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三姉妹探偵団 2 キャンパス篇, 三姉妹探偵団(2) Chapter 18 (1)

三 姉妹 探偵 団 (2) Chapter 18 (1)

18 祭 は 終る

「 ご 機嫌 いかが ?

いい わけ ない でしょ 。

── 夕 里子 は 、 そう 言い たい 気持 を こめて 、 大津 和子 を 見返して やった 。

「 そう にらま ないで 」

と 、 大津 和子 は 、 物置 に 入って 来る と 、 戸 を 閉めた 。

「 あと 少し で 、 タカシ の コンサート が 始まる わ 。 ── うまく 行ったら 、 ここ へ 来て 、 出して あげる 」

本当 かしら ね 。

「 疑って る わ ね ?

── ま 、 無理 も ない けど 」

と 、 和子 は 笑って 、「 でも 、 あんた の こと 、 好きな の よ 、 私 。

だから 、 殺し たく ない の 」

夕 里子 は ギクリと した 。

「 ね ?

だ から 、 私 に 殺さ せ ないで ちょうだい 」

つまり 、 口 を つぐんで ろ 、 って こと ね 。

「 あんた が 、 誰 に も 言わ ない 、 って 約束 して くれたら 、 私 、 信じて あげる 。

本当 よ 」

夕 里子 は 、 目 を そらした 。

夕 里子 も 、 こういう ところ で 、 噓 の つけ ない 人間 な のだ 。

「── さて 、 それ じゃ 、 行って 来る わ 」

と 、 和子 は 、 大きく 一 つ 深呼吸 を して 、「 うまく 行く ように 祈って て ね 」

失敗 する ように 、 祈って る わ 。

「 じゃ 、 もう 少し 我慢 して て 」

大津 和子 が 出て 行く 。

夕 里子 は 、 もう 一 度 、 何とか して 縄 を ゆるめよう と 頑張った が 、 むだだった 。

あの 大津 和子 、 縄 の 結び 方 は 心得て いる ようだ 。

夕 里子 は 諦めた 。

きっと キャンパス は 、 大勢 の 人間 で 溢れ ん ばかりだろう 。

夕 里子 の 耳 に も 、 かすかに 、 音楽 や アナウンス が 聞こえて いる 。

しかし 、 こんな 裏手 の 方 まで やって 来る 物好き は い ない ようだった 。

もし 、 近く に 誰 か が 来たら 、 思い切り 、 足 で 壁 を けって 、 音 を 立てて やろう と 思って いる のだ が 。

どうやら 、 空しい 希望 に 終り そうだった 。

── 音楽 だ 。

それ も 、 ずっと 近く に 聞こえる 。

神山 田 タカシ の コンサート が 始まった のだろう 。

講堂 だ から 、 そう きちっと 遮音 さ れて いる わけじゃ ない 。 だから 、 かなり 、 音 が 洩 れて 来る のだ 。

── 大津 和子 は 、 いつ やる 気 だろう か ?

最初に 一 曲 、 まず 、 ヒット した 歌 から 入る だろう 。

歌って いる 間 は 、 動き回る から 、 何 か を 落す に も 、 狙い が 定まら ない 。

して みる と 、 危 いの は その後 、「 語り 」 に 入った とき だ 。

たいてい 、 客席 に 向 って 、 何 か を 話しかける とき は 、 マイク を 持って 、 小さな 椅子 に 腰 を かけたり 、 または 、 マイク スタンド に マイク を 置く 。

つまり 、 位置 が 、 固定 さ れる と いう こと である 。

それ こそ 、「 狙い 時 」 だ 。

歌 が 続いて いる 。

── タカシ の 声 も 、 かなり 聞こえる 。

お世辞 に も 、 上手い と は 言え ない 歌 だ が 、 それ でも 、 一応 何 を 歌って いる か は 分 る 。

夕 里子 も 聞いた こと の ある 、 二 年 くらい 前 の 曲 だろう 。

あれ が 終ったら ……。

突然 、 物置 の 戸 が ガタガタ と 音 を たてて 、 開いた 。

── 大津 和子 が 戻って 来た の か ?

「 お 姉ちゃん !

何 してん の 、 こんな 所 で 」

珠美 が 立って いた 。

まず 口 に 詰めた 布 を 取って もらう 。

「── 助かった !

早く 、 縄 を といて ! 「 え ?

ああ 、 ちょっと 待って よ 」

「 早く !

── 急いで よ ! 「 そんなに 急か さ ないで 。

私 、 こういう の 苦手な んだ もん 。 固く 結んで ある なあ 」

「 ほら 、 早く !

五千 円 出す から ! 珠美 は 、 無言 で 結び目 に 取り組んだ 。

「── やった !

「 足 の 方 も 。

手 が しびれて 、 よく 動か ない の よ 」

「 別 料金 ?

「 珠美 !

「 は いはい 。

── 助けて やった のに 、 少し は 感謝 し な よ 。 ここ から 、 誰 か が 出て 行く の を 見た の 。 変だ な 、 と 思って 来て みた の よ 」

足 の 方 は 、 何とか 早く とけた 。

「── 立た せて !

足 が …… 言う こと 聞か ない の よ 」

「 どうして こんな こと に なった の ?

「 ともかく ── 危 いの よ 、 神山 田 タカシ が 」

「 ええ ?

夕 里子 は 、 外 へ 出て 、 まぶし さ に 目 を 細く した 。

そして 、 ハッと した 。

── 曲 が 、 終って いる 。

「 危 いわ !

夕 里子 は 、 講堂 の 方 へ と 駆け出した ── つもりだった が 、 足 が もつれて 、 転び そうに なる 。

「 大丈夫 ?

「 いい から 、 支えて !

早く 、 早く ! ワーッ と 拍手 して いる 音 が する 。

夕 里子 は 、 裏手 の 扉 から 中 へ 入った 。

大分 、 足 に 感覚 が 戻って 来て いる 。

目の前 に 、 ステージ の 上 に 出る 、 階段 が あった 。

「 皆さん 、 今日 は 」

タカシ の 声 が 響いて いる 。

夕 里子 は 、 階段 を 上り 始めた 。

── 間に合い ます ように !

「 こんなに 大勢 の 女の子 、 見る の 、 久しぶりだ な 」

と タカシ が しゃべって いる 。

「 何しろ 、 ここん とこ 、 落ち目 で もて ない もん だ から ……」

ワッ と 笑い声 が 響く 。

もう 少し 、── もう 少し だ 。

「 僕 も まだ 若い んです が 、 ともかく 最近 の 新人 なんて 、 十四 と か 十五 と か ね 。

中 に ゃ 十三 なんて ……。 中学 一 年 です よ 。 まだ ガキ だ よ ね 」

夕 里子 は 、 やっと 上 に 上った 。

狭い 通路 が 、 ステージ の 上 に 伸びて いる 。

暗くて よく 見え ない が ……。

あそこ だ 。 たぶん 、 あそこ に いる の が ……。

夕 里子 は 、 ステージ の 遥か 上 を 、 進み 始めた 。

「 僕 なんか もう 年寄り 扱い です よ 。

ベテラン 、 なんて 言わ れる から ね 。 これ は 、 お 年 です ね 、 って 意味 な んだ 」

夕 里子 は 、 近づいて 行った 。

大津 和子 が 、 じっと 下 を うかがって いる 。

タカシ の 声 が 響く ので 、 夕 里子 の 足音 に 気付か ない のだ 。

「 ともかく ね 、 歌手 なんか に 憧れる 人 が いたら 、 やめ といた 方 が いい です よ 。

一 年 くらい ヒット が ない と 、 もう 〈 懐 し の メロディ 〉 から お呼び が かかる んだ から 」

客 が ドッと 笑った 。

あと 五 メートル くらい の 所 で 、 ハッと 大津 和子 が 振り向いた 。

「 やめ なさい !

と 夕 里子 は 叫んで 駆け寄った 。

「 邪魔 し ないで !

大津 和子 が 夕 里子 を 押し 返す 。

その 拍子 に 、 ネジ を ゆるめて あった ライト が 、 グラッ と 揺れた 。

ネジ が 飛ぶ 。

上 の 騒ぎ に 気付いた タカシ が 、 少し 退 が って 見上げた 。

重い ライト が 、 真 直ぐに 、 たった今 まで タカシ の 立って いた 場所 に 落ちた 。

ガラス が 砕ける 。

ワーッ と いう どよめき 。

「 邪魔 した わ ね !

と 、 大津 和子 が 、 夕 里子 に つかみ かかった 。

退 がろう と して 、 夕 里子 の 足 は 、 まだ 少し しびれた まま だった ので 、 もつれて 、 引っくり返った 。

和子 の 体 が 泳いだ 。

「 危 い !

と 、 夕 里子 は 叫んだ 。

声 も 上げ ず に 、 和子 は 、 ステージ へ と 落ちて 行った 。

「 大変な コンサート に なった わ 」

と 、 綾子 は ため息 を ついた 。

「 お 姉さん の せい じゃ ない よ 」

と 、 夕 里子 は 言った 。

「 だけど ……」

綾子 の 方 は 、 冴え ない 顔 だった 。

講堂 の 中 は 、 ガランと して いた 。

もちろん 、 客 は い ない 。

「 みんな 、 コンサート 見る より 、 よっぽど 面白がって た みたい 」

と 、 珠美 が 言った 。

「 珠美 ったら !

夕 里子 は 、 ちょっと にらんだ 。

舞台 の 上 に 、 二 人 、 横 に なって 、 救急 車 を 待って いた 。

大津 和子 と 、 神山 田 タカシ である 。

ポカン と 上 を 見て いた 神山 田 タカシ の 真 上 に 、 和子 が 落下 した のだった 。

おかげ で 和子 の 方 は 命拾い を して 、 腕 を 骨折 した だけ の ようだった 。

タカシ の 方 が 、 あちこち ひどく 打って 苦し そうだ 。

「 畜生 ……」

タカシ が 呻いた 。

「 自業自得 よ 」

と 、 和子 が 言った 。

「 一 つ 、 知らせる こと が ある 」

と 、 国友 が 和子 の そば へ 行って 、 言った 。

「 何 です か ?

「 梨 山 教授 が 逮捕 さ れた 」

和子 は 、 ちょっと 間 を 置いて 、

「 そう です か 」

と だけ 言った 。

「 太田 さん は 無事だった ?

と 、 夕 里子 が 訊 いた 。

「 うん 。

医者 に 化けて 病室 へ 入ろう と した ところ を 、 私服 の 刑事 に 捕まった んだ 」

和子 が 、 ちょっと 笑った 。

「 ドジ な んだ から 、 本当に 」

夕 里子 は 、 和子 の 傍 に しゃがみ込んだ 。

「── 梨 山 教授 は あなた の お 父さん な んでしょう ?

あなた と 二 人 で 、 今度 の 事件 を 計画 した の ? 「 いや 、 一 人 で やった 、 と 梨 山 は 言って る らしい よ 」

と 、 国友 が 言った 。

「 父 の 考えて る こと は 、 見当 ついて た けど ね 」

と 、 和子 は 言った 。

「 ただ 、 私 の 目的 は 、 タカシ に 仕返し する こと だけ だった から 何も 言わ なかった の 」

「 梨 山 は 、 奥さん を 殺した こと を 認めた よ 」

と 、 国友 は 言った 。

「 でも 、 あなた 、 あの 晩 、 大学 に いた じゃ ない の 」

と 、 綾子 は 言った 。

「 あの ガードマン さん に 、 睡眠 薬 を 飲ま せる の が 仕事 だった の 。

私 が 行けば 、 彼 も 怪しま ない わ 」

「 じゃ 、 お茶 でも 飲んで ?

「 そう 、 彼 の お茶 に 薬 を 入れた わ 。

── その後 、 どう する つもりだった の か は 知ら ない 」

「 あの 後 、 私 を 狙った の は 、 どうして ?

と 、 綾子 が 訊 いた 。

「 私 は ね 、 もう 一 つ 、 父 の アリバイ を 証言 する はずだった の 」

と 、 和子 は 言った 。

「 もちろん 、 一 人 で いた 、 と 言って 、 通れば いい けど 、 もし 疑わ れる ように なったら 、 実は 、 学生 の 一 人 とい ました 、 って こと に なる はずだった の よ 。 それ なら 、 隠して いた の も 納得 して もらえる でしょ 」

「 ああ 、 ところが 、 お 姉さん に 見 られちゃ った わけだ 」

と 、 夕 里子 は 肯 いた 。

「 そう 。

それ を 聞いて 、 私 、 急いで 父 に 知らせ に 行った の 。 ところが 父 は 、 もともと 気 が 弱い し 、 しかも 、 この 刑事 さん に 、 あれこれ 訊 かれた ばかりで 、 ビクビク して いた の ね 。 だから 、 見境 も なく 、 鉄 アレイ を 持ち出して 、 あなた を ……。 失敗 する と 、 今度 は その とき に 、 顔 を 見 られた ような 気 が する 、 と いって 、 また つけ狙った の よ 」

「 でも 、 むだだった わ 」

「 そう ね 。

── あなた たち 姉妹 って 、 きっと 幸運の 女神 が ついて る んじゃ ない ? 「 人 に 憎ま れる ような こと を し ない から よ 」

と 、 綾子 が 力強く 言った 。

「 でも ── 残念だ わ 。 子 猫 の かたき を 取り たかった のに ! 「 だけど ……」

と 、 夕 里子 は 言った 。

「 なぜ 、 梨 山 先生 は 奥さん を 殺した の ? 理由 が ある はずだ わ 」

「 そりゃ 、 決 って る じゃ ない 」

と 、 和子 は 言った 。

「 あそこ に 立って る 人 の ため よ 」

みんな 、 和子 の 指さす 方 を 振り向いた 。

水口 恭子 が 、 静かに 立って いた 。

「 父 に 、 あんな こと 計画 する 度胸 、 ない わ 」

と 、 和子 は 言った 。

「 妻 は 財産 家 で 、 それ も 失い たく なかった 。 ── 水口 さん は 、 父 を 思い通りに 操って いた んだ わ 」

そう か 、 と 夕 里子 は 肯 いた 。

黒木 が 死んだ とき 、 水口 恭子 は 、 外 に 出て いた 。

太田 が あわてて 飛び出して 来る の を 目 に 止め 、 梨 山 に 話した の に 違いない 。

これ こそ 、 絶好 の チャンス だ 、 と 。

「── 何の お 話 かしら 」

水口 恭子 は 、 ゆっくり と 歩いて 来た 。

「 父 は 捕まった の よ 。

あなた も 諦め なさい 」

「 私 は 何も 知ら なかった わ 。

── 関係 が あった こと は 認める けど 」

「 噓 つき !

と 、 和子 が 吐き出す ように 言った 。

水口 恭子 は 、 冷ややかに 、 和子 を 見下ろして 、

「 梨 山 先生 は 、 一 人 で やった と 話して る んでしょ ?

私 が 共犯 だ と いう 証拠 でも あって ? と 言った 。

「── 刑事 さん 」

「 何 だ ね ?

「 ここ 、 この後 、 演劇 部 が 使う んです 。

早く あけて いただけ ませ ん ? 国友 は 、 ゆっくり 肯 いた 。

「 分 った 。

すぐに あける よ 」

「 よろしく 」

水口 恭子 は 一礼 して 、 静かに 歩み 去った 。

「 どうして ?

夕 里子 が 訊 いた 。

── 二 人 は 、 芝生 に 腰 を おろして いる 。 そろそろ 黄昏 時 で 、 文化 祭 の 一 日 目 も 終ろう と して いた 。

「 僕 が 神山 田 タカシ を ここ へ 招 んだ りし なきゃ 、 何も ──」

「 黙って 」

と 、 夕 里子 は 遮った 。

「 それ を 言い出したら 、 きり が ない わ 。 珠美 が あなた に 頼ま なきゃ 良かった んだ し 、 そもそも 、 お 姉さん が 幹事 を 引き受け なきゃ 良かった んだ もの 」

「 そう だ な 」

と 、 国友 は 、 ちょっと 笑った 。

「 でも 、 太田 さん が 助かった し 、 疑い も 晴れて 、 神山 田 タカシ は しばらく 入院 。

いい バランス じゃ ない ? 「 それ に 、 猫 も 助かった 」

と 、 国友 が 言った 。

「 あの 爆弾 を 仕掛けた の は 、 梨 山 な んでしょう ?

国友 は 肯 いて 、

「 作った の も 自分 だ と 言って た が 、 怪しい な 。

水口 恭子 が 作った んじゃ ない か と 思う んだ が 」

「 あの 先生 、 無器用 そうだ もの ね 」

と 夕 里子 は 微笑んだ 。

「 きっと 、 あの 本 も 水口 恭子 から 預 って 、 図書 館 に 返す つもり で 忘れて た の よ 。


三 姉妹 探偵 団 (2) Chapter 18 (1) みっ|しまい|たんてい|だん|chapter Three Sisters Detective Agency (2) Chapter 18 (1)

18  祭 は 終る さい||おわる

「 ご 機嫌 いかが ? |きげん|

いい わけ ない でしょ 。

── 夕 里子 は 、 そう 言い たい 気持 を こめて 、 大津 和子 を 見返して やった 。 ゆう|さとご|||いい||きもち|||おおつ|かずこ||みかえして|

「 そう にらま ないで 」

と 、 大津 和子 は 、 物置 に 入って 来る と 、 戸 を 閉めた 。 |おおつ|かずこ||ものおき||はいって|くる||と||しめた

「 あと 少し で 、 タカシ の コンサート が 始まる わ 。 |すこし||たかし||こんさーと||はじまる| ── うまく 行ったら 、 ここ へ 来て 、 出して あげる 」 |おこなったら|||きて|だして|

本当 かしら ね 。 ほんとう||

「 疑って る わ ね ? うたがって|||

── ま 、 無理 も ない けど 」 |むり|||

と 、 和子 は 笑って 、「 でも 、 あんた の こと 、 好きな の よ 、 私 。 |かずこ||わらって|||||すきな|||わたくし

だから 、 殺し たく ない の 」 |ころし|||

夕 里子 は ギクリと した 。 ゆう|さとご||ぎくりと|

「 ね ?

だ から 、 私 に 殺さ せ ないで ちょうだい 」 ||わたくし||ころさ|||

つまり 、 口 を つぐんで ろ 、 って こと ね 。 |くち||||||

「 あんた が 、 誰 に も 言わ ない 、 って 約束 して くれたら 、 私 、 信じて あげる 。 ||だれ|||いわ|||やくそく|||わたくし|しんじて|

本当 よ 」 ほんとう|

夕 里子 は 、 目 を そらした 。 ゆう|さとご||め||

夕 里子 も 、 こういう ところ で 、 噓 の つけ ない 人間 な のだ 。 ゆう|さとご|||||||||にんげん||

「── さて 、 それ じゃ 、 行って 来る わ 」 |||おこなって|くる|

と 、 和子 は 、 大きく 一 つ 深呼吸 を して 、「 うまく 行く ように 祈って て ね 」 |かずこ||おおきく|ひと||しんこきゅう||||いく||いのって||

失敗 する ように 、 祈って る わ 。 しっぱい|||いのって||

「 じゃ 、 もう 少し 我慢 して て 」 ||すこし|がまん||

大津 和子 が 出て 行く 。 おおつ|かずこ||でて|いく

夕 里子 は 、 もう 一 度 、 何とか して 縄 を ゆるめよう と 頑張った が 、 むだだった 。 ゆう|さとご|||ひと|たび|なんとか||なわ||||がんばった||

あの 大津 和子 、 縄 の 結び 方 は 心得て いる ようだ 。 |おおつ|かずこ|なわ||むすび|かた||こころえて||

夕 里子 は 諦めた 。 ゆう|さとご||あきらめた

きっと キャンパス は 、 大勢 の 人間 で 溢れ ん ばかりだろう 。 |きゃんぱす||おおぜい||にんげん||あふれ||

夕 里子 の 耳 に も 、 かすかに 、 音楽 や アナウンス が 聞こえて いる 。 ゆう|さとご||みみ||||おんがく||あなうんす||きこえて|

しかし 、 こんな 裏手 の 方 まで やって 来る 物好き は い ない ようだった 。 ||うらて||かた|||くる|ものずき||||

もし 、 近く に 誰 か が 来たら 、 思い切り 、 足 で 壁 を けって 、 音 を 立てて やろう と 思って いる のだ が 。 |ちかく||だれ|||きたら|おもいきり|あし||かべ|||おと||たてて|||おもって|||

どうやら 、 空しい 希望 に 終り そうだった 。 |むなしい|きぼう||おわり|そう だった

── 音楽 だ 。 おんがく|

それ も 、 ずっと 近く に 聞こえる 。 |||ちかく||きこえる

神山 田 タカシ の コンサート が 始まった のだろう 。 かみやま|た|たかし||こんさーと||はじまった|

講堂 だ から 、 そう きちっと 遮音 さ れて いる わけじゃ ない 。 こうどう|||||しゃおん||||| だから 、 かなり 、 音 が 洩 れて 来る のだ 。 ||おと||えい||くる|

── 大津 和子 は 、 いつ やる 気 だろう か ? おおつ|かずこ||||き||

最初に 一 曲 、 まず 、 ヒット した 歌 から 入る だろう 。 さいしょに|ひと|きょく||ひっと||うた||はいる|

歌って いる 間 は 、 動き回る から 、 何 か を 落す に も 、 狙い が 定まら ない 。 うたって||あいだ||うごきまわる||なん|||おとす|||ねらい||さだまら|

して みる と 、 危 いの は その後 、「 語り 」 に 入った とき だ 。 |||き|||そのご|かたり||はいった||

たいてい 、 客席 に 向 って 、 何 か を 話しかける とき は 、 マイク を 持って 、 小さな 椅子 に 腰 を かけたり 、 または 、 マイク スタンド に マイク を 置く 。 |きゃくせき||むかい||なん|||はなしかける|||まいく||もって|ちいさな|いす||こし||||まいく|すたんど||まいく||おく

つまり 、 位置 が 、 固定 さ れる と いう こと である 。 |いち||こてい||||||

それ こそ 、「 狙い 時 」 だ 。 ||ねらい|じ|

歌 が 続いて いる 。 うた||つづいて|

── タカシ の 声 も 、 かなり 聞こえる 。 たかし||こえ|||きこえる

お世辞 に も 、 上手い と は 言え ない 歌 だ が 、 それ でも 、 一応 何 を 歌って いる か は 分 る 。 おせじ|||うまい|||いえ||うた|||||いちおう|なん||うたって||||ぶん|

夕 里子 も 聞いた こと の ある 、 二 年 くらい 前 の 曲 だろう 。 ゆう|さとご||きいた||||ふた|とし||ぜん||きょく|

あれ が 終ったら ……。 ||しまったら

突然 、 物置 の 戸 が ガタガタ と 音 を たてて 、 開いた 。 とつぜん|ものおき||と||がたがた||おと|||あいた

── 大津 和子 が 戻って 来た の か ? おおつ|かずこ||もどって|きた||

「 お 姉ちゃん ! |ねえちゃん

何 してん の 、 こんな 所 で 」 なん||||しょ|

珠美 が 立って いた 。 たまみ||たって|

まず 口 に 詰めた 布 を 取って もらう 。 |くち||つめた|ぬの||とって|

「── 助かった ! たすかった

早く 、 縄 を といて ! はやく|なわ|| 「 え ?

ああ 、 ちょっと 待って よ 」 ||まって|

「 早く ! はやく

── 急いで よ ! いそいで| 「 そんなに 急か さ ないで 。 |せか||

私 、 こういう の 苦手な んだ もん 。 わたくし|||にがてな|| 固く 結んで ある なあ 」 かたく|むすんで||

「 ほら 、 早く ! |はやく

五千 円 出す から ! ごせん|えん|だす| 珠美 は 、 無言 で 結び目 に 取り組んだ 。 たまみ||むごん||むすびめ||とりくんだ

「── やった !

「 足 の 方 も 。 あし||かた|

手 が しびれて 、 よく 動か ない の よ 」 て||||うごか|||

「 別 料金 ? べつ|りょうきん

「 珠美 ! たまみ

「 は いはい 。

── 助けて やった のに 、 少し は 感謝 し な よ 。 たすけて|||すこし||かんしゃ||| ここ から 、 誰 か が 出て 行く の を 見た の 。 ||だれ|||でて|いく|||みた| 変だ な 、 と 思って 来て みた の よ 」 へんだ|||おもって|きて|||

足 の 方 は 、 何とか 早く とけた 。 あし||かた||なんとか|はやく|

「── 立た せて ! たた|

足 が …… 言う こと 聞か ない の よ 」 あし||いう||きか|||

「 どうして こんな こと に なった の ?

「 ともかく ── 危 いの よ 、 神山 田 タカシ が 」 |き|||かみやま|た|たかし|

「 ええ ?

夕 里子 は 、 外 へ 出て 、 まぶし さ に 目 を 細く した 。 ゆう|さとご||がい||でて||||め||ほそく|

そして 、 ハッと した 。 |はっと|

── 曲 が 、 終って いる 。 きょく||しまって|

「 危 いわ ! き|

夕 里子 は 、 講堂 の 方 へ と 駆け出した ── つもりだった が 、 足 が もつれて 、 転び そうに なる 。 ゆう|さとご||こうどう||かた|||かけだした|||あし|||ころび|そう に|

「 大丈夫 ? だいじょうぶ

「 いい から 、 支えて ! ||ささえて

早く 、 早く ! はやく|はやく ワーッ と 拍手 して いる 音 が する 。 ||はくしゅ|||おと||

夕 里子 は 、 裏手 の 扉 から 中 へ 入った 。 ゆう|さとご||うらて||とびら||なか||はいった

大分 、 足 に 感覚 が 戻って 来て いる 。 だいぶ|あし||かんかく||もどって|きて|

目の前 に 、 ステージ の 上 に 出る 、 階段 が あった 。 めのまえ||すてーじ||うえ||でる|かいだん||

「 皆さん 、 今日 は 」 みなさん|きょう|

タカシ の 声 が 響いて いる 。 たかし||こえ||ひびいて|

夕 里子 は 、 階段 を 上り 始めた 。 ゆう|さとご||かいだん||のぼり|はじめた

── 間に合い ます ように ! まにあい||

「 こんなに 大勢 の 女の子 、 見る の 、 久しぶりだ な 」 |おおぜい||おんなのこ|みる||ひさしぶりだ|

と タカシ が しゃべって いる 。 |たかし|||

「 何しろ 、 ここん とこ 、 落ち目 で もて ない もん だ から ……」 なにしろ|||おちめ||||||

ワッ と 笑い声 が 響く 。 ||わらいごえ||ひびく

もう 少し 、── もう 少し だ 。 |すこし||すこし|

「 僕 も まだ 若い んです が 、 ともかく 最近 の 新人 なんて 、 十四 と か 十五 と か ね 。 ぼく|||わかい||||さいきん||しんじん||じゅうよん|||じゅうご|||

中 に ゃ 十三 なんて ……。 なか|||じゅうさん| 中学 一 年 です よ 。 ちゅうがく|ひと|とし|| まだ ガキ だ よ ね 」 |がき|||

夕 里子 は 、 やっと 上 に 上った 。 ゆう|さとご|||うえ||のぼった

狭い 通路 が 、 ステージ の 上 に 伸びて いる 。 せまい|つうろ||すてーじ||うえ||のびて|

暗くて よく 見え ない が ……。 くらくて||みえ||

あそこ だ 。 たぶん 、 あそこ に いる の が ……。

夕 里子 は 、 ステージ の 遥か 上 を 、 進み 始めた 。 ゆう|さとご||すてーじ||はるか|うえ||すすみ|はじめた

「 僕 なんか もう 年寄り 扱い です よ 。 ぼく|||としより|あつかい||

ベテラン 、 なんて 言わ れる から ね 。 べてらん||いわ||| これ は 、 お 年 です ね 、 って 意味 な んだ 」 |||とし||||いみ||

夕 里子 は 、 近づいて 行った 。 ゆう|さとご||ちかづいて|おこなった

大津 和子 が 、 じっと 下 を うかがって いる 。 おおつ|かずこ|||した|||

タカシ の 声 が 響く ので 、 夕 里子 の 足音 に 気付か ない のだ 。 たかし||こえ||ひびく||ゆう|さとご||あしおと||きづか||

「 ともかく ね 、 歌手 なんか に 憧れる 人 が いたら 、 やめ といた 方 が いい です よ 。 ||かしゅ|||あこがれる|じん|||||かた||||

一 年 くらい ヒット が ない と 、 もう 〈 懐 し の メロディ 〉 から お呼び が かかる んだ から 」 ひと|とし||ひっと|||||ふところ|||めろでぃ||および||||

客 が ドッと 笑った 。 きゃく||どっと|わらった

あと 五 メートル くらい の 所 で 、 ハッと 大津 和子 が 振り向いた 。 |いつ|めーとる|||しょ||はっと|おおつ|かずこ||ふりむいた

「 やめ なさい !

と 夕 里子 は 叫んで 駆け寄った 。 |ゆう|さとご||さけんで|かけよった

「 邪魔 し ないで ! じゃま||

大津 和子 が 夕 里子 を 押し 返す 。 おおつ|かずこ||ゆう|さとご||おし|かえす

その 拍子 に 、 ネジ を ゆるめて あった ライト が 、 グラッ と 揺れた 。 |ひょうし||ねじ||||らいと||||ゆれた

ネジ が 飛ぶ 。 ねじ||とぶ

上 の 騒ぎ に 気付いた タカシ が 、 少し 退 が って 見上げた 。 うえ||さわぎ||きづいた|たかし||すこし|しりぞ|||みあげた

重い ライト が 、 真 直ぐに 、 たった今 まで タカシ の 立って いた 場所 に 落ちた 。 おもい|らいと||まこと|すぐに|たったいま||たかし||たって||ばしょ||おちた

ガラス が 砕ける 。 がらす||くだける

ワーッ と いう どよめき 。

「 邪魔 した わ ね ! じゃま|||

と 、 大津 和子 が 、 夕 里子 に つかみ かかった 。 |おおつ|かずこ||ゆう|さとご|||

退 がろう と して 、 夕 里子 の 足 は 、 まだ 少し しびれた まま だった ので 、 もつれて 、 引っくり返った 。 しりぞ||||ゆう|さとご||あし|||すこし||||||ひっくりかえった

和子 の 体 が 泳いだ 。 かずこ||からだ||およいだ

「 危 い ! き|

と 、 夕 里子 は 叫んだ 。 |ゆう|さとご||さけんだ

声 も 上げ ず に 、 和子 は 、 ステージ へ と 落ちて 行った 。 こえ||あげ|||かずこ||すてーじ|||おちて|おこなった

「 大変な コンサート に なった わ 」 たいへんな|こんさーと|||

と 、 綾子 は ため息 を ついた 。 |あやこ||ためいき||

「 お 姉さん の せい じゃ ない よ 」 |ねえさん|||||

と 、 夕 里子 は 言った 。 |ゆう|さとご||いった

「 だけど ……」

綾子 の 方 は 、 冴え ない 顔 だった 。 あやこ||かた||さえ||かお|

講堂 の 中 は 、 ガランと して いた 。 こうどう||なか||がらんと||

もちろん 、 客 は い ない 。 |きゃく|||

「 みんな 、 コンサート 見る より 、 よっぽど 面白がって た みたい 」 |こんさーと|みる|||おもしろがって||

と 、 珠美 が 言った 。 |たまみ||いった

「 珠美 ったら ! たまみ|

夕 里子 は 、 ちょっと にらんだ 。 ゆう|さとご|||

舞台 の 上 に 、 二 人 、 横 に なって 、 救急 車 を 待って いた 。 ぶたい||うえ||ふた|じん|よこ|||きゅうきゅう|くるま||まって|

大津 和子 と 、 神山 田 タカシ である 。 おおつ|かずこ||かみやま|た|たかし|

ポカン と 上 を 見て いた 神山 田 タカシ の 真 上 に 、 和子 が 落下 した のだった 。 ||うえ||みて||かみやま|た|たかし||まこと|うえ||かずこ||らっか||

おかげ で 和子 の 方 は 命拾い を して 、 腕 を 骨折 した だけ の ようだった 。 ||かずこ||かた||いのちびろい|||うで||こっせつ||||

タカシ の 方 が 、 あちこち ひどく 打って 苦し そうだ 。 たかし||かた||||うって|にがし|そう だ

「 畜生 ……」 ちくしょう

タカシ が 呻いた 。 たかし||うめいた

「 自業自得 よ 」 じごうじとく|

と 、 和子 が 言った 。 |かずこ||いった

「 一 つ 、 知らせる こと が ある 」 ひと||しらせる|||

と 、 国友 が 和子 の そば へ 行って 、 言った 。 |くにとも||かずこ||||おこなって|いった

「 何 です か ? なん||

「 梨 山 教授 が 逮捕 さ れた 」 なし|やま|きょうじゅ||たいほ||

和子 は 、 ちょっと 間 を 置いて 、 かずこ|||あいだ||おいて

「 そう です か 」

と だけ 言った 。 ||いった

「 太田 さん は 無事だった ? おおた|||ぶじだった

と 、 夕 里子 が 訊 いた 。 |ゆう|さとご||じん|

「 うん 。

医者 に 化けて 病室 へ 入ろう と した ところ を 、 私服 の 刑事 に 捕まった んだ 」 いしゃ||ばけて|びょうしつ||はいろう|||||しふく||けいじ||つかまった|

和子 が 、 ちょっと 笑った 。 かずこ|||わらった

「 ドジ な んだ から 、 本当に 」 ||||ほんとうに

夕 里子 は 、 和子 の 傍 に しゃがみ込んだ 。 ゆう|さとご||かずこ||そば||しゃがみこんだ

「── 梨 山 教授 は あなた の お 父さん な んでしょう ? なし|やま|きょうじゅ|||||とうさん||

あなた と 二 人 で 、 今度 の 事件 を 計画 した の ? ||ふた|じん||こんど||じけん||けいかく|| 「 いや 、 一 人 で やった 、 と 梨 山 は 言って る らしい よ 」 |ひと|じん||||なし|やま||いって|||

と 、 国友 が 言った 。 |くにとも||いった

「 父 の 考えて る こと は 、 見当 ついて た けど ね 」 ちち||かんがえて||||けんとう|||| "I have found out what my father thinks,"

と 、 和子 は 言った 。 |かずこ||いった

「 ただ 、 私 の 目的 は 、 タカシ に 仕返し する こと だけ だった から 何も 言わ なかった の 」 |わたくし||もくてき||たかし||しかえし||||||なにも|いわ||

「 梨 山 は 、 奥さん を 殺した こと を 認めた よ 」 なし|やま||おくさん||ころした|||みとめた|

と 、 国友 は 言った 。 |くにとも||いった

「 でも 、 あなた 、 あの 晩 、 大学 に いた じゃ ない の 」 |||ばん|だいがく|||||

と 、 綾子 は 言った 。 |あやこ||いった

「 あの ガードマン さん に 、 睡眠 薬 を 飲ま せる の が 仕事 だった の 。 |がーどまん|||すいみん|くすり||のま||||しごと||

私 が 行けば 、 彼 も 怪しま ない わ 」 わたくし||いけば|かれ||あやしま||

「 じゃ 、 お茶 でも 飲んで ? |おちゃ||のんで

「 そう 、 彼 の お茶 に 薬 を 入れた わ 。 |かれ||おちゃ||くすり||いれた|

── その後 、 どう する つもりだった の か は 知ら ない 」 そのご|||||||しら| ── After that, I do not know what I was going to do. "

「 あの 後 、 私 を 狙った の は 、 どうして ? |あと|わたくし||ねらった|||

と 、 綾子 が 訊 いた 。 |あやこ||じん|

「 私 は ね 、 もう 一 つ 、 父 の アリバイ を 証言 する はずだった の 」 わたくし||||ひと||ちち||ありばい||しょうげん|||

と 、 和子 は 言った 。 |かずこ||いった

「 もちろん 、 一 人 で いた 、 と 言って 、 通れば いい けど 、 もし 疑わ れる ように なったら 、 実は 、 学生 の 一 人 とい ました 、 って こと に なる はずだった の よ 。 |ひと|じん||||いって|とおれば||||うたがわ||||じつは|がくせい||ひと|じん||||||||| "Of course, you should say that you were alone, but if you were to be suspected it was supposed to be one of the students, actually. それ なら 、 隠して いた の も 納得 して もらえる でしょ 」 ||かくして||||なっとく||| In that case, you can be convinced that you were hiding. "

「 ああ 、 ところが 、 お 姉さん に 見 られちゃ った わけだ 」 |||ねえさん||み||| "Oh, but it was seen by your older sister"

と 、 夕 里子 は 肯 いた 。 |ゆう|さとご||こう|

「 そう 。

それ を 聞いて 、 私 、 急いで 父 に 知らせ に 行った の 。 ||きいて|わたくし|いそいで|ちち||しらせ||おこなった| Listening to it, I went to inform the father in a hurry. ところが 父 は 、 もともと 気 が 弱い し 、 しかも 、 この 刑事 さん に 、 あれこれ 訊 かれた ばかりで 、 ビクビク して いた の ね 。 |ちち|||き||よわい||||けいじ||||じん|||びくびく|||| However, my father was initially disgusted, and moreover, I was just being asked about this criminal, and I was excited. だから 、 見境 も なく 、 鉄 アレイ を 持ち出して 、 あなた を ……。 |みさかい|||くろがね|||もちだして|| So, there is no fear of taking out the iron array and you ... .... 失敗 する と 、 今度 は その とき に 、 顔 を 見 られた ような 気 が する 、 と いって 、 また つけ狙った の よ 」 しっぱい|||こんど|||||かお||み|||き||||||つけねらった|| When I made a mistake, this time I felt like I saw a face at that time, I just wanted to do it again. "

「 でも 、 むだだった わ 」 "But it was useless,"

「 そう ね 。

── あなた たち 姉妹 って 、 きっと 幸運の 女神 が ついて る んじゃ ない ? ||しまい|||こううんの|めがみ||||| 「 人 に 憎ま れる ような こと を し ない から よ 」 じん||にくま||||||||

と 、 綾子 が 力強く 言った 。 |あやこ||ちからづよく|いった

「 でも ── 残念だ わ 。 |ざんねんだ| 子 猫 の かたき を 取り たかった のに ! こ|ねこ||||とり|| 「 だけど ……」

と 、 夕 里子 は 言った 。 |ゆう|さとご||いった

「 なぜ 、 梨 山 先生 は 奥さん を 殺した の ? |なし|やま|せんせい||おくさん||ころした| 理由 が ある はずだ わ 」 りゆう||||

「 そりゃ 、 決 って る じゃ ない 」 |けっ||||

と 、 和子 は 言った 。 |かずこ||いった

「 あそこ に 立って る 人 の ため よ 」 ||たって||じん|||

みんな 、 和子 の 指さす 方 を 振り向いた 。 |かずこ||ゆびさす|かた||ふりむいた

水口 恭子 が 、 静かに 立って いた 。 みずぐち|きょうこ||しずかに|たって|

「 父 に 、 あんな こと 計画 する 度胸 、 ない わ 」 ちち||||けいかく||どきょう||

と 、 和子 は 言った 。 |かずこ||いった

「 妻 は 財産 家 で 、 それ も 失い たく なかった 。 つま||ざいさん|いえ||||うしない|| ── 水口 さん は 、 父 を 思い通りに 操って いた んだ わ 」 みずぐち|||ちち||おもいどおりに|あやつって|||

そう か 、 と 夕 里子 は 肯 いた 。 |||ゆう|さとご||こう|

黒木 が 死んだ とき 、 水口 恭子 は 、 外 に 出て いた 。 くろき||しんだ||みずぐち|きょうこ||がい||でて|

太田 が あわてて 飛び出して 来る の を 目 に 止め 、 梨 山 に 話した の に 違いない 。 おおた|||とびだして|くる|||め||とどめ|なし|やま||はなした|||ちがいない

これ こそ 、 絶好 の チャンス だ 、 と 。 ||ぜっこう||ちゃんす||

「── 何の お 話 かしら 」 なんの||はなし|

水口 恭子 は 、 ゆっくり と 歩いて 来た 。 みずぐち|きょうこ||||あるいて|きた

「 父 は 捕まった の よ 。 ちち||つかまった||

あなた も 諦め なさい 」 ||あきらめ|

「 私 は 何も 知ら なかった わ 。 わたくし||なにも|しら||

── 関係 が あった こと は 認める けど 」 かんけい|||||みとめる|

「 噓 つき !

と 、 和子 が 吐き出す ように 言った 。 |かずこ||はきだす||いった

水口 恭子 は 、 冷ややかに 、 和子 を 見下ろして 、 みずぐち|きょうこ||ひややかに|かずこ||みおろして

「 梨 山 先生 は 、 一 人 で やった と 話して る んでしょ ? なし|やま|せんせい||ひと|じん||||はなして||

私 が 共犯 だ と いう 証拠 でも あって ? わたくし||きょうはん||||しょうこ|| と 言った 。 |いった

「── 刑事 さん 」 けいじ|

「 何 だ ね ? なん||

「 ここ 、 この後 、 演劇 部 が 使う んです 。 |このあと|えんげき|ぶ||つかう|

早く あけて いただけ ませ ん ? はやく|||| 国友 は 、 ゆっくり 肯 いた 。 くにとも|||こう|

「 分 った 。 ぶん|

すぐに あける よ 」

「 よろしく 」

水口 恭子 は 一礼 して 、 静かに 歩み 去った 。 みずぐち|きょうこ||いちれい||しずかに|あゆみ|さった

「 どうして ?

夕 里子 が 訊 いた 。 ゆう|さとご||じん|

── 二 人 は 、 芝生 に 腰 を おろして いる 。 ふた|じん||しばふ||こし||| そろそろ 黄昏 時 で 、 文化 祭 の 一 日 目 も 終ろう と して いた 。 |たそがれ|じ||ぶんか|さい||ひと|ひ|め||おわろう|||

「 僕 が 神山 田 タカシ を ここ へ 招 んだ りし なきゃ 、 何も ──」 ぼく||かみやま|た|たかし||||まね||||なにも

「 黙って 」 だまって

と 、 夕 里子 は 遮った 。 |ゆう|さとご||さえぎった

「 それ を 言い出したら 、 きり が ない わ 。 ||いいだしたら|||| 珠美 が あなた に 頼ま なきゃ 良かった んだ し 、 そもそも 、 お 姉さん が 幹事 を 引き受け なきゃ 良かった んだ もの 」 たまみ||||たのま||よかった|||||ねえさん||かんじ||ひきうけ||よかった||

「 そう だ な 」

と 、 国友 は 、 ちょっと 笑った 。 |くにとも|||わらった

「 でも 、 太田 さん が 助かった し 、 疑い も 晴れて 、 神山 田 タカシ は しばらく 入院 。 |おおた|||たすかった||うたがい||はれて|かみやま|た|たかし|||にゅういん

いい バランス じゃ ない ? |ばらんす|| 「 それ に 、 猫 も 助かった 」 ||ねこ||たすかった

と 、 国友 が 言った 。 |くにとも||いった

「 あの 爆弾 を 仕掛けた の は 、 梨 山 な んでしょう ? |ばくだん||しかけた|||なし|やま||

国友 は 肯 いて 、 くにとも||こう|

「 作った の も 自分 だ と 言って た が 、 怪しい な 。 つくった|||じぶん|||いって|||あやしい|

水口 恭子 が 作った んじゃ ない か と 思う んだ が 」 みずぐち|きょうこ||つくった|||||おもう||

「 あの 先生 、 無器用 そうだ もの ね 」 |せんせい|ぶきよう|そう だ||

と 夕 里子 は 微笑んだ 。 |ゆう|さとご||ほおえんだ

「 きっと 、 あの 本 も 水口 恭子 から 預 って 、 図書 館 に 返す つもり で 忘れて た の よ 。 ||ほん||みずぐち|きょうこ||よ||としょ|かん||かえす|||わすれて|||