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三姉妹探偵団 2 キャンパス篇, 三姉妹探偵団(2) Chapter 13 (1)

三 姉妹 探偵 団 (2) Chapter 13 (1)

13 狙わ れた 小 犬

「 僕 は ハンバーグ に しよう 」

「 私 、 エビ フライ 」

「 私 、 オムレツ 」

「 私 、 サーロインステーキ 」

最後に 注文 した の は 、 もちろん 珠美 である 。

一 番 高い もの を 頼む 主義 な のだ 。

もちろん 、 他人 の 財布 で 払う とき に 限る けれど 。

ただ 、 この 場合 、 財布 の 持主 が 国友 だった ので 、 中身 の 方 は たかが 知れて いる ── と いって は 当人 に 申し訳ない 。

しかし 、 国友 と して は 、

「 何でも 好きな もの を 食べて くれよ 」

と 言った 手前 、 ギョッ と した 顔 も でき ない 。

それ でも 、 至って 平凡な ファミリー レストラン だ から 、 一 番 高い ステーキ と いって も 、 大した こと は ない 。

急いで 頭 の 中 で 計算 を して 、 ホッと した のだった 。

「 珠美 」

と 、 エビ フライ を 注文 した 夕 里子 が 言った 。

「 そんなに 高い もの 、 頼む もん じゃ ない わ よ 」

「 いや 、 大丈夫だ よ 、 それ くらい は 」

と 、 国友 は 平静 を 装って 、 笑った 。

「 明日 に なったら 、 もう 文化 祭 は 明日 な の ね 」

と 、 綾子 が 、 ややこしい こと を 言い出す 。

「 つまり 、 あさって 、 でしょ 」

珠美 が 、 メニュー を ウエイトレス に 返し ながら 、 言った 。

「 無事に 終って ほしい わ ね 」

と 、 夕 里子 は 言った 。

「 もちろん 、 それ まで に 事件 が 解決 しちゃ う の が 、 理想 的だ けども 」

「 正直な ところ 、 むずかしい ね 」

と 、 国友 は 首 を 振った 。

「 事件 の 全体 像 さえ 、 よく つかめて い ない んだ から 」

「 でも 、 事件 と いえる の は 、 黒木 が 殺さ れた こと と 、 梨 山 教授 の 奥さん が 殺さ れた こと 。

その 二 つ でしょ ? 「 夕 里子 ったら 、 肝心の こと 、 忘れて る わ よ 」

「 何の こと ?

「 神 山田 タカシ が 、 三 年 前 に 茂子 さん に 乱暴 した こと !

綾子 は 、 珍しく 強い 口調 で 言った 。

「 私 は 、 それ が 一 番 許せ ない 。 人 の 弱 味 に つけ込む なんて 」

「 そもそも の 発端 が そこ に あった の は 、 事実 だ ね 」

と 国友 が 肯 く 。

「 問題 は 、 黒木 殺し と 、 その 三 年 前 の 一 件 が 、 果して 関連 して いる の か どう か 、 って こと だ 」

「 でも 偶然に して は ──」

「 いや 、 太田 と 石原 茂子 が 恋人 同士 に なって 、 太田 が あの 大学 で 働く ように なった の は 、 偶然 と は いえ ない 。

偶然 と いえば 、 文化 祭 で 神山 田 タカシ が 、 あの 大学 に やって 来た こと だけ だ 、 それ くらい の こと は 、 大いに あり 得る よ 」

「 でも 、 それ なら 、 なぜ 黒木 を 殺した の かしら ?

まず 神 山田 タカシ を 殺し そうな もの じゃ ない 」

「 一 番 の ワル は 、 最後に 取 っと くって こと も ある よ 」

と 、 珠美 が 言った 。

「 だって 、 三 年 前 の とき 、 黒木 も そこ に いた わけでしょ ? 「 そう ね 。

三 人 いたって こと だ から ──」

と 、 夕 里子 は 言い かけて 、「 そう だ わ !

」 と 、 声 を 上げた 。

「 どう した んだ ね ?

「 三 人 いた の よ 。

神山 田 タカシ と 、 黒木 と 、 もう 一 人 」

「 うん 、 そう だった な 」

「 もし 、 その もう 一 人 が 、 何 か 関 って る と したら ?

「 しかし 、 石原 茂子 は 憶 えて い ない 、 と 言って たな 」

「 茂子 さん が 憶 えて い なくて も 、 向 う が 憶 え てる かも しれ ない わ 」

「 そう だ な 。

なるほど ……」

国友 は 考え込んだ 。

「 よし 、 一 つ 、 神山 田 タカシ に 会って みよう 。 一緒に いた の が 誰 か 、 憶 え てる だろう 」

「 でも 、 黒木 が 殺さ れた の は 、 茂子 さん の こと と 、 無関係 かも しれ ない でしょう ?

と 、 珠美 が 言った 。

「 それ は そう よ 。

ともかく 、 黒木 の 奥さん は 神山 田 タカシ と 浮気 して た わけだ もの ね 」

「 しかし 、 黒木 が なぜ 、 大学 の 中 で ── 講堂 で 殺さ れた の か 、 疑問 だ な 」

と 、 国友 は 言った 。

「 単に 、 黒木 が 個人 的な 原因 で 殺さ れた の なら 、 何も 大学 の 中 である 必要 は ない わけだ ろ 」

「 でも 、 あの ハンマー を 落とす の は 、 特に 力 の ない 女性 だって 、 できた わ 」

と 、 夕 里子 が 言った 。

「 待って よ 」

と 、 珠美 が 言った 。

「 あんな 講堂 の 天井 に 上って 、 物 を 落として 殺す なんて 、 大学 に 関係 の ない 人 に でき っこ ない わ 」

「 それ も そう ね 」

夕 里子 は 肯 いた 。

「 あんた 、 結構 いい こと 言う じゃ ない 」

「 いくら くれる ?

「 それ が なきゃ 、 いい 子 な んだ けど ね 」

「 無欲な 私 なんて 、 私 じゃ ない わ よ 」

と 、 珠美 は 言った 。

「── あ 、 スープ が 来た 」

カップ スープ が 運ば れて 来て 、 みんな 、 少し の 間 、 熱い スープ に 取り組み 、 静かに なって いた 。

「── つまり 」

と 、 国友 が 紙 ナプキン で 口 を 拭って 、 言った 。

「 犯人 は 大学 内部 の 人間 、 と いう こと だ 。 それでいて 黒木 を 殺す 動機 を 持って る と する と ……」

「 やっぱり 茂子 さん か 太田 さん って 線 が 濃厚 よ 」

と 、 夕 里子 は 言った 。

「 では 、 爆弾 事件 は ?

「 何 だ っけ ?

── ああ 、 ドア が 壊れた とき ね 」

と 、 綾子 が 言った 。

「 お 姉さん たら 、 自分 が 狙わ れた って いう のに 」

「 そんな の 、 分 ら ない じゃ ない 。

だって 、 私 が 狙わ れる 理由 が ない わ 」

夕 里子 は 、 何も 言わ ない こと に した 。

言って も むだだ から である 。

「 そう だ 、 あの こと 、 言う の 忘れて た 」

「 何 だい ?

「 梨 山 教授 の 部屋 に 行った とき 、 本棚 に 変な 本 を 見付けた の 」

「 変な 本 ?

「 そう 。

──『 火薬 の 話 』 って いう タイトル の ね 」

「 火薬 の 話 か 。

── そい つ は 面白い ね 。 梨 山 教授 に 当って みよう 」

と 、 国友 は 肯 いた 。

「 でも 、 梨 山 先生 が 爆弾 なんて 作る ?

と 、 綾子 は 言った 。

「 お 姉さん は 黙って なさい 」

夕 里子 に 言わ れて 、 綾子 は プーッ と ふくれて 、 スープ を 飲んだ 。

猫舌 な ので 、 熱い の は だめな のである 。

「 そうそう 、 もう 一 つ ある わ 」

と 、 夕 里子 が 言った 。

「 梨 山 教授 の 所 に 行った とき 、 誰 か が 凄い 勢い で 階段 を 駆け 降りて 来た の 」

「 ほう 」

「 もちろん 、 教授 の 部屋 から 来た と は 限ら ない けれど 、 でも 、 万が一 って こと も ある でしょう ?

「 どんな 奴 だった ?

「 コート を 着た 女 ── に 見えた わ 、 私 に は 」

「 顔 は ?

「 全然 分 ら なかった 。

コート の 女 、 って いう の も 、 あくまで 印象 な の 」

「 ふむ ……」

国友 は 肯 いて 、「 その とき 、 梨 山 教授 は 、 例の 大津 和子 を 膝 に のっけて た わけだ ね 」

「 そう 。

もし 誰 か が 、 教授 の 部屋 を 覗いて 、 あの 光景 に ショック を 受けた と したら ──」

「 逃げる ように 駆けて 行った の も 、 分 ら ない じゃ ない ね 」

「 でも 、 誰 が ?

夕 里子 は 首 を 振った 。

「 分 ら ない わ 。

水口 さん と か ……」

「 まさか 」

と 、 綾子 が 言った 。

「 それ なら 、 分 る んじゃ ない ? 「 あの 勢い で 走って 来たら 、 分 ら ない わ よ 」

「 それ は ともかく ──」

と 、 国友 が 言った 。

「 大津 和子 が 、 そこ から 絡んで 来る わけだ な 」

「 そう いえば 、 捜して た んでしょ ?

見付かった の ? と 、 珠美 が 言った 。

「 いや 、 住んで いる アパート に は 戻って い ない んだ 」

「 一 人 住い ?

「 二 人 だ 。

その 同室 の 女の子 の 話 じゃ 、 外泊 は 年中 って こと だった が ね 」

「 乱れて ん の ね 」

と 、 珠美 は 感心 した ように 言って 、「 あの 、 ホテル で 裸 を 見せて た 人 でしょ ?

「 珠美 !

と 、 綾子 が 頰 を 赤らめた 。

「 そんな 、 はしたない こと 言って ! 「 そんな 古い こと 言って 」

と 、 やり返す 。

「 よし なさい よ 」

と 、 夕 里子 が 渋い 顔 で 言った 。

「 ともかく 、 大津 和子 が 何 か を 知っている 可能 性 は ある わけだ 」

「 と いう こと は 、 危険 も ある って こと ね 」

「 夕 里子 ったら 、 もう 少し 、 いい こと を 考え られ ない の ?

綾子 は 、 いささか くたびれた 様子 で 、 言った 。

「── その後 は 、 例の 梨 山 夫人 の 殺害 事件 に なる わけだ 。 これ に も 太田 と 石原 茂子 が 関 って 来る 」

「 そう ね 。

ただ 、 事情 は 、 あくまで 茂子 さん 自身 の 話 で しか 知ら ない わけな の よ 」

夕 里子 は 、 やっと スープ カップ を 空 に した 。

「 茂子 さん は 噓 を つく 人 じゃ ない わ 」

と 、 綾子 が 主張 した 。

「 私 、 よく 分 って る んだ から ! 「 ともかく 、 梨 山 教授 の 夫人 が 殺さ れて 、 そこ に 茂子 さん が いた 。

それ だけ が 、 客観 的な 事実 よ 」

「 そして 、 太田 が 首 を 吊 った 」

「 そんな 人 じゃ ない わ 」

と 、 綾子 が 言った 。

「── 何 が ?

夕 里子 が 訊 く 。

「 え ?

「 そんな 人 じゃ ない って ……」

「 ああ 。

茂子 さん の こと 」

「 その 話 、 もう 済んだ の よ 」

「 いい でしょ 、 済んだ って 」

綾子 は 、 およそ 理論 的な 人間 で は ない のである 。

しかし 、 夕 里子 は 、 一瞬 ハッと した のだった 。

そんな 人 じゃ ない 、 か 。

── そう 。

太田 が 、 本当に 梨 山 夫人 を 殺した と して も 、 その 罪 を 茂子 に 着せて 逃げる と いう の は 、 どうも ピンと 来 ない 。

それ に 、 どうせ 首 を 吊る の なら 、 なぜ もっと 早く し なかった のだろう ?

綾子 が 、 茂子 から の 電話 で 大学 へ 出かけて 行って 、 中 へ 入り 、 学生 部 の 会議 室 で 死体 を 見付ける 。

そして 、 パトカー が 来て ……。

それ から 夕 里子 たち は 、 宿直 室 へ と 向 った のだった 。

つまり 、 ずいぶん 時間 が たって いる 。

そこ で 太田 が 首 を 吊 り 、 しかも 、 助かった と いう こと は ── もちろん その こと 自体 は 、 良かった のだ が ── 太田 は 発見 さ れる ように 、 首 を 吊 った の かも しれ ない 。

もちろん 、 それ に して は 、 命 を 危うく して いる のだ が ……。

もし ── 太田 が 自分 で 首 を 吊 った ので は なく 、 誰 か に 、 自殺 と 見せかけて 殺さ れ そうに なった のだ と したら ?

そして 、 危うく 命拾い を した 。

そう 考えた 方 が 、 筋 が 通る 。

いや 、 夕 里子 自身 、 太田 が 自殺 を 図った こと に 、 釈然と し ない もの を 、 感じて いた のだろう 。

だから 、 こんな こと を 考えついたり する のだ 。

「── どうかした の ?

と 、 珠美 が 言った 。

「 冷める わ よ 。 ご飯 が 」

「 え ?

── ああ 」

と 、 夕 里子 は 我 に 返って 言った 。

いつの間にか 、 エビ フライ が 来て いた のである 。

「── 梨 山 敏子 殺し は 、 果して 黒木 の 一 件 と 関係 が ある の か 。

それ も 大きな 問題 だ な 」

国友 は ハンバーグ に ナイフ を 入れた 。

「 二 つ を つないで いる の は 、 今 の ところ 、 やっぱり 石原 茂子 と 太田 さん ね 」

と 、 夕 里子 は 言った 。

「 そう な んだ 。

僕 も 、 あの 二 人 を 疑い たく は ない んだ けど 、 どうも 、 表 に 出て 来て しまう から ね 」

「 ジャーン !

ついに 登場 」

と 、 珠美 が 言った 。

「 珠美 、 ステーキ が 来た から って 、 そんなに 大げさに 騒が ないで よ 」

と 、 夕 里子 は 顔 を しかめた 。

「 失礼 ねえ 。

誰 が ステーキ の こと なんか 言った ? 「 じゃ 、 何 が 登場 な の ?

「 綾子 姉ちゃん 殺害 未遂 よ 。

決 って んじゃ ない の 」

「 何だか 、 期待 して る みたい ね 」

「 あ 、 すねて る 」

と 、 珠美 が からかう 。

「 すねて なんかいな いわ 」

と 、 綾子 は 憤然 と して 、「 あれ は 何 か の 間違い よ 」

「 は いはい 」

と 、 夕 里子 は 子供 を なだめる ように 、 言った 。

「 お 姉さん は オムレツ を 食べて れば いい の よ 」

「 離乳 食 ね 」

と 、 珠美 が 言う と 、 綾子 は ムッと した ような 顔 で 、 黙り 込んだ 。

もっとも 、 ここ から 先 、 四 人 と も 、 長い 沈黙 が 続いた 。

もちろん 、 食べる こと に 専念 して いた のである 。

「 いや 、 これ ぐらい 、 礼 を 言わ れる ほど の こと じゃ ない よ 」

レジ の 所 で 、 国友 は 、 支払い を し ながら 、 次の 給料 まで 、 一 日 いくら で やっていけば いい の か な 、 と 考えて いた 。

店 を 出る と 、 そこ は 駐車 場 に なって いる 。

ほとんど が マイカー 族 な ので 、 駐車 場 も 、 かなり スペース が 広い 。

夜 、 少し 遅 目 だった が 、 駐車 場 も 店 も 、 ほぼ 一杯に 埋って いた 。

綾子 は 一 番 先 に 店 を 出た 。

外 の 冷たい 空気 に も 当り たかった のである 。

ともかく 、 店 の 中 は ひどく 暑かった から ……。

夕 里子 は 、 支払い を する 国友 の そば に いる し 、 珠美 は 、 コーヒー が タダ に なる と いう 券 を 、 一 枚 でも 余計に もらおう と 頑張って いる 。

綾子 は 、 ちょっと 息 を ついた 。


三 姉妹 探偵 団 (2) Chapter 13 (1) みっ|しまい|たんてい|だん|chapter

13  狙わ れた 小 犬 ねらわ||しょう|いぬ

「 僕 は ハンバーグ に しよう 」 ぼく||||

「 私 、 エビ フライ 」 わたくし|えび|ふらい

「 私 、 オムレツ 」 わたくし|おむれつ

「 私 、 サーロインステーキ 」 わたくし|

最後に 注文 した の は 、 もちろん 珠美 である 。 さいごに|ちゅうもん|||||たまみ|

一 番 高い もの を 頼む 主義 な のだ 。 ひと|ばん|たかい|||たのむ|しゅぎ||

もちろん 、 他人 の 財布 で 払う とき に 限る けれど 。 |たにん||さいふ||はらう|||かぎる|

ただ 、 この 場合 、 財布 の 持主 が 国友 だった ので 、 中身 の 方 は たかが 知れて いる ── と いって は 当人 に 申し訳ない 。 ||ばあい|さいふ||もちぬし||くにとも|||なかみ||かた|||しれて|||||とうにん||もうしわけない

しかし 、 国友 と して は 、 |くにとも|||

「 何でも 好きな もの を 食べて くれよ 」 なんでも|すきな|||たべて|

と 言った 手前 、 ギョッ と した 顔 も でき ない 。 |いった|てまえ||||かお|||

それ でも 、 至って 平凡な ファミリー レストラン だ から 、 一 番 高い ステーキ と いって も 、 大した こと は ない 。 ||いたって|へいぼんな|ふぁみりー|れすとらん|||ひと|ばん|たかい|すてーき||||たいした|||

急いで 頭 の 中 で 計算 を して 、 ホッと した のだった 。 いそいで|あたま||なか||けいさん|||ほっと||

「 珠美 」 たまみ

と 、 エビ フライ を 注文 した 夕 里子 が 言った 。 |えび|ふらい||ちゅうもん||ゆう|さとご||いった

「 そんなに 高い もの 、 頼む もん じゃ ない わ よ 」 |たかい||たのむ|||||

「 いや 、 大丈夫だ よ 、 それ くらい は 」 |だいじょうぶだ||||

と 、 国友 は 平静 を 装って 、 笑った 。 |くにとも||へいせい||よそおって|わらった

「 明日 に なったら 、 もう 文化 祭 は 明日 な の ね 」 あした||||ぶんか|さい||あした|||

と 、 綾子 が 、 ややこしい こと を 言い出す 。 |あやこ|||||いいだす

「 つまり 、 あさって 、 でしょ 」

珠美 が 、 メニュー を ウエイトレス に 返し ながら 、 言った 。 たまみ||めにゅー||||かえし||いった

「 無事に 終って ほしい わ ね 」 ぶじに|しまって|||

と 、 夕 里子 は 言った 。 |ゆう|さとご||いった

「 もちろん 、 それ まで に 事件 が 解決 しちゃ う の が 、 理想 的だ けども 」 ||||じけん||かいけつ|||||りそう|てきだ|

「 正直な ところ 、 むずかしい ね 」 しょうじきな||| "Honestly, it 's difficult."

と 、 国友 は 首 を 振った 。 |くにとも||くび||ふった

「 事件 の 全体 像 さえ 、 よく つかめて い ない んだ から 」 じけん||ぜんたい|ぞう|||||||

「 でも 、 事件 と いえる の は 、 黒木 が 殺さ れた こと と 、 梨 山 教授 の 奥さん が 殺さ れた こと 。 |じけん|||||くろき||ころさ||||なし|やま|きょうじゅ||おくさん||ころさ|| "But what can be said is that Kuroki was killed and Professor Nishiyama's wife was killed.

その 二 つ でしょ ? |ふた|| 「 夕 里子 ったら 、 肝心の こと 、 忘れて る わ よ 」 ゆう|さとご||かんじんの||わすれて|||

「 何の こと ? なんの|

「 神 山田 タカシ が 、 三 年 前 に 茂子 さん に 乱暴 した こと ! かみ|やまだ|たかし||みっ|とし|ぜん||しげこ|||らんぼう|| "Takeshi Yamada Takashi was violent to Moeko three years ago!

綾子 は 、 珍しく 強い 口調 で 言った 。 あやこ||めずらしく|つよい|くちょう||いった

「 私 は 、 それ が 一 番 許せ ない 。 わたくし||||ひと|ばん|ゆるせ| 人 の 弱 味 に つけ込む なんて 」 じん||じゃく|あじ||つけこむ|

「 そもそも の 発端 が そこ に あった の は 、 事実 だ ね 」 ||ほったん|||||||じじつ||

と 国友 が 肯 く 。 |くにとも||こう|

「 問題 は 、 黒木 殺し と 、 その 三 年 前 の 一 件 が 、 果して 関連 して いる の か どう か 、 って こと だ 」 もんだい||くろき|ころし|||みっ|とし|ぜん||ひと|けん||はたして|かんれん|||||||||

「 でも 偶然に して は ──」 |ぐうぜんに||

「 いや 、 太田 と 石原 茂子 が 恋人 同士 に なって 、 太田 が あの 大学 で 働く ように なった の は 、 偶然 と は いえ ない 。 |おおた||いしはら|しげこ||こいびと|どうし|||おおた|||だいがく||はたらく|||||ぐうぜん||||

偶然 と いえば 、 文化 祭 で 神山 田 タカシ が 、 あの 大学 に やって 来た こと だけ だ 、 それ くらい の こと は 、 大いに あり 得る よ 」 ぐうぜん|||ぶんか|さい||かみやま|た|たかし|||だいがく|||きた|||||||||おおいに||える|

「 でも 、 それ なら 、 なぜ 黒木 を 殺した の かしら ? ||||くろき||ころした||

まず 神 山田 タカシ を 殺し そうな もの じゃ ない 」 |かみ|やまだ|たかし||ころし|そう な|||

「 一 番 の ワル は 、 最後に 取 っと くって こと も ある よ 」 ひと|ばん||||さいごに|と||||||

と 、 珠美 が 言った 。 |たまみ||いった

「 だって 、 三 年 前 の とき 、 黒木 も そこ に いた わけでしょ ? |みっ|とし|ぜん|||くろき||||| 「 そう ね 。

三 人 いたって こと だ から ──」 みっ|じん||||

と 、 夕 里子 は 言い かけて 、「 そう だ わ ! |ゆう|さとご||いい||||

」 と 、 声 を 上げた 。 |こえ||あげた

「 どう した んだ ね ?

「 三 人 いた の よ 。 みっ|じん|||

神山 田 タカシ と 、 黒木 と 、 もう 一 人 」 かみやま|た|たかし||くろき|||ひと|じん

「 うん 、 そう だった な 」

「 もし 、 その もう 一 人 が 、 何 か 関 って る と したら ? |||ひと|じん||なん||かん||||

「 しかし 、 石原 茂子 は 憶 えて い ない 、 と 言って たな 」 |いしはら|しげこ||おく|||||いって|

「 茂子 さん が 憶 えて い なくて も 、 向 う が 憶 え てる かも しれ ない わ 」 しげこ|||おく|||||むかい|||おく||||||

「 そう だ な 。

なるほど ……」

国友 は 考え込んだ 。 くにとも||かんがえこんだ

「 よし 、 一 つ 、 神山 田 タカシ に 会って みよう 。 |ひと||かみやま|た|たかし||あって| 一緒に いた の が 誰 か 、 憶 え てる だろう 」 いっしょに||||だれ||おく|||

「 でも 、 黒木 が 殺さ れた の は 、 茂子 さん の こと と 、 無関係 かも しれ ない でしょう ? |くろき||ころさ||||しげこ|||||むかんけい||||

と 、 珠美 が 言った 。 |たまみ||いった

「 それ は そう よ 。

ともかく 、 黒木 の 奥さん は 神山 田 タカシ と 浮気 して た わけだ もの ね 」 |くろき||おくさん||かみやま|た|たかし||うわき|||||

「 しかし 、 黒木 が なぜ 、 大学 の 中 で ── 講堂 で 殺さ れた の か 、 疑問 だ な 」 |くろき|||だいがく||なか||こうどう||ころさ||||ぎもん||

と 、 国友 は 言った 。 |くにとも||いった

「 単に 、 黒木 が 個人 的な 原因 で 殺さ れた の なら 、 何も 大学 の 中 である 必要 は ない わけだ ろ 」 たんに|くろき||こじん|てきな|げんいん||ころさ||||なにも|だいがく||なか||ひつよう||||

「 でも 、 あの ハンマー を 落とす の は 、 特に 力 の ない 女性 だって 、 できた わ 」 ||はんまー||おとす|||とくに|ちから|||じょせい|||

と 、 夕 里子 が 言った 。 |ゆう|さとご||いった

「 待って よ 」 まって|

と 、 珠美 が 言った 。 |たまみ||いった

「 あんな 講堂 の 天井 に 上って 、 物 を 落として 殺す なんて 、 大学 に 関係 の ない 人 に でき っこ ない わ 」 |こうどう||てんじょう||のぼって|ぶつ||おとして|ころす||だいがく||かんけい|||じん|||||

「 それ も そう ね 」

夕 里子 は 肯 いた 。 ゆう|さとご||こう|

「 あんた 、 結構 いい こと 言う じゃ ない 」 |けっこう|||いう||

「 いくら くれる ?

「 それ が なきゃ 、 いい 子 な んだ けど ね 」 ||||こ||||

「 無欲な 私 なんて 、 私 じゃ ない わ よ 」 むよくな|わたくし||わたくし||||

と 、 珠美 は 言った 。 |たまみ||いった

「── あ 、 スープ が 来た 」 |すーぷ||きた

カップ スープ が 運ば れて 来て 、 みんな 、 少し の 間 、 熱い スープ に 取り組み 、 静かに なって いた 。 かっぷ|すーぷ||はこば||きて||すこし||あいだ|あつい|すーぷ||とりくみ|しずかに||

「── つまり 」

と 、 国友 が 紙 ナプキン で 口 を 拭って 、 言った 。 |くにとも||かみ|なぷきん||くち||ぬぐって|いった

「 犯人 は 大学 内部 の 人間 、 と いう こと だ 。 はんにん||だいがく|ないぶ||にんげん|||| それでいて 黒木 を 殺す 動機 を 持って る と する と ……」 |くろき||ころす|どうき||もって||||

「 やっぱり 茂子 さん か 太田 さん って 線 が 濃厚 よ 」 |しげこ|||おおた|||せん||のうこう|

と 、 夕 里子 は 言った 。 |ゆう|さとご||いった

「 では 、 爆弾 事件 は ? |ばくだん|じけん|

「 何 だ っけ ? なん||

── ああ 、 ドア が 壊れた とき ね 」 |どあ||こぼれた||

と 、 綾子 が 言った 。 |あやこ||いった

「 お 姉さん たら 、 自分 が 狙わ れた って いう のに 」 |ねえさん||じぶん||ねらわ||||

「 そんな の 、 分 ら ない じゃ ない 。 ||ぶん||||

だって 、 私 が 狙わ れる 理由 が ない わ 」 |わたくし||ねらわ||りゆう|||

夕 里子 は 、 何も 言わ ない こと に した 。 ゆう|さとご||なにも|いわ||||

言って も むだだ から である 。 いって||||

「 そう だ 、 あの こと 、 言う の 忘れて た 」 ||||いう||わすれて|

「 何 だい ? なん|

「 梨 山 教授 の 部屋 に 行った とき 、 本棚 に 変な 本 を 見付けた の 」 なし|やま|きょうじゅ||へや||おこなった||ほんだな||へんな|ほん||みつけた|

「 変な 本 ? へんな|ほん

「 そう 。

──『 火薬 の 話 』 って いう タイトル の ね 」 かやく||はなし|||たいとる||

「 火薬 の 話 か 。 かやく||はなし|

── そい つ は 面白い ね 。 |||おもしろい| 梨 山 教授 に 当って みよう 」 なし|やま|きょうじゅ||あたって|

と 、 国友 は 肯 いた 。 |くにとも||こう|

「 でも 、 梨 山 先生 が 爆弾 なんて 作る ? |なし|やま|せんせい||ばくだん||つくる

と 、 綾子 は 言った 。 |あやこ||いった

「 お 姉さん は 黙って なさい 」 |ねえさん||だまって|

夕 里子 に 言わ れて 、 綾子 は プーッ と ふくれて 、 スープ を 飲んだ 。 ゆう|さとご||いわ||あやこ|||||すーぷ||のんだ

猫舌 な ので 、 熱い の は だめな のである 。 ねこじた|||あつい||||

「 そうそう 、 もう 一 つ ある わ 」 そう そう||ひと|||

と 、 夕 里子 が 言った 。 |ゆう|さとご||いった

「 梨 山 教授 の 所 に 行った とき 、 誰 か が 凄い 勢い で 階段 を 駆け 降りて 来た の 」 なし|やま|きょうじゅ||しょ||おこなった||だれ|||すごい|いきおい||かいだん||かけ|おりて|きた|

「 ほう 」

「 もちろん 、 教授 の 部屋 から 来た と は 限ら ない けれど 、 でも 、 万が一 って こと も ある でしょう ? |きょうじゅ||へや||きた|||かぎら||||まんがいち|||||

「 どんな 奴 だった ? |やつ|

「 コート を 着た 女 ── に 見えた わ 、 私 に は 」 こーと||きた|おんな||みえた||わたくし||

「 顔 は ? かお|

「 全然 分 ら なかった 。 ぜんぜん|ぶん||

コート の 女 、 って いう の も 、 あくまで 印象 な の 」 こーと||おんな||||||いんしょう||

「 ふむ ……」

国友 は 肯 いて 、「 その とき 、 梨 山 教授 は 、 例の 大津 和子 を 膝 に のっけて た わけだ ね 」 くにとも||こう||||なし|やま|きょうじゅ||れいの|おおつ|かずこ||ひざ|||||

「 そう 。

もし 誰 か が 、 教授 の 部屋 を 覗いて 、 あの 光景 に ショック を 受けた と したら ──」 |だれ|||きょうじゅ||へや||のぞいて||こうけい||しょっく||うけた||

「 逃げる ように 駆けて 行った の も 、 分 ら ない じゃ ない ね 」 にげる||かけて|おこなった|||ぶん|||||

「 でも 、 誰 が ? |だれ|

夕 里子 は 首 を 振った 。 ゆう|さとご||くび||ふった

「 分 ら ない わ 。 ぶん|||

水口 さん と か ……」 みずぐち|||

「 まさか 」

と 、 綾子 が 言った 。 |あやこ||いった

「 それ なら 、 分 る んじゃ ない ? ||ぶん||| 「 あの 勢い で 走って 来たら 、 分 ら ない わ よ 」 |いきおい||はしって|きたら|ぶん||||

「 それ は ともかく ──」

と 、 国友 が 言った 。 |くにとも||いった

「 大津 和子 が 、 そこ から 絡んで 来る わけだ な 」 おおつ|かずこ||||からんで|くる||

「 そう いえば 、 捜して た んでしょ ? ||さがして||

見付かった の ? みつかった| と 、 珠美 が 言った 。 |たまみ||いった

「 いや 、 住んで いる アパート に は 戻って い ない んだ 」 |すんで||あぱーと|||もどって|||

「 一 人 住い ? ひと|じん|すまい

「 二 人 だ 。 ふた|じん|

その 同室 の 女の子 の 話 じゃ 、 外泊 は 年中 って こと だった が ね 」 |どうしつ||おんなのこ||はなし||がいはく||ねんじゅう|||||

「 乱れて ん の ね 」 みだれて|||

と 、 珠美 は 感心 した ように 言って 、「 あの 、 ホテル で 裸 を 見せて た 人 でしょ ? |たまみ||かんしん|||いって||ほてる||はだか||みせて||じん|

「 珠美 ! たまみ

と 、 綾子 が 頰 を 赤らめた 。 |あやこ||||あからめた

「 そんな 、 はしたない こと 言って ! |||いって 「 そんな 古い こと 言って 」 |ふるい||いって

と 、 やり返す 。 |やりかえす

「 よし なさい よ 」

と 、 夕 里子 が 渋い 顔 で 言った 。 |ゆう|さとご||しぶい|かお||いった

「 ともかく 、 大津 和子 が 何 か を 知っている 可能 性 は ある わけだ 」 |おおつ|かずこ||なん|||しっている|かのう|せい|||

「 と いう こと は 、 危険 も ある って こと ね 」 ||||きけん|||||

「 夕 里子 ったら 、 もう 少し 、 いい こと を 考え られ ない の ? ゆう|さとご|||すこし||||かんがえ|||

綾子 は 、 いささか くたびれた 様子 で 、 言った 。 あやこ||||ようす||いった

「── その後 は 、 例の 梨 山 夫人 の 殺害 事件 に なる わけだ 。 そのご||れいの|なし|やま|ふじん||さつがい|じけん||| これ に も 太田 と 石原 茂子 が 関 って 来る 」 |||おおた||いしはら|しげこ||かん||くる

「 そう ね 。

ただ 、 事情 は 、 あくまで 茂子 さん 自身 の 話 で しか 知ら ない わけな の よ 」 |じじょう|||しげこ||じしん||はなし|||しら||||

夕 里子 は 、 やっと スープ カップ を 空 に した 。 ゆう|さとご|||すーぷ|かっぷ||から||

「 茂子 さん は 噓 を つく 人 じゃ ない わ 」 しげこ||||||じん|||

と 、 綾子 が 主張 した 。 |あやこ||しゅちょう|

「 私 、 よく 分 って る んだ から ! わたくし||ぶん|||| 「 ともかく 、 梨 山 教授 の 夫人 が 殺さ れて 、 そこ に 茂子 さん が いた 。 |なし|やま|きょうじゅ||ふじん||ころさ||||しげこ|||

それ だけ が 、 客観 的な 事実 よ 」 |||きゃっかん|てきな|じじつ|

「 そして 、 太田 が 首 を 吊 った 」 |おおた||くび||つり|

「 そんな 人 じゃ ない わ 」 |じん|||

と 、 綾子 が 言った 。 |あやこ||いった

「── 何 が ? なん|

夕 里子 が 訊 く 。 ゆう|さとご||じん|

「 え ?

「 そんな 人 じゃ ない って ……」 |じん|||

「 ああ 。

茂子 さん の こと 」 しげこ|||

「 その 話 、 もう 済んだ の よ 」 |はなし||すんだ||

「 いい でしょ 、 済んだ って 」 ||すんだ|

綾子 は 、 およそ 理論 的な 人間 で は ない のである 。 あやこ|||りろん|てきな|にんげん||||

しかし 、 夕 里子 は 、 一瞬 ハッと した のだった 。 |ゆう|さとご||いっしゅん|はっと||

そんな 人 じゃ ない 、 か 。 |じん|||

── そう 。

太田 が 、 本当に 梨 山 夫人 を 殺した と して も 、 その 罪 を 茂子 に 着せて 逃げる と いう の は 、 どうも ピンと 来 ない 。 おおた||ほんとうに|なし|やま|ふじん||ころした|||||ざい||しげこ||きせて|にげる||||||ぴんと|らい|

それ に 、 どうせ 首 を 吊る の なら 、 なぜ もっと 早く し なかった のだろう ? |||くび||つる|||||はやく|||

綾子 が 、 茂子 から の 電話 で 大学 へ 出かけて 行って 、 中 へ 入り 、 学生 部 の 会議 室 で 死体 を 見付ける 。 あやこ||しげこ|||でんわ||だいがく||でかけて|おこなって|なか||はいり|がくせい|ぶ||かいぎ|しつ||したい||みつける

そして 、 パトカー が 来て ……。 |ぱとかー||きて

それ から 夕 里子 たち は 、 宿直 室 へ と 向 った のだった 。 ||ゆう|さとご|||しゅくちょく|しつ|||むかい||

つまり 、 ずいぶん 時間 が たって いる 。 ||じかん|||

そこ で 太田 が 首 を 吊 り 、 しかも 、 助かった と いう こと は ── もちろん その こと 自体 は 、 良かった のだ が ── 太田 は 発見 さ れる ように 、 首 を 吊 った の かも しれ ない 。 ||おおた||くび||つり|||たすかった||||||||じたい||よかった|||おおた||はっけん||||くび||つり|||||

もちろん 、 それ に して は 、 命 を 危うく して いる のだ が ……。 |||||いのち||あやうく||||

もし ── 太田 が 自分 で 首 を 吊 った ので は なく 、 誰 か に 、 自殺 と 見せかけて 殺さ れ そうに なった のだ と したら ? |おおた||じぶん||くび||つり|||||だれ|||じさつ||みせかけて|ころさ||そう に||||

そして 、 危うく 命拾い を した 。 |あやうく|いのちびろい||

そう 考えた 方 が 、 筋 が 通る 。 |かんがえた|かた||すじ||とおる

いや 、 夕 里子 自身 、 太田 が 自殺 を 図った こと に 、 釈然と し ない もの を 、 感じて いた のだろう 。 |ゆう|さとご|じしん|おおた||じさつ||はかった|||しゃくぜんと|||||かんじて||

だから 、 こんな こと を 考えついたり する のだ 。 ||||かんがえついたり||

「── どうかした の ?

と 、 珠美 が 言った 。 |たまみ||いった

「 冷める わ よ 。 さめる|| ご飯 が 」 ごはん|

「 え ?

── ああ 」

と 、 夕 里子 は 我 に 返って 言った 。 |ゆう|さとご||われ||かえって|いった

いつの間にか 、 エビ フライ が 来て いた のである 。 いつのまにか|えび|ふらい||きて||

「── 梨 山 敏子 殺し は 、 果して 黒木 の 一 件 と 関係 が ある の か 。 なし|やま|としこ|ころし||はたして|くろき||ひと|けん||かんけい||||

それ も 大きな 問題 だ な 」 ||おおきな|もんだい||

国友 は ハンバーグ に ナイフ を 入れた 。 くにとも||||ないふ||いれた

「 二 つ を つないで いる の は 、 今 の ところ 、 やっぱり 石原 茂子 と 太田 さん ね 」 ふた|||||||いま||||いしはら|しげこ||おおた||

と 、 夕 里子 は 言った 。 |ゆう|さとご||いった

「 そう な んだ 。

僕 も 、 あの 二 人 を 疑い たく は ない んだ けど 、 どうも 、 表 に 出て 来て しまう から ね 」 ぼく|||ふた|じん||うたがい|||||||ひょう||でて|きて|||

「 ジャーン !

ついに 登場 」 |とうじょう

と 、 珠美 が 言った 。 |たまみ||いった

「 珠美 、 ステーキ が 来た から って 、 そんなに 大げさに 騒が ないで よ 」 たまみ|すてーき||きた||||おおげさに|さわが||

と 、 夕 里子 は 顔 を しかめた 。 |ゆう|さとご||かお||

「 失礼 ねえ 。 しつれい|

誰 が ステーキ の こと なんか 言った ? だれ||すてーき||||いった 「 じゃ 、 何 が 登場 な の ? |なん||とうじょう||

「 綾子 姉ちゃん 殺害 未遂 よ 。 あやこ|ねえちゃん|さつがい|みすい|

決 って んじゃ ない の 」 けっ||||

「 何だか 、 期待 して る みたい ね 」 なんだか|きたい||||

「 あ 、 すねて る 」

と 、 珠美 が からかう 。 |たまみ||

「 すねて なんかいな いわ 」

と 、 綾子 は 憤然 と して 、「 あれ は 何 か の 間違い よ 」 |あやこ||ふんぜん|||||なん|||まちがい|

「 は いはい 」

と 、 夕 里子 は 子供 を なだめる ように 、 言った 。 |ゆう|さとご||こども||||いった

「 お 姉さん は オムレツ を 食べて れば いい の よ 」 |ねえさん||おむれつ||たべて||||

「 離乳 食 ね 」 りにゅう|しょく|

と 、 珠美 が 言う と 、 綾子 は ムッと した ような 顔 で 、 黙り 込んだ 。 |たまみ||いう||あやこ||むっと|||かお||だまり|こんだ

もっとも 、 ここ から 先 、 四 人 と も 、 長い 沈黙 が 続いた 。 |||さき|よっ|じん|||ながい|ちんもく||つづいた

もちろん 、 食べる こと に 専念 して いた のである 。 |たべる|||せんねん|||

「 いや 、 これ ぐらい 、 礼 を 言わ れる ほど の こと じゃ ない よ 」 |||れい||いわ|||||||

レジ の 所 で 、 国友 は 、 支払い を し ながら 、 次の 給料 まで 、 一 日 いくら で やっていけば いい の か な 、 と 考えて いた 。 れじ||しょ||くにとも||しはらい||||つぎの|きゅうりょう||ひと|ひ|||||||||かんがえて|

店 を 出る と 、 そこ は 駐車 場 に なって いる 。 てん||でる||||ちゅうしゃ|じょう|||

ほとんど が マイカー 族 な ので 、 駐車 場 も 、 かなり スペース が 広い 。 ||まいかー|ぞく|||ちゅうしゃ|じょう|||すぺーす||ひろい

夜 、 少し 遅 目 だった が 、 駐車 場 も 店 も 、 ほぼ 一杯に 埋って いた 。 よ|すこし|おそ|め|||ちゅうしゃ|じょう||てん|||いっぱいに|うずまって|

綾子 は 一 番 先 に 店 を 出た 。 あやこ||ひと|ばん|さき||てん||でた

外 の 冷たい 空気 に も 当り たかった のである 。 がい||つめたい|くうき|||あたり||

ともかく 、 店 の 中 は ひどく 暑かった から ……。 |てん||なか|||あつかった|

夕 里子 は 、 支払い を する 国友 の そば に いる し 、 珠美 は 、 コーヒー が タダ に なる と いう 券 を 、 一 枚 でも 余計に もらおう と 頑張って いる 。 ゆう|さとご||しはらい|||くにとも||||||たまみ||こーひー||ただ|||||けん||ひと|まい||よけいに|||がんばって|

綾子 は 、 ちょっと 息 を ついた 。 あやこ|||いき||