 区別 を つけ なくちゃ なら ないだ ろ 」 くべつ|||||| I have to make a distinction. "

「 種類 が ある から って 、 なんで 全部 に 名前 を 付け なくて は なら ない ので ご ざる か ? しゅるい||||||ぜんぶ||なまえ||つけ|||||||| "Just because there is a kind, why should I give names to all of them?

花 は 全部 〝 花 〟 で よい ので は ない か ? か||ぜんぶ|か|||||| Isn't it all good to be flowers? 把所有的花都称为“花”不好吗? 」 確かに 。 たしかに 人 は なぜ 花 に 名前 を 付ける のだろう 。 じん|||か||なまえ||つける| Why do people name flowers? 花 だけ で は ない 。 か|||| 物 に も 色 に も 形 に も 、 そして 人 に も 。 ぶつ|||いろ|||かた||||じん|| In the object, in the color, in the form, and in the person. どうして 名前 が 必要な のだろう か 。 |なまえ||ひつような||

時間 と いう もの も そう だ 。 じかん||||||

太陽 が 昇り 、 そして 沈む 。 たいよう||のぼり||しずむ そういった 自然 現象 に 対して 人間 が 勝手に 年月 日 や 時分 秒 と いう 「 名前 」 を 与えて いる だけ な のだ 。 |しぜん|げんしょう||たいして|にんげん||かってに|ねんげつ|ひ||じぶん|びょう|||なまえ||あたえて|||| For such natural phenomena, human beings simply give "names" such as years, days, hours, minutes and seconds. 只是人类随意给这样的自然现象起名字,比如年、月、日、时、分、秒。

キャベツ の 世界 に は 時間 が ない 。 きゃべつ||せかい|||じかん||

当然 時計 も ない 。 とうぜん|とけい|| 定刻 や 遅刻 も ない 。 ていこく||ちこく|| 一 年生 、 二 年生 、 三 年生 も ない し 、 夏 休み も 冬 休み も 春 休み も ない 。 ひと|ねんせい|ふた|ねんせい|みっ|ねんせい||||なつ|やすみ||ふゆ|やすみ||はる|やすみ|| There is no first grade, second grade, third grade, no summer vacation, no winter vacation, no spring vacation. ただ そこ に 、 自然 現象 を 中心 と した 状況 の 変化 と 、 お腹 が 空いた 、 眠く なった 、 と いう ような 体 の 反応 が ある だけ だ 。 |||しぜん|げんしょう||ちゅうしん|||じょうきょう||へんか||おなか||あいた|ねむく|||||からだ||はんのう|||| However, there are only changes in the situation centered on natural phenomena, and body reactions such as being hungry and getting sleepy.

時計 が なくなった 世界 で 、 ゆっくり と 考えて みる 。 とけい|||せかい||||かんがえて|

すると 、 いろいろな 人間 の ルール が 自分 の なか で 瓦解 して いく 。 ||にんげん||るーる||じぶん||||かわら かい|| Then, various human rules break down within me. 時間 と 同じ ように 、 色 や 温度 と いう 尺度 も 存在 し ない こと に 気付く 。 じかん||おなじ||いろ||おんど|||しゃくど||そんざい|||||きづく Just as with time, I realize that there is no measure of color or temperature. 我意識到就像時間一樣,顏色或溫度是無法衡量的。 いずれ も 人間 の 体感 に 「 名前 」 を つけた だけ な のだ 。 ||にんげん||たいかん||なまえ||||| In each case, they just gave a "name" to the human experience.

「 人間 以外 の すべて の 世界 」 から 見る のならば 、 時分 秒 も 存在 せ ず 、 青 も 赤 も 黄 も 、 体温 も 気温 も 存在 し ない 。 にんげん|いがい||||せかい||みる||じぶん|びょう||そんざい|||あお||あか||き||たいおん||きおん||そんざい|| If you are looking at from "all the worlds other than humans", there are no hour and minute, no blue, red or yellow, neither body temperature nor temperature.

でも 黄 や 赤 が ない のだ と したら 、 キャベツ は そもそも 、 タンポポ を 可愛い と も バラ を 美しい と も 思 わ ない のだろう か 。 |き||あか||||||きゃべつ|||たんぽぽ||かわいい|||ばら||うつくしい|||おも||||

「 しかし キャベツ さ 、 君 の こんな 散歩 に 毎日 付き合って いた 母さん は 偉い な 」 |きゃべつ||きみ|||さんぽ||まいにち|つきあって||かあさん||えらい| "But Cabbage is a great mother to accompany you every day of your walk."

「 どういう こと で ご ざる か ? "What are you going to do?

」 「 君 の 気まぐれな 時間 に 付き合う の は なかなか 大変 だろう から さ 。 きみ||きまぐれな|じかん||つきあう||||たいへん||| "It will be hard to get along with your fickle time. „Trudno będzie poradzić sobie z twoim kapryśnym czasem. 母さん は 本当に 君 の こと を 可愛がって いた んだ と 思う よ 」 かあさん||ほんとうに|きみ||||かわいがって||||おもう|

「 母さん ? かあさん

」 「 ああ 、 僕 の 母さん だ 。 |ぼく||かあさん| 君 の 母さん で も ある な 」 きみ||かあさん||||

「 母さん と は …… いったい 誰 の こと で ご ざる か ? かあさん||||だれ|||||| "With mother ... who on earth are you bad? „Jaka jest twoja matka… Kim powinna być?”

」 言葉 を 失った 。 ことば||うしなった I lost my word. キャベツ が 母さん の こと を 忘れて いる 。 きゃべつ||かあさん||||わすれて|

そんな こと は あり 得 なかった 。 ||||とく| There was no such thing. 那是不可能发生的。

いや 、 あって は なら ない こと だった 。 No, it was not an option. 不,那不应该发生。 不,那不應該發生。

あの 日 、 キャベツ を 拾って きた 母さん の 顔 が よみがえる 。 |ひ|きゃべつ||ひろって||かあさん||かお|| On that day, my mother's face picking up the cabbage comes back.

悲しい ような 、 切ない ような 。 かなしい||せつない| でも 希望 に 満ち た 顔 を して いた 母さん 。 |きぼう||みち||かお||||かあさん いつも キャベツ と 一緒に テレビ を 見て いた 母さん 。 |きゃべつ||いっしょに|てれび||みて||かあさん 膝 の 上 で 眠る まで キャベツ を 撫でて いた 母さん 。 ひざ||うえ||ねむる||きゃべつ||なでて||かあさん しまい に は 自分 も 一緒に 眠って しまい 、 ソファ で キャベツ と ふた り で 丸く なって いた 母 さ ん 。 |||じぶん||いっしょに|ねむって||||きゃべつ|||||まるく|||はは|| At the end of the day my mother slept with me, and on the sofa my mother was rolled up with cabbage. その 穏やかな 顔 。 |おだやかな|かお 胸 が 苦しく なる 。 むね||くるしく|

「 母さん を 、 本当に 覚えて ない の か ? かあさん||ほんとうに|おぼえて|||

」 「 それ は 誰 で ご ざる か ? ||だれ|||| 」 この 人 は 何 を 言って いる のだろう か ? |じん||なん||いって||| ” 这个人在说什么? と 言わんばかり の 表情 で 、 キャベツ は きょとんと して いる 。 |いわんばかり||ひょうじょう||きゃべつ|||| やはり 覚えて い ない のだ 。 |おぼえて||| 悲しい 、 と いう より は 苦しかった 。 かなしい|||||くるしかった キャベツ の 、 その 無邪気 さ が 、 この 残酷な 状況 を 際 立た せる 。 きゃべつ|||むじゃき||||ざんこくな|じょうきょう||さい|たた| The innocence of the cabbage makes this cruel situation stand out. 白菜的纯真让这种残酷的情况显得格外突出。 白菜的純真讓這種殘酷的情況顯得格外突出。

『 ハチ公 物語 』 の ように 動物 が 飼い主 の こと を いつまでも 忘れ ない と いう 物語 を 、 どこ か 心 の 奥底 で 信じ ていた 。 はちこう|ものがたり|||どうぶつ||かいぬし|||||わすれ||||ものがたり||||こころ||おくそこ||しんじ| Somewhere deep in my heart, I believed in stories like "The Tale of Hachiko," in which animals never forget their owners.

けれども 、 あれ は 動物 に 対する 人間 の 幻想 だった のだろう か 。 |||どうぶつ||たいする|にんげん||げんそう||| キャベツ は やがて 、 僕 の こと も 忘 れて しまう のだろう か 。 きゃべつ|||ぼく||||ぼう|||| キャベツ の 世界 から 、 僕 が 消えて しまう 日 が くる のだろう か 。 きゃべつ||せかい||ぼく||きえて||ひ||||

僕 が 何気なく 過ごして きた 時間 が 、 とてつもなく 大切な もの に 思えて くる 。 ぼく||なにげなく|すごして||じかん|||たいせつな|||おもえて| The time I spent casually seems to be tremendously important. 我現在隨意度過的時間似乎非常重要。

僕 は あと 何回 キャベツ と 一緒 に 朝 を 迎える こと が できる のだろう か 。 ぼく|||なん かい|きゃべつ||いっしょ||あさ||むかえる||||| 残り の 人生 、 大好きな あの 曲 を 、 あと 何 回 聴く こと が できる のだろうか 。 のこり||じんせい|だいすきな||きょく|||なん|かい|きく||||のだろう か あと 何 回 コーヒー が 飲める の か 。 |なん|かい|こーひー||のめる|| How many other times can I drink coffee? ごはん は 何 回 、 おはよう 何 回 、 くしゃみ 何 回 、 笑う の は あと 何 回 だ ? ||なん|かい||なん|かい||なん|かい|わらう||||なん|かい|

そんな こと 考え も し なかった 。 ||かんがえ||| Nawet o tym nie myślałem. 我從來沒有想過這樣的事情。

母さん と 会う とき だって そう だった 。 かあさん||あう|||| Even when I saw her mother. それ が 分かって いたら 、 その 一 回 一 回 を どれ だけ 大切に 考えた こと だろう 。 ||わかって|||ひと|かい|ひと|かい||||たいせつに|かんがえた|| If I had known that, how much I would have cherished each and every one of them. 母さん は 、 僕 が そんな あたりまえの こと に も 気付か ない うち に この 世界 から 消えて しまった 。 かあさん||ぼく|||||||きづか|||||せかい||きえて| My mother disappeared from this world before I realized such a familiar thing.

僕 が 生きて きた この 三十 年間 、 果たして 本当に 大切な こと を やってきた の か 。 ぼく||いきて|||さんじゅう|ねんかん|はたして|ほんとうに|たいせつな||||| In the 30 years that I have lived, have I really done what is important?

本当に 会い たい 人 に 会 い 、 大切な 人 に 大切な 言葉 を 伝えて きた の か 。 ほんとうに|あい||じん||かい||たいせつな|じん||たいせつな|ことば||つたえて|||

僕 は 母さん に かける 一 本 の 電話 より も 、 目の前 の 着信 履歴 に かけ 直す こと で 目いっぱい に なって い た 。 ぼく||かあさん|||ひと|ほん||でんわ|||めのまえ||ちゃくしん|りれき|||なおす|||めいっぱい|||| I was overwhelmed by calling back to the incoming call history in front of me rather than a single phone call to my mother. 我没有给母亲打一个电话,而是全神贯注地回拨眼前的来电。 我沒有給母親打一通電話,而是全神貫注地回撥眼前的來電。

本当に 大切な こと を 後回し に して 、 目の前 に ある さほど 重要 ではない こと を 優先 して 日々 生きて き た のだ 。 ほんとうに|たいせつな|||あとまわし|||めのまえ||||じゅうよう|では ない|||ゆうせん||ひび|いきて||| After putting things that were really important behind, I have lived every day, giving priority to things that are less important than what I have in front of my eyes. 我日复一日地过着自己的生活,推迟真正重要的事情,优先处理眼前不那么重要的事情。

目の前 の こと に 追わ れれば 追わ れる ほど 、 本当に 大切な こと を する 時間 は 失わ れて いく 。 めのまえ||||おわ||おわ|||ほんとうに|たいせつな||||じかん||うしなわ||

そして 恐ろしい こと に 、 その 大切な 時間 が 失わ れて いる こと に まったく 気付か ない のだ 。 |おそろしい||||たいせつな|じかん||うしなわ||||||きづか|| 可怕的是,他们完全没有意识到自己正在失去那段宝贵的时间。 ちょっと 時間 の 流れ から 離れ て 立ち止まって みれば 、 どちら の 電話 の 方 が 自分 の 人生 に とって 重要な の か は すぐ 分かる こと だった の に 。 |じかん||ながれ||はなれ||たちどまって||||でんわ||かた||じぶん||じんせい|||じゅうような|||||わかる|||| It was easy to see which phone was more important to my life if I stopped for a moment away from the flow of time. Jeśli zatrzymałem się na chwilę i przestałem, od razu wiedziałem, który telefon jest ważniejszy w moim życiu. 如果我从时间的流逝中退一步并停下来,我就会很容易意识到哪个电话在我的生活中更重要。

僕 は キャベツ を 見 やる 。 ぼく||きゃべつ||み| 我看著白菜。

いつの間にか 、 キャベツ は ベンチ の 上 で 丸まって 寝て いた 。 いつのまにか|きゃべつ||べんち||うえ||まるまって|ねて|

真っ白な 美しい 四 肢 を 、 白 と 黒 と グレー の アンサンブル が 見事な 体 の なか に 折りたたむ ように して 丸く なって いる 。 まっしろな|うつくしい|よっ|し||しろ||くろ||ぐれー||||みごとな|からだ||||おりたたむ|||まるく|| The pure white limbs are rounded, with the white, black and gray ensembles folded into a stunning body.

僕 は その 体 に 触れる 。 ぼく|||からだ||ふれる I touch the body. トクトク と 心臓 が 拍動 して いる 。 ||しんぞう||はくどう|| 眠って いる その 姿 から は 想像 できない ような 力強い 拍動 だ 。 ねむって|||すがた|||そうぞう|でき ない||ちからづよい|はくどう| It is a powerful beat that cannot be imagined from its sleeping form.

哺乳 類 は 、 どの 動物 も 一生 の 間 に 心臓 が 二十億 回 拍動 する と いう 。 ほにゅう|るい|||どうぶつ||いっしょう||あいだ||しんぞう||にじゅうおく|かい|はくどう||| Mammals say that every animal beats its heart 2 billion times during its lifetime.

象 は 五十 年 生きる 。 ぞう||ごじゅう|とし|いきる

馬 は 二十 年 。 うま||にじゅう|とし 猫 は 十 年 。 ねこ||じゅう|とし ネズミ は 二 年 。 ねずみ||ふた|とし でも みんな 平等に 心臓 は 二十億 回 打って 死ぬ 。 ||びょうどうに|しんぞう||にじゅうおく|かい|うって|しぬ But everyone's heart beats 2 billion times and dies equally. 人間 は 七十 年 。 にんげん||しちじゅう|とし A human being is seventy years old. 人类已经七十岁了。 果たして 僕 の 心臓 は 二十億 回 分 拍動 した のだろう か 。 はたして|ぼく||しんぞう||にじゅうおく|かい|ぶん|はくどう||| Did my heart beat for 2 billion times?

いま まで 僕 の 人生 は 過去 から 現在 を 経て 、 無限の 未来 へ と 進んで いた 。 ||ぼく||じんせい||かこ||げんざい||へて|むげんの|みらい|||すすんで|

でも 僕 の 未来 が 有限 だと 判明 した とき から 、 未来 が 僕 へ と 向かって くる ような 気 が して いた 。 |ぼく||みらい||ゆうげん|だ と|はんめい||||みらい||ぼく|||むかって|||き||| But since I decided that my future was finite, I felt like the future was coming to me. 但自从我意识到我的未来是有限的,我就觉得它正在向我走来。 但自從我意識到我的未來是有限的,我就覺得它正在走向我。 もう すでに 定め られた 未来 を 僕 が 歩いて いく 。 ||さだめ||みらい||ぼく||あるいて| 我正在走向一個已經為我決定的未來。 そういう 感覚 だ 。 |かんかく|

皮肉な もの だ 。 ひにくな||

余命 わずか だ と 宣告 さ れ 、 時間 が ない 世界 に 放り込ま れた 僕 は 、 はじめて 自分 の 意思 で 未来 を 見つめよう と して いる 。 よめい||||せんこく|||じかん|||せかい||ほうりこま||ぼく|||じぶん||いし||みらい||みつめよう||| I have been told that I have very little time left to live, and for the first time, I am trying to look at the future with my own will. Zostałem skazany na krótkie życie i zostałem wrzucony do świata, w którym nie było czasu. 有人告诉我,我的生命已经不多了,我被扔进了一个没有时间的世界,我第一次尝试以自己的方式展望未来。

頭 の 右 は じが また ジリジリ と 痛み 始める 。 あたま||みぎ||じ が||じりじり||いたみ|はじめる The right side of my head begins to hurt again. Prawa strona głowy znów zaczyna boleć. 我的右侧头部再次开始刺痛。

息 が 苦しく なる 。 いき||くるしく|

僕 は まだ 死に たく ない 。 ぼく|||しに||

まだ 生きて い たい 。 |いきて||

そして 明日 また 僕 は 、 この 世界 から 何 か を 消す のだ 。 |あした||ぼく|||せかい||なん|||けす|

自分 の 命 の ため に 、 自分 の 未来 から 何 か を 奪って 。 じぶん||いのち||||じぶん||みらい||なん|||うばって

キャベツ は その あと も 延々と 眠り 続けた 。 きゃべつ|||||えんえんと|ねむり|つづけた After that, the cabbage slept endlessly.

公園 から 子ども たち が い なく なり 、 太陽 が 西 に 傾き 始めた 頃 、 キャベツ は ようやく 目 を 覚ました 。 こうえん||こども||||||たいよう||にし||かたむき|はじめた|ころ|きゃべつ|||め||さました

ベンチ の 上 で 、 これ 以上 伸び ない から やめた ほう が いい ので は ない か と 心配 する ぐらい の 伸び を し 、 大きな あくび を ずいぶん 時間 を かけて 消化 して 、 キャベツ は 僕 の 方 を ゆっくり と 見た 。 べんち||うえ|||いじょう|のび||||||||||||しんぱい||||のび|||おおきな||||じかん|||しょうか||きゃべつ||ぼく||かた||||みた On the bench, I stretched enough to worry that I should stop because I could not stretch any more, and I spent a lot of time digesting the big yawns, and the cabbage looked at me slowly. . 我在长凳上伸了个懒腰,担心自己可能要放弃了,因为我无法再伸下去了,然后打了一个花了很长时间才消化的大哈欠,然后白菜慢慢地看着我。

「 お 代官 様 、 行く で ご ざる ぞ 」 |だいかん|さま|いく|||| "Grandmaster, I'm going to go crazy"

寝起き の キャベツ は ちょっと 偉 そうな 口調 で ひと言 告げる と 、 ベンチ を す た っと 降りて テトテト と 坂 を 下って いく 。 ねおき||きゃべつ|||えら|そう な|くちょう||ひとこと|つげる||べんち|||||おりて|||さか||くだって| When I came to bed, the cabbage was a bit sloppy, and when I said a word, I got off the bench and went down the slope with the tetotet.

キャベツ が 向かった の は 、 駅 に 向かう 道 に ある 商店 街 だった 。 きゃべつ||むかった|||えき||むかう|どう|||しょうてん|がい|

商店 街 に 入って すぐ の ところ に ある 蕎麦 屋 の 前 で 、 に ゃあ ( おい ! しょうてん|がい||はいって||||||そば|や||ぜん|||| In front of the soba restaurant just after entering the shopping street, Nya (Oh! ) と 鳴く 。 |なく すると 、 かつおぶし を 手 に 主人 が 出て きた 。 |||て||あるじ||でて| Then, the master came out with the bonito hand in hand. 然後,店主手裡拿著鰹魚片走了出來。 キャベツ は かつおぶし を せしめる と 、 また に ゃあ ( よし ! きゃべつ||||せ しめる||||| 當高麗菜和鰹魚片一起上桌時,就開始啦啦啦啦啦啦啦啦啦啦啦啦啦啦啦啦啦啦啦啦啦啦啦啦啦啦啦啦啦啦啦啦啦! ) と 鳴いて 歩き 始める 。 |ないて|あるき|はじめる これ で は どちら が 飼いならさ れて いる の か 分から な い 。 |||||かいならさ|||||わから|| I don't know which one is being tame.

キャベツ は 商店 街 の 人気者 らしく 、 行く先 々 で 声 を かけ られる 。 きゃべつ||しょうてん|がい||にんきもの||ゆくさき|||こえ||| Cabbage seems to be a popular shopping street and can be called out everywhere you go. 高麗菜似乎在商店街很受歡迎,走到哪裡都會有人討論。

まるで 僕 が お 付き の 家来 の ようだ 。 |ぼく|||つき||けらい|| It's as if I were a homemaker. To tak, jakbym był ze mną sługą. 就好像我是一個僕人。 本当 は お 代官 様 な のに 。 ほんとう|||だいかん|さま|| I'm really a representative. 事實上,他是一名法官。 でも ひと つ だけ 良かった の は 、 この キャベツ 人気 の おかげ で 、 野菜 も 魚 も 惣菜 も すべて サービス 価格 で 買えた こと だ 。 ||||よかった||||きゃべつ|にんき||||やさい||ぎょ||そうざい|||さーびす|かかく||かえた|| まさか の 猫 割 。 ||ねこ|わり

「 こんど から 買い物 だけ は キャベツ と 行く こと に する よ 」 ||かいもの|||きゃべつ||いく|||| "I'll just go with cabbage for shopping from now on." “從現在開始,我就只買白菜了。”

たくさんの 買い物 袋 を 両手 に 持ち ながら 僕 は キャベツ に 言った 。 |かいもの|ふくろ||りょうて||もち||ぼく||きゃべつ||いった I told the cabbage while holding a lot of shopping bags in both hands.

「 それ は いい で ご ざる が 、 拙者 が 好きな ごはん を きちんと 作って くだされ よ 」 |||||||せっしゃ||すきな||||つくって|| "That's okay, but please make the rice you like best."

「 いつも 出して る じゃ ない 。 |だして||| "You're always giving them out, aren't you?

猫まんま 」 ねこ まん ま Cat Manma " 貓曼瑪”

すると 先 を テトテト 歩いて いた キャベツ が ぴた っと 止まる 。 |さき|||あるいて||きゃべつ||||とまる Then, the cabbage that had been walking ahead was stopped. Potem kapusta, która szła tetoteto, natychmiast się zatrzymała.

「 どうした ?

」 どうやら 怒り で 震えて いる ようだ 。 |いかり||ふるえて|| 「 その こと で ご ざる が …… ずっと 言わ せて もらい たい こと が あった ので ご ざる 」 |||||||いわ||||||||| "I'm sorry for that ... but there's something I've always wanted to say."

「 何 ? なん

なんでも 言って よ 」 |いって|

「 猫 まん まって 、 あれ は なんで ご ざる か !?」 ねこ|||||||| "Cats, why do you have that !?" „Dlaczego ten kot, dlaczego nie to ?!” 「等一下,貓,為什麼會在那裡!?」

「 え ?

」 「 あれ は 人間 の 食べ 残し に 無理やり 名前 を 付けた だけ で ご ざる 」 ||にんげん||たべ|のこし||むりやり|なまえ||つけた|||| "That's just a matter of giving a name to the leftovers of human beings." „To wszystko, co musisz zrobić, to przymusowe nazwanie ludzkich resztek”. 怒り で 感情 が 高ぶった の か 、 キャベツ は フギャー と 吠え ながら そば に あった 電柱 に 激しく 爪 を がり がり させ る 。 いかり||かんじょう||たかぶった|||きゃべつ||||ほえ|||||でんちゅう||はげしく|つめ||||さ せ| Perhaps his emotions were high due to his anger, the cabbage barked with Fuga and made his claws violently cling to the telephone pole beside him.

そんなに 猫 まん ま が 嫌だった の か 、 と またしても 人間 の 身勝手な 決まり 事 に ついて 深く 考え させ られた 頃 、 僕ら の 住む 小さな アパート が 坂 の 先 に 見えて きた 。 |ねこ||||いやだった|||||にんげん||みがってな|きまり|こと|||ふかく|かんがえ|さ せ||ころ|ぼくら||すむ|ちいさな|あぱーと||さか||さき||みえて| When I was deeply thinking about human self-contained rules, I didn't like cats so much, and the small apartment we lived in seemed beyond the slope. 正當我深入思考人類的自私法則,懷疑自己是不是真的那麼討厭貓時,山腳下我們住的小公寓映入眼簾。

部屋 に 入った 僕 と キャベツ は ( 猫 まん まで は なく ) 一緒に 焼き魚 を 食べ 、 また 静かで のんびり と した 時 の 流れ に 戻って きた 。 へや||はいった|ぼく||きゃべつ||ねこ|||||いっしょに|やきざかな||たべ||しずかで||||じ||ながれ||もどって| I and the cabbage who entered the room (not even the cat man) ate grilled fish together and returned to the flow of quietness and relaxation. Kiedy wszedłem do pokoju, kapusta i ja (nie bułka z kotem) zjedliśmy razem grillowaną rybę i wróciłem do nurtu czasu, kiedy byłem cichy i relaksujący.

「 なあ キャベツ 」 |きゃべつ

「 どうした で ご ざる か ?

」 「 本当に 母さん の こと 、 覚えて ない の か ? ほんとうに|かあさん|||おぼえて||| „Naprawdę nie pamiętasz swojej matki? 」 「 覚えて ないで ご ざる 」 おぼえて||| „Nie pamiętam tego”. 「 そう か …… やっぱり 悲しい な 」 |||かなしい|

「 どうして 悲しい ので ご ざる か ? |かなしい||||

」 僕 は キャベツ に 「 どうして 悲しい か 」 を 説明 でき なかった 。 ぼく||きゃべつ|||かなしい|||せつめい|| キャベツ が 忘れて いる こと を 責める こと も でき な かった 。 きゃべつ||わすれて||||せめる||||| でも 、 キャベツ と 母さん の あいだ に 確かに 存在 した 「 時間 」 を 伝え たかった 。 |きゃべつ||かあさん||||たしかに|そんざい||じかん||つたえ| However, I wanted to convey the “time” that surely existed between the cabbage and my mother.

僕 は 立ち上がり 、 クローゼット の 奥 から 段ボール 箱 を 取り出した 。 ぼく||たちあがり|||おく||だんぼーる|はこ||とりだした

埃 を かぶった 段ボール 箱 の 中 に は 、 エンジ 色 の アルバム が あった 。 ほこり|||だんぼーる|はこ||なか||||いろ||あるばむ|| 佈滿灰塵的紙箱裡有一本橘色的相簿。 僕 は その アルバム を キャベツ に 見せる こと に した 。 ぼく|||あるばむ||きゃべつ||みせる||| I decided to show the album to Cabbage.